(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
体液中の末梢循環腫瘍細胞又は希少細胞を捕捉することができる窪みと、該窪みに形成され前記末梢循環腫瘍細胞又は前記希少細胞以外の体液細胞を通過させることができる孔とを有し、材質がパラジウム・ニッケル合金である金属フィルターを備えた末梢循環腫瘍細胞分離用デバイス又は希少細胞分離用デバイス。
前記前処理が、前記体液を磁性ナノ粒子含有カチオン性リポソームと混合して、前記体液中の前記末梢循環腫瘍細胞又は前記希少細胞及び白血球細胞中に前記磁性ナノ粒子を取り込ませたのち、前記金属フィルターに通じる流路に流し込み、前記金属フィルターの前に配置された磁石で磁性ナノ粒子を取り込まない赤血球等の細胞を該体液から除去することを含む、請求項9に記載の末梢循環腫瘍細胞分離方法又は希少細胞分離方法。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1A】金属フィルター小片を含む培地中で、MKN−45細胞を3日間培養し、金属フィルターの細胞毒性を調べた。対照、パラジウム(Pd)・ニッケル(Ni)合金(80:20)フィルター存在下、及びニッケル(Ni)フィルター存在下の細胞増殖曲線を示す。Pd・Niフィルター存在下のMKN−45細胞は、対照とほぼ同じ増殖速度(低細胞毒性)を示した。Pd・Niフィルターは、Niフィルターと比べると、細胞毒性が明らかに低かった。
【
図1B】金属フィルター小片を含む培地中で、MKN−45細胞を3日間培養し、細胞の形態を観察した。3日目の細胞の形態を示す。Niフィルター存在下のMKN−45細胞は、対照やPd ・Niフィルター存在下に比べて形態が丸くなり、一部にApoptoticな細胞も見られた。
【
図2A】3D Pd・NiフィルターのSEM像である。窪みの直径30μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度99,178/cm
2(超高孔密度)、千鳥格子配列
【
図2B】3D Pd・NiフィルターのSEM像である。窪みの直径30μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度71,656/cm
2(高孔密度)、千鳥格子配列
【
図2C】2D Pd・NiフィルターフィルターのSEM像である。窪みの直径30μm、窪みの深さ1μm、孔の直径8μm、孔密度40,000/cm
2、格子配列
【
図2D】市販のポリカーボネートフィルター(孔径8μm、 Whatman社)のSEM像である。
【
図2E】
図2Aに示される金属フィルターを模式的に示す断面図である。
【
図3A】デバイスの外観の模式図である。デバイスは、例えば、幅15cm、奥行き12cm、高さ22cmである。
【
図3C】各ユニットを組み立てたデバイスを模式的に示す正面図である。
【
図4A】窪みにがん細胞(矢印)を捕捉した3DフィルターのSEM像である(右は左の拡大図)。
【
図4B】10倍希釈した健常人血液2mLに培養がん細胞(COLM5−EGFP)500個を混ぜPBSで10倍に希釈した試料を、3D Pd・Niフィルター(窪みの直径30μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度99,178/cm
2、千鳥格子配列)で濾過し、細胞をPE標識抗CD45抗体で染色した。左上は、GFP蛍光像(がん細胞検出)、右上は、PE標識抗CD45抗体の染色像(白血球検出)である。白血球は少数しか認められず、がん細胞と白血球が同一の窪みに共在する像は認められない。右下は、フィルターカセット上でマニピュレーター(ガラスキャピラリー)を手動で操作し、がん細胞を1細胞分取しているときの明視野像である。矢印はマニピュレーターである。
【
図5A】健常人血液2.5mLに培養がん細胞 (COLM5−EGFP)500個を混ぜPBSで10倍に希釈した試料を、3D Pd・Niフィルターを用いて濾過し、デバイスの流速を変えてがん細胞の回収率(%)を調べた。
【
