(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記高分子グラフト鎖が、前記微粒子表面上の重合開始基を基点としたアクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体およびスチレン誘導体からなる群から選択される1以上のリビングラジカル重合によって得られる請求項1に記載のMRI造影剤。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、グラフト鎖間で立体反発が生じるまでに超高密度で所定の分子量の高分子グラフト鎖が微粒子表面に結合した複合粒子が、長期に渡って、生理的条件下において分散安定性に優れていることを見出した。この知見に基づき、本発明者らは上記課題を解決した。このように分散安定性が優れることにより、本発明のMRI造影剤には、(a)取り扱いが容易、(b)安定な薬効を提供、(c)安全性が向上という利点がある。MRI造影剤は、通常、患者に投与する直前に医療現場で調製されるため、取り扱いが容易な本発明のMRI造影剤は、調製から投与までの時間を短縮でき、医療従事者に対して特に有利である。また、複合粒子が凝集しやすい(すなわち分散安定性が低い)造影剤は、血中で異物として認識され、代謝排出されるので、薬効が低下し、十分な造影効果が得にくい。従って、分散安定性に優れる本発明のMRI造影剤は、薬効が安定する。また、複合粒子が凝集しやすい(すなわち分散安定性が低い)造影剤は、血中で血栓を形成する恐れがあり、安全性が低いのに対し、本発明のMRI造影剤は、分散安定性が高いため、このような恐れが低く、その結果、安全性が向上している。
【0012】
本明細書において、「複合粒子は分散安定性が優れる」とは、通常の溶媒中で、肉眼的に明らかな複合粒子の凝集や沈降物が見られない状態を意味する。また、「複合粒子は長期に渡り分散安定性が優れる」とは、通常の保存条件および溶媒中にて、複合粒子を数ヶ月間保存した場合に、肉眼的に明らかな凝集や沈降物が見られない状態を意味する。なお、通常の保存条件とは18〜30℃前後の温度で、かつ約60%以下の相対湿度を備えた条件である。通常の溶媒としては、医薬品製剤で一般的に用いられる生理食塩水などの水性溶剤が好ましい。
【0013】
一般的に、複合粒子のグラフト鎖分子量が大きいと、微粒子と結合している付近と比較して、鎖先端のグラフト鎖の密度は低下する。そのため、細網内皮系細胞に貪食されやすいことが予想される。しかしながら、この予想に反して、本発明のMRI造影剤に含まれる複合粒子は、細網内皮系細胞に貪食されにくいという特徴を示す。本発明における「細網内皮系」とは、異物を貪食することにより生体の防御に関与している細胞の総称であり、代表的なものとしてマクロファージが挙げられる。
【0014】
このような複合粒子によって、血液循環系を介して、腫瘍組織に集積を示すという特徴を示し、さらには、腫瘍組織内の病的状態に依存し、腫瘍組織内において異なる集積度分布を示すという特徴を有するMRI造影剤の提供が可能である。腫瘍組織において集積を示すことの確認は、MRI画像において、被験動物に本発明のMRI造影剤を投与前に比べ、投与後に、被験動物の腫瘍組織に該当する部分においてコントラストが強くなることにより確認できる。
【0015】
すなわち、本発明は、前記のとおり、複合粒子を含むMRI造影剤であって、前記複合粒子は、グラフト鎖間で立体反発が生じるまでに超高密度で高分子グラフト鎖が微粒子表面に結合した複合粒子であり、前記微粒子は、超常磁性を示す無機微粒子であり、前記高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)が、30,000以上である。
【0016】
本発明において、「MRI造影剤」とは、臨床現場で利用されているMRI(磁気共鳴イメージング)装置を利用した、体内画像診断法において投与される物質(薬剤)である。MRI測定対象中に当該物質が存在する場合、存在しなかった場合に比べて、測定画像上における測定対象の写り方が大きく変化したように見えるため、画像にコントラストをつけることが可能である。
【0017】
