特許第5961341号(P5961341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961341
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/207 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   B60R21/207
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-40866(P2011-40866)
(22)【出願日】2011年2月25日
(65)【公開番号】特開2012-176696(P2012-176696A)
(43)【公開日】2012年9月13日
【審査請求日】2013年11月22日
【審判番号】不服2015-6353(P2015-6353/J1)
【審判請求日】2015年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】富士重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000383
【氏名又は名称】特許業務法人 エビス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大橋 道史
【合議体】
【審判長】 氏原 康宏
【審判官】 島田 信一
【審判官】 尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−269621(JP,A)
【文献】 特開2007−230391(JP,A)
【文献】 特開2003−220916(JP,A)
【文献】 特開2007−196986(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R21/207
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート内の車両側壁側に設けられ、前記シートに着座した乗員と車両側壁との間に展開するエアバッグを備えた乗員保護装置において、
前記エアバッグが収容され、前記エアバッグを突出させる突出口が設けられた収容部材と、
前記エアバッグが展開する際に、前記収容部材の前記突出口を前記シート内から前記シート外に移動させる移動機構と、
前記収容部材に収容された前記エアバッグをシートに着座した乗員の方向に向かって展開させるように前記エアバッグを案内する案内部材と、を備え、
前記移動機構は、展開する前記エアバッグの先端が前記シートに着座した乗員の体の側面部の腰部に接触可能な位置まで前記突出口を移動させる
ことを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記案内部材は、前記突出口の少なくとも一部を閉鎖するとともに、展開する前記エアバッグによって押し開けられるように構成され、
前記収容部材と前記案内部材との間には、前記突出口に対する前記案内部材の開度を所定の開度に規制する開度規制手段が設けられている
ことを特徴とする請求項1記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記開度規制手段は、前記案内部材の開度を、展開する前記エアバッグを前記シートに着座した乗員の方向に案内する開度に規制している
ことを特徴とする請求項2記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の衝突時における衝撃力から乗員を保護するための乗員保護装置に係り、特にシートに着座した乗員と車両の側壁との間に展開するサイドエアバッグを備えた乗員保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の乗員保護装置としては、シート内に設けられたエアバッグを備え、車両の衝突時等の車両の側方に衝撃力が作用した場合に、シートに着座した乗員と車両の側壁との間にエアバッグを展開させて、衝撃力から乗員を保護するようにしたものが知られている。この乗員保護装置では、エアバッグをシートに着座した状態の乗員の方向に展開させるようにすることで、乗員を確実に保護するようにしている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
前記乗員保護装置では、車両の側方に衝撃力が作用した場合に車両の側壁と乗員との間にエアバッグを介在させることで、乗員に作用する衝撃力を緩和するようにしている。一方、エアバッグの展開によって乗員を保護する別の乗員保護装置として、エアバッグを乗員の例えば腰部等、体の側面部に向かって側方から展開させることによって、シートに着座している乗員を車幅方向中央部側に移動させる方法が考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平4−356246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
エアバッグによって乗員を移動させる乗員保護装置では、乗員を確実に車幅方向中央部側に移動させるために、エアバッグを乗員の側面部に向かって側方から正確に展開させる必要がある。しかし、前記シート内に設けられたエアバッグを備えた乗員保護装置では、シート内でエアバッグを展開させているため、正確に乗員の側面側に側方からエアバッグを展開させることができず、エアバッグが展開したとしてもシートに着座した乗員を車幅方向中央部側に移動させることができない。
【0006】
本発明の目的とするところは、エアバッグを目的の位置に確実に展開させることのできる乗員保護装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成するために、シート内の車両側壁側に設けられ、前記シートに着座した乗員と車両側壁との間に展開するエアバッグを備えた乗員保護装置において、前記エアバッグが収容され、前記エアバッグを突出させる突出口が設けられた収容部材と、前記エアバッグが展開する際に、前記収容部材の前記突出口を前記シート内から前記シート外に移動させる移動機構と、前記収容部材に収容された前記エアバッグをシートに着座した乗員の方向に向かって展開させるように前記エアバッグを案内する案内部材と、を備え、前記移動機構は、展開する前記エアバッグの先端が前記シートに着座した乗員の体の側面部の腰部に接触可能な位置まで前記突出口を移動させる。
