(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記実測値取得部は、前記吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を、少なくとも前記吊荷が加速または減速または回転している時刻を含む時系列のデータにて取得し、
前記重心位置算出部は、前記吊荷の状態モデルとして前記吊荷の運動モデルを用いる
ことを特徴とする請求項1に記載の重心位置検出装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態における重心位置検出装置の機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、重心位置検出装置10は、実測値取得部11と、重心位置算出部12とを具備する。
【0018】
実測値取得部11は、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を、少なくとも2つの異なる状態について取得する。
ここで、
図2は、重心位置検出装置10が重心位置検出対象とする吊荷の例を示す説明図である。同図では、クレーンのトロリ910と、ロープ920と、スプレッダ930と、コンテナC11とが示されており、コンテナC11は、スプレッダ930に把持されてロープ920にてトロリ910から吊るされている。
以下では、スプレッダ930とコンテナC11とを合わせて一体の剛体とみなし、吊荷800と表記する。
【0019】
ここでいう吊荷が吊るされている状態を示すデータとは、吊荷(
図2の例では吊荷800)またはロープ(
図2の例ではロープ920)の力学的な状態を示すデータである。吊荷が吊るされている状態を示すデータのうち実測可能なデータの例として、吊荷がロープに支持されている位置や、吊荷の姿勢(吊荷の傾きや垂直軸回りの回転角度)や、吊荷重量や、吊荷がロープから受ける力や、吊荷の速度や、吊荷の加速度や、吊荷の角速度や、吊荷の角加速度や、ロープがトロリに支持されている位置や、ロープ長や、ロープがトロリから受ける力などを示すデータが挙げられる。また、重心位置検出装置10の検出対象である吊荷の重心位置を示すデータも、吊荷が吊るされている状態を示すデータの一例に該当する。
【0020】
但し、重心位置検出装置10は、トロリを備えるクレーンに吊るされた吊荷に限らず、ロープで吊るされた様々な吊荷の重心位置の検出に適用し得る。例えば、重心位置検出装置10は、旋回可能なジブを有するクレーンに当該ジブから吊るされた吊荷の重心位置を検出し得る。
以下では、トロリやジブなどロープを支持している物を「ロープ支持物」と称する。また、ロープがロープ支持物に支持されている位置を「上部吊点位置」と称する。また、吊荷がロープに支持されている位置を「吊荷吊点位置」と称する。
【0021】
重心位置算出部12は、少なくとも吊荷の重心位置を未知定数として含む吊荷の状態モデルと、実測値取得部11が取得した実測値とに基づいて、吊荷の重心位置を算出する。
ここでいう吊荷の状態モデルとは、ロープに吊るされている吊荷を力学的に模擬するモデルである。例えば、吊荷が吊るされている状態を示すデータが満たすべき条件を示す状態方程式が、吊荷の状態モデルの一例に該当するがこれに限らない。重心位置算出部12は、吊荷が吊るされている状態を示すデータに基づいて、当該状態における他のデータを算出可能な様々な状態モデルを用いることができる。
【0022】
以上のように、実測値取得部11が、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を、少なくとも2つの異なる状態について取得し、重心位置算出部12は、実測値取得部11が取得した実測値に基づいて吊荷の重心位置を算出する。
これにより、重心位置検出装置10は、当該吊荷の重心の高さ(高さ方向の重心位置)を求めることができる。
【0023】
ここで、重力が吊荷に与えるモーメントは、モーメントの基準点から重心位置までのベクトルと、重力ベクトルとの内積にて示される。従って、吊荷の重心位置が垂直方向(重力ベクトル方向)に移動しても、モーメントは変化しない。
このため、吊荷が吊るされている状態を示すデータを1つの状態についてのみ取得したのでは、吊荷の重心の高さ(垂直方向についての吊荷の重心位置)を確定することができない。
【0024】
これに対して、重心位置検出装置10は、上記のように少なくとも2つの異なる状態における、吊荷が吊るされている状態を示すデータを用いることで、吊荷の重心の高さを求めることができる。
特に、重心位置検出装置10は、放射線を用いずに吊荷の重心の高さを求めることができ、吊荷の放射線透過量にかかわらず、当該吊荷の重心の高さをより正確に求めることができる。
【0025】
<第2の実施形態>
第2の実施形態では、第1の実施形態で説明した重心位置検出装置10を更に具体化した一例について説明する。
図3は、本発明の第2の実施形態における重心位置検出装置の機能構成を示す概略ブロック図である。同図において、重心位置検出装置100は、実測値取得部110と、重心位置算出部120と、表示部130とを具備する。重心位置算出部120は、前処理部121と、数値設定部122と、変数値演算部123と、評価部124とを具備する。
【0026】
実測値取得部110は、実測値取得部11(
図1)の一例に該当し、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を、少なくとも吊荷が移動または加速または減速または回転している時刻を含む時系列のデータにて取得する。すなわち、実測値取得部110が取得する当該時系列のデータには、吊荷の加速度と角加速度とを無視し得る状態におけるデータが含まれていてもよいし、含まれていなくてもよい。
なお、以下では、実測値取得部110が取得する、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を「吊り状態実測値」と称する。また、吊荷の加速度と角加速度とを無視し得る状態を、吊荷の「静定状態」と称する。
【0027】
重心位置算出部120は、重心位置算出部12(
図1)の一例に該当し、吊荷の状態モデルとして吊荷の運動モデルを用いる。