本発明において、「高分子グラフト鎖」とは、微粒子表面から重合反応によってモノマーを2個以上伸長して形成されたポリマー鎖を意味する。また、「超高密度」とは、グラフト鎖間で立体反発が生じる程度までグラフト鎖が密集した場合のグラフト鎖の密度を意味し、この場合、グラフト鎖は、表面に垂直な方向にほぼ伸びきった形態をとる。また、「結合」とは、一般的な化学反応により形成される結合を意味し、例えば、共有結合、イオン結合等が挙げられる。
【0018】
本発明のMRI造影剤において、前記高分子グラフト鎖の数平均分子量(Mn)は、30,000以上であり、30,000〜320,000であるのが好ましく、30,000〜160,000であるのがより好ましく、35,000〜160,000であるのが最も好ましい。このグラフト鎖の数平均分子量を制御することにより、細網内皮系細胞の貪食作用に違いがみられ、本発明のMRI造影剤の血中滞留性を制御することが可能である。具体的には、グラフト鎖の数平均分子量が大きい場合、MRI造影剤の血中滞留性は向上する。また、グラフト鎖の数平均分子量が大きい場合、細網内皮系細胞に貪食されにくい。前記高分子グラフト鎖の数平均重合度は、10〜100,000であり、例えばモノマーの分子量が500であるときは、50〜500であるのが好ましく、50〜350がより好ましく、70〜350が最も好ましい。この数平均分子量は、例えばGPCにより測定することができる。この数平均重合度は、数平均分子量/モノマー分子量から算出することができる。
【0019】
本発明のMRI造影剤において、前記微粒子は、超常磁性を示す無機微粒子である。このような無機微粒子としては、例えば、鉄(Fe)、コバルト(Co)、合金(例えば、FePt、FeCo)、酸化鉄(例えばフェライト、マグネタイト)等が挙げられる。前記フェライトは、市販のMRI造影剤用鉄製剤において実績があり、好ましい。「フェライト」は酸化鉄を主成分とするセラミックスの総称であり、磁性材料として広く使用される。無機微粒子として、より好ましくは、スピネル型の結晶構造を有するフェライトであり、さらにより好ましくは、マグネタイト(Fe
3O
4)である。なお、SPIO(超常磁性酸化鉄製剤)や、USPIO(Ultra−Small SPIO)、MION(単結晶型酸化鉄ナノ粒子製剤)と呼ばれるものは、MRI造影剤用鉄製剤に含まれる。
【0020】
「超常磁性」とは、磁性無機ナノ微粒子で起こる現象であり、外部から磁場をかけられた際に、全体として磁化を持つようになることを意味する。超常磁性体は、強磁性体が単一の磁区しか持たない大きさまでに微細化されたナノ粒子が示す特性であり、磁場を取り除いても磁化(磁気記憶)が残る強磁性体と異なり、超常磁性体は、磁場を取り除かれると磁化を失う。したがって、超常磁性を示す前記無機微粒子の粒径は、50nm以下であることが好ましい。この粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡法により測定することができる。本発明の複合粒子が超常磁性を示すかどうかは、例えば、SQUID(Superconducting Quantum Interference Device、超電導量子干渉素子)磁束計装置によって確認することができる(Macromolecules, 42(4), p1219-1228, 2009)。
【0021】
超常磁性を示す無機微粒子は、MRI測定において、画像を作り出すために使用されるMR信号を出す原子核(臨床MRIでは概して水のプロトン)の緩和時間(T
1、T
2共に)に影響を与える。該無機微粒子を含む鉄製剤は、主にT
2を短くする効果(厳密には、局所磁場の不均一性誘発によるT
2*の短縮)によって、T
2強調画像においてコントラストを強調する。
【0022】
造影剤のT
2短縮率を示す値として、T
2の逆数で表される横緩和度(R
2)が用いられる。複合粒子のR
2は、基本的に超常磁性を示す前記無機微粒子の磁化に依存し、既存のSPIOやUSPIOのR
2は、概ね20〜200[Fe mM
−1・s
−1]である(Advanced Drug Delivery Reviews, Vol.58, p1471-1504, 2006)。R
2が大きいほど、より低い濃度で高いT
2短縮効果を示す。超常磁性を示す前記無機微粒子がマグネタイト(Fe
3O
4)であり、陰性造影剤として用いるとき、複合粒子の横緩和度(R
