特許第5961315号(P5961315)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5961315
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】金属空気電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 12/08 20060101AFI20160719BHJP
   H01M 12/06 20060101ALI20160719BHJP
   H01M 10/42 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   H01M12/08 K
   H01M12/06 Z
   H01M10/42 P
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-210532(P2015-210532)
(22)【出願日】2015年10月27日
【審査請求日】2015年10月29日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005382
【氏名又は名称】古河電池株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箱崎 安洋
(72)【発明者】
【氏名】坂本 智彦
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−144070(JP,A)
【文献】 特表2001−503238(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0186099(US,A1)
【文献】 特開2008−053221(JP,A)
【文献】 特開2004−079514(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 12/08
H01M 12/06
H01M 10/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極と、空気極とを備える金属空気電池において、
前記金属極と前記空気極とにそれぞれ繋がる一対の端子部間に設けられ、当該金属空気電池の放電を継続させるために常に導通状態にし、且つ、前記導通状態の経路に流れる電流の値を、前記不動態膜の生成が抑制される電流値に調整する電流調整用素子を備え、
前記電流調整用素子は、前記金属極と前記空気極とを有する電池本体に、並列に接続され、
当該金属空気電池に負荷を接続していない状態で、時間間隔を空けて前記金属極と前記空気極とを含む閉回路を形成し、前記閉回路に不動態膜除去用の電流を流す不動態膜除去回路を備えることを特徴とする金属空気電池。
【請求項2】
酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極と、空気極とを備える金属空気電池において、
前記金属極と前記空気極とを含む第1の閉回路を常に形成し、前記金属空気電池を常に放電させて不動態膜の生成を抑制する不動態膜抑制回路と、
当該金属空気電池に負荷を接続していない状態で、時間間隔を空けて前記金属極と前記空気極とを含む第2の閉回路を形成し、前記第2の閉回路に不動態膜を除去する電流を流す不動態膜除去回路と、
前記第2の閉回路を形成しているときの発電電圧に基づいて、当該金属空気電池の状態を判定する状態判定部と、
を備えることを特徴とする金属空気電池。
【請求項3】
前記状態判定部は、発電初期、発電状態が安定後に発電電圧が予め設定された規定値に達した状態である発電中期および放電末期のうちの少なくとも一つ以上の状態を判定し、
前記状態判定部の判定結果に基づき前記状態を報知する報知部を有することを特徴とする請求項2に記載の金属空気電池。
【請求項4】
前記金属極と前記空気極とを有する電池本体の直流電力を変換して出力するコンバータを有し、
前記状態判定部は、発電初期、発電状態が安定後に発電電圧が予め設定された規定値に達した状態である発電中期および放電末期のうちの少なくとも前記発電中期の状態を判定し、前記電池本体が前記発電中期と判定するまで、前記コンバータを動作停止状態に保持することを特徴とする請求項2又は3に記載の金属空気電池。
【請求項5】
