(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、前述した本発明に係る熱式質量流量計において、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記通電制御が電圧制御であり、前記出力機構のインピーダンスが前記発熱体の電気抵抗値より低く、前記出力インピーダンス調整機構により前記センサ素子駆動回路部の出力インピーダンスを高めている。
(ii)前記出力インピーダンス調整機構は、電気抵抗体で構成されている。
(iii)前記通電制御が電流制御であり、前記出力機構のインピーダンスが前記発熱体の電気抵抗値より高く、前記出力インピーダンス調整機構により前記センサ素子駆動回路部の出力インピーダンスを下げている。
(iv)前記出力機構は、前記発熱体への電流を制限する電流制限機構を有する。
(v)前記出力インピーダンス調整機構は、カレントミラー回路で構成されている。
(vi)前記出力インピーダンス調整機構は、前記カレントミラー回路と前記発熱体との間に電気抵抗体が更に配設されている。
(vii)前記出力機構は、前記電流制限機構による電流制限値を調整する電流制限値調整機構を更に有する。
(viii)前記センサ素子部は、前記発熱体のガス流上流側とガス流下流側との温度差を検出する温度差検出ブリッジ回路を更に有し、前記出力機構は、前記温度差検出ブリッジ回路からの出力に基づいて、前記発熱体への電流を制限する第2電流制限機構を更に有する。
(ix)前記センサ素子駆動回路部は、電流出力型デジタルアナログ変換器を有する。
(x)前記センサ素子駆動回路部は、前記電流出力型デジタルアナログ変換器への入力値を制限する入力リミッタを更に有する。
(xi)前記センサ素子駆動回路部は、前記入力リミッタの制限値を調整するリミッタ調整機構を更に有する。
【0017】
[本発明の基本思想]
本発明者等は、前述した目的を達成するため、センサ部に付着した水滴が突沸に至る過程を詳細に調査・考察し、その対策を鋭意検討した。その結果、水滴が付着した瞬間において発熱体への投入電力(発熱体の発熱量)をいかに抑制するか(そのための制御機構)に重要なポイントがあることを見出した。本発明は、当該知見に基づいて完成されたものである。本発明の熱式質量流量計は、センサ素子部の通電制御を行うセンサ素子駆動回路部に第一義的な特徴がある。
【0018】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。ただし、本発明は、ここで取り挙げた実施形態に限定されるものではなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。なお、同じ部材・部位には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0019】
[本発明の第1実施形態]
本発明の第1実施形態の熱式質量流量計を
図1〜4により説明する。
【0020】
図1は、第1実施形態の熱式質量流量計の構成を示す概略回路図である。
図1に示したように、第1実施形態の熱式質量流量計1は、通電により発熱する発熱体11および発熱体11の温度を検出する温度検出ブリッジ回路20を有するセンサ素子部10と、センサ素子部10に接続され発熱体11への通電制御を行うセンサ素子駆動回路部30とを有する。温度検出ブリッジ回路20は、温度に応じて電気抵抗値の変化する温度検出抵抗体21と電気抵抗値が一定の固定抵抗体22〜24とで構成される。
【0021】
センサ素子駆動回路部30は、出力機構50と出力インピーダンス調整機構40とを有する。出力機構50は、温度検出ブリッジ回路20の出力電圧を検出して発熱体11への駆動電圧を発生する増幅器51と、発熱体11の駆動電流を制限する電流制限機構52とを有する。出力インピーダンス調整機構40は、出力機構50と発熱体11との間に配設され、出力機構50の出力インピーダンスを発熱体11の電気抵抗値より高くかつ1 MΩ未満となるように調整する機構である。ガス流量信号は、増幅器51の出力信号から取り出される構成になっている。
【0022】
熱式質量流量計1は、その回路構成から、発熱体11への通電制御が電圧制御となる。ここで、増幅器51の出力インピーダンスは通常十分に小さいことから、出力インピーダンス調整機構40によってセンサ素子駆動回路部30の出力インピーダンスを高める方向の調整が行われる。具体的には、第1実施形態の出力インピーダンス調整機構40は、電気抵抗体41で構成されることが好ましく、センサ素子駆動回路部30の出力インピーダンスは、電気抵抗体41のそれによってほぼ決まる構成になっている。
