(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のゴルフクラブシャフトの実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係るゴルフクラブシャフト(以下、単に「シャフト」ともいう)を含むゴルフクラブ1の全体を示す説明図である。ゴルフクラブ1は、所定のロフト角を有するウッド型ゴルフクラブヘッド2と、シャフト3と、グリップ4とを有している。ヘッド2は、シャフト3の先端側のチップ端3aを挿入して固着するためのシャフト穴5を備えたホーゼル6を有している。シャフト3の後端側のバット端3bは、グリップ4のグリップ穴7内に挿入されて固着される。チップ端3aはヘッド2の内部に位置しており、バット端3bはグリップ4の内部に位置している。なお、
図1において、符号Gで示されるのは、シャフト3の重心(重心点)である。この重心Gは、シャフト3の内部であって、シャフト軸線上に位置している。
【0019】
ゴルフクラブ1の重量は、本発明において特に限定されるものではないが、300g以下の範囲内に設定されていることが好ましい。ゴルフクラブ1の重量が軽すぎると、当該ゴルフクラブ1を構成する各要素(パーツ)の強度が低くなり、耐久性が低下する惧れがある。したがって、ゴルフクラブ1の重量は、270g以上であることが好ましく、さらには273g以上であることが好ましい。一方、ゴルフクラブ1の重量が重すぎると、振りにくくなり、ヘッドスピードを上げることが難しくなる。したがって、ゴルフクラブ1の重量は、295g以下であることがさらに好ましく、特に290g以下であることが好ましい。
【0020】
また、ゴルフクラブ1の長さ自体も、本発明において特に限定されるものではないが、通常、44.0〜47.0インチである。ゴルフクラブ1の長さが短すぎると、振り易くなるものの、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、ゴルフクラブ1の長さは、44.5インチ以上であることが好ましく、さらには45.0インチ以上であることが好ましい。一方、ゴルフクラブ1の長さが長すぎると、クラブを振りにくくなるためヘッドスピードが低下してしまう。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、ゴルフクラブ1の長さは、46.5インチ以下であることが好ましく、さらには46.0インチ以下であることが好ましい。
【0021】
なお、本明細書において「クラブ長さ」とは、R&G(Royal and Ancient Golf Club of Saint Andrews:全英ゴルフ協会)が定めるゴルフ規則「付属規則II クラブのデザイン」の「1 クラブ」における「1c 長さ」の記載に基づいて測定される長さである。
【0022】
〔ヘッドの構成〕
本実施の形態におけるヘッド2は、中空のヘッドであり、慣性モーメントが大きい。ヘッド2の慣性モーメントが大きいクラブでは、飛距離向上の効果が安定的に得られるので、ヘッド2としては中空であることが好ましい。
【0023】
ヘッド2の材質は、本発明において特に限定されるものではなく、例えばチタン、チタン合金、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)、ステンレス鋼、マルエージング鋼、軟鉄などを用いることができる。また、単一の材質を用いて作製するだけでなく、複数の材質を適宜組み合わせてヘッド2を作製してもよい。例えば、CFRPとチタン合金とを組み合わせることができる。ヘッド2の重心を下げる観点から、クラウンの少なくとも一部がCFRP製であり、ソールの少なくとも一部がチタン合金製であるヘッドを採用することができる。また、強度の観点からは、フェース全体がチタン合金製であることが好ましい。
【0024】
本発明では、ヘッド2単体の重量は特に限定されないが、185〜210gの範囲内であることが好ましい。ヘッド2が軽すぎると、当該ヘッド2の運動エネルギーをボールに十分に与えることができず、ボールスピードを増大させることが難しくなる。したがって、188g以上であることがさらに好ましく、特に192g以上であることが好ましい。一方、ヘッド2の重量が重くなりすぎると、ゴルフクラブ1が重くなって、振りにくくなる。したがって、206g以下であることがさらに好ましく、特に203g以下であることが好ましい。
【0025】
また、本実施の形態におけるゴルフクラブ1では、ヘッド重量とクラブ重量との比(ヘッド重量/クラブ重量)が0.67以上0.72以下に設定されている。この比が小さすぎると、ヘッド2の運動エネルギーが小さくなってしまい、十分なボールスピードを得ることが難しくなる。したがって、前記比は、0.675以上であることが好ましく、さらには0.68以上であることが好ましい。一方、前記比が大きすぎると、ヘッド2が重くなりすぎてクラブが振りにくくなる。したがって、前記比は、0.718以下であることが好ましく、さらには0.715以下であることが好ましい。
【0026】
〔グリップの構成〕
本発明において、グリップ4の材質や構造は特に限定されるものでなく、通常用いられているものを適宜採用することができる。例えば、天然ゴムに、オイル、カーボンブラック、硫黄及び酸化亜鉛を配合して混練した材料を所定形状に成形し且つ加硫することにより得られるものを用いることができる。
【0027】
本発明において、グリップ4の重量自体は特に限定されるものではないが、通常、27g以上45g以下に設定することができる。グリップ4の重量が軽すぎると、当該グリップ4の強度が低くなり、その耐久性が低下する惧れがある。したがって、グリップ4の重量は、30g以上であることが好ましく、さらには33g以上であることが好ましい。一方、グリップ4の重量が重すぎると、ゴルフクラブ1が重くなって、振りにくくなる。したがって、グリップ4の重量は、41g以下であることが好ましく、さらには38g以下であることが好ましい。
【0028】
〔シャフトの構成〕
本実施の形態におけるシャフト3はカーボンシャフトであり、プリプレグシートを材料として通常のシートワインディング製法により作製されている。より詳細には、シャフト3は、繊維強化樹脂層の積層体からなる管状体であり、中空構造を有している。シャフト3の全長はL
Sであり、また、シャフト3のチップ端(先端)3aから前記シャフト3の重心Gまでの距離はL
Gである。
【0029】