2)が100[Fe mM
−1・s
−1](磁場強度1.5T)以上であることが好ましく、200[Fe mM
−1・s
−1](磁場強度1.5T)以上であることがより好ましい。
【0023】
本発明のMRI造影剤において、前記高分子グラフト鎖のグラフト密度は、例えば0.1本鎖/nm
2以上であり、0.1〜1.2本鎖/nm
2であるのが好ましく、0.1〜0.5本鎖/nm
2であるのがより好ましく、0.15〜0.45本鎖/nm
2であるのが最も好ましい。このグラフト密度を制御することにより、本発明のMRI造影剤における複合粒子の血中滞留性を制御することが可能である。本発明において、「グラフト密度」または「密度」とは、微粒子表面の単位面積(nm
2)あたりの表面に結合したグラフト鎖の本数を意味する。グラフト密度(s )は、元素分析により微粒子表面から伸長して形成された高分子グラフト鎖の量(グラフト量、w)を求め、その値とコア微粒子の表面積(S、nm
2)、グラフトポリマーの数平均分子量Mnならびにアボガドロ数(Av)を用いて以下のようにして算出される。
算出方法:s=(w/Mn)Av/S
【0024】
本発明のMRI造影剤において、前記複合粒子の平均粒径は、1000nm以下であるのが好ましく、10〜500nmであるのがより好ましく、10〜250nmであるのがさらにより好ましい。本発明のMRI造影剤は、その血中滞留性が平均粒径にほとんど依存しない。そのため、本発明のMRI造影剤は、所定の分子量を有するグラフト鎖を有していれば、前記微粒子の粒径を大きくし、その結果、前記複合粒子の平均粒径が大きくなった場合でも、生体内から排除されにくい。その結果、本発明のMRI造影剤は、従来よりも感度に優れ、かつ、低投与量で効果を発揮することができる。平均粒径とは、コア微粒子にグラフト鎖を付与した複合粒子全体の流体力学的直径を意味する。なお、平均粒径の粒径分布が小さい複合粒子である場合、MRI造影剤の大きさが均一となり、DDS用途のためには、好ましい。前記平均粒径は、動的光散乱式粒径分布測定法により測定することができる。
【0025】
本発明のMRI造影剤において、前記高分子グラフト鎖は、例えば微粒子表面上の重合開始基を基点としたモノマーのリビングラジカル重合によって得ることができる。上記モノマーの種類としては、アクリル酸誘導体、メタクリル酸誘導体、アクリルアミド誘導体、メタクリルアミド誘導体およびスチレン誘導体からなる群から選択される1以上が好ましいが、これらに限定されず、当業者の認識する範囲で適宜選択されてもよい。この高分子グラフト鎖は、別の高分子グラフト鎖と結合していてもよい。具体的にはリビングラジカル重合において、モノマーの1種として架橋性モノマーを用いてブロック共重合体をグラフトし、導入した架橋性基を反応させてもよい。またリビングラジカル重合は、ランダム重合、ブロック重合、組成傾斜型等であってもよい。高分子グラフト鎖は、その末端および末端近傍に特異的なリガンドを導入されていてもよい。そのようなリガンドを有する複合粒子を含むMRI造影剤は、選択的にリガンドを標的臓器へ届けることができるので好ましい。特異的なリガンドとしては、当該分野で知られる特異的なリガンドであれば特に限定されない。
【0026】
本発明のMRI造影剤において、前記高分子グラフト鎖の分子量分布(Mw/Mn)は、1〜1.5であるのが好ましい。分子量分布が1〜1.5の範囲である場合、MRI造影剤は均質なグラフト表面を有するからである。
【0027】
また、本発明のMRI造影剤の複合粒子において、微粒子から遠い領域の高分子グラフト鎖が、特定の病変組織指向性な高分子であってもよい。前記特定の病変組織指向性な高分子としては、例えば、病変時に高発現する分子マーカーに対する標的分子が挙げられる。このようなMRI造影剤は、腫瘍以外の病変にも特異的に集積することができ、その結果、かかる病変をMRI信号コントラストとして検出することが可能である。
【0028】