【0008】
これにより、突出口がシート外に位置する状態でエアバッグが展開されることから、突出口から直接シート外の空間にエアバッグが展開される。
【0009】
また、請求項2に記載の発明は、前記案内部材は、前記突出口の少なくとも一部を閉鎖するとともに、展開する前記エアバッグによって押し開けられるように構成され、前記収容部材と前記案内部材との間には、前記突出口に対する前記案内部材の開度を所定の開度に規制する開度規制手段が設けられていることを特徴とする。
また、請求項3に記載の発明は、前記開度規制手段は、前記案内部材の開度を、展開する前記エアバッグを前記シートに着座した乗員の方向に案内する開度に規制していることを特徴とする
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、突出口から直接シート外の空間にエアバッグを展開させることができるので、確実に目的とする方向にエアバッグを展開させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。
図2】エアバッグ装置の断面図である。
図3】収容部がシート外に移動した状態を示すエアバッグ装置の断面図である。
図4】エアバッグが展開した状態を示す乗員保護装置の概略図である。
図5】本発明の第2実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。
図6】エアバッグが展開した状態を示すエアバッグ装置の断面図である。
図7】本発明の第3実施形態を示す乗員保護装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至図4は、本発明の第1実施形態を示すものである。
【0013】
本発明の乗員保護装置は、図1に示す車両1のシート10に適用されるものである。
【0014】
シート10は、乗員Mが着座するためのシートクッション11と、シートクッション11の後端側から上方に延びるように設けられ、乗員Mの背面部を受けるためのシートバック12と、シートバック12の上端部に設けられ、乗員Mの頭部を受けるためのヘッドレスト13と、を有している。
【0015】
本発明の乗員保護装置としてのエアバッグユニット20は、シートバック12の車両1の側壁1a側の下部に位置するクッション材12aに埋設されている。
【0016】
エアバッグユニット20は、図2に示すように、エアバッグ21と、エアバッグ21を展開させるためのインフレータ22と、エアバッグ21およびインフレータ22が収容されるエアバッグケース23と、を備えている。
【0017】
エアバッグ21は、高強度で耐熱性の高い繊維からなる袋状の部材からなり、エアバッグケース23から乗員Mの側面部に向かって展開するように構成されている。
【0018】
インフレータ22は、車両1の側部に設けられた図示しない衝撃検出センサによって所定以上の衝撃力が検出された場合に、火薬に着火してガスを発生させたり、圧力容器内の高圧ガスを放出させたりするものである。インフレータ22から放出されたガスは、エアバッグ21に供給されるように構成されている。
【0019】
エアバッグケース23は、エアバッグ21およびインフレータ22が収容されたケース本体23aと、ケース本体23aに対して所定範囲内をスライド自在に設けられたスライド部材23bと、エアバッグ21の展開方向を案内するための案内部材23cと、を有している。
【0020】
ケース本体23aは、1面が開口された箱状の部材であり、内部にエアバッグ21の基端側およびインフレータ22が取り付けられている。ケース本体23aは、ブラケット23dを介してシートバッグ12内のフレーム12bに取り付けられている。
【0021】
スライド部材23bは、筒状の部材からなり、一端側にケース本体23aが配置されている。スライド部材23bの他端側には、展開するエアバッグ21を突出させるための突出口23eが設けられ、突出口23eはスライド部材23bの延びる方向に対して乗員M側方向に斜めに向いている。スライド部材23bは、ケース本体23aに対して移動距離L1の範囲内で移動可能である。この移動距離L1は、シート10に着座した乗員Mの側面部にエアバッグ21の先端を接触させることが可能な距離である。
【0022】
案内部材23cは、スライド部材23bの突出口23e近傍に一端側が支軸23fを介して回転可能に連結されている。案内部材23cは、エアバッグ21が展開していない状態で突出口23eを閉鎖しており、スライド部材23bの内側から所定以上の力が作用した場合に突出口23eを開放するように構成されている。所定以上の力が作用した場合に案内部材23cを回転させる方法としては、支軸23fの回転時の摩擦力を利用してもよいし、案内部材23cの他端側とスライド部材23bとを所定以上の力で破断可能な部材で連結するようにしてもよい。また、案内部材23cとスライド部材23bとの間には、突出口23eを開放する際の案内部材23cの回転角度を所定角度に規制するための規制部材23gが設けられている。規制部材23gは、例えば布状の部材からなり、両端がそれぞれ案内部材23cおよびスライド部材23bに固定されている。
【0023】
以上のように構成された乗員保護装置において、車両1の側面に対して側方から所定以上の衝撃力が作用すると、エアバッグユニット20では、インフレータ22からエアバッグ21に向かって高圧ガスが供給され、エアバッグ21が展開される。
【0024】
このとき、エアバッグ21は、図4に示すように、スライド部材23bの突出口23e側に向かって展開する力によって、スライド部材23bをケース本体23aに対して前方に向かって移動させる。これにより、スライド部材23bは、クッション材12aおよびクッション材12aの外側を覆うシートカバーを破断させてシートバック12内から乗員M側に突出する。エアバッグ21は、スライド部材23bをシートバック12内から突出させると同時に、突出口23eを閉鎖している案内部材23cを押し開けて突出口23eから突出して外部に展開する。
【0025】
突出口23eから外部に展開するエアバッグ21は、案内部材23cの開放角度が規制部材23gによって所定の角度に規制されている。これにより、エアバッグ21の先端部は、図4に示すように、乗員Mの側面の方向に案内されて乗員Mの腰部に接触し、シート10に着座した乗員Mを車幅方向中央部側に移動させる。
【0026】
このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、エアバッグ21が収容され、エアバッグを突出させる突出口23eが設けられたスライド部材23bと、エアバッグ21が展開する際に、スライド部材23bの突出口23eをシートクッション11内からシートクッション11外に向かって移動させる機構と、エアバッグケース23に収容されたエアバッグ21を所定の方向に向かって展開させるようにエアバッグ21を案内する案内部材23cと、を備えている。これにより、突出口23eをシートクッション11外に位置する状態でエアバッグ21を展開させることができるので、確実に目的とする方向にエアバッグ21を展開させることが可能となる。
【0027】
また、スライド部材23bと案内部材23cとの間には、突出口23eに対する案内部材23cの開放角度を所定の開放角度に規制するための規制部材23gが設けられている。これにより、規制部材23gを変更することによって、簡単に案内部材23cの開放角度を変更することができるので、エアバッグ21の展開する方向を容易に変更することが可能となる。
【0028】
規制部材23gは、案内部材23cの開放開度を、展開するエアバッグ21をシートに着座した乗員Mの方向に案内する角度に規制している。これにより、確実にエアバッグ21をシートに着座した乗員Mの方向に案内することができるので、乗員Mの安全性の向上を図ることが可能となる。
【0029】
また、スライド部材23bの移動距離は、シート10に着座した乗員Mの側面部にエアバッグ21の先端が接触する移動距離L1に設定されている。これにより、エアバッグ21によってシート10に着座した乗員Mを確実に車幅方向中央部側に移動させることができるので、車両1の側面に側方から衝撃力が作用する場合に、車両1の側壁1aが変形した場合においても、衝撃力が乗員に対して直接作用することを防止することができる。
【0030】
図5および図6は本発明の第2の実施形態を示すものである。尚、前記実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0031】
この乗員保護装置は、図5に示すように、エアバッグユニット20が、シートクッション11の側壁1a側の後部に設けられている。
【0032】
以上のように構成された乗員保護装置において、エアバッグ21は、スライド部材23bの突出口23e側に向かって展開することで、スライド部材23bをケース本体23aに対して上方に向かって移動させる。これにより、スライド部材23bは、図6に示すように、クッション材およびシートカバーを破断させてシートクッション11内から乗員M側に突出する。エアバッグ21は、スライド部材23bをシートクッション11内から突出させると同時に、突出口23eを閉鎖している案内部材23cを押し開けて突出口23eから突出して外部に展開する。
【0033】
突出口23eから外部に展開するエアバッグ21は、案内部材23cの開放角度が規制部材23gによって所定の角度に規制されている。これにより、図6に示すように、エアバッグ21の先端部は、乗員Mの側面の方向に案内されて乗員Mの腰部に接触し、シート10に着座した乗員Mを車幅方向中央部側に移動させる。
【0034】
このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、前記第1実施形態と同様に、突出口23eをシートクッション11外に位置する状態でエアバッグ21を展開させることができるので、確実に目的とする方向にエアバッグ21を展開させることが可能となる。
【0035】
図7は、本発明の第3実施形態を示すものである。尚、前記実施形態と同様の構成部分には同一の符号を付して示す。
【0036】
この乗員保護装置は、スライド部材23bが、ケース本体23aに対して移動距離L2の範囲内で移動可能である。この移動距離L2は、第1実施形態の移動距離L1より大きく、シート10に着座した乗員Mの前面側に沿ってエアバッグ21の先端が通過可能な移動距離である。
【0037】
以上のように構成された乗員保護装置において、車両1の側面に対して側方から所定以上の衝撃力が作用するとエアバッグ21が展開され、エアバッグ21の先端部は、図7に示すように、乗員Mの腹部に沿って展開し、シート10に着座した乗員の衝撃力による移動が規制される。
【0038】
このように、本実施形態の乗員保護装置によれば、スライド部材23bの移動距離は、シート10に着座した乗員Mの腹部に沿ってエアバッグ21が通る移動距離L2に設定されている。これにより、車両1に衝撃力が作用する場合に、シート10に着座した乗員Mの衝撃力による移動を規制することができるので、乗員Mの安全性を向上させることが可能となる。
【0039】
尚、前記実施形態では、本発明を車両1の前側のシート10に適用したものを示したが、これに限られるものではなく、車両1の後部のシートに対しても適用可能である。
【0040】
また、前記実施形態では、スライド部材23bと案内部材23cとを支軸23fによって回転自在に連結するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。例えば、スライド部材23bと案内部材23cとを一部材で形成し、スライド部材23bに対して案内部材23cを屈曲することによって突出口を閉鎖するようにしてもよい。
【0041】
また、前記実施形態では、スライド部材23bの突出口23eを案内部材23cによって閉鎖するようにしたものを示したが、これに限られるものではない。例えば、展開するエアバッグ21を案内可能であれば、突出口23eの少なくとも一部を閉鎖するものであればよい。
【0042】
また、前記実施形態では、エアバッグ21の展開する力によってケース本体23aに対してスライド部材23bを移動させるようにしたものを示したが、これに限られるものではない。例えば、ケース本体23aに対してスライド部材23bを移動させる動力源を別途設けるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…車両、1a…側壁、10…シート、11…シートクッション、12…シートバック、20…エアバッグユニット、21…エアバッグ、23…エアバッグケース、23a…ケース本体、23b…スライド部材、23c…案内部材、23e…突出口、23f…支軸、23g…規制部材。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7