(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1の下地層が、Mo、W、NbもしくはTaから選択される元素のうちの少なくとも1種類を含有していることを特徴とする請求項1に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
前記第2の下地層が、TaC、NbC、ZrC、HfCから選択される1種からなることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気記録媒体。
請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の熱アシスト磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するレーザー発生部と、前記レーザー発生部から発生したレーザー光を先端部へと導く導波路とを有して、前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
[熱アシスト磁気記録媒体]
図1は、本発明の熱アシスト磁気記録媒体の一例を示した断面図である。
図1に示す熱アシスト磁気記録媒体1(以下、「磁気記録媒体」という場合がある。)は、基板101上に、シード層102と、配向制御層103と、下地層3と、磁性層107と、保護膜108とがこの順に積層されたものである。
図1に示すように、下地層3は、基板101側から、第1の下地層104と第2の下地層105と第3の下地層106とが連続的に積層されたものであり、下地層3の第3の下地層106の直上には磁性層107が備えられている。
【0018】
「基板」
基板101としては、非晶質もしくは微結晶構造を有する耐熱ガラス基板を用いることができる。本実施形態の磁気記録媒体1においては、磁性層107を形成する際に基板101の温度を400℃以上に加熱する場合があるため、基板101の材料として、ガラス転移温度が400℃以上のもの、より好ましくは600℃以上のものを用いることが好ましい。
【0019】
「シード層」
シード層102は、磁性層107の結晶粒径を制御するものである。シード層102に用いられる材料は、非晶質であればよく、例えば、Cr−50at%Ti、Ni−40at%Ta、Ti−50at%Alなどの合金を用いることができるが、これらの材料に限定されるものではない。
【0020】
「配向制御層」
配向制御層103は、第1の下地層104に良好な(100)配向をとらせることにより、下地層3の第2の下地層105および第3の下地層106の配向を制御して、下地層3による磁性層107の配向を制御する機能を向上させるものである。配向制御層103としては、B2構造やBCC構造を有する(100)配向のものを用いることが好ましい。
【0021】
B2構造を有する(100)配向の配向制御層103としては、例えばNiAl、RuAlなどからなるものが挙げられる。B2構造を有する配向制御層103は、例えば、非晶質のシード層102上に、200℃以上の高温で形成することにより、(100)配向をとらせることができる。
【0022】
また、BCC構造を有する(100)配向の配向制御層103としては、例えばCrもしくはCrを主成分とした合金からなるものなどが挙げられる。Crを主成分とした合金としては、CrMn、CrMo、CrW、CrV、CrTi、CrRu等が挙げられる。特に、第1の下地層104として格子定数の大きいBCC構造を有する合金からなるものを使用する場合には、配向制御層103としてCrにMo、W等の原子半径の大きい元素を添加した格子定数の大きいCr合金からなるものを用いることが望ましい。但し、Cr合金に添加される原子半径の大きい元素の添加量が多すぎると、これを用いた配向制御層103自体の(100)配向性が劣化する恐れがある。このため、配向制御層103に用いるCrを主成分とした合金に含まれるCrの他の元素の含有量は、30at%以下程度であることが望ましい。
BCC構造を有する配向制御層103も、B2構造を有する配向制御層103と同様に、例えば、非晶質のシード層102上に、200℃以上の高温で形成することにより、(100)配向をとらせることができる。
【0023】
「第1の下地層」
第1の下地層104は、格子定数が0.302nm以上0.332nm以下のBCC構造を有するものである。第1の下地層104の格子定数は、0.31nm以上0.32nm以下の範囲であることがより好ましい。
図1に示す第1の下地層104は、配向制御層103上に形成されることにより、良好な(100)配向を有するものである。第1の下地層104が、良好な(100)配向を有するものであることにより、第2の下地層105にも(100)配向をとらせることができる。
