(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の車両上にそれぞれ搭載される車載端末と、車両外に設置される管理用機器とで構成され、前記車載端末および管理用機器のそれぞれが無線通信機能を含む無線通信システムであって、
前記車載端末が、前記管理用機器との間の通信を可能にするインフラストラクチャー通信モードと、複数の端末同士の通信を可能にするアドホック通信モードとを有する無線通信部と、データ送信が必要になった時に、状況に応じて前記無線通信部のインフラストラクチャー通信モードとアドホック通信モードとを自動的に切り替え、インフラストラクチャー通信モードを選択した時には、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信し、アドホック通信モードを選択した時には、前記無線通信部から中継局となる他の端末を経由して前記管理用機器にデータを送信する通信制御部とを備え、
前記管理用機器は、少なくとも前記車載端末からのデータ送信の正常終了を検知した時に、前記車載端末に対して前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替えるための指示を送信する通信モード切り替え指示部を備え、
前記通信制御部は、
初期状態ではインフラストラクチャー通信モードを選択し、
データ送信が必要になった場合において、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できるときには、前記無線通信部をインフラストラクチャー通信モードに維持した状態で、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信するとともに、前記管理用機器に対するデータ送信を完了した後、前記管理用機器からの前記指示に従って、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、中継局の候補として待機し、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できないときには、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、前記無線通信部および前記管理用機器の双方との間で無線通信が可能なアドホック通信モードで動作している中継用の他の端末を検索し、前記他の端末が存在した場合、前記無線通信部から前記他の端末にデータを送信する
ことを特徴とする無線通信システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、タクシー車両上で収集された運行データをタクシー会社の管理用コンピュータへ無線通信により転送する場合を想定すると、一般的にはタクシー車両の当日の営業が終了して入庫した時に、この車両とタクシー会社の事務所との間で無線通信を行いデータを転送することが考えられる。
【0009】
従って、このようなデータ通信の際には車両の位置と通信相手が存在する事務所との距離が近いので、無線通信可能なエリアが比較的狭い場合であっても通信が可能な場合が多い。逆に、無線通信可能なエリアを広くすると、必要以上に強い電波を周囲の地域に送信することになり、第三者による不正な無線接続の可能性が高まるという問題がある。また、移動体通信サービスのような広域無線通信網を利用する場合には、高価な専用の通信設備を用意しなければならないし、通信自体に課金されるため運用コストが嵩むことになる。
【0010】
しかし、無線通信可能なエリアが狭い場合には、データ通信が必要な時に常に通信できるとは限らない。例えば、タクシー車両が入庫した時に、事務所のアンテナから比較的近い位置に停車していれば、この状態でタクシー車両が無線通信エリア内である可能性が高く、直ちにデータ通信を開始できる。一方、事務所のアンテナから離れた位置にタクシー車両が停車した場合や、間に障害物が存在するような状況では、この車両の位置が無線通信エリア外になりデータ通信できない状態になる。
【0011】
例えば、特許文献2に開示されているような無線中継装置を設置すれば、無線通信可能なエリアを必要に応じて広げることが可能であり、タクシー車両が事務所のアンテナから離れた位置に停車した場合であってもエリア外になるのを避けることができる。しかし、この場合には専用の無線中継装置を設置しなければならないので、システム全体の費用が嵩むことになる。
【0012】
一方、「IEEE 802.11」規格に対応した一般的な無線LAN装置は、アドホック通信モードとインフラストラクチャー通信モードとを備える場合が多い。アドホック通信モードは、端末同士が無線LANのアダプタを利用して互いに無線通信するための機能を提供する。また、インフラストラクチャー通信モードは、ネットワークを統括するアクセスポイントを介して端末とホスト装置とが通信を行うための機能を提供する。このような無線LAN装置は、ユーザの手動操作によってアドホック通信モードとインフラストラクチャー通信モードとの切替が可能であるが、いずれか一方のモードで動作するので、これだけでは特許文献2の無線中継装置として利用できない。つまり、アドホック通信モードを選択した時には、端末同士で通信できるが、1つの端末から他の端末を中継局として経由してホスト装置に接続することができない。また、インフラストラクチャー通信モードを選択した時には、端末とホスト装置との間で通信できるが、複数の端末が互いに通信できないので、他の端末を中継局として利用できない。
