(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を除去するステップが、ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物を蒸留することを含む、請求項1から3までのいずれか1項に記載の方法。
中和ステップ(c)が、ステップ(b)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の供給源と接触させることを含む、請求項1から4までのいずれか1項に記載の方法。
中和ステップ(c)が、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を中和及び過塩基化して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩をもたらすことを含む、請求項1から5までのいずれか1項に記載の方法。
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩が、合算質量%により1から1.9%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、請求項1から6までのいずれか1項に記載の方法。
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩が、合算質量%により0.2から0.5%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩の少なくとも1つが、潤滑油組成物の合計重量に基づいて0.01wt%から40wt%までの量で存在するように、この硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩の少なくとも1つと、過半量の潤滑粘度のオイルとを合わせることを含む、請求項9に記載の方法。
上記潤滑油組成物に、抗酸化剤、摩耗防止剤、洗浄剤、錆止め剤、曇り除去剤、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤及びこれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に合わせることを含む、請求項9又は10に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
好ましい実施形態の詳細な説明
本発明を更に詳細に論述する前に、下記の用語を規定する。
【0017】
本明細書で使用されるとき、下記の用語は、特に逆の記載がない限り下記の意味を有する。
【0018】
本明細書で使用される「TPP」という用語は、テトラプロペニルフェノール及びその塩を指す。
【0019】
本明細書で使用される「石灰」という用語は、消石灰又は水和石灰としても知られている水酸化カルシウムを指す。
【0020】
本明細書で使用される「全塩基価」又は「TBN」という用語は、試料1グラム中のKOHのミリグラムに等価な塩基の量を指す。したがって、より高いTBN値はよりアルカリ性の生成物を反映しており、したがって、より大きな予備アルカリ度を反映する。試料のTBNは、ASTM試験番号D2896又は他の任意の均等な手法により決定することができる。
【0021】
「アルカリ土類金属」という用語は、カルシウム、バリウム、マグネシウム及びストロンチウムを指す。
【0022】
「アルカリ金属」という用語は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム及びセシウムを指す。
【0023】
本発明は、比較的低レベル、すなわち合算質量により約2%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を対象としている。硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、(a)プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC
9〜C
18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来するアルキルヒドロキシ芳香族化合物を硫化して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物をもたらすステップ、(b)ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物からあらゆる未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を除去して、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を実質的に含んでいない硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物をもたらすステップ、及び、(c)ステップ(b)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和して、合算質量により約2%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をもたらすステップにより得られる。
【0025】
ステップ(a)において、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC
9〜C
18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来するアルキルヒドロキシ芳香族化合物が硫化されて、硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物をもたらす。
【0026】
本発明において用いられるアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、当分野において周知の方法により調製される。アルキル化され得る有用なヒドロキシ芳香族化合物としては、1個から4個までの、好ましくは1個から3個までのヒドロキシル基を有する、単核性モノヒドロキシ芳香族炭化水素及びポリヒドロキシ芳香族炭化水素が挙げられる。適切なヒドロキシ芳香族化合物としては、フェノール、カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール、クレゾール、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。一実施形態において、ヒドロキシ芳香族化合物はフェノールである。
【0027】
ヒドロキシ芳香族化合物をアルキル化するために用いられるアルキル化剤としては、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC
9〜C
18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンが挙げられる。一般に、1つ又は複数のオレフィンは、プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC
9〜C
18オリゴマーを過半量で含有する。このようなオレフィンの例としては、プロピレンテトラマー、ブチレントリマー及び同類物が挙げられる。当業者ならば容易に理解するように、他のオレフィンが存在していてもよい。例えば、C
9〜C
18プロピレンオリゴマーに加えて使用され得る他のオレフィンとしては、線形オレフィン、環状オレフィン、ブチレンオリゴマー又はイソブチレンオリゴマー等のプロピレンオリゴマー以外の分岐状オレフィン、アリールアルキレン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。適切な線形オレフィンとしては、1−ヘキセン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。特に適切な線形オレフィンは、C
16〜C
30ノルマルα−オレフィン等の高分子量ノルマルα−オレフィンであり、エチレンオリゴマー化又はワックスクラッキング等の方法から得ることができる。適切な環状オレフィンとしては、シクロヘキセン、シクロペンテン、シクロオクテン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。適切な分岐状オレフィンとしては、ブチレンダイマー若しくはトリマー又はより高分子量のイソブチレンオリゴマー、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。適切なアリールアルキレンとしては、スチレン、メチルスチレン、3−フェニルプロペン、2−フェニル−2−ブテン並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0028】
プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC
9〜C
18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化は、一般に、アルキル化触媒の存在下で実施される。有用なアルキル化触媒としては、ルイス酸触媒、固体状酸触媒、トリフルオロメタンスルホン酸及び酸性分子ふるい触媒が挙げられる。適切なルイス酸触媒としては、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、三ヨウ化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素、及び同類物が挙げられる。
【0029】