【0024】
本実施形態の磁気記録媒体1においては、第1の下地層104と、その上下に設けられた層(
図1に示す磁気記録媒体1においては、配向制御層103と第2の下地層105)との格子ミスフィットを低減するため、第1の下地層104の格子定数は0.302nm以上0.332nm以下とされている。
【0025】
第1の下地層104の格子定数が0.302nmを下回ると、Cを含有したNaCl構造を有する第2の下地層105との格子ミスフィットが10%以上となり、第2の下地層105に良好な(100)配向をとらせにくくなる。また、第1の下地層104の格子定数が0.332nmを上回ると、第1の下地層104の基板101側に設けられた層(
図1に示す磁気記録媒体1においては配向制御層103)との格子ミスフィットが大きくなり、第1の下地層104が良好な(100)配向を有するものとならず、下地層3による磁性層107の配向を制御する機能が低下する恐れがある。
【0026】
第1の下地層104としては、格子定数が0.302nm以上0.332nm以下であるBCC構造を有するものであれば如何なるものであってもよいが、格子定数が0.302nm以上0.332nm以下であるMo、W、NbもしくはTaから選択される1種からなるものであることが好ましい。
また、第1の下地層104の材料として、Mo、W、NbもしくはTaから選択される元素のうちの少なくとも1種類を含有している合金を用いてもよい。具体的には、MoCr、MoV、MoW、MoTa、MoNb、WCr、WV、WTa、WNb、TaCr、TaV、TaNb、NbCr、NbV等の合金が挙げられる。第1の下地層104の材料として上記合金を用いる場合、Mo、W、Nb、Taに添加される他の元素の含有量は、第1の下地層104の格子定数が0.302nm以上0.332nm以下で、かつ、BCC構造を劣化させない範囲内とされる。
【0027】
「第2の下地層」
第2の下地層105は、Cを含有したNaCl構造を有するものである。第2の下地層105は、TaC、NbC、ZrC、HfCから選択される1種からなるものであることが好ましい。このような材料からなる第2の下地層105は、第1の下地層104および第3の下地層106との格子定数の差が小さいものとなる。このため、第2の下地層105が上記の材料からなるものである場合、磁性層107中のL1
0構造を有する合金の規則度が良好で、保磁力が高く、反転磁界分散が低く、耐食性に優れた磁気記録媒体1が得られる。
【0028】
また、第2の下地層105は、TaCもしくはNbCからなるものであることがより好ましい。第2の下地層105がTaCなるものである場合、反転磁界分散を特に低減でき、高い媒体SNRが得られるとともに、より優れた耐食性が得られる。また、第2の下地層105がNbCなるものである場合、高い保磁力が得られ、規則度の高い磁性層107が得られる。
また、第2の下地層105がZrCなるものである場合、高い保磁力が得られ、規則度の高い磁性層107が得られ、高い重ね書き特性が得られる。
TaC、NbC、ZrC、HfCの格子定数を表1に示す。
【0030】
本実施形態においては、第1の下地層104の格子定数が0.302nm以上0.332nm以下であるので、第1の下地層104の(100)面と、Cを含有したNaCl構造を有するものである第2の下地層105の(100)面との格子ミスフィットは10%以下となる。このため、例えば、第1の下地層104上に第2の下地層105をエピタキシャル成長させることによって、容易に良好な(100)配向を示す第2の下地層105が得られる。なお、第1の下地層104の(100)面の<110>方向と、第2の下地層105の(100)面の<100>方向とは平行となる。したがって、第1の下地層104と第2の下地層105との格子ミスフィットは、第1の下地層104の格子定数をa
1、第2の下地層105の格子定数をa
2とすると、(a
2-√2a
1)/(√2a
1)と定義される。
【0031】
「第3の下地層」
第2の下地層105の上には、MgOからなる第3の下地層106が形成されている。第3の下地層106は、NaCl構造を有するものであり、第2の下地層105上に第3の下地層106となるMgOをエピタキシャル成長させる方法などにより形成できる。
MgOの格子定数は0.421nmであり、第2の下地層105の格子定数よりも5〜10%小さい。したがって、第2の下地層105上に第3の下地層106となるMgOを形成した場合、第3の下地層106のMgOの膜面内に引っ張り応力が導入される。このため、第3の下地層106上に形成されるL1