図5B】健常人血液2.5mLに培養がん細胞 (COLM5−EGFP)を混ぜPBSで10倍に希釈した試料を、3D Pd・Niフィルターを用いて濾過し、がん細胞数を変えてがん細胞の回収率(%)を調べた。デバイスの流速は2ml/minである。
【
図6A】培養がん細胞 (COLM5−EGFP)を皮下移植したヌードマウスから移植3か月後に採血した血液を、3D Pd・Niフィルターで濾過し、GFP蛍光を観察した。左はGFP蛍光像、右は位相差顕微鏡の明視野像である。矢印はCTCである。
【
図6B】培養がん細胞 (COLM5−EGFP)を皮下移植したヌードマウスから、移植1〜2か月後及び2〜3か月後に採血した血液を、3D Pd・Niフィルターで濾過し、CTC数を測定した。
【
図7A】胃がん患者の末梢血を3D Pd・Niフィルターで濾過し、細胞を蛍光標識抗体で染色した。左上はAlexa488標識抗EpCAM抗体の染色像、右上はPE標識抗CD45抗体の染色像、左下はHoechst33342の染色像、右下は明視野像である。矢印はCTCである。
【
図7B】乳がん患者の末梢血を3D Pd・Niフィルターで濾過し、細胞を蛍光標識抗体で染色した。左から順に、Alexa488標識抗EpCAM抗体の染色像、PE標識抗CD45抗体の染色像、Alexa350標識抗CK Oscar抗体の染色像、明視野像である。矢印はCTCである。
【
図7C】進行乳がん患者(6名)、進行胃がん患者(4名)、及び健常人(4名)の末梢血5mL中のCTC数を測定した。
【
図8A】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【
図8B】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【
図8C】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【
図8D】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【
図8E】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【
図8F】X線又は紫外線によるリソグラフィー、及び電鋳を利用したパラジウム・ニッケルフィルターの作製方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0012】
1.末梢循環腫瘍細胞(CTC)又は希少細胞を分離する金属フィルター
本明細書中の「CTC」とは、がん患者の血液に含まれる循環腫瘍細胞であり、血液細胞等の体液細胞に比べて非常に細胞数が少ない希少な細胞をいう。
【0013】
本明細書中の「希少細胞」とは、がん患者の腹水、腹腔洗浄液、リンパ液、髄液などの体液に含まれる希少な腫瘍細胞(「希少がん細胞」)をいう。
【0014】
本実施形態の金属フィルター17は、特定の金属からなる極薄板に非常に多数の孔(孔密度1×10
4 /cm
2以上)が均一に又は規則的に形成された多孔性金属フィルターである。従来公知のCTC分離フィルターは、パリレン(parylene)、ポリカーボネートなどの樹脂(又はポリマー)、シリコンから形成されたものである。これに対し、本実施形態のCTC分離フィルターは、金属フィルター17であり、以下に記載するような、樹脂フィルター等と異なる優れた特性を有している。
【0015】
金属フィルター17の材質は、例えばパラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)又はルテニウム(Ru)の少なくともいずれか1つを含む。この材質は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ロジウム(Rh)又はルテニウム(Ru)の単体金属でもよく、又は例えば、パラジウム(Pd)・ニッケル(Ni)合金、白金(Pt)・ニッケル(Ni)合金、又は金(Au)・ニッケル(Ni)合金等でもよい。合金の場合、好ましくは、ニッケルなどの相手金属に対し、上記の金属の比率が多い。これらの金属は、例えばニッケル(Ni)などの金属と比べると、CTC、希少細胞などの細胞に対する毒性が非常に低い(
