【実施例】
【0015】
<1>モデル水路の設置
本実施例では、広島県水産海洋技術センターの海上施設上の敷地内に、長さ7mx幅10cmx深さ10cmのモデル水路を設置し、0.1m/秒の流速で海水を流した。水路の一方の壁に、LED照射装置(シーシーエス社製SMD素子実装型、LEDパネルの型式:ISL−150X150−VV−TPHI?BTFN、照射面:15cmx15cm、SMD素子数:120(8x15)個、SMD素子サイズ:5x5mm、ピーク波長:409〜412nm、指向角特性:半角値58.6°、半値幅14nm)を設置し、拡散板と石英ガラス(厚さ5mm)を通して水路内に光を水平に照射した。パネルと石英ガラスの間には、楕円拡散タイプ(拡散角60°×1°)のレンズ拡散板(株式会社オプティカルソリューションズ、LSD60×1PC10−F5、厚み1.25mm、基盤;ポリカーボネイト)を装着し、この拡散板により照射光を拡散させながら、LED光を水路内に照射した。なお、LED光を照射する水路壁面の開口部は10cm×10cm(正方形)とした。
【0016】
次に、水路の他方の壁に、複数の付着板(幅10cmx高さ15cm)を並列に設置した。まず、LEDパネルの真正面に付着板(E)を配置し、両側に4枚ずつ、25cmごとに付着板(上流から下流方向に、Eを挟んでA〜DとF〜I)を配置し(板同士の隙間は15cm)、下流側にさらに4枚(J〜M)、100cmごとに配置し(板同士の隙間は90cm)、最終的に付着板が上流から下流方向にA〜Mの順で並ぶようにした。
【0017】
試験中、水路では光を遮り、LEDパネルと対面に位置する付着板E(基点)の中心における放射照度を約200Wm
-2となるように、LED光を調節した。試験開始時(2014年3月6日15:00)における光の測定結果を表1に示す。なお、対象としては、LED光を照射せず、光を遮った水路(付着板はA’〜M’)を用いた。
【0018】
【表1】
ここで、海水中の放射照度は、海水中における光量子束密度を測定し、予め空気中で測定した光量子束密度と放射照度の関係から得られた、以下の換算式(I)を用いて算出した(
図1)。
放射照度(Wm
-2)=0.112884×光量子束密度(μmols
-1cm
-2)+0.051842・・・(I)
試験期間中は、観察日毎に付着板Eにおける放射照度を200Wm
-2に調整する作業を行なったが、その際、海水中における光量子束密度を1768.5μmols
-1cm
-2に設定することによりこの調整を行なった。
【0019】
なお、測定には以下の計測器を使用した。
(1)光量子束密度;メイワフォーシス株式会社製光量子計LI−192SA(400〜700nm)
(2)分光放射照度;株式会社オプトリサーチ社製多目的分光放射計MSR−7000N(200〜2500nm)
(3)照度;コニカミノルタセンシング株式会社製照度計T−10WL(測定波長;400〜700nm)
また各付着板におけるLED光の波長と分光放射照度の関係を
図2に示したが、どの付着板でもピーク波長は409〜412nmにあった。
【0020】
表1の海水中において、LED光の放射照度は、パネルからの距離5cmにおいて73.2%にまで減衰し、10cmでは44.43%に減衰した(
図3)。したがって、付着板Eにおける放射照度を200Wm
-2と規定した場合、パネルからの距離0cmにおける放射照度は450Wm
-2となり、水路中央(距離5cm)における放射照度は325Wm
-2となる。
【0021】
実際の対面パネルに対し、LED光の放射範囲は幅30cmの範囲に及んでいた。通水海水の流速は0.1m/secであることから、海水中の幼生はこの照射領域を1〜3秒を要して通過し、この間、(少なくとも1秒間は)200〜450Wm
-2の放射照度光を浴びることになる。
【0022】
各付着板には、クレモナ網(日東製網株式会社製無結節網;糸太さ1mm、目合い5mm)を取り付けた(
図4)。付着板は、幅が10cmであり、水路内において水深10cmまで浸漬するが、付着生物は海水外の高さ13cmにまで付着したので、水深13cmまで評価対象とし、従って付着板の評価面積は130cm
2となる。この評価面における糸数は、縦糸16本、横糸20本である。目合い(5mm×5mm)の数は、評価面当たり300個(縦列15個×横列20個)となる。
<2>LED光照射による付着生物の付着の抑制
このように配置した付着板における付着生物の付着の様子を2週ごとに観察したところ、4週後から様々な付着生物が時期特異的に付着した。その遷移状況を
図5に示す。
【0023】
2014年3月6日に試験開始後、4月中旬以降、二枚貝類、特にムラサキイガイ、キヌマトイガイが付着し、両種の付着個体数は6月下旬まで増加傾向を示した。4月中旬〜5月中旬の期間は、ヒドロ虫類の繁茂が認められたが、これは5月下旬に消失し、その後はフサコケムシを中心に、イタコケムシ、エダコケムシ、チゴケムシ、ウスイタコケムシなどのコケムシ類、ホヤ類が優占する状態となった。これら以外にも、ウズマキゴカイ類、カイメン類、ヨコエビ類等の生物の付着が観察された。しかし、この付着生物の遷移過程において、放射照度200Wm
-2の連続照射面である付着板Eでは16週に渡っていずれの生物の付着も認められなかった。そして、放射照度3Wm
-2の連続照射面である付着板D及びFでも、8週後以降、十分な生物の付着抑制が認められた。3、8、16週後の付着板の外観を
図6に示す。
【0024】
具体的な付着状況の一例として、4週〜16週後に二枚貝類の付着総個体数を調べ、4週〜14週の結果(16週後の結果は14週とほぼ同じ)をグラフ化したのが
図7である。また、ムラサキイガイ、キヌマトイガイ、ナミワガシワガイ、ミノガイのそれぞれについて、付着個体数を調べ、グラフ化したのが
図8である。そして、6週〜16週後にヒドロ虫類、藻類、フサコケムシ類、イタコケムシ類、エダコケムシ類、ホヤ類、カイメン類、ウズマキゴカイ類、ヨコエビ類・ケヤリムシ類について、付着板における被覆度を調べ、グラフ化したのが
図9である。ここで、被覆度は、評価面積130cm
2における被覆割合として算出した。また、試験終了時(16週後) に回収した付着板を材料に、フサコケムシ類、イタコケムシ類、エダコケムシ類、ホヤ類、カイメン類、ゴカイ類、その他の湿重量を測定した。その結果を
図10に示す。
【0025】
409〜412nmの波長を含む光の照射を直接受けた付着板Eにおいては、16週後も二枚貝の付着が観察できなかったのに対し、その他の場所では、いずれも二枚貝の付着が観察された。また、光を照射した実験区においては、光を照射していない対照区より、付着板Eの上流側により多くの個体が付着し、下流側に付着した個体は少なくなった。これは、付着生物が光を照射している部分にくると、光に反応して後戻りし、付着板A〜Bなどの光の弱い部分に付着したものと考えられる。その結果、付着板Eを通り過ぎる付着生物の数が減少し、付着板Eの下流側に付着した個体数が減少したと考えられる。
【0026】
また、付着板DおよびFにおいては、二枚貝及びホヤ以外の付着生物の付着が減少しており、遷移段階における生物の死滅の促進、加入の抑制、成長の抑制が生じていると考えられる。