前記金属極は、亜鉛を含むマグネシウム合金製であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の金属空気電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極を備える金属空気電池に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極を備える金属空気電池が知られている。この種の金属空気電池には、不動態膜(不動態被膜とも称する)を除去するため負荷を接続していない状態で、金属極と空気極とを含む閉回路を選択的に形成する回路を備えた構成が開示されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
また、リチウム電池の検査装置には、「駆動回路上のスイッチを一定の周期毎に閉成し、閉成により電池から前記駆動回路上の検査用負荷に電力を供給して該駆動回路に通電することにより得られる、前記電池の端子電圧に基づいて電圧低下を検査するとともに、スイッチの開放中に前記電池の端子の表面に発生した保護皮膜の分解のための通電が、前記スイッチの閉成中に前記駆動回路上で行われる構成」が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
この特許文献3の構成によれば、通電が行われない周期に応じた量だけ電池の端子の表面に発生、蓄積された保護皮膜を要因とする、電池の内部インピーダンスの上昇が、電池の電圧低下の定期的な検査に与える悪影響を抑制して、電池の電池電圧の低下検査を精度良く行うことができる、と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5684929号公報
【特許文献2】特開2014−22345号公報
【特許文献3】特開2001−264399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1,2の構成では、酸化反応により形成される不動態膜を十分に除去できない可能性がある。また、無負荷状態で不動態膜が生成されると、不動態膜を除去できたとしても、負荷に電力を供給するまでに相当の時間を要する。
ところで、金属空気電池の普及を考慮すると、電池電圧に基づいて金属空気電池の状態を検出することが臨まれる。しかし、発明者等の検討では、金属空気電池、例えばマグネシウム空気電池は、不動態膜が形成されると、電流は取出し難いが電圧は出やすいので、電池電圧から電池の状態、例えば、不動態膜の形成により負荷に電力を供給できるのか否か、単なる金属極も消耗や電解液の枯渇などによって電池寿命となっているのか否か、を判定することが難しかった。仮に、特許文献3の構成を金属空気電池に適用しても、金属空気電池では、電池電圧から電池の状態を判定することが難しい。このため、電池電圧が高く出やすい金属空気電池の状態を判定することも求められている。
【0006】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、不動態膜をより確実に低減することができる金属空気電池を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決するため、本発明は、酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極と、空気極とを備える金属空気電池において、前記金属極と前記空気極とにそれぞれ繋がる一対の端子部間に設けられ、当該金属空気電池の放電を継続させるために常に導通状態にし、且つ、前記導通状態の経路に流れる電流の値を、前記不動態膜の生成が抑制される電流値に調整する電流調整用素子を備え、前記電流調整用素子は、前記金属極と前記空気極とを有する電池本体に、並列に接続され、当該金属空気電池に負荷を接続していない状態で、時間間隔を空けて前記金属極と前記空気極とを含む閉回路を形成し、前記閉回路に不動態膜除去用の電流を流す不動態膜除去回路を備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極と、空気極とを備える金属空気電池において、前記金属極と前記空気極とを含む第1の閉回路を常に形成し、前記金属空気電池を常に放電させて不動態膜の生成を抑制する不動態膜抑制回路と、当該金属空気電池に負荷を接続していない状態で、時間間隔を空けて前記金属極と前記空気極とを含む第2の閉回路を形成し、前記第2の閉回路に不動態膜を除去する電流を流す不動態膜除去回路と、前記第2の閉回路を形成しているときの発電電圧に基づいて、当該金属空気電池の状態を判定する状態判定部と、を備えることを特徴とする。
【0010】
上記構成において、前記状態判定部は、発電初期、発電状態が安定後に発電電圧が予め設定された規定値に達した状態である発電中期および放電末期のうちの少なくとも一つ以上の状態を判定し、前記状態判定部の判定結果に基づき前記状態を報知する報知部を有しても良い。
【0011】
