特許第5961687号(P5961687)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5961687新規エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物、該樹脂組成物の硬化物および微生物付着防止材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961687
(24)【登録日】2016年7月1日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】新規エポキシ樹脂、該エポキシ樹脂を含むエポキシ樹脂組成物、該樹脂組成物の硬化物および微生物付着防止材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/30 20060101AFI20160719BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20160719BHJP
   C09D 163/00 20060101ALI20160719BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   C08G59/30
   C09D5/16
   C09D163/00
   C09K3/00 R
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-511243(P2014-511243)
(86)(22)【出願日】2013年4月18日
(86)【国際出願番号】JP2013061477
(87)【国際公開番号】WO2013157599
(87)【国際公開日】20131024
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-96568(P2012-96568)
(32)【優先日】2012年4月20日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2012-248449(P2012-248449)
(32)【優先日】2012年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100146879
【弁理士】
【氏名又は名称】三國 修
(72)【発明者】
【氏名】古江 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】大野 由起
(72)【発明者】
【氏名】西村 憲人
【審査官】 小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−177144(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/30
C09D 5/16
C09D 163/00
C09K 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノールとグリシジル型のエポキシ樹脂とを反応させて得られる新規エポキシ樹脂。
【請求項2】
式(1)で表される、請求項1に記載の新規エポキシ樹脂。
【化1】
(式(1)中のRは、それぞれ独立に、前記グリシジル型のエポキシ樹脂の製造に用いられたポリヒドロキシ化合物の残基またはポリカルボン酸化合物の残基を示す。nは、1以上の整数である。)
【請求項3】
前記グリシジル型のエポキシ樹脂が、エピハロヒドリンとポリヒドロキシ化合物との反応で得られるエポキシ樹脂である、請求項1に記載の新規エポキシ樹脂。
【請求項4】
前記エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンである、請求項3に記載の新規エポキシ樹脂。
【請求項5】
ポリヒドロキシ化合物がビスフェノールAである、請求項3に記載の新規エポキシ樹脂。
【請求項6】
式(2)で表される、請求項5に記載の新規エポキシ樹脂。
【化2】
(式(2)中のnは、1以上の整数である。)
【請求項7】
ポリヒドロキシ化合物がビスフェノールFである、請求項3に記載の新規エポキシ樹脂。
【請求項8】
式(3)で表される、請求項7に記載の新規エポキシ樹脂。
【化3】
(式(3)中のnは、1以上の整数である。)
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の新規エポキシ樹脂と硬化剤とを少なくとも含有するエポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
請求項9のエポキシ樹脂組成物が硬化した硬化物。
【請求項11】
請求項10の硬化物からなる微生物付着防止材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば微生物付着防止材料として好適に用いることができるエポキシ樹脂組成物の硬化物と、エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を構成する新規エポキシ樹脂に関する。
本発明は、日本に2012年04月20日に出願された特願2012−096568号および2012年11月12日に出願された特願2012−248449号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