本発明のMRI造影剤は、例えば、標的とする患部(臓器、組織、細胞、病原体等)の、腫瘍診断用に用いられるのが好ましい。本発明のMRI造影剤は、血中からの除去のために働くタンパク質の吸着が抑制されており、その結果、血中残存率が高いことが特徴である。そのため、本発明のMRI造影剤は癌組織への集積が高い。この理由としては、EPR効果(Enhanced Permeability and Retention Effect)が考えられる。数十〜250nmの分子サイズをもつ物質は癌組織の血管の解剖学特徴によって、集積することが知られている。本発明のMRI造影剤は血中滞留性が高く、その結果として、血流を介して癌組織を通過する確率が高くなる。この結果として、癌により多く集積すると考えられる。
【0029】
また、本発明のMRI造影剤は、肝臓への移行率が低く、腫瘍へ集積する性質を示す。そのため、本発明のMRI造影剤を用いて、MRI法により様々な臓器の腫瘍を検出することが可能である。
【0030】
本発明のMRI造影剤において、複合粒子は、例えば以下のようにして製造することができる。まず、重合開始基含有カップリング剤としての化合物を、化学吸着法により微粒子表面に固定する。そして、1種類以上のモノマーを供給してリビングラジカル・グラフト重合を行う。重合開始基含有カップリング剤を予め微粒子表面に固定することにより、微粒子表面上でグラフト密度を一定に保持しつつグラフト重合を進行させることができる。つまり、グラフト量はグラフト鎖のMn(数平均分子量)に比例して増大させることができ、重合をリビング的に進行させ、微粒子表面上のほぼすべてのグラフト鎖をほぼ均等に成長させることができる。すなわち、本発明の複合粒子においては、微粒子表面上の隣接グラフト鎖間の立体障害が軽減されているのである。なお、リビングラジカル・グラフト重合の間、微粒子の表面に固定していない重合開始剤を共存させてもよい。
【0031】
重合開始基含有カップリング剤としての化合物は、微粒子との親和性等を考慮して選択することができる。具体的には、微粒子が酸化鉄の粒子である場合、その重合開始基含有カップリング剤としては、下式(I)に示すシラン化合物が好ましい。
【0033】
前記式中、nは整数であり、3〜10が好ましく、4〜8がより好ましい。R
1は、C
1〜C
3アルキル基であり、C
1またはC
2アルキル基が好ましい。R
2は、C
1またはC
2アルキル基である。Xはハロゲン原子であり、臭素または塩素原子が好ましい。式(I)で表わされる化合物としては、(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン(BPE)、(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシヘキシルトリエトキシシラン(BHE)等が挙げられる。
【0034】
微粒子が酸化鉄である場合、その重合開始基を含有しないカップリング剤としては、アルキルシランカップリング剤等が挙げられる。
【0035】
微粒子表面のグラフト密度は、重合開始基含有カップリング剤と重合開始基を含有しないカップリング剤との割合を調整することで、変更することができる。具体的には、微粒子が酸化鉄ナノ粒子である場合、重合開始基含有カップリング剤と重合開始基を含有しないカップリング剤との割合が1:0であれば、グラフト密度は0.1本鎖/nm
2以上である。
【0036】
重合終了後、目的とする複合粒子は、反応液から当該分野で通常用いられる方法、例えば抽出、蒸留、洗浄、濃縮、沈殿、ろ過、乾燥、吸着、析出、クロマトグラフィーなどの方法を単独または組み合わせることにより、単離することができる。
【0037】
本発明のMRI造影剤は、前記のように腫瘍の診断用に用いられるのが好ましい。腫瘍としては、非新生生物性の膨張および真性腫瘍が挙げられる。前記真性腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍とが挙げられる。前記悪性腫瘍としては、脳腫瘍、舌癌、喉頭癌、咽頭癌、肺癌、乳癌、食道癌、甲状腺癌、胃癌、膵臓癌、胆道癌、十二指腸癌、大腸癌、肝癌、腎臓癌、子宮癌、卵巣癌、精巣癌、前立腺癌、膀胱癌、骨肉腫、軟骨肉腫、中皮腫、皮膚癌、白血病、神経芽腫、骨髄腫、リンパ腫等が挙げられる。
【0038】