また、上記構成において、前記金属極と前記空気極とを有する電池本体の直流電力を変換して出力するコンバータを有し、前記状態判定部は、発電初期、発電状態が安定後に発電電圧が予め設定された規定値に達した状態である発電中期および放電末期のうちの少なくとも前記発電中期の状態を判定し、前記電池本体が前記発電中期と判定するまで、前記コンバータを動作停止状態に保持しても良い。
また、前記金属極は、亜鉛を含むマグネシウム合金製であっても良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極と空気極とにそれぞれ繋がる一対の端子部間を、常に導通状態にする導通経路と、前記導通経路に設けられ、前記導通経路に流れる電流の値を調整する電流調整用素子とを備えるので、電流調整用素子で調整された電流を常に流して不動態膜の生成を抑制することができ、不動態膜をより確実に低減することできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る金属空気電池システムの構成を示した図である。
図2】マイコンの動作を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の一実施の形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る金属空気電池システム10の構成を示した図である。
この金属空気電池システム10は、電池本体11と、電池本体11に接続される接続ユニット12とを備えている。電池本体11は、複数の単電池21を直列接続して構成され、各単電池21が、一対の金属極22と空気極23とを備え、電解液が注液されることによって空気中の酸素を電気化学反応に利用して発電する金属空気電池に構成されている。発電時には、金属極22が負極として機能し、空気極23が正極として機能する。なお、この金属空気電池システム10全体を金属空気電池とも称する。
【0015】
金属極22は、マグネシウム合金で形成され、空気極23と対向して配置される。より具体的には、金属極22は、マグネシウムが96%、アルミニウムが3%、亜鉛が1%のASTM規格のAZ31、又は、AZ61、AZ91などからなるマグネシウム極に形成されている。なお、ASTM規格によるものに限らず、公知のMg−Al−Zn系合金を用いても良い。また、アルミニウム及び亜鉛以外の元素を添加しても良く、例えば、Si,Cu,Li,Na,K,Fe,Ni,Ti,Zrなどの他の元素を添加しても良い。
【0016】
電解液は、金属極22からマグネシウムイオンが溶出可能な電解液である。より具体的には、電解液は、アニオンとして塩化物イオンを含み、カチオンとしてアルカリ金属イオン(Li,Na,K,Rb,Cs,Fr)、アルカリ土類金属イオン(Be,Mg,Ca,Sr,Ba,Ra)の少なくとも1つを含む水溶液である。本実施形態では、電解液として、安全性および導電性の高い点からナトリウムイオンを含む塩化ナトリウム水溶液が用いられる。
【0017】
つまり、電池本体11は、マグネシウム空気電池である。マグネシウム空気電池は、電解液に海水を用いたり、水道水に塩を混合した液体を用いることができるので、電解液の調達が容易である。なお、電池本体11の内部に、電解質である塩化ナトリウムを収容した袋体を予め配置し、水道水などの水を注液するだけで発電するように構成しても良い。
【0018】
空気極23は、外部の空気を電池本体11内に通気可能にする通気性および電解液を漏らさない非透液性を有する部品である。この空気極23は、集電体を構成する矩形状の銅メッシュの両面に、触媒層を構成する触媒シートを圧迫(プレス)などにより一体化して形成されている。なお、非透液性については、非透液性を有するシートを別途設けて確保しても良い。また、空気極23は上記構成に限らず、公知の構成を広く適用可能である。
【0019】
電池本体11は、正極端子および負極端子を構成する一対の端子部11A,11Bを有している。接続ユニット12は、電池本体11の各端子部11A,11Bに着脱自在に接続され、電池本体11の発電電力が接続ユニット12に供給される。
接続ユニット12は、各端子部11A,11Bに接続される一対の電源ライン31,32と、発電電力を所定電力に変換する電力変換部として機能する複数(本構成では2個)のコンバータ34と、変換後の電力を出力する電力出力部として機能する複数(本構成では2個)のUSB(Universal Serial Bus)ポート36と、接続ユニット12の各部を制御する制御部として機能するマイコン38とを備えている。
【0020】
各コンバータ34は、DC/DCコンバータであり、一対の電源ライン31,32を介して供給される発電電力を、所定の直流電力に変換し、各コンバータ34に1対1で対応づけられたUSBポート36に出力する。また、各コンバータ34は、マイコン38からの信号SAにより動作状態と動作停止状態とに切り替え可能である。
