(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961270
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ゲル化前配向フィラメントの調製方法、並びに超高分子量ポリエチレン繊維の調製方法
(51)【国際特許分類】
D01F 6/04 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
D01F6/04 B
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-534923(P2014-534923)
(86)(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公表番号】特表2014-531529(P2014-531529A)
(43)【公表日】2014年11月27日
(86)【国際出願番号】CN2012076619
(87)【国際公開番号】WO2013053239
(87)【国際公開日】20130418
【審査請求日】2014年6月3日
(31)【優先権主張番号】201110306879.9
(32)【優先日】2011年10月11日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】514090991
【氏名又は名称】ベイジン トンイツォン スペシャルティ ファイバー テクノロジー アンド デベロップメント カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】BEIJING TONGYIZHONG SPECIALTY FIBRE TECHNOLOGY & DEVELOPMENT CO.,LTD
(74)【代理人】
【識別番号】100092646
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 清
(74)【代理人】
【識別番号】100083769
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100083002
【弁理士】
【氏名又は名称】伊丹 辰男
(72)【発明者】
【氏名】ヘー ペン
(72)【発明者】
【氏名】ファン シンリャン
(72)【発明者】
【氏名】リン フェンチー
【審査官】
平井 裕彰
(56)【参考文献】
【文献】
特表2010−529319(JP,A)
【文献】
特表2010−540791(JP,A)
【文献】
特開平07−166414(JP,A)
【文献】
特表2010−525184(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02610374(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00〜 6/96
9/00〜 9/04
D01D1/00〜13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化前配向フィラメントを調製するための方法であって、
超高分子量ポリエチレンを含有する紡糸液を二軸押出機に供給して、前記紡糸液を混合及び押出して、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を得るステップ、
前記第1の紡糸溶液を紡糸用ボックスに供給し、5〜20倍に延伸させるように紡糸口金から押出すことによりフィラメント状とした第2の紡糸溶液を得るステップ、及び
前記フィラメント状の第2の紡糸溶液を瞬間冷却及び硬化させて、前記ゲル化前配向フィラメントを得るステップを含む方法。
【請求項2】
前記紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、5重量%〜20重量%である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、8重量%〜12重量%である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の紡糸溶液は、0.3〜0.6の非ニュートン指数及び20〜30の構造粘性指数を有する、請求項1乃至請求項3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
前記超高分子量ポリエチレンが、3〜5×106の重量平均分子量を有する、請求項1乃至請求項4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