図1)。理由としては、パラジウム(Pd)自体の毒性が低いことと、Pdとニッケル(Ni)の合金は固溶体を形成することによりニッケル(Ni)の溶出を防ぐことができるからである。これらのうち、金属コスト、低毒性の点で、パラジウム又はパラジウム(Pd)・ニッケル(Ni)の合金が好ましく、Pd・Ni合金の場合、Pdが50%(重量)超である合金、例えばPd80%・Ni20%の合金が好ましい。PdとNiの合金フィルター、Pdフィルターなどの本実施形態の金属フィルターは、耐酸性、耐熱性であり、フィルターのままFISH法などの種々の染色が可能であり、そのまま(正立)顕微鏡観察することができる。また、硬性かつ耐久性が高く、表面処理なしでも細胞が接着しにくいためフィルター上のガラスキャピラリーによるマイクロマニピュレーション(micromanipulation)が容易である(
図4B)。そのため、本実施形態の金属フィルター17は、1細胞分取の自動化に直ちに対応可能であるという優れた利点を有している。
【0016】
金属フィルター17の形状は、CTC分離デバイスの濾過ユニットに装着されるフィルターリング(カセット)に配置可能であれば特に限定されないが、例えば円形、方形などの形状を含み、好ましくは、円形である。また、金属フィルター17のサイズは、サンプル(血液)量、孔径、時間、流速、耐圧などの物理的ファクター、操作性、コストなどを考慮して適宜決定されうる。例えば血液5mLを処理する場合、直径(円形の場合)、又は、縦、横の長さ(方形の場合)が、通常、約10〜15mmであるが、血液量に応じてサイズを、非限定的に、例えば約5〜20mmの範囲とすることもできる。また、金属フィルター17の厚さは、孔密度、耐圧、コストなどとの関係を考慮して適宜決定されるものとし、通常、10〜40μm、好ましくは約15〜40μmである。
【0017】
図2A,
図2B,
図2Eに示されるように、金属フィルター17は、均一で規則的に配置された孔101を多数有する。この孔101は、後述する窪み102に形成されている。フィルター表面積1cm
2あたりの孔101の密度は、格子配列、千鳥配列など配列の形態により異なるが、通常1×10
4〜2×10
5/cm
2、好ましくは5×10
4〜1×10
5/cm
2である。また、孔101の孔径は、CTC又は希少細胞を通過させない、かつ、血球等の血液成分等、CTC又は希少細胞以外の体液細胞を通過させることができるサイズを有するものである。ヒト血球成分の大きさ(長径)は、ヒストグラム解析の結果、赤血球で約6〜7μmであり、白血球で約7〜9μmであり、血小板で5μm未満であるのに対して、CTC又は希少細胞で約10〜20μmである。したがって、孔101の窪み102への開口位置での孔径は、通常約7〜10μm、好ましくは約7.5〜9μm、さらに好ましくは約7.5〜8.5μmである。
【0018】
金属フィルター17はさらに、CTC又は希少細胞を捕捉することができる大きさの窪み102(又は凹部)を有している。窪み102のサイズは、CTC又は希少細胞が捕捉可能なサイズであればよく、非限定的に、例えば直径20〜30μm及び深さ5〜15μm、好ましくは直径25〜30μm及び深さ10μmである。前記の窪み102は、上記の全部又は一部の孔101の上部に形成してもよく、高い孔密度を維持するためには、このような形態が好ましい。深さが5μm未満では、CTCが入り込めない。CTCがほぼ完全に入り込むようにするには、少なくとも約5〜15μmの深さが必要である。このような窪み102の数は、孔101の数に対して好ましくは80〜100%、さらに好ましくは100%(すなわち、すべての孔101の上部に窪み102が存在する)である。
【0019】
金属フィルター17において孔101が「規則的に配置」されているとは、できるかぎり高密度になるような配置であって、すべての孔101が、特定の規則性をもって配列されていることを指す。そのような規則性には、例えば格子状の配列、千鳥格子の配列、放射状の配列、同心円状の配列などが包含される(
図2A,
図2B及び
図2C)。
図2A,
