特許第5961490号(P5961490)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961490
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体及び磁気記録再生装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/738 20060101AFI20160719BHJP
   G11B 5/65 20060101ALI20160719BHJP
   G11B 5/31 20060101ALI20160719BHJP
   G11B 5/02 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   G11B5/738
   G11B5/65
   G11B5/31 Z
   G11B5/02 R
   G11B5/02 T
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-189237(P2012-189237)
(22)【出願日】2012年8月29日
(65)【公開番号】特開2014-49146(P2014-49146A)
(43)【公開日】2014年3月17日
【審査請求日】2015年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 和也
(72)【発明者】
【氏名】神邊 哲也
(72)【発明者】
【氏名】村上 雄二
(72)【発明者】
【氏名】張 磊
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−014750(JP,A)
【文献】 特開2001−189010(JP,A)
【文献】 特開2009−158054(JP,A)
【文献】 特開2011−198455(JP,A)
【文献】 特開2001−229520(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/133786(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/738
G11B 5/02
G11B 5/31
G11B 5/65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された下地層と、
前記下地層上に形成されたL1型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とを有し、
前記下地層が、基板側から順に、格子定数aが2.87Å≦a<3.04Åであり、B2構造、または、Crを主成分とするBCC構造を有する第一下地層と、
格子定数aが3.04Å≦a<3.18ÅであるBCC構造の第二下地層と、
格子定数aが3.18Å≦a<3.31ÅであるBCC構造の第三下地層と、
NaCl型結晶構造を有する上層下地層とを有し、
熱アシスト磁気記録方式、またはマイクロ波アシスト磁気記録方式で情報が記録されるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
【請求項2】
前記第一下地層が、Cr、若しくは、Crを主成分として含み、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種を含み、BCC構造を有することを特徴とする請求項1に記載の磁気記録媒体。
【請求項3】
前記第一下地層が、NiAlまたはRuAlからなる、B2構造を有することを特徴とする請求項1または2に記載の磁気記録媒体。
【請求項4】
前記第二および第三下地層が、Cr、Mo、Nb、Ta、V、W、若しくは、これらを主成分とし、Cr、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項5】
前記磁性層が、L1型結晶構造を有し、FePt合金もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも1種の酸化物、もしくは元素を含有していることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体を加熱するレーザー発生部と前記レーザー発生部から発生したレーザー光を先端部へと導く導波路と前記先端部に設けられた近接場発生素子とを有して前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、
前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、
前記磁気記録媒体にマイクロ波を照射する素子と、
前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、
前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク装置(HDD)等に用いられる熱アシスト磁気記録方式、またはマイクロ波アシスト磁気記録方式の磁気記録媒体、及び磁気記録再生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置の記録容量増大のため、媒体の高密度化が進んでいるが、粒径微細化、熱安定特性、記録特性を同時に成立させることが困難である、いわゆる、トリレンマと呼ばれる問題によって、媒体の高密度化が困難になっている。熱アシスト磁気記録方式は、このトリレンマを解決する方法として期待され、盛んに研究開発が行われている。
【0003】