細菌、真菌、糸状菌、藻類等のある種の微生物は、基材(担体)の表面に付着してコロニーを形成し、一定の細胞数に達すると、多糖類や糖タンパク質等の有機物質を生成、分泌してバイオフィルム(生物膜)を形成する。形成されたバイオフィルムにはさらに他の微生物が入り込み、複雑な微生物の集団が形成されることもある。
【0003】
バイオフィルムは、自然界、産業環境下、一般家庭環境下などのあらゆる環境下で形成され、様々な問題を引き起こす場合がある。
例えば、バイオフィルムは、水処理施設、工場などの送水管や排水管の内表面、浴室、空調設備に備えられた循環配管の内表面などに付着し、熱効率の低下、流量低下、管の閉塞などを誘発する場合がある。また、建築物の内外装、水周り設備、冷蔵・冷凍設備、空調装置などの結露が起こりやすい部分に形成され、材質の劣化、美観の低下、周囲の人の健康悪化を引き起こすこともある。さらにバイオフィルムが海水や河川水に接触する構造物の表面に形成された結果、該表面を構成する部材が腐食したり、バイオフィルム上に藻類、貝類、フジツボ等の大型生物が付着、成長し、その構造物に多大な障害を与えたりする場合もある。
このようにバイオフィルムの形成は、その一部または全部が水分と接触するような部材、すなわち水接触部材において、顕著に認められる。
【0004】
微生物等の付着に起因する問題の防止方法としては、防汚剤や抗菌剤等の薬剤を基材に塗布したり、含浸させたりする方法がある。ところが、このように塗布や含浸により付与された薬剤は、徐々に環境中に放出され、周辺の生物に悪影響を与える場合がある。また、継続的に放出される薬剤に曝されるうちに、薬剤に対する耐性をもった微生物が周辺に出現する可能性もある。
【0005】
そこで、環境に配慮された方法として、例えば特許文献1には、基材に生分解性樹脂などを含む分散液を塗布して被膜を形成することにより、水棲生物の付着を防止するとともに、付着した生物の除去を容易にする技術が開示されている。
特許文献2などには、基材中に光触媒である酸化チタンを練り込んで防汚性を持たせる技術が開示されている。
その他、基材に防汚性を付与する技術としては、基材の表面にガラスコーティングする技術(特許文献3参照。)、電流を利用して海水と接触する構造物(基材)への生物付着を防止する技術(特許文献4参照。)などがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−132924号公報
【特許文献2】特開2003−231814号公報
【特許文献3】特許第4551963号公報
【特許文献4】特開2003−13264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載の方法の場合、被膜が生分解して剥離すると、その部分は基材がむき出しになる。そのため、再度付着する微生物群に対しては除去作用が働かず、効果が継続しない。
【0008】
一方、特許文献2の方法によれば、基材の表面だけでなく全体に防汚性を付与できる。しかし、防汚性の効果を顕現させるためには、一定割合の酸化チタンを練り込む必要があり、練り込む割合によっては、基材本来の性質を損ね、外見や耐久性、加工性などの品質が低下する場合がある。
ガラスコーティングを施す特許文献3の方法は、耐久性はあるものの物理的なダメージに弱い。また、ガラスコーティングは靭性に乏しいため、温度変化や外力などによって生じる変形やひずみに追従しにくく、亀裂などが生じる場合があった。
電流を利用した特許文献4の方法には、常時通電するための付帯設備が必要であり、その管理に人手とコストがかかる。
【0009】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、環境への悪影響がなく、特別な管理をしなくても長期間、微生物付着防止性に優れ、例えば微生物付着防止材料として種々の用途に幅広く用いることができるエポキシ樹脂組成物の硬化物と、エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を構成する新規エポキシ樹脂の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は鋭意検討を行った結果、テトラフルオロベンジル骨格を有する新規エポキシ樹脂の硬化物が優れた微生物付着防止性を発現することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は以下の構成を有する。
[1]2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノールとグリシジル型のエポキシ樹脂とを反応させて得られる新規エポキシ樹脂。
[2]式(1)で表される、[1]に記載の新規エポキシ樹脂。
【化1】
(式(1)中のRは、それぞれ独立に、前記グリシジル型のエポキシ樹脂の製造に用いられたポリヒドロキシ化合物の残基またはポリカルボン酸化合物の残基を示す。nは、1以上の整数である。)
[3]前記グリシジル型のエポキシ樹脂が、エピハロヒドリンとポリヒドロキシ化合物との反応で得られるエポキシ樹脂である、[1]または[2]に記載の新規エポキシ樹脂。
[4]前記エピハロヒドリンがエピクロロヒドリンである、[3]に記載の新規エポキシ樹脂。
[5]ポリヒドロキシ化合物がビスフェノールAである、[3]または[4]に記載の新規エポキシ樹脂。
[6]式(2)で表される、[5]に記載の新規エポキシ樹脂。
【化2】
(式(2)中のnは、1以上の整数である。)
[7]ポリヒドロキシ化合物がビスフェノールFである、[3]または[4]に記載の新規エポキシ樹脂。
[8]式(3)で表される、[7]に記載の新規エポキシ樹脂。
【化3】
(式(3)中のnは、1以上の整数である。)
