特許第5961847号(P5961847)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961847
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月2日
(54)【発明の名称】ベルト式無段変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20160719BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20160719BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】1
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-238619(P2012-238619)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-88900(P2014-88900A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】平尾 知之
(72)【発明者】
【氏名】余川 浩一
【審査官】 北中 忠
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−073459(JP,A)
【文献】 特開2011−002008(JP,A)
【文献】 特開2006−105317(JP,A)
【文献】 特開2011−127617(JP,A)
【文献】 特開2008−223826(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 59/00−61/12、61/16−61/24、
61/66−61/70、63/40−63/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプの吐出油圧を用いてプーリにベルト挟圧力を発生させる挟圧コントロール弁と、
指示電流値に従って前記挟圧コントロール弁の開度を調整するための油圧を出力する弁であって指示電流値がゼロになると、前記挟圧コントロール弁の弁開度を全開にするソレノイド弁と、
を備える無段変速機の制御装置であって、
イグニッションオフされると、イグニッションオフ時の前記指示電流値が所定の待機電流値よりも高いか否かを判定し、高い場合はその指示電流値を、所定の待機電流値までスイープダウンさせて当該待機電流値で維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまで再度スイープダウンさせる一方、イグニッションオフ時の前記指示電流値が所定の待機電流値以下の場合はその指示電流値を維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまでスイープダウンさせる制御手段を備えることを特徴とする無段変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に搭載されるベルト式無段変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両に搭載されるベルト式無段変速機として、図1に示す構成を備えるものがある。図1に示すベルト式無段変速機は、プライマリプーリ1、セカンダリプーリ2、これらのプーリ1,2間に巻き掛けられたVベルト3などを備えている。プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2は、それぞれ油圧室4,5を備え、これらに対して供給される油圧に応じて溝幅を変更することで、変速比を連続的に変更し、併せて、プーリのベルト挟圧力を制御する。
【0003】
6はエンジン7の回転動力によって駆動される機械式のオイルポンプである。このオイルポンプ6からの吐出圧は、レギュレータ8によってライン圧PLに調圧される。ライン圧PLは、セカンダリプーリ2にベルト挟圧力を発生させる挟圧コントロール弁9にも供給される。挟圧コントロール弁9は、リニアソレノイド弁SLSから出力されたソレノイド圧Pslsに応じて増幅した油圧をセカンダリプーリ2の油圧室5に供給する。なお、このベルト式無段変速機に似た構成を有するものは、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−2008号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のベルト式無段変速機においては、CVT_ECU10がイグニッションオンによりライン圧などの制御を開始し、イグニッションオフによりその制御を終了する。つまり、リニアソレノイド弁SLSへの電流の通電・遮断はイグニッションオン・オフのタイミングで実施される。また、リニアソレノイド弁SLSへの電流が遮断されているときは、弁開度が全開となるノーマル・ハイのものが採用される。つまり、故障などによって電流が遮断されたときに、油圧供給が停止することを回避するフェールセーフが適用される。
【0006】
ところが、このようなベルト式無段変速機によれば、図5に示すように、イグニッション(図5中「IG」で示す。)をオフするときに、リニアソレノイド弁SLSへの指示電流値(図5中「SLS電流」で示す。)がゼロになってリニアソレノイド弁SLSが全開して、挟圧コントロール弁9の開度が急増する。このとき、エンジン7の回転数(図5中「E/G回転数」で示す。)は慣性により急にゼロにはならないため、オイルポンプ6から油圧が供給される状態がしばらくの間続く。このため、イグニッションオフ直前にリニアソレノイド弁SLSが全閉状態もしくはこれに近い状態であった場合は、イグニッションオフ直後からオイルポンプ6が停止するまでの間に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧が一時的に急上昇するオーバーシュート現象が発生する。その結果、ベルト挟圧力が一時的に過剰となり、無段変速機のユニットに悪影響を与えるおそれがあった。
