(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961617
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】高純度沈降炭酸カルシウムの製造
(51)【国際特許分類】
C01F 11/18 20060101AFI20160719BHJP
【FI】
C01F11/18 G
【請求項の数】45
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-535369(P2013-535369)
(86)(22)【出願日】2011年10月20日
(65)【公表番号】特表2013-540687(P2013-540687A)
(43)【公表日】2013年11月7日
(86)【国際出願番号】EP2011068319
(87)【国際公開番号】WO2012055750
(87)【国際公開日】20120503
【審査請求日】2014年8月6日
(31)【優先権主張番号】61/409,202
(32)【優先日】2010年11月2日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】10188840.2
(32)【優先日】2010年10月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】505018120
【氏名又は名称】オムヤ インターナショナル アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】タバツコリ,バーマン
(72)【発明者】
【氏名】セテマン,イエルク
(72)【発明者】
【氏名】ポール,ミヒヤエル
(72)【発明者】
【氏名】シユメルツアー,トーマス
【審査官】
村岡 一磨
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−036021(JP,A)
【文献】
特開2010−222220(JP,A)
【文献】
国際公開第2008/013180(WO,A1)
【文献】
特表2010−523450(JP,A)
【文献】
米国特許第04793979(US,A)
【文献】
特表2008−540323(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01F 11/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
沈降炭酸カルシウムの製造方法であって、
a)炭酸カルシウム含有材料を提供およびか焼する工程、
b)工程a)から得られた反応生成物と塩化アンモニウム水溶液とを消和させる工程、
c)工程b)から得られた塩化カルシウム溶液から、不溶性成分を分離する工程、
d)工程c)から得られた塩化カルシウム溶液を炭酸化する工程、
e)工程d)から得られた沈降炭酸カルシウムを分離する工程
を含み、
種結晶が、沈殿前に、工程c)から得られた塩化カルシウム溶液に加えられる、
製造方法。
【請求項2】
工程a)の炭酸カルシウム含有材料が、沈降炭酸カルシウムおよび天然炭酸カルシウム無機質からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
天然炭酸カルシウム無機質が、大理石、石灰石、チョーク、および炭酸カルシウムを含む混合アルカリ土類炭酸塩無機質から選択されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
工程a)の未処理炭酸カルシウム材料が、供給材料の全重量を基準として、少なくとも15重量%の最小炭酸カルシウム含量を有することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
工程a)の未処理炭酸カルシウム材料が、供給材料の全重量を基準として、少なくとも50重量%の最小炭酸カルシウム含量を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
工程a)の未処理炭酸カルシウム材料が、供給材料の全重量を基準として、少なくとも75重量%の最小炭酸カルシウム含量を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
工程a)の未処理炭酸カルシウム材料が、供給材料の全重量を基準として、少なくとも90重量%の最小炭酸カルシウム含量を有することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
塩化アンモニウムと酸化カルシウムのモル比が、1:1〜8:1であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
塩化アンモニウムと酸化カルシウムのモル比が、1.5:1〜4:1であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
塩化アンモニウムと酸化カルシウムのモル比が、2:1〜3:1であることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
工程c)において、不溶性成分の分離が、篩分け、沈降、およびデカント、および/またはろ過によって行われることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
