特許第5961415号(P5961415)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961415
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ベーンリング及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F04C 2/344 20060101AFI20160719BHJP
   F04C 15/00 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   F04C2/344 341B
   F04C15/00 K
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-73925(P2012-73925)
(22)【出願日】2012年3月28日
(65)【公開番号】特開2013-204497(P2013-204497A)
(43)【公開日】2013年10月7日
【審査請求日】2014年11月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000929
【氏名又は名称】KYB株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075513
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 政喜
(74)【代理人】
【識別番号】100120260
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅昭
(74)【代理人】
【識別番号】100137604
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 淳
(72)【発明者】
【氏名】赤塚 浩一朗
(72)【発明者】
【氏名】藤田 朋之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 雅道
(72)【発明者】
【氏名】加藤 史恭
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭63−125187(JP,U)
【文献】 実開昭60−155788(JP,U)
【文献】 特開2011−064135(JP,A)
【文献】 特開2001−241390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04C 2/344
F04C 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベーンポンプのベーンの後端部を支持するベーンリングの製造方法であって、
棒状部材の両端部をステップ状に屈曲した形状に成型する工程と、
前記棒状部材をリング状に成型する工程と、
前記棒状部材の前記両端部を隣接させて、前記ベーンリングの一端側から他端側にかけてステップ状に屈曲し前記ベーンの厚みより小さい隙間を有する合口部を形成する工程と、
を含むことを特徴とするベーンリングの製造方法。
【請求項2】
ベーンポンプのベーンの後端部を支持するベーンリングの製造方法であって、
棒状部材の両端部を曲面形状に成型する工程と、
前記棒状部材をリング状に成型する工程と、
前記棒状部材の前記両端部の各曲面の頂部同士を隣接させて、前記ベーンの厚みより小さい隙間を有する合口部を形成する工程と、
を含むことを特徴とするベーンリングの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーンポンプに用いられるベーンリング及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
油圧機器の油圧供給源としてベーンポンプが知られている。特許文献1には、ロータに対して径方向に往復動自在に設けられる複数のベーンと、ロータの回転に伴って内周のカム面にベーンの先端部が摺接するカムリングと、ベーンの後端部を支持する円形のベーンリングと、を備えるベーンポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−209812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなベーンポンプに用いられるベーンリングは、板材からプレス成型や切削加工などによって製造されるので、ベーンリングの加工コストが高くなる。
【0005】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであり、ベーンリングの加工コストを低下させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、ベーンポンプのベーンの後端部を支持するベーンリングの製造方法であって、棒状部材の両端部をステップ状に屈曲した形状に成型する工程と、棒状部材をリング状に成型する工程と、棒状部材の両端部を隣接させて、ベーンリングの一端側から他端側にかけてステップ状に屈曲しベーンの厚みより小さい隙間を有する合口部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。また、本発明は、ベーンポンプのベーンの後端部を支持するベーンリングの製造方法であって、棒状部材の両端部を曲面形状に成型する工程と、棒状部材をリング状に成型する工程と、棒状部材の両端部の各曲面の頂部同士を隣接させて、ベーンの厚みより小さい隙間を有する合口部を形成する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、棒状部材をリング状に成型してベーンリングが製造されるので、ベーンリングの加工コストを低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態におけるベーンリングを備えるベーンポンプのポンプカートリッジの断面を示す断面図である。
図2A図1のA−A断面を示す断面図である。
図2B図1のB−B断面を示す断面図である。
図3】比較例におけるベーンリングの製造方法について説明した図である。
図4】本実施形態におけるベーンリングの製造方法について説明した図である。
図5】棒状部材の一例を示した図である。
図6】本実施形態におけるベーンリングの一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。
【0010】