適切な固体状酸性触媒としては、ゼオライト、酸性白土、及び/又は シリカ−アルミナが挙げられる。触媒は分子ふるい(モレキュラーシーブ)であってよい。適格な分子ふるいは、シリカ−アルミノホスフェート分子ふるい又は金属シリカ−アルミノホスフェート分子ふるいであり、ここで、金属は例えば鉄、コバルト又はニッケルであってよい。一実施形態において、固体触媒は、その酸形態におけるカチオン交換樹脂、例えば架橋スルホン酸触媒である。スルホン化された適切な酸性イオン交換樹脂型触媒としては、Rohm and Hass(Philadelphia、Pa.)から調達できるAmberlyst 36(登録商標)が挙げられる。酸触媒は、バッチ法又は連続法に使用された場合、リサイクル又は再生することができる。
【0030】
アルキル化用の反応条件は使用される触媒のタイプに依存しており、アルキルヒドロキシ芳香族生成物への高い転換をもたらす任意の適切な一組の反応条件が用いられ得る。典型的には、アルキル化反応用の反応温度は、約25℃から約200℃までの、好ましくは約85℃から約135℃までの範囲である。反応圧力は一般に大気圧であるが、より高い又はより低い圧力を用いてもよい。アルキル化法は、バッチ式、連続式又は半連続式で実施することができる。ヒドロキシ芳香族化合物と1つ又は複数のオレフィンとのモル比は通常、約10:1から約0.5:1までの範囲であり、好ましくは約5:1から約3:1までの範囲である。
【0031】
アルキル化反応は、溶媒なしで実施してもよいし、又はヒドロキシ芳香族化合物とオレフィン混合物の反応に不活性な溶媒の存在下で実施してもよい。用いられる場合、典型的な溶媒はヘキサンである。
【0032】
反応の完了時、所望のアルキルヒドロキシ芳香族化合物は、従来の技術を用いて単離することができる。典型的には、過剰なヒドロキシ芳香族化合物は、反応生成物から蒸留される。
【0033】
アルキルヒドロキシ芳香族化合物のアルキル基は、典型的には、主にオルト位及びパラ位においてヒドロキシ芳香族化合物に結合している。
【0034】
アルキルヒドロキシ芳香族化合物は、アルキルヒドロキシ芳香族化合物と、塩基の存在下でアルキルヒドロキシ芳香族化合物間にS
x架橋基(式中、xは1から7までである)を導入する硫黄源とを接触させることにより硫化される。任意の適切な硫黄源を使用することができ、例えば、硫黄元素又はそのハロゲン化物、例としては一塩化硫黄又は二塩化硫黄、硫化水素、二酸化硫黄及び硫化ナトリウム水和物等が使用され得る。硫黄は、溶融した硫黄として用いてもよいし、又は固体(例えば、粉末若しくは粒子)として用いてもよいし、又は相溶性の炭化水素液体中の固体懸濁液として用いてもよい。
【0035】
塩基は反応を触媒して、アルキルヒドロキシ芳香族化合物に硫黄を取り付ける。適切な塩基としては、限定されはしないが、NaOH、KOH、Ca(OH)
2並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0036】
塩基は、一般に、反応系中のアルキルヒドロキシ芳香族化合物に対して約0.01モルパーセントから約1モルパーセントまでで用いられる。一実施形態において、塩基は、反応系中のアルキルヒドロキシ芳香族化合物に対して約0.01モルパーセントから約0.1モルパーセントまでで用いられる。塩基は、反応混合物に固体又は液体として加えることができる。好ましい一実施形態において、塩基は水溶液として加えられる。
【0037】
硫黄は、一般に、反応系中のアルキルヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約0.5モルから約4モルまでで用いられる。一実施形態において、硫黄は、アルキルヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約0.8モルから2モルまでで用いられる。一実施形態において、硫黄は、アルキルヒドロキシ芳香族化合物1モル当たり約1モルから1.5モルまでで用いられる。
【0038】
硫化反応が実施される温度範囲は、一般に、約150℃から約200℃までである。一実施形態において、温度範囲は、約160℃から約180℃までである。反応は、周囲圧力下で(又は若干より低くして)実施してもよいし、又は高圧において実施してもよい。硫化中、顕著な量の副生成物硫化水素ガスが発生する。一実施形態において、反応は、H
2S除去を容易化するために真空下で実施される。反応中に展開される正確な圧力は、システムの設計及び動作、反応温度、並びに、反応物質及び生成物の蒸気圧等の因子に依存しており、反応の途中で変化し得る。一実施形態において、方法の圧力は、大気圧から約20mmHgまでである。
【0039】
未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の除去
【0040】
硫化反応の完了時、硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物は、典型的には、ある程度の量の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を含有する。典型的には、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の量は、約10%から約40%までの範囲である。したがって、本発明の方法のステップ(b)は、ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物からあらゆる未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を除去して、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を実質的に含んでいない硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物をもたらすことに関与する。本明細書で使用される「実質的に含んでいない」という用語は、硫化ステップにおいて使用され、ステップ(b)後に例えば約2wt%未満、好ましくは約1wt%未満、より好ましくは約0.4wt%未満残留する、あったとしても比較的低レベルの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の出発反応物質を意味する。一実施形態において、「実質的に含んでいない」という用語は、約0.1wt%から約2wt%未満までの範囲である。別の実施形態において、「実質的に含んでいない」という用語は、約0.1wt%から約1wt%までの範囲である。別の実施形態において、「実質的に含んでいない」という用語は、約0.2wt%から約0.4wt%までの範囲である。
【0041】
一実施形態において、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物は、ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物から蒸留により除去することができる。しかしながら、硫化アルキヒドロキシ芳香族反応生成物は熱的に不安定であり、出発用アルキルヒドロキシ芳香族の濃度の増大につながる、より長鎖のオリゴマーを形成するように再構成する傾向がある。そうした再構成は、硫化フェノールに関する文献において、例えば、Nealeら、Tetrahedron、第25巻、4583〜4591頁(1969年)により説明されている。一実施形態において、蒸留ステップは、例えば硫化アルキヒドロキシ芳香族化合物の粘度、例えば100℃で測定して約100cstから約400cstまでの粘度等の因子を考慮に入れて、連続落下式フィルム蒸留又はワイプ式フィルム蒸発(wiped film evaporation)により実施される。
【0042】
任意選択により、次いで希釈油又は潤滑ベースオイル等の不活性液体媒体を反応混合物に加えて、反応混合物の粘度を低下し且つ/又は生成物を分散させてもよい。適切な希釈油は当分野において公知であり、例えば、FUELS AND LUBRICANTS HANDBOOK(George E.Totten編、(2003年))の199頁において、「base fluids...of mineral origin, synthetic chemical origin or biological origin」と規定されている。
【0043】
蒸留ステップは、典型的には、約1mbarの圧力下、約180℃から約250℃までの範囲の温度で実施される。
【0045】
次いで、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を実質的に含んでいない硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をもたらす。硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中和は、当業者に公知な任意の方法によって連続法又はバッチ法で実施することができる。硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和するため、及び塩基の供給源の組み込みにより塩基性フェネートを生成するための、数多くの方法が当分野において公知である。一般に、中和は、反応性条件下、好ましくは不活性で相溶性な液体状炭化水素希釈剤中で硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物と金属塩基とを接触させて、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をもたらすことにより実施することができる。所望ならば、反応は不活性ガス下、典型的には窒素下で実施してもよい。金属塩基は、反応中の中間点において、単回の添加又は複数回の添加により加えることができる。
【0046】