本発明におけるシャフト3の重量は、55g以下に設定されている。シャフト3の重量が軽すぎると、肉薄であるため、曲げ強度などの強度が不足する可能性が高くなることから、通常、30g以上であり、32g以上であることが好ましく、さらには34g以上であることが好ましい。一方、シャフト3の重量が55gを超えると、ゴルフクラブ1全体が重くなり、速くスイングすることが難しくなる。したがって、シャフト3の重量は、54g以下であることが好ましく、さらには53g以下であることが好ましい。
【0030】
また、シャフト3の長さ自体は本発明において特に限定されるものではないが、通常、105〜120cmである。シャフト3の長さが短すぎると、スイングの回転半径が小さくなり、十分なヘッドスピードを得ることが難しくなる。このため、ボールスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、シャフト3の長さは、107cm以上であることが好ましく、さらには110cm以上であることが好ましい。一方、シャフト3の長さが長すぎると、グリップ端における慣性モーメントが大きくなり、非力なゴルファーでは力負けし易くなる。このため、ヘッドスピードを速くすることができず、ボールの飛距離を延ばすことができない。したがって、シャフト3の長さは、118cm以下であることが好ましく、さらには116cm以下であることが好ましい。
【0031】
また、シャフト3の重心位置自体は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、例えば46インチ長さのシャフトでは当該シャフト3のチップ端3a(先端)から600〜750mmの範囲内である。シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から600mm未満であると、重心の位置が手元方向に十分に移動しているとはいえないので、クラブの振り易さは向上されず、ヘッドスピードのアップにつながらない可能性が高い。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から615mm以上であることが好ましく、さらには630mm以上であることが好ましい。一方、シャフト3の重心Gの位置が当該シャフト3の先端から750mmを超えると、シャフト先端側の肉厚が薄くなってしまい、曲げ強度などの強度が不足する可能性が高い。したがって、シャフト3の重心位置は、当該シャフト3の先端から730mm以下であることが好ましく、さらには710mm以下であることが好ましい。
【0032】
本発明では、シャフト3の先端からシャフト重心Gまでの距離をL
Gとし、シャフト3の全長をL
Sとしたときに、0.54≦L
G/L
S≦0.65としている。
【0033】
L
G/L
Sが0.54未満の場合、シャフトの重心がシャフトの先端側に近くなるので、従来と同程度のスイングバランスにするためには、ヘッドの重量を小さくしなければならず、ヘッド設計の自由度が狭くなる。つまり、ヘッドの慣性モーメントを縮小させることになり、また、低重心化技術を導入することができなくなる。したがって、ボールの高飛距離化を達成することが困難になる。したがって、L
G/L
Sは0.55以上であることが好ましく、さらには0.56以上であることが好ましい。
【0034】
一方、L
G/L
Sが0.65を超える場合、シャフトの手元側の重量を大きくすることになり、同一シャフト重量とした場合に、シャフト先端側の重量が小さくなり、その結果、シャフト先端側の強度が弱くなる惧れがある。また、シャフト先端側の強度低下を防ぎつつ前記比を0.65よりも大きくすることは、シャフトの先端側の重量を維持しつつ手元側重量を大きくすることを意味し、この場合は、クラブの全重量が大きくなりすぎて、クラブが振りにくくなる。したがって、L
G/L
Sは0.64以下であることが好ましく、さらには0.63以下であることが好ましい。
【0035】
また、本発明では、シャフトのトルク値を6.5以下にしている。トルク値が6.5よりも大きくなると、スイートスポットから離れたオフセンターショット時にヘッドがボールに負け易くなるため、打球のバラツキが大きくなる。したがって、トルク値は6.3以下であることが好ましく、さらには6.1以下であることが好ましい。
【0036】
一方、トルク値は3.0以上であることが好ましい。トルク値が3.0未満の場合、シャフトの捩れが小さくなることから、シャフトが硬く感じられ、ユーザーはスイングを難しく感じてしまう。したがって、トルク値は3.5以上であることが好ましく、さらには4.0以上であることが好ましい。
【0037】
所定の強度を維持しつつトルク値を小さく抑える方法の好適な一例として、例えばシャフトの先端部分、具体的にはシャフトのチップ端から300mmの範囲においてピッチ系繊維からなるプリプレグとPAN系繊維からなるプリプレグとを組み合わせて用いる方法をあげることができる。PAN系繊維は高い強度を有しているが、耐衝撃性がピッチ系繊維に比べて劣っている。そこで、PAN系繊維とピッチ系繊維を複合させることで、肉厚を薄くしても、所定の強度と耐衝撃性をシャフト先端部分にもたせることができる。なお、本明細書において、シャフトの「先端部」ないし「先端部分」とは、シャフトのチップ端から300mmまでの部分をいい、シャフトの「後端部」ないし「後端部分」とは、シャフトのバット端から300mmまでの部分をいい、シャフトの「中央部」ないし「中央部分」とは、残りの部分、すなわちシャフトにおいて、その「先端部」及び「後端部」以外の部分をいう。
【0038】
シャフトの先端部分に使用されるプリプレグの質量割合は、PAN系繊維とピッチ系繊維が複合されているという条件下で種々選択することができるが、ピッチ系繊維が15〜25質量%であり、PAN系繊維が75〜85質量%であることが好ましい。ピッチ系繊維の割合が15質量%未満の場合、当該ピッチ系繊維は衝撃吸収力が優れていることから、その構成比が減ると衝撃強度が低下してしまう。したがって、ピッチ系繊維の割合は16質量%以上であることが好ましく、さらには17質量%以上であることが好ましい。一方、ピッチ系繊維の割合が25質量%を超える場合、当該ピッチ系繊維はPAN系繊維に比べて繊維方向の曲げ強度が低く、曲げ強度が低下する。したがって、ピッチ系繊維の割合は、24質量%以下であることが好ましく、さらには23質量%以下であることが好ましい。
【0039】
