(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ乳酸、及びポリイミドからなる群から選択される1種又は2種以上の樹脂材料である請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
前記シランカップリング剤は、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、メタクリルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシラン、ウレイドトリメトキシシラン、メルカプトトリメトキシシラン、イソシアネートトリメトキシシラン、又はアクリルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種である請求項9又は10に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、熱硬化性樹脂に限らず、熱可塑性樹脂に対しても耐熱性の付与などを実現したいとの要求がある。その際にシリカ粒子材料を混合することにより耐熱性を向上させることが考えられる。
【0010】
その時に混合するシリカ粒子材料としては分散媒に分散した分散液の状態で熱可塑性樹脂中に混合することは困難である。熱可塑性樹脂は、硬化前は低分子化合物であり低分子状態の熱硬化性樹脂前駆体で取り扱われる熱硬化性樹脂とは異なり、高分子化合物の状態で加熱溶融されて取り扱われるものであり、熱可塑性樹脂中に混合された分散媒は容易に取り除くことができない。
【0011】
そのために熱可塑性樹脂中に粒径の小さなシリカ粒子材料を分散した熱可塑性樹脂組成物を簡単に製造することは困難であった。
【0012】
更には混合したシリカ粒子材料は高い温度に加熱すると、水分を放出して樹脂の劣化の原因になることを本願発明者らは発見した。
【0013】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、熱可塑性樹脂中へのシリカ粒子材料の分散が簡単にでき且つ熱劣化が少ない熱可塑性樹脂組成物を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため本発明者らが鋭意検討を行った結果、粒径が小さなシリカ粒子材料であっても所定の表面処理後、分散液の状態で所定のろ紙を透過できるように調製したものについては乾燥状態でも高い流動性をもつことが分かった。特に湿式法により製造したシリカ粒子材料は熱可塑性樹脂組成物中への分散性に優れていた。
【0015】
しかしながら、湿式法により製造されたシリカ粒子材料を採用した熱可塑性樹脂組成物は耐熱性が充分で無い物もあった。例えば、200℃程度に加熱した場合であっても樹脂劣化が進行する場合があった。
【0016】
耐熱性が充分でない場合について検討を行った結果、加熱による樹脂劣化の一因として、シリカ粒子材料の表面に存在するシラノール基間における熱による脱水反応が関与することを発見した。つまり、脱水反応により生成した水分は樹脂中に放出され樹脂と反応し劣化の一因になることが分かった。
【0017】
これらの知見に基づき、湿式法により製造されたシリカ粒子材料における望ましい性質である「凝集が少なく分散性に優れている」は保ったまま耐熱性を向上させること(すなわち、脱水反応などの加熱により進行する反応により生成する物質による樹脂への影響を減らすこと)を目的として、シラノール基に対して積極的に表面処理剤の結合を行った。結果、シラノール基の熱による分解を抑制することが可能になり樹脂に適用したときにおける耐熱性が向上できることを見出した。
(1)本発明は以上の知見に基づき完成したものであり、体積平均粒子直径が1nmから100nmの原料シリカに対して、表面がシランカップリング剤及びオルガノシラザンで処理されており、且つ前記シランカップリング剤の分解温度未満で加熱処理がなされており、室温から350℃までを5℃/分の昇温速度で加熱したときの質量減少が1.5質量%以下で、イソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するシリカ粒子材料と、
前記シリカ粒子材料を分散する熱可塑性樹脂と、
を有することを特徴とする。
【0018】
表面処理に用いるシランカップリング剤及びオルガノシラザンの種類、及びそれらの組み合わせは前述の条件における350℃までの昇温時における質量減少が1.5質量%以下であるように組み合わせられる。それぞれの表面処理剤を用いたときに質量減少が少なくなるかどうかの判定は表面処理剤自身の分解温度によりある程度予測できる。
【0019】
ここで、上述した超音波照射は分散液100mLを(ラボランスクリュー管瓶 No.8:容量110mL)に入れ、KOWA GIKEN社製のMUC−HS−206(振動子 縦30cm×横18cm×高さ10cm)を用いて行う。本発明の熱可塑性樹脂組成物に採用されるシリカ粒子材料であるか否かを判断するために行う超音波の照射は以下の条件で行う。超音波の照射は、縦42cm×横32cm×高さ26cmの水槽中に振動子を入れ、その上にスクリュー管をのせ、スクリュー管の底から5cmまで浸漬するように水を満たして行う。超音波は振動数が28kHzで出力が60Wである。なお、本発明に採用するシリカ粒子材料は分散性に優れていることを特徴として有しており、この超音波の照射条件よりも穏やかな照射条件でもろ紙を透過できるように分散される場合も本発明の範囲に含まれることは言うまでも無い。
【0020】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、下記の(2)、(3)、(4)、又は(8)の構成を備えることが好ましい。
(2)前記オルガノシラザンによる処理の少なくとも一部は、前記シランカップリング剤による処理後であって、前記原料シリカが乾燥状態であり且つ前記原料シリカ表面に残存するシラノール基よりも前記オルガノシラザンの量が過剰になるように処理が行われる。
(3)前記熱可塑性樹脂が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ乳酸、及びポリイミドからなる群から選択される1種又は2種以上の樹脂材料である。
(4)前記シリカ粒子材料は、式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基及び式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基と、両官能基が表面に結合するシリカ粒子とからなる。上記式(1)、(2)中;X
1はフェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基であり;X
2、X
3は−OSiR
3及び−OSiY
4Y
5Y
6よりそれぞれ独立して選択され;Y
1はRであり;Y
2、Y
3はR及び−OSiY
4Y
5Y
6よりそれぞれ独立して選択される。Y
4はRであり;Y
5及びY
6は、R及び−OSiR
3からそれぞれ独立して選択され;Rは炭素数1〜3のアルキル基から独立して選択される。なお、X
