(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記連通路のクランク室側の開口部は、クランク室の前記ピストンが往復移動するシリンダ部の前記ピストンが上死点にある場合に前記ピストンのスカート部の終端部が位置する位置の近傍に形成されている
請求項1に記載のエンジン。
前記連通路のクランク室側の開口部は、クランク室の前記ピストンが往復移動するシリンダ部の前記ピストンが下死点にある場合にピストンリングが位置する位置よりもクランク軸側に形成されている
請求項1に記載のエンジン。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<第1の実施形態>
以下、本発明のエンジンの好ましい第1の実施形態を
図1に基づいて説明する。
図1は、本発明における第1の実施形態の概要説明図である。
なお、
図1において、ピストンが上死点TDC(Top Dead Center)付近に位置した状態にあるときの4ストロークエンジン1を示している。
【0009】
4ストロークエンジン1は、
図1に示すように、シリンダ部3と、シリンダ部3の下部に取り付けられたクランクケース5と、クランクケース5の下側方向位置に配設されたオイルタンク15とを備える。
シリンダ部3は、このピストン9を
図1中の上下方向に摺動移動させるための円柱状の空間を有している。そして、この空間内に、ピストン9が
図1中において上下方向に摺動自在に間隙を有して嵌入されている。
シリンダ部3とクランクケース5及びピストン9によってクランク室7が形成されている。つまり、シリンダ部3の側面とピストン9で形成されるクランクケース5側の略円柱状空間と、クランクケース5との空間がクランク室7である。このクランク室7は、ピストン9が摺動移動するに従いその内部空間の容積が変化する。
また、シリンダヘッド26、シリンダ部3及びピストン9によって燃焼室8が形成されている。
オイルタンク15は、クランクケース5と別個に設けられ、オイルを貯留する。
【0010】
このオイルタンク15とクランクケース5との間には、クランクケース5(クランク室7)からオイルタンク15へのオイルの流れのみを許容するクランク室逆止弁17が設けられている。
ところで、ピストン9が下死点BDC(Bottom Dead Center)から上死点TDCまで移動するに従い、クランク室7内の圧力は負圧になる。逆に、ピストン9が上死点TDCから下死点BDCまで移動するに従い、クランク室7内の圧力は正圧になる。
しかし、クランク室逆止弁17が設けられていることから、クランク室7内の圧力は、容易に負圧にはなるものの、正圧はクランク室逆止弁17に用いられているバネ等の弾性力に打ち勝つだけの圧力までしか上がらない。そして、クランク室逆止弁17に用いられているバネ等の弾性力は比較的弱いことから、クランク室7は正圧側にはわずかにしか昇圧しない。
なおクランク室7は、ピストン9が下死点BDC(Bottom Dead Center)から上死点TDCまで移動するに従い、クランク室7内の圧力は負圧になることから、負圧部である。
なお、このクランク室7内の圧力は、クランク軸13aが1回転に付き1回の割合で変動する。この点が、クランク軸13aが2回転に付き1回の割合でしか変動しない吸気又は排気の圧力と異なる。
【0011】
クランクケース5内に、クランク13が回転自在に支持されている。
このクランク13は、回転中心となるクランク軸13a、カウンタウェイト等から構成されている。
そして、ピストン9とクランク13は、コネクティングロッド11によって接続されている。
コネクティングロッド11とピストン9及びコネクティングロッド11とクランク13は、回転自在に接続されている。
このような構成によって、ピストン9は、シリンダ部3内を往復摺動移動する。
【0012】
シリンダ部3の上壁には、シリンダヘッド26が設けられている。
そして、シリンダヘッド26には、キャブレタ25に連通する吸気ポート27、及び、排気マフラ(図示せず)に連通する排気ポート33が設けられている。
シリンダヘッド26には、吸気ポート27を開閉する吸気バルブ29が設けられている。
シリンダヘッド26には、排気ポート33を開閉する排気バルブ31が設けられている。
吸気ポート27は、吸気バルブ29が開閉する毎に負圧となる。そのため吸気ポート27は負圧部である。
【0013】
キャブレタ25の外側には、エアクリーナ21が設けられている。