図1は、本実施形態におけるベーンリング20を備えるベーンポンプのポンプカートリッジ100の断面を示す断面図である。図2Aは、図1のA−A断面を示す断面図である。図2Bは、図1のB−B断面を示す断面図である。
【0011】
本実施形態では、可変容量型ベーンポンプのポンプカートリッジ100を例に挙げて説明するが、固定容量型ベーンポンプであっても同様に本実施形態が適用可能である。
【0012】
ポンプカートリッジ100は、駆動軸1と、駆動軸1の外周にスプライン結合されるロータ2と、ロータ2の外周に所定の間隔で放射状に設けられる複数のベーン溝3と、ロータ2に対して径方向に往復動自在にベーン溝3内に設けられる複数のベーン4と、内部に配置されるロータ2の回転に伴って内周のカム面5aにベーン4の先端部4aが摺接すると共に、ロータ2の中心に対して偏心可能なカムリング5と、カムリング5を取り囲むように設けられる環状のアダプタリング6と、を備える。
【0013】
ポンプカートリッジ100はさらに、ロータ2の軸方向一端に開口する環状のベーンリング溝7と、ベーンリング溝7内に収納される環状のベーンリング20と、を備える(図2A図2B)。
【0014】
ベーンリング20は、ベーン4の後端部4bに当接してベーン4を径方向に支持する。ベーンリング20の外径はベーンリング溝7の外周の径より小さく、ベーンリング20の内径はベーンリング溝7の内周の径より大きい。また、ベーンリング20の厚みは、ベーンリング溝7の深さ(ロータ2の軸方向深さ)より小さい。つまり、ベーンリング20は、ベーンリング溝7内で遊びを持って偏心しながら回転可能である。
【0015】
なお、ベーンリング20は、ベーン4の後端部4bを支持しておくことでポンプカートリッジ100の始動時の応答性を向上させるものである。よって、始動後はベーン4の後端部4bを支持する必要がないので、カムリング5の偏心に応じて偏心はするがほとんど回転しない。
【0016】
ポンプカートリッジ100はさらに、アダプタリング6の内周に設けられカムリング5の外周を支持する支持ピン8と、アダプタリング6の内周であって支持ピン8と軸対称の位置に設けられる溝9と、溝9内に設けられカムリング5の外周面に摺接するシール材10と、溝9内にシール材10によって圧縮状態で装着される弾性部材11と、を備える。
【0017】
これにより、カムリング5外周の収容空間であるカムリング5の外周面とアダプタリング6の内周面との間には、支持ピン8とシール材10とによって第1流体室12と第2流体室13とが区画される。
【0018】
第1流体室12及び第2流体室13には、図示しない圧力制御バルブによって作動油が給排され、作動油の圧力差が生じるとカムリング5が支持ピン8を支点に揺動する。これにより、ロータ2に対するカムリング5の偏心量が変化してロータ1回転当たりのポンプ押しのけ容積が変化する。
【0019】
カムリング5の偏心量が変化すると、ベーンリング20もベーン4の後端部4bに押されるようにしてベーンリング溝7内で偏心する。
【0020】
ここで、図3を参照しながら比較例におけるベーンリング51の製造方法について説明する。
【0021】
ベーンリング51は、板材52からプレス成型や切削加工などによって製造される。したがって、ベーンリング51の加工コストが上昇する。さらに、加工時にバリが生じるので、このバリがポンプカートリッジの使用時に作動油内に混入してコンタミとなり、油圧回路の詰まりや摺動部分のスティックなどの原因となる可能性がある。
【0022】
そこで、本実施形態では、ベーンリング51を以下のように製造する。
【0023】
図4は、本実施形態におけるベーンリング20の製造方法について示した図である。
【0024】
初めに、棒状部材21を丸めてリング状に成型する。
【0025】
棒状部材21は、断面形状が円形の丸棒である。丸棒は、入手容易性が高いのでコストを抑制することができる。さらに丸棒は、側面に角がないのでコンタミの発生を抑制することができる。
【0026】
なお、丸棒に代えて、図5に示すように、断面形状が四角形、六角形、半円形などの棒状部材を用いてもよい。
【0027】
また、棒状部材21の成型後の形状は、円形に限らず楕円形等であってもよく、ポンプカートリッジ100やカムリング5の形状に合わせた適切な形状であればよい。
【0028】
次に、図4に示すように、棒状部材21の両端部21a、21bを隣接させて合口部22を形成する。これにより、棒状部材21からリング状のベーンリング20が製造される。
【0029】
合口部22は、所定の隙間を有する。所定の隙間は、図1に示されるベーン4の厚みより小さくなるように設定される。これにより、ベーン4がベーンリング20の隙間から落ち込むことを防止することができる。なお、隙間は必ずしもゼロより大きくする必要はなく、隙間がゼロとなるように棒状部材21の両端部を当接させてもよい。
【0030】
図4では、合口部22の隙間の形状を、ベーンリング20の径方向に平行な隙間とした場合を示している。棒状部材21の両端部21a、21bを所望の長さにカットした切断面は、棒状部材21の長手方向と垂直な面を有するので、当該垂直な切断面同士を対向させて合口部22を形成することで、より簡易に合口部22を形成することができる。
【0031】
本実施形態では、棒状部材21をリング状に成型する工程と、合口部22を形成する工程とを、別々に説明しているが、実際にベーンリング20を製造する際には、棒状部材21からベーンリング20となるまでを一動作で行ってもよい。
【0032】
一方、合口部22の隙間の形状は、図6に示すように、図4とは異なる形状であってもよい。
【0033】
例えば、棒状部材21の両端部をカットする際に、切断面が棒状部材21の長手方向と垂直な面から傾斜した面となるようにカットすることで、ベーンリング20の内周側から外周側にかけて周方向にずれた斜めの隙間を有する合口部23が形成される(図6の上段左側)。
【0034】
この場合、ベーン4の落ち込み方向(ベーンリング20の径方向)から見た場合、ベーン4の落ち込み方向に対して合口部23の隙間が傾斜しているので、ベーン4が落ちかけてもベーンリング20を抜けてさらに落ち込むことを防止することができる。
【0035】
さらに、切断面が棒状部材21の長手方向と垂直な面から傾斜した面となるようにカットした棒状部材21を、長手方向を軸として90度回転させてからリング状に成型すると、ベーンリング20の一端側から他端側にかけて軸方向にずれた斜めの隙間を有する合口部24が形成される(図6の上段中央)。
【0036】