また、PAN系繊維の割合が75質量%未満の場合、当該PAN系繊維はピッチ系繊維に比べて繊維方向の曲げ強度が高いことから、その構成比が減少することでシャフトの曲げ強度が低下する。したがって、PAN系繊維の割合は、76質量%以上であることが好ましく、さらには77質量%以上であることが好ましい。一方、PAN系繊維の割合が85質量%を超えると、衝撃強度が低下する。したがって、PAN系繊維の割合は、84質量%以下であることが好ましく、さらには83質量%以下であることが好ましい。
【0040】
また、PAN系繊維のプリプレグは、0°層を50質量%以上とし、45°層を15質量%以上とすることが好ましい。45°層は、他の0°層や90°層に比べてトルクの調整が容易であるという特質を有している。PAN系繊維のプリプレグの0°層が50質量%未満であると、当該0°層は角度が付いているものに比べて繊維方向の曲げ強度が大きいことから、当該0°層の割合が減少することで曲げ強度が低下する。したがって、PAN系繊維のプリプレグの0°層は、51質量%以上であることが好ましく、さらには52質量%以上であることが好ましい。一方、PAN系繊維のプリプレグの0°層が80質量%を超えると、0°層が多いほど曲げ剛性が高くなることから、シャフトの曲げ剛性が高くなりすぎる。したがって、PAN系繊維のプリプレグの0°層は、79質量%以下であることが好ましく、さらには78質量%以下であることが好ましい。
【0041】
また、PAN系繊維のプリプレグの45°層が15質量%未満の場合、45°層が少ないとねじり剛性やねじり強度が低くなり、トルク値が大きくなる。したがって、PAN系繊維のプリプレグの45°層は、18質量%以上であることが好ましく、さらには21質量%以上であることが好ましい。一方、PAN系繊維のプリプレグの45°層が30質量%を超えると、トルク値が小さくなりすぎ、打球時のフィーリングが悪くなる。したがって、PAN系繊維のプリプレグの45°層は、27質量%以下であることが好ましく、さらには24質量%以下であることが好ましい。
【0042】
また、シャフトの先端部を部分的に低トルク化する方法以外に、それ以外の部分での低トルク化を図ることにより、シャフト全体の低トルク化を実現することができ、これにより、打球のバラツキを抑えることができる。具体的に、例えばシャフトの先端部、中央部及び後端部において45°層(バイアス層)が含まれる割合を先端部<中央部≦後端部とし、中央部及び後端部における45°層の割合を先端部における割合よりも大きくすることで、シャフト全体の低トルク化を実現することができる。この場合、先端部、中央部及び後端部における45°層の割合は、例えばそれぞれ20〜35質量%、30〜45質量%及び30〜45質量%とすることができる。具体的には、シャフトの先端部、中央部及び後端部において45°層が含まれる割合を、それぞれ例えば25質量%、35質量%及び40質量%とすることができる。
【0043】
シャフトの後端部について、バット側重心にするとフレックスは調整することができても、肉厚が大きくなるため、どうしてもEIが大きくなり易い。このため、手元が固く感じ易くなり、フィーリングが悪くなる。そこで、後端部のフレックスは柔らかくしつつも、バイアス層の割合を増やすことで、全体のトルクを抑えて打球の方向性を良くすることができる。
【0044】
シャフト3は、プリプレグシートを硬化させて作製することができ、このプリプレグシートでは、繊維は実質的に一方向に配向されている。このように繊維が実質的に一方向に配向されたプリプレグは、UD(ユニディレクション)プリプレグとも称されている。なお、本発明では、UDプリプレグ以外のプリプレグを用いることもでき、例えば、シートに含まれる繊維が編まれているプリプレグシートを用いることもできる。
【0045】
プリプレグシートは、熱硬化性樹脂などからなるマトリクス樹脂と、炭素繊維などの繊維とを有している。前述したように、シャフト3は、シートワインディング製法により作製することができるが、プリプレグの状態において前記マトリクス樹脂は、半硬化状態にある。シャフト3は、かかるプリプレグを巻回して硬化させたものである。プリプレグの硬化は加熱により行なわれ、シャフト3の製造工程には、加熱工程が含まれる。この加熱工程により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。
【0046】
プリプレグシートのマトリクス樹脂も、本発明において特に限定されるものではないが、例えばエポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂を用いることができる。シャフトの強度を高めるという点より、エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
プリプレグとしては、市販されているものを適宜用いることができるが、以下の表1は、本発明のゴルフクラブのシャフトに用いることができるプリプレグの例を示している。
【0048】
図2は、シャフト3を構成するプリプレグシートの展開図(シート構成図)である。シャフト3は、複数枚のシートにより構成されており、
図2に示される実施の形態では、シャフト3は、a1からa11までの12枚のシートにより構成されている。
図2に示される展開図は、シャフトを構成するシートを、当該シャフトの半径方向内側から順に示している。展開図において、上側に位置しているシートから順に巻回される。また、
図2に示される展開図において、図面の左右方向はシャフト軸方向と一致し、図面の右側はシャフト3のチップ端3a側であり、図面の左側はシャフト3のバット端3b側である。
【0049】
なお、本明細書では、「層」という文言と、「シート」という文言が用いられている。「シート」は、巻回される前における称呼であり、「層」は、かかるシートが巻回された後における称呼である。「層」は「シート」が巻回されることにより形成される。また、本明細書では、層とシートとで同じ符号が用いられている。例えば、シートa1を巻回することによって形成された層は、層a1とされる。
【0050】
また、シャフト軸方向に対する繊維の角度に関し、本明細書では、角度Af及び絶対角度θaが用いられる。角度Afは、プラス又はマイナスを伴う角度であり、絶対角度θaは、角度Afの絶対値である。絶対角度θaとは、シャフト軸方向と繊維方向とのなす角度の絶対値である。例えば、「絶対角度θaが10°以下」とは、「角度Afが−10°以上+10°以下」であることを意味する。
【0051】
図2に示される展開図は、各シートの巻き付け順序だけでなく、各シートのシャフト軸方向における位置も示している。例えば、シートa1の端はチップ端3aに位置しており、シートa4、a4´及びシートa5の端はバット端3bに位置している。