適切な金属塩基性化合物としては、(1)アルカリ水酸化物、アルカリ酸化物若しくはアルカリアルコキシドから選択される金属塩基に由来するアルカリ金属塩、又は(2)アルカリ土類水酸化物、アルカリ土類酸化物若しくはアルカリ土類アルコキシドから選択される金属塩基に由来するアルカリ土類金属塩等の、金属の水酸化物、酸化物又はアルコキシドが挙げられる。ヒドロキシド官能性を有する金属塩基性化合物の代表例としては、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化バリウム及び水酸化アルミニウムが挙げられる。オキシド官能性を有する金属塩基性化合物の代表例としては、酸化リチウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム及び酸化バリウムが挙げられる。一実施形態において、アルカリ土類金属塩基は、その取扱いの好都合さ及び例えば酸化カルシウムに対比してのコストのため、消石灰(水酸化カルシウム)である。
【0047】
中和は、典型的には、トルエン、キシレン等の適切な溶媒又は希釈油中で、アルコール、例えばメタノール、デシルアルコール若しくは2−エチルヘキサノール等のC
1〜C
16アルコール、例えばエチレングリコール等のジオールC
2〜C
4アルキレングリコール、及び/又はカルボン酸等の促進剤を一般的に用いて実施される。適切な希釈油として、ナフテン系オイル及び混合油、例えば100中性油等のパラフィン系オイルが挙げられる。使用される溶媒又は希釈油の量は、最終的生成物中での溶媒又はオイルの量が最終的生成物の約25重量%から約65重量%まで、好ましくは約30%から約50%までを占めるようになっている。例えば、アルカリ土類金属の供給源をスラリーとして(すなわち、アルカリ土類金属石灰、溶媒又は希釈油の供給源の予備混合物として)過剰に加え、次いで硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物と反応させる。
【0048】
金属塩基と硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の間での中和反応は、典型的に、室温(20℃)より高い温度で実施される。一般に、中和は、約20℃から約150℃の間の温度で実施することができる。しかしながら、低温で中和を実施することが好ましい。一実施形態において、中和は、約25℃から約30℃の間の温度で実施することができる。中和反応自体は、約5分から約60分までのある期間行うべきである。所望ならば、中和反応は、エチレングリコール、ギ酸、酢酸並びにこれらの同類物及び混合物等の促進剤の存在下で実施される。
【0050】
過塩基化は、中和ステップの間又は後のいずれかで当業者に公知な任意の方法により実施して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩を生成することができる。一般に、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物又は得られた硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、例えば二酸化炭素又はホウ酸等の酸性で過塩基性の化合物との反応により過塩基化される。一実施形態において、過塩基化法は、炭酸化、すなわち二酸化炭素との反応に依拠する。このような炭酸化は、芳香族溶媒、アルコール又はポリオール等の溶媒、典型的にはアルキレンジオール、例えばエチレングリコールの添加によって好都合に影響され得る。好都合なことに、反応は、反応混合物の中を通して気体状二酸化炭素をバブリングするという簡単な便法により実施される。過剰な溶媒及び過塩基化反応中に形成されたあらゆる水は、反応の間又は後のいずれかで蒸留により好都合に除去することができる。
【0051】
本発明の一実施形態において、過塩基化反応は、二酸化炭素の存在下且つ芳香族溶媒(例えば、キシレン)及びメタノール等のヒドロカルビルアルコールの存在下、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物又は硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩と、石灰(すなわち、アルカリ土類金属水酸化物)等のアルカリ土類金属の供給源とを反応させることにより反応器中で実施される。好都合なことに、反応は、反応混合物の中を通して気体状二酸化炭素をバブリングするという簡単な便法により実施される。二酸化炭素は、約30℃から約60℃までの範囲の温度において、約1時間から約3時間までのある期間にわたって導入される。過塩基化の度合いは、反応混合物に加えられるアルカリ土類金属、二酸化炭素及び反応物質の供給源の量、並びに炭酸化法中に用いられる反応条件により制御することができる。
【0052】
本発明の別の実施形態において、過塩基化反応は、ポリオール、典型的には、エチレングリコール等のアルキレンジオール、及び/又はデシルアルコール、2−エチルヘキサノール等のC
6〜C
16アルカノールといったアルカノールの存在下、140℃から180℃の間で実施することができる。過剰な溶媒及び過塩基化反応中に形成されたあらゆる水は、反応の間又は後のいずれかで蒸留により好都合に除去することができる。
【0053】
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩は、約50から約500までのTBNを有し得る。
【0054】
得られた硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩
【0055】
得られた硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩は、合算質量により、約2%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。一実施形態において、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩は、合算質量により約1%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。一実施形態において、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩は、合算質量により約0.5%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。一実施形態において、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩は、合算質量により約1%から約1.9%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。一実施形態において、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の中性又は過塩基性塩は、合算質量により約0.2%から約0.5%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する。
【0056】
一実施形態において、得られた硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩中での未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩の濃度は、過塩基化ステップに依存する。未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩の量の増大は、非常に低レベル、例えば合算質量により約0.3%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族を有する硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物から出発した場合、過塩基化ステップ中に観察され得る。低い反応温度を用いた過塩基化法は、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族及びその未硫化金属塩の形成を制限する。したがって、合算質量により約0.5%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族及びその金属塩を含有する硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩が、その結果として得られた。
【0058】
本発明の別の実施形態は、少なくとも、(a)過半量の潤滑粘度のオイル、及び(b)潤滑油添加剤として有用な本発明の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩の少なくとも1つを含有する潤滑油組成物を対象としている。潤滑油組成物は、適量の本発明の潤滑油添加剤を潤滑粘度のベースオイルと従来の技術により混合することにより調製できる。特定のベースオイルの選択は、潤滑剤の所期の用途と他の添加剤の存在とに依存する。一般に、本発明の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、潤滑油組成物の合計重量に基づいて約0.01wt%から約40wt%までのおおよその量で、潤滑油組成物中に存在する。一実施形態において、本発明の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩は、潤滑油組成物の合計重量に基づいて約0.1wt%から約20wt%までの量で、潤滑油組成物中に存在する。
【0059】