そのエアクリーナ21内に、フィルタ23が配置されている。このフィルタ23を空気が通過することによって、空気中のごみ等が除去される。
【0014】
ところで、キャブレタ25は、エアクリーナ21を通過した空気に燃料を混合する装置である。具体的には、空気と燃料の混合割合及び混合された混合気の総量を調節可能である。
また、キャブレタ25において、空気中に燃料を混合するためにダイアフラム式燃料ポンプ109を有する。このダイアフラム式燃料ポンプ109は圧力変動を動力にして駆動されている。
【0015】
このダイアフラム式燃料ポンプ109を駆動する動力を供給するために、本実施形態では、ダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110と、クランク室7とを連通路104でつないでいる。
なお、ダイアフラム式燃料ポンプ109は、圧力変動に応じて変位するダイアフラム108が設けられている。
この第1の実施形態では、連通路104はシリンダ部3の部分で開口しているが、その他の負圧部であっても良い。
連通路104がシリンダ部3部分に開口した場合には、ダイアフラム式燃料ポンプ109にパルス的に負圧を供給することができる利点ある。なお、この点は、後述する。
【0016】
この連通路104のクランク室7側にはクランク室側開口部103が設けられている。
そして、連通路104中に大気圧開口通路107を接続している。
この大気圧開口通路107の一方は、エアクリーナ21内部(フィルタ23を空気が通過した後の空間)に開口するエアクリーナ側開口部117を有している。この大気圧開口通路107の他方は連通路104の管路の途中に開口している。
なお、連通路104について、この大気圧開口通路107との接続箇所を境にダイアフラム室110側をダイアフラム室側連通路113とし、クランク室7側をクランク室側連通路105とする。
【0017】
大気圧開口通路107が存在することから、オイル等が連通路104に侵入した場合でも、クランク室7が負圧となった際に、オイル等をクランク室7に排出することができる。
なぜなら、大気圧開口通路107のエアクリーナ側開口部117は大気圧に開口しており、クランク室7が負圧になった際には、エアクリーナ側開口部117からクランク室側開口部103に向かって空気が流入し侵入したオイルを排出するからである。
なお、ダイアフラム式燃料ポンプ109の性能の低下を防ぐために、大気圧開口通路107の管路抵抗をあまりに小さく設定してはならない。
なぜなら、大気圧開口通路107の管路の管路抵抗を小さく設定してしまうと、ダイアフラム室110側ではなく大気圧開口通路107側の空気の方をクランク室7が負圧になったときに、あまりに多く吸入してしまうことになってしまうからである。
【0018】
大気圧開口通路107の管路の抵抗を設定するために、エアクリーナ側オリフィス111が設けられている。
このエアクリーナ側オリフィス111によって管路抵抗を増加させている。
管路抵抗を増やす方法としては、他にも、管路の長さを長く設定する、管路全体を細く設定する、複数回折り曲げる等の方法がある。
なお、この上述の方法を複数用いて効果を相乗的に発揮させることも当然に可能である。
また、エアクリーナ側オリフィス111は、管路抵抗を設定するために用いられているのであるから、必ずしも、エアクリーナ側開口部117の近傍に設ける必要はない。例えば、大気圧開口通路107の中央、連通路104の側等に設けられていても良い。
【0019】
クランク室側開口部103に逆流防止部の一例である逆止弁115が設けられている。
この逆止弁115は、ダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110から、負圧部の一例であるクランク室7への流体(空気)の移動のみを許容するように形成されている。
なお、逆流防止部としては、様々な形状の逆止弁115を用いることができる。
【0020】
また、大気圧開口通路107は、エアクリーナ21のフィルタ23を空気が通過した後の空間(クリーンサイド)に開口している。
このことから、大気圧開口通路107に流入する空気は、ゴミ等を含まない空気を用いることが可能となる。
【0021】
図2は、クランク室側開口部103の位置の説明図である。
なお、
図2において、実線で示されたピストン9が上死点TDCにおけるピストン9の位置であり、破線で示されたピストン9が下死点BDCにおけるピストン9の位置である。
【0022】
なお、ピストン9はピストンヘッド9aとこれに続く、スカート部9bを有しており、スカート部9bのクランク室7側の端部に終端部9cが形成されている。