ここでいう吊荷の運動モデルとは、ロープに吊るされている吊荷の運動を力学的に模擬するモデルである。吊荷の運動モデルは、吊荷の状態モデルの一例に該当し、吊荷の速度または吊荷の加速度または吊荷の角速度または吊荷の角加速度のうち少なくとも何れか1つを示す変数を含んで構成される。
すなわち、実測値取得部110が、吊荷が移動または加速または減速または回転している時刻における吊り状態実測値を取得するのに応じて、重心位置算出部120は、吊荷の移動または加速または減速または回転を表現可能なモデルを用いて吊荷の重心位置を算出する。
【0028】
なお、以下では、実測値取得部110が吊荷の運動方程式を用いる場合を例に説明するが、実測値取得部110が用いる吊荷の運動モデルは運動方程式に限らない。実測値取得部110は、吊荷が吊るされている状態を示すデータに基づいて、当該状態における他のデータを算出可能な様々な運動モデルを用いることができる。
【0029】
前処理部121は、運動方程式を用いて吊荷の重心位置を求める前処理として、吊荷重量(荷重)と、水平方向における吊荷の重心位置とを求める。例えば、前処理部121は、吊荷を吊るす力に基づいて吊荷重量や、水平方向における吊荷の重心位置を算出する。
ここでいう吊荷を吊るす力は、吊荷を吊るすロープが作用させる力、または、当該ロープに作用する力である。吊荷を吊るす力として、吊荷吊点位置においてロープが吊荷に作用させる力を用いてもよいし、上部吊点位置においてロープ支持物がロープに作用させる力を用いてもよい。例えば、
図2の例においてスプレッダ930が、4箇所の吊荷吊点位置の各々に張力計を具備し、当該張力計の検出する張力(従って、吊荷吊点位置におけるロープ張力)を、吊荷を吊るす力として用いるようにしてもよい。あるいは、トロリ910が4箇所の上部吊点位置の各々に張力計を具備し、当該張力計の検出する張力(従って、上部吊点位置におけるロープ張力)を、吊荷を吊るす力として用いるようにしてもよい。あるいは、上部吊点位置においてロープ支持物がロープに作用させる力からロープ重量分の力を減算した補正後の力を、吊荷を吊るす力として用いるようにしてもよい。
【0030】
なお、前処理部121が行う、吊荷重量の算出と、水平方向における吊荷の重心位置の算出とのいずれか一方、または両方を省略可能である。従って、重心位置検出装置100が前処理部121を具備しない構成としてもよい。前処理部121が吊荷重量を取得しない場合、重心位置算出部120は、吊荷重量を未知定数として扱う。また、前処理部121が水平方向における吊荷の重心位置を取得しない場合、重心位置算出部120は、水平方向における吊荷の重心位置(例えば、トロリの進行方向における座標値、および、トロリの横行方向における座標値)を未知定数として扱う。
一方、前処理部121が、吊荷荷重や水平方向における吊荷の重心位置を取得することで、吊荷の運動モデルにおける未知定数の数を減らすことができる。これにより、重心位置検出装置100が吊荷の重心位置を検出する際の負荷を軽減でき、また、検出精度を向上させ得る。
あるいは、未知定数の数を減らさない場合でも、これらの未知定数に初期値を与えることで、重心位置検出装置100が吊荷の重心位置を検出する際の負荷を軽減させ、かつ、検出精度を向上させ得る。すなわち、前処理部121が実測値に基づいて算出する吊荷重量や水平方向における吊荷の重心位置は、実際の値に近いことが期待される。重心位置算出部120が、この実際の値に近い初期値から演算を開始することで、以下に説明する数値設定部122、変数値演算部123および評価部124が行う処理の繰り返しが少なくて済み、また、より高精度に吊荷の重心位置を検出し得る。
【0031】
数値設定部122は、吊荷の運動モデルに含まれる変数および未知定数の値を設定する。
変数値演算部123は、数値設定部122が設定した値を運動モデルに適用して、実測値取得部110が取得した吊り状態実測値の測定時刻における、変数の値を求める。なお、以下では、実測値取得部110が取得した吊り状態実測値の測定時刻を「実測値のサンプリング時刻」と称する。
【0032】
ここで、変数値演算部123が運動モデルとして用いる運動方程式について説明する。なお、以下では、トロリの進行方向、トロリの横行方向、垂直方向に、それぞれx軸、y軸、z軸を設定した3次元座標空間に基づく運動方程式を例に説明するが、座標空間の設定の仕方はこれに限らない。例えば、極座標空間など、他の座標空間に基づく運動方程式を用いるようにしてもよい。
まず、ある時刻における吊荷の並進についての運動方程式は、例えば式(1)のように示される。
【0034】
但し、mは荷重の質量を示し、p
c(明細書の記載において、行列やベクトルを示す太字表記を省略する)は吊荷の位置(例えばスプレッダ上面の中央の位置など、吊荷に設定された基準点の位置)を示す。また、「’」は1階の時間微分を示し、「’’」は2階の時間微分を示す。従って、p
c’’は吊荷の加速度を示す。
また、f
i(iは、1≦i≦n(nはロープの本数)の正整数)は、i番目のロープが吊荷に与える力を示し、gは重力加速度を示し、f
dは、吊荷に対して並進方向の力として作用する外力を示す。
また、ある時刻における吊荷の重心回りの回転についての運動方程式は、例えば式(2)のように示される。
【0036】
ただし、Iは吊荷の慣性テンソルを示し、ωは吊荷の角速度を示す。また、n
i(iは、1≦i≦n(nはロープの本数)の正整数)は、i番目のロープが吊荷の重心回りに与えるモーメントを示し、「×」は外積を示し、n
dは、吊荷に対して回転方向の力として作用する外力を示す。
【0037】
吊荷に作用する外力としては、例えば風が吊荷に与える力が考えられる。外力を示す式として、想定する外力に応じて様々な式を用いることができる。
例えば外力として一定の横風による力を想定する場合、スカラ定数f
dxおよびf
dyを風パラメータとして式(3)のように示される。
【0039】
但し、「
T」は転置行列ないし転置ベクトルを示す。
また、外力を、吊荷に対して水平方向に作用する正弦波の強さの力と見做す場合、スカラ定数f
dx、f
dy、aおよびbを風パラメータとして式(4)のように示される。
【0041】
あるいは、式(4)に示す、外力をフーリエ級数展開した1次成分に加えて、2次成分以降の項も式に含めるようにしてもよい。