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の新規エポキシ樹脂と硬化剤とを少なくとも含有するエポキシ樹脂組成物。
[10][9]のエポキシ樹脂組成物が硬化した硬化物。
[11][10]の硬化物からなる微生物付着防止材料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境への悪影響がなく、特別な管理をしなくても長期間、微生物付着防止性に優れ、例えば微生物付着防止材料として種々の用途に幅広く用いることができるエポキシ樹脂組成物の硬化物と、エポキシ樹脂組成物と、該エポキシ樹脂組成物を構成する新規エポキシ樹脂を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例における蛍光強度比(付着微生物量の指標。)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の硬化物は、微生物の付着を防止する微生物付着防止材料として好適に使用されるものであって、2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノールと既存のグリシジル型のエポキシ樹脂とを反応させて得られる新規エポキシ樹脂と、硬化剤とを少なくとも含有するエポキシ樹脂組成物が硬化したものである。
本明細書において、微生物とは、細菌、古細菌、ラン藻類、菌類、藻類、地衣類、原生動物の他、海藻類の胞子(遊走子)、イガイ類やカキ類などの貝類の幼生、フジツボ類の幼生、カンザシゴカイ類の幼生、ヒドロ虫類の幼生、コケムシ類の幼生、ホヤ類の幼生、カイメン類の幼生、イソギンチャク類の幼生などを含む。
また、本明細書において、エポキシ樹脂とは、1分子中にエポキシ基(オキシラン環)を2以上含む化合物を意味する。
【0015】
<新規エポキシ樹脂>
本発明の新規エポキシ樹脂(以下、該新規エポキシ樹脂をエポキシ樹脂(A)という場合がある。)は、下記一般式(1)の構造を有する。
【0016】
【化4】
ここで、式(1)中のnは、1以上の整数であり、好ましくはエポキシ樹脂(A)のエポキシ当量が300〜3000を満足する範囲の整数である。
【0017】
該エポキシ樹脂(A)は、2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノール(以下、該化合物をTFDMという場合がある。)と既存のグリシジル型のエポキシ樹脂(以下、該既存のエポキシ樹脂をエポキシ樹脂(A’)という場合がある。)とを反応させて得られるものであって、上記式(1)に記載のように、テトラフルオロベンジル骨格を有するグリシジル型のエポキシ樹脂である。
エポキシ樹脂(A’)は、ポリヒドロキシ化合物および/またはポリカルボン酸化合物と、エピクロロヒドリンなどのグリシジル基を有する化合物との反応により得られるエポキシ樹脂であって、式(1)中のRは、それぞれ独立に、エポキシ樹脂(A’)の製造に用いられたポリヒドロキシ化合物の残基またはポリカルボン酸化合物の残基を示す。
なお、ポリヒドロキシ化合物の残基とは、ポリヒドロキシ化合物の有するOH基のうち、2つのOH基を除いた2価の基であり、ポリカルボン酸化合物の残基とは、ポリカルボン酸化合物の有するOH基のうち、2つのOH基を除いた2価の基である。
【0018】
ポリヒドロキシ化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールF、4,4’−ビフェノール、2,3,5,6−テトラメチル−4,4’−ビフェノール、1,4−ナフトール、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等のフェノール化合物や、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等のポリオール化合物が挙げられる。ポリカルボン酸化合物としては、アジピン酸、フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸等、ダイマー酸等が挙げられる。
グリシジル基を有する化合物としては、例えばエピハロヒドリン、多価エポキシ樹脂等を挙げることができ、前記エピハロヒドリンとしては、具体的には、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン等を例示できる。
エポキシ樹脂(A’)としては、上記ポリヒドロキシ化合物およびポリカルボン酸化合物のうちの1種以上を用いて製造されたものであれば、制限なく使用できる。
【0019】
例えばエポキシ樹脂(A’)が、エピクロロヒドリン、およびポリヒドロキシ化合物としてビスフェノールAを用いて製造されたビスフェノールA型エポキシ樹脂である場合、式(1)中のRはビスフェノールAの残基となり、該エポキシ樹脂(A’)とTFDMから得られる新規なエポキシ樹脂(A)は式(2)の構造となる。
【0020】
【化5】
【0021】
例えばエポキシ樹脂(A’)が、エピクロロヒドリン、およびポリヒドロキシ化合物としてビスフェノールFを用いて製造されたビスフェノールF型エポキシ樹脂である場合、式(1)中のRはビスフェノールFの残基となり、該エポキシ樹脂(A’)とTFDMから得られる新規なエポキシ樹脂(A)は式(3)の構造となる。
【0022】
【化6】
【0023】
エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は300〜3000となるような値であることが好ましく、400〜2000がより好ましく、500〜1500が特に好ましい。エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量がこの範囲であると、硬化物の微生物の付着防止効果が大きいが、この範囲外であると微生物付着防止効果が弱まる。また、エポキシ樹脂(A)のエポキシ当量は、エポキシ樹脂(A)の製造に用いられるエポキシ樹脂(A’)のエポキシ当量かつ、エポキシ樹脂(A’)とTFDMとの仕込み比に応じて決まる値である。
エポキシ樹脂(A)の分子量は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィ)により測定されたポリスチレン換算の値として、数平均分子量は500〜5000が好ましく、800〜4000がより好ましく、1000〜3000が特に好ましい。重量平均分子量は1000〜25000が好ましく、2000〜22000がより好ましく、4000〜20000が特に好ましい。
【0024】
エポキシ樹脂(A)は、TFDMとエポキシ樹脂(A’)との反応により製造できる。該反応は付加反応であり、公知のエポキシ樹脂のアドバンス化(エポキシ樹脂に、ポリヒドロキシ化合物および/またはポリカルボン酸を反応させることにより、分子鎖を延ばす反応。)において採用されている条件と同様の条件にて行うことができる。
例えば、エポキシ樹脂(A’)のエポキシ基に対してTFDMの水酸基が0.4〜1.0当量となる比率でTFDMを添加し、第3級アミン(例えばトリエチルアミンなど。)のような塩基の存在下、必要に応じてケトン類、非プロトン性極性溶媒等の溶媒を使用して、100℃〜200℃で反応させる。好ましい温度は110〜190℃で、特に好ましい温度は120〜180℃である。
このような反応により、エポキシ樹脂(A)を含有する生成物が得られる。ここでTFDMの水酸基が0.4当量未満であれば、エポキシ樹脂(A)を含有する生成物をそのまま用いてエポキシ樹脂組成物を調製し、これを硬化して得られる硬化物は、充分な微生物付着防止性を発現し難くなる傾向がある。一方、TFDMの水酸基が1.0当量を超えると、TFDMが未反応のまま残存しやすくなる。
【0025】
TFDMとエポキシ樹脂(A’)との反応の際には、エポキシ樹脂(A’)として、1種のエポキシ樹脂を用いてもよいし、2種以上のエポキシ樹脂を用いてもよい。2種以上のエポキシ樹脂を用いた場合には、これら複数種のエポキシ樹脂それぞれにTFDMが反応、付加することになる。
【0026】
<エポキシ樹脂組成物およびその硬化物>
本発明のエポキシ樹脂組成物は、上述の新規エポキシ樹脂、すなわちエポキシ樹脂(A)と、硬化剤とを少なくとも含み、必要に応じて硬化促進剤などを含有する。エポキシ樹脂組成物の製造においては、上述の反応で得られたエポキシ樹脂(A)を含有する生成物からエポキシ樹脂(A)を単離して用いてもよいし、エポキシ樹脂(A)を単離せずに未反応のエポキシ樹脂(A’)やTFDMを含んだまま使用してもよい。
また、エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂(A)以外の1種以上のエポキシ樹脂を、例えばエポキシ樹脂全体に対して1〜50質量%の範囲で配合してもよい。
【0027】
硬化剤としては、アミン系化合物、酸無水物系化合物、フェノール系化合物、チオール系化合物などが挙げられる。具体例としては、ジアミノジフェニルメタン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、カルボキシ基含有ウレタン樹脂、フェノールノボラック、1,2−エタンジチオール、1,4−ベンゼンジチオール、トリメチロールプロパントリス−メルカプトアセテート、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)、およびこれらの変性品などが挙げられ、これらを1種以上使用できる。
【0028】
エポキシ樹脂組成物中の硬化剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物中のエポキシ基に対して0.7〜1.2当量が好ましい。この範囲外であると、硬化が不完全となり良好な硬化物性が得られない可能性がある。
【0029】
硬化促進剤としては、例えばイミダゾール類、第3級アミン類、フェノール類、ルイス酸塩などが挙げられ、これらのうち1種以上を使用できる。
エポキシ樹脂組成物中の硬化促進剤の含有量は、エポキシ樹脂組成物中に含まれる全てのエポキシ樹脂の合計100質量部に対して、0.01〜5.0質量部が好ましい。0.01質量部未満では、硬化促進剤の添加効果が得られない可能性があり、5.0質量部を超えると、ゲル化を起こしたり、硬化促進剤が未反応で残存することに起因して着色が生じたりするなど、性能低下の懸念がでてくる。
【0030】
エポキシ樹脂組成物には、必要に応じて溶剤を配合してもよい。溶剤としては、例えばエチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ジイソアミルエーテル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、アミルフェニルエーテル、エチルベンジルエーテル、ジオキサン、メチルフラン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、メチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブ、セロソルブアセテート、エチレングリコールイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、メチルエチルカルビトール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、メトキシプロピルアセテート、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等が使用できるが、これらに限定されるものではなく、2種類以上混合して使用しても良い。