工程c)において、高分子凝集剤の添加により不溶性成分を除去前に凝集し得、凝集剤は、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤、および/または非イオン凝集剤を使用し得ることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
工程c)において、高分子凝集剤の添加により不溶性成分を除去前に凝集し得、凝集剤は、ポリアクリル酸系共重合体を使用し得ることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
工程c)において、凝集剤が、乾燥CaOを基準として、1ppm〜50ppmの量で加えられることを特徴とする、請求項12に記載の方法。
【請求項15】
工程c)において、凝集剤が、乾燥CaOを基準として、2ppm〜40ppmの量で加えられることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
工程c)において、凝集剤が、乾燥CaOを基準として、3ppm〜25ppmの量で加えられることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
工程c)において、凝集剤が、乾燥CaOを基準として、5ppm〜15ppmの量で加えられることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
工程d)において、炭酸化が、アルカリ塩化カルシウム溶液中に少なくとも10容量%の二酸化炭素を含む、純粋なガス状二酸化炭素またはテクニカルガスを供給することによって行われることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
工程e)において、工程d)から得られた沈降炭酸カルシウムが、ろ過によって母液から分離されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
工程e)の後、沈降炭酸カルシウムが水によって洗浄されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
工程e)の後、沈降炭酸カルシウムが濃縮または乾燥されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項22】
クローズドプロセスとして行われ、反応物が再利用されることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
バッチ式または連続式で行われることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
沈降炭酸カルシウムが、0.5重量%未満の不純物を含むことを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項25】
沈降炭酸カルシウムが、0.3重量%未満の不純物を含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
沈降炭酸カルシウムが、0.1重量%未満の不純物を含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項27】
沈降炭酸カルシウムが、0.05重量%未満の不純物を含むことを特徴とする、請求項24に記載の方法。
【請求項28】
沈降炭酸カルシウムが、アラゴナイト結晶構造、方解石結晶構造、もしくはバテライト結晶構造、またはこれらの混合を有することを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項29】
沈降炭酸カルシウムのTAPPI輝度が、少なくとも88であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項30】
沈降炭酸カルシウムのTAPPI輝度が、少なくとも90であることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項31】
沈降炭酸カルシウムのTAPPI輝度が、少なくとも92であることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項32】
沈降炭酸カルシウムのTAPPI輝度が、95から99であることを特徴とする、請求項29に記載の方法。
【請求項33】
沈降炭酸カルシウムの視感反射率Ryが、少なくとも90であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項34】
沈降炭酸カルシウムの視感反射率Ryが、少なくとも92であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
沈降炭酸カルシウムの視感反射率Ryが、少なくとも95であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項36】
沈降炭酸カルシウムの視感反射率Ryが、96〜99であることを特徴とする、請求項33に記載の方法。
【請求項37】
沈降炭酸カルシウムの黄色度指数が、0.5〜6であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項38】
沈降炭酸カルシウムの黄色度指数が、0.7〜3であることを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