熱アシスト磁気記録方式は、磁気ヘッドによって媒体に近接場光を照射し、媒体表面を局所的に加熱することにより、媒体保磁力を低下させて書き込みを行う記録方式である。この熱アシスト磁気記録方式の媒体磁性層に高い結晶磁気異方性Kuを有する材料を使うことで、熱安定性指標であるKuV/kT(Ku:磁気異方性定数、V:粒子体積、k:ボルツマン定数、T:温度)を維持したまま、磁性粒子体積を小さくすることができる。このような高Ku材料としては、L1型結晶構造を有するFePt(Ku〜7×10erg/cm)、CoPt(Ku〜5×10erg/cm)のような規則化合金が知られている。
【0004】
高い結晶磁気異方性を示す熱アシスト磁気記録媒体を得るには、磁性層のL1型結晶構造を有する合金に、良好な(001)配向をとらせる必要がある。磁性層の配向性は、下地層によって制御されるので、下地層の材料を適切に選択する必要がある。
【0005】
例えば、特許文献1には、MgO下地層を用いることで、FePt磁性層が(001)配向を示すことが記載されている。また、非特許文献1には、RuAl下地層及びTiN下地層を組み合わせて用いることにより、FePt磁性層が良好な(001)配向を示すことが記載されている。
【0006】
また、次世代の記録方式として注目されている他の技術として、マイクロ波アシスト磁気記録方式がある。マイクロ波アシスト磁気記録方式は、磁気記録媒体の磁性層にマイクロ波を照射して磁化方向を磁化容易軸から傾けて、磁性層の磁化を局所的に反転させて磁気情報を記録する方式である。
【0007】
マイクロ波アシスト磁気記録方式においても、熱アシスト磁気記録方式と同様に、磁性層の材料として、L1型結晶構造を有する合金からなる高Ku材料を用いることができる。記録密度を更に向上させるためには磁性層の粒径を小さくすることが必須となる。そのため、マイクロ波アシスト磁気記録方式においても、磁性粒子の粒径を微細化しても熱安定性を維持できるL1型結晶構造を有する合金からなる磁気記録媒体が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平11−353648号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】J.Appl.Phys.,Vol.109,07B770(2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
熱アシスト磁気記録媒体において、良好な磁気記録特性を得るためには、L1型結晶構造を有する合金からなる磁性層に良好な(001)配向をとらせることが重要である。磁性層にFePt合金を用いる場合、Cr合金やRuAl、MgO、TiNなどが下地層として広く使われている。しかし、従来の技術では、L1型結晶構造を有する合金からなる磁性層の(001)配向性が不十分であり、更なる記録密度向上のためには、熱アシスト磁気記録媒体に使用される磁性層の配向性をより良好にすることが必要である。
また、マイクロ波アシスト磁気記録媒体においても、L1型結晶構造を有する合金からなる磁性層の配向をより良好なものにすることが必要である。
【0011】
本発明は、上記の事情に鑑みて提案されたものであり、L1型結晶構造を有する合金からなる磁性層を備え、磁性層が良好な(001)配向を有していることにより、高保磁力で高いシグナルノイズ比(SNR)が得られる熱アシスト磁気記録媒体、及びこれを備えた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
また、本発明は、L1型結晶構造を有する合金からなる磁性層を備え、磁性層が良好な配向を有するマイクロ波アシスト磁気記録媒体、およびこれを備えた磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この課題は、基板上に形成された下地層と、前記下地層上に形成されたL1型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とを有し、前記下地層が、基板側から順に、格子定数aが2.87Å≦a<3.04Åであり、B2構造、または、Crを主成分とするBCC構造を有する第一下地層と、格子定数aが3.04Å≦a<3.18ÅであるBCC構造の第二下地層と、格子定数aが3.18Å≦a<3.31ÅであるBCC構造の第三下地層と、NaCl型結晶構造を有する上層下地層とを有する磁気記録媒体を用いることによって解決できる。
【0013】
本発明は、以下の特徴を有する磁気記録媒体を提供する。
(1)基板上に形成された下地層と、前記下地層上に形成されたL1型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とを有し、前記下地層が、基板側から順に、格子定数aが2.87Å≦a<3.04Åであり、B2構造、または、Crを主成分とするBCC構造を有する第一下地層と、格子定数aが3.04Å≦a<3.18ÅであるBCC構造の第二下地層と、格子定数aが3.18Å≦a<3.31ÅであるBCC構造の第三下地層と、NaCl型結晶構造を有する上層下地層とを有し、熱アシスト磁気記録方式、またはマイクロ波アシスト磁気記録方式で情報が記録されるものであることを特徴とする磁気記録媒体。
(2)前記第一下地層が、Cr、若しくは、Crを主成分として含み、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種を含み、BCC構造を有することを特徴とする(1)に記載の磁気記録媒体。
(3)前記第一下地層が、NiAlまたはRuAlからなる、B2構造を有することを特徴とする(1)または(2)に記載の磁気記録媒体。
(4)前記第二および第三下地層が、Cr、Mo、Nb、Ta、V、W、若しくは、これらを主成分とし、Cr、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種を含むことを特徴とする(1)乃至(3)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(5)前記磁性層が、L1型結晶構造を有し、FePt合金もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも1種の酸化物、もしくは元素を含有していることを特徴とする(1)乃至(4)の何れか1項に記載の磁気記録媒体。