前記超高分子量ポリエチレンが、第1の超高分子量ポリエチレン及び第2の超高分子量ポリエチレンを3〜8:1の重量比で含有し、前記第1の超高分子量ポリエチレンが、4〜5×106の重量平均分子量を有し、前記第2の超高分子量ポリエチレンが、3〜4×106の重量平均分子量を有する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記二軸押出機が、90〜120℃の入口温度、240〜280℃の中間剪断区画温度、及び280〜350℃の出口温度を有する、請求項1乃至請求項6の何れかに記載の方法。
【請求項8】
前記中間剪断区画温度は、第1の領域から第4の領域の温度として、順に240〜250℃、250〜270℃、250〜270℃、及び270〜280℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記瞬間冷却の時間が、0.05秒〜2秒であり、温度差が、150〜320℃である、請求項1乃至請求項8の何れかに記載の方法。
【請求項10】
超高分子量ポリエチレン繊維を調製するための方法であって、
請求項1に記載の方法により、ゲル化前配向フィラメントを調製するステップ、
前記ゲル化前配向フィラメントを静置させて平衡化させるステップ、
前記平衡化されたゲル化前配向フィラメントを、順次前延伸し、抽出し、乾燥し、少なくとも2段階で正延伸するステップを含み、
前記前延伸、抽出、乾燥、及び正延伸中に前記ゲル化前配向フィラメントに適用される総延伸率が、40〜55であり、前記正延伸後に前記超高分子量ポリエチレン繊維が得られる方法。
【請求項11】
90〜120℃にて、前記延伸された前記超高分子量ポリエチレン繊維に対して、0.7〜0.9倍の負延伸を適用するステップを更に含む、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
1フィラメント当たりのデニールが1.0D〜2.2Dとされた前記超高分子量ポリエチレン繊維が得られる請求項10又は請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2011年10月11日にSIPOに出願された中国特許出願第201110306879.9号、名称:「gelatinized pre−oriented filaments and preparation method thereof and ultra−high molecular weight polyethylene fibers and preparation method thereof」の優先権を主張するものである。この文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、繊維を調製するための方法に関し、特にゲル化前配向フィラメント及びその調製方法、並びに超高分子量ポリエチレン繊維及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0003】
高強度及び高弾性ポリエチレン繊維としても知られている超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)は、順に紡糸、抽出、乾燥、及び超延伸を行うことにより、100万を超える相対的分子量を有するポリエチレンから調製される高性能繊維を指す。超高分子量ポリエチレン繊維を使用することにより調製される繊維強化複合材は、軽量、耐衝撃性、高誘電特性等の利点を有しており、航空宇宙分野、海域防衛分野、武器装置分野、及び日常的工業的分野に広く応用されている。
【0004】
従来技術では、超高分子量ポリエチレン繊維は、一般的に、オランダのDSM社が初めて開発したゲル紡糸技術を使用することにより調製される。ゲル紡糸技術では、一般的に、100万を超える相対的分子量を有するポリエチレンが原料として使用される。この原料を、好適な溶媒と混合し、膨潤させて、紡糸液としての懸濁液を得る。次にこの紡糸液を、スクリュー押出機により剪断し、均一に混合し、解撚させ、紡糸パックから押出−延伸し、凝固(condense)させ、型巻(formed)して、ゲル化前配向フィラメントを得る。その後、このゲル化前配向フィラメントを抽出し、乾燥し、超延伸して、超高分子量ポリエチレン繊維を得る。
【0005】