この場合、ベーン4の後端部4bと合口部24の隙間とのなす角度がゼロより大きくなるので、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0037】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bをカットする際に、切断面をステップ状に屈曲した形状となるようにカットすることで、ベーンリング20の一端側から他端側にかけてステップ状に屈曲した隙間を有する合口部25が形成される(図6の上段右側)。
【0038】
この場合、合口部25の隙間が平面ではなく屈曲した面となるので、ベーン4の落ち込みをより確実に防止することができる。
【0039】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bを互いにオーバーラップさせて合口部26を形成してもよい(図6の下段左側)。この場合、ベーン4の落ち込み方向から見た場合、隙間がベーン4の後端部4bに対して垂直方向となるので、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0040】
さらに、棒状部材21を丸めてリング状に成型する前に、棒状部材21の両端部21a、21bの切断面をそれぞれ曲面となるように成型してもよい。これにより、棒状部材21の両端部21a、21bの曲面の頂部同士が隣接した合口部27が形成される(図6の下段中央)。
【0041】
この場合、ベーン4が合口部27の隙間に落ち込みかけても、両端部21a、21bの頂部同士が隣接する部分によってベーン4が落ち込むことを防止できる。さらに、両端部21a、21bが曲面であるので、落ち込みかけたベーン4が元の位置に戻りやすくなる。よって、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0042】
さらに、棒状部材21を丸めてリング状に成型する前に、棒状部材21の両端部21a、21bを、それぞれベーンリング20とした場合に内側となる方向へ向けて湾曲させてもよい。これにより、棒状部材21の両端部21a、21bの湾曲部同士が隣接した合口部28が形成される(図6の下段右側)。
【0043】
この場合、ベーン4が合口部28の隙間に落ち込みかけても、両端部21a、21bの湾曲部同士が隣接する部分によってベーン4がさらに落ち込むことを防止できる。さらに、両端部21a、21bが湾曲しているので、落ち込みかけたベーン4が元の位置に戻りやすくなる。よって、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0044】
以上の実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0045】
棒状部材21をリング状に成型してベーンリング20を製造することができるので、ベーンリング20の加工コストを低下させることができる。
【0046】
さらに、板材52からプレス成型や切削加工などによってベーンリング51を製造する場合と比較してバリの発生を抑えることができるので、このバリがベーンポンプの使用時にコンタミとなって油圧回路の詰まりや摺動部分のスティックなどを引き起こすことを防止することができる。
【0047】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bを所望の長さにカットした切断面を、棒状部材21の長手方向と垂直な面として、当該垂直な切断面同士を対向させて合口部22を形成するので、棒状部材21の両端部21a、21bの加工を必要とせず、より簡易に合口部22を形成することができる。
【0048】
さらに、ベーンリング20の内周側から外周側にかけて周方向にずれた斜めの隙間を有する合口部23を形成した場合には、ベーン4の落ち込み方向に対して合口部23の隙間が傾斜しているので、仮にベーン4が落ちかけてもベーンリング20を抜けてさらに落ち込むことを防止することができる。よって、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0049】
さらに、ベーンリング20の一端側から他端側にかけて軸方向にずれた斜めの隙間を有する合口部24を形成した場合には、ベーン4の後端部4bと合口部24の隙間とのなす角度がゼロより大きくなるので、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0050】
さらに、ベーンリング20の一端側から他端側にかけてステップ状に屈曲した隙間を有する合口部25を形成した場合には、合口部25の隙間が平面ではなく屈曲した面となるので、ベーン4の落ち込みをより確実に防止することができる。
【0051】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bを互いにオーバーラップさせて合口部26を形成した場合には、ベーン4の落ち込み方向から見た場合、隙間がベーン4の後端部4bに対して垂直方向であるので、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0052】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bの曲面の頂部同士が隣接した合口部27を形成した場合には、ベーン4が合口部27の隙間に落ち込みかけても、両端部21a、21bの頂部同士が隣接する部分によってベーン4がさらに落ち込むことを防止することができる。さらに、両端部21a、21bが曲面であるので、落ち込みかけたベーン4が元の位置に戻りやすくなる。よって、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0053】
さらに、棒状部材21の両端部21a、21bの湾曲部同士が隣接した合口部28を形成した場合には、ベーン4が合口部28の隙間に落ち込みかけても両端部21a、21bの湾曲部同士が隣接する部分によってベーン4がさらに落ち込むことを防止することができる。さらに、両端部21a、21bが湾曲しているので、落ち込みかけたベーン4が元の位置に戻りやすくなる。よって、より確実にベーン4の落ち込みを防止することができる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一つを示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0055】
21a、21b 棒状部材の両端部
4 ベーン
4b 後端部
20 ベーンリング
21 棒状部材
22〜28 合口部
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6