【0023】
図2は、本発明の熱式質量流量計のセンサ素子部の構造例を示す断面模式図である。なお、図中には、センサ部分(発熱体11や温度検出抵抗体21)に付着した水滴と、発熱体11の発熱により生じた気泡も併せて示した。
図2に示したように、センサ素子部10は、例えば、シリコン基板12上に第1絶縁膜13が積層され、当該第1絶縁膜13上にセンサ部分(発熱体11や温度検出抵抗体21)が形成され、当該センサ部分と第1絶縁膜13とを覆うように第2絶縁膜14が積層され、センサ部分の直下のシリコン基板12が除去されて薄膜状のセンサ領域15が形成された構造を有している。センサ領域15を薄膜状にすることで、熱容量が小さくなって温度変化に対する感度・精度が向上する利点があるが、機械的強度が低下する弱点もある。
【0024】
センサ領域15上に水滴が付着すると、発熱体11の熱により水滴の温度が上昇する。このとき、加熱が緩やかであると水滴内に対流が生じ、水滴の表面から蒸発する。加熱がある程度大きくなると水滴の内部に気泡が発生する。加熱の程度が更に大きくなると気泡の発生・成長が爆発的に起こり突沸となる。突沸時の蒸気圧は非常に高く、薄膜状のセンサ領域15を破裂させる要因となる。そのため、突沸は厳に避けるべき現象である。
【0025】
前述したように、熱式質量流量計では、高精度な計測を可能にするため、温度検出抵抗体21の抵抗温度係数を高くすることが望ましい。また、製造コスト低減のため、発熱体11および温度検出抵抗体21は、同一材料で構成されることが望ましい。これらのことから、本発明の熱式質量流量計は、発熱体11および温度検出抵抗体21が共に大きな正の抵抗温度係数を持つ構成になっている。本実施形態の熱式質量流量計1は、出力インピーダンス調整機構40(電気抵抗体41)と電流制限機構52とを有することから、発熱体11および温度検出抵抗体21の抵抗温度係数を大きくしても発熱体11の過熱を抑制することができ、水滴等の付着に対して突沸を防ぐことができる(詳細は後述する)。
【0026】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。熱式質量流量計1は、通常時(例えば、水滴付着が無い状態の時)、発熱体11の温度を温度検出ブリッジ回路20で検出し、温度検出ブリッジ回路20の出力がゼロになるように増幅器51により発熱体11に電圧を印加する。こうすることで、発熱体11の加熱温度が一定になるように制御が働く。発熱体11からガス流への放熱量はガス流量と加熱温度とに応じて変化するので、加熱温度を一定に制御することで、ガス流への放熱量はガス流量に応じて変化することになる。言い換えると、発熱体11の加熱温度を一定に制御しているので、ガス流への放熱量と発熱体11の発熱量(すなわち投入電力)とはバランスする。その結果、増幅器51の出力電圧からガス流量に応じた出力を得ることができる。
【0027】
図3は、出力インピーダンス調整機構を有しない従来の熱式質量流量計における、センサ部に水滴が付着した際の発熱体の挙動を示す波形である。ここで、
図3では「時間=0」で水滴付着が生じたものとする。
図3に示したように、水滴付着前「時間<0」には、発熱体11の温度、発熱体11の電気抵抗値、増幅器51の出力電圧、発熱体11の電圧、および発熱体11の発熱量は所定の状態にバランスしている。なお、出力インピーダンス調整機構を有しない場合、増幅器51の出力電圧と発熱体11の電圧とは同じである。
【0028】
この状態で「時間=0」において水滴が付着したとする。水滴付着により発熱体11の温度は急激に冷却され、発熱体11の抵抗値は発熱体11の大きな抵抗温度係数により減少する。一方、発熱体11の温度低下を温度検出ブリッジ回路20が検出することで、増幅器51の出力電圧は上昇を開始する。この結果、発熱体11の発熱量は、発熱体11の抵抗値の減少と増幅器51の出力電圧の増加により急増し、発熱体の熱劣化や突沸によるセンサ領域15の破裂を招く過熱状態となり(言い換えると、センサ素子破損熱量を上回り)、センサ素子部10が破損する可能性が高くなる。
【0029】