UHMWPEは、高強度及び高弾性性能を有する。というのうは、UHMWPEパウダーが溶媒に溶解されると、分子鎖の絡み合いがある程度解放され、紡糸口金から押出して瞬間冷却することにより形成されたゲル化前配向フィラメントは、フィラメントの分子鎖の絡み合い解放状態を維持しており、その後、抽出され、多段階超高温延伸されて、軸方向に十分に伸張されたPE巨大分子鎖になり、そのため、結晶化度及び配向度が両方ともそれぞれ向上するからである。同時に、分子構造中の折り畳み鎖ラメラ(chain-folded lamellae)が、伸びきり鎖に変換され、高強度及び高弾性ポリエチレン繊維が得られる。
【0006】
UHMWPE単フィラメントが薄いほど、繊維の機械的性能はより良好であり、単フィラメントが薄いほど、それから調製された織物は、Griffth式による手触りがより柔らかい。しかしながら、UHMWPE繊維のゲル紡糸プロセスでは、ゲル化前配向フィラメントをより高度に延伸させることが必要であり、それには、非常に高度なゲル化前配向フィラメントの延伸性及び結晶構造が要求される。既存の技術では、後熱延伸は30〜40倍を実現することができるに過ぎず、延伸率が上記の延伸率を超えると、通常は、UHMWPE繊維束の単繊維又は複数繊維切断が起こる。
【0007】
本発明者は、鋭意研究した結果、分子鎖の結晶化は、熱延伸プロセスでは出現しないことを見出した。実際、紡糸供給溶液を、スクリューで煎断し、紡糸口金から放出し、瞬間冷却し、型巻して、新たに形成されたフィラメントを得る場合、絡み合いが解放された巨大分子鎖の一部は、配向性の作用により、伸びきり鎖結晶構造を有するシシカバブ(shish-kebab)中央線部分をまず形成する。シシカバブ中央線は、一連の折り畳み鎖ラメラを誘導及び生成する結晶核として使用され、シシカバブ構造を構成する場合がある。このように、後熱延伸プロセスでは、分子鎖の折り畳まれた鎖が、徐々に開放され解けた後、ラメラが、破壊プロセス(destroyed process)で再結晶化を引き起こし、斜方晶系が、より安定な六方晶系に部分的に変換され、斜方晶系及び六方晶系の形態を共に示す分子結晶構造が得られる。本発明者は、更に鋭意研究した結果、UHMWPE繊維束が後高度延伸プロセスで部分的繊維切断を起こす理由は、繊維の分子結晶構造における、斜方晶系及び六方晶系の配置が不均一であり、そのため、繊維の機械的性能の不均質性がもたらされ、繊維の部分的な機械的性能が比較的不良であり、そのため、高度延伸プロセスでは、繊維切断が、機械的性能の比較的弱い部分で容易に起こり、したがって比較的高い延伸率を実現することが困難であるためであることを見出した。
【0008】
したがって、本発明は、ゲル化前配向フィラメントにおけるシシカバブ形成の均一性を向上させ、したがって後熱延伸及び再結晶化後に形成される斜方晶系及び六方晶系の配置の均一性を向上させ、最終的には繊維の機械的性能の均質性を向上させて、単フィラメント細デニール生産を実現し、高強度及び高弾性及び高性能を達成するためのゲル紡糸プロセスの調節を包含する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明により解決される技術的課題は、1フィラメント当たりのデニールがより小さく機械的性能がより良好な高度延伸及び超高分子量ポリエチレン繊維を実現可能なゲル化前配向フィラメントを調製するための方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記を考慮して、本発明は、ゲル化前配向フィラメントを調製するための方法であって、紡糸液を二軸押出機に供給して、それを混合及び押出して、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を得るステップ;第1の紡糸溶液を紡糸用ボックスに供給し、紡糸口金にて5〜20倍に延伸して、第2の紡糸溶液を得るステップ;及び第2の紡糸溶液を瞬間冷却及び硬化させて、ゲル化前配向フィラメントを得るステップを含む方法を提供する。
【0011】
好ましくは、紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、5重量%〜20重量%である。
【0012】
好ましくは、紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、8重量%〜12重量%である。
【0013】
好ましくは、第1の紡糸溶液は、0.3〜0.6の好ましい非ニュートン指数及び20〜30の好ましい構造粘性指数を有する。
【0014】
好ましくは、超高分子量ポリエチレンは、3〜5×10
6の重量平均分子量を有する。
【0015】
好ましくは、超高分子量ポリエチレンは、第1の超高分子量ポリエチレン及び第2の超高分子量ポリエチレンを3〜8:1の重量比で含有しており、第1の超高分子量ポリエチレンは、4〜5×10
6の重量平均分子量を有し、第2の超高分子量ポリエチレンは、3〜4×10