0−FePt合金などのL1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層107に、第3の下地層106から引っ張り応力が導入され、磁性層107の規則化が促進される。
【0032】
第3の下地層106であるMgOの膜厚は、0.5nm以上5nm以下とすることが望ましい。第3の下地層106の膜厚が上記範囲内である場合、第3の下地層106のMgOのNaCl構造が良好なものなり、第3の下地層106が磁性層107の配向をより効果的に制御できるものになるとともに、MgOの膜面内の引っ張り応力が十分に得られるものとなるため、規則度の高い磁性層107が得られる。
【0033】
第3の下地層106の膜厚が0.5nm未満である場合、第3の下地層106のMgOのNaCl構造が良好なものになりにくく、第3の下地層106による磁性層107の配向性の制御機能が低下する。また、第3の下地層106の膜厚が5nmを超えると、第3の下地層106の厚みが厚いために膜面内の引っ張り応力が緩和されて、磁性層107に引っ張り応力が導入され難くなり、第3の下地層106による磁性層107の配向性の制御機能が低下する。
【0034】
「磁性層」
磁性層107は、L1
0構造を有する合金を主成分とするものであり、磁性層107の直下に下地層3が配置されていることにより、良好な(001)配向を示すものである。磁性層107は、L1
0構造を有するFePtもしくはCoPt合金を主成分とし、かつSiO
2、TiO
2、Cr
2O
3、Al
2O
3、Ta
2O
5、ZrO
2、Y
2O
3、CeO
2、MnO、TiO、ZnO、C、B、B
2O
3、BNから選択される少なくとも一種を含有しているものであることが好ましい。このような磁性層107とすることにより、磁性層107の主成分であるL1
0構造を有する合金の結晶粒間の交換結合が分断され、結晶粒が磁気的に孤立しているものとなり、磁気記録媒体1のノイズを低減することができる。
【0035】
磁性層107が、FePt合金を主成分とするものである場合、FePt合金の規則化を促進するため、磁性層107を形成する時の基板101温度(規則化温度)を600℃以上とすることが好ましい。また、規則化温度を低減するため、磁性層107の主成分であるFePt合金に、Ag、Au、Cu、Ni等を添加してもよい。この場合、規則化温度を400−500℃程度まで低減できる。
【0036】
「保護膜」
磁性層107上には、ダイヤモンド状炭素(DLC(Diamond Like Carbon))などからなる保護膜108を形成することが望ましい。DLCからなる保護膜108は、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して膜を形成するRF−CVD法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して膜を形成するIBD法、原料ガスを用いずに固体Cターゲットを用いて膜を形成するFCVA法等によって形成できる。
【0037】
保護膜108の膜厚は、1nm以上6nm以下であることが望ましい。保護膜108の膜厚が1nm未満であると磁気ヘッドの浮上特性が劣化するため好ましくない。また、保護膜108の膜厚が6nmを超えると磁気スペーシングが大きくなり、SNRが劣化するので好ましくない。
【0038】
図1に示す磁気記録媒体1は、基板101上に形成された下地層3と、下地層3の直上に形成されたL1
0構造を有する合金を主成分とする磁性層107とを備え、下地層3が、格子定数が0.302nm以上0.332nm以下のBCC構造を有する第1の下地層104と、Cを含有したNaCl構造を有する第2の下地層105と、MgOからなる第3の下地層106とが連続的に積層されたものであるので、磁性層107が良好な(001)配向を示すものとなる。
【0039】
より詳細には、BCC構造を有する第1の下地層104の良好な(100)配向が、第1の下地層104との格子ミスフィットの小さいNaCl構造を有する第2の下地層105に引き継がれて、良好な(100)配向を有する第2の下地層105となり、第2の下地層105の良好な(100)配向が、第2の下地層105との格子ミスフィットの小さい第3の下地層106に引き継がれて、良好な(100)配向を有する第3の下地層106となり、第3の下地層106の直上に形成された磁性層107の配向性が下地層3によって制御されて良好な(001)配向を示すものとなる。その結果、
図1に示す磁気記録媒体1は、保磁力が高く、反転磁界分散が狭く、高いSNRが得られるものとなる。