なお、水滴付着による発熱体11の抵抗減少により発熱体11の通電電流が増加して所定のしきい値を超えると、電流制限機構52が作動して発熱体11への電流を制限して発熱体11の発熱量を抑制すると考えられる。しかしながら、水滴付着による発熱体11の抵抗減少およびそれによる発熱量の急増は、電流制限機構52のような電子回路的な動作に比べて高速であり、電流制限機構52による電流制限は間に合わない可能性が高い。特に、電流検出精度を高くすると、電流制限機構52の動作速度は更に遅くなる。このため、
図3では、「時間=t1」で電流制限機構52が作動している。このように、出力インピーダンス調整機構を有しない従来の熱式質量流量計は、水滴付着直後の発熱体11の発熱量の急上昇に対して電流制限機構52のみで応答することは困難と考えられる。
【0030】
図4は、第1実施形態の熱式質量流量計における、センサ部に水滴が付着した際の発熱体の挙動を示す波形である。
図3と同様に、
図4でも「時間=0」で水滴付着が生じたものとする。
図4に示したように、水滴付着前「時間<0」には、発熱体11の温度、発熱体11の電気抵抗値、増幅器51の出力電圧、発熱体11の電圧、および発熱体11の発熱量は所定の状態にバランスしている。なお、出力インピーダンス調整機構40を有する場合、発熱体11の電圧は、増幅器51の出力電圧を発熱体11の抵抗値と電気抵抗体41の抵抗値とで分圧した値となる。
【0031】
この状態で「時間=0」において水滴が付着したとする。水滴付着により発熱体11の温度は急激に冷却され、発熱体11の抵抗値は減少し、
図3と同様に増幅器51の出力電圧は発熱体11の温度低下により上昇を開始する。ここにおいて、発熱体11の電圧は、電気抵抗体41の抵抗値との分圧であることから、発熱体11の抵抗値が小さくなることで「時間=0」では減少する。この結果、発熱体11の発熱量は、増幅器51の出力電圧の増加に伴って増加するが、「時間=0」での発熱量の急増が無いため直ちにセンサ素子破損熱量を上回ることがない(言い換えると、センサ素子破損熱量を上回るまでの時間を延ばすことができる)。さらに、「時間=t1」には、電流制限機構52が作動して発熱体11への電流を制限して発熱体11の発熱量を抑制することができる。このようなメカニズムにより、本実施形態の熱式質量流量計1は、発熱体11の熱劣化や突沸によるセンサ領域15の破裂を防止することができる。この作用効果を得るためには、出力インピーダンス調整機構40による出力インピーダンス(電気抵抗体41の抵抗値)が少なくとも発熱体11の電気抵抗値より高いことが望ましい。なお、出力インピーダンス調整機構40による出力インピーダンスが1 MΩ以上になると、発熱体11の分圧が小さくなり過ぎて発熱体11の温度制御が難しくなる。
【0032】
[本発明の第2実施形態]
本発明の第2実施形態の熱式質量流量計を
図5〜11により説明する。
【0033】
図5は、第2実施形態の熱式質量流量計の構成を示す概略回路図である。
図5に示したように、第2実施形態の熱式質量流量計2は、第1実施形態の熱式質量流量計1とセンサ素子部10は同じ構成であるが、センサ素子駆動回路部31が異なる構成を有している。本実施形態のセンサ素子駆動回路部31は、出力機構70と出力インピーダンス調整機構60とを有する。
【0034】
出力機構70は、温度検出ブリッジ回路20の出力電圧を検出する増幅器71と、増幅器71の出力を受けるMOSトランジスタ72と、MOSトランジスタ72に直列接続された電気抵抗体73およびMOSトランジスタ74と、MOSトランジスタ74と共にカレントミラー回路を構成するMOSトランジスタ75と、MOSトランジスタ75に接続され所定の電流を発生する定電流源76と、定電流源76に接続され出力機構70の最大電流を制限する(すなわち、発熱体11の駆動電流を制限する)電流制限機構77とを有する。出力インピーダンス調整機構60は、MOSトランジスタ72に接続されるMOSトランジスタ61と、MOSトランジスタ61と共にカレントミラー回路を構成するMOSトランジスタ62とを有する。ガス流量信号は、発熱体11の駆動電圧から取り出される構成になっている。
【0035】
熱式質量流量計2は、その回路構成から、発熱体11への通電制御が電流制御となる。ここで、出力機構70の出力特性を
図6に示す。