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかは、近接する官能基のX
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合しても良い。
(8)前記原料シリカ材料は、水を含む液状媒体中でシランカップリング剤及びオルガノシラザンによって原料シリカ粒子を表面処理する表面処理工程をもつ表面処理方法により処理され、
前記シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基と、を持ち、
前記シランカップリング剤と前記オルガノシラザンとのモル比は、前記シランカップリング剤:前記オルガノシラザン=1:2〜1:10である。
【0021】
上記(4)の構成を付加する場合には、(5)〜(7)のうちの少なくとも1つを備えることが好ましい。
(5)前記式(1)で表される官能基と前記式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60である。
(6)前記X
1は前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたり0.5〜2.5個である。
(7)前記Rは前記シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたり1〜10個である。
【0022】
上記(8)の構成を付加する場合には、(9)〜(13)のうちの少なくとも1つを備えることが好ましい。
(9)前記表面処理工程は、前記原料シリカ粒子を前記シランカップリング剤で処理する第1の処理工程と、前記原料シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第2の処理工程と、を持ち、前記第2の処理工程は、前記第1の処理工程後に行い、後半では前記原料シリカの表面が乾燥している。
(10)前記第2の処理工程において、3つのアルコキシ基と炭素数1〜3のアルキル基とを持つ第2のシランカップリング剤で前記オルガノシラザンの一部を置き換え、前記第2の処理工程後に、さらに前記シリカ粒子を前記オルガノシラザンで処理する第3の処理工程を持つ。
(11)前記表面処理工程後に、前記シリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る固形化工程を備える。
(12)前記シランカップリング剤は、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、エポキシトリメトキシシラン、メタクリルトリメトキシシラン、アミノトリメトキシシラン、ウレイドトリメトキシシラン、メルカプトトリメトキシシラン、イソシアネート
トリメトキシシラン、又はアクリルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種である。
(13)前記オルガノシラザンは、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザンから選ばれる少なくとも一種である。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、上記構成をもつことからシリカ粒子材料由来から生成する水分量を減少でき、耐熱性が高い熱可塑性樹脂組成物を提供できる。つまり、表面処理に用いたシランカップリング剤の分解温度未満で加熱処理がなされることにより、予めシリカ粒子材料から加熱生成するものが少なくなって樹脂に与える影響を低減できる。
【0024】
また、粒径が小さなシリカ粒子材料が熱可塑性樹脂中に安定的に分散された熱可塑性樹脂組成物が提供できる。熱可塑性樹脂中に粒径の小さなシリカ粒子材料が良く分散されているため、フィルムなどに加工しても充分な透明性をもつ。
【0025】
特に、熱可塑性樹脂組成物に含まれるシリカ粒子材料としては、X
1(フェニル基、ビニル基、エポキシ基、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基)と、R(炭素数1〜3のアルキル基)とを表面に持つ。Rすなわち炭素数1〜3のアルキル基は疎水性が高いために、互いに反発し合う。従って、本発明の熱可塑性樹脂組成物がもつシリカ粒子材料は炭素数1〜3のアルキル基同士の反発力により凝集し難く乾燥状態で流動性が高い粒子が得られるため、熱可塑性樹脂中に分散させたときに良く分散される。
【0026】
また、シリカ粒子材料が表面にRのみならずX
1をも持つ場合には、極性の大きな官能基を持つ材料に対する親和性が向上する。このようなシリカ粒子材料は、熱可塑性樹脂中に均一分散し易くなる。シリカ粒子材料はX
1を表面に持つため、熱可塑性樹脂との親和性に優れ、熱可塑性樹脂中に均一分散できる。
【0027】
また、シリカ粒子材料の表面にRが多く存在するほど凝集抑制効果が向上するが、その一方で、熱可塑性樹脂に対する親和性が低下する。シリカ粒子材料の表面にX
1が多く存在するほど熱可塑性樹脂に対する親和性が向上するが、その一方で、Rの数が少なくなり凝集抑制効果が低減する。従って、RとX
1との存在数比には、好ましい範囲が存在する。式(1)で表される官能基と式(2)で表される官能基との存在数比が1:12〜1:60の範囲内であれば、樹脂に対する優れた親和性と優れた凝集抑制効果とを両立することができる。また、X
1がシリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたり0.5〜2.5個であれば、樹脂に対する優れた親和性と優れた凝集抑制効果とを両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の熱可塑性樹脂組成物について実施形態に基づき以下詳細に説明を行う。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はシリカ粒子材料を含有するため、物理的強度に優れると共に、熱に対する寸法安定性にも優れている。そのため、光学材料として用いることで非常に高い性能を発揮することができる。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はその他にも電池のセパレータなどに用いることができる。本実施形態の熱可塑性樹脂組成物は耐熱性や機械的強度に優れており、いわゆるエンジニアリングプラスチックとしての用途に好適に採用できる。例えば耐熱性として350℃程度を実現することも可能である。
【0030】
本実施形態の熱可塑性樹脂組成物はシリカ粒子材料とそれを分散する熱可塑性樹脂とを有する。熱可塑性樹脂とシリカ粒子材料との混合比は特に限定しないが、シリカ粒子材料が全体(シリカ粒子材料と熱可塑性樹脂との質量の和)を基準として5%以上の含有量にすることが好ましく、10%以上の含有量にすることがより好ましい。更には60%以下の含有量にすることが好ましく、50%以下の含有量にすることがより好ましい。
【0031】
シリカ粒子材料と熱可塑性樹脂との混合は、高分子状態の熱可塑性樹脂を加熱することにより溶融させ、その状態でシリカ粒子材料と混合させる方法や、熱可塑性樹脂を重合させる際にシリカ粒子材料を共存させる方法などが挙げられる。熱可塑性樹脂を溶融状態にして混合する際には一般的な混練機などを採用して混合する方法が例示できる。