ここで、i番目のロープが吊荷に与える力f
iや、当該ロープが吊荷の重心回りに与えるモーメントn
iは、トロリの位置p
t(t)(括弧内のtは時刻を示す)や、ロープ長l
i(t)や、吊荷の位置や、吊荷の速度や、吊荷の姿勢や、吊荷の角速度や、吊荷の(吊荷内における)重心位置や、ロープの特性に基づいて得ることができる。また、トロリの位置やロープ長は検出可能である。また、吊荷の重心位置は一定であり未知定数として示される。
従って、式(1)および式(2)に示される運動方程式は、式(5)に示される12変数(p
c、v
c、θおよびω)の1階常微分方程式に変形することができる。
【0043】
但し、
vcは吊荷の速度を示し、θは吊荷の姿勢を示す。また、R
3は3次元空間を示す。また、h
1〜h
4は、それぞれ公知の関数を示す。例えば、関数h
2はv
cとして示せることが知られている。
この1階常微分方程式の各変数に初期値を与えれば、ルンゲ・クッタ法等の解法を用いて、時刻毎の各変数の値を算出できる。いわば、シミュレーション開始時刻における変数値を設定し、運動モデルを用いてシミュレーションを行うことで、サンプリング時間毎の変数値を得ることができる。
また、各ロープが吊荷に与える力の大きさ|f
i|も、計算過程で得ることができる。
【0044】
そこで、変数値演算部123は、実測値のサンプリング時刻毎の各変数の値を、式(5)を用いて算出する。
具体的には、まず、数値設定部122が、式(5)に含まれる変数(p
c、v
c、θおよびω)の初期値および未知定数の値を設定する。例えば、数値設定部122は、式(5)に含まれる未知定数として、吊荷の慣性テンソルや、吊荷の高さ方向の重心位置や、風パラメータの値を設定する。また、前処理部121が吊荷重量を算出しない場合、数値設定部122は、吊荷重量も未知定数として、その値を設定する。また、前処理部121が水平方向における吊荷の重心位置を算出しない場合、数値設定部122は、水平方向における吊荷の重心位置も未知定数として、その値を設定する。
【0045】
但し、式(5)に含まれる未知定数は上記のものに限らず、吊荷の重心位置を含んでいればよい。例えば、上記の未知定数のいずれかについて、何らかのセンサで値を測定できる場合、該当する定数を、得られた値の既知定数として扱うことができる。
なお、以下では、運動モデル(例えば式(5))に含まれる未知定数を纏めて、ベクトルxと表記する。
【0046】
次に、変数値演算部123は、数値設定部122が設定した変数の初期値および未知定数の値を式(5)の運動モデルに適用して、実測値のサンプリング時刻における、変数の値を求める。
なお、変数値演算部123が用いる運動方程式の解法は、ルンゲ・クッタ法に限らない。変数値演算部123は、例えばオイラー法など様々な解法を用いることができる。
また、変数値演算部123が用いる運動方程式は、1階の常微分方程式に限らない。例えば、2階常微分方程式に基づいてサンプリング周期毎の変数値を得るためのアルゴリズムを利用可能な場合、変数値演算部123が、2階常微分方程式の運動方程式を用いるようにしてもよい。
【0047】
評価部124は、変数値演算部123が取得した変数の値を評価する。
具体的には、実測値取得部110が取得する吊り状態実測値、または、吊り状態実測値から算出可能な値が、評価対象値として予め設定されている。そして、評価部124は、変数値演算部123が取得した変数の値から得られる評価対象値と、実測値取得部110が取得する吊り状態実測値から得られる評価対象値との差の大きさを評価する。なお、以下では、変数値演算部123が取得した変数の値から得られる評価対象値を「評価対象演算値」と称する。また、実測値取得部110が取得する吊り状態実測値から得られる評価対象値を「評価対象実測値」と称する。
【0048】
図4は、評価対象値の時刻変化の例を示す説明図である。同図において、グラフの横軸は時刻を示し、縦軸は評価対象値を示す。また、線L11は、各時刻における評価対象演算値を示し、線L12は、各時刻における評価対象実測値を示す。評価部124は、線L11の示す評価対象実測値と線L12の示す評価対象演算値との差D11の各時刻における差の大きさ(いわば、線L11と線L12との間の領域の面積の大きさ)を評価する。
【0049】
例えば、評価部124は、実測値のサンプリング時刻毎に、評価対象演算値と評価対象実測値との差の二乗を算出し、得られた値を時間方向に合計して誤差評価値とする。得られた誤差評価値が小さいほど、数値設定部122の設定した値が実際の値に近いと評価できる。従って、誤差評価値が小さいほど、数値設定部122が未知定数として設定した吊荷の重心位置が、実際の重心位置に近いと評価できる。
【0050】
そこで、評価部124は、得られた誤差評価値に基づいて、変数の初期値や未知定数の値を再設定して変数値の演算を再実行するか、当該処理を打ち切って吊荷の重心位置の算出結果を出力するかを判定する。例えば、得られた誤差評価値が所定の評価基準閾値より大きい場合、評価部124は、変数の初期値や未知定数の値を再設定して変数値の演算を再実行することに決定する。一方、得られた誤差評価値が所定の評価基準閾値以下である場合、評価部124は、当該処理を打ち切り、数値設定部122が設定した最新の吊荷の重心位置を、吊荷の重心位置の算出結果として出力することに決定する。
このように、評価部124は、変数値演算部123が取得した変数の値の評価結果が所定の条件を満たす場合に、設定されている吊荷の重心位置を重心位置算出部120の算出結果とする。
【0051】
ただし、評価部124が、変数値演算部123の取得した変数の値を評価する方法は、上述した方法に限らない。例えば、評価対象演算値と評価対象実測値の差の二乗に代えて、両者の差の絶対値を算出するなど、評価対象演算値と評価対象実測値との差が小さい場合に高評価とする様々な評価方法を用いることができる。
また、評価部124は、評価対象値についても様々な値を用いることができる。
【0052】
例えば、実測値取得部110が、吊り状態実測値に、吊荷を吊るす力の実測値を含んで取得し、評価部124が、吊荷を吊るす力を評価対象値として誤差評価値を算出するようにしてもよい。すなわち、評価部124が、変数値演算部123の取得した変数の値から得られる吊荷を吊るす力の計算値と、実測値取得部110が取得した吊荷を吊るす力の実測値とに基づいて、変数値演算部123が取得した変数の値を評価するようにしてもよい。