【0023】
本実施形態では、
図2に示すように、連通路104のクランク室7側のクランク室側開口部103は、ピストン9が上死点TDCにある場合にピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍となる位置に開口するように形成されている。
このようにすることによって、クランク室7(クランクケース5)に生ずる正圧によってオイル等が連通路104及びダイアフラム室110への侵入を防止している。
さらに、連通路104のクランク室7側のクランク室側開口部103は、ピストン9が上死点TDCにある場合に終端部9cが位置する位置よりもクランク軸13a側に開口するように形成されている。
このような位置にクランク室側開口部103を形成したことによって、正圧時に連通路104を閉じることができ、連通路104に実質的に負圧のみを供給することが可能となる。
そして、負圧も負圧が最大(最低)になった瞬間に、クランク室側開口部103開口することができ、パルス状の負圧をダイアフラム室110に提供することができる。
そのことによって、より確実にダイアフラム式燃料ポンプ109を駆動することが可能となる。
【0024】
ピストン9の側面の燃焼室8側位置には、輪型のピストンリング52が嵌めこまれている。このピストンリング52は、コンプレッションリング53及びオイルリング51によって構成されている。
コンプレッションリング53は、燃焼室8とクランク室7とを仕切るためのものであるから、シリンダ部3と常に密着している必要がある。しかし、他方でコンプレッションリング53は摺動移動することから摩耗を防ぐためにオイルによる潤滑が必要である。
そのためコンプレッションリング53とオイルリング51の間のオイルリング51よりも燃焼室8側のシリンダ部3とピストン9との間隙部にはオイルを多く存在させている。
ところで、本発明のエンジン(4ストーロークルエンジン1)を、刈払機、チェンソーなどのように姿勢の変動が大きな作業機に搭載した場合には、連通路104が下側になる姿勢で作業が行われる場合がある。また、作業者が連通路104を下側にして作業機を放置する場合もありうる。
これによれば、連通路104を介しキャブレタ25内にオイルが侵入することでキャブレタ25のダイアフラム108が正常に動作しないという不具合が起こる場合がある。
本発明は、このような不具合を後述の逆止弁115に代表される逆流防止部によって防止するものである。
【0025】
クランク室側開口部103が、ピストン9が下死点BDCにある場合にピストン9のオイルリング51が位置する場所から離れた位置に形成されると、その分長いスカート部9bが必要となり、ピストン9を大きく構成しなければならなくなってしまう場合がある。
そこで、本実施形態では、クランク室側開口部103が、ピストン9が下死点BDCにある場合にピストン9のオイルリング51が位置する場所の近傍となる位置に形成して、ピストン9の小型化を図りつつ、オイルがクランク室側開口部103に集中することを防いでいる。
【0026】
なお、
図2のように、ピストン9が上死点TDCにある場合に、クランク室側開口部103の位置が、ピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍となるように形成された本実施形態においては、大気圧開口通路107が必須である。
つまり、大気圧開口通路107が無いと連通路104に負圧が提供されてもダイアフラム式燃料ポンプ109は十分な性能を発揮することができない。
なぜなら、ピストン9が上死点TDCとなり、連通路104内が最大の負圧になった後に圧力が正圧側に復帰する前に、スカート部9bによってクランク室側開口部103が閉塞されてしまう。そうすると、連通路104内は、負圧がそのままの状態で留まることになり、十分な圧力変動が得られなくなるからである。そして、次のストロークによって、ピストン9が上死点TDCになるときには、その一定程度の負圧状態から、負圧が最大の状態までしか圧力が低下しない。ダイアフラム式燃料ポンプ109は圧力変動の大きさによって、駆動されるものであるから、圧力変動が少ないとダイアフラム式燃料ポンプ109が駆動できない。
そこで、本実施形態では、大気圧開口通路107を設けピストン9のスカート部9bによってクランク室側開口部103が閉塞されている間に、連通路104に空気を供給してダイアフラム室110の圧力変動を大きくする構造としている。