また、エポキシ樹脂組成物には、エポキシ樹脂組成物の硬化物が微生物付着防止性を損なわない限り、例えば、可塑剤、充填材、顔料、劣化防止剤、紫外線吸収剤、忌避剤などの各種添加剤が含まれてもよい。
【0031】
本発明のエポキシ樹脂組成物は、公知のエポキシ樹脂組成物と同様の方法にて製造できる。
例えば、エポキシ樹脂(A)および硬化剤と、必要に応じて使用される硬化促進剤、他のエポキシ樹脂、各種溶剤、各種添加剤をミキサー、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで充分に混合する方法、ディスパー、サンドミル、ボールミル等を用いて混練・分散する方法などが挙げられる。
なお、エポキシ樹脂組成物の製造において、エポキシ樹脂(A)を配合する際には、すでに上述したとおり、TFDMとエポキシ樹脂(A’)との反応により生成した生成物をそのまま配合してもよい。
【0032】
このようにして調製されたエポキシ樹脂組成物を例えば塗膜、フィルム状、シート状、管状、板状、繊維状、メッシュ状、ハニカム状、粉末状、ブロック状、任意の立体形状など、硬化物の用途などに応じて成形、塗装することができる。成形、塗装する方法としては、金型成形、押し出し成形、刷け塗り、スプレー塗装など一般的な手法で実施できる。
【0033】
このようなエポキシ樹脂組成物を例えば室温〜200℃、好ましくは室温〜150℃、より好ましくは室温〜120℃で硬化させて得られた硬化物は、微生物が付着しにくい特性を発現するため、微生物の付着を防止する微生物付着防止材料として好適に使用される。
該微生物付着防止材料は、エポキシ樹脂(A)を含むエポキシ樹脂組成物の硬化物からなり、材料そのものが微生物付着防止性を発揮する。そのため、薬剤の塗布、含浸により微生物付着防止性を発揮させる場合のように、塗布、含浸された薬剤が徐々に環境中に放出されることがない。よって、環境への影響がなく、微生物付着防止性の継続性にも優れる。また、光触媒などの微生物付着防止性を有する物質を一定量以上配合するものでもないため、エポキシ樹脂(A)が本来有する性質を損ねたり、外見、耐久性、加工性などの品質を低下させたりすることもない。また、微生物付着防止性を継続的に発揮させるための特別な管理も必要としない。
【0034】
本発明の硬化物は、微生物付着防止材料として、水分が存在したり発生したり導入されたりする結果、微生物の付着が懸念される水接触部材に好適に用いられる。ここで水接触部材とは、少なくともその一部が水分(蒸気、結露水、体液などを含む。)と接触する部材であり、例えば下記(1)〜(7)に記載のものの全体または一部、あるいは、その周辺を構成する部材である。
(1)海・河川・湖沼の関連部材:
海水や河川水などの水に接触する護岸設備、治水設備などの構造物表面材、橋構造体、水産物養殖用施設、水槽、水族館設備、オイルフェンス、ブイ、フロート、魚網、海産物用の網、支柱、筏など。
(2)各種処理設備・工場関連部材:
工場の各種プラント、水処理施設などに使用される躯体、配管(送液管、排液管、熱交換用管など。)、フィルタ、タンク、槽、ドレイン、汚れ等防止のために敷かれる製造現場用下敷きシート、空調設備、冷蔵設備、冷凍設備など。
(3)内外装関連部材:
各種建築物(住宅、工場建屋、倉庫、各種施設など。)や輸送用機器(自動車、二輪車、鉄道車両、船舶、飛行機など。)の内装材および外装材など。特に、船底、船材、船底カバー。
(4)住宅・各種施設(企業、病院、学校など。)の設備関連部材:
浴室(浴槽)、浴室用用品、洗濯場、洗濯用用品、台所、台所用用品、調理器具、食器、空調設備、冷蔵・冷凍設備、トイレ、トイレ用用品、洗面所、洗面所用用品、プール、汚れ等防止のために敷かれる各種シート(調理場下敷きシート、浴室や脱衣場の下敷きシート、洗面所用下敷きシート、トイレ用下敷きシートなど。)、医療用器具など。
(5)包装用資材関連部材:
食品(農畜産物、水産物、各種加工品など。)、飲料、薬品、肥料、家畜の餌等やこれらの原材料を貯留する容器、包材など。
(6)屋外構造物関連部材:
照明、看板、標識、オブジェなど。
(7)娯楽・生活用品関連部材:
つり用具、園芸用具の他、水滴や汗、唾液等が付着しやすいスポーツ用具、楽器、服飾品、だ液や便などがつきやすい育児器具・遊具類、ペット用具など。
【0035】
また、本発明の微生物付着防止材料は、特に、環境への悪影響がない点、特別な管理をしなくても長期間効果が継続する点などから、上記のなかでも、(1)海、河川、湖沼関連部材、(2)各種処理設備・工場関連部材、(3)内外装関連部材などの水接触部材として好適である。
【実施例】
【0036】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。
[製造例1:カルボキシ基含有ウレタン樹脂の製造]