なお、コンバータ34およびUSBポート36は、2個に限らず、3個以上、或いは、1個でも良い。また、USBポートに限らず、USBポート以外の電力出力部を適用しても良い。また、USBポート以外を用いる場合は、コンバータ34はDC/ACコンバータでも良い。
【0021】
ところで、本構成の金属空気電池システム10において、空気極23および金属極22のそれぞれの反応は以下の通りである。
【0022】
(空気極)O+2HO+4e→4OH
(金属極)
マグネシウムの発電反応:Mg+2OH→Mg(OH)+2e
マグネシウムの自己放電:Mg+2HO→Mg(OH)+H
亜鉛の発電反応:Zn+4OH→Zn(OH)2−+2e
電解液中:Zn(OH)2−→ZnO+HO+2OH
アルミニウムの発電反応:Al+3OH→Al(OH)+3e
【0023】
一般に、マグネシウムは反応性が高い材質であるため、上記のように自己放電が生じやすい。
本構成では、上記マグネシウム合金を用いることにより、酸化反応で生成される酸化物(例えば、亜鉛酸化物)によって、金属極22の表面に自己放電を阻害し水素の発生を抑制する保護被覆として機能する不動態膜を形成し、自己放電反応を抑制することができる。
【0024】
ところが、発明者等の検討によると、酸化反応により金属極22の表面に不動態膜が形成されると、不動態膜が電池反応(発電反応)を阻害することがあった。例えば、放電停止した後に放電を再開させようとしたときに、電池反応が十分に再開されず、必要な電流を取り出せないことがあった。
【0025】
そこで、本実施形態では、不動態膜による電池反応の阻害を低減すべく、接続ユニット12が、不動態膜の生成を抑制する不動態膜抑制回路41と、不動態膜を除去する不動態膜除去回路51とを備えている。
さらに、本実施形態では、接続ユニット12が、電池状態を報知する報知部61を備え、マイコン38の判定結果に基づき電池本体11の状態を報知するようにしている。
【0026】
不動態膜抑制回路41は、一対の端子部11A,11B間を常に導通状態にする導通経路42(導通ラインとも称する)と、導通経路42に設けられる電流調整用素子43とを備えた抵抗放電回路に形成されている。導通経路42は、最も電池本体11側にて一対の電源ライン31、32間をつなぐラインに形成されている。
この導通経路42によって、金属極22と空気極23とを含む第1の閉回路41Kが常に形成される。電流調整用素子43は、導通経路42に流れる電流値を、予め定めた設定電流値に調整する抵抗素子である。
【0027】
この不動態膜抑制回路41によれば、金属極22と空気極23とを含む第1の閉回路41Kが常に形成される。この閉回路41Kには、電流調整用素子43で調整される電流が常に流れるので、電池本体11の放電が継続する。これにより、放電停止時と比べて不動態膜の生成が抑制される。
【0028】
電流調整用素子43によって調整される電流値が大きすぎると、発電時間が短くなり、この金属空気電池システム10に求められる発電時間(例えば、5日間)を満たさなくなる。一方、電流調整用素子43によって調整される電流値が小さすぎると、不動態膜を十分に抑制できなくなる。不動態膜を十分に抑制できないと、不動態膜除去回路51を用いても、不動態膜を除去することが困難になってしまう。
【0029】
そこで、発明者等は、電流調整用素子43によって調整される電流値を、USBポート36に接続される機器(電力消費機器)に必要な最低電流値、又はその近傍値に設定することにより、発電時間を十分に確保しつつ、不動態膜の生成を、後述する不動態膜除去回路51で十分に除去可能な程度に抑えている。
【0030】
より具体的には、発明者等は、電流調整用素子43によって調整される電流値を様々な値に変更して検討したところ、100mA以上、より好ましくは150mAで良好な結果が得られた。この範囲に設定することにより、実用上十分な性能を得、且つ、USBポート36に接続された機器の一例である携帯電話機を充電でき、さらに、不動態膜除去回路51によって不動態膜を除去できる程度に不動態膜を抑制することができた。
【0031】
なお、本実施形態では、電流調整用素子43に抵抗素子を用いた場合を説明したが、これに限らず、例えば、ダイオードなどの抵抗成分を有する他の素子でも良い。また、この電流調整用素子43は、電池本体11に並列接続されるので、コンバータ34および不動態膜除去回路51への影響が抑えられ、且つ、簡易な構成で常に電流を流した状態に維持することができる。
【0032】
次に、不動態膜除去回路51について説明する。