図6は、第2実施形態の熱式質量流量計における出力機構の出力電流と出力電圧との概略関係を示すグラフである。出力機構70は、MOSトランジスタ74とMOSトランジスタ75とのカレントミラー回路で構成されているため、出力インピーダンスが非常に高く、数MΩレベルになる。そこで、本実施形態では、出力インピーダンス調整機構60におけるMOSトランジスタ61とMOSトランジスタ62とのゲート長をそれぞれ短くすることにより、出力インピーダンスが数100 kΩとなるように調整されている。すなわち、出力インピーダンス調整機構60によってセンサ素子駆動回路部31の出力インピーダンスを下げる方向の調整が行われる。
【0036】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
図7は、第2実施形態の熱式質量流量計における、センサ部に水滴が付着した際の発熱体の挙動を示す波形である。ここで、
図7では「時間=0」で水滴付着が生じたものとする。
図7に示したように、水滴付着前「時間<0」には、発熱体11の温度、発熱体11の電気抵抗値、センサ素子駆動回路31の出力電流、および発熱体11の発熱量は所定の状態でバランスしている。
【0037】
この状態で「時間=0」において水滴が付着したとする。水滴付着により発熱体11の温度は急激に冷却され、発熱体11の抵抗値は減少し、センサ素子駆動回路部31の出力電流は駆動回路の働きにより上昇を開始する。ここにおいて、発熱体11の抵抗値が小さくなることから、発熱体11の発熱量は水滴付着直後急激に低下する。この結果、発熱体11の発熱量は、センサ素子駆動回路部31の出力電流の増加に伴って増加するが、「時間=0」での発熱量の急増が無いため直ちにセンサ素子破損熱量を上回ることがない(言い換えると、センサ素子破損熱量を上回るまでの時間を延ばすことができる)。さらに、「時間=t1」には、センサ素子駆動回路部31の出力電流が電流制限値に達することで一定となり、発熱体11の発熱量の増加が抑制される(発熱量の増加が緩やかになる)。このようなメカニズムにより、本実施形態の熱式質量流量計2は、発熱体11の熱劣化や突沸によるセンサ領域15の破裂を防止することができる。
【0038】
次に、センサ素子駆動回路部31の出力電流の制限値に関して説明する。
図8は、第2実施形態の熱式質量流量計におけるセンサ素子駆動回路部の出力電流とガス流量との概略関係を示すグラフである。なお、
図8は、水滴付着が無い状態の時(通常時)の関係を示したものである。
図8に示したように、ガス流量の増加に応じてセンサ素子駆動回路部31の出力電流も増加するが、センサ素子駆動回路部31は少なくとも最大ガス流量時に必要な出力電流を流せるようにする必要がある。また、センサ素子駆動回路部31の出力電流は、発熱体11の電気抵抗値Rhに応じて変化する。一方、センサ部分に水滴が付着した場合、前述したように、発熱体11の熱劣化や突沸によるセンサ領域15の破裂を防止するために、発熱体11の発熱量を抑制するべく駆動電流を制限する必要がある。これらのことから、本実施形態の熱式質量流量計2は、センサ素子駆動回路部31に電流制限機構77を設けることにより、電気抵抗値Rhの異なる発熱体11に対しても対応できるようになっている。
【0039】
次に、発熱体11の電力制限を電流制御で行うことの利点について簡単に説明する。
図9は、発熱体の加熱温度と周囲温度との概略関係を示すグラフである。
図10は、最大ガス流量での発熱体の電圧と周囲温度との概略関係を示すグラフである。
図11は、最大ガス流量での発熱体の電流と周囲温度との概略関係を示すグラフである。
【0040】
一例として、温度検出ブリッジ回路20の固定抵抗体22〜24を、温度検出抵抗体21や発熱体11と同一材料で構成した場合を想定する。この場合、温度検出抵抗体21や発熱体11と同様に、固定抵抗体22〜24も大きな正の抵抗温度係数を有することになる。その結果、固定抵抗体22〜24の電気抵抗値が周囲温度によって変化することから、発熱体11の加熱温度は周囲温度の上昇に応じて高くなる(
図9参照)。この現象は、発熱体や抵抗体の抵抗温度係数が大きくなると、より顕著に表れる。このとき、最大ガス流量での発熱体11の電圧は、
図10に示すように、周囲温度に応じて大きく変化する。一方、最大ガス流量での発熱体11の電流は、
図11に示すように、発熱体11の電気抵抗値Rhに応じた差は生じるものの、周囲温度に影響されずに一定となる。これらのことから判るように、発熱体11の電力制限は、周囲温度の影響を受けない電流制限で行う方が、電圧制限で行うよりも容易である。
【0041】
[本発明の第3実施形態]
本発明の第3実施形態の熱式質量流量計を
図12により説明する。