【0007】
特許文献1に開示されている無段変速機の制御装置では、イグニッションオフされると、全閉状態のソレノイド弁を所定時間経過後に全開にするように制御している。しかし、ソレノイド弁の全閉から全開への動作は、ステップ動作であり、制御油圧のオーバーシュートのピーク値は下げることができてもオーバーシュートを完全に解消することはできない。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みて創案されたものであり、イグニッションオフ直後にプーリのベルト挟圧力が一時的に過剰になることを防止できるベルト式無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の無段変速機の制御装置は、エンジンの回転動力によって駆動される油圧ポンプの吐出油圧を用いてプーリにベルト挟圧力を発生させる挟圧コントロール弁と、指示電流値に従って前記挟圧コントロール弁の開度を調整するための油圧を出力する弁であって指示電流値がゼロになると、前記挟圧コントロール弁の弁開度を全開にするソレノイド弁と、を備えるものを前提としており、イグニッションオフされると、イグニッションオフ時の前記指示電流値が所定の待機電流値よりも高いか否かを判定し、高い場合はその指示電流値を、所定の待機電流値までスイープダウンさせて当該待機電流値で維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまで再度スイープダウンさせる一方、イグニッションオフ時の前記指示電流値が所定の待機電流値以下の場合はその指示電流値を維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまでスイープダウンさせる制御手段を備えることを特徴としている。
【0010】
かかる構成を備える無段変速機の制御装置は、イグニッションオフ直後に、イグニッションオフ時の指示電流値が所定の待機電流値よりも高い場合はその指示電流値を、所定の待機電流値までスイープダウンさせて当該待機電流値で維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまで再度スイープダウンさせる一方、イグニッションオフ時の前記指示電流値が所定の待機電流値以下の場合はその指示電流値を維持し、エンジンが停止して所定時間経過した後、当該指示電流値がゼロになるまでスイープダウンさせる。これにより、プーリの油圧室内の油圧がオーバーシュートすることが防止され、その結果、プーリのベルト挟圧力が一時的に過剰になることが防止される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、イグニッションオフ直後に、プーリのベルト挟圧力が一時的に過剰になることが防止される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】ベルト式無段変速機およびその制御装置の概略構成を示す図である。
図2】本発明の実施の形態に係るベルト式無段変速機の制御装置が実行する処理動作を示すフローチャートである。
図3】本発明の実施の形態に係るベルト式無段変速機の制御装置を適用した場合の各種値の変化を示すタイムチャートであって、イグニッションオフ時の指示電流値が待機電流値より高い場合を示すものである。
図4】本発明の実施の形態に係るベルト式無段変速機の制御装置を適用した場合の各種値の変化を示すタイムチャートであって、イグニッションオフ時の指示電流値が待機電流値以下の場合を示すものである。
図5】従来例に係るベルト式無段変速機の制御装置を適用した場合の各種値の変化を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係るベルト式無段変速機の制御装置について図面を参照しながら説明する。本実施形態に係るベルト式無段変速機の制御装置は、自動車等の車両に搭載されるものであって、図1に示すような構成を備えている。図1に示す構成は、制御内容を除いて、[技術背景]欄で説明したものと同様であるため、リニアソレノイド弁SLS、挟圧コントロール弁9、CVT_ECU10等の主要部以外の説明は省略する。
【0014】
CVT_ECU10は、マイクロコンピュータを中心として構成され、ベルト式無段変速機、ロックアップクラッチ等を制御するものである。このCVT_ECU10は、リニアソレノイド弁SLSに対して指示電流を供給している。リニアソレノイド弁SLSは、CVT_ECU10から供給される指示電流値に従って、挟圧コントロール弁9に対しソレノイド圧Pslsを出力する。指示電流値が低いほど、リニアソレノイド弁SLSの開度が大きくなり、挟圧コントロール弁9に対するソレノイド圧Pslsも大きくなる。また、指示電流値がゼロになると、リニアソレノイド弁SLSは全開となり、挟圧コントロール弁9に対するソレノイド圧Pslsが最大となる。挟圧コントロール弁9は、ライン圧PLを用いて、リニアソレノイド弁SLSから入力されるソレノイド圧Pslsに応じて増幅した油圧をセカンダリプーリ2の油圧室5に供給する。
【0015】
次に、イグニッションオフされた際にCVT_ECU10、リニアソレノイド弁SLS等が実行する処理動作を図2のフローチャートに基づき説明する。
【0016】
ステップST1において、CVT_ECU10は、イグニッションオンからイグニッションオフへ切り替わったか否かを繰り返し判定する。CVT_ECU10は、イグニッションオンからイグニッションオフへの切替わりを検出するとステップST2へ移行し、切替わりを検出しなければ、一旦、本ルーチンを抜ける。
