特許第5961470号(P5961470)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5961470-コンクリートの打継施工方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961470
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】コンクリートの打継施工方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
   E04G21/02 103A
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-166201(P2012-166201)
(22)【出願日】2012年7月26日
(65)【公開番号】特開2014-25262(P2014-25262A)
(43)【公開日】2014年2月6日
【審査請求日】2015年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 聖
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】横関 康祐
(72)【発明者】
【氏名】坂元 春美
(72)【発明者】
【氏名】佐野 忍
(72)【発明者】
【氏名】中谷 行博
(72)【発明者】
【氏名】鯨井 義昭
【審査官】 津熊 哲朗
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭62−288265(JP,A)
【文献】 特開昭58−156627(JP,A)
【文献】 特開平10−280687(JP,A)
【文献】 特開2005−030164(JP,A)
【文献】 特開昭61−045065(JP,A)
【文献】 特開平04−222771(JP,A)
【文献】 特開昭63−078966(JP,A)
【文献】 特開昭61−221455(JP,A)
【文献】 特開平11−217934(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、
前記既存構造体の上面に、前記新設コンクリート用の型枠を設置する型枠設置工程と、
前記型枠内の底部における前記既存構造体の上面に、前記新設コンクリートよりも遅く硬化する遅延硬化層を設ける遅延硬化層設置工程と、
前記型枠内の前記遅延硬化層の上に前記新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備え、
前記遅延硬化層設置工程では、
JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験によるスランプフロー値が600〜700mmである軟練りの超遅延コンクリート、又はJIS R 5201に規定されたモルタルフロー試験によるモルタルフロー値が250〜350mmである軟練りの超遅延モルタルを前記型枠内の底部に充填することを特徴とするコンクリートの打継施工方法。
【請求項2】
前記遅延硬化層設置工程では、
前記遅延硬化層の厚さを、
前記新設コンクリートが硬化してなる新設コンクリート体と遅延硬化層とを合わせた全体の厚さの5%以下とすることを特徴とする請求項1に記載のコンクリートの打継施工方法。
【請求項3】
前記新設コンクリート打設工程の後、
前記型枠を撤去し、前記新設コンクリートの側面と前記遅延硬化層の側面とを露出させる型枠撤去工程と、
露出した前記遅延硬化層の側面に養生を施して前記遅延硬化層を硬化させる遅延硬化層硬化工程と、を更に備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリートの打継施工方法。
【請求項4】
既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、
前記既存構造体の上面に、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤である超遅延剤を塗布する超遅延剤塗布工程と、
前記既存構造体の上面の、前記超遅延剤が塗布された領域から隙間をあけた外側の位置に型枠を設置する工程と、
前記型枠内に前記新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備えることを特徴とするコンクリートの打継施工方法。
【請求項5】
既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、