【0042】
図12は、第3実施形態の熱式質量流量計の構成を示す概略回路図である。
図12に示したように、第3実施形態の熱式質量流量計3は、センサ素子部10とセンサ素子駆動回路部32とを有し、センサ素子駆動回路部32は、出力機構70と出力インピーダンス調整機構65とを有する。すなわち、第3実施形態の熱式質量流量計3は、出力インピーダンス調整機構65において第2実施形態の熱式質量流量計2と異なっている。
【0043】
出力インピーダンス調整機構65は、MOSトランジスタ62の後段に電気抵抗体63が配設されている点で出力インピーダンス調整機構60と異なっており、センサ素子駆動回路部32の出力インピーダンスをセンサ素子駆動回路部31の出力インピーダンスよりも更に低下させ、発熱体11の温度安定性を高める利点がある。
【0044】
正の抵抗温度係数を有する抵抗発熱体である発熱体11を一定温度に制御しようとする場合、低インピーダンスで駆動する方が温度安定度は高くなる。これは、発熱体11の電気抵抗値が変化しても定電圧で駆動されるからである。より詳細に説明すると、発熱体11の温度が上昇し、発熱体11の電気抵抗値が増加した場合、発熱体11の駆動回路が低インピーダンス(定電圧)であると発熱体11の電流は減少し、発熱体11の発熱量が低下する(発熱体11の温度が低下する)。すなわち、発熱体11自身の抵抗変化により温度を一定にしようとする制御(負帰還)が働く。
【0045】
これに対して、発熱体11が高インピーダンスの駆動回路で駆動された場合、発熱体11の温度が上昇して発熱体11の電気抵抗値が増加した上に、発熱体11の電圧が増加するため発熱体11の発熱量は更に増加する(発熱体11の温度は更に増加する)。この結果、発熱体11自身の抵抗変化により温度制御に正帰還が働くので不安定性が増加する。この正帰還の現象は、駆動回路の出力インピーダンスが1 MΩ以上になると顕著になるので、出力インピーダンス調整機構により、センサ素子駆動回路部の出力インピーダンスを1 MΩ未満(例えば、数100 kΩ以下)に調整することが好ましい。
【0046】
加えて、出力インピーダンス調整機構65は、電気抵抗体63を配設することで発熱体11への投入電流の一部を電気抵抗体63より供給することができるので、MOSトランジスタ62の電流値を小さくすることができ、MOSトランジスタ62のサイズを小さくできる利点もある。
【0047】
[本発明の第4実施形態]
本発明の第4実施形態の熱式質量流量計を
図13〜14により説明する。
【0048】
図13は、第4実施形態の熱式質量流量計の構成を示す概略回路図である。
図13に示したように、第4実施形態の熱式質量流量計4は、センサ素子部10とセンサ素子駆動回路部33とを有し、センサ素子駆動回路部33は、出力機構80と出力インピーダンス調整機構60とを有する。すなわち、第4実施形態の熱式質量流量計4は、出力機構80において第2実施形態の熱式質量流量計2と異なっている。
【0049】
本実施形態の出力機構80は、温度検出ブリッジ回路20の出力電圧を検出する比較器81と、比較器81の出力から比例・積分制御(PI制御)を行うPI制御器82と、発熱体11への通電を制御する電流出力型デジタルアナログ(DA)変換器83と、電流出力型DA変換器83への入力信号の最大値を制限する入力リミッタ84と、入力リミッタ84の制限値を調整するリミッタ調整機構85とを有する。
【0050】
図14は、第4実施形態で用いた電流出力型DA変換器の構成例を示す概略回路図である。
図14に示したように、電流出力型DA変換器83は、所定の電流を発生する定電流源86と、定電流源86の電流を流すMOSトランジスタ87と、MOSトランジスタ87と共にカレントミラー回路を構成しゲート幅の比が「1:2:4:8」で構成されるMOSトランジスタ88〜91と、デジタル入力信号を受ける反転器92〜95と、反転器92〜95の出力に応じて自身がON/OFFすることでカレントミラー回路を構成したMOSトランジスタ88〜91の電流をそれぞれON/OFFするMOSトランジスタ96〜99とを有する。電流出力型DA変換器83によって制御された電流は、出力インピーダンス調整機構60のMOSトランジスタ61に投入される。
【0051】