【0052】
シャフト3は、ストレート層、バイアス層及びフープ層を有している。
図2に示される展開図では、プリプレグシートに含まれる繊維の配向角度が記載されており、「0°」と記載されているシートが、ストレート層を構成している。ストレート層用のシートは、本明細書においてストレートシートとも称される。また、バイアス層用のシートは、本明細書においてバイアスシートとも称される。
【0053】
ストレート層は、繊維の配向がシャフトの長手方向(シャフト軸方向)に対して実質的に0°とされた層である。ただし、巻き付け時の誤差などに起因して、繊維の方向はシャフト軸方向に対して完全に0°とはならない場合がある。通常、ストレート層では、前記絶対角度θaが10°以下である。
【0054】
図2に示される実施の形態において、ストレートシートは、シートa1、シートa5、シートa6、シートa7、シートa9、シートa10、及びシートa11である。ストレート層は、シャフトの曲げ剛性及び曲げ強度との相関が高い。
【0055】
バイアス層は、繊維の配向がシャフトの長手方向に対して傾斜した層である。かかるバイアス層は、シャフトの捩れ剛性及び捩れ強度との相関が高い。バイアス層は、繊維の配向が互いに逆方向に傾斜した2枚のシートペアから構成されていることが好ましい。バイアス層の絶対角度θaは、捩れ剛性の観点から、好ましくは15°以上であり、より好ましくは25°以上であり、更に好ましくは40°以上である。一方、捩れ剛性及び捩れ強度の観点より、バイアス層の絶対角度θaは、好ましくは60°以下であり、より好ましくは50°以下である。
【0056】
図2に示される実施の形態において、バイアスシートは、シートa2、シートa3、シートa4及びシートa4´である。
図2では、シート毎に前記角度Afが記載されている。角度Afにおけるプラス(+)及びマイナス(−)は、バイアスシートの繊維が互いに逆方向に傾斜していることを示している。なお、
図2に示される実施の形態では、シートa2が−45°であり、シートa3が+45°であるが、これとは逆に、シートa2が+45°であり、シートa3が−45°であってもよい。
【0057】
図2に示される実施の形態において、フープ層を構成するシートは、シートa8である。フープ層における前記絶対角度θaは、シャフト軸方向に対して実質的に90°とされることが好ましい。ただし、巻き付け時の誤差などに起因して、繊維の方向はシャフト軸方向に対して完全に90°とはならない場合がある。通常、フープ層では、前記絶対角度θaが80°以上90°以下である。
【0058】
フープ層は、シャフトのつぶし剛性及びつぶし強度を高めるのに寄与する。つぶし剛性とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する剛性である。つぶし強度とは、シャフトをその半径方向内側に向かって押し潰す力に対する強度である。かかるつぶし強度は、曲げ強度とも関連しうる。また、曲げ変形に連動してつぶし変形が生じうる。特に肉厚の薄い軽量シャフトにおいては、この連動性が大きい。つぶし強度を向上させることで、曲げ強度を向上させることができる。
【0059】
図示していないが、使用される前のプリプレグシートは、カバーシートにより挟まれている。通常、カバーシートは、離型紙及び樹脂フィルムからなっており、プリプレグシートの一方の面に離型紙が貼着されており、他方の面に樹脂フィルムが貼着されている。以下の説明において、離型紙が貼着されている側の面を「離型紙側の面」、樹脂フィルムが貼着されている側の面を「フィルム側の面」とも称する。
【0060】
本明細書における展開図は、フィルム側の面が表側とされた図である。すなわち、本明細書における展開図において、図面の表側がフィルム側の面であり、図面の裏側が離型紙側の面である。
図2に示される展開図では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは同じであるが、後述する貼り合わせの際にシートa3が裏返される。その結果、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向とは互いに逆方向となり、従って、巻回された後の状態では、シートa2の繊維方向とシートa3の繊維方向は互いに逆方向となる。この点を考慮して、
図2では、シートa2の繊維方向は「−45°」と表記され、シートa3の繊維方向は「+45°」と表記されている。
【0061】
前述したプリプレグシートを巻回するには、まず、樹脂フィルムが剥がされる。樹脂フィルムが剥がされることにより、フィルム側の面が露出する。この露出面は、マトリクス樹脂に起因するタック性(粘着性)を有している。巻回時におけるプリプレグのマトリクス樹脂が半硬化状態であるため、粘着性を発現する。次に、露出したフィルム側の面の縁部(巻き始め縁部)を、巻回対象物に貼り付ける。マトリクス樹脂の有する粘着性により、この巻き始め縁部の貼り付けを円滑に行なうことができる。巻回対象物とは、マンドレル、又はマンドレルに他のプリプレグシートが巻き付けられた巻回物である。
【0062】
ついで、プリプレグシートの離型紙が剥がされる。その後、巻回対象物が回転されて、プリプレグシートが当該巻回対象物に巻き付けられる。このように、まず樹脂フィルムが剥がされ、ついで巻き始め縁部が巻回対象物に貼り付けられ、その後離型紙が剥がされる。かかる手順により、プリプレグシートの皺や巻き付け不良の発生を抑制することができる。離型紙は、樹脂フィルムと比べて曲げ剛性が高く、このような離型紙が貼り付けられた状態のシートは、当該離型紙に支持されているため、皺になりにくい。
【0063】
図2に示される実施の形態では、2枚以上のシートを貼り合わせることにより形成される合体シートが採用されている。
図2に示される実施の形態では、
図3〜4に示される三つの合体シートが採用されている。
図3の(a)は、シートa2及びシートa3を貼り合わせることにより形成される第1の合体シートa23を示しており、
図3の(b)は、シートa4及びシートa4´を貼り合わせることにより形成される第2の合体シートa44´を示している。また、
図4は、シートa8及びシートa9を貼り合わせることにより形成される第3の合体シートa89を示している。
【0064】
第1の合体シートa23を作製する手順は以下の通りである。まず、バイアスシートa3を裏返し、この裏返したバイアスシートa3をバイアスシートa2に貼り合わされる。その際、
図3の(a)に示されるように、バイアスシートa3のバット端及びチップ端を、それぞれバイアスシートa2の長辺からずらした状態で貼り合わされる。