沈降炭酸カルシウムの黄色度指数が、1〜2であることを特徴とする、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
沈降炭酸カルシウムの重量メジアン径d50が、20μm以下であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の方法。
【請求項41】
沈降炭酸カルシウムの重量メジアン径d50が、10μm以下であることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項42】
沈降炭酸カルシウムの重量メジアン径d50が、5μm以下であることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項43】
沈降炭酸カルシウムの重量メジアン径d50が、2μm以下であることを特徴とする、請求項40に記載の方法。
【請求項44】
塗料、プラスチックまたは紙の用途における、請求項1〜43のいずれか一項に記載の方法によって得られる、沈降炭酸カルシウムの使用。
【請求項45】
沈降炭酸カルシウムが、充填材および/または顔料として使用されることを特徴とする、請求項44に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高純度沈降炭酸カルシウムの製造方法、この方法によって得られる高純度沈降炭酸カルシウム、およびこの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
炭酸カルシウムは、紙、塗料、およびプラスチック産業における最も一般的に使用されている添加剤のうちの1つである。天然の重質炭酸カルシウム(GCC)は、多くの用途で充填材として通常使用されるが、合成により製造される沈降炭酸カルシウム(PCC)は、その形態および粒子サイズについてテイラーメードで製造することができ、それにより材料が付加的機能を果たすことができる。
【0003】
しかしながら、一般に知られているPCC製造方法には、粗炭酸カルシウムをか焼する工程、これを水によって消和させる工程、および、この後、得られた水酸化カルシウム懸濁液に二酸化炭素を通すことによって、炭酸カルシウムを沈殿させる工程が含まれ、この方法においては、原料から不純物を分離する適切な方法はないので、高品質の出発原料が必要である。
【0004】
先行技術には、例えば高純度の一定の特性を有する炭酸カルシウムを製造する多数のアプローチがあるが、これらの大部分は、この1つの特性にしか焦点を置いていない。一方、これらの方法は、結晶の形状、粒子サイズなどの他の特性も完全に制御することができない。または、かかる一般に知られている方法によって、多量の不良品が製造されることが多い。
【0005】
中国特許出願第1757597号には、多孔性超微細炭酸カルシウムの製造方法が記載されている。これは、塩化カルシウム水溶液、および、別々に、炭酸水素アンモニウムおよび二酸化炭素の水溶液を調製し、流れおよび温度の制御時において、実際にはかなり複雑な反応である衝突反応でこれらの溶液を反応させることにより達成され、この結果、大きい比表面積を有した多孔性超微細沈降炭酸カルシウムが形成する。塩化アンモニウムを含む母液は、塩化カルシウムが該母液中に溶解するために再利用されるが、塩化アンモニウムは、反応物として使用されない。このように、CN1757597による方法は、高品質の出発原料によって開始し、高孔隙率および高純度は、特に、特定の種類の衝突反応によって達成される。不良品、とりわけ、塩化アンモニウム溶液は、反応物としてではなく単に溶媒として再利用され、このことは、炭酸アンモニウムが分離されるまで、溶液中だけでなく最終生成物中での炭酸アンモニウムの濃縮をもたらす。この文献には、高純度および定義された結晶構造を有する沈降炭酸カルシウムを得ることに関して言及がない。
【0006】
日本国特許出願JP2007−161515は、炭酸カルシウムの製造方法に関し、不純物の含量、特に、ストロンチウムの含量が低減される。該方法は、次に示す工程を含む:(A)水性懸濁液に、塩酸、硝酸、塩化アンモニウム、または硝酸アンモニウムの水溶液を加えて、水酸化カルシウムを溶解する、溶解工程、(B)該溶解工程で得られたカルシウム塩の溶液にアンモニア水を加え、液体のpHを12以上に上昇させることにより、水酸化カルシウムの沈殿と共に不純物を沈殿させる、沈殿工程、(C)沈殿させた不純物とカルシウム塩水溶液とを分離する、固液分離工程、(E)分離されたカルシウム塩水溶液に炭酸ガスを吹き込んで、炭酸カルシウムを析出させる、析出工程、および、(F)析出させた炭酸カルシウムを回収する、回収工程。このように、JP2007−161515の方法は、幾分複雑であり、反応サイクルに戻されない塩化水素、硝酸、および硝酸塩などの化合物を使用し、あまり環境にやさしくない。さらに、水酸化カルシウムから共沈した金属水酸化物の分離は、高温で水酸化物の種々の溶解挙動に基づいて行い、これは、あまり正確でなく、高エネルギー消費を必要とする。さらには、沈降炭酸カルシウムの具体的な結晶構造を得る方法についての情報を提供していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】中国特許出願公開第1757597号明細書