【0013】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、比較的狭いエリアでのみ通信可能な無線通信装置を利用する場合であっても、専用の中継装置を設置することなく、必要な時に車両上の端末と車両外部のホスト装置との間で通信できない状況が発生するのを回避することが可能な車載データ通信装置および無線通信システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前述した目的を達成するために、本発明に係る車載データ通信装置は、下記(1)〜(
4)を特徴としている。
(1) 車両上に端末として搭載され、前記車両上で生成されたデータを無線通信により車両外の特定の管理用機器に送信するための車載データ通信装置であって、
端末と前記管理用機器との通信を可能にするインフラストラクチャー通信モードと、複数の端末同士の通信を可能にするアドホック通信モードとを有する無線通信部と、
データ送信が必要になった時に、状況に応じて、前記無線通信部のインフラストラクチャー通信モードとアドホック通信モードとを自動的に切り替え、インフラストラクチャー通信モードを選択した時には、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信し、アドホック通信モードを選択した時には、前記無線通信部から中継局となる他の端末を経由して前記管理用機器にデータを送信する通信制御部と
を備え
、
前記通信制御部は、
初期状態ではインフラストラクチャー通信モードを選択し、
データ送信が必要になった場合において、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できるときには、前記無線通信部をインフラストラクチャー通信モードに維持した状態で、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信するとともに、前記管理用機器に対するデータ送信を完了した後、前記管理用機器からの指示に従って、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、中継局の候補として待機し、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できないときには、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、前記無線通信部および前記管理用機器の双方との間で無線通信が可能なアドホック通信モードで動作している中継用の他の端末を検索し、前記他の端末が存在した場合、前記無線通信部から前記他の端末にデータを送信すること。
(
2) 上記(1)に記載の車載データ通信装置であって、
前記通信制御部は、自端末が無線通信可能な他の端末から中継局の候補として指定された場合に、自端末のデータ蓄積能力に応じて中継動作の可否を他の端末に通知すること。(
3) 上記(
2)に記載の車載データ通信装置であって、
前記通信制御部は、自端末が他の端末から中継局として指定された場合に、他の端末から送信されたデータを受信して自端末上の記録媒体に一時的に蓄積し、受信が完了した後で前記無線通信部をインフラストラクチャー通信モードに切り替え、前記記録媒体に蓄積されたデータを前記管理用機器に送信すること。
前記通信制御部は、自端末が他の端末から中継局として指定された場合に、他の端末から送信されたデータを受信して自端末上の記録媒体に一時的に蓄積し、受信が完了した後、前記無線通信部をインフラストラクチャー通信モードに切り替え、前記記録媒体に蓄積されたデータを前記管理用機器に送信すること。
(
4) 上記(
3)に記載の車載データ通信装置であって、
前記通信制御部は、自端末が他の端末の中継局として動作する時に、データ送信元を特定可能な固有ID情報を送信元の他の端末から受け取り、前記固有ID情報を前記管理用機器に送信すること。
【0015】
上記(1)の構成の車載データ通信装置によれば、車両上の端末から車両外部の管理用機器にデータを送信する際に、車両上の端末をデータの送信元として利用することもできるし、中継局として利用することもできる。従って、それぞれが端末を搭載した複数のタクシー車両が存在するような環境においては、専用の中継装置が存在しない場合であっても、送信元の端末と送信先の管理用機器との間の通信経路を確保することが可能になる。
加えて、車両上の端末と車両外部の管理用機器とが直接通信することもできるし、直接通信できない状況においては、他の端末を中継局として利用し通信経路を確保することが可能になる。
更には、アドホック通信モードになっている端末は、前記管理用機器との間で通信できる(無線通信エリア内にある)状況にあるので、中継局の候補の条件に適合する。つまり、前記管理用機器との間で通信できない端末は、アドホック通信モードになっている他の端末を探し出すだけで、中継局の条件に適合する端末を見つけることができる。