不動態膜除去回路51は、一対の端子部11A,11B間をつなぐ他の導通経路52と、この導通経路52に直列に接続された電流調整用素子53およびスイッチング素子54とを備えた開閉式の抵抗放電回路に形成されている。スイッチング素子54は、電界効果トランジスタ(FET)であり、マイコン38からの信号SBによって開閉が制御される。電流調整用素子53は、導通経路52に流れる電流値を、不動態膜を除去する電流に調整する抵抗素子であり、本実施形態では、1Aの電流を流す抵抗値が選定されている。
【0033】
マイコン38は、極低消費電力で動作するMPUであり、不動態膜除去回路51に対しては、スイッチング素子54を、時間間隔を空けて一時的に開から閉へと切り替える制御を行う。これにより、不動態膜除去回路51は、金属極22と空気極23とを含む第2の閉回路51Kを形成して、電流調整用素子53を強制負荷として接続する。従って、第2の閉回路51Kに、一時的に大きな電流が強制的に流れ、金属極22の表面に形成された不動態膜を電解液中に溶解させ、フレッシュな金属表面を露出させることができる。
【0034】
また、本構成では、USBポート36に、負荷となる電力消費機器が接続されていない状態のときに、マイコン38がスイッチング素子54を一時的に開から閉へと切り替える。これにより、電力消費機器を接続したときと比べて電池本体11の発電電圧が高いときに第2の閉回路51Kが形成され、第2の閉回路51Kを流れる電流値を効率良く高くすることができる。従って、不動態膜の除去に有利となる。
【0035】
続いて、報知部61について説明する。
報知部61は、光源として機能するLED素子62と、LED素子62への電力供給をオンオフするスイッチング素子63(本実施形態では電界効果トランジスタ(FET))とを備えている。対となるLED素子62およびスイッチング素子63は、USBポート36毎に設けられている。なお、LED素子62の駆動電力は、コンバータ34の出力電力である。
【0036】
マイコン38は、電源ライン31の電位を、内蔵するA/D変換回路を介して取得し、この電位(以下、「発電電圧V1)に基づき、電池本体11が、注水直後の発電初期、発電状態が安定した発電中期、放電末期のいずれの状態にあるか否かを判定する処理を行う。そして、判定結果に応じて、各LED素子62の点灯/消灯の制御を異ならせ、ユーザーに状態を報知することができる。
【0037】
図2は、マイコン38の動作を示したフローチャートである。
なお、初期状態では、各スイッチング素子54,63が開状態であり、コンバータ34が動作停止状態である。
電池本体11に電解液が注水され、電池本体11が発電を開始すると、まず、マイコン38が起動し、予め設定された初期待ち時間T0(本実施形態ではT0=10秒とした)が経過するまで待機する(ステップS1)。この初期待ち時間T0は、電池本体11が発電を開始してからある程度、発電状態が安定するまでの待ち時間である(ステップS1)。
【0038】
この初期待ち時間T0が経過すると、マイコン38は、ステップS2の処理に移行する。
ステップS2の処理では、マイコン38は、スイッチング素子54を一時的に開から閉へと切り替え、電流調整用素子53を強制負荷として接続して不動態膜の除去を行うとともに、スイッチング素子54が閉のときの発電電圧V1を測定する。そして、マイコン38は、測定した発電電圧V1が、予め設定された第1の規定値である規定値VL(本実施形態ではVL=3.15Vとした)に達したか否かを判定する(ステップS3)。
【0039】
ここで、本構成では、不動態膜抑制回路41により、金属極22と空気極23とを含む第1の閉回路41Kが常に形成されるので、電池本体11が発電を開始すると同時に不動態膜抑制回路41が機能し、金属極22への不動態膜の生成を発電初期から抑制することができる。
【0040】
上記の規定値VLは、電池本体11が予め設定された規定電圧範囲か否かを判定する閾値であり、例えば、規定電圧範囲の下限値、或いはその近傍値に設定される。
上記の通り、マイコン38は、スイッチング素子54が閉のときの電圧を発電電圧V1として取得するので、電流調整用素子53が強制負荷として作用したときの発電電圧V1が測定される。従って、比較的電圧が高く出やすい金属空気電池であっても、発電初期では発電電圧V1が規定値VL未満となり、発電初期であることを判定できる。
【0041】
ステップS3で発電電圧V1が規定値VLに達しないと判定した場合(ステップS3;No)、マイコン38は、不動態膜除去回路51の作動周期である一定の時間T1(本実施形態ではT1=30秒とした)が経過するまで待機した後(ステップS4)、ステップS2の処理に移行する。これにより、発電電圧V1が規定値VLに達するまで、時間T1の間隔で、不動態膜除去回路51により不動態膜の除去が繰り返し行われる。
マイコン38は、ステップS3で発電電圧V1が規定値VLに達したと判定すると(ステップS3;Yes)、上述したステップS1〜S4からなる発電初期の制御から、ステップS5以降の発電中期の制御へと移行する。