(6)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体を加熱するレーザー発生部と前記レーザー発生部から発生したレーザー光を先端部へと導く導波路と前記先端部に設けられた近接場発生素子とを有して前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置。
(7)(1)乃至(5)のいずれか1項に記載の磁気記録媒体と、前記磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、前記磁気記録媒体にマイクロ波を照射する素子と、前記磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、前記磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、前記磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備える磁気記録再生装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、磁性層が良好な(001)配向を有し、高保磁力と高いシグナルノイズ比(SNR)とを示す磁気記録媒体を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の熱アシスト磁気記録媒体の一例を示した断面図である。
図2】本発明の熱アシスト磁気記録媒体の他の例を示した断面図である。
図3】本発明の熱アシスト磁気記録媒体の他の例を示した断面図である。
図4】本発明の磁気記録再生装置の一例を示した斜視図である。
図5図4に示す磁気記録再生装置に備えられた磁気ヘッドの構成を模式的に示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す例のみに限定されるものではない。特に制限のない限り、数量、構成、位置、材料などを変更してもよい。
[熱アシスト磁気記録媒体]
図1は、本発明の熱アシスト磁気記録媒体の一例を示した断面図である。
図1の熱アシスト磁気記録媒体は、基板101上に、密着層102、ヒートシンク層103、シード層104が形成され、シード層104上に第一下地層105、第二下地層106、第三下地層107、NaCl型結晶構造を有する上層下地層108が順次積層され、このNaCl構造を有する上層下地層108上に磁性層109、保護膜110、潤滑剤層111が形成されたものである。
【0017】
「基板」
本発明において、熱アシスト磁気記録媒体に使用される基板101としては、円形の非磁性基板などを用いることができる。非磁性基板としては、例えば、ガラス、アルミ、セラミックスなどを用いることができ、ガラス基板としては、結晶化ガラスや非晶質ガラス、強化ガラス等を使用できる。
熱アシスト磁気記録媒体に使用される基板101としては、ガラス転移点が高く耐熱性に優れたものを用いることが望ましく、基板101上に形成される各層の成膜条件や、磁気記録媒体の使用条件などに応じて、表面粗さや熱容量、結晶化状態などを適宜選択して使用できる。
【0018】
「密着層」
密着層102は、ヒートシンク層103と基板101との密着性を向上させるためのものであり、材料としては、密着性と表面平坦性に優れていれば特に限定するものではないが、CrTi、NiTa、AlTi、CoTi、NiTaZrなどが挙げられる。
【0019】
「ヒートシンク層」
ヒートシンク層103は、磁性層109に溜まる熱を垂直方向に拡散させて、水平方向への広がりを抑制することで遷移幅を狭くすると共に、記録後に磁性層109に溜まった熱を速やかに散逸させるためのものであり、必要に応じて備えられるものである。ヒートシンク層103の材料としては、Ag、Al、Cu、W、Moもしくはこれらを主成分とする熱伝導率の高い合金などが挙げられる。
磁性層109の熱を効果的に散逸させるためには、ヒートシンク層103と磁性層109の距離は短い方が好ましく、ヒートシンク層103と磁性層109の間に配置されている下地層膜厚は、磁性層109の粒径及び配向の制御機能を損なわない範囲で薄くすることが望ましい。
図1に示す熱アシスト磁気記録媒体では、ヒートシンク層103は基板101側に配置されているが、磁性層109の粒径及び配向の制御機能を維持できれば、磁性層109直下に設けてもよいし、第一下地層105から上層下地層108までの間のいずれかの位置に設けることもできる。
【0020】
「シード層」
図1におけるシード層104は、その下のヒートシンク層103の(111)配向を打ち消して、第一下地層105に良好な(100)配向を取らせるために設けられた層である。シード層104の材料としては、CrTi、NiTa、AlTiなどのアモルファス材料が挙げられる。また、シード層104には軟磁性材料を用いてもよい。磁気記録媒体の第一下地層105の配向が(100)となり、かつ十分な配向性を示せば、シード層104は必ずしも必要であるとは限らないため、上記シード層104の有無は、本発明の範囲を制限するものではない。
【0021】
「第一下地層」
第一下地層105は、その上層の下地層106、107、108、ひいては磁性層109の粒径及び配向を制御するための層として形成されたものである。第一下地層105は、格子定数aが2.87Å≦a<3.04Å(0.287nm≦a<0.304nm)であり、B2構造、または、Crを主成分とするBCC構造を有する。