図2B(千鳥格子配列)は、孔101の上部に深さ10μmの窪み102が形成されており、全体的に立体構造となっているため、本明細書では、このような形態のフィルターを3Dフィルターと称する。一方、
図2C(格子配列)は、孔101の上部に深さ1μmの窪みが存在するが、全体的に平面に近い構造を有するため、本明細書では、このような窪みの深さが5μm未満の形態のフィルターを2Dフィルターと称する。この2Dフィルターは、特開2011-163830号公報の
図5に記載のサイズ選択マイクロキャビティアレイに相当する。この2Dフィルターの窪みは、CTC又は希少細胞の大きさに対して浅すぎるため、孔にトラップされた該CTC又は希少細胞を周囲の残存血液細胞から隔離することができない。これに対し、本実施形態の金属フィルター17は、3Dフィルターであり、窪み102を設けることによって、1)血球細胞のコンタミネーションなく、CTCを1個づつ配列(パターニング)できること、2)一定の条件下で発生する重力とは逆向きの流れを利用し、水圧とのバランスを最適化することにより、細胞が孔101にトラップされる強さを制御できること、などの理由によりマニピュレーションによる正確かつ簡便で、ソフトな1細胞ピッキングが可能となる(
図4A)。ただし、窪み102の深さが深いと(15μmを超えると)、CTCの回収率や濾過速度には影響はないものの、逆に1細胞パターニングが不完全になったり、ピッキングに際し抵抗となるなど不具合が生じうる。
【0020】
金属フィルター17の周縁は、孔なしに縁取りされていることが好ましい。縁部が存在することによって、CTC計測が正確になり、また金属フィルター17を傷つけることなしにピンセットでつまむことが可能になる。また窪み102を設けることによって電鋳の条件によっては金属フィルター17に若干反りが生じる場合があるが、ポリカーボネートなどのサポート材を上下から超音波溶着するなどによって縁取りすれば、反りの矯正は可能である。
【0021】
本実施形態の金属フィルター17は、例えばLIGA(Lithogaphie Galvanoformung Abfomung)技術を利用することによって作製することができる(服部正、表面技術、Vol. 62, No. 12, 619-624, 2011; W. Elufeld and H. Lhe, Radiat. Phys. Chem., 45(3): 340-365, 1995)。1つの例として、基板上にレジスト、吸収材(任意成分)、マスクを積層し、紫外線、X線又はシンクロトロン放射光を照射してレジストパターンを形成したのち、基板を電極として電鋳を行う金属メッキを行い、所定の開孔を残すところで電鋳を終え、さらにレジストの除去を行うことを含む方法により電鋳フィルターを作製することができる(
図8A〜
図8F参照)。
【0022】
2.末梢循環腫瘍細胞(CTC)又は希少細胞分離用デバイス
本実施形態はさらに、多孔性の金属フィルター17を備えたことを特徴とする、血液等の体液からCTC又は希少細胞を分離するためのデバイスを提供する。
【0023】
多孔性の金属フィルター17は、上記1節で説明したとおりである。コストなどの面で、好ましいフィルターは、パラジウム(Pd)フィルターまたはパラジウム(Pd)・ニッケル(Ni)合金フィルターである。
【0024】
本実施形態のデバイスでは、金属フィルター17に対して流路が垂直となるように該金属フィルター17を装着する。金属フィルター17は、通常、フィルターカセット16に脱着可能に又は脱着不能にセットされ、該フィルターカセット16がデバイスに固定される。フィルターカセット16は、金属フィルター17を固定するための適当な幅をもつ縁を有し、かつ、内側が開放スペースとなっている、上下2枚の部材(フィルターリング上、下)で構成されており、該部材間に金属フィルター17が固定される。必要により、該部材と金属フィルター17の間には、パッキング(例えば、テフロン(登録商標)、ゴム、紙など)を挟んでもよく、これにより、金属フィルター17の変形と液漏れの防止を可能にする(
図3B〜