本発明の潤滑油組成物中への使用のための潤滑粘度のオイルは、ベースオイルとも呼ばれ、典型的には過半量で存在し、例えば、組成物の合計重量に基づいて50wt%超の、好ましくは約70wt%超の、より好ましくは約80wt%から約99.5wt%までの、最も好ましくは約85wt%から約98wt%までの量で存在する。本明細書で使用される「ベースオイル」(“base oil”:基油)という表現は、(供給源又は製造者の所在地に関わらず)同じ仕様になるよう単一の製造者により生成される潤滑剤成分であり、同じ製造者の仕様を満たしており、ただ一つの処方、製品識別番号又はこれらの両方により識別される、ベースストック又はベースストックのブレンドを意味すると理解すべきである。本発明における使用のためのベースオイルは、このような用途のいずれかのため及びすべてのために潤滑油組成物を配合するのに使用される潤滑粘度の、現在知られている又は後に発見されるあらゆるオイルであってよく、例えばエンジンオイル、船舶用シリンダーオイル、作動油、ギアオイル、トランスミッション流体等といった機能性流体であってよい。更に、本発明における使用のためのベースオイルは、任意選択により、粘度指数向上剤、例えばアルキルメタクリレートのポリマー、オレフィンコポリマー、例えばエチレン−プロピレンコポリマー又はスチレン−ブタジエンコポリマー、並びにこれらの同類物及び混合物を含有し得る。
【0060】
当業者ならば容易に理解するように、ベースオイルの粘度は用途に依存する。したがって、本発明における使用のためのベースオイルの粘度は通常、摂氏100度(℃)において約2センチストーク(cSt)から約2000センチストークまでの範囲である。一般に、エンジンオイルとして使用されるベースオイルは個別に、100℃において約2cStから約30cStまでの、好ましくは約3cStから約16cStまでの、最も好ましくは約4cStから約12cStまでの動粘度範囲を有し、所望の最終的な使用と仕上げ済みオイル中の添加剤とに依存して選択又はブレンドされて、所望のグレードのエンジンオイル、例えば0W、0W−20、0W−30、0W−40、0W−50、0W−60、5W、5W−20、5W−30、5W−40、5W−50、5W−60、10W、10W−20、10W−30、10W−40、10W−50、15W、15W−20、15W−30又は15W−40のSAE粘度グレードを有する潤滑油組成物を与える。ギアオイルとして使用されるオイルは、100℃において約2cStから約2000cStまでの範囲の粘度を有し得る。
【0061】
ベースストック(base stocks)は、種々の相異なる方法を用いて製造することができ、限定されるものではないが、蒸留、溶媒精製、水素処理、オリゴマー化、エステル化及び再精製が挙げられる。再精製されたストックは、製造、汚染(コンタミネーション)又は以前の使用を介して導入される材料を実質的に含んでいないものとする。本発明の潤滑油組成物のベースオイルは、任意の天然又は合成の潤滑性ベースオイルであってよい。適切な炭化水素合成油としては、限定されはしないが、ポリαオレフィン又はPAOオイル等のポリマーをもたらすことになるエチレンの重合又は1−オレフィンの重合から調製された、又はフィッシャートロプシュ法におけるような一酸化炭素及び水素ガスを用いた炭化水素合成手法から調製されたオイルが挙げられる。例えば、適切なベースオイルは、あったとしてもわずかな重質留分、例えば、あったとしても100℃において20cSt以上の粘度のわずかな潤滑油留分しか含まないベースオイルである。
【0062】
ベースオイルは、天然潤滑油、合成潤滑油又はこれらの混合物に由来し得る。適切なベースオイルとしては、合成ワックス及びスラックワックスの異性化により得られたベースストック、並びに、粗製物の芳香族極性成分を(溶媒抽出ではなく)水素化分解することにより生成された水素化分解ベースストックが挙げられる。適切なベースオイルとして、API公報1509、第14版、Addendum I、1998年12月において規定されたすべてのAPIカテゴリーI、II、III、IV及びV内のベースオイルが挙げられる。グループIVベースオイルは、ポリαオレフィン(PAO)である。グループVベースオイルには、グループI、II、III又はIV内に含まれない、他のすべてのベースオイルを含める。グループII、III及びIVベースオイルが本発明における使用のために好ましいが、これらのベースオイルは、グループI、II、III、IV及びVベースストック又はベースオイルの1つ又は複数を組み合わせることにより調製してもよい。
【0063】
有用な天然油としては、例えば、液体状石油系オイル、溶媒処理された又は酸処理されたパラフィン系、ナフテン系又はパラフィン−ナフテン混合系の鉱物性潤滑油、石炭又は頁岩に由来するオイル、動物油、植物油(例えば、菜種油、ヒマシ油及びラード油)及び同類物等の鉱物性潤滑油が挙げられる。
【0064】
有用な合成潤滑油には、限定されはしないが、例えばポリブチレン、ポリプロピレン、プロピレン−イソブチレンコポリマー、塩素化ポリブチレン、ポリ(1−ヘキセン)、ポリ(1−オクテン)、ポリ(1−デセン)並びにこれらの同類物及び混合物といった、重合されたオレフィン及びインターポリマー化されたオレフィン等の炭化水素油及びハロ置換炭化水素油、ドデシルベンゼン、テトラデシルベンゼン、ジノニルベンゼン、ジ(2−エチルヘキシル)−ベンゼン及び同類物等のアルキルベンゼン、ビフェニル、ターフェニル、アルキル化ポリフェニル及び同類物等のポリフェニル、アルキル化ジフェニルエーテル及びアルキル化ジフェニルスルフィド、並びにこれらの誘導体、類縁体及び同族体及び同類物が挙げられる。
【0065】
他の有用な合成潤滑油には、限定されはしないが、エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブテン、ペンテン及びこれらの混合物等の5個未満の炭素原子のオレフィンを重合することにより作製されたオイルが挙げられる。このようなポリマーオイルを調製する方法は、当業者に周知である。
【0066】
更なる有用な合成炭化水素油には、適当な粘度を有するαオレフィンの液体ポリマーが挙げられる。特に有用な合成炭化水素油は、例えば1−デセントリマー等のC
6〜C
12αオレフィンの水素化液体オリゴマーである。
【0067】
別の種類の有用な合成潤滑油には、限定されはしないが、末端ヒドロキシル基が例えばエステル化又はエーテル化により改質されたアルキレンオキシドポリマー、すなわちホモポリマー、インターポリマー及びこれらの誘導体が挙げられる。これらのオイルは、エチレンオキシド又はプロピレンオキシド、これらのポリオキシアルキレンポリマーのアルキルエーテル及びフェニルエーテル(例えば、1,000の平均分子量を有するメチルポリプロピレングリコールエーテル、500〜1000の分子量を有するポリエチレングリコールのジフェニルエーテル、1,000〜1,500の分子量を有するポリプロピレングリコールのジエチルエーテル等)、又は、例えば酢酸エステル、混合されたC
3〜C
8脂肪酸エステル若しくはテトラエチレングリコールのC
13オキソ酸ジエステル等のこれらのモノ−及びポリカルボン酸エステルの重合を介して調製されたオイルによって例示される。
【0068】
更に別の種類の有用な合成潤滑油には、限定されはしないが、例えばフタル酸、コハク酸、アルキルコハク酸、アルケニルコハク酸、マレイン酸、アゼライン酸、スベリン酸、セバシン酸、フマル酸、アジピン酸、リノール酸ダイマー、マロン酸、アルキルマロン酸、アルケニルマロン酸等といったジカルボン酸と、例えばブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ドデシルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエーテル、プロピレングリコール等といった種々のアルコールとのエステルが挙げられる。これらのエステルの具体例には、ジブチルアジペート、ジ(2−エチルヘキシル)セバケート、ジ−n−ヘキシルフマレート、ジオクチルセバケート、ジイソオクチルアゼレート、ジイソデシルアゼレート、ジオクチルフタレート、ジデシルフタレート、ジエイコシルセバケート、リノール酸ダイマーの2−エチルヘキシルジエステル、1モルのセバシン酸と2モルのテトラエチレングリコール及び2モルの2−エチルヘキサン酸とを反応させることにより形成された複合エステル、並びに同類物が挙げられる。
【0069】
合成油として有用なエステルにはまた、限定されはしないが、約5個から約12個までの炭素原子を有するカルボン酸と、アルコール、例えば、メタノール、エタノール等、ポリオール及びポリオールエーテル、例としてはネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトール、ジペンタエリトリトール、トリペンタエリトリトール、並びに同類物とから作製されるエステルも挙げられる。
【0070】
例えばポリアルキル−、ポリアリール−、ポリアルコキシ−又はポリアリールオキシ−シロキサンオイル及びシリケートオイル等のケイ素ベース型オイルは、別の有用な種類の合成潤滑油を含む。これらの具体例には、限定されはしないが、テトラエチルシリケート、テトラ−イソプロピルシリケート、テトラ−(2−エチルヘキシル)シリケート、テトラ−(4−メチル−ヘキシル)シリケート、テトラ−(p−tert−ブチルフェニル)シリケート、ヘキシル−(4−メチル−2−ペントキシ)ジシロキサン、ポリ(メチル)シロキサン、ポリ(メチルフェニル)シロキサン及び同類物が挙げられる。更なる他の有用な合成潤滑油には、限定されはしないが、リン含有酸の液体エステル、例えば、トリクレシルホスフェート、トリオクチルホスフェート、デカンホスフィオン酸のジエチルエステル等、ポリマー状テトラヒドロフラン及び同類物が挙げられる。
【0071】
潤滑油は、未精製油、精製油及び再精製油に由来してよく、天然、合成、又は、ここまでに開示されたタイプの潤滑油のどれかの2つ以上の混合物であってよい。未精製油は、更なる純化又は処理無しで天然又は合成の供給源(例えば、石炭、頁岩又はタールサンドビチューメン)から直接得られたものである。未精製油の例には、限定されはしないが、乾留操作から直接得られたシェールオイル、蒸留から直接得られた石油系油、又はエステル化法から直接得られたエステル油が挙げられ、これらのそれぞれはその後、更なる処理無しで用いられる。精製油は、1つ又は複数の特性を改善するために1つ又は複数の純化ステップにより更に処理されている点を除けば、未精製油と同様である。これらの純化技法は当業者には公知であり、例えば、溶媒抽出、二次蒸留、酸又は塩基抽出、濾過、パーコレーション、水素化精製、脱蝋等が挙げられる。再精製油は、精製油を得るために用いられる方法と同様の方法による使用済みオイルの処理により得られる。このような再精製油は、再生油又は再処理油としても公知であり、しばしば、消費済み添加剤及び油分解生成物の除去を対象とした技法により更に処理される。