第一下地層105は、例えば、Cr、若しくは、Crを主成分として含み、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種含む合金からなる。そのため、第一下地層105の上の第二下地層106がエピタキシャル成長により良好な(100)配向を示す。
なお、主成分とは、当該成分を例えば50at%以上(または50at%を越えて)含有することをいう。
【0022】
(100)配向した第一下地層105は、具体的には例えば、250℃程度に加熱した基板101にCr合金を成膜する方法などにより形成できる。第一下地層105の膜厚は、良好な(100)配向を形成するために2nm以上が好ましい。
Cr、V、Mo、W、Nb、Taは通常BCC構造を形成するが、Ruは単体ではHCP構造をとり、BCC構造を形成しない。また、Ti、Mnの単体も、250℃程度の加熱条件下ではBCC構造をとらない。
しかし、CrなどのBCC構造を有する元素を主成分として、Ru、Ti、Mnのうち少なくとも1種を少量添加する分には良好な(100)配向を示す。
第一下地層105の配向は(100)であることが望ましいが、(111)や(110)を多少含んでいても、第一下地層としての機能を発揮する。
【0023】
第一下地層105は、RuAlやNiAlのようなB2構造を有するものであってもよい。このB2下地層は、BCC構造を有する第一下地層105と同じく(100)配向を示すため、その上の第二下地層106の(100)配向形成のための下地層として機能する。
【0024】
本明細書においては、第一〜第三下地層105〜107、上層下地層108等における、各元素の格子定数は、それぞれがBCC結晶構造を形成した場合の格子定数として、日本金属学会編集の改訂4版金属データブックに記載されているCr:2.884Å、V:3.023Å、Mo:3.147Å、W:3.165Å、Nb:3.307Å、Ta:3.298Å、Ti:3.307Å、Mn:3.081Åを用いた。また、Ruについては、RuがBCC構造を形成した場合を仮定し、原子半径から算出した格子定数3.072Åという値を用いた。
下地層105〜108等を構成する合金の格子定数は、それぞれの構成元素の格子定数に存在比をかけて算出された加重平均の値、いわゆる、Vegardの法則から算出した値である。例えば、図1における磁気記録媒体のCr−10at%Nbからなる第一下地層105の場合、Crの格子定数が2.884Å、Nbの格子定数が3.307Åであることから、Cr−10at%Nb合金の格子定数は、2.92Åと算出できる。なお、10Å=1nmである。
【0025】
「第二下地層」
第二下地層106は、格子定数aが3.04Å≦a<3.18Å(0.304nm≦a<0.318nm)であって、BCC構造を有する。
その構成材料としては、Cr、Mo、Nb、Ta、V、W、若しくは、これらを主成分とし、Cr、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種含むものが挙げられる。
第二下地層106は、第一下地層105と第三下地層107の格子不整合性を緩和するために設けられる層であると共に、第三下地層107の(100)配向を向上させるものである。そのため、第二下地層106の格子定数は、第一下地層105と第三下地層107のそれぞれの格子定数の中間にあたる。第二下地層106の膜厚は、良好な(100)配向を形成するために2nm以上が好ましい。
また、第二下地層106にCr合金を用いれば、Cr合金からなる第一下地層105に対する濡れ性は良くなると考えられる。また、第二下地層106の材料にTa、W、Moなどを添加すれば、磁気記録媒体の機械的特性を向上させることもできる。
【0026】
「第三下地層」
第三下地層107は、格子定数aが3.18Å≦a<3.31Å(0.318nm≦a<0.331nm)で、BCC構造を有する。その構成材料としては、Cr、Mo、Nb、Ta、V、W、若しくは、これらを主成分とし、Cr、Ti、V、Mo、W、Nb、Ta、Mn、Ruのうち少なくとも1種を含むものである。
第三下地層107は、その上のNaCl型の下地層に良好な(100)配向を取らせると共に、適度な面内ストレスを導入する。第三下地層107の格子定数を大きくし、NaCl型の下地層に面内ストレスを導入することによりSNRを改善できる。第二下地層106との格子ミスマッチが大きくならず、かつNaCl型の下地層に適度なストレスを導入できる格子定数の値として3.18Å≦a<3.31Åという範囲が採用される。
【0027】
「上層下地層」
本発明の磁気記録媒体には、第三下地層107の上に、NaCl構造を有する上層下地層108が形成される。具体的には、MgO、TiO、NiOのような酸化物、TiN、TaN、NbN、HfNのような窒化物、TaC、TiCのような炭化物が挙げられる。
第三下地層107が(100)配向を示すため、これらのNaCl構造を有する上層下地層108もエピタキシャル成長により(100)配向を示す。そのため、NaCl構造を有する上層下地層108上に、FePt合金もしくはCoPt合金を主成分とし、L1型結晶構造を有する磁性層109を形成することにより、磁性層109に良好な(001)配向をとらせることができる。
【0028】
NaCl型の上層下地層108は、磁性層109との格子定数の差が大きくない材料からなることが好ましい。MgOとTiNの格子定数は、それぞれ4.21Å、4.23Åであるため、L1型結晶構造を有する合金を主成分とするFePt磁性層109のa軸長(3.85Å)、及びL1型結晶構造を有するCoPtのa軸長(3.81Å)と近似している。そのため、NaCl構造を有する上層下地層108の材料としては、MgOとTiNは特に望ましい。
また、NaCl構造を有する上層下地層108の材料は、酸素、窒素、炭素のうち1つと、金属とが1:1(モル基準)で含有されているものであることが望ましいが、これらが1:1ではない酸化物、窒化物が若干量混在していても良い。
【0029】