なお、本実施形態の構成では、クランク室側開口部103が閉塞されている時間は開放されている時間よりもかなり長いため、大気圧開口通路107の流路抵抗が多少大きな状態としていても、連通路104には十分な量の空気を供給できる。そして、それによって、連通路104に十分な大きさの圧力変動を与えることができる。
【0027】
なお、本発明においては、逆流防止部(逆止弁115)が設けられていることから、ピストン9が上死点TDCにある場合に、クランク室側開口部103の位置が、ピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍となるように形成する必然性は無い。
しかし、この位置(
図2における位置)に設けたことによって、連通路104を介してダイアフラム室110に加わる負圧がパルス的になる。
なぜなら、このような位置に、クランク室側開口部103を設けると、クランク室7内が負圧となっても、ピストン9が上死点TDCの近傍に来るまで、クランク室側開口部103はピストン9のスカート部9bによって蓋がされた状態が維持される。
そして、ピストン9が上死点TDCの近傍に来るとクランク室7の負圧はほぼ最大(最低)の状態となる。その状態で、クランク室側開口部103の蓋として機能していたスカート部9bが移動して除去されることとなる。その結果、連通路104を介してダイアフラム室110に加わる負圧がパルス的になるからである。
このような理由から、第1の実施形態では、ダイアフラム式燃料ポンプ109をより強力に駆動することが可能となる。もっとも、この位置ではなくても負圧がある場所であればダイアフラム式燃料ポンプ109は駆動可能であることはいうまでもない。
【0028】
図3は、逆止弁115の構造等の説明図である。
【0029】
図3のように、連通路104はサイド部材55に設けられると好適である。このサイド部材55は、連通路104を設ける機能に加えて、逆止弁115を所定の位置に位置決めする機能も有している。
また、サイド部材55は、たとえば、各種のオイルの通過経路、燃料の通過経路、空気の通過経路、ブローバイガスの通過経路が形成されていても良い。
さらに、サイド部材55は、キャブレタ25、エアクリーナ21等を保持するための部材として機能しても良い。また、このサイド部材55と、キャブレタ25、エアクリーナ21等が一体に形成されていても良い。
【0030】
シリンダ部3には、
図3のように、シリンダ部3の外部側から順に、第1円柱状空間部116a、第2円柱状空間部116b、第3円柱状空間部116cが形成されている。
第1円柱状空間部116aの直径は、第2円柱状空間部116bの直径よりも大きく形成されている。
第2円柱状空間部116bの直径は、第3円柱状空間部116cよりも大きく形成されている。
また、第1円柱状空間部116aの中心軸、第2円柱状空間部116bの中心軸、及び、第3円柱状空間部116cの中心軸は、同一の軸上に形成されている。
【0031】
逆止弁115は、第1弾性部材115a、第2弾性部材115b、及び、第3弾性部材115cを有している。
第1弾性部材115aは、中心に円柱状の空洞が形成された、円盤状の形状を有している。そして、第1弾性部材115aは、逆止弁115を所定の位置に固定するための部材である。この第1弾性部材115aは、第1円柱状空間部116a内に配置される。
第2弾性部材115bは、円筒状の形状を有している。この第2弾性部材115bは、第2円柱状空間部116bの内部に配置される。
第3弾性部材115cは、
図3の中上下方向から、中心に向かって傾斜する構造を有している。そして、この第3弾性部材115cの中心付近には、一直線に開口する逆止弁開口部115dが形成されている。
このような構造から、逆止弁115は、ダイアフラム室110から、シリンダ部3への流体の移動のみを許容する。
【0032】
第1円柱状空間部116aは、第1弾性部材115aを収容する形状に形成されている。より具体的には、第1弾性部材115aよりも高さ(厚さ)が少なく形成されている。これによって、サイド部材55のシリンダ部3側の外壁と第1円柱状空間部116aのシリンダ部3の内部側の壁との間で、第1弾性部材115aを圧縮して挟持することができる。
その結果、逆止弁115は、所定の位置に位置決め・固定される。
【0033】
逆止弁115はシリンダ部3に配置されることから、逆止弁115は耐熱性を有する必要がある。また、シリンダ部3にはオイルが存在することから、逆止弁115は耐オイル性を有する必要がある。