【0040】
「他の例」
なお、本発明は、
図1に示す磁気記録媒体1に限定されるものではない。
例えば、
図1に示す磁気記録媒体1においては、基板101と下地層3との間に、シード層102と配向制御層103とが配置されているが、シード層102および配向制御層103がなくても、磁性層107が良好な(001)配向を示すものとなる場合には、シード層102および配向制御層103は設けられていなくてもよい。
【0041】
また、保護膜108は、磁性層107を保護するために設けられていることが好ましいは、設けられていなくてもよい。
また、保護膜108上には、パーフルオロポリエーテル系のフッ素樹脂などからなる潤滑剤が塗布されていてもよい。
【0042】
また、磁気記録媒体の書き込み効果を改善するために、例えば、基板201とシード層204との間には、軟磁性下地層が配置されていてもよい。軟磁性下地層としては、CoTaZr、CoFeTaB、CoFeTaSi、CoFeTaZr等の非晶質合金、FeTaC、FeTaN等の微結晶合金、NiFe等の多結晶合金を用いることが出来る。軟磁性下地層は、上記合金からなる単層膜でもよいし、適切な膜厚のRu層を挟んで反強磁性結合した積層膜であってもよい。
【0043】
また、
図2は、本発明の熱アシスト磁気記録媒体の他の例を示した断面図である。
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体は、基板201上に、接着層202と、ヒートシンク層203と、シード層204と、配向制御層205と、下地層31と、磁性層209と、保護膜210とが下から順に積層されたものである。
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体は、基板201とシード層204との間に、ヒートシンク層203と、ヒートシンク層203と基板201とを接着する接着層202とが形成されていること以外は、
図1に示す熱アシスト磁気記録媒体1と同じであるので、
図1に示す例と異なる部材についてのみ説明し、同じ部材についての説明を省略する。
【0044】
熱アシスト磁気記録媒体では、磁気記録媒体をレーザーなどで加熱して記録を行うため、記録後に磁性層209に溜まった熱を速やかに散逸させて、加熱スポットの拡がりを抑制する必要がある。記録後の磁性層209を速やかに冷却することで、磁化遷移領域の幅を低減でき、媒体ノイズを低減できる。
記録後の磁性層209を速やかに冷却するためには、熱アシスト磁気記録媒体にヒートシンク層203を設けることが好ましい。ヒートシンク層203としては、Ag、Cu、Al、Au等の熱伝導率の高い金属や、これらを主成分とした合金を用いることができる。
【0045】
また、接着層20は、ヒートシンク層203と基板201とを接着して密着させることができるものであればよく、ヒートシンク層203の材料に応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、例えば、ヒートシンク層203がCuまたはCu合金からなるものである場合、NiTaなどを用いることが好ましい。
【0046】
なお、
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体においては、基板201とシード層204との間に、ヒートシンク層203と接着層202とを配置したが、ヒートシンク層203および接着層202の配置は、基板201とシード層204との間に限定されるものではない。例えば、熱アシスト磁気記録媒体にシード層204が設けられていない場合には、基板201と配向制御層205との間とすることができる。
【0047】
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体は、ヒートシンク層203を備えるものであるので、記録後に、磁性層209に溜まった熱をヒートシンク層203によって速やかに散逸させることができ、より一層高いSNRが得られるものとなる。
【0048】
[磁気記録再生装置]
次に、本発明の磁気記録再生装置について説明する。
図3は、本発明の磁気記録再生装置の一例を示した斜視図であり、
図4は、
図3に示す磁気記録再生装置に備えられた磁気ヘッドの構成を模式的に示した断面図である。