図1に示す磁気記録媒体は、NaCl型上層下地層108として、MgO上層下地層108を有する。このMgO上層下地層108の膜厚は、均一で良好な配向性を示す磁性層109を得るために、0.5nm〜15nmであることが望ましい。MgO上層下地層108膜厚が上記範囲未満であると、磁性層109を制御する機能が十分に得られず、良好な磁性層109(001)配向が得られにくい。また、MgO上層下地層108の厚さが上記範囲を超えると、MgO上層下地層108の膜厚が不均一に成りやすく、磁性層109の配向制御機能が十分に得られず、平坦性が不十分となりうる。
MgO上層下地層108は、例えば、MgOターゲットを用いたRF放電成膜法や、Mgの金属ターゲットとOを含むガスとを用いたDC放電成膜法を用いて形成できる。
【0030】
第一〜第三下地層105〜107および上層下地層108は、下地層100と総称することができる。
【0031】
本発明では、熱アシスト磁気記録媒体の書き込み特性を向上させるために、軟磁性下地層を形成してもよい。
軟磁性下地層を形成すれば、磁性層109に印加される磁界勾配を高めることができ、磁気記録再生装置に備えられた場合に磁気ヘッドからの磁界を効率よく磁性層109に印加できる。
この軟磁性下地層は、非晶質合金でもよいし、微結晶や多結晶合金であってもよい。さらに、軟磁性下地層は、Ruを介して反強磁性結合した積層構造であってもよいし、単層であってもよい。軟磁性下地層の材料としては、CoFeB、CoFeZr、CoFeTa、CoFeTaZr、CoFeTaB、CoFeNi、CoNiTa、CoNiZr、CoZrB、CoTaZr、CoNbZr、FeAlSiなどが挙げられる。
軟磁性下地層の材料として、具体例には、CoFe系合金(CoFeB、CoFeTa、CoFeTaZr、CoFeZr、CoFeTaB)、CoFeNi系合金(CoFeNi、CoNiTa、CoNiZr)、Co系合金(CoZr、CoTa、CoW、CoTi、CoMo、CoZrB、CoZrNb、CoTaZr、CoTaMo)、Fe系合金(FeAlSi、FeB、FeZr、FeSiB)などを好適なものとして挙げることができる。
【0032】
磁性層109は、L1型結晶構造を有する合金を主成分とするものである。高記録密度を達成するためには、磁性層109は、粒界偏析材料で分離された数nmの磁性粒子で形成されていることが好ましいが、磁性粒子の体積が小さくなり熱的に不安定になる。そのため、本実施形態においては、磁性層109の主成分として、磁気異方性エネルギーの高いL1型結晶構造を有する合金が用いられる。
【0033】
磁性層109は、L1型結晶構造を有するFePt合金もしくはCoPt合金を主成分とし、かつ、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも1種の酸化物、もしくは元素を含有していることが望ましい。
【0034】
本実施形態においては、磁性粒子の大きさや粒子間の交換結合を制御するため、FePtもしくはCoPtなどのL1型結晶構造を有する合金に、偏析材料として添加物を含有させている。添加物としては、SiO、TiO、Cr、Al、Ta、ZrO、Y、CeO、MnO、TiO、ZnO、Cから選択される少なくとも1種の酸化物、もしくは元素を用いる。
このような添加物を含有させることにより、グラニュラー構造の磁性層109となり、粒子間の交換結合を低減できると共に、磁性粒子を微細化することができ、熱アシスト磁気記録媒体のSNRをより一層改善できる。
磁性層109にL1型結晶構造をとらせる方法としては、各種下地層を形成した基板101を450〜700℃に加熱して、磁性層109となるFePt層をエピタキシャル成長させる。本実施形態においては、下地層の配向制御効果によって、L1型結晶構造を有するFePt層は、良好な(001)配向を示す。
【0035】
本発明においては、熱アシスト磁気記録媒体の書き込み特性をさらに改善するために、磁性層109の上にキャップ層を形成してもよい。キャップ層としては、Co、Fe、Niを主成分とする合金を用いることができる。キャップ層は、室温において強磁性を失わない範囲でその他の添加元素を含むものであってもよい。キャップ層は、結晶質合金でもよいし、非晶質合金を使ってもよい。
【0036】
「保護膜」
保護膜110としては、耐熱性に優れる材料からなるものであること望ましく、単層または複数層のカーボン膜などを用いることができる。カーボン膜としては、水素や窒素、金属を添加したものを用いてもよい。カーボン膜は、CVD法やイオンビーム法によって形成できる。
【0037】
「潤滑剤層」
潤滑剤層111としては、パーフルオロポリエーテルからなる液体潤滑剤層などを用いることができる。
【0038】
[マイクロ波アシスト磁気記録媒体]
本発明の磁気記録媒体は、マイクロ波アシスト磁気記録媒体にも適用可能である。
本実施形態のマイクロ波アシスト磁気記録媒体としては、例えば、基板上に、BCC構造を有するCr合金からなる(あるいはB2構造を有する)第一下地層と、BCC構造を有する第二および第三下地層と、NaCl型結晶構造を有する上層下地層と、磁性層とがこの順で積層されたものが挙げられる。
下地層と磁性層としては、上述した図1に示す熱アシスト磁気記録媒体と同様のものを用いることができる。
【0039】
マイクロ波アシスト磁気記録媒体においては、媒体表面を加熱しないためヒートシンク層は必要としない。図1に示す磁気記録媒体の場合、ヒートシンク層103を除くこともできるし、ヒートシンク層103およびシード層104を除いて、密着層102上に直接BCC下地層105を形成することもできる。
このようなマイクロ波アシスト磁気記録媒体では、上述した図1に示す熱アシスト磁気記録媒体と同様に、L1型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層109が良好な(001)配向を有しているものとなる。このため、本実施形態のマイクロ波アシスト磁気記録媒体は、高い保磁力と高いシグナルノイズ比(SNR)とを示すものとなる。