【0072】
ワックスの水素化異性化に由来する潤滑油ベースストックはまた、単独で使用してもよいし、又は前述した天然及び/又は合成ベースストックと組み合わせて使用してもよい。このようなワックス異性化油は、水素化異性化触媒を用いた天然若しくは合成のワックス又はこれらの混合物の水素化異性化により生成される。
【0073】
天然ワックスは、典型的には、鉱物油の溶媒脱蝋により回収されたスラックワックスであり、合成ワックスは、典型的には、フィッシャートロプシュ法により生成されたワックスである。
【0074】
本発明の潤滑油組成物はまた、補助的機能を付与するための他の従来の添加剤を含有することで、これらの添加剤が分散又は溶解された仕上げ済み潤滑油組成物を与えることもできる。例えば、潤滑油組成物は、抗酸化剤、摩耗防止剤、金属洗浄剤等の洗浄剤、錆止め剤、曇り除去剤(dehazing agent)、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤(package compatibiliser)、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤、並びにこれらの同類物及び混合物とブレンドすることができる。種々の添加剤が公知であり、市販されている。これらの添加剤又はそれらの類似化合物は、通常のブレンド手法による本発明の潤滑油組成物の調製のために用いることができる。
【0075】
抗酸化剤の例には、限定されはしないが、アミン系のもの、例えば、ジフェニルアミン、フェニル−α−ナフチル−アミン、N,N−ジ(アルキルフェニル)アミン及びアルキル化フェニレン−ジアミン:例えばBHT、立体障害型アルキルフェノール、例としては2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール及び2,6−ジ−tert−ブチル−4−(2−オクチル−3−プロパン酸)フェノール等のフェノール類、並びにこれらの混合物が挙げられる。
【0076】
本発明の潤滑油組成物中に用いられる無灰分散剤化合物は一般に、使用中の酸化から生じた不溶性物質を懸濁液中に維持し、その結果として金属部品におけるスラッジのフロキュレーション(flocculation)及び沈殿又は析出を阻止するために使用される。分散剤はまた、潤滑剤中の大型の汚染物質粒子の増殖を阻止することによる潤滑油粘度の変化を抑制するようにも機能し得る。本発明において用いられる分散剤は、潤滑剤中に使用するための任意の適切な無灰分散剤、又は複数の無灰分散剤の混合物であってよい。無灰分散剤は一般に、分散させようとする粒子と会合することができる官能基を有する、油溶性のポリマー状炭化水素骨格を含む。
【0077】
一実施形態では、無灰分散剤は、1つ又は複数の塩基性窒素含有無灰分散剤である。窒素含有塩基性無灰(金属無含有)分散剤は、硫酸化された追加の灰分を導入しなくとも、それらを加えられた潤滑油組成物の塩基価又はBN(ASTM D2896により測定できる)に寄与する。本発明に有用な塩基性窒素含有無灰分散剤には、ヒドロカルビルスクシンイミド、ヒドロカルビルスクシンアミド、ヒドロカルビル置換コハク酸系アシル化剤を段階的に反応させること又はアルコールとアミンとの混合物及び/若しくはアミノアルコールと反応させることによりにより形成されたヒドロカルビル置換コハク酸の混合エステル/アミド、ヒドロカルビル置換フェノール、ホルムアルデヒド及びポリアミンのマンニッヒ縮合生成物、及び、高分子量脂肪族ハロゲン化物又は脂環式ハロゲン化物とポリアルキレンポリアミン等のアミンとを反応させることにより形成されたアミン分散剤が挙げられる。このような分散剤の混合物もまた使用され得る。
【0078】
無灰分散剤の代表例には、限定されはしないが、アミン、アルコール、アミド、又は架橋基を介してポリマー骨格に結合したエステル極性部分が挙げられる。本発明の無灰分散剤は、例えば、長鎖炭化水素置換モノカルボン酸及びジカルボン酸又はそれらの無水物の油溶性塩、エステル、アミノ−エステル、アミド、イミド及びオキサゾリン、ポリアミンが直接結合している長鎖炭化水素、長鎖脂肪族炭化水素のチオカルボキシレート誘導体、並びに、長鎖置換フェノールとホルムアルデヒド及びポリアルキレンポリアミンとを縮合することにより形成されたマンニッヒ縮合生成物から選択され得る。
【0079】
カルボン酸系分散剤は、少なくとも約34個、好ましくは少なくとも約54個の炭素原子を含むカルボン酸系アシル化剤(酸、無水物、エステル等)と、窒素含有化合物(アミン等)、有機ヒドロキシ化合物(一価アルコール及び多価アルコールを含む脂肪族化合物、又はフェノール及びナフトールを含む芳香族化合物等)、及び/又は塩基性無機材料との反応生成物である。これらの反応生成物は、イミド、アミド及びエステルを含む。
【0080】
スクシンイミド分散剤は、カルボン酸系分散剤の一種である。スクシンイミド分散剤は、ヒドロカルビル置換コハク酸系アシル化剤を有機ヒドロキシ化合物と反応させること、又は窒素原子に結合した少なくとも1つの水素原子を含むアミンと反応させること、又はヒドロキシ化合物とアミンの混合物と反応させることにより生成される。「コハク酸系アシル化剤」という用語は、炭化水素置換コハク酸又はコハク酸生成化合物を指し、後者は酸自体を包摂する。このような材料は、典型的には、ヒドロカルビル置換コハク酸、無水物、エステル(半エステルを含む)及びハロゲン化物が挙げられる。
【0081】
コハク酸ベース型分散剤は、多種多様な化学構造を有する。コハク酸ベース型分散剤の一種は、下記式により表すことができ、
【化1】
式中、各R
1は独立にポリオレフィン由来基等のヒドロカルビル基である。典型的には、ヒドロカルビル基は、ポリイソブチル基等のアルキル基である。代替的に表すと、R
1基は、約40個から約500個までの炭素原子を含み得、これらの原子は、脂肪族形態中に存在し得る。R
2はアルキレン基であり、一般的にはエチレン(C
2H
4)基である。スクシンイミド分散剤の例には、例えば米国特許第3,172,892号、米国特許第4,234,435号及び米国特許第6,165,235号において説明されたスクシンイミド分散剤が挙げられる。
【0082】
置換基が由来するポリアルケンは、典型的には、2個から約16個までの炭素原子、通常2個から6個までの炭素原子の重合性オレフィンモノマーのホモポリマー及びインターポリマーである。コハク酸系アシル化剤と反応してカルボン酸系分散剤組成物を形成するアミンは、モノアミン又はポリアミンであり得る。
【0083】
スクシンイミド分散剤がこのように呼ばれているのは、主としてイミド官能性の形態の窒素を通常含むためであるが、アミド官能性は、アミン塩、アミド、イミダゾリン並びにこれらの混合物の形態であってもよい。スクシンイミド分散剤を調製するためには、1つ又は複数のコハク酸生成化合物及び1つ又は複数のアミンを加熱し、典型的には、任意選択により実質的に不活性な有機液体溶媒/希釈剤の存在下、水を除去する。反応温度は、約80℃から混合物又は生成物の分解温度に至るまでの範囲であり得、典型的には、約100℃から約300℃の間に収まる。本発明のスクシンイミド分散剤を調製するための手法に関する追加の詳細及び例には、例えば米国特許第3,172,892号、米国特許第3,219,666号、米国特許第3,272,746号、米国特許第4,234,435号、米国特許第6,165,235号及び米国特許第6,440,905号において説明されたものが挙げられる。
【0084】
適切な無灰分散剤には、比較的高分子量の脂肪族ハロゲン化物及びアミン、好ましくはポリアルキレンポリアミンの反応生成物である、アミン分散剤を挙げることもできる。このようなアミン分散剤の例には、例えば米国特許第3,275,554号、米国特許第3,438,757号、米国特許第3,454,555号及び米国特許第3,565,804号において説明されたものが挙げられる。
【0085】
適切な無灰分散剤には、アルキル基が少なくとも約30個の炭素原子を含むアルキルフェノールと、アルデヒド(特にホルムアルデヒド)及びアミン(特にポリアルキレンポリアミン)との反応生成物である、「マンニッヒ分散剤」を更に挙げることができる。このような分散剤の例には、例えば米国特許第3,036,003号、米国特許第3,586,629号、米国特許第3,591,598号及び米国特許第3,980,569号において説明されたものが挙げられる。
【0086】
適切な無灰分散剤はまた、後処理されたスクシンイミド等、後処理された無灰分散剤、例としては、例えば米国特許第4,612,132号及び米国特許第4,746,446号において開示されたホウ酸塩又はエチレン炭酸塩が関与する後処理方法及び同類の方法並びに他の後処理方法によるものであってもよい。炭酸塩で処理されたアルケニルスクシンイミドは、約450から約3000までの、好ましくは約900から約2500までの、より好ましくは約1300から約2400までの、最も好ましくは約2000から約2400までの分子量、並びにこれらの分子量の混合物を有するポリブテンに由来する、ポリブテンスクシンイミドである。好ましくは、炭酸塩で処理されたアルケニルスクシンイミドは、参照により本明細書に内容を援用する米国特許第5,716,912号において開示されたように、反応性条件下でポリブテンコハク酸誘導体、不飽和酸性試薬とオレフィンの不飽和酸性試薬コポリマー、及びポリアミンの混合物を反応させることにより調製される。
【0087】
