【実施例1】
【0023】
まず、本実施例に係る車両のドアサッシュ構造について
図1乃至
図4を参照して説明する。なお、本実施例は、本発明を車両の左側のリアドアに適用したものである。
【0024】
本実施例における自動車のスライド式開閉窓は、
図2に示すように、車両ドア1に形成された窓開口部10に窓ガラス20が嵌め込まれ、窓ガラス20が窓開口部10の両側(
図2における左側および右側)を支えるドアのサッシュ部30、40に沿って開閉方向(
図2における上下方向)に摺動する構造となっている。
【0025】
車両の気密性を確保するために、窓ガラス20とサッシュ部40との間にシール部材としてドアランチャンネル50が設けられる(
図1および
図4参照)。ドアランチャンネル50は、サッシュ部40の縁部に沿って設けられ、窓ガラス20とサッシュ部40との隙間をシールするとともに窓ガラス20のスライド昇降を案内するものであり、アウター側壁部51と、インナー側壁部52と、連結部53と、アウター被覆部54と、インナー被覆部55とを有する。
【0026】
ドアランチャンネル50は、アウター側壁部51とインナー側壁部52および連結部53において略コ字形状の断面を成し、略コ字形状の凹部56に窓ガラス20が納まるようになっている。アウター側壁部51は、サッシュ部40を構成するアウターパネル60とインナーパネル70との間におけるアウターパネル60側に位置し、インナー側壁部52は、アウターパネル60とインナーパネル70との間におけるインナーパネル70側に位置し、連結部53は、窓ガラス20の端部21と対向すると共にアウター側壁部51とインナー側壁部52とを連結する。
【0027】
ここで、アウターパネル60は、サッシュ部40において窓ガラス20の車外側を支持するものであり、インナーパネル70は、サッシュ部40においてアウターパネル60と対向して窓ガラス20の車内側を支持するものである。
【0028】
ドアランチャンネル50におけるアウター側壁部51の一端縁およびインナー側壁部52の一端縁には、凹部56へ延びるシール部57が設けられる。シール部57が窓ガラス20と当接することよって、サッシュ部40と窓ガラス20との隙間はシールされる。
【0029】
更に、ドアランチャンネル50は、アウター側壁部51の一端縁からアウターパネル60の車外側(
図1および
図4における上側)へ折り返されてアウターパネル60の車外側を覆うアウター被覆部54を有し、インナー側壁部52の一端縁からインナーパネル70の車内側(
図1および
図4における下側)へ折り返されてインナーパネル70の車内側を覆うインナー被覆部55を有する。
【0030】
ドアランチャンネル50はゴムや樹脂等から成る弾性体であり、ドアランチャンネル50をサッシュ部40に嵌合させると、ドアランチャンネル50におけるアウター側壁部51、インナー側壁部52、連結部53、アウター被覆部54、インナー被覆部55がそれぞれサッシュ部40を構成する部材と当接し、ドアランチャンネル50が僅かに弾性変形することにより、当該部材に引っ掛かるようにして保持される。
【0031】
本実施例では、車両後方側(
図2における右側)のサッシュ部40をその構造上の機能により、サッシュ部40の傾きが変わる屈曲部41を境に二つに分け、サッシュ部40の屈曲部41よりも下部を窓ガラス20のスライド昇降の案内に寄与するサッシュ摺動部42とし、サッシュ部40の屈曲部41および屈曲部41よりも上部を窓ガラス20のスライド昇降の案内に寄与しないサッシュ傾斜部43とする。
【0032】
サッシュ摺動部42においては、窓ガラス20の摺動方向に沿った形状の部分を有し、当該部分が常に窓ガラス20を拘束する。よって、窓ガラス20を確実に挟持すると共に安定した摺動ができるように、
図3および
図4に示すように、サッシュ摺動部42は、アウターパネル60とインナーパネル70に加えガラスガイド80を備え、アウターパネル60とインナーパネル70およびガラスガイド80によってドアランチャンネル50を保持すると共に、常に窓ガラス20を拘束する。なお、ガラスガイド80の設置範囲が分かり易いように、
図3にはアウターパネル60を示していない。
【0033】
図4に示すように、サッシュ摺動部42におけるガラスガイド80には、窓ガラス20の端部21と対向するガイド面81が設けられ、ガイド面81には、ドアランチャンネル50における連結部53の突起部が当接される。また、ガラスガイド80の縁部82は、インナーパネル70の縁部71に重ねられて設けられ、アウターパネル60側へ膨出形成された段差部83を有する。この段差部83にドアランチャンネル50におけるインナー側壁部52の突起部が当接されることにより、ドアランチャンネル50の窓ガラス20側(