図3に示す磁気記録再生装置は、本発明の熱アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体501と、磁気記録媒体501を回転させ、記録方向に駆動する媒体駆動部502と、磁気記録媒体501に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド503と、磁気ヘッド503を磁気記録媒体501に対して相対移動させるヘッド駆動部504と、磁気ヘッド503への信号入力と磁気ヘッド503からの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系505とから概略構成されている。
【0049】
図3に示す磁気記録再生装置に備えられている磁気ヘッド503は、
図4に示すように、記録ヘッド308と再生ヘッド311とから概略構成されている。記録ヘッド308は、主磁極301と、補助磁極302と、磁界を発生させるためのコイル303と、レーザーダイオード(LD)304と、LDから発生したレーザー光305を近接場発生素子306まで伝達するための導波路307とを備えている。再生ヘッド311は、一対のシールド309で挟み込まれたTMR素子等の再生素子310を備えている。
【0050】
そして、
図3に示す磁気記録再生装置では、磁気ヘッド503の近接場発生素子306から発生した近接場光を磁気記録媒体501に照射し、その表面を局所的に加熱して上記磁性層の保磁力を一時的にヘッド磁界以下まで低下させて書き込みを行う。
【0051】
図3に示す磁気記録再生装置は、保磁力が高く、反転磁界分散が狭く、高いSNRが得られる本発明の熱アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体501を備えているので、エラーレートが低く、高い信頼性を有するものとなる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0053】
(実施例1)
図1に示す熱アシスト磁気記録媒体1を以下に示す方法により形成した。
すなわち、2.5インチのガラスからなる基板101上に、25nmのCr−50at%Tiからなるシード層102を形成し、300℃の基板加熱を行った後、配向制御層103として20nmのRu−50at%Alを形成した。
次いで、第1の下地層104として15nmのMo−30at%Cr、第2の下地層105として15nmのZrC、HfC、TaC、もしくはNbC、第3の下地層106として2nmのMgOを形成した。
その後、580℃の基板加熱を行い、8nmの(Fe−45at%Pt)−12mol%(SiO
2)−6mol%BNからなる磁性層107を形成し、磁性層107上に3nmのDLCからなる保護膜108を形成し、表2に示す実施例1.1〜実施例1.4の磁気記録媒体を得た。
【0054】
【表2】
【0055】
また、比較例として、第3の下地層を形成せず、第2の下地層上に直接磁性層を形成した媒体を形成し、表2に示す比較例1.1〜比較例1.4の磁気記録媒体を得た。
【0056】
本実施例1.1〜1.4の媒体のX線回折測定を行ったところ、配向制御層のRuAlからは、(100)回折ピークと弱い(200)回折ピークが観察された。また、第1の下地層、第2の下地層からは(200)回折ピークのみが観察された。ここで、回折ピーク位置から見積もった第1の下地層(Mo−30at%Cr)の格子定数は、0.310nmであった。また、磁性層からは、L1
0−FePt(001)ピーク、及び、L1
0−FePt(002)ピークとFCC−FePt(200)ピークの混合ピークが観察された。第3の下地層(MgO下地層)は2nmと薄いため、明瞭な回折ピークはみられなかったが、磁性層が上記配向をとっていることから、(100)配向をとっていると考えられる。また、CrTiシード層からは明瞭な回折ピークはみられなかったことから、該シード層は非晶質構造であることがわかる。
【0057】
表2に、L1
0−FePt(002)ピークとFFCC−FePt(200)ピークの混合ピーク強度(I
002+I
200)に対する、L1
0−FePt(001)ピーク強度I
001の比率I
001/(I
002+I
200)、保磁力Hc、保磁力で規格化した保磁力分散△Hc/Hcを示す。
ここで、HcはSUQID(超伝導量子干渉素子)により、7Tの磁界を印加して室温で測定した磁化曲線から求めた。また、ΔHc/Hcは、「IEEE Trans.Magn.,vol.27,pp4975−4977,1991」に記載の方法で測定した。
【0058】
具体的には、7Tの最大磁界を印加して室温で測定したメジャーループ及びマイナーループにおいて、磁化の値が飽和値の50%となるときの磁界を測定し、両者の差分から、Hc分布がガウス分布であると仮定してΔHc/Hcを算出した。ΔHc/Hcは、反転磁界分散に相当するパラメーターであり、この値が低いほど、高い媒体SNRが得られるため、望ましい。