なお、この逆止弁115の構造から、逆止弁115を構成する部材は、少なくとも第3弾性部材115cは弾性力を有する必要がある。
さらになお、逆止弁115の構造はこれに限定されず、ポペット式、スイング式、ウエハー式、リフト式、ボール式、フート式であってよい。
【0034】
サイド部材55は、ボルト部材125によってシリンダ部3に取付けられる。
このように、ボルト部材125によってサイド部材55が取り付けられることから、容易にサイド部材55をシリンダ部3の所定の位置に位置決め・固定することができる。
また、サイド部材55が容易に取り付けられることから、結果的に、逆止弁115を容易に位置決め・固定することができる。
その結果、4ストロークエンジン1の組み立て性が向上する。
なお、ボルト部材125は、ボルトに限定されず、サイド部材55をシリンダ部3の所定の位置に位置決め・固定することができるものであればどのようなものであっても良い。
【0035】
図4は、ダイアフラム式燃料ポンプ109が用いられているキャブレタ25の構造の説明図である。
【0036】
図4に示すように、キャブレタ25はキャブレタ本体1102を備えている。
キャブレタ本体1102には、クランク室7に連通する連通路104が形成されている。
この連通路104をダイアフラム式燃料ポンプ109の一方の側(図中上面)であるダイアフラム室110に臨ませている。
このダイアフラム式燃料ポンプ109の他方の側(図中下面)には、ポンプ室1108が形成されている。
ポンプ室1108には、インレットバルブ1110を介してフューエルインレット1112が連通し、アウトレットバルブ1114およびニードルバルブ1116を介してメタリングダイアフラム1120のメタリングチャンバ1118が連通している。
なお、フューエルインレット1112は、フューエルタンク(図示せず)に接続されている。
また、連通路104のクランク室7側のクランク室側開口部103は、クランク室7のシリンダ部3に形成されている。
【0037】
クランク室7内では、容積変化にともなって圧力変化が生じる。
前述したように、この圧力変化のうち負圧のみが、連通路104を介してダイアフラム室110に作用する。
そして、ダイアフラム室110に作用する負圧によってダイアフラム式燃料ポンプ109は駆動される。
より具体的には、ダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110に負圧が作用して、ダイアフラム108がダイアフラム室110側に撓む時に、ポンプ室1108側に負圧が作用する。このポンプ室1108の負圧によって、アウトレットバルブ1114が閉じられたままインレットバルブ1110が開弁し、フューエルインレット1112からポンプ室1108に燃料が吸入される。
次に、この状態でダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110に作用していた負圧が正圧に転じると、ダイアフラム108の弾性作用によってダイアフラム108が元の状態に戻ろうとする。
そうすると、ポンプ室1108側に正圧が作用することになる。
そして、ダイアフラム108の運動によってポンプ室1108側に正圧が作用すると、インレットバルブ1110が閉じられたままアウトレットバルブ1114が開弁し、ポンプ室1108から燃料が吐出される。
この吐出された燃料は、ニードルバルブ1116を介してメタリングダイアフラム1120のメタリングチャンバ1118に供給される。
【0038】
メタリングチャンバ1118は、メタリングダイアフラム1120によって背圧室1122と区画されている。
背圧室1122には4ストロークエンジン1の圧力が作用しており、メタリングダイアフラム1120は、4ストロークエンジン1の圧力とメタリングチャンバ1118との圧力差によって駆動されることとなる。
なお、この背圧室1122とエンジンの負圧とを連通する通路は図示していない。
このメタリングダイアフラム1120は、コントロールレバー1124を介して上記のニードルバルブ1116に接続されており、このメタリングダイアフラム1120の作動によってニードルバルブ1116が開閉するようにしている。
具体的には、メタリングチャンバ1118が燃料で満たされると、メタリングチャンバ1118が昇圧し、メタリングダイアフラム1120が背圧室1122側に撓む。
このとき、コントロールレバースプリング1126の弾性力により、コントロールレバー1124は、その一端(図中左側)が押し下げられるとともに、他端(図中右側)が押し上げられるように回動する。