【0032】
シリカ粒子材料は乾燥状態で熱可塑性樹脂に混合させることが分散媒混入を抑制できるため望ましい。ここで、乾燥状態とは粒子の表面に吸着していない溶媒が存在していないこととの意味である。具体的に乾燥状態にあるか否かの判断は、無機粉体混合物を取り扱うときに、スラリー状になっていない状態で流動性をもっているかどうかで簡易的に判定できる。スラリーになっていない状態で流動性をもっていれば乾燥状態にあるものと判断できる。
【0033】
・シリカ粒子材料
シリカ粒子材料は体積平均粒径が1nm〜100nmのシリカからなる粒子である原料シリカを処理して得られる材料である。望ましくは2nm以上であり、特に望ましくは5nm以上であり、10nm以上が更に望ましい。また、80nm以下が望ましく、50nm以下が更に望ましい。なお、原料シリカに対して表面処理を行った粒子であるシリカ粒子材料については原料シリカよりも粒径が大きくはなるが、原料シリカと同様の粒径になることが望ましい。そしてその表面にはシランカップリング剤とオルガノシラザンとで処理されている。そして、採用したシランカップリング剤の分解温度未満の温度で加熱処理を行う。分解温度未満での加熱処理がなされていることで、得られた熱可塑性樹脂組成物について、その温度にまで加熱しても、加熱生成物(例えば脱水反応の進行による水分の生成)の発生が抑制でき、その加熱生成物による熱可塑性樹脂組成物の劣化が抑制できる。加熱時間としては特に限定されない。加熱を行うことによりシリカ粒子材料から何らかの加熱生成物が僅かであっても生成除去できるからである。望ましい加熱時間としてはその加熱温度(200℃)にて加熱を行っても質量変化が生じないことを確認(確認方法としては、2時間加熱を行っても1.5質量%以上の質量変化が認められない場合が例示できる)使用可能なシランカップリング剤としては分解温度が300℃以上のフェニルシランやスチリルシランといったベンゼン環やナフタレンなど芳香族基のシランカップリング剤や、環状もしくは直鎖状のシロキサン系の官能基のシランカップリング剤などが例示できる。
【0034】
原料シリカ及び生成されたシリカ粒子材料は共に真球度が高い方が、流動性が向上するため望ましい。真球度としては0.8以上にすることが望ましく、0.9以上にすることが更に望ましい。真球度の測定は、SEMで写真を撮り、その観察される粒子の面積と周囲長から、(真球度)={4π×(面積) ÷(周囲長)
2}で算出される値として算出する。1に近づくほど真球に近い。具体的には画像処理装置(シスメックス株式会社:FPIA−3000)を用い、無作為に抽出した100個の粒子について測定した平均値を採用する。
【0035】
シリカ粒子材料はイソプロパノール、PMG、MEK、酢酸エチル、及びトルエンからなる群より選択される1種又は2種以上の分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに95%以上が通過するものである。この試験により、分散液中での分散性が評価できる。5種Cのろ紙は微細沈殿用のろ紙であり、高度な分散が為されないと透過しない。
【0036】
シリカ粒子材料に対してこのような分散性をもたせる方法としては特に限定しないが、例えば、その1、その2に後述する方法(併用しても良い)が挙げられる。
【0037】
(その1)
シリカ粒子材料は、式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基と、式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基とが表面に結合した材料である。特に表面にシラノール基が実質的に存在しない(1nm
2当たり0.5個以下)ことが望ましい。以下、式(1)で表される官能基を第1の官能基と呼び、式(2)で表される官能基を第2の官能基と呼ぶ。
【0038】
第1の官能基におけるX
1は、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基である。X
2、X
3は、それぞれ、−OSiR
3又は−OSiY
4Y
5Y
6である。Y
4はRである。Y
5、Y
6は、それぞれ、R又は−OSiR
3である。
【0039】
第2の官能基におけるY
1はRである。Y
2、Y
3は、それぞれ、−OSiR
3又は−OSiY
4Y
5Y
6である。
【0040】
第1の官能基及び第2の官能基に含まれる−OSiR
3が多い程、シリカ粒子材料の表面にRを多く持つ。第1の官能基及び第2の官能基に含まれるR(炭素数1〜3のアルキル基)が多い程、シリカ粒子材料は凝集し難い。
【0041】
第1の官能基に関していえば、X
2、X
3がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最小となる。また、X
2及びX
3がそれぞれ−OSiY
4Y
5Y
6であり、かつ、Y
5、Y
6がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最大となる。
【0042】
第2の官能基に関していえば、Y
2、Y
3がそれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最小となる。また、Y
2及びY
3がそれぞれ−OSiY
4Y
5Y
6であり、かつ、Y
5、Y
6がぞれぞれ−OSiR
3である場合に、Rの数が最大となる。
【0043】
第1の官能基に含まれるX
1の数、第1の官能基に含まれるRの数、第2の官能基に含まれるRの数は、RとX
1との存在数比や、シリカ粒子材料の粒径や用途に応じて適宜設定すれば良い。
【0044】
なお、X
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかは、隣接する官能基のX
2、X
3、Y
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合しても良い。例えば、第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第1の官能基に隣接する第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。同様に、第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第2の官能基に隣接する第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。さらには、第1の官能基のX
2、X
3、Y
5、及びY
6の何れかが、この第1の官能基に隣接する第2の官能基のY
2、Y
3、Y
5、及びY
6の何れかと−O−にて結合していても良い。
【0045】
第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であれば、シリカ粒子材料の表面にX
1とRとがバランス良く存在する。このため、第1の官能基と第2の官能基との存在数比が1:12〜1:60であるシリカ粒子材料は、樹脂に対する親和性及び凝集抑制効果に特に優れる。また、X
1がシリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたり0.5〜2.5個であれば、シリカ粒子材料の表面に充分な数の第1の官能基が結合し、第1の官能基及び第2の官能基に由来するRもまた充分な数存在する。従ってこの場合にも、樹脂に対する親和性及びシリカ粒子材料の凝集抑制効果が充分に発揮される。
【0046】
何れの場合にも、シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたりのRは、1個〜10個であるのが好ましい。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するX
1の数とRの数とのバランスが良くなり、樹脂に対する親和性及びシリカ粒子材料の凝集抑制効果との両方がバランス良く発揮される。
【0047】
シリカ粒子の表面に存在していた水酸基の全部が第1の官能基又は第2の官能基で置換されていることが好ましい。第1の官能基と第2の官能基との和が、シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたり2.0個以上であれば、シリカ粒子材料において、シリカ粒子の表面に存在していた水酸基のほぼ全部が第1の官能基又は第2の官能基で置換されているといえる。
【0048】
シリカ粒子材料は、表面にRを持つ。これは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。詳しくは、シリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルを固体拡散反射法で測定すると、2962±2cm
−1にC−H伸縮振動の極大吸収がある。このため、本実施形態の無機粉体混合物がもつシリカ粒子材料であるか否かは、赤外線吸収スペクトルによって確認できる。
【0049】
また、上述したように本発明の無機粉体混合物がもつシリカ粒子材料は凝集し難い。従って、シリカ粒子材料としては粒径の小さなものに採用できる。例えば、シリカ粒子材料は、平均粒径3nm〜5000nm程度にできる。平均粒径3〜200nmのシリカ粒子材料に適用するのが好ましい。
【0050】
なお、シリカ粒子材料は、例え僅かに凝集した場合にも、超音波処理することによって再度分散可能である。詳しくは、シリカ粒子材料をメチルエチルケトンに分散させたものに、発振周波数39kHz、出力500Wの超音波を照射することで、シリカ粒子材料を実質的に一次粒子にまで分散できる。このときの超音波照射時間は10分間以下で良い。シリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したか否かは、粒度分布を測定することで確認できる。詳しくは、このシリカ粒子材料のメチルエチルケトン分散材料をマイクロトラック装置等の粒度分布測定装置で測定し、シリカ粒子材料の粒度分布があれば、シリカ粒子材料が一次粒子にまで分散したといえる。
【0051】
このシリカ粒子材料は、凝集し難いため、水やアルコール等の液状媒体に分散されていないシリカ粒子材料として提供できる。また、シリカ粒子材料は凝集し難いために、水で容易に洗浄できる。
【0052】
(その2)
その1に示すシリカ粒子材料に代えて、以下に示す表面処理を行ったシリカ粒子材料を採用することもできる。なお、以下の方法によりシリカ粒子材料(その1)を得ることもできるため、その1とその2とは排他的なものではない。
【0053】
シリカ粒子材料の表面処理方法は、水を含む液状媒体中で、シランカップリング剤及びオルガノシラザンによってシリカ粒子を表面処理する工程(表面処理工程)を持つ。シランカップリング剤は、3つのアルコキシ基と、フェニル基、ビニル基、エポキシ基、メタクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、イソシアネート基、又はアクリル基(すなわち上記のX
1)とを持つ。
【0054】
シランカップリング剤で表面処理することで、シリカ粒子の表面に存在する水酸基がシランカップリング剤に由来する官能基で置換される。表面処理を行うシランカップリング剤の量は特に限定しないが、処理前のシリカ粒子材料の表面にあるシラノール基について80%以上反応できる量とすることができる。特に反応前のシリカ粒子材料の表面にシラノール基が2.5個/nm
2程度存在するときには80%以上反応させることで残存するシラノール基が0.5個/nm
2以下にすることができ脱水反応による水分発生量を充分に抑制できる。シランカップリング剤に由来する官能基は式(3);−OSiX
1X
4X
5で表される。式(3)で表される官能基を第3の官能基と呼ぶ。第3の官能基におけるX
1は式(1)で表される官能基におけるX
1と同じである。X
4、X
5は、それぞれ、アルキコキシ基である。オルガノシラザンで表面処理することで、第3の官能基のX
4、X
5がオルガノシラザンに由来する−OSiY
1Y
2Y
3(式(2)で表される官能基、第2の官能基)で置換される。シリカ粒子の表面に存在する水酸基の全てが第3の官能基で置換されていない場合には、シリカ粒子の表面に残存する水酸基が第2の官能基で置換される。このため、表面処理されたシリカ粒子材料の表面には、式(1):−OSiX
1X
2X
3で表される官能基(すなわち第1の官能基)と、式(2):−OSiY
1Y
2Y
3で表される官能基と(すなわち第2の官能基)が結合する。なお、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比は、シランカップリング剤:オルガノシラザン=1:2〜1:10であるため、得られたシリカ粒子材料における第1の官能基と第2の官能基との存在数比は理論上1:12〜1:60となる。
【0055】
表面処理工程においては、シリカ粒子をシランカップリング剤及びオルガノシラザンで同時に表面処理しても良い。又は、先ずシリカ粒子をシランカップリング剤で表面処理し、次いでオルガノシラザンで表面処理しても良い。又は、先ずシリカ粒子をオルガノシラザンで表面処理し、次いでシランカップリング剤で表面処理し、さらにその後にオルガノシラザンで表面処理しても良い。特にシランカップリング剤による処理を行った後にオルガノシラザンによる処理を行うことが望ましい。そして、オルガノシラザンによる処理の一部(特に後半)では原料シリカの表面が乾燥していることが望ましい。ここで、乾燥しているとは100℃で1時間加熱したときに質量減少が1質量%以下であることをいう。
【0056】
何れの場合にも、シリカ粒子の表面に存在する水酸基全てが第2の官能基で置換されないように、オルガノシラザンの量を調整すれば良い。なお、シリカ粒子の表面に存在する水酸基は、全てが第3の官能基で置換されても良いし、一部のみが第3の官能基で置換され、他の部分が第2の官能基で置換されても良い。第3の官能基に含まれるX
4、X
5は、全て第2の官能基で置換されるのが良い。
【0057】
なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤で置き換えても良い。第2のシランカップリング剤としては、3つのアルコキシ基と、1つのアルキル基とを持つものを用いることができる。この場合には、第3の官能基に含まれるX