【0053】
ここで、上述したように、吊荷を吊るす力として、吊荷吊点位置においてロープが吊荷に作用させる力を用いてもよいし、上部吊点位置においてロープ支持物がロープに作用させる力を用いてもよい。例えば、評価部124は、式(6)に基づいて誤差評価値Jを算出する。
【0055】
但し、f
i(j)は、時刻j(数値設定部122の初期値設定に相当する実測値サンプリング時刻から数えてj番目の実測値サンプリング時刻)において、i番目のロープが吊荷に与える力の演算値を示す。また、f
im(j)は、時刻jにおいて、i番目のロープが吊荷に与える力の実測値(張力計の測定値)を示す。
特に、吊荷吊点位置または上部吊点位置に張力計が既に設置されている場合、吊荷を吊るす力を評価対象値とすることで、新たなセンサを設置する必要がない。この点において、センサを増設するコストを抑制できる。
【0056】
あるいは、実測値取得部110が、吊り状態実測値に吊荷の姿勢の実測値を含んで取得し、評価部124が、吊荷の傾きを評価対象値として誤差評価値を算出するようにしてもよい。例えば、評価部124は、式(7)に基づいて誤差評価値Jを算出する。
【0058】
但し、θ
(j)は時刻jにおける吊荷の姿勢の演算値を示す。また、θ
m(j)は時刻jにおける吊荷の姿勢の実測値(例えば、吊荷に設けられた傾斜計の測定値)を示す。
吊荷の傾きは風の影響を受けにくいため、吊荷の傾きを評価対象値とすることで、重心位置検出装置100は、風の強い状況下でも吊荷の重心位置を高精度にて検出することができる。
【0059】
あるいは、実測値取得部110が吊り状態実測値に、吊荷の位置の実測値を含んで取得し、評価部124が、吊荷の位置を評価対象値として誤差評価値を算出するようにしてもよい。例えば、評価部124は、式(8)に基づいて誤差評価値Jを算出する。
【0061】
但し、
pc(j)は時刻jにおける吊荷の位置の演算値を示す。また、
pcm(j)は時刻jにおける吊荷の位置の実測値を示す。
この方法では、誤差評価する変数の数が多いため、重心位置検出装置100は、吊荷の重心位置を高精度にて検出することができる。
あるいは、評価部124が、上記の3つの方法で得られる誤差評価値の重み付け平均をとるなど、複数の方法で得られる誤差評価値の重み付け平均または重み付け合計を算出して評価を行うようにしてもよい。
【0062】
評価部124が、変数の初期値や未知定数の値を再設定して変数値の演算を再実行することに決定した場合、まず、数値設定部122が、変数の初期値や未知定数の値の再設定を行う。このように、数値設定部122は、評価部124の評価結果が所定の条件を満たさない場合に、吊荷の運動モデルに含まれる変数の初期値および未知定数の値を再設定する。
その際、数値設定部122は、誤差評価値がより小さくなるように、変数の初期値および未知定数の値の再設定を行う。
【0063】
ここで、数値設定部122が設定する変数の初期値や未知定数の値が変化すると、通常、評価部124の算出する誤差評価値Jが変化する。すなわち、誤差評価値Jは、数値設定部122が設定する変数の初期値および未知変数の値の関数となっている。そこで、数値設定部122は、最適化手法を用いて、誤差評価値Jがより小さくなるように、再設定する変数の初期値および未知定数の値を決定する。数値設定部122は、最適化手法として、例えば、滑落シンプレックス法、準ニュートン法、逐次2次計画法、遺伝的アルゴリズム(Generic Algorithm;GA)、または焼きなまし法(Simulated Annealing;SA)など、様々な方法を用いることができる。
【0064】
表示部130は、例えば液晶パネルまたは有機EL(Organic Electroluminescence)パネルなどの表示画面を有し、重心位置算出部120が算出した吊荷の重心位置を表示する。併せて、表示部130が吊荷重量を表示するようにしてもよい。
ただし、重心位置検出装置100が吊荷の重心位置を出力する方法は、吊荷の重心位置を視覚的に表示する方法に限らず、様々な方法を用いることができる。例えば、重心位置検出装置100が、スピーカを具備し、吊荷の重心位置の視覚的表示に代えて、あるいは当該視覚的表示に加えて、吊荷の重心位置を音声にて出力するようにしてもよい。あるいは、重心位置検出装置100が、吊荷の重心位置を示すデータを、サーバ装置または表示装置など他機器に出力するようにしてもよい。
【0065】
次に、
図5を参照して重心位置検出装置100の動作について説明する。
図5は、重心位置検出装置100が吊荷の重心位置を検出する処理の手順を示すフローチャートである。重心位置検出装置100は、例えば、吊荷の重心位置検出を指示するユーザ操作に応じて同図の処理を開始する。あるいは、吊荷が地切りすると重心位置検出装置100が同図の処理を開始するなど、重心位置検出装置100が自動的に処理を開始するようにしてもよい。
【0066】
図5の処理において、まず、実測値取得部110が、所定時間分の吊り状態実測値を取得する(ステップS101)。例えば、吊荷が地切りしてから10秒間について、実測値取得部110は、10ミリ秒(ms)のサンプリング周期で、上部吊点位置における各ロープの張力と、吊荷の位置と、吊荷の姿勢(横行方向における吊荷の傾き、走行方向における吊荷の傾き、および、垂直軸回りの回転角度)とを取得する。
【0067】
次に、前処理部121は、吊荷重量を検出する(ステップS102)。例えば、前処理部121は、地切り直後における、各ロープの吊荷を吊るす力の合計値に基づいて、吊荷重量を算出する。あるいは、前処理部121が、巻上モータの電圧値や電流値から吊荷重量を算出するなど、他の方法で吊荷重量を検出するようにしてもよい。
また、前処理部121は、水平方向における吊荷の重心位置を算出する(ステップS103)。例えば、前処理部121は、地切り直後における、各ロープの吊荷を吊るす力のバランスに基づいて、水平方向における吊荷の重心位置を算出する。
【0068】