本発明のMRI造影剤は、経口および非経口のいずれの方式でも投与可能である。経口投与の場合、本発明のMRI造影剤は、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤またはシロップ剤等の形態で投与できる。非経口投与の場合、本発明のMRI造影剤は、例えば、注射剤、座剤、点眼剤、経肺剤、経鼻投与剤、軟膏、クリーム剤等の形態で投与できる。注射剤の場合、例えば、静脈投与、筋肉内投与、腹腔内投与等により、投与される。これらの製剤は、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、安定剤、希釈剤などの医薬上許容される添加剤を用いて従来周知の方法により製造することができる。
【0039】
以下に本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、以下の実施例により限定されない。
本明細書の記載において、以下の略語を使用する。
THF:テトラヒドロフラン
BPE:(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン
BPP:1−(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシ−2−プロペン
PEGMA:ポリエチレングリコールメタクリレート
PEMA:(4−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート
dN−biby:Cu(I)Cl、ジノニルビピリジン
EBIB:エチル2−ブロモイソブチレート
NMR:核磁気共鳴
GPC:ゲル濾過クロマトグラフィー
TGA:熱重量分析
TEM:透過型電子顕微鏡
MRI:磁気共鳴イメージング
【実施例】
【0040】
<複合粒子(微粒子が酸化鉄ナノ粒子)の製造例>
【0041】
(1)重合開始基含有カップリング剤(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシプロピルトリエトキシシラン(BPE)の合成
【0042】
【化2】
【0043】
BPEの合成は、2段階反応により行った。第1段階として、アリルアルコール(170g)、トリエチルアミン(237g)およびジクロロメタン(2L)の混合溶液を氷冷し、その中へ2−ブロモイソブチリルブロマイド(450g)を滴下した。その後、反応液を0℃で3時間攪拌し、さらに室温で10時間攪拌した。反応液を濃縮し、THFを加え、塩を析出させ、濾過し、濾液を濃縮した後、得られたものをクロロホルム(1L)により希釈し、それを1N塩酸水溶液(2×1L)、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(2×1L)、純水(2×1L)の順で洗浄した。有機層を乾燥し、濃縮後、減圧蒸留により精製し、1−(2−ブロモ−2−メチル)プロピオニルオキシ−2−プロペン(BPP)を収率90%で得た。
【0044】
第2段階として、フラスコの中へBPP(100g)、トリエトキシシラン(170g)およびカルステッド触媒(600μL)を順次入れ、その混合液をアルゴン雰囲気下、室温で12時間攪拌した。反応後減圧蒸留により精製し、BPEを収率70%で合成した。
【0045】
(2)オレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子の合成
Hyeonらの報告(Nature Materials, Vol.3, p891-895, 2004)に従い、オレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子を合成した。
先ず、オレイン酸鉄錯体を合成した。塩化鉄(FeCl
36H
2O、10.8g)とオレイン酸ナトリウム(36.5g)を、エタノール(80mL)、水(60mL)およびヘキサン(140mL)の混合溶媒に溶解し、その溶液を70℃で4時間攪拌した。反応終了後、上層の有機層を回収し、前記有機層を純水で3回洗浄した。その後、前記有機層をロータリーエバポレータで減圧濃縮し、溶媒を除去した。得られた残渣を70℃で1晩、真空乾燥してオレイン酸鉄錯体を得た。このオレイン酸鉄錯体(36g)とオレイン酸(5.7g)をトリオクチルアミン(200g)に溶かし、その溶液を、5℃/minの昇温速度で370℃まで加熱した。370℃に達した後、さらに、同温度で30分間、還流下で加熱を続けた。その後、反応溶液を室温まで冷却し、THFで希釈した後、遠心分離(12,000rpm)でオレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子を回収した。透過型電子顕微鏡法により前記酸化鉄ナノ粒子の投影面積円相当径(平均粒径)を測定したところ、7、10、15および20nmであった。この酸化鉄は、X線回折法により、マグネタイト(Fe