前記既存構造体の上面に、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤である超遅延剤をストライプ状に塗布する超遅延剤塗布工程と、
前記超遅延剤の塗布部分の上に前記新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備えることを特徴とするコンクリートの打継施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
既存構造体(既設のコンクリート構造物や既存の岩盤等)などの上に新設コンクリートを打ち継ぐ場合には、新設コンクリートに温度ひび割れが生じる場合がある。このような温度ひび割れは、新設コンクリートの硬化過程において、硬化時の温度変化による収縮が既存構造体に拘束され、新設コンクリートに引張応力が生じることで発生する。このような新設コンクリートのひび割れを低減する方法としては、超遅延剤を用いて凝結時間を遅らせた超遅延モルタル又は超遅延コンクリートを打継ぎ部に敷設しておき、その上に新設コンクリートを打込む方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭58−156627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の方法では、新設コンクリートの打込み時に、打継ぎ部に敷設した超遅延モルタル又は超遅延コンクリートが、流されて偏在したり、新設コンクリートと混ざってしまったり、不均一に偏在したりすることで、新設コンクリートのひび割れ抑制効果が十分に発揮されない場合がある。
【0005】
このような問題に鑑み、本発明は、新設コンクリートのひび割れを十分に抑制することができるコンクリートの打継施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の打継施工方法は、既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、既存構造体の上面に、新設コンクリート用の型枠を設置する型枠設置工程と、型枠内の底部における既存構造体の上面に、新設コンクリートよりも遅く硬化する遅延硬化層を設ける遅延硬化層設置工程と、型枠内の遅延硬化層の上に新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備え、遅延硬化層設置工程では、JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験によるスランプフロー値が600〜700mmである軟練りの超遅延コンクリート、又はJIS R 5201に規定されたモルタルフロー試験によるモルタルフロー値が250〜350mmである軟練りの超遅延モルタルを型枠内の底部に充填することを特徴とする。
【0007】
この打継設施工方法によれば、新設コンクリートと既存構造体との間に、硬化が遅い遅延硬化層が設けられる。新設コンクリートの硬化過程において、未硬化である遅延硬化層は比較的柔らかいので、このような遅延硬化層の介在により、新設コンクリートの硬化過程の伸縮が既存構造体から絶縁され、新設コンクリートの伸縮が既存構造体に拘束される作用が低減される。その結果、新設コンクリートのひび割れが抑制される。
【0008】
また、この打継施工方法によれば、新設コンクリート用の型枠を設置し、当該新設コンクリート用の型枠内に遅延硬化層を設ける。よって、遅延硬化層の専用の型枠を設置する手間が省略され、作業性が向上する。ここで、型枠内に設置される遅延硬化層が平坦でなければ、既存構造体と新設コンクリートとの間に存在する遅延物質に偏在が生じ、ひび割れ抑制効果が十分に得られない場合もある。ところが、遅延硬化層設置工程では、新設コンクリート用の型枠内の底部の深い位置に遅延硬化層が設けられることになる。更に、型枠内には鉄筋などが存在する場合もあるので、型枠内の底部に位置する遅延硬化層へのアクセスが困難であり、新設コンクリート打設工程の前に遅延硬化層の表面を平坦化する作業が困難である。
【0009】
これに対し、本発明の打継施工方法によれば、超遅延コンクリートのスランプフロー値の下限値を600mmとする、又は超遅延モルタルのモルタルフロー値の下限値を250mmとすることにより、当該コンクリート又はモルタルは十分な流動性を有し、その結果、型枠内に投入するだけで遅延硬化層の表面が平坦になりやすい。よって、前述のような新設コンクリートのひび割れ抑制効果が十分に発揮される。
【0010】
また、遅延硬化層のブリーディングが抑制できる範囲で最大の値として、超遅延コンクリートのスランプフロー値の上限値を700mmとし、超遅延モルタルのモルタルフロー値の上限値を350mmとする。