上記(
2)の構成の車載データ通信装置によれば、データ送信元の端末は、他の端末が中継局として利用できるか否かを識別できる。すなわち、インフラストラクチャー通信モードとアドホック通信モードとを同時に利用できないため、中継局となる端末は、データを受信して蓄積し一時的に保持する能力を有する必要がある。
上記(
3)の構成の車載データ通信装置によれば、自動的にインフラストラクチャー通信モードとアドホック通信モードとを使い分け、更にデータ蓄積機能を利用するので、各端末を中継局としても利用可能になる。
上記(
4)の構成の車載データ通信装置によれば、中継局を利用する場合であっても、データを受け取る管理用機器は、データ送信元を識別できる。前記固有ID情報としては、乗務員のID、端末のID、車両のIDなどを割り当てることが想定される。
【0016】
前述した目的を達成するために、本発明に係る無線通信システムは、下記(
5)を特徴としている。
(
5) 複数の車両上にそれぞれ搭載される車載端末と、車両外に設置される管理用機器とで構成され、前記車載端末および管理用機器のそれぞれが無線通信機能を含む無線通信システムであって、
前記車載端末が、前記管理用機器との間の通信を可能にするインフラストラクチャー通信モードと、複数の端末同士の通信を可能にするアドホック通信モードとを有する無線通信部と、データ送信が必要になった時に、状況に応じて前記無線通信部のインフラストラクチャー通信モードとアドホック通信モードとを自動的に切り替え、インフラストラクチャー通信モードを選択した時には、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信し、アドホック通信モードを選択した時には、前記無線通信部から中継局となる他の端末を経由して前記管理用機器にデータを送信する通信制御部とを備え、
前記管理用機器は、少なくとも前記車載端末からのデータ送信の正常終了を検知した時に、前記車載端末に対して前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替えるための指示を送信する通信モード切り替え指示部を備え
、
前記通信制御部は、
初期状態ではインフラストラクチャー通信モードを選択し、
データ送信が必要になった場合において、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できるときには、前記無線通信部をインフラストラクチャー通信モードに維持した状態で、前記無線通信部から前記管理用機器に直接データを送信するとともに、前記管理用機器に対するデータ送信を完了した後、前記管理用機器からの前記指示に従って、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、中継局の候補として待機し、
前記無線通信部が前記管理用機器との間で無線通信できないときには、前記無線通信部をアドホック通信モードに切り替え、前記無線通信部および前記管理用機器の双方との間で無線通信が可能なアドホック通信モードで動作している中継用の他の端末を検索し、前記他の端末が存在した場合、前記無線通信部から前記他の端末にデータを送信すること。
【0017】
上記(
5)の構成の無線通信システムによれば、前記車載端末から車両外部の管理用機器にデータを送信する際に、この端末をデータの送信元として利用することもできるし、中継局として利用することもできる。従って、それぞれが端末を搭載した複数のタクシー車両が存在するような環境においては、専用の中継装置が存在しない場合であっても、送信元の端末と送信先の管理用機器との間の通信経路を確保することが可能になる。また、アドホック通信モードになっている端末は、前記管理用機器との間で通信できる状況にあるので、中継局の候補の条件に適合する。つまり、前記管理用機器との間で通信できない端末は、アドホック通信モードになっている他の端末を探し出すだけで、中継局の条件に適合する端末を見つけることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の車載データ通信装置および無線通信システムによれば、比較的狭いエリアでのみ通信可能な無線通信装置を利用する場合であっても、専用の中継装置を設置することなく、必要な時に車両上の端末と車両外部のホスト装置との間で通信できない状況が発生するのを回避することが可能になる。従って、例えばタクシー会社の駐車場のように比較的狭い範囲内で任意の位置に停車している車両と車両外部の管理用機器との間で通信するような場合に、通信経路を確保するために役立てることができる。
【0019】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の車載データ通信装置および無線通信システムに関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0022】
<システムの利用環境および構成例>
実施形態の無線通信システムが使用される具体的な環境における位置関係が