【特許文献2】特開2007−161515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、高純度PCCに定義された構造を提供し、PCCの複数の所望特性の制御を可能にする方法であって、出発原料が、この低品質を理由に廃棄される低品質材料であり、特に環境上の視点から、および持続可能な方法の需要の増加に関して有利である方法が依然として必要である。
【0009】
同様に、本発明の目的は、一方では、不良品をできるだけ製造しないことであり、他方では、不良品をできるだけ多く再利用することであり、不良品は再利用されるか、または、他の用途に供されてもよい。
【0010】
驚くべきことに、本発明の方法によって、低品質の炭酸塩が、優れた輝度と定義された構造を有した非常に純粋な沈降炭酸カルシウムに変換できることが分かった。
【0011】
従って、本発明の方法によれば、原料の品質または種類にかかわらず、出発原料から不純物を本質的にすべて分離することができる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
従って、上述の目的は、次に示す工程を含む沈降炭酸カルシウムの製造方法によって解決される:
a)炭酸カルシウム含有材料を提供およびか焼する工程、
b)工程a)から得られた反応生成物と塩化アンモニウム水溶液とを消和させる工程、
c)工程b)から得られた塩化カルシウム溶液から不溶性成分を分離する工程、
d)工程c)から得られた塩化カルシウム溶液を炭酸化する工程、
e)工程d)から得られた沈降炭酸カルシウムを分離する工程。
【0013】
本発明による方法は、高純度沈降炭酸カルシウムを提供し、供給材料に含まれる無機質不純物が容易に分離され、また、望ましくない副産物または廃棄物が本質的に生成されない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の方法における手順の主なフローシートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
上述の方法の基礎となる化学反応は、次に示すように概説することができる。ここで、「Imp」とは、この多くが着色不純物の、望ましくない量を意味する:
【0017】
工程a)では、炭酸カルシウムを含む供給材料が提供され、か焼される。か焼は、熱分解を発生させて、酸化カルシウムおよびガス状二酸化炭素の形成を生じさせるための、炭酸カルシウム含有材料に適用される熱処理工程である。
【0018】
本発明の特に有利な点は、通常高品質の充填材および顔料の製造には不適のため廃棄物とされる低品質炭酸カルシウム含有材料もこの目的のために使用できることである。
【0019】
本方法で供給材料として使用することができる炭酸カルシウム含有材料は、沈降炭酸カルシウム;大理石、石灰石およびチョークなどの天然炭酸カルシウム含有材料、ならびにドロマイトなどの炭酸カルシウムを含む混合アルカリ土類炭酸塩無機質、または他の供給源からの炭酸カルシウムを多く含む画分を含む群より選択されるあらゆる炭酸カルシウム含有材料であり得、これらのうちのいずれか1つは、様々な不純物、例えば、燃焼して二酸化炭素にできるもの(例えば、グラファイトまたは他の有機不純物)など、または特に、ケイ酸塩、酸化鉄、もしくは水酸化鉄などのアルカリアンモニア環境中で不溶性である不純物を含み得る。
【0020】
一般に、本発明の文脈では、「不純物」という用語は、炭酸カルシウムではない成分を指す。
【0021】
効率の理由から供給材料は、供給材料の全重量を基準として、少なくとも15重量%の最小炭酸カルシウム含量を有することが好ましく、より好ましくは少なくとも50重量%、特に少なくとも75重量%、最も好ましくは少なくとも90重量%、例えば、98重量%であることが好ましい。
【0022】
炭酸カルシウムは、約1000℃で、酸化カルシウム(一般に、生石灰として知られている。)に分解される。か焼工程は、当業者に周知の条件下および当業者に周知の設備を使用して行うことができる。一般に、か焼は、シャフト炉、回転炉、多段焼却炉、および流動層反応器を含む種々のデザインの炉または反応器(窯と称する場合もある。)で行ってもよい。
【0023】
か焼反応の終了は、例えば、密度変化、残余の炭酸塩含量の監視によって、例えば、X線回析、または一般的方法による消和反応性によって決定してもよい。
【0024】
この後、酸化カルシウムの消和のために水のみを使用して、不溶性水酸化カルシウムを形成させる通常のPCC製造方法とは異なり、本発明の方法によれば、工程b)は、工程a)から得られた酸化カルシウムと、塩化アンモニウム水溶液とを混合することによって行われ、この結果、高い可溶性の塩化カルシウムが形成し、炭酸カルシウム供給材料に最初に含まれていた不要不純物は、得られたアルカリアンモニア媒体中不溶性のままであるかまたは少なくとも可溶性が塩化カルシウムよりも低く、分離する。
【0025】
本発明の方法で使用される塩化アンモニウムは、市販製品であってもよい。
【0026】
塩化アンモニウム溶液の濃度は、本質的に臨界的でない。しかしながら、効率の理由から濃度は幾分高いことが好ましく、例えば、1リットルの水当たり200gの塩化アンモニウムが好ましい。
【0027】
酸化カルシウムの量に関して、塩化アンモニウムと酸化カルシウムのモル比は、好ましくは1:1から8:1であり、より好ましくは1.5:1から4:1であり、例えば、2:1から3:1である。
【0028】