こうしたコントロールレバー1124の回動動作によって、ニードルバルブ1116が押し上げられ、ポンプ室1108とメタリングチャンバ1118の連通が遮断されることとなる。
【0039】
また、キャブレタ本体1102には、シリンダ部3に形成された吸気ポート27と、エアクリーナ21とを接続する通路1128が形成されている。
この通路1128は、上流側(エアクリーナ21側)を大径部1128aとし、下流側(吸気ポート27側)を大径部1128aよりも小径のベンチュリ部1128bとしており、このベンチュリ部1128bに、その開度を変位させるスロットルバルブ1130が設けられている。
このスロットルバルブ1130は、その回転軸を通路1128に直交させており、回転レバー1130aを操作することによって図中上下方向にスライドしながら回転し、その回転量によってベンチュリ部1128bの開度が変位するようにしている。
【0040】
また、このスロットルバルブ1130には、その回転軸と同軸状に、通路1128を流通する空気に混合される燃料の量を微調整するための第1アジャスタスクリュ1131が設けられている。
この第1アジャスタスクリュ1131には、その回転軸と同軸状に、第2アジャスタスクリュ1132が設けられている。第2アジャスタスクリュ1132は、図中の上下方向に延びるように設けられ、上方から下方に向かって、後述するノズル1134の内径寸法と略同一の外径寸法から二段階に外形寸法が小さくなる。
第2アジャスタスクリュ1132の先端には、後述するメインジェット1136を切り換えるための切り換え部1132aが設けられている。この第1アジャスタスクリュ1131は、スロットルバルブ1130に対して一方(ねじ締めつけ方向)に回転すると図中下方に移動し、これとは逆に、スロットルバルブ1130に対して他方(ねじ戻し方向)に回転すると図中上方に移動する。
第2アジャスタスクリュ1132は、第1アジャスタスクリュ1131と同様に、第1アジャスタスクリュ1131に対して一方(ねじ締めつけ方向)に回転すると図中下方に移動し、これとは逆に、第1アジャスタスクリュ1131に対して他方(ねじ戻し方向)に回転すると図中上方に移動する。
【0041】
また、キャブレタ本体1102には、第2アジャスタスクリュ1132に対向するようにノズル1134が設けられており、このノズル1134のノズル先端1134aに、第2アジャスタスクリュ1132の先端が挿入されている。
さらに、ノズル1134には、通路1128に開口する孔1134bが形成されており、この孔1134bに連通する基端1134cを、メタリングチャンバ1118に臨ませている。
なお、孔1134bとメタリングチャンバ1118との間には、混合比調整手段且つ燃料調整機構としてのメインジェット1136およびメインチェックバルブ1138が設けられている。
【0042】
図5は、ノズル1134の説明図である。なお、
図6は、
図5のA−Aにおける断面図である。
【0043】
メインジェット1136は、
図5及び
図6に示すように、所定の開口面積でノズル1134の孔1134bとメタリングチャンバ1118とを連通する第1メインジェット部1136aと、第1メインジェット部1136aよりも大きい開口面積でノズル1134の孔1134bとメタリングチャンバ1118とを連通する第2メインジェット部1136bとを有する。
メインジェット1136は、第2アジャスタスクリュ1132の切り換え部1132aによって第1メインジェット部1136a及び第2メインジェット部1136bの一方が閉鎖され、他方がノズル1134の孔1134bとメタリングチャンバ1118とを連通する。メインジェット1136は、第2アジャスタスクリュ1132を第1アジャスタスクリュ1131に対して回転させることにより、第1メインジェット部1136a及び第2メインジェット部1136bの閉鎖と開放が切り換えられる。
つまり、メインジェット1136は、使用する燃料に応じて第1アジャスタスクリュ1131に対して第2アジャスタスクリュ1132を回転させることにより、第1メインジェット部1136a及び第2メインジェット部1136bの一方に燃料を流通させる。
【0044】
図7は、本実施形態の効果の説明図である。
【0045】
ピストン9が上死点TDC及び下死点BDCを往復するに従い、
図7の(A)の実線及び点線に示すようにクランク室7の圧力は変動する。
他方、吸気ポート27内の圧力は
図7の(B)のようにクランク軸13aの2回転に一回しか変動しない。そのため、この吸気ポート27の圧力をダイアフラム式燃料ポンプ109の動力源とすることは適切ではない。