【0040】
[磁気記録再生装置]
次に、本発明の磁気記録再生装置について説明する。図4は、本発明の磁気記録再生装置の一例を示した斜視図であり、図5は、図4に示す磁気記録再生装置に備えられた磁気ヘッドの構成を模式的に示した断面図である。
図4に示す磁気記録再生装置は、本発明の熱アシスト磁気記録媒体である磁気記録媒体401と、磁気記録媒体401を回転させ、記録方向に駆動する媒体駆動部402と、磁気記録媒体401に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッド403と、磁気ヘッド403を磁気記録媒体401に対して相対移動させるヘッド駆動部404と、磁気ヘッド403への信号入力と磁気ヘッド403からの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系405とから概略構成されている。
【0041】
図4に示す磁気記録再生装置に組み込まれている磁気ヘッド403は、図5に示すように、記録ヘッド508と再生ヘッド511とから概略構成されている。記録ヘッド508は、主磁極501と、補助磁極502と、磁界を発生させるためのコイル503と、レーザーダイオード(LD)504と、LD504から発生したレーザー光505を先端部に設けられた近接場発生素子506へと導く導波路507とを備えている。再生ヘッド511は、一対のシールド509で挟み込まれたTMR素子等の再生素子510を備えている。
【0042】
そして、図4に示す磁気記録再生装置では、磁気ヘッド403の近接場発生素子506から発生した近接場光を磁気記録媒体401に照射し、その表面を局所的に加熱して上記磁性層の保磁力を一時的にヘッド磁界以下まで低下させて磁気情報の書き込みを行う。
【0043】
図4に示す磁気記録再生装置は、高い保磁力と高いシグナルノイズ比(SNR)とを有する本発明の熱アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体401を備えているので、エラーレートの低いものとなる。
【0044】
[磁気記録再生装置(他の例)]
次に、本発明の磁気記録再生装置の他の例について説明する。
本発明の磁気記録再生装置は、マイクロ波アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体を備えるものであってもよい。このような磁気記録再生装置としては、例えば、マイクロ波アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体と、磁気記録媒体を記録方向に駆動する媒体駆動部と、磁気記録媒体にマイクロ波を照射する素子と、磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを前記磁気記録媒体に対して相対移動させるヘッド移動部と、磁気ヘッドへの信号入力と前記磁気ヘッドからの出力信号の再生とを行う記録再生信号処理系とを備えるものが挙げられる。
マイクロ波アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体を備える磁気記録再生装置では、マイクロ波を照射する素子から磁気記録媒体にマイクロ波を照射することにより、磁気記録媒体の磁性層にマイクロ波帯の交流磁場を印加して磁化方向を磁化容易軸から傾け、磁性層の磁化を局所的に反転させて磁気ヘッドにより磁気情報の書き込みを行う。
このような磁気記録再生装置は、高い保磁力と高いシグナルノイズ比(SNR)とを有する本発明のマイクロ波アシスト磁気記録媒体からなる磁気記録媒体を備えているので、エラーレートが低く、優れた記録再生特性が得られるものとなる。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明の効果をより詳細に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明の磁気記録媒体を好適に説明するための代表例であり、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0046】
(実施例1−1〜1−9)
以下に示す方法により、図1に示す熱アシスト磁気記録媒体を製造した。
まず、2.5インチガラス基板101上に、Cr−50at%Tiからなる厚み40nmの密着層102、Agからなる厚み25nmのヒートシンク層103を成膜し、さらに、その上にCr−50at%Tiからなる厚み30nmのシード層104を形成した。
シード層104まで成膜した基板101を260℃まで加熱して、Cr−10at%Nbからなる厚み15nmの第一下地層105と、Cr−50at%Nbからなる厚み15nmの第二下地層106を成膜し、続けて、Nb−10at%Crからなる厚み15nmの第三下地層107、その上に、MgOからなる厚み3nmの上層下地層108(NaCl構造を有する)を順次形成した。
次に、上層下地層108までを形成した基板101を650℃まで加熱して、(Fe−50at%Pt)−15mol%SiOからなる厚み8nmの磁性層109を形成し、ダイヤモンド状炭素(DLC(Diamond Like Carbon))からなる厚み3.5nmの保護膜110を形成し、パーフルオロポリエーテルからなる厚み1.5nmの液体潤滑剤層111を塗布により形成した。
以上の工程により、実施例1−1の熱アシスト磁気記録媒体を得た。
【0047】
続いて、実施例1−1の熱アシスト磁気記録媒体における第一下地層105の材料をそれぞれ、表1に示す材料に置き換えて、他の層は全て実施例1−1と同様にして実施例1−2〜1−9の熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
【0048】