6の重量平均分子量を有する。
【0016】
好ましくは、二軸押出機は、90〜120℃の入口温度、240〜280℃の中間剪断区画温度、及び280〜350℃の出口温度を有する。
【0017】
好ましくは、中間剪断区画の第1の領域〜第4の領域とされて各領域の温度は、順に240〜250℃、250〜270℃、250〜270℃、及び270〜280℃である。
【0018】
好ましくは、瞬間冷却時間は、0.05秒〜2秒であり、温度差は、150〜320℃である。
【0019】
また、本発明は、上記の方法により調製され、結晶化度が15%〜35%であるゲル化前配向フィラメントを提供する。
【0020】
また、本発明は、超高分子量ポリエチレン繊維を調製するための方法であって、上記の方法によりゲル化前配向フィラメントを調製するステップ;ゲル化前配向フィラメントを静置して平衡化させるステップ;平衡化されたゲル化前配向フィラメントを、この順で前延伸し、抽出し、乾燥し、少なくとも2段階で正延伸するステップを含み、前延伸、抽出、乾燥、及び正延伸中にゲル化前配向フィラメントに適用される総延伸率が、40〜55であり、正延伸後に超高分子量ポリエチレン繊維が得られる方法を提供する。
【0021】
好ましくは、90〜120℃で、延伸された超高分子量ポリエチレン繊維に、0.7〜0.9倍の負延伸を適用するステップを更に含む。
【0022】
また、本発明は、上記の方法により調製され、1フィラメント当たりデニールが1.0〜2.2Dであり、結晶化度が81%を超えており、配向度が90%を超えており、固有粘度が8〜17dl/gである超高分子量ポリエチレン繊維を提供する。
【0023】
本発明は、ゲル化前配向フィラメントを調製するための方法であって、紡糸液を二軸押出機に供給し、それを混合及び剪断して、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を得るステップ;第1の紡糸溶液を5〜20倍に前延伸するステップ;及び最終的に、前延伸した材料を瞬間冷却して、ゲル化前配向フィラメントを得るステップを含む方法を提供する。0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を、高度前伸長及び瞬間冷却にかける。これにより、均一なシシカバブ構造を有するゲル化前配向フィラメントの形成が促進される。ゲル化前配向フィラメントは、比較的均一で完全なシシカバブ構造を有するため、その後の超延伸プロセス中に、シシカバブが破壊及び再結晶化され、そのため斜方晶系から六方晶系への変換がより完全であり、共存する2つの結晶学的形態が、均一な配置となり、比較的高率の延伸が実現し、より良好な延伸性が達成され、したがって、1フィラメント当たりのデニールがより小さく、機械的性能がより良好な超高分子量ポリエチレン繊維が得られる。
【0024】
試験では、以下のことが示された:ゲル化前配向フィラメントから調製された超高分子量ポリエチレン繊維は、40〜55倍に延伸されても、10kmあたり2以下の切断フィラメント端部数を示し、調製された超高分子量ポリエチレン繊維は、1フィラメント当たりのデニールが2.2D未満であり、強度が35cN/dtexを超えており、弾性が1,150cN/dtexを超えており、優れた機械的性能を有する。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明を更に理解するために、本発明の好ましい実施形態を説明するための例が以下に組み込まれている。しかしながら、詳細な説明は、本発明の特徴及び利点を説明するために過ぎず、本発明の範囲は、それらに限定されないことが理解されるべきである。
【0026】
本発明の例は、ゲル化前配向フィラメントを調製するための方法であって、紡糸液を二軸押出機に供給して、それを混合及び押出して、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を得るステップ;第1の紡糸溶液を紡糸用ボックスに供給し、紡糸口金にて5〜20倍に延伸して、第2の紡糸溶液を得るステップ;及び第2の紡糸溶液を瞬間冷却及び硬化させて、ゲル化前配向フィラメントを得るステップを含む方法を開示する。
【0027】
非ニュートン指数nは、非ニュートン性融解挙動の強度を表し、構造粘性指数(Δη)は、紡糸溶液の組織化度を特徴づける重要なパラメーターである。本発明者は、物質が、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する場合、比較的高率の延伸を紡糸口金で実施することができ、それにより、均一なシシカバブ構造の形成が促進されることを見出した。したがって、本発明では、紡糸液を、まず二軸押出機に供給し、二軸押出機で混合及び剪断して、0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を得る。第1の紡糸溶液は、0.2〜0.6の好ましい非ニュートン指数及び15〜38の好ましい構造粘性指数を有する。