図1に示されている。また、この無線通信システムを構成する事務所機器および車載器の構成例が
図2に示されている。
【0023】
<システムが利用される環境の具体例>
例えばタクシー会社においては、各タクシー車両の運行状況を表すデータを収集し、このデータを解析することにより、各乗務員の労務管理や安全管理などの処理を行うことが可能になる。運行状況を表すデータは、各車両に搭載される車載器、具体的にはタクシーメータ、デジタルタコグラフ、ドライブレコーダなどによって自動的に収集される。各車両の車載器が収集した運行データをタクシー会社等の事務所内の管理用機器に転送するために本発明の無線通信システムを利用することができる。
【0024】
例えば、タクシー車両は毎日の運行業務が終了し、タクシー会社の敷地内の駐車場に戻って入庫状態になった時に、車両上の車載器と事務所内の管理用機器との間で無線通信を行い、収集された運行データを転送することが想定される。
【0025】
その場合、例えば
図1に示す車両A21のように、この車両と事務所10との距離が近いので、狭域無線通信(例えば半径10m程度の範囲内のみで通信可能)を利用して運行データを転送することができる。つまり、非常に狭い範囲内だけで無線通信が可能な狭域無線通信を利用する場合であっても、
図1に示す事務所無線エリアA1の範囲内に存在する車両A21は、事務所10内の事務所機器100との間で確実に無線通信を行うことができる。
【0026】
但し、
図1に示すように事務所10から離れた位置で入庫状態になった車両B22の場合には、事務所無線エリアA1の外側に位置しているので、車両B22と事務所10との間で直接無線通信を行うことができない。
【0027】
また、
図1に示す車両A21と車両B22との間の距離が近いので、これらの車両は同じ車載器間エリアA2の範囲内に存在している。つまり、車両A21上の車載器200と車両B22上の車載器200との間で無線通信を行うことは可能である。
【0028】
従って、本発明の無線通信システムは、狭域無線通信の事務所無線エリアA1の外側に位置する車両B22上の車載器200であっても、事務所10内の事務所機器100に対してデータを送信可能にする。そのために、各車両に搭載される車載器200は、データを送信する機能だけでなく、データ通信の中継を行う機能も搭載している。
図1に示す例では、車両A21上の車載器200が中継局として動作することにより、車両B22上の車載器200は、車両A21を経由して事務所10内の事務所機器100にデータを送信することができる。
【0029】
<システムを構成する装置の構成例>
事務所機器100および車載器200は、例えば
図2に示すように構成される。事務所機器100は
図1に示す事務所10内に設置され、同じ機能を有する車載器200が各車両(21、22)に搭載される。
【0030】
図2に示す事務所機器100は、解析用PC110、狭域通信路側機120およびアンテナ130を備えている。解析用PC110は、タクシー会社の乗務員の労務管理や安全管理のためのデータ解析機能を実現するソフトウェアを搭載したパーソナルコンピュータである。解析用PC110のソフトウェアは、各車両の運行データを入力してを解析することにより各乗務員の運行状況を把握し、労務管理や安全管理に役立てることができる。
【0031】
狭域通信路側機120は、非常に狭いエリアに限定した範囲内で無線通信を行うための通信設備である。すなわち、送信出力が非常に小さいため距離が大きくなると通信できなくなる。狭域通信路側機120と接続されたアンテナ130は、例えば
図1に示す事務所10の外側の駐車場と面する箇所に設置される。
【0032】
従って、解析用PC110は、各車両に搭載された端末(車載器200)のホスト装置として動作し、事務所無線エリアA1の範囲内に存在する端末との間で、狭域通信路側機120及びアンテナ130を介して無線通信を行い、車両側に存在する運行データを取得することができる。
【0033】
車載器200は、例えばタクシーメータ、デジタルタコグラフ、ドライブレコーダなどの装置に組み込むか、あるいはそれらと接続可能な端末として構成することが想定される。
図2に示した例では、車載器200はマイクロコンピュータ(CPU)201、車載カメラ202、インタフェース(I/F)203、加速度(G)センサ204、車速(速度)センサ205、インタフェース206、狭域通信端末207、アンテナ208、メモリカード209、発話部210、メモリ(SDRAM)211および広域通信端末212を備えている。
【0034】
マイクロコンピュータ201は、予め組み込まれているプログラムを読み込んで実行し、これにより車載器200に必要とされる各種機能を実現するための様々な制御を行う。具体的には、車両上で様々な運行データを自動的に収集し蓄積する機能や、蓄積した運行データを車外の事務所機器100に送信するための通信処理の機能が備わっている。主要な制御の内容については後で説明する。
【0035】
車載カメラ202は、CCD等の二次元撮像素子を内蔵しており、車体に固定され、タクシー車両の運行中に必要とされる被写体を連続的に撮影することができる。例えば、撮影方向を車外の進行方向前方又は後方に向けて車載カメラ202を設置することにより、道路上の他の車両や歩行者などを含む様々な被写体を撮影することができる。また、撮影方向を車室内に向けることにより、乗務員の運転の状況などを撮影することができる。