【0059】
表2に示すように、本実施例1.1〜1.4のI
001/(I
002+I
200)は、いずれも2.1以上の高い値を示し、磁性層中のL1
0−FePt合金の規則度が良好であることがわかる。また、本実施例1.1〜1.4は、Hcも38kOe以上と高く、ΔHc/Hcは0.3以下の低い値を示した。
上記実施例の中では、第2の下地層にZrCを用いた実施例1.1と、第2の下地層にNbCを用いた実施例1.4が特に高いHcを示した。これは、実施例1.1および実施例1.4のI
001/(I
002+I
200)が特に高いことから規則度が極めて良好であるためと考えられる。
【0060】
また、第2の下地層にTaCを用いた実施例1.3が特に低いΔHc/Hcを示した。このことは、TaCを第2の下地層に用いることにより、反転磁界分散を特に低減できることを示している。
一方、第3の下地層を形成しない比較例1.1〜1.4のI
001/(I
002+I
200)はいずれも1.8以下と低く、保磁力も25kOe以下と著しく低く、ΔHc/Hcも0.33以上と高かった。
【0061】
以上より、Mo−30at%Crからなる第1の下地層、ZrC、HfC、TaC、もしくはNbCからなる第2の下地層、MgOからなる第3の下地層で構成された積層下地層上に磁性層を形成することにより、磁性層中のL1
0−FePt合金の規則度が良好で、Hcが高く、かつ、ΔHc/Hcが低い媒体が得られることがわかった。
【0062】
(実施例2)
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体を以下に示す方法により形成した。
すなわち、2.5インチのガラスからなる基板201上に、5nmのNi−35at%Taからなる接着層202、50nmのCu−0.5at%Zrからなるヒートシンク層203、5nmのCr−50at%Tiからなるシード層204を形成し、250℃の基板加熱を行った後、配向制御層205として20nmのCr−5at%Mnを形成した。
次いで、第1の下地層206として10nmのW、第2の下地層207として8nmのZrC、HfC、TaC、もしくはNbC、第3の下地層208として3nmのMgO下地層を形成した。
その後、600℃の基板加熱を行い、磁性層209として12nmの(Fe−45at%Pt)−30%C、保護膜210として3.2nmのDLC膜を形成し、表3に示す実施例2.1〜実施例2.4の磁気記録媒体を得た。
【0063】
【表3】
【0064】
また、比較例として、第2の下地層を形成せず、第1の下地層上に直接第3の下地層を形成した媒体を作製し、表3に示す比較例2.1の磁気記録媒体を得た。
【0065】
本実施例2.1〜2.4及び比較例2.1の媒体に、パーフルオルエーテル系の潤滑剤を塗布し、
図4に示す磁気ヘッドを用いてRW特性を評価した。
図4に示す磁気ヘッドを用いて線記録密度1500kFCIのオールワンパターン信号を記録して測定した媒体SNRと、重ね書き特性OWとを表3に示す。ここで、レーザーダイオードに投入するパワーは、トラックプロファイルの半値幅と定義したトラック幅MWWが60nmとなるよう調整した。
【0066】
表3に示すように、実施例2.1〜2.4はいずれも15dB以上の高いSNRと、30dB以上の高い重ね書き特性を示した。特に、第2の下地層にZrCを使用した実施例2.1は35dB以上の高い重ね書き特性を示した。また、第2の下地層にTaCを使用した実施例2.3は16dB以上の高いSNRを示した。
これに対し、比較例2.1のSNRと重ね書き特性は、実施例2.1〜2.4と比べて著しく低かった。
以上より、第1の下地層とMgOの間に、第2の下地層としてZrC、HfC、TaC、もしくはNbCを形成することにより、SNRが高く、かつ、重ね書き特性が良好な熱アシスト記録媒体が得られることがわかった。
【0067】
また、実施例2.1〜2.4と比較例2.1の媒体について、耐食性評価を下記の手順で行った。
先ずCandela社製OSA−6300を用いて、媒体表面全面のパーティクル数を計測した。ついで、媒体を温度90℃、湿度90%一定とした高温炉中に投入し、48時間放置した。その後、媒体を高温炉から取り出し、再度、上記Candela社製OSA−6300でパーティクル数を計測した。表4に高温炉に入れる前後のパーティクル数を示す。
【0068】
【表4】
【0069】
実施例2.1〜2.4では、高温炉に入れる前後のパーティクル数はほぼ同じであった。これに対し、比較例2.1では、高温炉に入れる前後でパーティクル数は大幅に増加していた。
【0070】