3O
4)であることを確認した。
【0046】
(3)オレイン酸被覆酸化鉄ナノ粒子表面への開始基の導入
(2)で得た前記酸化鉄ナノ粒子をTHFに分散させ、分散液(1wt%)を作成した。前記分散液へアンモニア水(1wt%)を加え、しばらく攪拌した後、(1)で得たBPE(2wt%)を加え、3日間、室温で攪拌した。この溶液を攪拌中、定期的に、超音波照射した。その後、粒子を遠心分離(12,000rpm)で回収し、THFによる再分散、遠心分離をくりかえすことにより、開始基を有する酸化鉄ナノ粒子を得た。
【0047】
(4)酸化鉄ナノ粒子を用いた表面開始リビングラジカル重合
【0048】
【化3】
【0049】
(3)で得た開始基を有する酸化鉄ナノ粒子、ポリエチレングリコールメタクリレート(PEGMA)、(4−ヒドロキシフェニル)エチルメタクリレート(PEMA)、Cu(I)Cl、ジノニルビピリジン(dN−biby)およびエチル2−ブロモイソブチレート(EBIB)をパイレックス製ガラス管に入れ凍結融解法により脱気し真空下で封管した後、70℃で所定時間重合して、高分子グラフト鎖が酸化鉄ナノ粒子表面に結合した複合粒子を得た。この重合条件を表1に示す。
【0050】
複合粒子(微粒子が酸化鉄ナノ粒子)の精製は、遠心分離とアセトン、純水への再分散を繰り返すことにより行った。
【0051】
複合粒子は、純水に分散させ室温保存した。複合粒子をフッ化水素で処理することにより、高分子グラフト鎖を酸化鉄ナノ粒子から切り出し、高分子グラフト鎖の分子量及び分子量分布をゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)により求めた。
【0052】
熱重量分析(TGA)により求めたグラフト量から、グラフト密度を算出し、全てのサンプルにおいて、0.15〜0.43鎖/nm
2以上の高いグラフト密度を有していることを確認した。なお、ここで用いた重合条件および重合結果を表1にまとめ、また、それをサンプルリストとした。
図1に、複合粒子(run6)の透過型電子顕微鏡(TEM)写真を示した。
【0053】
【表1】
【0054】
<複合粒子の緩和度測定>
酸化鉄微粒子の粒径が異なる、実施例run2(7nm)、run3(10nm)、run6(20nm)で得られた複合粒子について、以下のようにしてNMRおよびMRIを用いて緩和時間を測定した。
【0055】
NMR(EX‐400、日本電子株式会社)を用いてCPMG(Carr−Purcell−Meiboom−Gill)法によりT
2を測定した。1mM Fe相当の複合粒子存在下における、H
2Oのプロトンシグナルを測定対象とした(99%D
2O/24℃)。その結果から求めたR
2は、118[Fe mM
−1・s
−1](run2)、151[Fe mM
−1・s
−1](run3)、326[Fe mM
−1・s
−1](run6)であった。よって、得られた複合粒子は、MRI造影剤として必要なT
2短縮効果を示すことが分かった。また、より低い濃度でも高いT
2短縮効果を示す、200[Fe mM
−1・s
−1]以上のR
2を示す複合粒子(run6)を得ることができた。なお、この測定で用いたNMRは、磁場強度9.4Tだが、T
2緩和は、磁場強度の違いによる影響はほとんど受けない(MRI「超」講義 第2版 Q&Aで学ぶ原理と臨床応用、メディカル・サイエンス・インターナショナル出版)。
【0056】
次に、MRI(Unity INOVA 4.7T、バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド)を用いたファントム実験を行った。複合粒子(run6)を蒸留水で0.001〜2.0mM Feの濃度に希釈し、
図2右に示すように配置し、スピンエコー法によりT
2を測定した(測定条件:TR/TE=4000/0.08ms)。比較対照には既存ガドリニウム系造影剤であるマグネビスト(MV、1mM Gd、バイエル薬品株式会社)、陰性対照には蒸留水を用いた。