【0011】
また、遅延硬化層設置工程では、遅延硬化層の厚さを、新設コンクリートが硬化してなる新設コンクリート体と遅延硬化層とを合わせた全体の厚さの5%以下とすることとしてもよい。
【0012】
遅延硬化層は、硬化に長期間が必要であり、硬化するまでの間は、構造上の脆弱部分である。上記構成によれば、脆弱部分である遅延硬化層の厚さを比較的薄くすることにより、遅延硬化層の硬化前において型枠を撤去することも可能になる。よって、遅延硬化層用の型枠と新設コンクリート用の型枠と、を二重に設置するといったことが不要になり、作業性が向上する。
【0013】
本発明の打継施工方法は、新設コンクリート打設工程の後、型枠を撤去し、新設コンクリートの側面と遅延硬化層の側面とを露出させる型枠撤去工程と、露出した遅延硬化層の側面に養生を施して遅延硬化層を硬化させる遅延硬化層硬化工程と、を更に備えたこととしてもよい。
【0014】
本発明の打継施工方法は、既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、既存構造体の上面に、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤である超遅延剤を塗布する超遅延剤塗布工程と、既存構造体の上面の、超遅延剤が塗布された領域から隙間をあけた外側の位置に型枠を設置する工程と、型枠内に新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備えることを特徴とする。
本発明の打継施工方法は、既存構造体の上に新設コンクリートを打継ぐコンクリートの打継施工方法であって、既存構造体の上面に、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤である超遅延剤をストライプ状に塗布する超遅延剤塗布工程と、超遅延剤の塗布部分の上に新設コンクリートを打設する新設コンクリート打設工程と、を備えることを特徴とする。
【0015】
この打継設施工方法によれば、新設コンクリートと既存構造体との間に、塗布された超遅延剤が存在する。これにより、打設された新設コンクリートの下部に超遅延剤が混入し、新設コンクリートの下部には、硬化が遅延された遅延硬化部が形成される。新設コンクリートの硬化過程において、未硬化である遅延硬化部は比較的柔らかいので、このような遅延硬化部の存在により、新設コンクリートの硬化過程の伸縮が既存構造体から絶縁され、新設コンクリートの伸縮が既存構造体に拘束される作用が低減される。その結果、新設コンクリートのひび割れが抑制される。また、超遅延剤は、比較的薄く塗布すればよいので、新設コンクリートが打設されるときに流され難い。よって、遅延硬化部が上記のような絶縁作用を十分に発揮し、新設コンクリートのひび割れが十分に抑制される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のコンクリートの打継施工方法によれば、新設コンクリートのひび割れを十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a)〜(c)は、本発明の第1実施形態に係る打継施工方法により施工されるコンクリート構造物を示す断面図である。
図2】(a),(b)は、第1実施形態に係る打継施工方法の変形例を示す断面図である。
図3】(a)は、本発明の第2実施形態に係る打継施工方法により施工されるコンクリート構造物を示す断面図であり、(b)は、その変形例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明に係るコンクリートの打継施工方法の実施形態について詳細に説明する。なお、同一又は同等の構成要素には、図面に同一の符号を付して重複する説明を省略するものとする。
【0019】
〔第1実施形態〕
図1に示すように、本実施形態のコンクリートの打継施工方法は、既設のコンクリート構造物(既存構造体)11の上に新設コンクリート19を打継いで新設コンクリート体21を施工する方法である。本実施形態のコンクリートの打継施工方法は、以下に説明する型枠設置工程と、遅延層設置工程と、新設コンクリート打設工程と、型枠撤去工程と、遅延硬化層硬化工程と、を備えている。
【0020】
(型枠設置工程)
図1(a)に示すように、既設コンクリート構造物11上で新設コンクリート体21(例えば、柱や壁体等)の設置予定位置Aには、新設コンクリート体21に埋設される鉄筋13が上面11aから突出するように予め設けられている。この鉄筋13を囲んで既設コンクリート構造物11の上面11aに型枠15を設置する。
【0021】
(遅延硬化層設置工程)