適切な無灰分散剤はまた、ポリマー系であってもよく、デシルメタクリレート、ビニルデシルエーテル及び高分子量オレフィン等のオイル可溶化性モノマーと、極性置換基を含むモノマーとのインターポリマーである。ポリマー系分散剤の例には、例えば米国特許第3,329,658号、米国特許第3,449,250号及び米国特許第3,666,730号において説明されたものが挙げられる。
【0088】
本発明の好ましい一実施形態において、潤滑油組成物中への使用のための無灰分散剤は、約700から約2300までの数平均分子量を有するポリイソブテニル基に由来する、ビス−スクシンイミドである。本発明の潤滑油組成物中への使用のための分散剤(単数又は複数)は、好ましくは、非ポリマー系である(例えば、モノ−又はビス−スクシンイミドである)。
【0089】
金属洗浄剤の代表例には、スルホネート、アルキルフェネート、硫化アルキルフェネート、カルボキシレート、サリチレート、ホスホネート及びホスフィネートが挙げられる。市販品は、一般に、中性又は過塩基性であるとされている。過塩基性金属洗浄剤は一般に、炭化水素、例えばスルホン酸、アルキルフェノール、カルボキシレート等の洗浄剤酸、金属酸化物又は金属水酸化物(例えば酸化カルシウム又は水酸化カルシウム)、並びにキシレン、メタノール及び水等の促進剤の混合物を炭酸化することにより生成される。例えば、過塩基性スルホン酸カルシウムの調製に関しては、炭酸化中に、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムが気体状二酸化炭素と反応して、炭酸カルシウムを形成する。スルホン酸は、過剰なCaO又はCa(OH)
2で中和されて、スルホネートを形成する。
【0090】
金属を含有する洗浄剤又は灰分を形成する洗浄剤は、堆積物を低減又は除去する洗浄剤としても機能するし、酸中和剤又は錆止め剤としても機能し、それにより摩耗及び腐食を抑制してエンジン寿命を延ばす。洗浄剤は、一般に、長い疎水性尾部を有する極性頭部を含む。極性頭部は、酸性有機化合物の金属塩を含む。こうした塩は、実質的に化学量論量の金属を含み得、この場合は通常、正塩又は中性塩と説明され、典型的には、0から約80までの全塩基価又はTBN(ASTM D2896により測定できる)を有する。大量の金属塩基を、過剰な金属化合物(例えば、酸化物又は水酸化物)と酸性ガス(例えば、二酸化炭素)とを反応させることにより組み込んでもよい。得られた過塩基性洗浄剤は、金属塩基(例えば、カルボネート)ミセルの外層として、中和された洗浄剤を含む。このような過塩基性洗浄剤は、約150以上のTBNを有し得、典型的には、約250から約450以上までのTBNを有する。
【0091】
使用され得る洗浄剤には、金属、特にアルカリ金属又はアルカリ土類金属、例えばバリウム、ナトリウム、カリウム、リチウム、カルシウム及びマグネシウムの油溶性で中性及び過塩基性のスルホネート、フェネート、硫化フェネート、チオホスホネート、サリチレート及びナフテネート及び他の油溶性のカルボキシレートが挙げられる。最も一般的に使用される金属は、潤滑剤中に使用された洗浄剤中に両方とも存在し得るカルシウム及びマグネシウム、並びにカルシウム及び/又はマグネシウムとナトリウムとの混合物である。特に好都合な金属洗浄剤は、約20から約450までのTBNを有する中性及び過塩基性のスルホン酸カルシウム、約50から約450までのTBNを有する中性及び過塩基性のカルシウムフェネート及び硫化フェネート、並びに約20から約450までのTBNを有する中性及び過塩基性のサリチル酸マグネシウム又はサリチル酸カルシウムである。洗浄剤の組合せは、過塩基性又は中性又はこれらの両方かどうかに関わらず、使用することができる。
【0092】
過塩基性塩は、約50から約500までのTBNを有し得る。一実施形態において、過塩基性塩のTBNは、約100から約250までであり得る。一実施形態において、過塩基性塩のTBNは、約250から約450までであり得る。
【0093】
スルホネートは、典型的には石油の分画から得られたもの等のアルキル置換芳香族炭化水素のスルホン化により得られる、又は芳香族炭化水素のアルキル化により得られるスルホン酸から調製することができる。例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、ナフタレン、ジフェニル又はそれらのハロゲン誘導体をアルキル化することにより得られるものが挙げられる。アルキル化は、触媒の存在下、約3個から70個超までの炭素原子を有するアルキル化剤を用いて実施することができる。アルカリールスルホネートは通常、アルキル置換芳香族部分1個当たり約9個から約80個以上までの炭素原子、好ましくは約16個から約60個までの炭素原子を含む。
【0094】
油溶性のスルホネート又はアルカリールスルホン酸は、金属の酸化物、水酸化物、アルコキシド、カルボネート、カルボキシレート、硫化物、水硫化物、ニトレート、ボレート及びエーテルで中和することができる。金属化合物の量は、所望される最終的生成物のTBNを考慮しながら選択するが、典型的には、化学量論的に必要とされる量の約100wt%から約220wt%までの範囲である(好ましくは少なくとも約125wt%である)。
【0095】
フェノール及び硫化フェノールの金属塩は、酸化物又は水酸化物等の適切な金属化合物を用いた反応により調製され、中性又は過塩基性の生成物は、当分野において周知の方法により得ることができる。硫化フェノールは、フェノールを硫黄と反応させて又は硫化水素、硫黄モノハライド若しくは硫黄ジハライド等の硫黄含有化合物と反応させて、一般に2つ以上のフェノールが硫黄含有架橋により架橋された化合物の混合物である生成物を形成することによって調製してもよい。
【0096】
錆止め剤の例には、限定されはしないが、非イオン性ポリオキシアルキレン剤、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレン高級アルコールエーテル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビトールモノオレエート及びポリエチレングリコールモノオレエート、ステアリン酸及び他の脂肪酸、ジカルボン酸、金属石けん、脂肪酸アミン塩、重質スルホン酸の金属塩、多価アルコールの部分カルボン酸エステル、リン酸エステル、(短鎖)アルケニルコハク酸、これらの部分エステル及びこれらの窒素含有誘導体、合成アルカリールスルホネート、例えば金属ジノニルナフタレンスルホネート、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0097】
摩擦調整剤の例には、限定されはしないが、アルコキシル化脂肪アミン、ホウ酸化脂肪エポキシド、脂肪ホスファイト、脂肪エポキシド、脂肪アミン、ホウ酸化アルコキシル化脂肪アミン、脂肪酸の金属塩、脂肪酸アミド、グリセロールエステル、ホウ酸化グリセロールエステル、並びに参照により本明細書に内容を援用する米国特許第6,372,696号で開示された脂肪イミダゾリン、C
4〜C
75の、好ましくはC
6〜C
24の、最も好ましくはC
6〜C
20の脂肪酸エステルとアンモニア及びアルカノールアミンから成る群から選択される窒素含有化合物との反応生成物から得られた摩擦調整剤、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0098】
摩耗防止剤の例には、限定されはしないが、亜鉛ジアルキルジチオホスフェート及び亜鉛ジアリールジチオホスフェート、例えば、Lubrication Science 4−2 1992年1月の中に出てくるBornらによる「潤滑された相異なる機構におけるある種の金属ジアルキル−及びジアリール−ジチオホスフェートの化学構造と有効性との関係(Relationship between Chemical Structure and Effectiveness of Some Metallic Dialkyl− and Diaryl−dithiophosphates in Different Lubricated Mechanisms)」という題名の記事(例えば97〜100頁を参照されたい)内で説明されているもの、アリールホスフェート及びアリールホスファイト、硫黄含有エステル、ホスホ硫黄化合物(phosphosulfur compound)、金属又は灰分を含んでいないジチオカルバメート、キサンテート、アルキルスルフィド、並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0099】
消泡剤の例には、限定されはしないが、アルキルメタクリレートのポリマー、ジメチルシリコーンのポリマー並びにこれらの同類物及び混合物が挙げられる。
【0100】
流動点降下剤の例には、限定されはしないが、ポリメタクリレート、アルキルアクリレートポリマー、アルキルメタクリレートポリマー、ジ(テトラ−パラフィンフェノール)フタレート、テトラ−パラフィンフェノールの縮合体、塩素化パラフィンとナフタレンとの縮合体及びこれらの組合せが挙げられる。一実施形態において、流動点降下剤は、エチレン−ビニルアセテートコポリマー、塩素化パラフィンとフェノールとの縮合体、ポリアルキルスチレン並びに同類物及びこれらの組合せが挙げられる。流動点降下剤の量は、約0.01wt%から約10wt%まで変動し得る。
【0101】
解乳化剤の例には、限定されはしないが、アニオン性界面活性剤(例えば、アルキル−ナフタレンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート及び同類物)、非イオン性アルコキシル化アルキルフェノール樹脂、アルキレンオキシドのポリマー(例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、エチレンオキシドのブロックコポリマー、プロピレンオキシド及び同類物)、油溶性酸のエステル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、並びにこれらの同類物及び組合せが挙げられる。解乳化剤の量は、約0.01wt%から約10wt%まで変動し得る。
【0102】