図3C)。フィルターカセット16の部材は、樹脂(ポリマー)、ゴム、金属などの材質からなり、2つの部材には、フィルターを固定するための手段が施されている。そのような手段には、例えばネジ溝などが挙げられる。或いは、フィルターカセット16は、単純に上下からの圧力で金属フィルター17を固定する(圧入)ような構造であってもよい。或いは、金属フィルター17とフィルターカセット16が一体となるようにフィルターカセット16を作製してもよく、この場合、金属フィルター17は、取り外せないようにフィルターカセット16に固定される。
【0025】
デバイスは、金属フィルター17が装着されたフィルターカセット16を含む濾過ユニット11の他に、リザーバーユニット10、流量調節ユニット12、及び排液回収ユニット14(液だめベース)をさらに含むことができる(
図3A)。
【0026】
リザーバーユニット10は、血液等の体液サンプルを入れる容器であり、ガラス、ポリマーなどの液面が判別可能な(例えば透明な)材質からなり、必要に応じて、液量(すなわち、計量)目盛りを有していてもよい。
【0027】
濾過ユニット11は、上で説明したとおりであり、金属フィルター17を脱着可能に装着するためのフィルターカセット16を含む。
【0028】
流量調節ユニット12は、リザーバーユニット10、フィルターカセット16を含む濾過ユニット11を通って自重(すなわち、重力)により自然流下する血液等の体液の流量又は流速を調節するための装置を有する。そのような装置は、例えば、鋭角構造の先端を有するネジ込み式の凸型ネジであり、ネジを締めこむとき、廃液チューブを圧迫し、流量が減少するか又はゼロ(停止)となり、一方、ネジを開放するとき、流量が増加する。ネジは、例えば金属、樹脂、ポリマーなどの材質からなる。
【0029】
排液回収ユニット14は、濾過した後の血液等の体液や、デバイスを洗浄したときの排液などを回収する容器(液だめベース)を含む。該排液回収ユニット14は、例えばガラス、樹脂、ポリマー、金属などの材質からなる。
【0030】
各ユニット間の固定は、例えば回転による取付け又は取外しが行われるねじ機構9(
図3A)を利用して固定してもよいし、差込み式の隙間はめ18(
図3C)で行ってもよいし、或いは、その他の慣用の固定具で行ってもよい。さらに、上記の各ユニットに加えて、ユニットを組み立てた構造体を設置するためのスタンドを設けることができる。
【0031】
デバイスの一例を、
図3A(外観)、
図3B(構成部品)、及び
図3C(組み立て時のデバイスの正面図)に示す。図中、濾過ユニット11は、フィルターカセット16を含んでいる。流量調節ユニット12は、液量調節ねじ8を含んでいる。排液回収ユニット14は、その上面に液だめフタ13、その側面上部に空気孔7が設けられている。デバイスには、さらにスタンド15が含まれている。
【0032】
デバイスは、加工のしやすさやコストの面で、その全体についてアクリルなどの樹脂又はポリマーで形成されているのが好ましい。透明な材質であれば、液体の流下速度を監視できるので好ましい。デバイスの大きさは、スタンド15を除く組み立て構造体の場合、横幅約10〜15cm、高さ約20〜30cmであり、約5〜7.5 mLの血液サンプルを濾過するのに適するサイズであるが、サンプルの容量が大きい場合でも小分けしてアプライすることにより本サイズで十分対応ができる。
【0033】
なお、以上の記載は試作機の仕様であって、量産型は別途、本試作機をもとに金型を作製し、例えば樹脂、プラスチック等の材料により作製するため,低コストな使い捨て型デバイスの生産が可能である。
【0034】
本実施形態のデバイスは、自重(重力)で濾過のための流速を得るポンプレス(すなわち、ポンプ不使用)方式であり、従って解放系である。これは、公知のフィルター型CTC分離デバイスで採用されるポンプ方式又は陰圧チューブ方式の駆動力と異なる。これら従来の方式では、細胞にストレスを与えたり、細胞の固定や、流路の閉鎖性のために生細胞の1細胞分取が困難であるなどの課題があったが、本実施形態のデバイスは、このような課題を解消することができる。
【0035】