本実施形態の熱式質量流量計4では、温度検出ブリッジ回路20の出力電圧を比較器81で検出し、比較器81の出力をPI制御器82でPI演算を行い、演算結果の信号の最大値を制限する入力リミッタ84を介して電流出力型DA変換器83を制御することにより、発熱体11への電流値を制御している(発熱体11の加熱温度を制御している)。すなわち、本実施形態は、入力リミッタ84と電流出力型DA変換器83を採用することで、発熱体11への最大電流を容易に制御できるようにしたものである。また、リミッタ調整機構85によって入力リミッタ84の制限値を調整することにより、発熱体11への最大電流を容易に設定できる構成になっている。
【0052】
[本発明の第5実施形態]
本発明の第5実施形態の熱式質量流量計を
図16〜17により説明する。
【0053】
図15は、第5実施形態の熱式質量流量計の構成を示す概略回路図である。
図15に示したように、第5実施形態の熱式質量流量計5は、センサ素子部16とセンサ素子駆動回路部34とを有する。本実施形態の熱式質量流量計5は、基本的に第2実施形態の熱式質量流量計2と類似の構成を有するが、次のような改良を加えたものである。
【0054】
センサ素子部16は、センサ素子部10の構成に加えて、温度差検出ブリッジ回路25が付加されている。温度差検出ブリッジ回路25は、発熱体11の風上側(ガス流の上流側)に配置された風上温度検出抵抗体26,29と、発熱体11の風下側(ガス流の下流側)に配置された風下温度検出抵抗体27,28とで構成される。また、センサ素子駆動回路部34の出力機構100は、出力機構70の構成に加えて、温度差検出ブリッジ回路25の出力を増幅してガス流量信号を発生させる増幅器101と、増幅器101の出力に応じて定電流源76の最大電流を制限する第2電流制限機構102とを有する。
【0055】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
図16は、第5実施形態の熱式質量流量計におけるセンサ素子駆動回路部の出力電流とガス流量との概略関係を示すグラフである。なお、
図16は、水滴付着が無い状態の時(通常時)の関係を示したものである。熱式質量流量計5では、温度差検出ブリッジ回路25を利用してガス流量を検出し、温度差検出ブリッジ回路25の出力に応じて第2電流制限機構102により定電流源76の最大電流値を制御することで、
図16に示したように、センサ素子駆動回路部34の出力電流の制限値をガス流量に応じて変化できるようになっている。これにより、最も水滴が付着し易い低ガス流量時において、センサ素子駆動回路部34の出力電流をより小さく制限することができ、水滴が付着した場合の発熱体11の発熱量を更に抑制することができる。これは、最大ガス流量時に必要な出力電流の確保に加えて、水滴付着時の発熱体11の熱劣化や突沸によるセンサ領域15の破裂の更なる防止に貢献する。
【0056】
なお、上述した実施形態は、本発明の理解を助けるために説明したものであり、本発明は、記載した具体的な構成のみに限定されるものではない。例えば、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。すなわち、本発明は、本明細書の実施形態の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
【符号の説明】
【0057】
1,2,3,4,5…熱式質量流量計、
10…センサ素子部、11…発熱体、
12…シリコン基板、13…第1絶縁膜、14…第2絶縁膜、15…センサ領域、
16…センサ素子部、
20…温度検出ブリッジ回路、21…温度検出抵抗体、22,23,24…固定抵抗体、
25…温度差検出ブリッジ回路、
26,29…風上温度検出抵抗体、27,28…風下温度検出抵抗体、
30,31,32,33,34…センサ素子駆動回路部、
40…出力インピーダンス調整機構、41…電気抵抗体、
50…出力機構、51…増幅器、52…電流制限機構、
60…出力インピーダンス調整機構、61,62…MOSトランジスタ、
63…電気抵抗体、65…出力インピーダンス調整機構、
70…出力機構、71…増幅器、72…MOSトランジスタ、73…電気抵抗体、
74,75…MOSトランジスタ、76…定電流源、77…電流制限機構、
80…出力機構、81…比較器、82…PI制御器、83…電流出力型DA変換器、
84…入力リミッタ、85…リミッタ調整機構、
86…定電流源、87,88,89,90,91…MOSトランジスタ、
92,93,94,95…反転器、96,97,98,99…MOSトランジスタ、
100…出力機構、101…増幅器、102…第2電流制限機構。