【0028】
本明細書では、紡糸液は、超高分子量ポリエチレンパウダーを、当業者に周知の溶媒に溶解することにより得られる溶液を指す。このステップで使用される紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、好ましくは5重量%〜20重量%、より好ましくは6重量%〜15重量%、最も好ましくは8重量%〜12重量%である。比較的高い固形分を有する紡糸液の応用は、紡糸効率の向上を促進する。しかしながら、紡糸液の固形分が増加すると共に、紡糸液の曳糸性は低下する。そのため、フィラメント押出温度を増加させることが必要になるが、フィラメント押出温度の増加は、より深刻な物質の分解を容易に引き起こし、それにより、最終的に得られる超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能の低下が引き起こされる。本発明では、高固形分を有する紡糸液の曳糸性を向上させるために、8重量%〜12重量%の濃度を有する紡糸液の場合、第1の紡糸溶液の非ニュートン指数は、好ましくは0.3〜0.6に制御され、構造粘性指数は、好ましくは20〜30であり、上記の性能を有する第1の紡糸溶液は、比較的低温での押出し及び高度延伸を実現することができ、したがって高温で生じる紡糸液の分解が回避され、紡糸効率を向上させつつ繊維の機械的性能を保証することができる。
【0029】
物質の構造粘性指数は、物質中の巨大分子鎖の絡み合い地点の数に関し、物質中の巨大分子鎖の絡み合い地点の数とその分子量とのある関連性を示す。10〜50の構造粘性指数を有する第1の紡糸溶液を容易に得るために、本発明では、好ましくは3〜5×10
6の重量平均分子量を有する好ましい超高分子量ポリエチレン、及び重量比が3〜8:1であるより好ましい第1の超高分子量ポリエチレン及び第2の超高分子量ポリエチレンが使用され、第1の超高分子量ポリエチレンは、4〜5×10
6の重量平均分子量を有し、第2の超高分子量ポリエチレンは、3〜4×10
6の重量平均分子量を有する。本発明で使用される超高分子量ポリエチレンパウダーは、好ましくはガウス分布の状態にあり、好ましくは60〜200メッシュの粒径を有する。
【0030】
紡糸液中の紡糸溶媒は、好ましくは、シクロアルカン及び鎖式炭化水素異性体を85〜90:10〜15の比率で混合することにより得られる混合物であり、シクロアルカン及び鎖式炭化水素の炭素原子数は、好ましくは25〜50、より好ましくは30〜40である。紡糸溶媒は、400℃未満で揮発するガスを有しておらず、好ましくは初留点が450℃を超えており、好ましくは密度が0.84〜0.87g/cm
3であり、好ましくは引火点が260℃を超えるホワイトオイル等の当業者に周知の超高分子量ポリエチレン紡糸溶液に使用される紡糸溶媒であってもよい。特に、紡糸溶媒は、鉱油、パラフィン油、及びホワイトオイルの1つであってもよく、ホワイトオイルの場合、当業者に周知の5#ホワイトオイル、7#ホワイトオイル、10#ホワイトオイル、15#ホワイトオイル、22#ホワイトオイル、26#ホワイトオイル、32#ホワイトオイル、46#ホワイトオイル、68#ホワイトオイル、100#ホワイトオイル、及び150#ホワイトオイルであってもよい。
【0031】
また、紡糸液が二軸押出機で処理される場合には、物質の非ニュートン指数及び構造粘性指数が著しい影響を受ける。物質の非ニュートン指数は、温度が増加すると共に減少し、物質の構造粘性指数は、温度が増加すると共に減少することが、研究により示されている。上記の研究に基づいて、本発明では、好ましくは、押出機の入口温度を90〜120℃に、中間押出温度を240〜280℃に、出口温度を280〜350℃に設定する。中間押出の第1の領域〜第4の領域の温度は、好ましくは、順に240〜250℃、250〜270℃、250〜270℃、及び270〜280℃である。上記の温度設定は、巨大分子鎖の十分な絡み合い、並びに0.1〜0.8の非ニュートン指数及び10〜50の構造粘性指数を有する物質の達成に有利であり、スクリューの回転速度は、好ましくは150r/分〜280r/分である。
【0032】