次に、数値設定部122は、吊荷の運動モデルに含まれる変数の初期値や各種係数(未知係数を含む)の値を設定する(ステップS104)。例えば、数値設定部122は、ステップS102において前処理部121が検出した吊荷荷重を設定する。また、数値設定部122は、吊荷慣性テンソルとして、所定の標準値を設定する。また、数値設定部122は、吊荷の重心位置として、水平方向については、ステップS103で前処理部121が検出した重心位置を設定し、垂直方向については、所定の標準重心位置を設定する。また、数値設定部122は、地切り時のロープ長に基づいて地切り時の吊荷位置を設定し、吊荷の角度や速度や角速度については0に設定する。また、数値設定部122は、風パラメータについては無風状態に設定する。
【0069】
次に、変数値演算部123は、数値設定部122が設定した値に基づいて、吊荷の運動モデルをルンゲ・クッタ法などの解法を用いて解き、実測値サンプリング時刻(ステップS101で実測値取得部110が取得した吊り状態実測値のサンプリング時刻)の各々について、吊荷の位置や姿勢を算出する(ステップS105)。
【0070】
次に、評価部124は、変数値演算部123が算出した変数値の評価を行い(ステップS106)、評価結果に基づいて、変数値算出の打ち切り条件が成立したか否かを判定する(ステップS107)。例えば、評価部124は、上述したように誤差評価値を算出し、誤差評価値が評価基準閾値以下である場合に、打ち切り条件が成立したと判定する。
【0071】
打ち切り条件が成立していないと判定した場合(ステップS107:NO)、上述したように、数値設定部122が、運動モデルに含まれる変数値や未知係数の値の再設定を行う(ステップS111)。その後、ステップS105へ戻る。
一方、打ち切り条件が成立したと判定した場合(ステップS107:YES)、表示部130が、重心位置算出部120の算出した吊荷の重心位置を表示する(ステップS121)。その後、同図の処理を終了する。
【0072】
以上のように、実測値取得部110は、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値を、少なくとも前記吊荷が加速または減速または回転している時刻を含む時系列のデータにて取得する。また、重心位置算出部120は、吊荷の状態モデルとして前記吊荷の運動モデルを用いる。
これにより、重心位置検出装置100は、吊荷が静定状態となっていなくても吊荷の重心位置を検出することができる。従って、例えば吊荷が揺れている場合にトロリを静止させて吊荷が静定状態となるのを待つなど、吊荷の重心位置を検出するために荷役作業を中断する必要がない。この点において、重心位置検出装置100は、荷役効率を低下させずに吊荷の重心位置を検出することができる。
特に、重心位置検出装置100は、荷役効率を低下させずに吊荷の高さ方向の重心位置を検出することができる。
【0073】
また、数値設定部122は、吊荷の運動モデルに含まれる変数の初期値および未知定数の値を設定する。そして、変数値演算部123は、数値設定部122が設定した値を運動モデルに適用して、前記実測値取得部が取得した前記吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値の測定時刻における、変数の値を求める。さらに、評価部124は、変数値演算部123が取得した変数の値を評価し、数値設定部122は、評価部124の評価結果が所定の条件を満たさない場合に、吊荷の運動モデルに含まれる変数の初期値および未知定数の値を再設定する。
このように、評価部124が変数値の演算の打ち切りを決定するまで、数値設定部122が変数の初期値や未知定数の値を再設定し、変数値演算部123が変数値を求めることで、重心位置検出装置100は、吊荷の重心位置を高精度にて検出することができる。
【0074】
また、実測値取得部110が取得した吊り状態実測値のサンプリング期間全体を対象として、評価部124が、誤差評価値を生成する。これにより、吊り状態実測値の一部にセンサノイズ等のノイズが含まれている場合でも、当該ノイズの影響を低減させることができ、重心位置検出装置100は、吊荷の重心位置を高精度にて検出することができる。
【0075】
また、実測値取得部110は、吊り状態実測値に、吊荷を吊るす力の実測値を含んで取得し、
評価部は、吊荷を吊るす力を評価対象値として、変数値演算部123が取得した変数の値を評価する。
これのより、吊荷吊点位置または上部吊点位置に張力計が既に設置されている場合、吊荷を吊るす力を評価対象値とすることで、新たなセンサを設置する必要がない。この点において、センサを増設するコストを抑制できる。
【0076】
なお、コンテナなど吊荷本体の重量に対してスプレッダなど吊具の重量を無視できない場合、例えば重心位置算出部120が、吊荷本体の重心位置や重量を算出するようにしてもよい。
図6は、吊荷本体の重心位置および吊具の重心位置の例を示す説明図である。同図において、吊荷本体の例としてコンテナC11が示され、吊具の例としてスプレッダ930が示されている。また、p
gは吊荷800(吊荷全体)の重心位置を示し、p
sgはスプレッダ930の重心位置を示す。また、p
cgはコンテナC11の重心位置を示す。
ここで、スプレッダ930の重量をm
sで示し、コンテナC11の重量をm
cで示すと、吊荷800の重量mは式(9)のように示される。
【0078】
式(9)を変形すると、式(10)のようになる。
【0080】
そこで、重心位置算出部120は、式(10)を用いてコンテナC11の重量を算出する。
また、基準点回りのモーメントについて、式(11)が成り立つ。
【0082】
式(11)を変形すると、式(12)のようになる。
【0084】
そこで、重心位置算出部120は、式(12)を用いてコンテナC11の重心位置を算出する。
【0085】
但し、吊荷本体の重量や重心位置の算出は必須ではない。例えば、吊荷本体の重量に対して吊具の重量を無視し得る場合や、吊荷本体と吊具とが不可分に一体化されているなど、吊荷本体と吊具とか一体の状態のまま吊荷が搬送される場合は、重心位置算出部120は、吊荷本体の重量や重心位置の算出を行わない。
【0086】
なお、重心位置算出部120が、2次元空間における吊荷の運動モデルを用いるようにしてもよい。
図7は、2次元空間における座標設定の例を示す説明図である。同図では、トロリの走行方向にx座標が設定され、垂直方向にy座標が設定されている。一方、トロリの横行方向の座標は設定されていない。例えば、トロリの横行量が少ない場合など、横行方向の運動の影響が小さい場合、重心位置算出部120が、
