(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0010】
(吸音パネルの構成)
図1(a)は、本発明の一実施形態に係る吸音パネル100の正面図であり、基礎などの上に吸音パネル100が立設された状態を示している。
図1(b)は、
図1(a)のA−A断面図である。この吸音パネル100は、移動する音源(例えば、自動車(車両)、新幹線(電車))が走行する道路(例えば高速道路)、線路(例えば新幹線などの線路)の両側に、その道路、線路に沿って設けるものであり、防音壁となるものである。
【0011】
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る吸音パネル100は、多数の貫通孔1aが設けられた多孔板1と、多孔板1との間に所定の間隔(奥行Dmm(内寸))をあけて多孔板1の後方に配置された背後板2と、多孔板1と背後板2との間の空気層を仕切る複数の仕切り板3と、を備えている。背後板2に孔はあけられていない。また、直方体形状の吸音パネル100の周囲4面は、側板4でそれぞれ閉止されている。
【0012】
貫通孔1aの径は、例えば0.3〜3mmである。多孔板1の開口率は、例えば10%以下である。音源からの音は、貫通孔1aを通過する際に減衰する。なお、音の減衰原理(吸音原理)の詳細については、例えば特許文献1(特開2008−138505号公報)を参照されたい。特許文献1以外にも本技術分野(吸音パネル)において多数の出願を本出願人は行っているので、必要に応じて適宜参照されたい。
【0013】
多孔板1、背後板2、および側板4の材料は、鋼板、アルミニウム板、樹脂板などである。仕切り板3の材料は、鋼板、アルミニウム板、樹脂板、アルミニウム箔材などである。
【0014】
本実施形態の吸音パネル100は、背後空気層Xが4つの仕切り板3で仕切られて、計5つの背後空気層X1〜X5を有する構造とされている。背後空気層X1〜X5、1つ当りの幅は、それぞれ約Wmmとされ、その高さは約Hmmとされている。吸音パネル100の寸法は、幅約5Wmm、高さ約Hmm、奥行き約Dmmである。なお、この構造は例示であり、2つの背後空気層を有する構造であってもよいし、6つ以上の背後空気層を有する構造などであってもよい。また、複数の背後空気層X、1つ当りの幅は、全て等しくなくてもよい。
【0015】
ここで、仕切り板3は、音源が近づいたら当該仕切り板3によって仕切られた隣り合う空気層同士(例えば、背後空気層X2と背後空気層X3)を連通させ、音源が離れたら当該空気層同士を再度仕切る、可動式の仕切り板とされている。本実施形態において、可動式の複数の仕切り板3は、音源の移動方向Rに並ぶように(音源が移動する方向に沿って)、吸音パネル100内に配設されている。
【0016】
図4(a)は、
図1(b)の仕切り板3部分の拡大図である。符号を付して
図4(a)に示したように、本実施形態の仕切り板3は、固定仕切り板部3aと可動仕切り板部3cとを有する。可動仕切り板部3cは、固定仕切り板部3aに対して、支持軸部3bを支点にして回動する。
【0017】
図4(a)に示したように、本実施形態においては、固定仕切り板部3aの長さL1と可動仕切り板部3cの長さL2とは等しくされている。すなわち、仕切り板3は半分可動とされている。そのため、可動仕切り板部3cが回動すると、隣り合う背後空気層同士の隣り合う部分の半分が連通することになる。なお、隣り合う背後空気層同士の隣り合う部分の半分以下の部分が連通するように可動仕切り板部3cの寸法を決めてもよい。ただし、隣り合う背後空気層同士の連通部分の面積(連通面積)は、隣り合うその背後空気層同士を仕切る仕切り板3の両側の、仕切り板3で区画された部分(幅Wmmの部分)の多孔板1にあけられた貫通孔1aの総面積よりも十分大きな面積とする。
【0018】
(作用・効果)
図2(a)、(b)は、吸音パネル100のそばを音源が通過するときの様子を示した図である。
図2(a)、(b)は、
図1(a)に対応する図である。すなわち、
図2(a)、(b)は、音源が通過するときの
図1(a)のA−A断面図である。
図2中の矢印は音源の移動方向R(走行方向)を示す。
【0019】