撹拌装置、温度計、コンデンサを備えた反応容器に、ポリカーボネートジオール化合物としてC−1015N((株)クラレ製ポリカーボネートジオール,原料ジオールモル比 1,9−ノナンジオール:2−メチル−1,8−オクタンジオール=15:85,分子量964)330.2g、カルボキシル基を有するジヒドロキシル化合物として2,2−ジメチロールブタン酸(日本化成(株)製)60.4g、溶媒としてテトラヒドロフラン(関東化学(株)製)571.2gを仕込み、反応液の温度を60℃まで上げて、滴下ロートにより、ポリイソシアネート化合物としてデスモジュール−W(住化バイエルウレタン(株)製)180.4gを30分かけて滴下した。
滴下終了後、60℃で更に6時間反応を行い、ほぼイソシアネートが消失したことを確認した後、イソブタノール(和光純薬(株)製)5gを滴下し、更に60℃にて2時間反応を行った。
得られたカルボキシ基含有ウレタン樹脂の数平均分子量は8600、固形分の酸価は39.6mgKOH/g、不揮発分は50質量%であった。
なお、イソシアネートの消失は、FT−IR(日本分光(株)製 FT/IR−410)を使用し、イソシアネート基由来2270cm−1のピークの有無を分析することにより確認した。
【0037】
〔実施例1〕
(新規エポキシ樹脂(A−1)の合成)
窒素ガス導入管、アリーン冷却器、温度計、撹拌翼を装備した300mL容のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエポトートYD−128(新日鐵化学(株)製)63.5g(0.17モル)、TFDM(2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノール、昭和電工(株)製)16.0g(0.076モル)を加え、120℃に加熱した。次いで触媒としてトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)0.455gを投入し、窒素気流下で撹拌しながら120℃で5時間反応させたところ、TFDMの消失がガスクロマトグラフィーによって確認され、ポリスチレン換算で、数平均分子量が1000、重量平均分子量が4600の生成物が得られたことがGPCによって確認された。すなわち下記式(2)で示され、エポキシ当量が500の新規エポキシ樹脂(A−1)を含有する生成物を得た。
【0038】
・ガスクロマトグラフィーは、GC−4000(ジーエルサイエンス株式会社製)を用いた。分析条件は以下の通りである。
カラム:Inert Cap 1(ジーエルサイエンス株式会社製)
カラム温度条件:初期設定温度100℃、20℃/分で昇温後、300℃で5分保持
検出器温度:330℃
注入口温度:330℃
・GPCはShodex GPC−101(昭和電工株式会社製)を用いた。分析条件は以下のとおりである。
カラム:Shodex GPC KF−805、KF−803、KF−802(昭和電工株式会社製)
移動相:テトラヒドロフラン、流速:1ml/分
検出器:Shodex RI−71(昭和電工株式会社製)
【0039】
【化7】
【0040】
なお、エポキシ当量はJIS K7236(2001)にしたがって測定した。
【0041】
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
上記で得られた新規エポキシ樹脂(A−1)を含有する生成物を2.0g、硬化剤として上記製造例で得られたカルボキシ基含有ウレタン樹脂を不揮発分50質量%のものとして6.9g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)10.0g、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製)0.10gを混合し、エポキシ樹脂組成物(1)を得た。
続いて、基材であるシムボックスBXS10−005(SUS板、(株)岩田製作所製)(以下、「SUS」という。)にエポキシ樹脂組成物(1)を塗布し、室温(20〜25℃)×1時間乾燥させた後、オーブン中で120℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(1)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:20μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、下記の評価を行った。
【0042】
<微生物付着防止性能評価(大腸菌暴露試験)>
(1)大腸菌懸濁液調製
大腸菌JM109株をLBplate(ペプトン1質量%、酵母エキス0.5質量%、塩化ナトリウム0.5質量%、寒天2質量%を121℃/20分滅菌後平板化)上において、37℃で一晩培養した。生育したコロニーを5mLのLBbroth(ペプトン1質量%、酵母エキス0.5質量%、塩化ナトリウム0.5質量%を121℃/20分滅菌)に一白金耳植菌し、37℃で一晩振とう培養した。濁度は約3(対数増殖期後期)であった。この懸濁液を生理食塩水(0.2μmフィルターろ過滅菌)で10倍に希釈し直ちに使用した。
(2)暴露・計測
実施例1で得られた試験片を約20mm角に切断し、60mmφのシャーレに入れた。そこに前述の大腸菌懸濁液10mLを添加した。80rpmで3時間振とう後、試験片を取り出し、10mlの純水を入れた60mmφシャーレに移して洗浄を行った。次いで試験片を40mmφのシャーレに入れ、そこへ5質量%アラマーブルー(登録商標、和光純薬工業(株)製)の水溶液を3mL添加した。
ここで、ブランクとして、大腸菌懸濁液未暴露の試験片を別の40mmφのシャーレに入れ、同様に5質量%アラマーブルーの水溶液を3ml添加したものも用意した。
2時間静置後、液の一部を96ウェルのマイクロプレートに200μL移し、560nm励起で590nmの蛍光強度を測定した。