図7に示す2次元空間における吊荷の運動モデルを用いて吊荷の重心位置(特に、吊荷の高さ方向の重心位置)を求めるようにしてもよい。
これにより、吊荷の運動モデルに含まれる変数の個数を減らすことができ、変数値演算部123は、より簡単に変数の値を算出することができる。
【0087】
<第3の実施形態>
第3の実施形態では、第1の実施形態で説明した重心位置検出装置10を更に具体化したもう一つの例について説明する。
本実施形態における重心位置検出装置の機能構成は、
図1に示す構成と同様であり、以下、
図1を参照して説明する。但し、本実施形態において、実測値取得部11は、吊り状態実測値を、吊荷の静定状態において取得する。
特に、実測値取得部11は、吊荷が吊るされている状態を示すデータの実測値に、吊荷の回転量(回転角度)の実測値と、吊荷の位置の実測値とを含んで取得する。
【0088】
また、重心位置算出部12は、吊荷の状態モデルとして吊荷の静的モデルを用いる。
ここでいう吊荷の静的モデルとは、静定状態にある吊荷を力学的に模擬するモデルであり、吊荷の状態モデルの一例に該当する。また、吊荷の静的モデルは、吊荷の速度を示す変数や吊荷の加速度を示す変数や吊荷の角速度を示す変数や吊荷の角加速度を示す変数のいずれも含まない。
特に、重心位置算出部12は、吊荷の回転量と、吊荷における、ロープに吊るされている箇所の位置と、ロープがロープ支持物に支持されている箇所の位置と、吊荷の重心位置とを示す変数を含む吊荷の状態モデルと、実測値取得部11が取得した実測値とに基づいて、吊荷の重心位置を算出する。
【0089】
ここで、
図8は、重心位置算出部12が用いる吊荷の静的モデルにおいて設定される点の例を示す説明図である。
同図において、吊荷800とロープ920とが示されている。
また、点FR1、FL1、AR1およびAL1は上部吊点位置を示す。上部吊点位置の中心位置を原点として、トロリの走行方向にx座標を設定し、横行方向にy座標を設定し、垂直方向にz座標を設定する。但し、座標系の取り方はこれに限らず、様々な座標系を採用し得る。
【0090】
上部吊点位置は、例えばエンコーダでシーブ変位を検出することで、検出可能である。あるいは、機械式振止のシーブ開閉操作がない場合は、上部吊点位置は固定値となる。
なお、以下では、上部吊点位置の座標を、FR1(x1FR,y1FR,z1FR)、FL1(x1FL,y1FL,z1FL)、AR1(x1AR,y1AR,z1AR)およびAL1(x1AL,y1AL,z1AL)と表記する。
【0091】
また、点FR2、FL2、AR2およびAL2は吊荷吊点位置の初期位置を示す。ここで、吊荷吊点位置の初期位置として、上部吊点位置の真下にある場合の位置を用いる。吊荷吊点位置の初期位置は、ロープ長から幾何学的に求めることができる。
なお、以下では、吊荷吊点位置の初期位置の座標を、FR2(x2FR,y2FR,z2FR)、FL2(x2FL,y2FL,z2FL)、AR2(x2AR,y2AR,z2AR)およびAL2(x2AL,y2AL,z2AL)と表記する。
【0092】
また、吊荷が初期位置から移動した場合(吊荷吊点位置が初期位置から移動した場合)を考え、FR2、FL2、AR2、AL2の移動後の吊荷吊点位置を、それぞれFR5、FL5、AR5、AL5とする。以下では、移動後の吊荷吊点位置の座標を、FR5(x5FR,y5FR,z5FR)、FL5(x5FL,y5FL,z5FL)、AR5(x5AR,y5AR,z5AR)およびAL5(x5AL,y5AL,z5AL)と表記する。
また、点O’は、移動後の吊荷吊点の中心位置を示す。また、点Gは、移動後の吊荷の重心位置を示す。なお、第2の実施形態の場合と異なり、第3の実施形態では、「’」は変数名の一部であり、時間微分を示すものではない。
【0093】
ここで、吊荷の移動について、平行移動と重心回り(G回り)の回転とに分けて考える。
以下では、重心回りの回転量のx成分(リスト)をxsと表記し、y成分(トリム)をysと表記し、z成分(スキュー)をzsと表記する。リストxsやトリムysは、例えばスプレッダ上にx座標方向、y座標方向のそれぞれに傾斜計を設置して検出し得る。また、スキューzsは、例えばジャイロや振れセンサで検出し得る。
【0094】
一方、平行移動後の吊荷吊点位置は未知である。すなわち、吊荷の移動は、平行移動と回転とが混ざった形では測定可能だが、そのうち平行移動成分のみを測定することは困難である。以下では、FR2から平行移動後の吊荷吊点位置の座標を、FR3(x3FR,y3FR,z3FR)と表記する。同様に、FL2から平行移動後の吊荷吊点位置の座標を、FL3(x3FL,y3FL,z3FL)と表記する。また、AR2から平行移動後の吊荷吊点位置の座標を、AR3(x3AR,y3AR,z3AR)と表記する。また、AL2から平行移動後の吊荷吊点位置の座標を、AL3(x3AL,y3AL,z3AL)と表記する。
また、吊荷吊点の中心位置に対する吊荷の重心位置の偏心量は未知である。以下では、吊荷吊点の中心位置に対する吊荷の重心位置の偏心量のx座標成分をdx、y座標成分をdy、z座標成分をdzと表記する。
【0095】
ここで、吊荷吊点中心位置の初期位置(xh0,yh0,zh0)は、吊荷吊点位置の初期位置を用いて式(13)のように示される。
【0097】
また、吊荷の平行移動分は、平行移動後の吊荷吊点中心位置と吊荷吊点中心位置の初期位置との差分として示され、これを吊荷吊点位置の初期位置に加えたものが、平行移動後の吊荷吊点位置となる。従って、吊荷吊点位置の初期位置FR2から平行移動した吊荷吊点位置FR3(x3FR,y3FR,z3FR)は、式(14)のように示される。
【0099】
吊荷吊点位置の初期位置FL2、AR2、AL2から平行移動した吊荷吊点位置FL3(x3FL,y3FL,z3FL)、AR3(x3AR,y3AR,z3AR)、AL3(x3AL,y3AL,z3AL)についても同様である。
また、平行移動後の吊荷重心位置(xg,yg,zg)は、式(15)のように示される。
【0101】
但し、(xh1,yh1,zh1)は、移動後の吊荷吊点中心位置O’の座標を示す。