図2右に示す円中の数字は、複合粒子の濃度(mM)であり、MVは、前記比較対照の既存ガドリニウム系造影剤である。
図2左に、複合粒子(run6)の緩和度測定のためのMRIファントム画像を示す。その結果、T
2測定画像を見ると複合粒子は濃度依存的に暗くなり、既存品より低濃度でも十分なMRIコントラスト画像を得られることが確認された。なお、他の複合粒子を用いた場合も同様の結果が得られた。磁場強度は、4.7Tであった。
【0057】
<複合粒子の分散安定性評価>
run1〜13で得た複合粒子の分散安定性を評価するため、長期保存実験を行った。酸化鉄微粒子の粒径が10nmの各複合粒子(実施例run3、4、5および比較例run8、各5mL)を、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)を用いて、粒子濃度が0.038wt%となるように調整し、室温で6ヶ月間保存した。保存開始前には、いずれの複合粒子も凝集はみられず、LB−550(HORIBA社製)を利用した動的光散乱式粒径分布測定の結果、平均粒径(流体力学的直径、本測定ではメジアン径を採用)は40nm未満であり、すべて優れた分散安定性を示した。これら複合粒子を、室温で6ヶ月間保存すると、比較例run8でのみ沈殿が生じた(
図3)。同様に複合粒子の粒径分布測定したところ、比較例run8:296nm、run3:120nm、run4:75nm、run5:24nm、となり、グラフト鎖長が大きいほど保存開始前の分散性を維持した。これらの結果から、グラフト鎖分子量が大きい複合粒子は分散安定性に優れており、長期間の保存に適していることが確認できた。これは、リビングラジカル重合により高分子グラフト鎖が結合した複合粒子が、水性溶媒中に単純に混ぜるだけでも、長期に渡る分散安定性を維持する特徴を示した驚くべき結果である。
【0058】
<マウス腹腔内マクロファージによる複合粒子の貪食作用>
複合粒子の細網内皮系への取り込まれやすさを評価するため、in vitroマクロファージ実験を行った。3%チオグリコレート(SIGMA社製)、2mLを腹腔内投与したマウス(8週齢、ICR雄マウス)を3日後に犠牲死させ、Hanks液(Gibco社製)で腹腔内よりマクロファージを回収した。回収したマクロファージはHanks液および培地(DMEM、Gibco社製)で洗浄後、1×10
6cells/mLに調整し、37℃、5%CO
2条件下で培養した。3時間後培地を除去し、培地で30μgFe/mLに調整した複合粒子(実施例run1〜7、11、12、比較例run8〜10、13)を添加した。培養24時間後に培地を除去し、PBSで3回洗浄後、Perl’s Prussian Blue染色により複合粒子を貪食したマクロファージを染色し、吸光度(590nm)を測定した(
図4)。陰性対照にはPBS、陽性対照には既存酸化鉄造影剤であるリゾビスト(バイエル株式会社、30μgFe/mL)を用いた。その結果、実施例の複合粒子を用いた場合は、陰性対照との差がなく、マクロファージに貪食されないことが確認できた。一般的に、複合粒子のグラフト鎖分子量が大きいと、微粒子と結合している付近に比べ、グラフト鎖先端部の密度は低下し、細網内皮系に認識されやすくなり、貪食されやすいと考えられている。よって、グラフト鎖分子量が小さい複合粒子は、マクロファージに貪食されにくいと考えていた。しかしながら、予想に反して、グラフト鎖分子量が小さい複合粒子(比較例)に比べ、大きい複合粒子(本発明)のほうがマクロファージに貪食されにくいことを確認できた。
【0059】
<マウス肝臓マクロファージによる複合粒子の貪食作用>
複合粒子の肝臓での取り込まれやすさを評価するため、肝臓の病理組織学的評価を行った。生理食塩水を用いて複合粒子濃度を1.9wt%に調整した複合粒子(実施例run5および比較例run8、各300μL)の溶液を、マウス(6週齢、ICR雄マウス)の尾より静脈内投与した。投与3日後に犠牲死させ、摘出した肝臓をホルマリン固定後、パラフィン包埋、薄切し、HE染色した。肝臓の病理組織学的評価の結果、比較例run8(酸化鉄微粒子の粒径;10nm、Mn;29,000)では、円内に示した肝臓マクロファージ(クッパー細胞)が褐色状に染色され、酸化鉄ナノ粒子(複合粒子)が貪食されたことが示された(