続いて、型枠15内に超遅延コンクリート又は超遅延モルタルを投入し、所定の厚さの遅延硬化層17を形成する。この場合、投入する超遅延コンクリート又は超遅延モルタルは超遅延剤を含んでおり、遅延硬化層17は新設コンクリート19よりも遅く硬化する。超遅延剤としては、例えば、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤などを用いることができる。また、遅延硬化層17の厚さは、建造予定の新設コンクリート体21と遅延硬化層17とを合わせた全体の厚さ(高さ)の5%以下とすることが好ましい。
【0022】
上記超遅延コンクリートは、軟練りのものを使用する。具体的には、上記超遅延コンクリートとして、JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験によるスランプフロー値が600〜700mmのものを使用する。以下、コンクリートについて「軟練り」とは、JIS A 1150に規定されたスランプフロー試験によるスランプフロー値が600〜700mmのものを指すものとする。型枠15内に充填する前に超遅延コンクリートのスランプフロー試験を行い、超遅延コンクリートが上記の条件を満足することを確認する。軟練りの超遅延コンクリートの配合の一例は以下の通りである。
粉体(セメントを含む)…600kg/m3
水 …175kg/m3
細骨材 …740kg/m3
粗骨材 …789kg/m3
超遅延剤 …12kg/m3
【0023】
また、上記超遅延コンクリートに代えて、軟練りの超遅延モルタルを使用してもよい。具体的には、超遅延モルタルとして、JIS R 5201に規定されたモルタルフロー試験によるモルタルフロー値が250〜350mmであるものを使用する。以下、モルタルについて「軟練り」とは、JIS R 5201に規定されたモルタルフロー試験によるモルタルフロー値が250〜350mmであるものを指すものとする。型枠15内に充填する前に超遅延モルタルのモルタルフロー試験を行い、超遅延モルタルが上記の条件を満足することを確認する。軟練りの超遅延モルタルの配合の一例は以下の通りである。
セメント …656kg/m3
水 …295kg/m3
細骨材 …1312kg/m3
超遅延剤 …13.12kg/m3
【0024】
なお、上記の超遅延コンクリート又は超遅延モルタルには、更にセピオライトを用いてもよい。セピオライトを用いた場合、超遅延コンクリート又は超遅延モルタルに粘性と保湿性とが付与され、遅延硬化層17の硬化過程での乾燥によるひび割れの発生が低減される。また、セピオライトを用いることにより、遅延硬化層17におけるブリーディングの発生や、骨材の沈下などの材料分離の発生を低減することもできる。
【0025】
(新設コンクリート打設工程)
続いて、図1(b)に示すように、遅延硬化層17の上から型枠15内に新設コンクリート19を打設する。新設コンクリート19は、超遅延剤等を含まない通常のコンクリートであるので、遅延硬化層17よりも早く硬化し、最終的には新設コンクリート体21となる。
【0026】
(型枠除去工程)
その後、図1(c)に示すように、型枠15を撤去し、新設コンクリート体21の側面と、遅延硬化層17の側面と、を外部に露出させる。
【0027】
(遅延硬化層硬化工程)
その後、遅延硬化層17の側面を養生するために保水材25を設置する。保水材25としては、コンクリート保水養生テープ、又は水膨張性止水材等を用いることができる。そして、所定期間静置して遅延硬化層17を硬化させることで、本実施形態の打継施工方法による構造物が完成する。このように、遅延硬化層17を保水材25で覆った状態で遅延硬化層硬化工程を行うことにより、遅延硬化層17の硬化過程における乾燥を低減することができ、その結果、所望の硬化遅延作用を確実に得ることができる。
【0028】
次に、上述した本実施形態の打継施工方法による作用効果について説明する。
【0029】
この打継設施工方法によれば、新設コンクリート19と既設コンクリート構造物11との間に、硬化が遅い遅延硬化層17が設けられる。新設コンクリート19の硬化過程において、未硬化である遅延硬化層17は比較的柔らかいので、このような遅延硬化層17の介在により、新設コンクリート19の硬化過程の伸縮が既設コンクリート構造物11から絶縁され、新設コンクリート19の伸縮が既設コンクリート構造物11に拘束される作用が低減される。その結果、硬化過程における新設コンクリート19のひび割れが抑制され、最終的には新設コンクリート体21のひび割れが抑制される。
【0030】