【0036】
インタフェース203は、撮影により得られた映像の信号を車載カメラ202の出力から入力し、アナログ/デジタル変換などの処理を実施して、マイクロコンピュータ201の処理に適したデジタル画像データを生成する。
【0037】
加速度センサ204は、車体に加わった進行方向の前後方向などの加速度の大きさを検出する。加速度センサ204が出力する信号により、急加速、急減速のような通常とは異なる運転状態を検出したり、交通事故のような異常な状態を検出することができる。
【0038】
車速センサ205は、車両の変速機に組み込まれており、変速機の出力軸が所定量回動作する毎にパルス信号(車速パルス)を出力する。この車速パルスを計測することにより、車両の移動速度や移動距離を把握することができる。
【0039】
狭域通信端末207は、例えばブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)の規格に対応した通信機器のように、非常に狭い範囲(数mから数十m程度の距離)のエリア内で無線通信を行うための機能を搭載している。狭域通信端末207はアンテナ208と接続されており、インタフェース206を介してマイクロコンピュータ201とも接続されている。
【0040】
メモリカード209は、データの書き込み及び読み出しが自在な不揮発性メモリを内蔵しており、車載器200に対し着脱自在になっている。マイクロコンピュータ201はメモリカード209にアクセスし、データを保存したり、保存されたデータを読み出したりすることができる。本実施形態では、車両の運行中に収集した運行データ(車速、加速度、画像データ等)をメモリカード209上に保存する。
【0041】
発話部210は、車載器200の操作等に関しユーザを案内するための音声を出力する機能を有している。例えば、メモリカード209が車載器200から抜き取られた時に「カードが装着されていません」のような音声を出力する。
【0042】
メモリ211は、マイクロコンピュータ201のアクセスによりデータの書き込み及び読み出しが可能な揮発性の記憶装置であり、SDRAMにより構成され、一時的なデータの保存先として利用される。
【0043】
広域通信端末212は、移動体通信網の無線基地局との間で無線通信を行うための機能を搭載している。マイクロコンピュータ201は、広域通信端末212を利用して無線通信を行うことにより、遠隔地にある様々なサーバと通信することが可能である。なお、本実施形態では車載器200と事務所機器100との間の通信に関しては、広域通信端末212は使用しない。
【0044】
<車載器200の動作>
<概要の説明>
図2に示した車載器200の主要な動作が
図3及び
図4に示されている。車載器200がデータ送信元になる場合には
図3に示した動作が実行され、車載器200が中継局になる場合には
図4に示した動作が実行される。
【0045】
また、車載器200の狭域通信端末207を利用した無線通信に関しては、「インフラストラクチャー通信モード」と「アドホック通信モード」とが用意されている。「インフラストラクチャー通信モード」は、データ送信元の端末である車載器200とホスト装置である事務所機器100との間で通信することができる動作モードである。「アドホック通信モード」は、同じ機能を有する端末(車載器200)同士の間でのみ通信することができる動作モードである。
【0046】
例えば、
図1に示した事務所無線エリアA1の車両A21上の車載器200が事務所機器100との間で無線通信を行う場合には「インフラストラクチャー通信モード」が選択される。また、車載器間エリアA2内の車両A21上の車載器200と車両B22上の車載器200との間で無線通信を行う場合には、「アドホック通信モード」が選択される。また、電源投入時の初期状態では「インフラストラクチャー通信モード」選択される。
【0047】
<送信元の端末の動作>
車載器200上のマイクロコンピュータ201は、「インフラストラクチャー通信モード」を選択している状態で、
図3に示した動作をステップS11から実行する。
【0048】
ステップS11では、マイクロコンピュータ201は、事務所機器100との間でデータ通信する必要があるか否かを識別する。例えば、タクシー車両が当日の運行業務を終了して事務所の駐車場に戻った時には、入庫処理として当日の運行データを事務所機器100に送信する必要があるので、その場合は次のステップS12に進む。
【0049】
ステップS12では、マイクロコンピュータ201は狭域通信端末207を用いて「インフラストラクチャー通信モード」で境域無線通信の電波の送受信を行い、相手局である事務所機器100との間で無線通信が可能な事務所無線エリアA1内か否かを識別する。事務所無線エリアA1内であればステップS13に進み、エリア外であればステップS20へ進む。
【0050】
ステップS13では、マイクロコンピュータ201は運行データを送信するための要求を事務所PCである事務所機器100へ送信する。
【0051】