【0065】
これにより、合体シートa23のシートa2とシートa3とは、巻回後のシャフトにおいて約半周分ズレるようになっている。
第2の合体シートa44´も第1の合体シートa23と同様にして作製され、合体シートa44´のシートa4とシートa4´とは、巻回後のシャフトにおいて約半周分ズレるようになっている。
【0066】
図4に示されるように、第3の合体シートa89において、シートa8の上端とシートa9の上端とが一致している。また、シートa89において、シートa8は、そのバット側端縁をシートa9のバット側端縁からずれた状態で、その全体がシートa9に貼着されている。その結果、巻回工程において、シートa8の巻回不良が抑制される。
【0067】
前述したように、本明細書では、プリプレグ中の繊維の配向角度によって、シート及び層を分類しているが、更に、シャフト軸方向の長さによって、シート及び層を分類することができる。
【0068】
本明細書では、シャフト軸方向の全体に亘り配置される層が、全長層と称され、また、シャフト軸方向の全体に亘り配置されるシートが、全長シートと称される。一方、本明細書では、シャフト軸方向において部分的に配置される層が、部分層と称され、シャフト軸方向において部分的に配置されるシートが、部分シートと称される。
【0069】
本明細書では、ストレート層である全長層が全長ストレート層と称される。
図2に示される実施の形態では、シートa6及びシートa9が、巻回後において全長ストレート層を構成する。
【0070】
また、本明細書では、ストレート層である部分層が部分ストレート層と称される。
図2に示される実施の形態では、シートa1、シートa5、シートa7、シートa10及びシートa11が、巻回後において部分ストレート層を構成する。
【0071】
部分層を構成するシートであるシートa7は、巻回後において、シャフト軸方向全体の中間に位置する中間部分層を構成する。すなわち、中間部分層の先端はチップ端3aから離れており、中間部分層の後端はバット端3bから離れている。好ましくは、中間部分層は、シャフト軸方向中央位置Scを含む位置に配置される。また、好ましくは、中間部分層は、三点曲げ強度の測定方法(SG式三点曲げ強度試験の測定方法)において定義されるB点(チップ端から525mmの地点)を含む位置に配置される。中間部分層は、変形が大きい部分を選択的に補強することができ、また、シャフトの軽量化に寄与することができる。
【0072】
本明細書では、バット部分層という文言が用いられている。バット部分層は、部分層の一態様であり、バット端3b側に位置する部分層である。
図2において、符号A1で示されているのは、バット部分層のチップ側の辺において最もバット側に位置する点である。好ましくは、点A1が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。
図2において、符号B1で示されているのは、バット部分層のチップ側の辺の中点である。好ましくは、点B1が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。バット部分層として、バットストレート層、バットフープ層及びバットバイアス層を挙げることができる。
【0073】
また、本明細書では、バットストレート層という文言が用いられている。バットストレート層は部分ストレート層の一態様であり、バット端3b側に位置する部分ストレート層である。好ましくは、バットストレート層の全体が、シャフト軸方向中央位置Scよりもバット側に位置する。バットストレート層の後端は、シャフトのバット端3bに位置していてもよいし、位置していなくてもよい。クラブ重心の位置をバット端3bに近づける観点より、好ましくは、バットストレート層の配置範囲が、シャフトのバット端3bから100mm離間した位置P1を含む。クラブ重心の位置をバット端3bに近づける観点より、より好ましくは、バットストレート層の後端は、シャフトのバット端3bに位置している。
図2に示される実施の形態において、バットストレート層は、シートa5である。
【0074】
図2に示されるプリプレグシートを用いたシートワインディング製法によりシャフト3が作製される。以下、かかるシャフト3の製造工程の概要を説明する。
【0075】
〔シャフト製造工程の概要〕
(1)裁断工程
裁断工程では、プリプレグシートが所定の形状に裁断され、
図2に示される各シートが切り出される。
【0076】
(2)貼り合わせ工程
貼り合わせ工程では、複数枚のシートが貼り合わされて、前述した合体シートa23、合体シートa44´及び合体シートa89が作製される。貼り合わせに際しては、加熱又はプレスを用いることができるが、後述する巻回工程における合体シートを構成するシート間のズレを抑制して巻き付け精度を向上させるという観点より、加熱及びプレスを併用することが好ましい。加熱温度及びプレス圧は、シート同士の接着力を高めるなどの観点より適宜選定すればよいが、通常、加熱温度は、30〜60°の範囲内であり、プレス圧は、300〜600g/cm
2の範囲内である。同様に、加熱時間及びプレス時間も、シート同士の接着力を高めるなどの観点より適宜選定すればよいが、通常、加熱時間は、20〜300秒の範囲内であり、プレスの時間は、20〜300秒の範囲内である。
【0077】
(3)巻回工程
巻回工程では、マンドレルが用いられる。典型的なマンドレルは金属製であり、このマンドレルの周面に離型剤が塗布される。更に、前記離型剤の上に粘着性を有する樹脂(タッキングレジン)が塗布される。こうして、樹脂を塗布したマンドレルに、裁断されたシートが巻回される。タッキングレジンによって、シート端部をマンドレルに容易に貼り付けることができる。複数枚のシートが貼り合わされたシートについては、合体シートの状態で巻回される。
【0078】
この巻回工程により、巻回体を得ることができる。巻回体は、マンドレルの外側にプリプレグシートが巻回されたものである。巻回は、例えば、平面上で巻回対象物を転がすことにより行なわれる。
【0079】
(4)テープラッピング工程
テープラッピング工程では、前記巻回体の外周面にラッピングテープと称されるテープが巻き付けられる。ラッピングテープは、張力を付与されつつ巻回体の外周面に巻き付けられる。かかるラッピングテープによって、巻回体に圧力が加えられ、当該巻回体におけるボイドを低減させる。
【0080】
(5)硬化工程