4、X
5が、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。第4の官能基は式(4);−OSiY
1X
6X
7で表される。Y
1は第2の官能基におけるY
1と同じRであり、X
6、X
7はそれぞれアルコキシ基又は水酸基である。第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、又は、別の第4の官能基で置換される。この場合には、シリカ粒子材料の表面に存在するRの量をさらに多くする事ができる。なお、オルガノシラザンの一部を、第2のシランカップリング剤に置き換える場合、第2のシランカップリング剤で表面処理した後に、再度オルガノシラザンで表面処理する必要がある。第4の官能基に含まれるX
6、X
7を、最終的にはオルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換するためである。
【0058】
オルガノシラザンの一部を第2のシランカップリング剤で置き換える場合、上述した第1の官能基に含まれるX
4、X
5は、オルガノシラザンに由来する第2の官能基で置換されるか、第2のシランカップリング剤に由来する第4の官能基で置換される。X
4、X
5が第4の官能基で置換された場合、第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、第2の官能基で置換されるか、別の第4の官能基によって置換される。第4の官能基に含まれるX
6、X
7が別の第4の官能基によって置換された場合、第4の官能基に含まれるX
6、X
7は、第2の官能基で置換される。このため第2のシランカップリング剤は、第1のカップリング剤及びオルガノシラザンのみで表面処理する場合(オルガノシラザンを第2のシランカップリング剤で置き換えなかった場合)に設定されるオルガノシラザンの量(a)molに対して、最大限5a/3mol置き換えることができる。この場合に必要になるオルガノシラザンの量は、8a/3molである。
【0059】
シランカップリング剤及び第2のシランカップリング剤のアルコキシ基は特に限定しないが、比較的炭素数の小さなものが好ましく、炭素数1〜12であることが好ましい。アルコキシ基の加水分解性を考慮すると、アルコキシ基はメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基の何れかであることがより好ましい。
【0060】
シランカップリング剤として、具体的には、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシランが挙げられる。
【0061】
オルガノシラザンとしては、シリカ粒子の表面に存在する水酸基及びシランカップリング剤に由来するアルコキシ基を、上述した第2の官能基で置換できるものであれば良いが、分子量の小さなものを用いるのが好ましい。具体的には、テトラメチルジシラザン、ヘキサメチルジシラザン、ペンタメチルジシラザン等が挙げられる。
【0062】
第2のシランカップリング剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0063】
なお、表面処理工程において、シランカップリング剤の重合や第2のシランカップリング剤の重合を抑制するため、重合禁止剤を加えても良い。重合禁止剤としては、3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、p−メトキシフェノール(メトキノン)等の一般的なものを用いることができる。
【0064】
シリカ粒子材料を得るための表面処理について説明する。本表面処理方法は、表面処理工程後に固形化工程を備えても良い。固形化工程は、表面処理後のシリカ粒子材料を鉱酸で沈殿させ、沈殿物を水で洗浄・乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得る工程である。固形化工程は表面処理工程の途中(特にはオルガノシラザンによる処理の途中)に行うこともできる。固形化工程後は原料シリカの表面を乾燥させて表面処理工程(オルガノシラザンによる処理)を続行する。上述したように、一般的なシリカ粒子材料は非常に凝集し易いため、一旦固形化したシリカ粒子材料を再度分散するのは非常に困難である。しかし、シリカ粒子材料は凝集し難いため、固形化しても凝集し難く、また、例え凝集しても再分散し易い。なお、上述したように、シリカ粒子材料を水で洗浄することで、電子部品等の用途に用いられるシリカ粒子材料を容易に製造できる。なお、洗浄工程においては、シリカ粒子材料の抽出水(詳しくは、シリカ粒子材料を121℃で24時間浸漬した水)の電気伝導度が50μS/cm以下となるまで、洗浄を繰り返すのが好ましい。
【0065】
固形化工程で用いる鉱酸としては塩酸、硝酸、硫酸、リン酸などが例示でき、特に塩酸が望ましい。鉱酸はそのまま用いても良いが、鉱酸水溶液として用いるのが好ましい。鉱酸水溶液における鉱酸の濃度は0.1質量%以上が望ましく、0.5質量%以上が更に望ましい。鉱酸水溶液の量は、洗浄対象であるシリカ粒子材料の質量を基準として6〜12倍程度にすることができる。
【0066】
鉱酸水溶液による洗浄は複数回数行うことも可能である。鉱酸水溶液による洗浄はシリカ粒子材料を鉱酸水溶液に浸漬後、撹拌することが望ましい。また、浸漬した状態で1時間から24時間、更には72時間程度放置することができる。放置する際には撹拌を継続することもできるし、撹拌しないこともできる。鉱酸含有液中にて洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0067】
その後、洗浄して懸濁させたシリカ粒子材料をろ取した後、水にて洗浄する。使用する水はアルカリ金属などのイオンを含まない(例えば質量基準で1ppm以下)ことが望ましい。例えば、イオン交換水、蒸留水、純水などである。水による洗浄は鉱酸水溶液による洗浄と同じく、シリカ粒子材料を分散、懸濁させた後、ろ過することもできるし、ろ取したシリカ粒子材料に対して水を継続的に通過させることによっても可能である。水による洗浄の終了時期は、上述した抽出水の電気伝導度で判断しても良いし、シリカ粒子材料を洗浄した後の排水中のアルカリ金属濃度が1ppm以下になった時点としても良いし、抽出水のアルカリ金属濃度が5ppm以下になった時点としても良い。なお、水で洗浄する際には常温以上に加熱することもできる。
【0068】
シリカ粒子材料の乾燥は、常法により行うことができる。例えば、加熱や、減圧(真空)下に放置する等である。
【0069】
・熱可塑性樹脂
熱可塑性樹脂は加熱により溶融乃至軟化する樹脂材料であれば特に限定しない。透明性が求められる用途に本実施形態の熱可塑性樹脂組成物を用いる場合には結晶性が低い材料を採用することが望ましい。熱可塑性樹脂は何らか反応により架橋反応などを進行させることが可能で、その反応以後に熱可塑性を喪失する材料であっても良い。例えば、化学構造中に架橋可能な官能基を有し、熱可塑性樹脂が溶融する条件以外の条件(溶融温度以上の加熱、高エネルギー線(光、放射線)の照射など)によりその官能基が反応するものが挙げられる。