腐食防止剤の例には、限定されはしないが、ドデシルコハク酸の半エステル又はアミド、 リン酸エステル、チオホスフェート、アルキルイミダゾリン、サルコシン並びにこれらの同類物及び組合せが挙げられる。腐食防止剤の量は、約0.01wt%から約0.5wt%まで変動し得る。
【0103】
極圧剤の例には、限定されはしないが、硫化された動物性又は植物性の脂肪又はオイル、硫化された動物性又は植物性の脂肪酸エステル、完全に又は部分的にエステル化されたリンの三価酸又は五価酸のエステル、硫化されたオレフィン、ジヒドロカルビルポリスルフィド、硫化されたディールスアルダー付加体、硫化されたジシクロペンタジエン、硫化された又は共硫化された脂肪酸エステルと一不飽和オレフィンとの混合物、共硫化された脂肪酸のブレンド、脂肪酸エステル及びα−オレフィン、官能基置換されたジヒドロカルビルポリスルフィド、チア−アルデヒド、チア−ケトン、エピチオ化合物、硫黄含有アセタール誘導体、共硫化されたテルペンと非環状オレフィンとのブレンド、及びポリスルフィドオレフィン生成物、リン酸エステル又はチオリン酸エステルのアミン塩、並びにこれらの同類物及び組合せが挙げられる。極圧剤の量は、約0.01wt%から約5wt%まで変動し得る。
【0104】
使用されるときの前述した添加剤のそれぞれは、所望の特性を潤滑剤に付与するために機能的に有効な量で使用される。したがって、例えば、添加剤が摩擦調整剤ならば、この摩擦調整剤の機能的に有効な量は、所望の摩擦調整特徴を潤滑剤に付与するのに十分な量であろう。一般に、使用されるときのこれらの添加剤のそれぞれの濃度は、潤滑油組成物の合計重量に基づいて約0.001重量%から約20重量%までの範囲であり、一実施形態においては、約0.01重量%から約10重量%までの範囲である。
【0105】
所望ならば、潤滑剤用添加剤は、例えば鉱物油、ナフサ、ベンゼン、トルエン又はキシレン等の実質的に不活性で通常液体状の有機希釈剤中に添加剤が組み込まれていて添加剤濃縮物を形成している、添加剤パッケージ又は濃縮物として提供することもできる。これらの濃縮物は通常、約20重量%から約80重量%までのこのような希釈剤を含有する。典型的には、100℃において約4cStから約8.5cStまでの、好ましくは100℃において約4cStから約6cStまでの粘度を有する中性油が希釈剤として使用されるが、合成油も、添加剤及び仕上げ済み潤滑油に相溶性な他の有機液体も、同様に使用することができる。添加剤パッケージは、典型的には、潤滑粘度の必要量のオイルと直接組み合わせるのを容易化するために所望される量及び比において、上記で言及した1つ又は複数の様々な添加剤を含有する。
【0106】
下記の非限定的な例は、本発明を例証するためのものである。
【0107】
本明細書において開示されており以下に例示する硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩、並びに硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を含有する潤滑剤及びオイル添加剤中における、遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩の濃度を、逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により決定する。HPLC法においては、80mgから120mgまでの試料を10mlメスフラスコ中に正確に量り取り、塩化メチレンによってレベルマークまで希釈し、試料が完全に溶解されるまで混合することにより、試料を分析用に調製した。
【0108】
HPLC法に使用したHPLCシステムは、HPLCポンプ、サーモスタット付きHPLCカラムコンパートメント、HPLC蛍光検出器及びPCベース型クロマトグラフィーデータ取得システムを備えていた。説明する特定のシステムは、ChemStationソフトウェア付きのAgilent 1200 HPLCに基づいている。HPLCカラムは、Phenomenex Luna C8(2)150×4.6mm 5μm 100Å、P/N 00F4249E0であった。
【0109】
下記のシステム設定が、分析を実施するのに用いられた。
【0112】
蛍光波長:225励起 313発光:ゲイン=9
【0115】
溶離方式:グラジエント(gradient)、逆相
【0116】
グラジエント:0〜7分 85/15メタノール/水から100%メタノールに切り替わっていく線形グラジエント。
【0118】
得られるクロマトグラフは、典型的には、幾つかのピークを含む。遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩によるピークは、典型的には、早い保持時間で一緒に溶離するが、アルキルヒドロキシ芳香族化合物の硫化塩によるピークは、典型的には、より長い保持時間で溶離する。定量化のために、遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩に関する単一の最大のピークの面積を測定した後、この面積を、合計での遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物種及びその未硫化金属塩種の濃度を決定するために使用した。仮定としては、アルキルヒドロキシ芳香族化合物のスペシエーション(speciation:化学種、化学種同定)は変化しないとするが、何かがアルキルヒドロキシ芳香族化合物のスペシエーションを変化させるのならば、再較正が必要である。
【0119】
選択したピークの面積を較正曲線と比較すると、遊離したアルキルフェノール及び遊離したアルキルフェノールの未硫化塩のwt%に達する。較正曲線は、フェネート生成物を作製するために用いられた遊離した未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物に関して得られたクロマトグラフ中の同じピークを用いて展開した。
【0120】
(例1)
ステップ1:テトラプロペニルフェノールの硫化。
【0121】
4リットル丸底フラスコ中に、室温において、1620gのテトラプロペニルフェノール(Chevron Oronite Company LLCから調達可能)を装入した。テトラプロペニルフェノールを、30分で110℃に加熱した。60℃において、14gの50wt%水酸化カリウム水溶液を撹拌しながら加えた。次に、192gの硫黄薄片を110℃において加え、圧力を680mmHgに低下させた。次いで反応温度を30分で180℃に上昇し、H
2S放出を容易化するために圧力を260mmHgにゆっくりと低下させた。形成されたH
2Sガスは、真空ポンプの前に配置された濃水酸化カリウム溶液中にトラップした。反応条件は、2時間及び45分間保持した。圧力を15分で50mmHgに更に低下させ、こうした条件下に更に3時間保持した。硫化アルキルフェノール反応生成物は、冷却させた。得られた硫化アルキルフェノールは、下記の分析結果を有していた:
【0124】
100℃における粘度=65.4mm
2/秒
【0125】
TPP(テトラプロペニルフェノール及びそのカルシウム塩)=26.5%
【0126】
ステップ2:ステップ1からの硫化アルキルフェノールの蒸留。
【0127】
ステップ1において得られた硫化アルキルフェノール反応生成物を約140℃に予備加熱した後、約400g/時間において、連続0.0385m
2ワイプフィルム蒸発器に供給した。蒸発器の温度を約210℃に維持し、圧力を約1.5mbarに維持した。平均的な蒸留された生成物は、下記の分析特性を有していた:
【0130】
100℃における粘度=402.8mm
2/秒
【0132】
(例2)
2−エチルヘキサノール及びエチレングリコールによる中和及び過塩基化。
【0133】
4リットルフラスコ中に、周囲温度において、例1のステップ2から得られた713.4グラムの硫化アルキルフェノールを、550グラムの130Nオイル、500gの2エチルヘキサノール、35.2グラムのアルキルアリールスルホン酸、及びDow Corningから調達可能な0.2グラムの発泡防止剤SI200と一緒に装入した。混合物を50分で室温から140℃まで温めた。60℃において、304グラムの水和石灰を加えた。次に、ギ酸と酢酸との重量基準で50/50の混合物31gを、5分で滴下により加えた。140℃において、圧力を680mmHgに低下し、45.6グラムのエチレングリコールを、150℃に加熱しながら30分かけて加えた。圧力を760mmHgに再び上昇した後、150℃において25分間CO
20.6g/分を導入した。次いで、CO
2流量を0.8g/分に増大し、46.2gのグリコールを45分の間に加えた。CO
2添加は、102.3gの合計装入量に到達したときに停止した。
【0134】
圧力を20mmHgに低下しながら、反応を20分で185℃に加熱させた。こうした条件を1時間保持した後、冷却した。生成物を165℃においてセライトで濾過し、濾過されたフェネートは、150℃において、5リットル/時間/kg生成物により空気中で4時間かけて脱気した。得られた生成物は、9.42%のCa、4.37%のS、1855ppmのK、435.9cStの100℃における動粘度を有していた。TBNは266mgKOH/gであった。また、TPP含量は1.88%と測定された。
【0135】
(例3)
メタノール及びキシレンによる中和及び過塩基化。
【0136】
5リットル二重ジャケットガラス反応器中に、243.2gの水和石灰、243.2gのメタノール及び876gのキシレンを混ぜて入れた。次に、例1のステップ2からの713.4gの硫化アルキルフェノールをおおよそ80℃に加熱した後、562gのキシレンで希釈した。反応温度を室温から30℃まで上昇させながら、混合物を30分で反応器に加えた。次いで、反応混合物を20分で25℃に冷却した。混合物中に、酢酸とギ酸との90/10モル混合物29.6gを2分で加えた。反応混合物の温度は、発熱反応により25℃から34℃まで上昇した。次いで、34℃から36℃まで加熱しながら、24.4gのCO