実施例1−1〜1−9の第二下地層106(Cr−50at%Nb)は、格子定数aが3.10Åであり、3.04Å≦a<3.18Åの範囲内である。また、第三下地層107(Nb−10at%Cr)は、格子定数aが3.26Åであり、3.18Å≦a<3.31Åの範囲内である。
第二下地層106(Cr−50at%Nb)および第三下地層107(Nb−10at%Cr)は、いずれもBCC構造を有する。
【0049】
得られた実施例1−1の熱アシスト磁気記録媒体のX線回折測定を行ったところ、L1−FePt(001)、およびL1−FePt(002)とFCC−FePt(200)の混合ピークが確認された。また、Cr−10at%Nbからなる第一下地層105、その上に形成されたCr−50at%Nbからなる第二下地層106、さらに、Nb−10at%Crからなる第三下地層107がそれぞれ(100)配向を示した。
実施例1−1〜1−9の熱アシスト磁気記録媒体について、以下に示す方法により、保磁力と電磁変換特性のシグナルノイズ比(SNR)、及び表面粗さ(Ra)を測定した。その結果を表1に示す。
保磁力は、物理特性測定装置(PPMS)により室温で7Tの磁界を印加して測定した。また、電磁変換特性のSNR測定は、レーザースポット加熱機構を搭載したヘッドを用いて、スピンスタンドテスターにて行い、トラックプロファイルの半値幅と定義した記録トラック幅が70nmになるようにレーザーダイオード(LD)投入電圧を調整し、このトラック幅のときのSNRを確認した。さらに、表面粗さ(Ra)は、Veeco社製AFMのタッピングモードを用いて、10μm視野で測定した。
【0050】
第一下地層105が、Cr、もしくはCrを主成分とする合金(BCC構造)であり、格子定数aが、2.87Å≦a<3.04Åの範囲である実施例1−1〜1−7は、良好な保磁力と高いSNRを示した。また、B2構造を持つRuAlやNiAlを用いた実施例1−8、1−9も良好な保磁力と高いSNRを示した。
このことから、第一下地層105が、Crを主成分とするBCC構造を有する、あるいはB2構造を有することにより、保磁力とSNRが良好な媒体を提供することができる。
実施例1−1〜1−7では、Crに添加する元素が少ない方が良好な保磁力、SNRを示すことがわかる。これは、純Crの配向が最もよいためと考えられる。
これらは、実施例1−1〜1−7の合金に比べるとややSNRは高いが、表面粗さRaもやや高い傾向がある。このことから、磁気記録媒体に求められる要求特性に合わせて、第一下地層の種類を選択することができる。
【0051】
【表1】
【0052】
(比較例1−1〜1−7)
実施例1−1の熱アシスト磁気記録媒体における第一下地層を表2に示す材料に置き換えて、他の層は全て実施例1−1と同様にして比較例1−1〜1−7の熱アシスト磁気記録媒体を作製した。比較例1−1〜1−7の熱アシスト磁気記録媒体について、保磁力とSNRを測定した結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
比較例1−1〜1−7の保磁力とSNRを見ると、実施例1−1〜1−9のそれらと比べて、どちらも大きく劣る。比較例1−1〜1−6の媒体の第一下地層はCrを主成分とする合金ではないため、第一下地層が(100)配向せず、その上に形成される第二下地層、第三下地層も(100)配向しない。そのため、下地層による配向制御機能が十分に得られず磁性層の配向も悪くなると考えられる。一方、第一下地層を抜いた比較例1−7は、第一下地層による配向制御機能がなく、第二下地層の配向制御効果も不十分なため、保持力とSNRが共に良くないと考えられる。
【0055】
(実施例2−1〜2−7)
図2に示す熱アシスト磁気記録媒体を製造した。
実施例1−1の磁気記録媒体における第一下地層105をCrからなる第一下地層201に、第二下地層106をMo−30at%Crからなる第二下地層202に、第三下地層107をW−20at%Taからなる第三下地層203に置き換えた。
さらに、磁性層109を膜厚7.5nmの(Fe−48at%Pt)−5at%Ag−35mol%Cからなる磁性層204(L1型結晶構造を含む)に置き換え、その磁性層204の上に膜厚1.5nmのCo−10at%Ta−5at%Bからなるキャップ層205を形成した。その他の層はすべて実施例1−1と同様にして実施例2−1の磁気記録媒体を作製した。
図2において、第一〜第三下地層201〜203および上層下地層108を下地層200と総称する。
【0056】
実施例2−1の熱アシスト磁気記録媒体における第二下地層202の材料をそれぞれ、表3に示す材料に置き換えた。その他の層は全て実施例2−1と同様にして実施例2−2〜2−7の磁気記録媒体を作製した。
【0057】
実施例2−1〜2−7の第一下地層201(Cr)は、格子定数aが2.88Åであり、2.87Å≦a<3.04Åの範囲内である。また、第三下地層203(W−20at%Ta)は、格子定数aが 3.19Åであり、3.18Å≦a<3.31Åの範囲内である。
実施例2−1〜2−7の第一〜第三下地層201、202、203は、いずれもBCC構造を有する。
これらの磁気記録媒体の保磁力とSNRを測定した結果を表3に示す。
【0058】
【表3】
【0059】
実施例2に示す磁気記録媒体においても保磁力とSNRは高い値を示した。これは、下地層の格子定数を段階的に増加させることによって、下地層間のミスフィットを小さくして、配向をより良くしているためと考えられる。
【0060】
(比較例2−1〜2−5)
実施例2−1における第二下地層を表4に示す材料に置き換えて、比較例2−1〜2−5に示す磁気記録媒体を作製した。これらの磁気記録媒体の保磁力、SNRの値を表4に示す。