まず、音源が存在しないとき、吸音パネル100の各仕切り板3は、
図1(a)に示す状態となっている。すなわち、多孔板1と背後板2との間の空気層(背後空気層)は、複数の仕切り板3で5つの背後空気層X1〜X5に仕切られている。この状態のとき、背後空気層の厚みDが薄い(例えば厚30mm)と、貫通孔1aの径、多孔板1の開口率、背後空気層の厚みDなどによって決まる高い周波数帯域の吸音率が高い状態となっている。
【0020】
ここで、吸音パネル100のそばを音源が通過する際、背後空気層X3のそば当りを音源が通過しているとする(
図2参照)。このとき、背後空気層X3のそばでは風圧などにより空気の圧力差が生じる。この圧力差によって、背後空気層X3を区画形成している背後空気層X3の両側の仕切り板3の可動仕切り板部3cがいずれも動く(回動する)と、背後空気層X2と背後空気層X3とが連通するとともに、背後空気層X3と背後空気層X4とが連通する(
図2(a)参照)。これにより、等価な背後空気層厚が3倍となり(D×3=3D)、低い周波数帯域の吸音率が高まる。
【0021】
また、上記圧力差によって、さらにその両側の仕切り板3の可動仕切り板部3cも動いたとする(
図2(b)参照)。このとき、5つの背後空気層X1〜X5の間は全て連通するので、等価な背後空気層厚が5倍となり(D×5=5D)、より低い周波数帯域の吸音率が高まる。
【0022】
図3に示すグラフは、吸音パネル100の吸音性能を示すグラフである。グラフの横軸は、1/3オクターブ中心周波数とし、垂直入射吸音率を縦軸にとった。
【0023】
◆マークおよび点線で示すのは、
図1(b)の状態、すなわち、仕切り板3が動いていないときの吸音パネル100の音源の移動方向Rにおける中央部分の吸音性能である。
■マークおよび実線で示すのは、
図2(a)の状態、すなわち、2つの仕切り板3が動いたときの吸音パネル100の音源の移動方向Rにおける中央部分の吸音性能である。
▲マークおよび一点鎖線で示すのは、
図2(b)の状態、すなわち、4つの仕切り板3が動いたときの吸音パネル100の音源の移動方向Rにおける中央部分の吸音パネル100の吸音性能である。
【0024】
図3からわかるように、仕切り板3が動いていないとき、背後空気層厚はDmm(30mm)となり、高い周波数帯域の吸音率が高くなるが、315Hz、400Hzなどの比較的低い周波数帯域の吸音率は低くなる。これに対して、音源が近づくことで2つの仕切り板3が動いたとき、等価な背後空気層厚は3Dmm(90mm)となり、吸音率のピークは低い周波数帯域に移動する。また、4つの仕切り板3が動いたときは、等価な背後空気層厚が5Dmm(150mm)となり、吸音率のピークはより低い周波数帯域に移動する。
【0025】
このように、音源の周波数特性に対して、従来必要な背後空気層よりも薄い背後空気層で吸音パネルを構成しても、背後空気層を仕切る仕切り板3を可動式とすることで、音源の周波数特性に合わせた吸音パネルとすることができる。すなわち、従来よりも厚みの薄い吸音パネルの実現が可能となる。なお、
図3に示す吸音性能は一例であり、音源の周波数特性によって、背後空気層厚などを変化させる。
【0026】
(仕切り板の変形例)
<可動部について>
図4(b)、(c)は、
図1,2,4(a)に示した仕切り板3の変形例を示す図である。
【0027】
図4(a)に示す仕切り板3では、固定仕切り板部3aの長さL1と可動仕切り板部3cの長さL2とを等しくすることで、吸音パネルの厚み方向において半分可動の仕切り板3としている。これに対して
図4(b)に示す仕切り板3の可動仕切り板部3aの長さは、吸音パネルの厚みとほぼ同じ寸法とされている。すなわち、この仕切り板3は、仕切り板全部可動とされており、多孔板1の内面に設けられた支持軸部3bを支点にして回動する。
【0028】
図4(c)に示す仕切り板3は、
図4(a)に示す仕切り板3の固定仕切り板部3aを可動式にしたものである。
【0029】
<回動方向について>
図5は、仕切り板3の回動方向の様々な例を示す図である。なお、ここで例示する仕切り板3は、
図4(b)に示した仕切り板全部可動の仕切り板とした。
【0030】