また、平行移動後の吊荷吊点位置の座標から平行移動後の吊荷重心位置の座標を減算することで、平行移動後の吊荷吊点位置の座標を、平行移動後の吊荷重心位置を原点とする座標系における座標に変換することができる。従って、平行移動後の吊荷吊点位置FR3の座標系を変換した座標FR4(x4FR,y4FR,z4FR)は、式(16)のように示される。
【0103】
平行移動後の吊荷吊点位置FL3の座標系を変換した座標FL4(x4FL,y4FL,z4FL)、平行移動後の吊荷吊点位置AR3の座標系を変換した座標AR4(x4AR,y4AR,z4AR)、平行移動後の吊荷吊点位置AL3の座標系を変換した座標AL4(x4AL,y4AL,z4AL)についても同様である。
【0104】
また、移動後の吊荷吊点位置FR5(x5FR,y5FR,z5FR)は、座標FR4(x4FR,y4FR,z4FR)と、重心回りの回転量xs、ys、zsと、平行移動後の吊荷重心位置(xg,yg,zg)との関数として、式(17)のように示される。
【0106】
但し、fxfr1、fyfr1、fzfr1は、いずれも関数を示す。
移動後の吊荷吊点位置FL5(x5FL,y5FL,z5FL)、AR5(x5AR,y5AR,z5AR)、AL5(x5AL,y5AL,z5AL)についても同様である。
また、移動後の吊荷吊点中心位置O’(xh5,yh5,zh5)は、移動後の吊荷吊点位置に基づいて式(18)のように示される。
【0108】
また、上部吊点位置FR1と吊荷吊点位置FR5とを結ぶロープのロープ長rope_FRは、式(19)のように示される。
【0110】
上部吊点位置FL1と吊荷吊点位置FL5とを結ぶロープのロープ長rope_FL、上部吊点位置AR1と吊荷吊点位置AR5とを結ぶロープのロープ長rope_AR、上部吊点位置AL1と吊荷吊点位置AL5とを結ぶロープのロープ長rope_ALについても同様である。
また、上部吊点位置FR1と吊荷吊点位置FR5とを結ぶロープの張力tens_FRは式(20)のように示される。
【0112】
但し、rope_lはロープの自然長を示す。また、rope_yはロープのヤング率を示す。また、rope_aはロープの断面積を示す。また、「・」はスカラ積を示す。
上部吊点位置FL1と吊荷吊点位置FL5とを結ぶロープの張力tens_FL、上部吊点位置AR1と吊荷吊点位置AR5とを結ぶロープの張力tens_AR、上部吊点位置AL1と吊荷吊点位置AL5とを結ぶロープの張力tens_ALについても同様である。
【0113】
ここで、式(13)〜(17)等に示される関係に基づいて、式(18)を、吊荷吊点位置の初期位置FR2、FL2、AR2、AL2の各座標と、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzと、吊荷の回転量xs、ysおよびzsとの方程式3つに変形できる。吊荷吊点位置の初期位置FR2、FL2、AR2、AL2の各座標と、吊荷の回転量xs、ysおよびzsとは検出可能でなので、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzとの6つの未知の値に対して3つの方程式を得られる。
【0114】
また、式(20)に対し、式(19)を用いてrope_FRを消去し、さらに、式(13)〜(17)等に示される関係に基づいて、ロープ張力tens_FRと、ロープの自然長rope_lと、ヤング率rope_yと、ロープの断面積rope_aと、上部吊点位置FR1の座標と、吊荷吊点位置の初期位置FR2、FL2、AR2、AL2の各座標と、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzと、吊荷の回転量xs、ysおよびzsとの方程式に変形できる。
ロープの自然長rope_lと、ヤング率rope_yと、ロープの断面積rope_aと、上部吊点位置FR1の座標と、吊荷吊点位置の初期位置FR2、FL2、AR2、AL2の各座標と、吊荷の回転量xs、ysおよびzsとは検出可能でなので、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzとの6つの未知の値に対して3つの方程式を得られる。
他のロープについても同様に方程式を得ることができ、従って、4本のロープから4つの方程式を得られる。
【0115】
このように、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzとの6つの未知の値に対して7つの方程式を得られる。
もっとも、これら7つの方程式は独立ではなく、上述したように、吊荷が吊るされている状態を示すデータを1つの状態についてのみ取得したのでは、吊荷の重心の高さを確定することができない。
そこで、実測値取得部11は、異なる2つの状態について、各実測値を取得する。これにより、重心位置算出部12は、14個の方程式を得られる。これら14個の方程式は独立ではないが、重心位置算出部12は、方程式を解くことで6つの未知の値、すなわち、移動後の吊荷吊点中心位置の座標xh1、yh1およびzh1と、吊荷重心位置の偏心量dx、dyおよびdzとを求めることができる。特に、重心位置算出部12は、吊荷の重心位置を示す偏心量dx、dyおよびdzを算出でき、吊荷の重心位置を求めることができる。
【0116】
なお、重心位置検出装置10は、吊荷の重心位置の検出結果の出力方法として様々な方法を用いることができる。例えば、重心位置検出装置10が表示部を具備し、吊荷の重心位置の検出結果を視覚的に表示するようにしてもよい。あるいは、重心位置検出装置10がスピーカを具備し、吊荷の重心位置の検出結果の視覚的な表示に代えて、あるいは視覚的な表示に加えて、音声にて出力するようにしてもよい。あるいは、重心位置検出装置10が、吊荷の重心位置の検出結果を、サーバ装置や表示装置など他機器に出力するようにしてもよい。
【0117】
なお、実測値取得部11が、異なる3つ以上の状態にて吊り状態実測値を取得するようにしてもよい。これにより、重心位置算出部は、より多くのデータに基づいて吊荷の重心位置を算出することができ、最小二乗法による平均値をとるなどして、センサノイズなど、吊り状態実測値の一部にセンサノイズ等のノイズが含まれている場合でも、当該ノイズの影響を低減させることができる。従って、重心位置検出装置10は、吊荷の重心位置を高精度にて検出することができる。
【0118】