【0017】
ステップST2において、CVT_ECU10は、イグニッションオフ時のリニアソレノイド弁SLSに対する指示電流値As(以下、イグニッションオフ時の指示電流値を「指示電流値As1」という。)が所定の電流値A2(以下「待機電流値A2」という。)よりも高いか否かを判定する。指示電流値As1が待機電流値A2より高い場合は、ステップST3へ移行し、指示電流値As1が待機電流値A2以下の場合は、ステップST5へ移行する。なお、待機電流値A2は特定の値に限定されないが、例えば最大電流値の30%〜70%程度とすることができる。
【0018】
ステップST3において、CVT_ECU10は、指示電流値Asを待機電流値A2になるまで所定勾配にてスイープダウンさせる(つまり、指示電流値Asが経過時間に比例して低下するよう変化させる)。スイープダウンの勾配は、スイープダウン中に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧がオーバーシュートしない程度とすることが望ましい。
【0019】
ステップST4において、CVT_ECU10は、エンジン回転数がゼロになった後(エンジン停止後)、所定の時間が経過するまで、引き続き指示電流値Asを待機電流値A2で維持する。ここで所定の時間は、後記ステップST6におけるスイープダウン中に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧がオーバーシュートしない程度の時間とすることが望ましい。
【0020】
一方、ステップST5においては、CVT_ECU10は、指示電流値Asをエンジン7が停止した後、所定時間が経過するまで維持する。ここで所定時間は、後記ステップST6におけるスイープダウン中に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧がオーバーシュートしない程度の時間とすることが望ましい。この所定時間は、ステップS5の所定の時間と必ずしも一致させる必要はない。
【0021】
前記ステップST4、ST5の後、CVT_ECU10は、指示電流値Asをゼロになるまで所定勾配にてスイープダウンさせて(ST6)、一連の処理動作を終了する。ここでスイープダウンの勾配は、スイープダウン中に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧がオーバーシュートしない程度とすることが望ましい。
【0022】
以上の手順を実施することにより、例えば図3又は図4に示すような結果が得られる。図3は、イグニッションオフ時の指示電流値As1が待機電流値A2より高い場合の各値の変化を示すものであり、図4は、イグニッションオフ時の指示電流値As1が待機電流値A2以下の場合の各値の変化を示すものである。これらのタイムチャートに示すように、本実施形態に係るベルト式無段変速機の制御装置によれば、イグニッションオフ時の指示電流値As1が待機電流値A2よりも高い場合は、指示電流値Asを、所定の待機電流値A2までスイープダウンさせ、少なくともエンジン停止まで待機電流値A2を維持するため、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧は、徐々に上昇するもオーバーシュートは発生せず、エンジン停止後、当該油圧は徐々に低下してゼロまたはゼロ近傍となる。エンジンが停止して所定時間経過後、指示電流値Asをゼロとなるまで再度スイープダウンさせるが、油圧回路内の残圧の抜けに必要な時間等を考慮して当該所定時間を決めることで、再度のスイープダウン中にセカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧の立ち上がりを防止することができる。
【0023】
また、イグニッションオフ時の指示電流値As1が所定の待機電流値A2以下の場合は、例えばイグニッションオフ前のレーシング等によって、エンジン回転数が比較的高くなってプーリのベルト挟圧力が高まっていると考えられる。このような場合は、指示電流値Asを待機電流値A2まで上昇させる必要はなく、そのイグニッションオフ時の指示電流値Asが維持される。この場合、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧は、上昇することなく、エンジン停止後、徐々に低下してゼロまたはゼロ近傍となる。また、この場合もエンジンが停止して所定時間経過後、指示電流値Asをゼロとなるまでスイープダウンさせるが、油圧回路内の残圧の抜けに必要な時間等を考慮して当該所定時間を決めることで、スイープダウン中にセカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧の立ち上がりを防止することができる。
【0024】
以上の説明より明らかなように、本発明の実施形態に係る無段変速機の制御装置によれば、イグニッションオフ直後に、セカンダリプーリ2の油圧室5内の油圧がオーバーシュートすることを防止でき、その結果、プーリのベルト挟圧力が一時的に過剰になることが防止される。これにより、ベルト式無段変速機のユニットに不要な負荷が掛かることを防止でき、ユニットの長寿命化等が図られる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、例えば、自動車に搭載されるベルト式無段変速機の制御装置において、イグニッションオフ直後にプーリのベルト挟圧力が一時的に過剰になることを防止するために適用することができる。
【符号の説明】
【0026】
1 プライマリプーリ
2 セカンダリプーリ
3 Vベルト
5 セカンダリプーリの油圧室
6 オイルポンプ
7 エンジン
9 挟圧コントロール弁
10 CVT_ECU
SLS リニアソレノイド弁
図1
図2
図3
図4
図5