本実施形態のように、連通路104のクランク室7側のクランク室側開口部103は、ピストン9が上死点TDCにある場合にピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍となる位置に開口するように形成されていると、クランク室側開口部103付近で、クランク室7の圧力が
図7の(A)の実線に示すように作用する。
しかし、単に、連通路104のクランク室7側のクランク室側開口部103は、ピストン9が上死点TDCにある場合にピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍となる位置に開口するように形成されているものの、大気圧開口通路107を設けない構成では、連通路104内の圧力は
図7の(C)のようにしか変動しない。これでは、圧力変動の振幅の大きさによって駆動されるダイアフラム式燃料ポンプ109は、満足に稼働しない。
そこで、大気圧開口通路107を連通路104に接続し、大気圧空間の空気を連通路104に供給できるようにすることによって大気圧に近い状態に復帰させ、
図7の(D)のように圧力変動が大きな状態にできる。
なお、
図7の(D)の点線aは大気圧開口通路107のエアクリーナ側開口部117にエアクリーナ側オリフィス111を設け無い場合の圧力変動であり、
図7の(D)の実線bは大気圧開口通路107のエアクリーナ側開口部117にエアクリーナ側オリフィス111を設けた場合の圧力変動である。
このように、エアクリーナ側オリフィス111を設けたことによって、大気圧開口通路107の流路抵抗を適度に増大させて、クランク室7と連通路104が連通した状態時に大気圧開口通路107から空気を必要以上に吸わないようにしている。
なお、エアクリーナ側オリフィス111は必ずしも必要ではなく、管路を細くする、長くする、折れ曲がらせる等して管路抵抗を調整することも可能である。
ただ、これらの方法であると管路抵抗の調整が容易ではない。したがって、エアクリーナ側オリフィス111を設けることが好適である。
【0046】
さらに、大気圧開口通路107があることによって、連通路104内に入り込んだオイル等を大気から吸入した空気と共に排出することが可能となる。
なお、このためには、大気圧開口通路107から連通路104に流出する空気の流速が速い構成が好適である。
【0047】
<第2の実施形態>
図8は、第2の実施形態の説明図である。
図9は、第2の実施形態の詳細な説明図である。
【0048】
大気圧開口通路107を、連通路104ではなくダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110に連通させる。
なお、この場合にも大気圧開口通路107のエアクリーナ側開口部117にエアクリーナ側オリフィス111が設けられていると好適である。
【0049】
図9のように、キャブレタ25内部に大気圧開口通路107を形成している。
この大気圧開口通路107は、エアクリーナ21側に繋がっているので、容易に、エアクリーナと連通させることが可能となっている。
【0050】
<第3の実施形態>
図10は、第3の実施形態の説明図である。
【0051】
図10のように、連通路104からクランクケース5に直接、連通路104を設けても良い。
このように構成したことによって、より簡易な構造によってダイアフラム式燃料ポンプ109を駆動する機構を構成することができる。
【0052】
以上の実施形態では、連通路104は、シリンダ部3又はクランクケース5に開口していた。しかし、本発明においては、連通路104は負圧となる部分に形成すれば足りるのであるから、例えば、吸気ポート27に開口してもよい。
その他、連通路104は4ストロークエンジン1の負圧となる負圧部に開口していれば良い。
【0053】
<実施形態の構成及び効果>
本発明の4ストロークエンジン1は、ピストン9と、キャブレタ25と、を有し、キャブレタ25は、ダイアフラム式燃料ポンプ109を有し、ダイアフラム式燃料ポンプ109は、燃料を吸入及び吐出するポンプ室1108と、ポンプ室1108を駆動する圧力が供給されるダイアフラム室110と、を有し、ピストン9の変動によって負圧となる負圧部と、ダイアフラム室110とを接続する連通路104を有し、連通路104に、ダイアフラム室110側から負圧部(シリンダ部3内)側への流体の移動のみを許容する逆流防止部(逆止弁115)が配設されている。