また、実測値取得部11が、同一の吊り状態実測値繰り返し取得するようにしてもよい。例えば、実測値取得部11が、吊荷の回転量と吊荷吊点中心位置とのみを、繰り返し取得するようにしてもよい。
また、ヤング率などの固定パラメータも未知パラメータとして状態モデルに含めておくことで、経年劣化に対応することが可能である。
【0119】
なお、傾斜計等のセンサのオフセット誤差に対しては、例えば重心がコンテナ中心にある基準コンテナで計測し校正する。あるいは,コンテナをヤードシャーシ上に載せた後、スプレッダのみで海側へ戻る際に重心を検出し、平均値をオフセット誤差として取得して、コンテナ搬送時の重心位置の検出値から除去するようにしてもよい。
【0120】
以上のように、実測値取得部11は、吊り状態実測値を、吊荷の静定状態において取得する。例えば、実測値取得部11は、吊り状態実測値に、吊荷の回転量の実測値と、吊荷の位置の実測値とを含んで取得する。
また、重心位置算出部12は、吊荷の状態モデルとして吊荷の静的モデルを用いる。例えば、重心位置算出部12は、吊荷の回転量と、吊荷の位置と、吊荷の重心位置とを示す変数を含む吊荷の状態モデルと、実測値取得部11が取得した実測値とに基づいて、吊荷の重心位置を算出する。
これにより、重心位置算出部12は、微分方程式を解く必要無しに、吊荷の重心位置を算出することができる。この点において、重心位置算出部12は、簡単な処理にて心位置吊荷の重心位置を算出することができる。
特に、重心位置算出部12は、高さ方向の吊荷の重心位置を算出することができる。
【0121】
なお、重心位置算出部12が用いる吊荷の状態モデルは上記のものに限らず、様々な状態モデルを用いることができる。その場合、実測値取得部11は、状態モデルに応じた吊り状態実測値を取得する。
例えば、実測値取得部11が、ロードセルを用いて吊荷重量を検出する場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に吊荷荷重を検出することができる。また、実測値取得部11が、歪ゲージを用いて吊荷重量を検出する場合も、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に吊荷荷重を検出することができる。あるいは、実測値取得部11が、巻上トルクに基づいて吊荷荷重を検出するようにしてもよい。
【0122】
また、実測値取得部11が、巻きエンコーダを用いて巻きドラムの回転数を検出し、得られた回転数に基づいてロープの自然長を求める場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価にロープの自然長を検出することができる。また、この方法では、比較的高精度にロープの自然長を検出し得る。
【0123】
また、実測値取得部11が、上部吊点位置を移動させるシリンダの変位をエンコーダを用いて検出し、得られたシリンダの変位に基づいて上部吊点位置を検出する場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に上部吊点位置を検出することができる。
【0124】
また、実測値取得部11が、スプレッダに設けられた傾斜計を用いて吊荷の回転量(トリム)を検出する場合、比較的安価に吊荷の回転量(トリム)を検出できる。同様に、実測値取得部11が、スプレッダに設けられた傾斜計を用いて吊荷の回転量(リスト)を検出する場合、比較的安価に吊荷の回転量(リスト)を検出できる。
【0125】
また、実測値取得部11が、ジャイロを用いて吊荷の回転量(スキュー)を検出する場合、比較的安価に吊荷の回転量(スキュー)を検出できる。一方、実測値取得部11が、振れセンサを用いて吊荷の回転量(スキュー)を検出する場合、より高精度に吊荷の回転量(スキュー)を検出することができる。
【0126】
また、実測値取得部11が、振れセンサを用いて吊荷の水平方向の移動変位を検出する場合、より高精度に移動変位を検出することができる。あるいは、実測値取得部11が、加速度計を用いて吊荷の加速度を検出し、二階積分を取ることで吊荷の水平方向の移動変位を検出する場合、比較的安価に吊荷の水平方向の移動変位を検出することができる。また、実測値取得部11が、横行モータトルクから吊荷の水平方向の移動変位を検出する場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に荷の水平方向の移動変位を検出することができる。
【0127】
また、実測値取得部11が、巻きエンコーダを用いて巻きドラムの回転数を検出し、得られた回転数に基づいて垂直方向の吊荷の移動変位を検出する場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に荷の水平方向の移動変位を検出することができる。あるいは、実測値取得部11が、レーザ距離計を用いて垂直方向の吊荷の移動変位を検出するようにしてもよい。
【0128】
また、実測値取得部11が、ロードセルを用いて巻きロープの張力を検出する場合、設備の追加を行う必要が無く、この点において安価に巻きロープの張力を検出することができる。あるいは、実測値取得部11が、歪ゲージを用いて巻きロープの張力を検出するようにしてもよい。
【0129】
なお、重心位置検出装置10や100の各部の全部または一部の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより各部の処理を行ってもよい。なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、OSや周辺機器等のハードウェアを含むものとする。
また、「コンピュータシステム」は、WWWシステムを利用している場合であれば、ホームページ提供環境(あるいは表示環境)も含むものとする。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD−ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良く、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよい。
【0130】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。