上記の方法により調製された第1の紡糸溶液の場合、比較的高率の前延伸を実現することができる。比較的高い前延伸率を使用して、延伸プロセス中に均一なシシカバブ構造が形成されることを保証する。具体的なステップは、第1の紡糸溶液を紡糸用ボックスに供給すること、紡糸口金にて5〜20倍に延伸すること、及び延伸後に第2の紡糸溶液を得ることである。本発明では、紡糸口金での第1の紡糸溶液の延伸率を、好ましくは8〜30、より好ましくは8〜12に制御する。上記延伸率は、シシカバブ形成の均一性に、より有利である。紡糸用ボックスの押出温度は、好ましくは285〜320℃である。
【0033】
ゲル紡糸プロセスでは、紡糸口金オリフィスの開口部は、好ましくは0.8mm〜3mmであり、紡糸口金オリフィスの長さ−直径比L/Dは、好ましくは8/1−20/1であり、第2の紡糸溶液の押出速度は、好ましくは3m/分〜6m/分に設定される。
【0034】
第2の紡糸溶液は、紡糸口金オリフィスから押出され、その後、瞬間冷却されて、ゲル化前配向フィラメントを形成する。第2の紡糸溶液が紡糸口金穴から押出されてから水タンクに落下するまでの時間は、瞬間冷却時間である。第2の紡糸溶液は、瞬間冷却時間内では依然として延伸状態であり、したがって、瞬間冷却時間は、ゲル化前配向フィラメント中のシシカバブ構造及び結晶完全性に著しい影響を及ぼす。瞬間冷却時間が短すぎると、結晶形は完全ではなく、瞬間冷却時間が長すぎると、更なる延伸により結晶形が破壊され、不連続で非均一性になる。したがって、本発明では、瞬間冷却時間を、好ましくは0.05秒〜2秒に制御し、瞬間冷却の温度差は、好ましくは150〜320℃である。上記の方法によると、均一で連続したシシカバブ構造を有するゲル化前配向フィラメントを得ることができる。ゲル化前配向フィラメントの結晶化度は、好ましくは15%〜35%、より好ましくは18%〜32%である。
【0035】
また、本発明は、上記の方法により得られる、結晶化度が15%〜35%であるゲル化前配向フィラメントを提供する。ゲル化前配向フィラメントは、比較的均一で完全なシシカバブ構造を有しているため、シシカバブのその後の切断及び再結晶化において斜方晶系から六方晶系へのより完全な変換が達成される。2種類の結晶形の配置は、比較的均一であり、それにより、比較的高率の延伸を実現することができ、1フィラメント当たりのデニールがより小さく、機械的性能がより良好な超高分子量ポリエチレン繊維を得ることができる。
【0036】
また、本発明は、超高分子量ポリエチレン繊維を調製するための方法であって、上記の方法によるゲル化前配向フィラメントを調製するステップ;ゲル化前配向フィラメントを静置して平衡化させるステップ;静置処理後のゲル化前配向フィラメントを、この順で前延伸し、抽出し、乾燥し、少なくとも2段階の正延伸を実施するステップを含み、前延伸、抽出、乾燥、及び正延伸プロセス中にゲル化前配向フィラメントに適用される総延伸率が、40〜55であり、正延伸後に超高分子量ポリエチレン繊維が得られる方法を提供する。
【0037】
本発明で提供される超高分子量ポリエチレン繊維を調製するための方法におけるゲル化前配向フィラメントを調製するためのプロセスは、上記のプロセスと同じである。得られたゲル化前配向フィラメントは、ある残留内部応力を有する。そのため、得られたゲル化前配向フィラメントを静置して平衡化させることが必要である。この場合、フィラメントは、ある程度収縮して、元の内部応力を効果的に低減することになる。静置温度は、好ましくは5〜30℃、より好ましくは15〜25℃であり、静置時間は、少なくとも12時間である。
【0038】
その後、適切な溶媒を選択的に使用して、ゲル化前配向フィラメントの溶媒を抽出することが必要である。その場合、選択された抽出剤は、溶媒との良好な相互混和性を有するべきであり、また、より低い沸点及び高い揮発性を有するべきである。使用される抽出剤は、抽出の過程では、高揮発性低級パラフィン炭化水素又はハロゲン化炭化水素であってもよい。例えば、パラフィン油が溶媒として使用される場合、溶媒ガソリンが、抽出剤として選択される。
【0039】
抽出後にゲル化前配向フィラメントを乾燥させて、抽出剤を揮発させることが必要である。乾燥温度は、好ましくは40〜80℃である。抽出剤の揮発を加速するために、乾燥中に、ある張力をゲルプロトフィラメントに適用して、張力をかけた状態で乾燥プロトフィラメントを製作することが必要である。
【0040】
ゲル化前配向フィラメントを抽出及び乾燥して、プロトフィラメントを得、その後少なくとも2段階の正延伸をプロトフィラメントに適用して、超高分子量ポリエチレン繊維を得る。この場合、正延伸の温度は120〜160℃であり、延伸率は、好ましくは5〜15である。この場合の延伸率は、延伸される前の繊維に対する、延伸機により延伸された繊維の供給速度の比率を指す。本発明における正の引き伸ばしは、1より大きな延伸率での引き伸ばしを指す。