【0070】
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ナイロン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、酢酸セルロース、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリ乳酸、ポリイミドなどの樹脂材料が例示できる。これらの中から単独で又は2種以上混合したアロイとして採用することができる。更にはそれぞれの樹脂材料を構成する単量体を共重合させた共重合体とすることもできる。
【0071】
熱可塑性樹脂として選択した材料に応じて前述したシリカ粒子材料の表面改質を行うことが望ましい。例えば、その熱可塑性樹脂に親和性をもつ官能基をシリカ粒子材料の表面に付与することができる。
【実施例】
【0072】
以下、本発明の熱可塑性樹脂組成物について実施例に基づき詳細に説明する。
(本発明の熱可塑性樹脂組成物が含有するシリカ粒子材料について)
・試験例1
(試料の調製)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
シランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−103)を準備した。
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS−1)を準備した。
【0073】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0074】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0075】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0076】
(3)固形化工程
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に2時間真空乾燥して、表面を乾燥状態にした。
【0077】
(4)第2工程の続き(第3工程)
乾燥状態の粒子にヘキサメチルジシラザンを混合させた。ヘキサメチルジシラザンの量は粒子の表面に存在するシラノール基に対して過剰量とした。混合後、200℃で2時間加熱を行った。
【0078】
結果、シリカ粒子材料の表面には処理前には2.5個/nm
2のシラノール基が存在し、そのシラノール基の83%がこれらの処理によって消費された。2時間の加熱により表面の安定性が向上した。
【0079】
(示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)の測定)
得られたシリカ粒子材料についてTG−DTAを測定した。測定はリガク社製、サーモプラス TG8120により行った。測定条件は昇温速度5℃/分で25℃から800℃まで行った。結果を
図1に示す。350℃における質量減少は1.4%であった。
【0080】
・試験例2
(試料の調製)
試験例1における第3工程を行わずにシリカ粒子材料を得た。シリカ粒子材料の表面には処理前には2.5個/nm
2のシラノール基が存在し、そのシラノール基の74%がこれらの処理によって消費された。
【0081】
(示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)の測定)
得られたシリカ粒子材料についてTG−DTAを試験例1と同様に測定した。結果を
図2に示す。350℃における質量減少は2.7%であった。
【0082】
・試験例3
最後の加熱(200℃で2時間)を行わない以外は試験例1におけるものと同様の操作を行った。
【0083】
(示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)の測定)
得られたシリカ粒子材料についてTG−DTAを試験例1と同様に測定した。350℃における質量減少は1.7%であった。
【0084】
・試験例4
シランカップリング剤としてフェニルトリメトキシシランに代えてメタクリルシランを用いた以外は試験例1におけるものと同様の操作を行った。
【0085】
(示差熱‐熱重量同時測定(TG-DTA)の測定)
得られたシリカ粒子材料についてTG−DTAを試験例1と同様に測定した。300度付近にメタクリル基の熱分解に伴う発熱ピークと重量減少がみられ、350℃における質量減少は4%以上であった。
【0086】
・凝集性評価試験
試験例1〜4のシリカ粒子材料について、液状媒体中における凝集性を測定した。
詳しくは、試験例1〜4については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン40gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。
得られた各分散試料に含まれるシリカ粒子材料の粒度分布を、粗粒分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック)により測定した。
試験例1、3、4のシリカ粒子材料は、凝集のない一次粒子の状態で分散していることが分かった。これは、肉眼でも確認できた。試験例1ではシリカ粒子材料の粒度分布(ピーク)が、粒子径10nm程度の位置に一つのみ現れていることから裏付けられる。シリカ粒子材料が二次粒子であれば(すなわち、少しでも凝集があれば)、粒子径100nm以上の位置に少なくとも一つのピークが現れる。このため、試験例1のシリカ粒子材料は、一旦固形化したにもかかわらず、その殆どが一次粒子であり、殆ど凝集していないことがわかる。これに対して、試験例2のシリカ粒子材料は、攪拌するだけでは分散せず、攪拌後に発振周波数39kHz、出力500Wで1時間以上超音波照射しても、肉眼で凝集が確認でき、一次粒子にまで分散しなかった。
【0087】
JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときの通過性を評価した。分散媒としてはメチルエチルケトンを用いた。この分散媒に全体の質量を基準として10質量%分散させた分散液100mLに対して超音波を5分間照射した後、JISP3801規格の5種Cのろ紙で吸引ろ過したときに試験例1では97%通過、試験例2では98%通過、試験例3では98%通過、試験例4では5%通過であった。
【0088】
(熱可塑性樹脂との混合:熱可塑性樹脂組成物の調製)
以下に本発明の熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0089】
・試験例A
熱可塑性樹脂としてのポリアミドイミド樹脂(トーロン ソルベイアドバンスドポリマー)を60質量部、試験例1のシリカ粒子材料を40質量部用い、パーカーコーポレーション製の同方向回転二軸押出機(HK−25D(41D))にて、樹脂温度250℃にて混練し、本実施例の試験試料とした。
【0090】
・試験例B、C、D
試験例1のシリカ粒子材料に代えて、試験例2のシリカ粒子材料(試験例B)、試験例3のシリカ粒子材料(試験例C)、試験例4のシリカ粒子材料(試験例D)を採用した以外は試験例Aと同様の方法で混練し、本試験例の試験試料とした。
【0091】