図4における左方側)への移動が規制される。本実施例においては、ガラスガイド80は、サッシュ部40の長手方向における窓ガラス20のスライド昇降の案内に寄与する所定の範囲であるサッシュ摺動部42にのみ設けられている(
図3参照)。
【0034】
サッシュ摺動部42におけるインナーパネル70の車内側(
図4における下方側)には、ドアランチャンネル50におけるインナー被覆部55の突起部が当接される。よって、ドアランチャンネル50のインナー被覆部55およびインナー側壁部52のアウターパネル60側(
図4における上方側)への移動が規制される。
【0035】
サッシュ摺動部42におけるアウターパネル60の車内側(
図4における下方側)には、ドアランチャンネル50におけるアウター側壁部51の突起部が当接され、アウターパネル60の車外側(
図4における上方側)には、ドアランチャンネル50におけるアウター被覆部54の突起部が当接される。よって、ドアランチャンネル50のアウター被覆部54およびアウター側壁部51のインナーパネル70側(
図4における下方側)への移動が規制されると共に、ドアランチャンネル50の窓ガラス20側(
図4における左方側)への移動が規制される。
【0036】
一方、サッシュ傾斜部43においては、窓ガラス20の摺動方向と異なる方向に沿った形状の部分を有し、当該部分が窓ガラス20を閉じたときのみ窓ガラス20を拘束する(
図3参照)。よって、窓ガラス20を閉じた状態で窓ガラス20をある程度拘束することができれば良いので、
図1に示すように、サッシュ傾斜部43は、アウターパネル60とインナーパネル70だけを備え、アウターパネル60およびインナーパネル70によってドアランチャンネル50を保持すると共に、閉じたときのみ窓ガラス20を拘束する。
【0037】
つまり、ドアランチャンネル50は、サッシュ部40を構成する部材によって保持され、サッシュ摺動部42においてはアウターパネル60、インナーパネル70およびガラスガイド80によって保持され、サッシュ傾斜部43においてはアウターパネル60およびインナーパネル70によって保持される。
【0038】
よって、本実施例では、
図3から分かるように、サッシュ部40における屈曲部41より下部のサッシュ摺動部42にはガラスガイド80が設けられ、サッシュ部40における屈曲部41および屈曲部41より上部のサッシュ傾斜部43にはガラスガイド80は設けられていない。
【0039】
本実施例では、
図1に示すように、サッシュ傾斜部43においてドアランチャンネル50をアウターパネル60とインナーパネル70だけで保持することができるように、インナーパネル70の縁部71がガラスガイド80の縁部82における形状を併せ持つように、インナーパネル70を形成している。つまり、サッシュ部40のガラスガイド80が設けられない範囲であるサッシュ傾斜部43(
図3参照)におけるインナーパネル70の縁部71には、対向するアウターパネル60側(
図1における上方側)に膨出形成されてドアランチャンネル50のインナー側壁部52を支持してドアランチャンネル50の窓ガラス20側(
図1における左方側)への移動を規制する複数の側壁支持部72がサッシュ部40の長手方向に沿って所定の間隔で設けられている(
図3参照)。
【0040】
言い換えると、インナーパネル70の縁部71が、ドアランチャンネル50のインナー被覆部55と当接してドアランチャンネル50を支持する複数の被覆支持部73と、ガラスガイド80の形状を模したドアランチャンネル50のインナー側壁部52と当接してドアランチャンネル50を支持する複数の側壁支持部72とを有するように、インナーパネル70の縁部71を、被覆支持部73と側壁支持部72とをサッシュ部40の長手方向に沿って交互に設けた略波形状としている(
図3参照)。
【0041】
図1に示すように、サッシュ傾斜部43におけるインナーパネル70の被覆支持部73の車内側(
図1における下方側)には、ドアランチャンネル50におけるインナー被覆部55の突起部が当接され、インナーパネル70の側壁支持部72の車外側(
図1における上方側)には、ドアランチャンネル50におけるインナー側壁部52の突起部が当接される。よって、ドアランチャンネル50のインナー被覆部55およびインナー側壁部52のアウターパネル60側(
図1における上方側)への移動が規制されると共に、ドアランチャンネル50の窓ガラス20側(
図1における左方側)への移動が規制される。