硬化工程では、テープラッピングがなされた後の巻回体が所定の温度に加熱される。この加熱により、プリプレグシートのマトリクス樹脂が硬化する。硬化の過程においてマトリクス樹脂が一時的に流動化するが、この流動化によって、シート間又はシート内の空気が排出される。ラッピングテープにより付与される圧力(締め付け力)により、この空気の排出が促進される。硬化工程によって、硬化積層体が得られる。
【0081】
(6)マンドレルの引抜工程及びラッピングテープの除去工程
硬化工程の後、マンドレルの引抜工程とラッピングテープの除去工程が行なわれる。両工程の順序は、本発明において特に限定されるものではないが、ラッピングテープ除去の能率を向上させる観点からは、マンドレルの引抜工程の後にラッピングテープの除去工程を行うことが好ましい。
【0082】
(7)両端カット工程
この両端カット工程では、前述した(1)〜(6)の各工程を経た硬化積層体の両端部がカットされる。このカッティングにより、シャフトのチップ端3aの端面及びバット端3bの端面が平坦にされる。
【0083】
(8)研磨工程
研磨工程では、両端部がカットされた硬化積層体の表面が研磨される。硬化積層体の表面には、前記工程(4)において用いたラッピングテープの跡として螺旋状の凹凸が残っている。研磨することにより、このラッピングテープの跡としての螺旋状の凹凸が消滅し、硬化積層体の表面が平滑になる。
【0084】
(9)塗装工程
研磨工程後の硬化積層体に所定の塗装が施される。
【0085】
以上の工程によりシャフト3を製造することができる。そして、製造されたシャフト3のチップ端3aをゴルフクラブヘッド2のホーゼル6のシャフト穴5内に固着し、当該シャフト3のバット端3bをグリップ4のグリップ穴7内に固着することで、ゴルフクラブ1を得ることができる。
【0086】
本発明の特徴の1つは、前述したゴルフクラブ1において、シャフト3の先端3aからシャフト重心までの距離をL
Gとし、シャフトの全長をL
Sとしたときに、0.54≦L
G/L
S≦0.65とし、シャフト3の重心Gを手元側に寄せたことである。
【0087】
クラブを振り易くするためには、クラブ重量を軽くすることが有効であるが、クラブを構成する要素のうちヘッドの重量は、ボールスピードのアップに影響を与えるファクターであるので、本発明では、このヘッド重量を小さくすることなくボールスピードを速くするアプローチを採用している。そして、シャフト重心位置をグリップ側に配置することで、クラブ慣性モーメントを小さくして、クラブを振り易くしている。
【0088】
シャフト3の重心位置を調整する手段としては、例えば、以下の(A)〜(H)を挙げることができる。本発明では、これらの手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフト3の重心位置を手元側に寄せることができる。
(A)バット部分層の巻回数の増減
(B)バット部分層の厚さの増減
(C)バット部分層の長さL1(後述)の増減
(D)バット部分層の長さL2(後述)の増減
(E)チップ部分層の巻回数の増減
(F)チップ部分層の厚さの増減
(G)チップ部分層の軸方向長さの増減
(H)シャフトのテーパー率の増減
【0089】
<バット部分層の重量比率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バット部分層の重量は、シャフト重量に対して、5重量%以上が好ましく、10重量%以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の重量は、シャフト重量に対して、50重量%以下が好ましく、45重量%以下がより好ましい。
図2に示される実施の形態において、シートa4及びシートa5の合計重量が、バット部分層の重量である。
【0090】
<特定バット範囲におけるバット部分層の重量比率>
図1において、P2で示されているのは、バット端3bから250mm離間した地点である。この地点P2からバット端3bまでの範囲が、「特定バット範囲」と定義される。この特定バット範囲に存在するバット部分層の重量をWaとし、当該特定バット範囲におけるシャフトの重量をWbとすると、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、比(Wa/Wb)は、0.4以上が好ましく、0.42以上がより好ましく、0.44以上が更に好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、比(Wa/Wb)は、0.7以下が好ましく、0.65以下がより好ましく、0.6以下が更に好ましい。
【0091】
<バット部分層の繊維弾性率>
バット部分層の強度確保の観点から、バット部分層の繊維弾性率は、5t/mm
2以上が好ましく、7t/mm
2以上がより好ましい。クラブ重心がバット端3bに近い場合、クラブ重心に作用する遠心力が低下しやすい。すなわち、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する場合、クラブ重心に作用する遠心力が低下しやすい。この場合、シャフトのしなりが感じられにくいことがあり、硬いフィーリングが生じやすい。かかる硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の繊維弾性率は、20t/mm
2以下が好ましく、15t/mm
2以下がより好ましく、10t/mm
2以下が更に好ましい。
【0092】
<バット部分層の樹脂含有率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置し、且つ、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の樹脂含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。一方、バット部分層の強度確保の観点から、バット部分層の樹脂含有率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0093】
<バットストレート層の重量>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バットストレート層の重量は、2g以上が好ましく、4g以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の重量は、30g以下が好ましく、20g以下がより好ましく、10g以下が更に好ましい。
【0094】