【0042】
ステップS5の処理では、マイコン38は、不動態膜除去回路51のスイッチング素子54を開状態にして強制負荷を解除し、全てのコンバータ34を動作状態に切り替え、報知部61のスイッチング素子63を閉状態に切り替えてLED素子62を点灯状態に切り替える。
これにより、発電電圧V1が規定値VL以上になると、全てのUSBポート36へ電力供給が開始され、LED素子62の点灯により、ユーザーに対し、発電中期の状態であることが報知される。
【0043】
次に、マイコン38は、不動態膜除去回路51の作動周期である一定の時間T2(本実施形態ではT2=10分とした)が経過するまで待機した後(ステップS6)、発電電圧V1を測定し、この発電電圧V1が無負荷状態の範囲か否かを判定する(ステップS7)。
ここで、無負荷状態とは、全てのUSBポート36に、負荷となる電力消費機器が接続されていない状態である。発電電圧V1は、少なくともいずれかのUSBポート36に、負荷となる電力消費機器が接続された有負荷状態では相対的に低くなり、無負荷状態では相対的に高くなる。これによって、発電電圧V1に基づいて、無負荷状態か否かを判定することができる。
なお、無負荷状態の範囲か否かの判定は、有負荷状態と無負荷状態とで異なる発電電圧V1を判別可能な閾値を用いることによって判定すれば良い。
【0044】
無負荷状態と判定した場合(ステップS7;Yes)、マイコン38は、スイッチング素子54を一時的に開から閉へと切り替え、電流調整用素子53を強制負荷として接続し、不動態膜の除去を行う(ステップS8)。
また、マイコン38は、ステップS8の処理でスイッチング素子54が閉のときの発電電圧V1を測定し、測定した発電電圧V1に基づき放電末期か否かを判定する(ステップS9)。より具体的には、マイコン38は、測定した発電電圧V1が、予め設定した第2の規定値である規定値VE(本実施形態では3.0Vとした)以下になる状態が予め定めた規定回数連続で確認された場合に、放電末期の状態と判定する。
つまり、規定値VEは、発電末期か否かの判定基準値であり、発電中期か否かの判定基準値である規定値VLよりも低い値に設定されている。
【0045】
放電末期の状態でないと判定した場合(ステップS9;No)、マイコン38は、不動態膜除去回路51のスイッチング素子54を開状態にして強制負荷を解除した後(ステップS10)、ステップS6の処理へ移行する。これによって、放電末期の状態と判定しない間、ステップS6〜S10の処理が繰り返し実行される。
一方、放電末期の状態に至ると、発電電圧V1が規定値VE以下になる状態か予め定めた規定回数連続で確認されるので、放電末期の状態と判定される。この判定方法により、比較的電圧が高く出やすい金属空気電池であっても、放電末期か否かを判定することができる。
【0046】
放電末期の状態と判定すると(ステップS9;Yes)、マイコン38は、放電末期の制御として、報知部61のスイッチング素子63を、時間間隔を空けて開閉させてLED素子62を点滅状態に切り替える(ステップS11)。これにより、LED素子62の点滅により、ユーザーに対し、放電末期の状態であることを報知できる。
なお、放電末期の状態を判定する方法は、上記の方法に限らない。例えば、放電末期に至ると発電電圧V1が大きく低下する金属空気電池の場合は、発電電圧V1が予め定めた閾値を下回った場合に放電末期と判定するようにしても良い。
【0047】
また、ステップS7の判定で、無負荷状態でないと判定した場合(つまり、有負荷状態と判定した場合)、マイコン38は、発電電圧V1を測定し、測定した発電電圧V1に基づき放電末期か否かを判定する(ステップS12)。より具体的には、マイコン38は、測定した発電電圧V1が規定値VE以下になる状態か予め定めた規定回数連続で確認された場合に、放電末期の状態と判定する。
マイコン38は、放電末期でないと判定すると(ステップS12;No)、ステップS5の処理に移行する。従って、放電末期の状態と判定しない間、有負荷状態であれば、ステップS6,S7,S12の処理が繰り返し実行される。
有負荷状態で放電末期の状態と判定した場合も(ステップS12;Yes)、マイコン38は、ステップS11の処理に移行し、LED素子62の点滅により、ユーザーに対し、放電末期の状態であることを報知する。以上がマイコン38の動作である。
【0048】