【0042】
サッシュ傾斜部43におけるアウターパネル60の車内側(
図1における下方側)には、ドアランチャンネル50におけるアウター側壁部51の突起部が当接され、アウターパネル60の車外側(
図1における上方側)には、ドアランチャンネル50におけるアウター被覆部54の突起部が当接される。よって、ドアランチャンネル50のアウター被覆部54およびアウター側壁部51のインナーパネル70側(
図1における下方側)への移動が規制されると共に、ドアランチャンネル50の窓ガラス20側(
図1における左方側)への移動が規制される。
【0043】
次に、本実施例に係る車両のドアサッシュ構造の作用効果について
図1を参照して説明する。
【0044】
図1に示すように、インナーパネル70に、ドアランチャンネル50のインナー側壁部52を支持する側壁支持部72と、ドアランチャンネル50のインナー被覆部55を支持する被覆支持部73とを有する縁部71を設けたことにより、サッシュ傾斜部43においては、アウターパネル60とインナーパネル70によってドアランチャンネル50は保持される。
【0045】
つまり、サッシュ傾斜部43においては、インナーパネル70の側壁支持部72がガラスガイド80の代わりにインナー側壁部52を支持し、インナーパネル70の被覆支持部73がインナー被覆部56を支持しているので、ドアランチャンネル50を保持するのにガラスガイド80を要さない。
【0046】
例えば、単にガラスガイド80を廃止しただけの場合においては、
図5に示すように、インナー被覆部55とインナーパネル70との間に隙間gが生じ、インナーパネル70のインナー被覆部55を支持する被覆支持部73だけではドアランチャンネル50を十分に保持することができず、ドアランチャンネル50が外れ易い状態となってしまう。
【0047】
また、ガラスガイド80を廃止し、インナーパネル70をガラスガイド80の縁部82と同様の形状にしただけの場合においては、
図6に示すように、インナー側壁部52とインナーパネル70とが当接し、インナーパネル70によってドアランチャンネル50を保持できているように見える。しかし、インナー被覆部55とインナーパネル70とが当接していないので、インナー被覆部55の車内側(
図6における下側)から外部圧力Pが作用すると、ドアランチャンネル50は外れ易い状態となってしまう。
【0048】
本実施例に係る車両のドアサッシュ構造においては、窓ガラス20のスライド昇降の案内に寄与しないサッシュ傾斜部43におけるガラスガイド80を廃止したことにより、ガラスガイド80の長さを短く設定することができる(
図3参照)。よって、ガラスガイド80の材料費を削減することができる。また、ガラスガイド80を成形するための金型を小型化することができるので、ガラスガイド80の製作に係る準備費用を削減することができる。つまり、ガラスガイド80を、サッシュ部40の長手方向における所定の範囲にのみ設け、ガラスガイド80の長さを短く設定することにより、ガラスガイド80を備える車両の製作費を削減することができる上、車両の軽量化にも寄与する。
【0049】
なお、サッシュ部40の長手方向における窓ガラス20のスライド昇降の案内に寄与しない部分、つまり、ガラスガイド80を廃止したサッシュ傾斜部43(
図3参照)においては、
図1に示すように、インナーパネル70の縁部71をドアランチャンネル50のインナー側壁部52を支持する側壁支持部72と、ドアランチャンネル50のインナー被覆部55を支持する被覆支持部73とを有する形状としたので、ドアランチャンネル50は確実に保持され、外れ易い状態にならない。
【0050】
なお、ドアランチャンネル50を保持するために、接着剤や粘着テープ等を使用していないので、製作費の増加を招くことはない。また、ドアランチャンネル50を固着せず、嵌合させているだけなので、ドアランチャンネル50が劣化した場合等にはドアランチャンネル50の交換等を容易に行うことができる。
【0051】
上述の実施例においては、インナーパネル70の縁部71に側壁支持部72と被覆支持部73とを形成としたが、本発明はこれに限定されず、ドアランチャンネル50の形状によっては、インナーパネル70の縁部71に側壁支持部72と被覆支持部73とを形成することに代えて、またはこれらと共に、アウターパネル60の縁部61にドアランチャンネル50のアウター側壁部51を支持する側壁支持部(図示せず)と、ドアランチャンネル50のアウター被覆部54を支持する被覆支持部(図示せず)とを形成するようにしても良い。このようにした場合も、上述の実施例と同様の作用効果を奏する。