2を30分で加えた。次に、36℃から42℃まで加熱しながら、41.6gのCO
2を66分で導入した。60.8gの水和石灰、60.8gのメタノール、334gのキシレンから成るスラリーを反応器に1分で加えた。次に、41℃から46℃まで加熱しながら、51.4gの追加のCO
2を、64分で加えた。
【0137】
反応混合物の温度を26分で65℃に上昇させ、メタノール蒸留を開始した。温度を60分で93℃に更に上昇させた。温度を30分で130℃に更に上昇させた。550gの130中性潤滑油を反応混合物に加えた。粗製沈降物は2.4vol%と測定された。粗生成物を遠心分離した後、170℃において25mBar下で1時間キシレン蒸留を実施した。
【0138】
生成物を150℃において空気中で4時間脱気した。得られた生成物は、次の分析結果を有していた:9.56%のCa、4.71%のS、1876ppmのK、410.2cStの100℃における動粘度。TBNは273mgKOH/gであった。また、TPP含量は0.38%と測定された。
【0140】
2リットル丸底フラスコ中に、例1において得られた609.1gの硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を装入した。次に、425.2gのメタノール及びDow Corningから調達可能な0.2gの発泡防止剤SI200を反応器に加えた。反応混合物を撹拌しながら60℃まで温めた。このステップ中に、78.5gの水和石灰を300gの100N希釈油と一緒に導入した。60℃において、酢酸とギ酸との重量基準により50/50の混合物4.6gを加えた。中和は、60℃且つ周囲圧力において210分間保持した。圧力を約2時間で30mmHgにゆっくりと低下させることにより、メタノールを蒸発させた。このステップ中に、354gの潤滑油を滴下により加えた。蒸留は、30mmHg下で60℃において1時間保持した。中和された硫化アルキルヒドロキシ芳香族のカルシウム塩の粗製沈降物は、0.4vol%と測定された。生成物をブフナー漏斗により濾過して、未反応の石灰を除去した。得られた生成物を150℃において空気中で4時間脱気した。生成物は、下記の分析結果を有していた:3.17%のCa、4.86%のS、1827ppmのK、80.8cStの100℃における動粘度。TBNは89mgKOH/gであった。また、TPP含量は0.56%と測定された。
【0141】
(比較例1)
729gの過塩基性硫化カルシウムフェネートを、Exxon Mobilから調達可能な271gのRLOP 600Nオイルで希釈した。ブレンドは、6.9%のカルシウム含量、100℃において測定して66.1mm
2/秒の動粘度、及び5.4w%のTPP含量を有していた。生成物を0.0385m
2ワイプフィルム蒸発器により蒸留した。供給速度は、約400g/hに維持した。圧力を約3mbarに維持しながら、蒸発器の温度を230℃から260℃まで次第に上昇させていった。各条件に関する分析結果は、以下の表1に記載されている。データは、最も厳しい条件下ではTPP含量がおおよそ50%低下し得ること、及び、蒸留物のカルシウム含量が最も厳しい条件において900ppm未満であることを示しており、非常にわずかにしかカルシウムフェネートが蒸留されなかったことを指示している。更に、試料から希釈油を蒸留したときには、増大していくカルシウム含量により示されるように、粘度の顕著な増大がある。
【表1】
理解され得るように、蒸留後の過塩基性硫化カルシウムフェネートに関するTPP含量は、例2〜例4において得られた硫化カルシウムフェネートのTPP含量より顕著に高かった。
【0142】
様々な変更が本明細書中で開示された実施形態になされ得ることは理解されよう。したがって、上記の説明は、限定的を加えるものと解釈すべきではなく、単に好ましい実施形態の例証と解釈すべきである。例えば、本発明を運用するための最良の形態として実施された上述の機能は、説明目的のためのものにすぎない。他の構成及び方法は、本発明の範囲及び趣旨から逸脱することなく当業者により実施できる。更に、当業者ならば、本明細書に添付された請求項群の範囲及び趣旨の中で他の変更に想到するであろう。
なお、本発明に包含され得る諸態様は、以下のとおり要約される。
[態様1]
(a)プロピレン、ブチレン又はこれらの混合物から選択されるモノマーのC9〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンによるヒドロキシ芳香族化合物のアルキル化に由来するアルキルヒドロキシ芳香族化合物を硫化して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物をもたらすステップ、
(b)ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物からあらゆる未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を除去して、未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を実質的に含んでいない硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物をもたらすステップ、及び、
(c)ステップ(b)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を中和して、合算質量により約2%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩をもたらすステップ
を含む、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を調製する方法。
[態様2]
ヒドロキシ芳香族化合物がフェノールであり、C9〜C18オリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンが、C9〜C18プロピレンオリゴマーを含む1つ又は複数のオレフィンである、態様1に記載の方法。
[態様3]
硫化が塩基性触媒の存在下で実施される、態様1又は2に記載の方法。
[態様4]
未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物を除去するステップが、ステップ(a)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族反応生成物を蒸留することを含む、態様1から3までに記載の方法。
[態様5]
中和ステップ(c)が、ステップ(b)の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物をアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩の供給源と接触させることを含む、態様1から4までに記載の方法。
[態様6]
中和ステップ(c)が、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩を中和及び過塩基化して、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の過塩基性塩をもたらすことを含む、態様1から5までに記載の方法。
[態様7]
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩が、合算質量%により約1から約1.9%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、態様1から6までに記載の方法。
[態様8]
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩が、合算質量%により約0.2から約0.5%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、態様1から7までに記載の方法。
[態様9]
合算質量により約2%未満の未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有し、態様1から8までに記載の方法により生成される、硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩。
[態様10]
合算質量%により約1から約1.9%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、態様9に記載の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩。
[態様11]
合算質量%により約0.2から約0.5%までの未硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物及びその未硫化金属塩を含有する、態様9に記載の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩。
[態様12]
(a)過半量の潤滑粘度のオイル、及び(b)態様9から11までに記載の硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩の少なくとも1つを含む、潤滑油組成物。
[態様13]
硫化アルキルヒドロキシ芳香族化合物の塩の少なくとも1つが、潤滑油組成物の合計重量に基づいて約0.01wt%から約40wt%までの量で存在する、態様12に記載の潤滑油組成物。
[態様14]
抗酸化剤、摩耗防止剤、洗浄剤、錆止め剤、曇り除去剤、解乳化剤、金属不活性化剤、摩擦調整剤、流動点降下剤、消泡剤、共溶媒、パッケージ相溶化剤、腐食防止剤、無灰分散剤、染料、極圧剤及びこれらの混合物から成る群から選択される少なくとも1つの添加剤を更に含む、態様12又は13に記載の潤滑油組成物。
[態様15]
態様12から14までに記載の潤滑油組成物を用いてエンジンを稼働させることを含む、エンジンを潤滑するための方法。