このような構成を有することから、ダイアフラム式燃料ポンプ109のダイアフラム室110へ負圧部からの負圧を提供しつつ、その負圧を提供する連通路104内により確実にオイルが流入しないエンジンを提供することができる。
【0054】
負圧部(シリンダ部3内)は、ピストン9が摺動移動するクランク室である。
このような構成を有することから、ダイアフラム室110へより確実に負圧を供給することができ、ダイアフラム式燃料ポンプ109の性能を向上させることができる。
【0055】
逆流防止部(逆止弁115)は、シリンダ部3のクランク室側開口部103に形成されている。
このような構成を有することから、ダイアフラム室110へパルス的な負圧を供給することができ、ダイアフラム式燃料ポンプ109の性能を向上させることができる。
【0056】
連通路104は、シリンダ部3に当接するサイド部材55内に形成され、サイド部材55は、逆流防止部(逆止弁115)をシリンダ部3内に位置決め及び固定する。
このような構成を有することから、4ストロークエンジン1の組み立て性等が向上する。
【0057】
連通路104には、大気圧空間と連通する大気圧開口通路107が接続されている。
このような構成を有することから、連続して、ダイアフラム式燃料ポンプ109を駆動することができる。
【0058】
ダイアフラム室110には、大気圧と連通する大気圧開口通路107が接続されている。
このような構成を有することから、キャブレタ25内を貫通する通路を設ける等によって大気圧開口通路107を形成することができ、大気圧開口通路107を容易に形成することが可能となる。
【0059】
大気圧開口通路107は、キャブレタ25内に形成され、大気圧開口通路107は、エアフィルタ21内に開口している。
このような構成を有することから、ダイアフラム式燃料ポンプ109内へ粉塵等が侵入することを防ぐことができる。
さらに、シリンダ部内に粉塵の侵入を防ぐことができる。
【0060】
連通路104のクランク室7側の開口部(クランク室側開口部103)は、クランク室7のピストン9が往復移動するシリンダ部3のピストン9が上死点TDCにある場合にピストン9のスカート部9bの終端部9cが位置する位置の近傍に形成されている。
このような構成を有することから、ダイアフラム室110へパルス的な負圧を供給することができ、ダイアフラム式燃料ポンプ109の性能を向上させることができる。
【0061】
連通路104のクランク室7側の開口部(クランク室側開口部103)は、クランク室7のピストンが往復移動するシリンダ部3のピストン9が下死点BDCにある場合にピストンリング52が位置する位置よりもクランク軸13a側に形成されている。
このような構成を有することから、クランク室側開口部103にオイルが付着することを低減することができる。
【0062】
連通路104のクランク室7側の開口部(クランク室側開口部103)は、ピストン9が下死点BDCにある場合にピストン9のピストンリング52が位置する場所の近傍となる位置に形成されている。
このような構成を有することから、ピストン9の小型化を図りつつ、オイルがクランク室側開口部103に集中すること防いでいる。
【0063】
連通路104又はダイアフラム室110と接続されて大気圧空間と連通する大気圧開口通路107には、オリフィス(エアクリーナ側オリフィス111)が形成されている。
このような構成を有することから、連通路104の流路抵抗を設計のとおりに、容易に形成することが可能となる。
【0064】
以上では、4ストロークエンジンについて実施形態を説明したが、2ストロークエンジンであっても同様の効果を得ることができる。
【0065】
また、本発明は以上の実施形態に限定されるものではなく、様々な変化した構造、構成を有していて良い。
【0066】
本発明における負圧部は、大気圧よりも定期的に負圧になる部分であれば、どのような部分であっても良い。例えば、クランク室7のシリンダ部3部分であっても良いし、クランク室7のクランクケース5部分であってよいし、吸気ポート27部分等であってよい。
本発明における逆流防止部の一例が、逆止弁115である。本発明における逆流防止部は、一方方向への流体の移動のみを許容するものであればどのようなものであっても良い。
【0067】
上記の実施形態においては、シリンダヘッド26、シリンダ部3とが分離しているエンジンについて説明したが、シリンダヘッドとシリンダ部とが一体に形成されており、ピストンとで燃焼室が形成されるものであっても、本発明は上述の効果を同様に発揮することができる。