測定される蛍光強度と微生物量には相関性があり、蛍光強度は微生物量の指標となることを事前に確認しておいた。そして、サンプル(試験片)とブランクとの蛍光強度の差Dをとり、後述の比較例1における蛍光強度の差Dを100とした場合の本実施例1における蛍光強度の差Dの相対値を蛍光強度比として図1のグラフに示した。
【0043】
〔実施例2〕
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
実施例1で製造した新規エポキシ樹脂(A−1)を含有する生成物を4.9g、硬化剤としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(昭和電工(株)製、商標:カレンズMT PE1)1.4g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)15.6g、硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(和光純薬工業(株)製)6mgを混合し、エポキシ樹脂組成物(2)を得た。
続いて、SUSにエポキシ樹脂組成物(2)を塗布し、室温×1時間乾燥させた後、オーブン中で60℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(2)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:10μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0044】
〔実施例3〕
(新規エポキシ樹脂(A−2)の合成)
窒素ガス導入管、アリーン冷却器、温度計、撹拌翼を装備した300mL容のセパラブルフラスコに、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であるエポトートYD−128(新日鐵化学(株)製)56.4g(0.15モル)、TFDM(2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノール、昭和電工(株)製)25.2g(0.12モル)を加え、120℃に加熱した。次いで触媒としてトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)0.16gを投入し、窒素気流下で撹拌しながら120℃で3時間反応させた。その後、溶媒としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)30.0gを加え、150℃で3時間撹拌したところ、TFDMの消失がガスクロマトグラフィーによって確認され、ポリスチレン換算で、数平均分子量が2000、重量平均分子量が13300の生成物が得られたことがGPCによって確認された。すなわち式(2)で示され、エポキシ当量が固形分あたり1400である新規エポキシ樹脂(A−2)を含有する生成物を得た。
【0045】
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
上記で得られた新規エポキシ樹脂(A−2)を含有する生成物を3.5g、硬化剤として上記製造例で得られたカルボキシ基含有ウレタン樹脂を不揮発分50質量%のものとして3.4g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)7.4g、硬化促進剤としてトリフェニルホスフィン(北興化学工業(株)製)40mgを混合し、エポキシ樹脂組成物(3)を得た。
続いて、SUSにエポキシ樹脂組成物(3)を塗布し、室温×1時間乾燥させた後、オーブン中で120℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(3)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:20μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0046】
〔実施例4〕
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
実施例3で製造した新規エポキシ樹脂(A−2)を含有する生成物を7.0g、硬化剤としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(商標:カレンズMT PE1、昭和電工(株)製)0.27g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)6.7g、硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(和光純薬工業(株)製)7mgを混合し、エポキシ樹脂組成物(4)を得た。
続いて、SUSにエポキシ樹脂組成物(4)を塗布し、室温×1時間乾燥させた後、オーブン中で60℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(4)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:10μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0047】
〔実施例5〕
(新規エポキシ樹脂(A−3)の合成)