本実施形態のデバイスは、細胞への毒性が非常に低いパラジウム等の金属フィルター17への適用、該金属フィルター17の超高孔密度、平坦表面加工および金属フィルター17の3D化により、血液等の体液の前処理なしでもCTC或は稀少細胞が孔101にトラップされる流速を比較的低速に維持したままで血液細胞の高速濾過を可能とした。具体的には、5mlの全血を洗浄も含めて30分程度での高速濾過が可能でありながら、孔101を通過する流速は比較的遅い。また、きわめて平滑な孔101の表面性状を有するため、細胞に与えるストレスや傷害性が低い。
その結果、血球細胞などのコンタミネーションが少ない状態で、CTC又は希少細胞を整列させることができる。しかも孔101の上に窪み102を設けることにより、一定の条件下では流体力学的に重力と逆方向の流れが発生すると考えられる。このため、CTCが孔101に深くトラップされることなく、従ってCTCにかかる剪断応力を最小限に抑えることができる。このため、CTC又は希少細胞の細胞傷害を最小限に抑えることができ、CTC又は希少細胞をほぼ100%の生存率でかつ約80%以上の回収率で分離することが可能である。
【0036】
3.末梢循環腫瘍細胞(CTC)又は希少細胞分離方法
本実施形態はさらに、上で説明した金属フィルター17を装着したデバイスを使用してがん患者の体液からCTC又は希少細胞を分離する方法を提供する。
【0037】
具体的には、この方法は、本実施形態のデバイスにがん患者の、例えば血液、腹水、腹腔洗浄液、髄液又はリンパ液から選択される体液を注入すること、及び、重力のみに頼った流速により、CTC又は希少細胞を金属フィルター17の上部に分離することを含む、体液からCTC又は希少細胞を分離する方法である。
【0038】
検体としてのがん患者の体液は、CTC又は希少細胞を含有する又はCTC又は希少細胞が含有することが疑われる体液であり、主として血液又はリンパ液である。
【0039】
CTC又は希少細胞の分離に使用する体液の量(体積)は、通常1〜20mL、好ましくは3〜7mLである。通常、体液(特に血液)はリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(目的に応じて0.25〜1 mM EDTA含有のPBS)で、例えば2〜20倍に希釈した後に濾過する。特に血液量や血球数の多い場合には、以下の前処理を行ってもよい。
【0040】
前処理は、例えば、体液を磁性ナノ粒子含有カチオン性リポソーム(MCL)と混合して、体液中のCTC又は希少細胞及び白血球中に該磁性ナノ粒子を取り込ませたのち、本実施形態の金属フィルター17に通じる流路に流し込み、流路の途中に配置された磁石で磁性化されない赤血球等の細胞を予め該体液から除去することを含む(プレフィルター)。これは、通常、赤血球細胞には、磁性ナノ粒子は取り込まれないこと、一方、CTC又は希少細胞や白血球には、磁性ナノ粒子が取り込まれることの性質を利用したものである。赤血球を、このプレフィルターを通して除去し、磁気を解除してCTC又は希少細胞及び白血球細胞を本フィルターデバイスに導くことにより、金属フィルター17の流速を大幅に遅くした状態で白血球を除去することができるため、CTC又は希少細胞は孔101に強くトラップされずに金属フィルター17の窪み102に残留する。このような前処理と本実施形態の金属フィルター17による処理を併用する場合、金属フィルター17による処理を単独で行う場合に比べ、CTC又は希少細胞にかかる剪断応力が軽減され、より高い回収率(80〜90%)で回収することができる(
図5A,
図5B)。
【0041】
本方法は、体液をデバイスに注入し、重力での流速により濾過を行うという単純な方法であるが、超高孔密度(例えば、5×10
4〜1.5×10
5/cm
2)の3D金属フィルター17を使用することによって許容可能な十分な迅速処理を達成できる。例えば、検体(全血)約5.0mLは洗浄を含めて約30分で処理することができる。洗浄液にはリン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いるが、必要によりEDTAを含んでもよい。
【0042】