比較例2−1〜2−5の保磁力、及びSNRは、実施例1の磁気記録媒体の値と比べると低い。比較例2−1〜2−3の媒体における第二下地層は格子定数が小さいため、第二下地層と第三下地層の格子ミスフィットが大きくなり、保磁力とSNRが低下すると考えられる。一方で、比較例2−4、2−5の媒体における第二下地層は格子定数が大きいため、第一下地層と第二下地層の格子ミスフィットが大きくなり、保磁力とSNRが劣ると考えられる。
【0061】
【表4】
【0062】
(実施例3−1〜3−7)
以下に示す方法により、図3に示す熱アシスト磁気記録媒体を作製した。
2.5インチガラス基板301上に、Ni−50at%Taからなる厚み40nmの密着層302を成膜し、続けてCuからなる厚み35nmのヒートシンク層303を成膜した。さらに、ヒートシンク層303上にFe−20at%Al−5at%Siからなる厚み30nmの軟磁性層304を形成し、Cr−50at%Tiからなる膜厚15nmのシード層305を形成した。
シード層305までを形成した基板301を280℃まで加熱して、Cr−10at%Moからなる厚み10nmの第一下地層306と、Mo−10at%Crからなる厚み10nmの第二下地層307を成膜し、続けて、Ta−20at%Crからなる厚み15nmの第三下地層308、さらにその上に、TiNからなる厚み5nmの上層下地層309(NaCl構造を有する)を順次形成した。
次に、上層下地層309までを形成した基板301を680℃まで加熱して、(Fe−53at%Pt)−18mol%TiOからなる厚み9nmの磁性層310を形成し、ダイヤモンド状炭素(DLC(Diamond Like Carbon))からなる厚み3.5nmの保護膜311を形成し、パーフルオロポリエーテルからなる厚み1.5nmの液体潤滑剤層312を塗布により形成した。
以上の工程により、実施例3−1の磁気記録媒体を得た。
図3において、第一〜第三下地層306〜308および上層下地層309を下地層300と総称する。
【0063】
また、実施例3−1の熱アシスト磁気記録媒体における第三下地層308を、表5に示す材料に置き換え、他の層は全て実施例3−1と同様にして実施例3−2〜3−7の磁気記録媒体を作製した。
【0064】
実施例3−1〜3−7の第一下地層306(Cr−10at%Mo)は、格子定数aが2.91Åであり、2.87Å≦a<3.04Åの範囲内である。第二下地層307(Mo−10at%Cr)は、格子定数aが3.12Åであり、3.04Å≦a<3.18Åの範囲内である。
実施例3−1〜3−7の第一〜第三下地層306、307、308は、いずれもBCC構造を有する。
【0065】
実施例3−1〜3−7の磁気記録媒体について、保持力およびSNRを測定した。その結果を表5に示す。
【0066】
【表5】
【0067】
実施例3−1〜3−7の磁気記録媒体は、どれも高い保磁力とSNRを示した。第三下地層には、Ta、W、Nbの比較的大きな格子定数を持つ元素を主成分として、Cr、Mo、Ru、V、Mn、Tiなどを添加した合金を用いることができる。
【0068】
(比較例3−1〜3−6)
実施例3−1における第三下地層を表6に示す材料に置き換えて、比較例3−1〜3−5に示す磁気記録媒体を作製し、保磁力、SNRの値を確認した。これを表4に示す。
実施例3に比べ、比較例3−1〜3−5の磁気記録媒体における保磁力、及びSNRは、低くなっている。これは、第三下地層を形成する合金の格子定数が小さく、上層下地層309に面内応力が加わらないためと考えられる。
【0069】
【表6】
【0070】
(実施例4)
実施例1−1〜1−3、1−8、2−1、2−4〜2−5、3−1〜3−4、比較例1−1、1−3、1−5、2−1、2−3、3−1、3−4の熱アシスト磁気記録媒体を図4に示す磁気記録再生装置の磁気記録媒体として用い、エラーレートを測定した。
エラーレートは、線記録密度1600kFCI、トラック密度500kFCI(面記録密度800Gbit/inch)の条件で記録して測定した。
その結果、実施例1−1〜1−3、1−8、2−1、2−4〜2−5、3−1〜3−4の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記憶装置は、1×10−6以下の低いエラーレートを示した。また、比較例1−1、1−3、1−5、2−1、2−3、3−1、3−4の磁気記録媒体を組み込んだ磁気記憶発生装置のエラーレートは1×10−4〜1×10−3程度であった。
【0071】
以上より、基板上に形成された下地層と、前記下地層上に形成されたL1型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とを有し、前記下地層が、基板側から順に、格子定数aが2.87Å≦a<3.04Åであり、B2構造、または、Crを主成分とするBCC構造を有する第一下地層と、格子定数aが3.04Å≦a<3.18ÅであるBCC構造の第二下地層と、格子定数aが3.18Å≦a<3.31ÅであるBCC構造の第三下地層と、NaCl構造を有する上層下地層とを有する磁気記録媒体を用いることにより、エラーレートの低い磁気記憶再生装置が得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、高保磁力と高いシグナルノイズ比(SNR)を示す磁気記録媒体及びこれを備えた磁気記録再生装置を提供できる。
【符号の説明】
【0073】
100、200、300…下地層、101、301…基板、102…密着層、105、201、306…第一下地層、106、202、307…第二下地層、107、203、308…第三下地層、108、309…上層下地層、109、204、310…磁性層、401…磁気記録媒体、402…媒体駆動部、403…磁気ヘッド、404…ヘッド駆動部、405…記録再生信号処理系、501…主磁極、502…補助磁極、503…コイル、504…レーザーダイオード、505…レーザー光、506…近接場発生素子、507…導波路、508…記録ヘッド、509…シールド、510…再生素子、511…再生ヘッド。
図1
図2
図3
図4
図5