反応の進行は、反応混合物の導電率の測定によって観察することができ、進行は、最初は急速に低下し、反応が終わるとすぐに、本質的に一定レベルに達する。同様に、反応の進行は、温度および濁度の制御によって監視することができる。
【0029】
工程c)では、不純物は、工程b)で形成されたアルカリ塩化カルシウム溶液中の不溶性成分として分離され、これは、篩分けもしくは沈降、およびデカント、および/またはろ過によって、達成することができる。
【0030】
コロイド状の着色不純物、および望ましくない結晶種を分離するために、および、さらに高い輝度の生成物を得るために、これらの分離工程のうちのいずれか1つの後に続いて、特に沈降およびデカントの後に、精密ろ過(0.6μmを超える粒子の分離)、またはナノろ過(0.01μmを超える粒子の分離)を行うことが特に好ましいと考えられる。上述の技術は、かかる目的のための公知の設備を使用して実行できる。
【0031】
不溶性成分は、除去前に、かかる目的のための当分野で公知の高分子凝集剤の添加によって凝集することができ、カチオン性凝集剤、アニオン性凝集剤、および/または非イオン凝集剤、好ましくは、ポリアクリル酸系共重合体を使用することができる。しかしながら、好ましくは数秒以内に、水酸化鉄などの不純物を凝集する、アニオン性凝集剤を使用することが好ましい。
【0032】
凝集剤は、乾燥CaOを基準として、1ppmから50ppm、好ましくは2ppmから40ppm、より好ましくは3ppmから25ppm、最も好ましくは5ppmから15ppmの量で、加えることができる。
【0033】
分離後、容易に溶解可能な塩化カルシウムの、透明でありほぼ無色の濃縮物が得られる。
【0034】
工程c)で分離することができる不純物は、例えば、ケイ酸塩、酸化鉄、水酸化鉄、塩化マグネシウムなどのアルカリアンモニア環境中において不溶性または難溶性の不純物であり、またマンガンイオンまたはストロンチウムイオンであっても、不良品中で濃縮され得る。
【0035】
不良品として反応サイクルから分離されたこれらの不純物が、多量の塩化アンモニウム化合物を含むので、他の用途に、例えば、肥料または土壌改良剤のための基材として使用できることが本発明の方法の更なる利点である。他の用途は、例えば、漂布土の用途、またはあらゆる用途の触媒であり、例えば、微細分散された鉄(酸化物)が、触媒として有利に使用される。
【0036】
工程d)では、工程c)から得られた塩化カルシウム溶液の炭酸化によって、純粋な炭酸カルシウムの沈殿が生じる。
【0037】
炭酸化は、アルカリ塩化カルシウム溶液中に少なくとも10容量%の二酸化炭素を含む、純粋なガス状二酸化炭素またはテクニカルガス(technical gas)を供給することによって、行うことができる。この点で、専門的な燃焼ガス(technical flue gas)が、望ましくない副反応を生ずる成分、または、本発明の方法に、重金属もしくは硫黄成分などの新たな不純物を導入する成分を含まなければ、該ガスを使用することができる。
【0038】
炭酸化は、当業者に周知の手段および条件下で行うことができる。
【0039】
アルカリ塩化カルシウム溶液への二酸化炭素の導入は、炭酸イオン(CO
32−)濃度を急速に増加させ、炭酸カルシウムが形成される。
【0040】
特に、炭酸化反応は、炭酸化法に関係する反応を考慮して、容易に制御することができる。二酸化炭素は、炭酸(H
2CO
3)の形成を介して、炭酸イオンを形成するこの分圧によって溶解し、炭酸水素イオン(HCO
3−)は、アルカリ溶液中で不安定である。二酸化炭素の継続的な溶解に際して、溶解された炭酸カルシウムの濃度が、溶解積および固体の炭酸カルシウムの沈殿物を超えるまで、水酸化物イオンは消費され、炭酸イオンの濃度は増加する。
【0041】
過飽和が沈殿を遅らせる場合があるが、これは、炭酸イオン濃度の減少によるものであり、炭酸水素イオン濃度が増加し、この後、炭酸水素カルシウムカチオン(CaHCO
3+)が、炭酸カルシウムよりも高い可溶性で形成される。
【0042】
従って、沈降炭酸カルシウムの収率は、理論値の100%ではない場合がある。高い炭酸塩アニオン濃度をもたらすアンモニアの超過によって、100%まで収率を上げることができる。しかしながら、本発明による方法は、クローズドプロセスとして行われることが好ましく、反応物のうちのいずれか1つは、該方法で再利用されてもよく、例えば、未反応の塩化カルシウム、および/または塩化アンモニウムを、直接該方法の工程b)に戻すことができる。
【0043】
特別な実施形態において、沈殿物が特定の形状および粒子サイズの範囲に結晶化することを保証するために、種結晶は、沈殿前に、工程c)から得られた塩化カルシウム溶液に加えられてもよい。
【0044】
種結晶は、CaOの重量を基準として、0.1重量%から10重量%の量、好ましくは0.1重量%から8重量%の量、より好ましくは0.2重量%から5重量%の量、最も好ましくは0.5重量%から2重量%の量で、例えば1重量%、加えることができる。
【0045】
沈殿後に得られた母液を完全に再利用することが特に好ましく、これは、言及したように、放出をほぼ完全に低減する閉鎖系によって、有利に達成することができる。
【0046】
炭酸化反応の進行は、導電率密度、濁度、および/またはpHの測定によって、容易に観察することができる。
【0047】
この点で、二酸化炭素の添加前の塩化カルシウム溶液のpHは、10を超え、約7のpHに達するまで、一定して低下する。この時点で、反応を停止することができる。