また、この打継施工方法によれば、新設コンクリート19用の型枠15を設置し、当該型枠15内に遅延硬化層17を設ける。よって、遅延硬化層17の専用の型枠を設置する手間が省略され、作業性が向上する。ここで、型枠15内に設置される遅延硬化層17が平坦でなければ、既設コンクリート構造物11と新設コンクリート19との間に存在する遅延物質に偏在が生じ、上記のひび割れ抑制効果が十分に得られない場合もある。ところが、遅延硬化層設置工程では、比較的高い新設コンクリート19用の型枠15内の底部の深い位置に遅延硬化層17が設けられることになる。更に、型枠15内には鉄筋13が存在しているので、型枠15内の底部に位置する遅延硬化層17へのアクセスが困難であり、新設コンクリート打設工程の前に遅延硬化層17の表面を平坦化する作業が困難である。
【0031】
これに対し、本実施形態の打継施工方法によれば、超遅延コンクリートのスランプフロー値の下限値を600mmとする、又は超遅延モルタルのモルタルフロー値の下限値を250mmとすることにより、当該コンクリート又はモルタルは十分な流動性を有し、その結果、型枠15内に投入するだけで遅延硬化層17の表面が平坦になりやすい。よって、前述のような新設コンクリート19のひび割れ抑制効果が十分に発揮される。
【0032】
また、遅延硬化層のブリーディングが抑制できる範囲で最大の値として、超遅延コンクリートを用いる場合にはスランプフロー値の上限値を700mmとし、超遅延モルタルを用いる場合にはモルタルフロー値の上限値を350mmとしている。本発明者らの別の試験によれば、これらの上限値以下のフロー値であれば遅延硬化層のブリーディングが発生しないことが確認されている。
【0033】
また、遅延硬化層17は、硬化に長期間が必要であり、硬化するまでの間は、構造上の脆弱部分である。本実施形態の打継施工方法によれば、遅延硬化層17の厚さを、新設コンクリート体21と遅延硬化層17とを合わせた全体の厚さの5%以下といったように、比較的薄くしている。このように、脆弱部分である遅延硬化層17を薄くすることにより、遅延硬化層17の硬化前において型枠15を撤去することが可能になる。よって、遅延硬化層17用の型枠と新設コンクリート用の型枠と、を二重に設置するといったことが不要になり、作業性が向上する。
【0034】
なお、図2(a)に示すように、既設コンクリート構造物11上における新設コンクリート体21の設置予定位置Aには、スタッドジベル23が設けられてもよい。この場合、まず、既設コンクリート構造物11を打ち込む際に、設置予定位置Aに予めスタットジベル23を設置しておく。または、既設コンクリート11の打込み後に、スタットジベル23を設置してもよい。その後、遅延硬化層設置工程では、設置予定位置Aの全面に軟練りの超遅延コンクリートまたは軟練りの超遅延モルタルを敷設して遅延硬化層17を形成する。このとき、スタットジベル23の上端部が遅延硬化層17の上部に突出するようにする。その後、新設コンクリート打設工程として、型枠15を設置して新設コンクリート19を充填する。
【0035】
またこの場合、スタッドジベル23は、設置予定位置Aの周縁部近傍に位置し、新設コンクリート打設工程においては、型枠15内に位置することになる。スタッドジベル23は、最終的には既設コンクリート構造物11と新設コンクリート体21とを連結するように埋設される。通常であれば、新設コンクリート19の硬化過程において、新設コンクリート19の周縁部近傍が上方に反り上がるような変形が生じるおそれがある。このような変形が発生すると、既設コンクリート構造物11との間に隙間が生じ、当該隙間から劣化因子が侵入してコンクリートが劣化するおそれがある。これに対し、予め上面11aにスタッドジベル23を設置した構成によれば、新設コンクリート19の周縁部近傍が、スタッドジベル23によって既設コンクリート構造物11に強固に固定されるので、硬化過程において新設コンクリート19の上記のような変形を抑えることができる。
【0036】
また、図2(b)に示すように、既設コンクリート構造物11と新設コンクリート体21との間にほぞ31を設けてもよい。この場合、既設コンクリート構造物11を打ち込む際の型枠(図示省略)に細工をしておき、設置予定位置Aにほぞ31を形成する。または、既設コンクリート構造物11の打込み後に、上面11aの設置予定位置Aを切削してほぞ31を形成する。その後、遅延硬化層設置工程では、ほぞ31の形状に合わせて軟練りの超遅延コンクリート又は軟練りの超遅延モルタルを塗布し遅延硬化層17を形成する。ここでは、超遅延コンクリート又は超遅延モルタルの流出や乾燥を防ぐために、保水材25(保水養生テープ又は水膨張性止水材等)で遅延硬化層17の端部を保護することが望ましい。その後、新設コンクリート打設工程では、型枠15を設置して新設コンクリート19を充填する。
【0037】