図5(a)に示す仕切り板3は、隣り合う背後空気層同士を連通させるときに、背後空気層を仕切った状態から音源の移動方向R(音源が移動する方向)に回動可能とされている。音源の移動方向R(走行方向)が決まっていて、且つ、仕切られた1つの背後空気層(例えば背後空気層X3)を区画する2つの仕切り板3のうちの音源移動方向Rの仕切り板3のみが回動することによって所望の吸音効果が得られる場合については、背後空気層を仕切った状態からの仕切り板3の回動方向を片側に限定してもよい。
【0031】
これに対して
図5(b)に示す仕切り板3は、隣り合う背後空気層同士を連通させるときに、音源の移動方向Rおよびその反対方向のいずれにも、背後空気層を仕切った状態から回動可能とされている。音源の移動方向R(走行方向)が決まっていない場合や、仕切られた1つの背後空気層(例えば背後空気層X3)を区画する2つの仕切り板3のうちの両方の仕切り板3が回動するほうが、所望の吸音効果が得られ易い場合については、背後空気層を仕切った状態からの仕切り板3の回動方向を両方向(音源の移動方向Rおよびその反対方向)にしたほうが良い。
【0032】
ここで、後述する
図8に示す変形例では、仕切り板7の回動方向を上下方向(音源の移動方向Rに直交する方向)としている。これに対して、
図5に示した実施形態では、音源が移動する方向、または、音源が移動する方向およびその反対方向に、仕切り板3を回動させている。これら実施形態のほうが、仕切り板3の両側に大きな空気の圧力差が生じやすいので、仕切り板3の作動が安定する。
【0033】
図5(a)に示した片方向可動と、
図5(b)に示した両方向可動との比較においては、
図5(b)に示した両方向可動のほうが好ましい形態と言える。音源の移動方向R(走行方向)が決まっていない場合にも対応しているし、空気の圧力差による荷重が音源の移動方向Rおよびその反対方向のいずれの方向にかかっても仕切り板3が動くので、等価な背後空気層厚をより大きくし易いからである。これにより、より薄い吸音パネル100とすることができる。
【0034】
(仕切り板の回動機構)
図1〜5に示した仕切り板3の回動機構としては、風圧などによる空気の圧力差を利用した回動機構、仕切り板を強制的に回動させる回動機構がある。
【0035】
<空気の圧力差利用>
図6は、音源が移動することによって生じる空気の圧力差による仕切り板3の回動機構を示す図である。吸音パネル100のそばを音源が通過する際、仕切り板3への音源の接近により、仕切り板3の音源移動方向Rにおける両側間には空気の圧力差が生じる。空気の圧力差が生じると、仕切り板3には空気の圧力差による荷重がかかる。この荷重により、支持軸部3bを支点にして可動仕切り板部3aが回動し、隣り合う背後空気層同士が連通する(
図6(a)参照)。
【0036】
仕切り板3から音源が遠ざかると、仕切り板3の両側の空気の圧力差がなくなる。ここで、仕切り板3に、可動仕切り板部3aを元の位置に戻す(隣り合う背後空気層同士を可動仕切り板部3aで再度仕切る)弾性機構3dを設けているので、可動仕切り板部3aは元の位置に戻る(
図6(b)参照)。この弾性機構3dは、コイルばね、板ばねであったり、仕切り板3自体の弾性回復力であったりする。仕切り板3自体の弾性回復力とは、例えば、曲げたものが元の形に戻ろうとする回復力のことである。仕切り板3の支持軸部3bを仕切り板3の端部曲げ部とすることで、支持軸部3bに弾性回復力を持たせることができる。
【0037】
なお、この機構は、空気の圧力差による仕切り板3に作用する荷重が、仕切り板3の自重と弾性機構3dの復元力とを足した荷重よりも大きい場合に成り立つ。
【0038】
音源が移動することによって生じる空気の圧力差を利用して仕切り板3を動かすというこの機構は、構成品が少ないので製品コストが抑えられる。また、故障が生じ得る箇所も少ない。さらには、メンテナンスする箇所も少ないので、維持管理性に優れる。
【0039】
<強制可動>
空気の圧力差による仕切り板3への荷重のかかり方は、音源の移動による圧力変動の大きさによって異なる。音源の移動速度が速い場合、音源が通過する区間が狭い場合(道路・線路の幅が狭い場合)など、音源の移動による圧力変動が大きい場合は、空気の圧力差による荷重が大きいので、上記した機構を利用することができる。しかしながら、仕切り板3の自重などと比較して、空気の圧力差による荷重が小さい場合は、上記した機構を利用することができない。