【0048】
沈殿が終了すると、導電率は炭酸化反応時において徐々に減少し、低いレベルまで急速に減少する。
【0049】
工程d)から得られた沈降炭酸カルシウムは、例えば、ドラムフィルタ、フィルタプレスなどによるろ過などの、従来の分離手段によって、母液から分離することができる。
【0050】
分離後、沈降炭酸カルシウムは、水、ならびに、塩化アンモニウムおよび塩化カルシウムから生じる溶解イオンを依然として幾らか含み得る。
【0051】
残余の塩化アンモニウムおよび塩化カルシウム、またはそれぞれのイオンは、腐食潜在能、匂い、および、例えば、紙、塗料、またはプラスチックなどの用途におけるおそらく負の効果により、沈降炭酸カルシウムから有利に除去する必要がある。
【0052】
しかしながら、易溶性の塩化アンモニウム、および塩化カルシウムの除去は、場合により撹拌下で、水(好ましくは、沸点まで加熱した水)により容易に沈殿物を洗浄し、次いで、ろ過などの当業者に公知の適切な分離方法による水相から沈降炭酸カルシウムを分離することによって容易に行うことができ、所望の純度レベルに達するまで洗浄工程を繰り返してもよい。
【0053】
洗浄後、沈降炭酸カルシウムを濃縮してスラリーを得ることができ、スラリーは、例えば紙の用途に使用することができるか、または、例えば生成物および結晶形態を分解もしくは変化させずに100℃のオーブンで乾燥させ、乾燥物は、例えばプラスチックの用途に特に有用である。
【0054】
沈降炭酸カルシウムは、さらに処理されてもよく、例えば、解凝集されてもよく、または、乾式粉砕工程に供してもよい。これ以外に、スラリーの形態で湿式粉砕されてもよい。
【0055】
上述するように、本発明による方法は、クローズドプロセスであることが好ましく、バッチ式または連続式であってもよい。
【0056】
従って、反応物のうちのいずれか1つは、該方法で再利用されてもよい。有利な実施形態において、工程a)で生成された二酸化炭素であっても、工程d)の閉鎖した反応サイクルに再利用することができる。また、排出アンモニアも、該方法で再利用されてもよく、ガス状成分のうちのいずれか1つは、再利用される場合、精製の理由で、従来のスクラッバを介して有利に誘導される。
【0057】
本発明の方法によって得られる沈降炭酸カルシウムは、好ましくは0.5重量%未満の不純物(即ち、炭酸カルシウム以外の成分)、より好ましくは0.3重量%未満、特に0.1重量%未満、最も好ましくは0.05重量%未満の不純物を含む。
【0058】
沈降炭酸カルシウムは、アラゴナイト結晶構造、方解石結晶構造、もしくはバテライト結晶構造、またはこれらの混合を有し得る。例えば、化学物質を修飾する種結晶または他の構造の追加によって、沈降炭酸カルシウムの結晶構造および形態を制御できることが本発明の更なる利点である。
【0059】
特に対応する種結晶が使用される場合、所望の無機質相の純度は、90重量%、および95重量%を超えてもよい。
【0060】
従って、特にアラゴナイトPCCは、対応する種結晶、例えば、超微細粉砕アラゴナイト炭酸カルシウム製品などを使用して、非常に高純度で得ることができる。
【0061】
種結晶なしのバテライト構造の形成は、安定化剤のない状態で、方解石構造に再結晶化することが好ましい。
【0062】
本発明の方法から得られた高純度の沈降炭酸カルシウムは、優れた光学的性質、特に、高い輝度と低い黄色度指数をもたらし、これらは、標準手順に従って硫酸バリウム標準品によって較正された、Datacolor社から入手可能なElrepho分光計によって測定される。
【0063】
従って、本発明の方法によって得られる生成物は、少なくとも88、好ましくは少なくとも90、より好ましくは少なくとも92、例えば95から99、例えば97のTAPPI輝度(R457)を有し得る。
【0064】
本発明の方法によって得られる沈降炭酸カルシウムの視感反射率R
yは、好ましくは少なくとも90、好ましくは少なくとも92、より好ましくは少なくとも95、例えば96から99、例えば98の値を有する。
【0065】
本発明の方法によって得られる沈降炭酸カルシウムの黄色度指数(式I=100
*(R
x−R
z)/R
yによって算出)は、好ましくは0.5から6、より好ましくは0.7から3、最も好ましくは1から2の値を有する。
【0066】
さらに、小さい粒子サイズを本発明の方法によって達成することができる。従って、本発明の方法によって得られる沈降炭酸カルシウムは、20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下、最も好ましくは2μm以下、例えば1μm以下の重量メジアン径d
50を有し得る。
【0067】
重量メジアン粒子サイズd
50の測定においては、Micromeritics社(米国)のSedigraph 5100デバイスが使用された。測定は、0.1重量%のNa
4P
2O
7の水溶液で行われた。試料は、高速撹拌器および超音波を用いて分散させた。
【0068】
本発明によって、かかる小さい粒子サイズを得る可能性は、材料の高純度による。炭酸カルシウムの沈殿時において、高い二酸化炭素分圧をかけることによって、ならびに、沈殿工程時の高い機械的剪断によって、または、この後の高い撹拌速度によって、さらに粒子サイズを制御することができる。
【0069】
従って、ナノメーター範囲の重量メジアン粒径を有する構造化粒子を得ることができる。
【0070】