以上説明したように、本実施形態の金属空気電池システム10(金属空気電池)は、金属極22が酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなり、この金属極22と空気極23とにそれぞれ繋がる一対の端子部11A、11B間を、常に導通状態にする導通経路42と、導通経路42に設けられ、導通経路42に流れる電流の値を調整する電流調整用素子43とからなる不動態膜抑制回路41を備えるので、電流調整用素子43で調整された電流を常に流して不動態膜の生成を抑制することができる。従って、一定の周期毎に保護皮膜の分解のための通電だけを行う構成と比べて、不動態膜をより確実に低減することできる。
【0049】
また、電流調整用素子43は、金属極22と空気極23とを有する電池本体11に並列に接続されるので、他の回路(例えば、不動態膜除去回路51)への影響を抑えつつ、簡易な構成で所望の電流を常に流した状態に維持することができる。
また、負荷となる電力消費機器を接続していない状態で、時間間隔を空けて金属極22と空気極23とを含む第2の閉回路51Kを形成し、第2の閉回路51Kに不動態膜除去用の電流を流す不動態膜除去回路51を備えるので、不動態膜の抑制と除去との双方を行うことができ、不動態膜をさらに低減することができる。
【0050】
また、金属空気電池システム10は、第2の閉回路51Kを形成しているときの発電電圧V1に基づいて当該金属空気電池システム10の状態(電池本体11の状態に相当)を判定する状態判定部として機能するマイコン38を備えるので、不動態膜をより確実に低減して発電状態を良好にした状態で、不動態膜の除去のタイミングを利用するときの発電電圧V1に基づき、電池電圧が高く出やすい金属空気電池の状態を判定することができる。
【0051】
この場合、マイコン38は、発電電圧V1に基づいて発電初期、発電中期および放電末期のいずれの状態かを判定し、報知部61により判定結果に応じて異なる報知を行うので、発電初期、発電中期および放電末期の各状態を適切に報知することができる。
なお、発電初期、発電中期および放電末期の全てを判定して各状態を識別可能に報知する場合を説明したが、これに限らず、いずれかの状態だけを報知する等、適宜に変更しても良い。つまり、発電初期、発電中期および放電末期のうちの少なくとも一つ以上の状態を判定し、判定したいずれかの状態を報知すれば良い。
【0052】
また、金属極22と空気極23とを有する電池本体11の直流電力を変換して出力するコンバータ34を有し、マイコン38は、電池本体11が発電中期と判定するまでコンバータ34を動作停止状態に保持するので、金属空気電池の活性化を促して発電中期の状態へ速やかに移行させることができる。また、発電中期の状態に至るとコンバータ34を動作状態にすることで、コンバータ34から安定した電力を出力可能になる。
【0053】
また、この金属空気電池システム10は、金属極22が亜鉛を含むマグネシウム合金製であるので、電池反応で発生する亜鉛酸化物によって不動態膜が形成され易い。この構成の下、上記の不動態膜抑制回路41を備えるので、亜鉛を含むマグネシウム合金製の金属極22を採用しつつ、不動態膜による悪影響を効果的に抑制することが可能である。
【0054】
以上、本発明を実施するための形態について述べたが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形及び変更が可能である。例えば、上述の実施形態では、少なくとも亜鉛を含むマグネシウム合金製の金属極22を用いる場合を説明したが、これに限らず、酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなる金属極を用いる場合に本発明を適用しても良い。
また、上述の実施形態では、報知部61が、LED素子62の消灯、点灯及び点滅によって状態を報知する場合を説明したが、LED素子62以外の光源や表示装置を用いて状態を報知するようにしても良い。また、報知部61を、音声により状態を報知する音声出力装置で構成しても良いし、または、状態を示す信号をユーザーが携帯する携帯装置などに無線送信する無線送信装置で構成しても良い。
【符号の説明】
【0055】
10 金属空気電池システム(金属空気電池)
11 電池本体
11A,11B 端子部
12 接続ユニット
22 金属極
23 空気極
34 コンバータ
38 マイコン(状態判定部)
41 不動態膜抑制回路
41K 第1の閉回路
42 導通経路
43 電流調整用素子
51 不動態膜除去回路
51K 第2の閉回路
61 報知部
【要約】
【課題】不動態膜をより確実に低減することができる金属空気電池を提供する。
【解決手段】金属極22が酸化反応により表面に不動態膜が形成される材質からなり、この金属極22と空気極23とにそれぞれ繋がる一対の端子部11A、11B間を、常に導通状態にする導通経路42と、導通経路42に設けられ、導通経路42に流れる電流の値を調整する電流調整用素子43とからなる不動態膜抑制回路41を備えるようにした。
【選択図】図1
図1
図2