(強度評価試験及び結果)
試験例A〜Dの試験試料について検討を行った結果、試験例Aの試料は、試験例B〜Dの試料に比べて着色の程度が少なく(殆どなく)劣化が抑制されていることが分かった。また、手で触ったり曲げたりした感じでも試験例Aの試料では試験例B〜Dの試料よりも触感が良く且つ強度が高いことが分かった。具体的な強度としては、テストピースを作成し、強度(引っ張り強度)を測定したところ、試験例Aの試料の強度を基準として50%以下の強度になっていた。従って、重量減少が1.5%以下であることで高温に曝しても強度を維持できることが分かった。
【0092】
(分散性向上に関する参考試験)
(試験例5)
(材料)
シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOS(日産化学工業株式会社製、平均粒径10nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を準備した。
アルコールとして、イソプロパノールを準備した。
シランカップリング剤として、フェニルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−103)を準備した。
オルガノシラザンとして、ヘキサメチルジシラザン(HMDS、信越化学工業株式会社製、HDMS−1)を準備した。
【0093】
(表面処理工程)
(1)準備工程
シリカ粒子が20質量%の濃度で水に分散したスラリー100質量部にイソプロパノール60質量部を加え、室温(約25℃)で混合することで、シリカ粒子が液状媒体に分散されてなる分散液を得た。
【0094】
(2)第1工程
この分散液にフェニルトリメトキシシラン1.8質量部を加え、40℃で72時間混合した。この工程により、シリカ粒子の表面に存在する水酸基をシランカップリング剤で表面処理した。なお、このときフェニルトリメトキシシランは、必要な量の水酸基(一部)が表面処理されず残存するように計算して加えた。
【0095】
(3)第2工程
次いで、この混合物に、ヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加え、40℃で72時間放置した。この工程によって、シリカ粒子が表面処理され、シリカ粒子材料が得られた。表面処理の進行に伴い、疎水性になったシリカ粒子が水及びイソプロパノールの中で安定に存在できなくなり、凝集・沈殿した。なお、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0096】
(固形化工程)
表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液を5質量部を加え、シリカ粒子材料を沈殿させた。沈殿物をろ紙(アドバンテック社製 5A)で濾過した。濾過残渣(固形分)を純水で洗浄した後に100℃で真空乾燥して、シリカ粒子材料の固形物を得た。
【0097】
(試験例6)
試験例6のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:5であったこと以外は、試験例5のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0098】
なおビニルトリメトキシシランとしては、信越化学工業株式会社製 KBM−1003を用いた。
【0099】
(試験例7)
試験例7のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランにかえてビニルトリメトキシシランを用い、ビニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:5であったこと以外は、試験例5のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、ビニルトリメトキシシラン1.36質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン7.41質量部を加えた。
【0100】
(試験例8)
試験例8のシリカ粒子の表面処理方法においては、シリカ粒子として、コロイダルシリカの一種であるスノーテックスOL(日産化学工業株式会社製、平均粒径50nm、水中に分散されており固形分濃度20%)を用いた。また、第1工程においてシランカップリング剤として3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製、KBM−503)0.48質量部を加えた。さらに、このシランカップリング剤に加えて重合禁止剤(3,5−ジブチル−4−ヒドロキシトルエン(BHT)、関東化学株式会社製)を0.01質量部加えた。また、第2工程において、ヘキサメチルジシラザン0.78質量部を加えた。さらに、固形化工程においては、表面処理工程で得られた混合物全量に35%塩酸水溶液2.6質量部を加えてシリカ粒子材料を沈殿させた。これ以外は、試験例8のシリカ粒子の表面処理方法は、試験例5のシリカ粒子の表面処理方法と同じであった。なお、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比は2:5であった。
【0101】
(試験例9)
試験例9のシリカ粒子の表面処理方法は、フェニルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、試験例5のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、フェニルトリメトキシシラン4.5質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン3.7質量部を加えた。
【0102】
(試験例10)
試験例10のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が2:1であったこと以外は、試験例8のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.16質量部を加えた。
【0103】
(試験例11)
試験例11のシリカ粒子の表面処理方法は、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランとヘキサメチルジシラザンとのモル比が1:1であったこと以外は、試験例8のシリカ粒子の表面処理方法と同じである。第1工程においては、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.48質量部を加え、第2工程においてはヘキサメチルジシラザン0.31質量部を加えた。
【0104】
(凝集性評価試験)
試験例5〜11のシリカ粒子材料について、液状媒体中における凝集性を測定した。
【0105】
詳しくは、試験例5〜7及び試験例9については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン40gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。
【0106】