【0040】
この場合、
図7に示した強制的な回動機構を用いる。
図7に示したように、吸音パネル100は、その付属品として、音源検知手段5を備え、仕切り板3の可動仕切り板部3aは、コントローラ6からの信号によりモータ9の駆動力で回動されるようにする。支持軸部3bにモータ9を設けて可動仕切り板部3aを回動させてもよいし、支持軸部3bから離れた位置にモータ9を設けて公知のリンク機構により可動仕切り板部3aを回動させてもよい。
【0041】
音源検知手段5は、音源の接近(吸音パネル100の中の例えば背後空気層X3、または背後空気層X3を区画する仕切り板3への音源の接近)を検知する音源検知手段である。具体的には、音源の位置を検知する非接触式の位置検知センサ、荷重センサなどを音源検知手段5として用いる。また、仕切り板3の音源移動方向Rにおける両側間の空気の圧力差を検知する圧力センサを音源検知手段5として用いてもよい。音源検知手段5として圧力センサを用いた場合、音源が接近したときの圧力差の値を閾値として設定し、その閾値を超えた場合に、仕切り板3を開方向(連通方向)に回動させる。
【0042】
音源検知手段5からの信号に基づいてコントローラ6はモータ9に指令を出し、モータ9が回転することで、仕切り板3の可動仕切り板部3aが、開方向(連通方向)・閉方向(仕切る方向)に回動するようにする。なお、コントローラ6とモータ9とで、音源検知手段5からの信号により仕切り板3を回動させる仕切り板回動手段を構成する。
【0043】
音源の接近を検知する音源検知手段5、および音源検知手段5からの信号により仕切り板3を回動させる仕切り板回動手段(コントローラ6およびモータ9)により、本実施形態には、空気の圧力差による荷重が小さい場合にも、仕切り板3を回動させることができるという長所がある。
【0044】
なお、仕切り板3の回動機構として、
図6に示した回動機構、および上記した仕切り板3を強制的に回動させる回動機構の両方を用いてもよい。
【0045】
(吸音パネルの変形例)
図8を参照しつつ、吸音パネルの変形例について説明する。
図8(a)は、変形例に係る吸音パネル101の正面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のB部のC−C断面図である。
【0046】
図1に示した吸音パネル100では、可動式の複数の仕切り板3を、音源の移動方向Rに並ぶように、吸音パネル100内に配設している。これに対して、
図8に示す吸音パネル101においては、可動式の複数の仕切り板7を、音源の移動方向Rに直交する方向(鉛直方向)に並ぶように、吸音パネル100内に配設している。音源の移動方向Rに並ぶ複数の仕切り板6は固定式であってもよいし、可動式であってもよい。
【0047】
仕切り板7は、可動仕切り板部7aと支持軸部7bとを有し、可動仕切り板部7aは、支持軸部7bを支点にして回動する。可動仕切り板部7aの回動方向は上下方向である。本変形例のように、可動仕切り板部7aの回動方向を上下方向としたとしても、可動仕切り板部7aの上下間に、音源の接近による空気の圧力差が生じるので、空気の圧力差が大きければ、可動仕切り板部7aは動く。空気の圧力差による荷重が小さい場合には、
図7に示したように、可動仕切り板部7aを強制的に動かせばよい。
【0048】
すなわち、
図1に示した吸音パネル100と同様に、本変形例に係る吸音パネル101は、その厚みが薄いものであったとしても、低周波数帯域の音に対して十分な吸音特性を発揮する吸音パネルとすることができる。
【0049】
なお、背後板2の内面に設けた断面L字形状のサポート部材8は、隣り合う背後空気層を仕切った状態で可動仕切り板部7aを支持するための部材である。本変形例の場合、音源が遠ざかって、可動仕切り板部7aの上下間の空気の圧力差が無くなれば、可動仕切り板部7aはその自重で元の位置に戻る。
【0050】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施の形態に限られるものではなく、特許請求の範囲に記載した限りにおいて様々に変更して実施することが可能なものである。