このように、ほぞ31で既設コンクリート構造物11と新設コンクリート体21とが噛み合う構造により、既設コンクリート構造物11と新設コンクリート体21との接合部分における曲げ耐力及びせん断耐力が向上する。従って、遅延硬化層17が未硬化の時期においても地震等に耐えられる可能性が高くなる。
〔第2実施形態〕
続いて、図3を参照しながら、本発明の打継施工方法の第2実施形態について説明する。図3に示すように、本実施形態のコンクリートの打継施工方法は、既設のコンクリート構造物(既存構造体)11の上に新設コンクリート19を打継いで新設コンクリート体21を施工する方法である。
【0038】
本実施形態のコンクリートの打継施工方法は、以下に説明する超遅延剤塗布工程と、新設コンクリート打設工程と、を備えている。
【0039】
(超遅延剤塗布工程)
図3(a)に示すように、既設コンクリート構造物11の上面11aで新設コンクリート体21の設置予定位置Aに、超遅延剤を塗布し、超遅延剤塗布層71を形成する。超遅延剤としては、例えば、オキシカルボン酸系または有機カルボン酸系の遅延剤などを用いることができる。
【0040】
(新設コンクリート打設工程)
続いて、超遅延剤塗布層71を囲んで既設コンクリート構造物11の上面11aに型枠15を設置する。次に、超遅延剤塗布層(塗布部分)71の上から型枠15内に新設コンクリート19を打設する。なお、型枠15は、超遅延剤塗布層71から僅かに隙間をあけた外側の位置に設置される。新設コンクリート19は、超遅延剤等を含まない通常のコンクリートである。ここでは、新設コンクリート19の下端部には、超遅延剤塗布層71に接触することで、ある程度の量の超遅延剤が浸透する。そうすると、新設コンクリート19の下端面近傍には、遅く硬化する層が形成される。この層を、以下「遅延硬化層」と称し、符号「73」を付して表す。
【0041】
新設コンクリート19のうち下端の遅延硬化層73を除く部分が、まず、遅延硬化層73よりも早く硬化する。その後、遅延硬化層73を含めて新設コンクリート19がすべて硬化し、最終的には新設コンクリート体21となることで、本実施形態の打継施工方法による構造物が完成する。
【0042】
なお、超遅延剤塗布工程では、図3(a)に示した超遅延剤塗布層71に代えて、図3(b)に示すように、ストライプ状に間欠的に形成された超遅延剤塗布層72を設けてもよい。この場合、新設コンクリート19の下端面近傍には、ストライプ状の間欠的な遅延硬化層74が形成されることになる。
【0043】
上述したような遅延硬化層73,74の存在によって、新設コンクリート19のうち遅延硬化層73,74以外の部分が硬化する過程において、当該部分の伸縮が既設コンクリート構造物11からある程度絶縁され、当該部分の伸縮が既設コンクリート構造物11に拘束される作用が低減される。その結果、当該部分の硬化過程における新設コンクリート19のひび割れが抑制される。その後、遅延硬化層73,74が硬化し、最終的には新設コンクリート体21のひび割れが抑制される。また、超遅延剤は、比較的薄く塗布すればよいので、新設コンクリート19が打設されるときに超遅延剤塗布層71,72が流され難い。よって、遅延硬化部73,74が上記のような絶縁作用を十分に発揮し、新設コンクリートのひび割れが十分に抑制される。
【0044】
また、通常であれば、新設コンクリート19の硬化過程において、新設コンクリート19の周縁部近傍が上方に反り上がるような変形が生じるおそれがある。このような変形が発生すると、既設コンクリート構造物11との間に隙間が生じ、当該隙間から劣化因子が侵入してコンクリートが劣化するおそれがある。これに対し、遅延硬化層73,74は、平面視で型枠15内の全領域に広がるものではなく、新設コンクリート19の下端面の一部(符号19aで示す)は、直接既設コンクリート構造物11の上面11aに接触する。当該部分19aは、既設コンクリート構造物11との接合が比較的強いので、硬化過程において新設コンクリート19の上記のような変形が抑制される。
【0045】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、各請求項に記載した要旨を変更しない範囲で変形したものであってもよい。例えば、既存構造体は、実施形態に示したような既設のコンクリート構造物に限らず、例えば、天然の岩盤であってもよい。また、上述の各実施形態に係る打継施工方法が備える各々の構成要素は、適宜組み合わせて採用してもよい。
【符号の説明】
【0046】
11…既設コンクリート構造物(既存構造体)、11a…上面、15…型枠、17…遅延硬化層、19…新設コンクリート、21…新設コンクリート体、71,72…超遅延剤塗布層。
図1
図2
図3