この点で、非常に狭い粒度分布の沈降炭酸カルシウムを得ることもでき、油または糖系の化学物質などの添加剤をブロックする特定の結晶の使用、または、粉砕、超音波などによる慎重な解凝集によって、さらに改良されてもよい。
【0071】
本発明の方法によって得られる沈降炭酸カルシウムのBETの比表面積は、添加剤、例えば、界面活性剤の使用、小さい粒子サイズだけでなく、高いBET比表面積をもたらす、沈殿工程時またはこの後の高い機械的剪断速度の剪断によって、制御することができる。
【0072】
本発明による方法によって得られる沈降炭酸カルシウムのBET比表面積は、窒素、およびISO9277に準じたBET法を用いて測定される、1から100m
2/g、好ましくは5から70m
2/g、より好ましくは10から50m
2/g、特に15から30m
2/g、例えば18から20m
2/gであり得る。
【0073】
本発明による方法によって得られる沈降炭酸カルシウムの上述の特性は、容易に望み通りに制御することができるため、本発明の更なる態様は、これらの沈降炭酸カルシウムを、塗料またはプラスチック用途、および紙用途などの用途に使用することである。
【0074】
本発明による方法によって得られる沈降炭酸カルシウムは、通気性フィルム、塗料、および紙などの、プラスチックの充填材および/または顔料として有利に使用されてもよい。
【0075】
下記の図、および以下に記載の実施例および試験は、本発明を説明するためのものであり、決して本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0076】
次に示す実施例において、本発明による方法を例示する。また、この方法によって得られた沈降炭酸カルシウムの生成物の特性を説明する。
【0077】
1.本発明を実施するための基本手順
図1では、本発明の方法が、どのように原則として行うことができるかについての有利な実施形態の概要説明をフローシートに示し、排出ガスおよび沈降炭酸カルシウム生成物を精製するために、スクラビングおよび洗浄を含むアンモニアの再利用などの選択的工程をさらに含む。
【0078】
次に示す実施例において、通常、一般的なPCC品質の製造に適していない、種々の採石場から採石された低級品質のチョークおよび石灰石を供給材料に選択した。これらの材料のうち、大理石の供給石(いわゆる「Riesel」)の篩分け工程から廃棄物を選択した。
【0079】
チョークおよび石灰石の供給材料を、本発明の方法のために粉砕して、1mmから8mmの適切な供給サイズを得た。一方、Riesel材料を1mmで篩い分けして、粘土鉱物を除去した。
【0080】
2.本発明の方法による生成物の製造、および得られた生成物の特性評価
本発明の方法によって得られた生成物の純度、従って、本発明の方法の効率を決定するために、沈降炭酸カルシウムを次に示すように製造し、また、この化学組成、ならびに供給材料と不良品の化学組成を決定し、次に示す表に概説した。
【0081】
2.1.種々の材料からの高純度PCCの製造、ならびに輝度および黄色度指数に関する特性評価
2.1.1.製造
次に示す実験室試験において、複数の種々の供給材料を、本発明の方法に使用し、次いで、これらの光学的性質について分析した。
【0082】
供給材料
試料番号1:Riesel、1mmから4mm、グマーン(Gummern)(オーストリア)
試料番号2:チョーク、ハルミグニエ(Harmignies)(ベルギー)
試料番号3:チョーク、オーディネール・オーメイ(ordinaire Omey)(フランス)
試料番号4:チョーク、ムジェルニク(Mjelnik)(ポーランド)
試料番号5:Riesel、1mmから4mm、グマーン(Gummern)(オーストリア)
試料番号6:Feを多く含む大理石、グマーン(Gummern)(オーストリア)
試料番号7:石灰石、ブルグバーグ(Burgberg)(ドイツ)
試料番号8:石灰石、フォルマー(Vollmer)(ドイツ)
【0083】
a)5000gのそれぞれの供給材料を、1000℃の温度で2時間、実験室炉でか焼した。
【0084】
b)か焼工程から得られた400gの生石灰を、予め4lの水中に溶解した800gの塩化アンモニウムが供給されている8lの反応器に注入した。反応混合物を、溶液の温度を低下させながら、室温で30分間の撹拌下で消和させた。
【0085】
c)次いで、不溶性成分を、100μmで篩い分けすることによって、得られた塩化カルシウム溶液から分離した。下に言及するように、分離された不良品を分析した。
【0086】
d)得られた塩化カルシウム溶液を、沈殿反応器に供し、該沈殿反応器は、40℃の開始温度の撹拌下で、貯溜タンクから純粋なガス状二酸化炭素を供した。反応が終了すると(反応の終了は、pH制御によって決定する。)、沈降炭酸カルシウムをろ過によって分離し、ろ液を水によって洗浄し、再度ろ過し、最後に105℃にて乾燥キャビネットで乾燥させた。
【0087】
2.1.2.特性評価
試料番号1を、先行技術の方法によって製造された沈降炭酸カルシウムと比較した。なお、生石灰の消和は、水酸化カルシウムを形成する塩化アンモニウム溶液の代わりに水で行った。
【0088】
結果を、次に示す表1に概説し、供給材料の輝度を、d
50=5μmの粒子サイズで測定し、得られた最終生成物も測定した。
【0089】
【表1】
【0090】
これらの結果を見ると、本発明の方法によって、低品質の天然炭酸カルシウム材料から製造された沈降炭酸カルシウムは、優れた輝度を有することが明らかであり、先行技術の方法によって製造された沈降炭酸カルシウムよりもさらに良好である。