ステップS14では、マイクロコンピュータ201はステップS13の要求に対して許可を示す応答を事務所PCである事務所機器100から受信するまで待機する。
【0052】
ステップS15では、マイクロコンピュータ201は車載器200上のメモリカード209上に蓄積されている当日収集された運行データを、事務所PCである事務所機器100に対して送信開始する。
【0053】
ステップS16では、マイクロコンピュータ201はデータ送信を完了したか否かを識別し、完了した場合には次のステップS17に進む。具体的には、車載器200が事務所機器100から運行データの受信完了通知を受信したか否かを識別する。
【0054】
ステップS17では、マイクロコンピュータ201は車載器200が事務所機器100から通信モード切替要求を受信したか否かを識別し、受信した場合は次のステップS18に進む。
【0055】
ステップS18では、マイクロコンピュータ201は事務所PCである事務所機器100からの通信モード切替要求に従って、自局の狭域通信端末207の動作モードを「アドホック通信モード」へ切り替える。
【0056】
ステップS19では、マイクロコンピュータ201は「アドホック通信モード」を選択しているので、中継動作が可能な端末として待機する。すなわち、この状態で
図4に示す動作を必要に応じて実行する。
【0057】
ステップS20では、自局(車載器200)が事務所無線エリアA1外であり、事務所機器100と直接通信できないので、マイクロコンピュータ201は自発的に「アドホック通信モード」に切り替える。
【0058】
ステップS21では、マイクロコンピュータ201は狭域通信により自局(車載器200)との間で無線通信が可能な中継用の他の端末(「アドホック通信モード」で動作している他の車載器200)を探索する。
【0059】
例えば、自局(車載器200)が
図1に示す車両B22上である場合には、同じ車載器間エリアA2の中に他の車両A21が存在するので、この場合は車両A21上の車載器200を中継用の端末として認識し、次のステップS22に進む。
【0060】
ステップS22では、マイクロコンピュータ201は運行データを送信するための中継要求を他の端末(「アドホック通信モード」で動作している他の車載器200)に対して送信する。
【0061】
ステップS23では、マイクロコンピュータ201はステップS22の中継要求に対して他の端末からの許可の応答を受信したか否かを識別する。許可の応答を受信した場合は次のステップS24に進む。
【0062】
ステップS24では、マイクロコンピュータ201は、運行データを中継用の他の端末に対して送信開始する。この時送信するデータには、送信元を特定可能な識別コード(ID)を付加する。この識別コードについては、例えば乗務員を特定することが可能な番号、車両を特定することが可能な番号、あるいは車載器200を特定することが可能な機器番号のような固有のIDとする。
【0063】
ステップS25では、マイクロコンピュータ201はデータ送信を完了したか否かを識別し、完了した場合に入庫処理を完了して動作を終了する。具体的には、車載器200が中継用の他の車載器200から運行データの受信完了通知を受信したか否かをステップS25で識別する。
【0064】
<中継時の端末の動作>
中継局として動作することが可能な車載器200の場合には、必要に応じて
図4に示す動作を実行する。中継局として動作する車載器200は、事務所無線エリアA1内に存在し、かつ「アドホック通信モード」で動作している必要がある。
【0065】
図3に示したステップS19の処理まで進んだ車載器200の場合には、事務所機器100との間で既に無線通信を行った後であるため事務所無線エリアA1内に存在しており、かつ「アドホック通信モード」で動作している。従って、その場合は
図4の動作を実行する。
【0066】
ステップS31では、車載器200のマイクロコンピュータ201は、車載器間エリアA2内に存在する他の端末(「アドホック通信モード」で動作している他の車載器200)から中継の要求を受信したか否かを識別し、要求を受信すると次のステップS32に進む。
【0067】
ステップS32では、マイクロコンピュータ201は自局の記憶装置(例えばメモリカード209)上の空き容量の情報を取得する。また、この空き容量の値を予め定めた閾値と比較することにより、次のステップS33で中継動作に必要な空き容量があるか否かを識別する。十分な空き容量がある場合は次のステップS34に進み、容量が不足する場合は中継できないので処理を終了する。
【0068】
ステップS34では、マイクロコンピュータ201は、中継の要求を送信した送信元の端末(「アドホック通信モード」で動作している他の車載器200)に対して、中継許可の応答を送信する。
【0069】
ステップS35では、マイクロコンピュータ201は、送信元の端末からのデータを受信してメモリカード209等の記憶装置上に蓄積し一時的に保存する。この時、送信元を特定する識別コード(ID)も取得して保存する。
【0070】
ステップS36では、マイクロコンピュータ201は正常にデータ受信を完了したか否かを識別し、正常に受信完了した場合は次のステップS37に進む。