また、光学顕微鏡で媒体表面を観察したところ、比較例2.1では、数マイクロメートルから数十マイクロメートルのパーティクルが確認された。これは、高温高湿中に長時間放置された結果、媒体表面にコロージョン粒子が大量に発生したことを示している。
一方、実施例2.1〜2.4では、数マイクロメートルから数十マイクロメートルのパーティクルは観察されなかった。更に第2の下地層にTaCを使用した実施例2.1は、特にパーティクル数が低かった。
以上より、第2の下地層としてZrC、HfC、TaC、もしくはNbCを形成することにより、媒体SNR、重ね書き特性が改善されると同時に、耐食性が大幅に改善されることがわかった。
【0071】
(実施例3)
実施例2と同様に、
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体を以下に示す方法により形成した。
なお、第1の下地層として20nmのMo、Mo−30at%Cr、Mo−20at%V、W、W−50at%Cr、W−30at%V、W−20at%Ta、V、Ta、Ta−50at%W、Nb、Nb−30at%Moを使用し、第2の下地層として5nmのTiCを使用した。第1の下地層および第2の下地層以外の層構成、成膜プロセスは実施例2と同一とし、表5に示す実施例3.1〜実施例3.12の磁気記録媒体を得た。
【0072】
【表5】
【0073】
また、比較例として、第1の下地層に20nmのCr−50at%V、Cr−30at%Mo、Cr−30at%Wを用いた媒体を作製し、表5に示す比較例3.1〜3.3の磁気記録媒体を得た。
【0074】
実施例3.1〜3.12、比較例3.1〜3.3において使用した第1の下地層の格子定数をVegard則から算出した。その結果を
図5に示す。ここで、Cr、W、V,Mo、Ta、Nbの格子定数は、それぞれ0.2884nm、0.3023nm、0.3147nm、0.3165nm、0.3298nm、0.3307nmとした。上記第1下地に使用した合金は、全率固溶系もしくは固溶限が広範囲に亘るため、Vegard則を用いて格子定数を算出できる。
図5は、熱アシスト磁気記録媒体に用いた第1の下地層の格子定数を示したグラフである。
【0075】
図5に示すように、本実施例3.1〜3.12で用いた第1の下地層の格子定数は、すべて0.302nm以上、0.332nm以下であった。一方、比較例3.1〜3.3に用いた第1の下地層の格子定数は、0.300nm以下であった。
【0076】
表5に、本実施例3.1〜3.12及び比較例3.1〜3.3の保磁力Hcと規格化保磁力分散ΔHc/Hcを示す。なお、保磁力Hcおよび規格化保磁力分散ΔHc/Hcは、実施例1と同様にして求めた。
本実施例3.1〜3.12は、全て34kOe以上の高いHcと0.29以下の低いΔHc/Hcを示した。また、上記実施例3.1〜3.12の中では、格子定数が0.31nm以上0.32nm以下の実施例3.1、実施例3.3、実施例3.4、実施例3.6、実施例3.7のΔHc/Hcが特に低かった。
【0077】
一方、比較例3.1〜3.3のHcは全て27kOe以下と低く、ΔHc/Hcは0.33以上と高かった。
以上より、第1の下地層に格子定数が0.302nm以上0.332nm以下であるBCC合金を用いることにより、Hcが高く、ΔHc/Hcが低い、即ち反転磁界分散が狭い媒体が得られることがわかった。
【0078】
(実施例4)
本実施例3.1〜3.12、比較例3.1〜3.3の媒体を、
図3に示す磁気記録再生装置の磁気記録媒体として用い、エラーレートを測定した。
エラーレートは、線記録密度1600kFCI、トラック密度480kFCI(面記録密度770Gbit/inch
2)の条件で記録して測定した。その結果を表6に示す。なお、表6における「−logBER」はビットエラーレートの対数表示を表している。
【0079】
【表6】
【0080】
表6に示すように、実施例3.1〜3.12の媒体を用いた磁気記録再生装置は、1×10
−7以下の低いエラーレートを示した。特に、格子定数が0.31nm以上0.32nm以下の実施例3.1、実施例3.3、実施例3.4、実施例3.6、実施例3.7の媒体を用いた磁気記録再生装置では、7.7桁以下の低いエラーレートを示している。
【0081】
一方、比較例3.1〜3.3の媒体を用いた磁気記録再生装置のエラーレートは、1×10
−4台であった。
以上より、第1の下地層に格子定数が0.302nm以上0.332nm以下であるBCC構造を有する合金を用い、第2の下地層にTaCを用い、更に第3の下地層にMgOを用いた磁気記録媒体を組み込むことにより、エラーレートが低い磁気記録再生装置が得られることがわかった。