【0091】
これらの結果を、上述のように処理した試料2から8による詳細な試験によって確認した。また、これらの試料を、次に示す表2に概説する、得られた沈降炭酸カルシウムと比較した。
【0092】
【表2】
【0093】
2.1.3.化学分析
乾燥生成物と供給材料の元素分析、および試料3の不良品を、蛍光X線(Thermo−ARL社のXRF ARL−9400)によって分析した。強熱減量および比表面積の測定(ISO9277に準じて、窒素およびBET法を用いて測定した。)において、標準実験室法を用いた(表3参照)。
【0094】
【表3】
【0095】
上の表から、本発明による方法から得られた生成物が、炭酸カルシウム含量(CaO+強熱減量)99重量%から100重量%という高い化学純度を有することが理解される。
【0096】
特に、原料、生成物、および不良品のSiO
2、Al
2O
3、Fe
2O
3、MgO、P
2O
5の含量を比較して、対応する不純物の分離をほぼ完全に達成できることが分かる。
【0097】
また、生成物中のY、Sr、MnおよびCrのような重金属の量を、著しく低減することもできる。
【0098】
2.2.種結晶を使用する高純度PCCの製造および特性評価
2.2.1.製造
7つの技術的計量試験において、本発明の方法を、下表に記載の種々の供給材料およびプロセスパラメータについて評価した。
【0099】
供給材料
試料番号9から13:洗浄Riesel、1mmから4mm(大理石)グマーン(Gummern)(オーストリア)
試料番号14から15:チョーク、オーディネール・オーメイ(ordinaire Omey)(フランス)
【0100】
a)2トンのそれぞれの試料を、1000℃の温度で2時間、回転炉でか焼して、消和工程のための比較可能な供給材料を得た。
【0101】
b)か焼工程から得られた180kgの生石灰を、予め360kgの塩化アンモニウムおよび1800kgの水を注入した消和反応器(容積:2.3m
3;径:1.2m;高さ:2m)に注入した。反応混合物を、40℃の温度で30分間の撹拌下で、消和させた。生石灰が透明な溶液になるまで溶解した時点で反応は終了した。
【0102】
c)次いで、15ppm(CaO基準)のアニオン性凝集剤(Kemira社のSuperfloc A−130)を、得られた溶液からの不溶性成分の分離を改善するために、得られた反応混合物に加えた。最後に、分離を沈降によって行い、透明な溶液をデカントした。
【0103】
d)600lの得られた塩化カルシウム溶液を、ウルトラミル(Ultramill)(容積:700l)に注入し、これに下表に示す規定量のアラゴナイト種結晶を加えた。
【0104】
次いで、塩化カルシウム溶液を、対応する開始温度に加熱し、20容量%の二酸化炭素を含むテクニカルガスを、下表に示す規定撹拌力下および100m
3/hの流速下で、貯溜タンクから供給した。反応終了後(反応の終了は、最終pH7によって決定する。)、沈降炭酸カルシウムスラリーを、Metso社の真空ドラムフィルタ上でのろ過によって分離し、ろ過ケーキを水によって洗浄し、遠心分離によって、最終スラリーまで最終的に濃縮した(upconcentrated)。
【0105】
沈降炭酸カルシウムスラリー中の固形分は、収量と関係があり、ろ過ケーキ中の固形分は、最終生成物の純度(fineness)を示す。
【0106】
上述の手順によって、約4から約12のBET表面を有し、下の表に言及するように、優れた光学的性質を有するPCCが生成した。
【0107】
R457 Tappi輝度および黄色度指数を、上述したDatacolor測定によって決定した。
【0108】
比較は、2重量%アラゴナイト種、低い沈殿開始温度、高い撹拌力により、純度(fineness)および輝度に関する最良の結果が達成できたことを示す。
【0109】
非常に低い濃度の種結晶は、沈殿結晶の生じるサイズを拡大させ、非常に高い濃度の種結晶は、粘性を低下させ、反応器中のガス輸送を妨げると結論付けることができる。また、高い撹拌力および低い開始温度は、より多くのより微細な粒子の形成を促進する。
【0110】
【表4】
【0111】
試料15の輝度(R457)は幾分純粋であった。しかしながら、これは、この試料中の不純物の不完全な凝集によるものであった。この試料の輝度は、さらに幾らかの凝集剤の添加によって、顕著に改善することができた。この際に、後続の精密ろ過の効率を確認するため、試料15を次の試験に使用したところ、同様に非常に良好な結果となった。
【0112】
2.3.種々の材料からの高純度PCCの製造、ならびにろ過の改良に関する特性評価
生石灰を消和させた後のろ過工程の改良の影響について評価するために、上述の試験13および15の試料を、Microdyn−Nadir社の0.2μmPP膜を備えた精密ろ過ユニットの利用によって、再度ろ過した。
【0113】
次いで、ろ液を、実施例1に関して上述するような実験室単位で、沈殿させた。
【0114】
残余の有機分子およびコロイド状水酸化鉄不純物の分離によって、更なる輝度の増加および指数の低下を確認することができた(表5参照)。
【0115】
精密ろ過工程をさらに適用することによって、高純度のアラゴナイト生成物を得ることができた。純度を、Bruker社のD8 XRDとRietveldソフトウェアTopasとを併用して、X線回折によって制御した(表5参照)。
【0116】
【表5】