【0041】
前延伸、抽出、乾燥、少なくとも2段階のフィラメント正延伸プロセス中では、フィラメントに適用される総延伸率は、40〜55である。ゲル化前配向フィラメント中のシシカバブ構造は比較的均一であるため、延伸前のプロトフィラメント中のシシカバブ構造も比較的均一であり、トラクション力の作用により、プロトフィラメントの再結晶化後に形成される斜方晶系及び六方晶系の配置は、比較的均一である。そのため、プロトフィラメントは、多段階高率延伸を実現することができ、延伸率が40〜55に達する場合でさえ、単プロトフィラメント切断はほとんど生じないことを保証することができる。
【0042】
本発明は、好ましくは、特に以下の好ましいステップを含む、プロトフィラメントの2段階正延伸を実施する:120〜150℃で乾燥フィラメントの第1の段階の延伸を実施するステップ、及びその後130〜160℃でプロトフィラメントの第2の段階の延伸を実施するステップ。
【0043】
また、本発明は、好ましくは、90〜120℃にて、正延伸された超高分子量ポリエチレン繊維に1未満の延伸率の負延伸を適用する。比較的高温での負延伸条件下では、繊維は引張変形を起こさないだろう。しかしながら、内部応力の作用により熱収縮変形が生じる。したがって、それにより、内部応力を効果的に解放することができる。負延伸の延伸率は、好ましくは0.7〜0.9である。
【0044】
また、本発明は、上記の方法により調製された、1フィラメント当たりのデニールが1.0D〜2.2Dであり、結晶化度が81%を超えており、好ましくは81%〜88%であり、配向度が90%を超えており、好ましくは90%〜99%であり、固有粘度が8〜17dl/gである超高分子量ポリエチレン繊維を提供する。固有粘度は、135℃にてデカヒドロナフタレンを溶媒として使用することにより決定される。上記繊維は、1フィラメント当たりのデニールが小さく、結晶化度、配向度、及び分子量が比較的高い。したがって、上記繊維は、より良好な機械的性能を有し、それから調製された織物は柔軟性があり、均一な機械的性能を有する。上記繊維は、防弾及び/又は防刃材料として使用することができる。
【0045】
本発明を更に理解するために、本発明で提供されるゲル化前配向フィラメント及び超高分子量ポリエチレン繊維を調製するための方法を、例を参照して下記に詳述することになるが、本発明の範囲はそれらに限定されない。
【0046】
第1の超高分子量ポリエチレンパウダーは、4.8×10
6の重量平均分子量を有し、第2の超高分子量ポリエチレンパウダーは、3.2×10
6の重量平均分子量を有し、パウダーの粒径は、80〜100メッシュであり、使用した溶媒は、120#ホワイトオイルである。
【0047】
以下の例では、非ニュートン指標は、式(I)により算出される:
【0048】
【数1】
式(I)では、η
αは、見掛けの粘度を表わし、γは、煎断率を表し、Κは、紡糸口金押出温度を表わす。
【0049】
構造粘性指数は、式(II)により算出される:
【0050】
【数2】
傾きは、カーブフィッティングにより算出することができ、その後Δηを算出することができる。
【0051】
実施例1
1. 88kgのホワイトオイルを膨潤釜に加えて撹拌し、10Kgの第1の超高分子量ポリエチレンパウダー及び2kgの第2の超高分子量ポリエチレンパウダーを撹拌しながら加えて、撹拌速度2,500rpmで撹拌し、105℃に加熱し、その温度を50分間維持して、紡糸液を得た。この場合、紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、12重量%だった。
【0052】
2. ステップ1で得られた紡糸液を、二軸押出機に供給し、剪断し、混合し、押出して、第1の紡糸溶液を得た。二軸押出機の技術的なパラメーターを、表1に列挙した。第1の紡糸溶液の非ニュートン指数及び構造粘性指数を、表2に列挙した
【0053】
3. ステップ2で調製された第1の紡糸溶液を、紡糸用ボックスに供給して、第2の紡糸溶液を得た。紡糸用ボックスの技術的なパラメーターを表1に列挙した。
【0054】
4. 紡糸用ボックスにより押し出された紡糸溶液を、12倍に延伸し、200〜220℃で0.5秒間瞬間冷却して、ゲル化前配向フィラメント束(40根)を得た。この例で調製されたゲル化前配向フィラメントを試験すると、結晶化度は32%であった。
【0055】
5. 得られたゲル化前配向フィラメント束を収集し、保持バレルに配置し、15時間静置して平衡化させた。
【0056】