ステップS37では、マイクロコンピュータ201は運行データの受信が完了したことを示す応答をデータ送信元の他の端末(「アドホック通信モード」で動作している他の車載器200)へ送信する。
【0071】
ステップS38では、マイクロコンピュータ201は、端末である自局(車載器200)とホスト装置である事務所機器100との間の無線通信を可能にするために、自発的に「インフラストラクチャー通信モード」へ切り替える。
【0072】
ステップS39では、マイクロコンピュータ201は、中継局である自局が他の端末から受信した運行データを送信するための要求を事務所PCである事務所機器100に対して送信する。
【0073】
ステップS40では、マイクロコンピュータ201は事務所PCである事務所機器100から許可の応答を受信したか否かを識別し、受信した場合には次のステップS41に進む。
【0074】
ステップS41では、マイクロコンピュータ201は中継用にメモリカード209上などに蓄積した運行データを読み込んで、これを接続先の事務所PCである事務所機器100へ送信開始する。この時送信するデータには、送信元の他の端末を特定する識別コードも付加する。
【0075】
ステップS42では、マイクロコンピュータ201はデータ送信を完了したか否かを識別し、完了した場合には次のステップS43に進む。具体的には、車載器200が事務所機器100から運行データの受信完了通知を受信したか否かを識別する。
【0076】
ステップS43では、マイクロコンピュータ201は自局(車載器200)が事務所機器100から通信モード切替要求を受信したか否かを識別し、受信した場合は次のステップS43に進む。
【0077】
ステップS44では、マイクロコンピュータ201は事務所PCである事務所機器100からの通信モード切替要求に従って、自局の狭域通信端末207の動作モードを「アドホック通信モード」へ切り替える。これにより、再び他の端末の中継局として動作可能な状態になる。
【0078】
<システム全体の動作>
図1に示した環境におけるシステム全体の動作の概要が
図5及び
図6に示されている。すなわち、
図1に示す事務所機器100は
図5及び
図6の各ステップS101〜S110を実行し、車両A21上の車載器200は各ステップS201〜S218を実行し、車両B22上の車載器200は各ステップS301〜S308を実行する。システム全体の動作について以下に説明する。
【0079】
車両A21上の車載器200は、初期状態のインフラストラクチャー通信モードの状態で、ステップS201で入庫処理を開始し、次のステップS202で事務所との間で通信可能なエリア内か否かを識別する。この例では事務所無線エリアA1内に車両A21が存在するので、車両A21上の車載器200は、ステップS203で事務所機器100に対して運行データの送信要求を送信する。
【0080】
事務所機器100は、ステップS101で車載器200からの送信要求を受信すると、次のステップS102で運行データ送信許可の応答を車載器200に送信する。
車両A21上の車載器200は、事務所機器100からの送信許可の応答を受信すると、ステップS204からS205に進み、運行データの送信を開始する。
【0081】
事務所機器100は、車載器200から送信される運行データを順次に受信する。また、この運行データに付加される送信元の識別コード(ID)をステップS103で取得して運行データを乗務員毎に区分して管理する。また、全ての運行データの受信が完了すると、ステップS104で運行データ受信完了の応答を送信元に対して送信する。更に、送信元の通信モードを「アドホック通信モード」に切り替えるための切替要求をステップS105で送信する。
【0082】
車両A21上の車載器200は、事務所機器100からの受信完了の応答をステップS206で受け取った後、事務所機器100からの要求に従って、次のステップS207で自局を「アドホック通信モード」に切り替える。これ以降、車両A21上の車載器200は、中継局として動作可能な状態になる。
【0083】
一方、車両B22上の車載器200は、初期状態のインフラストラクチャー通信モードの状態で、ステップS301で入庫処理を開始し、次のステップS302で事務所との間で通信可能なエリア内か否かを識別する。この例では事務所無線エリアA1内に車両B22が存在しないので、車両B22上の車載器200の処理はステップS303に進む。
【0084】
すなわち、車両B22上の車載器200は、ステップS303で自発的に自局を「アドホック通信モード」に切り替え、次のステップS304で自局の通信可能なエリア(A2)内で、中継動作が可能な他の端末(車載器200)を探索する。中継動作が可能な他の端末が見つかった場合には、該当する中継用の端末に対してステップS305で運行データの送信要求を送信する。
【0085】
図1の例では、車両B22上の車載器200と同じ車載器間エリアA2内に車両A21上の車載器200が存在している。また、実際に通信ができることは車両A21上の車載器200も「アドホック通信モード」になっていることを意味する。従って、車両B22上の車載器200は車両A21上の車載器200を中継局として利用する。
【0086】