<バットストレート層の重量比率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、バットストレート層の重量は、シャフト重量Wsに対して、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の重量は、シャフト重量に対して、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
図3に示される実施の形態では、シートa4及びシートa5の合計重量が、バットストレート層の重量である。
【0095】
<バットストレート層の繊維弾性率>
バット部の強度確保の観点から、バットストレート層の繊維弾性率は、5t/mm
2以上が好ましく、7t/mm
2以上がより好ましい。一方、硬いフィーリングを抑制する観点から、バットストレート層の繊維弾性率は、20t/mm
2以下が好ましく、15t/mm
2以下がより好ましく、10t/mm
2以下が更に好ましい。
【0096】
<バットストレート層の樹脂含有率>
シャフトの重心位置をグリップ側に配置し、且つ、硬いフィーリングを抑制する観点から、バット部分層の樹脂含有率は、20質量%以上が好ましく、25質量%以上がより好ましい。一方、バット部の強度確保の観点から、バットストレート層の樹脂含有率は、50質量%以下が好ましく、45質量%以下がより好ましい。
【0097】
<バット部分層の軸方向最大長さL1>
図2においてL1で示されているのは、バット部分層の軸方向最大長さである。この最大長さL1は、バット部分シートのそれぞれにおいて定まる。
図2に示される実施の形態では、シートa4の長さL1と、シートa5の長さL1とは異なっている。
【0098】
バット部分層の重量を確保する観点から、長さL1は、100mm以上が好ましく、125mm以上がより好ましく、150mm以上が更に好ましい。一方、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、長さL1は、700mm以下が好ましく、650mm以下がより好ましく、600mm以下が更に好ましい。
【0099】
<バット部分層の軸方向最小長さL2>
図2においてL2で示されているのは、バット部分層の軸方向最小長さである。この最大長さL2は、バット部分シートのそれぞれにおいて定まる。
図2に示される実施の形態では、シートa4の長さL2と、シートa5の長さL2とは異なっている。
【0100】
バット部分層の重量を確保する観点から、長さL2は、50mm以上が好ましく、75mm以上がより好ましく、100mm以上が更に好ましい。一方、シャフトの重心位置をグリップ側に配置する観点から、長さL2は、650mm以下が好ましく、600mm以下がより好ましく、550mm以下が更に好ましい。
【0101】
〔実施例〕
次に、本発明のゴルフクラブを実施例に基づいて説明するが、本発明はもとよりかかる実施例にのみ限定されるものではない。
【0102】
実施例1〜19及び比較例1〜6に係るゴルフクラブが常法にしたがって作製され、これらの性能ないし特性が評価された。全てのゴルフクラブに実質的に同一形状のヘッドが採用され、このヘッドの体積は460ccであり、材質はチタン合金であった。所望のスペックが得られるように、ヘッド重量、グリップ重量、シャフト重量、シャフト長さなどが調整された。
【0103】
実施例及び比較例におけるシャフトは、
図2に示される展開図に基づいて作製された。製造方法は、前述したシャフト3と同様であり、前記(1)〜(9)の工程にしたがってシャフトが製造された。各シートa1〜a11において、巻回数、プリプレグの厚さ、プリプレグの繊維含有率、炭素繊維の引張弾性率などが適宜選択された。実施例及び比較例におけるシャフトに用いられたプリプレグの一例を表2に示す。シャフトの重心位置の調整には、前述した(A)〜(H)のうち1つ又は2つ以上が用いられた。
【0105】
実施例1〜5及び比較例1〜2に係るゴルフクラブの仕様及び評価を表3に示す。また、実施例2、6〜10及び比較例3〜4に係るゴルフクラブの仕様及び評価を表4に示す。さらに、実施例1〜5及び比較例1〜2に係るゴルフクラブの仕様及び評価を表3に示す。
【0109】
〔評価方法〕
<シャフトトルク>
図5は、シャフトのトルク値(°)の測定方法の説明図である。この方法では、シャフト3の先端部を治具M2により回転不能に固定するとともに、シャフトの後端部を治具M1で把持し、シャフト先端3aから865mmの位置に13.9kgf・cmのトルクTrを作用させる。そして、このトルク作用位置でのシャフトのねじれ角(°)がシャフトのトルク値とされる。トルクTrを負荷する際の治具M1の回転速度は130°/分以下とし、治具M1と治具M2との間の軸方向長さは825mmとする。また、治具M1又は治具M2の把持によってシャフトが変形する場合、シャフトの内部に芯材などを入れて測定を行うものとする。
【0110】
<フィーリング>
ヘッドスピードの平均が42m/sのゴルファーが5球打ったときに感じたフィーリングを以下の5段階で評価した。
5点 : 良い
4点 : やや良い
3点 : 普通
2点 : やや悪い
1点 : 悪い
【0111】
<シャフト先端強度(T点強度)>
シャフト先端強度(T点強度)は、SGマーク試験法に準じて測定した。SG式三点曲げ強度は、製品安全協会が定めるSG式の破壊強度である。
図6は、SG式三点曲げ強度の測定方法の説明図である。
図6に示されるように、2つの支持点t1、t2においてシャフト3を下方から支持しつつ、荷重点t3において上方から下方に向かって荷重Fを加える。荷重点t3の位置は、支持点t1と支持点t2とを二等分する位置である。この荷重点t3を、測定される点(T点)と一致させて測定が行なわれる。
【0112】
T点は、ヘッド側端部(チップ端)3aから90mmの点である。このT点が測定される場合、
図6における測定スパンは150mmとされる。したがって、支持点t1は、チップ端3aから15mmの点に位置することになる。そして、シャフト3が破損したときの荷重Fの値(ピーク値)が、SG式三点曲げ強度である。
【0113】
<先端部の衝撃エネルギー>
図7に示される落下衝撃試験機(株式会社米倉製作所製)を用い、シャフトのチップ端3aから150mmの位置に、1.5cmの高さから500gの錘を落下させ、そのときに発生した振動波形を振動計(昭和計測器株式会社製のチャージ振動計 モデル1607)で読み取った。振動波形は初期速度からのエネルギーの損失による速度低下分を補正し、荷重対変位関数を求めるとともに、エネルギー値を計算した。変位、速度及びエネルギーについては、次の式(1)〜(3)がそれぞれ成立する。