6. 静置処理後のゲル化前配向フィラメント束を前延伸し、その後灯油で抽出し、それぞれ50℃での第1段階乾燥及び55℃での第2段階乾燥にかけて、プロトフィラメント繊維束を得た。前延伸、抽出、及び乾燥プロセスでの延伸率を、表1に列挙した。
【0057】
7. ステップ6で得られたプロトフィラメント繊維束を、2段階正延伸及び1段階負延伸にかけた。延伸の技術的なパラメーターを表1に列挙した。10kmプロトフィラメント繊維当たりの切断フィラメント端部数及び得られた超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能を両方とも表3に列挙した。
【0058】
実施例2
1. 92kgのホワイトオイルを膨潤釜に加えて撹拌し、6Kgの第1の超高分子量ポリエチレンパウダー及び2kgの第2の超高分子量ポリエチレンパウダーを撹拌しながら加えて、撹拌速度2,500rpmで撹拌し、105℃に加熱し、その温度を50分間維持して、紡糸液を得た。この場合、紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、8重量%だった。
【0059】
実施例で調製したゲル化前配向フィラメントを試験すると、結晶化度は27%だった。残りのステップは実施例1のものと同じだった。具体的な技術的パラメーターを表1に列挙した。第1の紡糸溶液の非ニュートン指数及び構造粘性指数を、表2に列挙した。延伸プロセスでの10kmプロトフィラメント繊維当たりの切断フィラメント端部数及び得られた超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能を両方とも表3に列挙した。
【0060】
実施例3
1. 94kgのホワイトオイルを膨潤釜に加えて撹拌し、6Kgの第1の超高分子量ポリエチレンパウダー及び2kgの第2の超高分子量ポリエチレンパウダーを撹拌しながら加えて、撹拌速度2,500rpmで撹拌し、105℃に加熱し、その温度を50分間維持して、紡糸液を得た。この場合、紡糸液中の超高分子量ポリエチレンの含有量は、6重量%だった。
【0061】
実施例で調製したゲル化前配向フィラメントを試験すると、結晶化度は25%だった。残りのステップは実施例1のものと同じだった。具体的な技術的パラメーターを表1に列挙した。第1の紡糸溶液の非ニュートン指数及び構造粘性指数を、表2に列挙した。延伸プロセスでの10kmプロトフィラメント繊維当たりの切断フィラメント端部数及び得られた超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能を両方とも表3に列挙した。
【0062】
実施例4〜実施例6
紡糸液及び紡糸プロセスは両方とも、実施例3のものと同じだった。具体的な技術的パラメーターを表1に列挙した。第1の紡糸溶液の非ニュートン指数及び構造粘性指数を、表2に列挙した。延伸プロセスでの10kmプロトフィラメント繊維当たりの切断フィラメント端部数及び得られた超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能を両方とも表3に列挙した。
【0063】
比較例1〜比較例2
上記2つの比較例のステップは、実施例3のものと同じだった。具体的な技術的パラメーターを表1に列挙した。第1の紡糸溶液の非ニュートン指数及び構造粘性指数を、表2に列挙した。延伸プロセスでの10kmプロトフィラメント繊維当たりの切断フィラメント端部数及び得られた超高分子量ポリエチレン繊維の機械的性能を両方とも表3に列挙した。
【0067】
上記の結果により、本発明で提供される方法により調製された超高分子量ポリエチレン繊維は、40〜55倍に延伸されても、10km当たり2以下の切断フィラメント端部数を有し、調製された超高分子量ポリエチレン繊維が、1フィラメント当たり2.2D未満のデニールを有し、より高い強度及び弾性を有することが判明した。
【0068】
実施形態の上記の記載は、本発明の方法及びその核となる概念の理解を支援するためのものに過ぎない。しかし、当業者であれば、本発明の原理から逸脱することなく、変更及び/又は改変を実施することができ、そうした変更及び/又は改変も、本発明の特許請求の範囲の範囲以内にあることが留意されるべきである。
【0069】
上述の開示されている実施形態により、当業者であれば、本発明を実施又は使用することが可能である。これらの実施形態の様々な改変は、当業者であれば明白になるだろう。本明細書で規定されている一般的な原理は、本発明の趣旨又は範囲から逸脱せずに、他の実施形態で実施することができる。したがって、本発明は、本明細書に示されている実施形態に限定されず、本明細書で開示されている原理及び新規特徴と、最も広い範囲で一致することになる。