試験例8、10、11については、シリカ粒子材料10gとメチルエチルケトン10gとの混合物を攪拌し、シリカ粒子材料の分散試料を得た。得られた各分散試料に含まれるシリカ粒子材料の粒度分布を、粒祖分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラック)により測定した。
【0107】
その結果、試験例5〜8のシリカ粒子材料は、凝集のない一次粒子の状態で分散していることが分かった。これは、試験例5〜8のそれぞれのシリカ粒子材料の粒度分布(ピーク)が、粒子径10nm〜50nm程度の位置に一つのみ現れていることから裏付けられる。シリカ粒子材料が二次粒子であれば(すなわち、少しでも凝集があれば)、粒子径100nm以上の位置に少なくとも一つのピークが現れる。このため、試験例5〜8のシリカ粒子材料は、一旦固形化したにもかかわらず、その殆どが一次粒子であり、殆ど凝集していないことがわかる。これに対して、試験例9〜11のシリカ粒子材料は、攪拌するだけでは分散せず、攪拌後に発振周波数39kHz、出力500Wで1時間以上超音波照射しても、肉眼で凝集が確認でき、一次粒子にまで分散しなかった。この結果から、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を1:2〜1:10の範囲にすることで、固形化しても凝集し難いシリカ粒子材料を製造できることがわかる。なお、試験例5のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例6のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例7のシリカ粒子材料の平均粒径は10nm、試験例8のシリカ粒子材料の平均粒径は50nmであった。この結果から、凝集抑制のためには、シランカップリング剤とオルガノシラザンとのモル比を1:5〜2:5の範囲にするのが好ましいことがわかる。
【0108】
(極大吸収測定試験)
試験例5〜11のシリカ粒子材料を準備し、この試料の赤外線吸収スペクトルを、サーモニコレット社製 FT−IR Avatorを用いた粉体拡散反射法で測定した。このときの測定条件は、分解能4、スキャン回数64であった。結果、試験例5〜11のシリカ粒子材料の赤外吸収スペクトルは、何れも、2962cm
−1にC-H伸縮振動の極大吸収(ピーク)を持つ。このため、これらのシリカ粒子材料は、アルキル基を持つこと(すなわち、アルキル基を持つオルガノシラザンで表面処理されていること)がわかる。なお、試験例9〜11のシリカ粒子材料のピーク高さは、試験例5〜8のシリカ粒子材料のピーク高さに比べて低かった。この結果は、試験例9〜11のシリカ粒子材料においては、充分な量のアルキル基を持たないことを示唆している。詳しくは、試験例5〜8のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm
−1)のピーク高さが3倍以上であった。試験例9〜11のシリカ粒子材料の赤外線吸収スペクトルにおいては、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm
−1)のピーク高さが2倍以下であった。上述したように、試験例5〜8のシリカ粒子材料は凝集し難く、試験例9〜11のシリカ粒子材料は凝集し易かった。これらの結果から、シランカップリング剤に由来する各官能基固有のC−Hのピーク高さに対してオルガノシラザンに由来するメチル基(2962cm
−1)のピーク高さが3倍以上であるシリカ粒子材料は凝集し難いといえる。
【0109】
(炭素量測定試験)
試験例5〜11のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の質量あたりに存在する炭素の量(質量%)を測定した。測定には、有機炭素測定装置(HORIBA社製、EMIA−320V)を用いた。
【0110】
その結果、試験例5のシリカ粒子材料の炭素量は3.5質量%であり、試験例6のシリカ粒子材料の炭素量は2.6質量%であり、試験例7のシリカ粒子材料の炭素量は2.8質量%であり、試験例8のシリカ粒子材料の炭素量は0.96質量%であった。試験例9のシリカ粒子材料の炭素量は4.0質量%であり、試験例10のシリカ粒子材料の炭素量は1.8質量%であり、試験例11のシリカ粒子材料の炭素量は1.0質量%であった。
【0111】
(X
1数測定試験)
試験例5〜11のシリカ粒子材料について、シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたりのX
1の存在数を測定した。試験例5及び試験例9のシリカ粒子材料におけるX
1はフェニル基であり、試験例6、7のシリカ粒子材料におけるX
1はビニル基であり、試験例8、10、11のシリカ粒子材料におけるX
1はメタクリロキシ基であった。シリカ粒子材料の表面積(比表面積)は窒素を用いたBET法で測定した。X
1の存在数はシリカ粒子材料の炭素量を基に算出した。詳しくは、第1工程後のシリカ粒子を、水で洗浄し遠心分離した後に乾燥して、シランカップリング剤処理後のシリカ粒子試料を得た。この試料の炭素量を、有機炭素測定装置を用いて測定し、測定値を基にX
1数を算出した。
【0112】
その結果、試験例5のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約1.2個/nm
2であった。試験例6のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約1.1個/nm
2であった。試験例7のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約1.1個/nm
2であった。試験例8のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約2.0個/nm
2であった。試験例9のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約1.7個/nm
2であった。試験例10のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約2.0個/nm
2であった。試験例11のシリカ粒子材料におけるX
1数は、約2.0個/nm
2であった。参考までに、シランカップリング剤処理後のシリカ粒子試料の炭素量は、試験例5のシリカ粒子材料では3.6質量%、試験例6のシリカ粒子材料では1.1質量%、試験例7のシリカ粒子材料では1.1質量%、試験例8のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。また、試験例9のシリカ粒子材料では5.0質量%、試験例10のシリカ粒子材料では1.5質量%、試験例11のシリカ粒子材料では1.5質量%であった。
【0113】
上述したように、シリカ粒子材料の樹脂材料に対する親和性はX
1の数及び種類によって異なり、試験例5のシリカ粒子材料及び試験例8のシリカ粒子材料は、樹脂材料に対する親和性に優れていた。この結果から、樹脂材料に対して優れた親和性を発揮するためには、シリカ粒子材料の単位表面積(nm
2)あたりのX
1は0.5個〜2.5個であるのが好ましく、1.0個〜2.0個であるのがより好ましいといえる。