【0117】
以上の式(1)〜(3)を初期条件E(0)=0、V(0)=0、(0)=0で解き、2次式で離散化する。
【0121】
ついで、式(5)をV(n)
2で展開し、式(6)に代入して以下の式(7)を得る。
【0123】
式(4)、(5)及び(7)から、逐次、変位及びエネルギーを計算する。それにより得られる振動波形は
図7に示される通りである。衝撃エネルギーは、
図8において斜線で示される、最大荷重点までの面積で計算される。
【0124】
<ねじり強度>
シャフトのチップ端から35mmの部分をドリルチャックで掴んで固定し、チップ端から1060mmの位置に直径5mmの孔を穿設し、その孔にピンを差し込み、トルクモータによりトルクを付加した。徐々にトルクの値を大きくしていき、シャフトに破壊(亀裂)が生じたときの力をねじり強度とした。
【0125】
表3〜5に示される結果より、実施例に係るシャフトを用いたゴルフクラブでは、シャフトの強度(曲げ強度及びねじり強度)を確保しつつ、打球時のフィーリングを向上させ得ることが分かる。これに対し、例えば比較例1に係るゴルフクラブでは、L
G/L
Sが下限値である0.54未満であることから、シャフトの強度は確保されるが、打球時のフィーリングの評価が低かった。また、比較例2に係るゴルフクラブでは、L
G/L
Sが上限値である0.65を超えていることから、打球時のフィーリングの評価は高いが、シャフト先端の曲げ強度が低かった。また、比較例3〜6に係るゴルフクラブは、いずれもフィーリングの評価が低く、且つ、比較例4〜6に係るゴルフクラブでは、シャフトのねじり強度が低かった。
【0126】
〔その他の変形例〕
なお、今回開示された実施の形態はすべての点において単なる例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、前記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【0127】
例えば、前述した実施の形態では、ゴルフクラブのシャフトとして、
図2に示される展開図を有するものを採用しているが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば
図9に示される展開図を有するシャフトを用いることもできる。
図9に示される展開図を有するシャフトは、b1からb12までの13枚のシートにより構成されている。
図9に示される展開図においても、
図2と同様に、シャフトを構成するシートを当該シャフトの半径方向内側から順に示しており、展開図において上側に位置しているシートから順に巻回される。また、
図9に示される展開図において、図面の左右方向はシャフト軸方向と一致し、図面の右側はシャフト3のチップ端3a側であり、図面の左側はシャフト3のバット端3b側である。
【0128】
図9に示される変形例において、シートb1、シートb6、シートb7、シートb8、シートb10、シートb11及びシートb12がストレート層を構成するシートであり、シートb2、シートb3、シートb5及びシートb5´がバイアス層を構成するシートであり、さらにシートb4及びシートb9がフープ層を構成するシートである。これらのシートb1〜b12としては、例えば、表1に示した以下のプリプレグを用いることができる。
・シートb1 :TR350C−125S
・シートb2,b3 :HRX350C−075S
・シートb4 :805S−3
・ シートb5,b5´ :MR350C−125S
・ シートb6 :E1026A−09N
・シートb7,b8 :TR350C−100S
・シートb9 :805S−3
・シートb10 :MR350C−100S
・シートb11,b12 :TR350C−100S
【0129】
図9に示される変形例が、
図2に示されるものと大きく異なる点は、バイアス層を構成するシートb2、b3と、同じくバイアス層を構成するシートb5、b5´との間に部分フープ層を構成するシートb4が配設されていることである。
【0130】
図9に示される変形例においても、2枚以上のシートを貼り合わせることにより形成される合体シートが採用されている。
図9に示される変形例では、
図10〜11に示される二つの合体シートが採用されている。
図10は、シートb2、シートb3及びシートb4を貼り合わせることにより形成される第1の合体シートb234を示している。また、
図11は、シートb9及びシートb10を貼り合わせることにより形成される第2の合体シートb910を示している。
【0131】
第1の合体シートb234を作製する手順は以下の通りである。まず、2枚のシート(バイアスシートb3及びフープシートb4)が貼り合わされた予備合体シートb34が作製される。予備合体シートb34を作製する際には、バイアスシートb3が裏返されつつ、フープシートb4に貼り合わされる。予備合体シートb34では、シートb4の上端とシートb3の上端とが一致している。ついで、予備合体シートb34と、バイアスシートb2とが貼り合わされる。予備合体シートb34とバイアスシートb2とは、互いに半周分ずれた状態で貼り合わされる。
【0132】
合体シートb234において、シートb2とシートb3とは、半周分ずれている。すなわち、巻回後のシャフトにおいて、シートb2の周方向位置とシートb3の周方向位置とは、相違している。この相違角度は、好ましくは、180°(±15°)である。
【0133】
合体シートb234が用いられる結果、バイアス層b2とバイアス層b3とは、周方向において互いにズレている。このズレにより、バイアス層の端の位置が周方向に分散される。これにより、シャフトの周方向における均一性を向上させることができる。また、本変形例における合体シートb234では、フープシートb4の全体が、バイアスシートb2とバイアスシートb3との間に挟まれている。これにより、巻回工程におけるフープシートb4の巻回不良を抑制することができる。合体シートb234を使用することで巻回の精度を向上させることができる。なお、巻回不良とは、繊維の乱れ、皺の発生、繊維角度のズレなどを意味する。
【0134】
また、
図11に示されるように、第2の合体シートb910において、シートb9の上端とシートb10の上端とが一致している。また、シートb910において、シートb9の全体がシートb10に貼着されている。その結果、巻回工程において、シートb9の巻回不良が抑制される。
【0135】
本変形例においても、前述した(A)〜(H)の手段のうち1つ又は2つ以上を適宜採用することによって、シャフトの重心位置を調整して手元側に寄せることができる。