窒素ガス導入管、アリーン冷却器、温度計、撹拌翼を装備した300mL容のセパラブルフラスコに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるエポトートYDF−170(新日鐵化学(株)製)66.8g(0.2モル)、TFDM(2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノール、昭和電工(株)製)18.9g(0.09モル)を加え、120℃に加熱した。次いで触媒としてトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)0.17gを投入し、窒素気流下で撹拌しながら120℃で3時間反応させたところ、TFDMの消失がガスクロマトグラフィーによって確認され、ポリスチレン換算で、数平均分子量が1100、重量平均分子量が5600の生成物が得られたことがGPCによって確認された。すなわち式(3)で示され、エポキシ当量が500である新規エポキシ樹脂(A−3)を含有する生成物を得た。
【0048】
【化8】
【0049】
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
上記で得られた新規エポキシ樹脂(A−3)を含有する生成物を10.0g、硬化剤としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(商標:カレンズMT PE1、昭和電工(株)製)3.27g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)19.9g、硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(和光純薬工業(株)製)13mgを混合し、エポキシ樹脂組成物(5)を得た。
続いて、SUSにエポキシ樹脂組成物(5)を塗布し、室温×1時間乾燥させた後、オーブン中で60℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(5)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:10μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0050】
〔実施例6〕
(新規エポキシ樹脂(A−4)の合成)
窒素ガス導入管、アリーン冷却器、温度計、撹拌翼を装備した300mL容のセパラブルフラスコに、ビスフェノールF型エポキシ樹脂であるエポトートYDF−170(新日鐵化学(株)製)66.8g(0.2モル)、TFDM(2,3,5,6−テトラフルオロ−p−フェニレンジメタノール、昭和電工(株)製)29.4g(0.14モル)を加え、120℃に加熱した。次いで触媒としてトリエチルアミン(和光純薬工業(株)製)0.19gを投入し、窒素気流下で撹拌しながら120℃で3時間反応させた。その後、溶媒としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)17.0gを加え、120℃でさらに2時間撹拌したところ、TFDMの消失がガスクロマトグラフィーによって確認され、ポリスチレン換算で、数平均分子量が2200、重量平均分子量が6400の生成物が得られたことがGPCによって確認された。すなわち式(3)で示され、エポキシ当量が固形分あたり840である新規エポキシ樹脂(A−4)を含有する生成物を得た。
【0051】
(エポキシ樹脂組成物およびその硬化物の製造)
上記で得られた新規エポキシ樹脂(A−4)を含有する生成物を10.0g、硬化剤としてペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトブチレート)(商標:カレンズMT PE1、昭和電工(株)製)1.66g、溶剤としてメトキシプロピルアセテート(ダイセル化学工業(株)製)13.7g、硬化促進剤として2,4,6−トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(和光純薬工業(株)製)10mgを混合し、エポキシ樹脂組成物(6)を得た。
続いて、SUSにエポキシ樹脂組成物(6)を塗布し、室温×1時間乾燥させた後、オーブン中で60℃×1時間加熱することにより、エポキシ樹脂組成物(6)の硬化物からなる微生物付着防止膜(厚み:10μm)付きSUSを得た。該微生物付着防止膜付きSUSを試験片として、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0052】
〔比較例1〕
試験片として、微生物付着防止膜付きSUSの代わりに、未処理のSUSを使用した以外は、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0053】
〔比較例2〕
新規エポキシ樹脂(A−1)を含有する生成物の代わりに、エポトートYD−128(新日鐵化学(株)製)を同量使用した以外は実施例1と同様にして試験片を製造し、該試験片について実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0054】
〔比較例3〕
試験片として、微生物付着防止膜付きSUSの代わりに、約20mm角のPVDFフィルム(ポリフッ化ビニリデンフィルム、クレハ(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様の評価を行った。結果を図1に示す。
【0055】
図1のグラフから明らかなように、実施例の試験片は、比較例の試験片に比べて微生物量(蛍光強度)が極めて少なく、微生物付着防止材料として好適に使用できることが示された。
図1