車両A21上の車載器200は、自局を中継局とする他の端末からの送信要求を受信すると、ステップS208からS209に進む。車載器200は、「インフラストラクチャー通信モードの動作」と「アドホック通信モード」のいずれか一方を選択して動作するので、中継動作を行うためには受信したデータを一時的に自局で保持する必要がある。従って、車両A21上の車載器200は、中継するデータを保持するのに十分な空き容量の記憶装置が存在するか否かをステップS209で識別する。十分な空き容量がある場合には、次のステップS210で運行データの送信要求に対する許可の応答を送信元に対して送信する。
【0087】
車両B22上の車載器200は、中継局である車両A21上の車載器200からの許可の応答をステップS306で受信すると、次のステップS307で運行データの送信を開始する。
【0088】
車両A21上の車載器200は、車両B22上の車載器200から送信された運行データを順次に受信して自局の記憶装置(メモリカード209等)上に一時的に蓄積する。また、全ての運行データを正しく受信完了したか否かをステップS211で識別し、受信が完了した場合はステップS212で運行データ受信完了の応答を送信元の車両B22上の車載器200に送信する。
【0089】
データ送信元の車両B22上の車載器200は、中継局である車両A21上の車載器200からの受信完了応答をステップS308で検出すると入庫処理を完了する。
【0090】
一方、中継局である車両A21上の車載器200は、車両B22上の車載器200から受け取った運行データを事務所機器100に転送可能な状態にするために、ステップS213で通信モードを自発的に切り替える。すなわち、「アドホック通信モード」のままではホスト装置である事務所機器100との間の通信ができないので、「インフラストラクチャー通信モード」に自動的に切り替える。
【0091】
中継局である車両A21上の車載器200は、「インフラストラクチャー通信モード」に切り替えた後、ステップS214で事務所無線エリアA1内の事務所機器100に対して運行データの送信要求を送出する。
【0092】
事務所機器100は、中継局である車両A21上の車載器200からの送信要求をステップS106で受信すると、次のステップS107で運行データの送信許可の応答を送信する。
【0093】
車両A21上の車載器200は、事務所機器100からの許可の応答をステップS215で受信すると、次のステップS216で運行データの送信を開始する。この時送信するデータは、中継局である自局が車両B22上の車載器200から既に受け取ってメモリカード209上に保持しているデータである。
【0094】
事務所機器100は、中継局である車両A21上の車載器200から送信される運行データを順次に受信する。また、中継局が送信する運行データには送信元(この場合は車両B22上の車載器200)と関連した識別コード(ID)が含まれるので、事務所機器100はステップS108で識別コードを取得し、運行データを乗務員毎に区別して管理する。
【0095】
事務所機器100は、全ての運行データの正常な受信を完了すると、ステップS109で運行データ受信完了の応答を中継局である車両A21上の車載器200に対して送信する。更に、次のステップS110で、事務所機器100は「アドホック通信モード」に切り替えるための要求を車両A21上の車載器200に対して送信する。
【0096】
車両A21上の車載器200は、事務所機器100からの受信完了の応答を検出すると送信を終了する。また、事務所機器100から通信モードの切替要求を受信すると、その要求に従って、車両A21上の車載器200はステップS218で「アドホック通信モード」に切り替わる。
【0097】
<実施形態の通信システムの利点>
図1に示した車両B22上の車載器200のように、自局が車載器間エリアA2外に位置する場合であっても、他の車両の車載器200を中継局として利用することにより、事務所機器100との間で無線通信が可能になる。また、車載器200自身がデータの送信元になったり、中継局として動作することができるので、専用の無線中継局を用意する必要がない。更に、状況に応じて自動的に車載器200の「インフラストラクチャー通信モード」と「アドホック通信モード」とを切り替えるので、乗務員等が特別な切替操作を行う必要もない。また、非常に狭いエリア内のみで無線通信を行うので、特別なセキュリティ対策を行わなくても第三者による不正な無線接続を防止することができ、システム全体のコストを低減することが可能になる。
【0098】
<変形の可能性>
各車載器200の通信モードの「インフラストラクチャー通信モード」と「アドホック通信モード」とを切り替える条件については、様々な変形が考えられる。例えば、待機中にあるいは通信の途中で正常に終了する前に所定時間を経過した(タイムアウトの場合)ような場合にも、各車載器200が自発的に、あるいは事務所機器100の要求により通信モードを切り替えることが考えられる。
【0099】
なお、上述の実施形態においてはタクシー会社の事務所とタクシー車両との間で通信する場合を想定しているが、例えばバスやトラックなどの業務用車両が通信する場合にも同様に本発明を適用可能である。