図5(b))。run5(酸化鉄微粒子の粒径;10nm、Mn;154,000)では、円内に示した正常なクッパー細胞が見られるのみで貪食作用は認められなかった(
図5(a))。この結果から、実施例の複合粒子は、肝細網内皮系ではクッパー細胞に貪食されず、投与3日後には肝臓中に蓄積されていないことが確認できた。
【0060】
<RI標識複合粒子の体内動態評価>
(1)複合粒子の放射性同位元素(RI)による標識
実施例run6(酸化鉄微粒子の粒径;20nm、Mn;109,000)および比較例run9(酸化鉄微粒子の粒径;20nm、Mn;11,000)の複合粒子の分散液(複合粒子濃度として1wt%、溶媒=純水、100μL)をマイクロ遠心チューブに入れ、さらにNa
125I(5μL、Perkinelmer NEZ033)、次いでChloramine T溶液(濃度=0.2mg/m1、溶媒=0.5Mリン酸緩衝水溶液(pH7.5、0.5M NaCl含有、100μL)を加え、ボルテックスミキサーで2分間攪拌した。そこへメタ重亜硫酸ナトリウム溶液(濃度=4mg/mL、溶媒=純粋、100μL)をさらに加え、ボルテックスミキサーで2分間攪拌した。得られた混合物をPD−10カラム(GEヘルスケア・ジャパン株式会社)で分離精製(溶出液;生理食塩水)し、微粒子(
125I標識複合粒子)含有留出を
125I標識複合粒子分散液として回収した。
【0061】
(2)RI標識複合粒子の体内動態評価
(1)で製造した
125I標識複合粒子分散液(run6および9、各100μL)を、Colon−26癌細胞を移植した担癌マウス(8週齢、BALB/c雌マウス)の尾より静脈内投与した。所定時間経過後にマウス眼より採血しガンマカウンター(ARC−301B、アロカ株式会社)により放射活性を測定し、複合粒子の血中残存率を求めた(
図6)。また、投与24時間後に担癌マウスを犠牲死させ、摘出した各臓器の放射活性を測定し、複合粒子の体内分布を評価した(
図7(a);組織中蓄積率、
図7(b);重量あたり組織中蓄積率)。血中残存率の結果、比較例run9(酸化鉄微粒子の粒径;20nm、Mn;11,000)では投与直後から残存率が低下する一方で、実施例run6(酸化鉄微粒子の粒径;20nm、Mn;109,000)では、投与24時間後まで高い血中残存率(約40%)を維持し、血中滞留性が高いことを示した。体内分布では、投与24時間後の組織中蓄積率で両試作品ともに肝臓に8〜18%、脾臓に1〜2%の蓄積が確認された。従来の酸化鉄系造影剤の投与1時間後の肝細網内皮系への集積率は約80%であること(Am J Roentgenol, 152, 167−173, 1989)から、実施例の複合粒子の肝臓および脾臓への集積率は極めて低いことが確認できた。また、実施例run6の投与24時間後の重量あたり組織中蓄積率では、腫瘍への蓄積性が高いことが示された。これらの結果から、グラフト鎖分子量が大きい複合粒子は、血中滞留性が延長され、EPR効果により腫瘍への集積性が上昇する一方で、肝臓および脾臓へ集積率は低いことが確認できた。
【0062】
<複合粒子のMRIによる造影評価>
実施例run6(酸化鉄微粒子の粒径;20nm、Mn;109,000)の複合粒子を用いてMRI実験を行った。麻酔下の担癌マウス(8週齢、BALB/c雌マウス)をMRI装置(Unity INOVA 4.7T、バリアン・テクノロジーズ・ジャパン・リミテッド)にセットし、左大腿部の腫瘍に対して位置決め(投与前)撮影を行った後(
図8(a)および
図8(b)参照)、run6の複合粒子の生理食塩水による分散液(100μM Fe/kg、100μL)を尾より静脈投与し、24時間後に同腫瘍の撮影を行った(
図8(c)参照)。撮影条件は、Transverse plane、1mm厚、TR=300ms、TE=10ms、Flip angle=20°で行った。その結果、グラジエントエコー(GE)法測定により撮像したT
2強調画像では、複合粒子を投与前には白色画像として撮影された腫瘍が、投与24時間後の撮影では、腫瘍内部が全体的に陰影され、特に一部は完全な陰影効果が認められた(
図8(c)参照)。この結果から、複合粒子は腫瘍に集積することで、T
2短縮効果を発揮し、信号強度を低下させることが示された。よって複合粒子は、コントラストを強調させるMRI造影剤として実用的に機能することが確認できた。