次に、金属フィルター17上のCTC又は希少細胞の数を計測するために、CTC又は希少細胞に特異的に結合する蛍光標識抗体、例えばAlexa488標識抗EpCAM抗体や白血球に特異的に結合するPE標識抗CD45抗体などの抗体混合物を用いて、CTC又は希少細胞を染色し、顕微鏡によりCTC又は希少細胞の個数などを計測する。このとき染色は、デバイスに固定された金属フィルター17上で直接行うことができる。
【0043】
染色後、フィルターカセット16をデバイスから取り外し、フィルターカセット16のまま正立型蛍光顕微鏡下でCTC数をカウントし,さらにCTC又は希少細胞を金属フィルター17の窪み102から1個ずつ微細なガラスキャピラリーからなるマニピュレーターを用いて回収することができる。また遺伝子増幅の有無を調べるFISH法は金属フィルター17をフィルターカセット16から取り出し、そのまま固定して行うことができる。
【0044】
また、本実施形態の3D Pd・Ni合金フィルターデバイスは、担がんマウスの末梢血中のCTCの測定にも用いることができる。本発明者らは、GFP導入大腸がん細胞株(COLM5-EGFP)や胃がん細胞株(GCIY-EGFP)などの皮下移植自然転移モデルを用いてCTCを再現性よく検出できるCTCモデル(マウス)を複数株作製した。移植1〜3か月後のマウス後大静脈血を採血し、本実施形態の3D Pd・Ni合金フィルターデバイスで濾過を行い、GFP蛍光を指標にCTC数を測定した。その結果、転移の程度に相関して、マウス血液中にCTCが検出されることを確認した(
図6A,
図6B)。さらに、回収したCTC数個からRNA, DNAを抽出し、特定の遺伝子の発現や遺伝子変異を解析可能なことを確認した。
【0045】
さらに、乳がん患者及び胃がん患者などの実際の臨床検体(末梢血)でも、本実施形態の3D Pd・Ni合金フィルターデバイスで濾過を行い、CTC染色の後CTC数を測定したところ、マウスCTCモデルと同様に、転移性患者検体では健常人の血液に比べ、有意に多くのCTCを検出し、本実施形態の臨床検体における有効性も確認した(
図7A,
図7B,
図7C)。
【0046】
以上のことから、本実施形態の方法は、転移再発の早期診断、コンパニオン診断や薬剤の治療効果の評価など、転移がんの診断と治療法の両面で今後重要な役割を担うことが期待できる。また、本実施形態のデバイス及び方法によって、CTCの生体内における動態など転移メカニズムの解明など基礎的研究にも多いに役立つと予想される。
【実施例】
【0047】
以下に実施例を示して本実施形態をさらに詳細に説明するが、本実施形態の技術的範囲は、これらの具体例によって制限されないものとする。
【0048】
[実施例1]
[パラジウム・ニッケルフィルターの製作方法]
図8Aに示すように、基板19に感光性レジスト20を所定の厚さに塗布した。尚、基板19として、導電性のないシリコン基板やガラス基板を用いる場合は導電膜層(例えば銅)を付加するが、ステンレス基板、ニッケル基板、銅基板などの導電性を有するものでもよい。
【0049】
次に
図8Bに示すように、所定のパターンが描画されたCrマスク21を介して紫外線22を照射することで露光を実施した。ここで、紫外線22の代わりにX線を光源とする場合はCrマスク21の代わりにX線マスクを用いることになる。
【0050】
次に、
図8Cに示すように、現像工程を経ることで基板19上に感光性レジスト20をパターン化した。
【0051】
次に
図8Dに示すように、基板19の表面から電鋳によってパラジウム・ニッケル合金(Pd・Ni) (Pd:Ni重量比、例えば80:20)の析出成膜23を析出させ、パターン化した感光性レジスト20を覆いかぶさるように電鋳によるPd・Niの析出成膜23の析出を連続的に実施し、所定の開孔24を残すところで電鋳を終了させた。
【0052】
次には
図8Eに示すように、形成した感光性レジスト20を有機溶媒により除去した。この感光性レジスト20の除去は酸素プラズマによるドライエッチングを利用してもよい。
【0053】
最後に
図8Fに示すように、基板19を剥離、もしくはエッチング除去した。
このような工程を経て、パラジウム・ニッケルフィルター(「3Dフィルター」又は「Pd・Niフィルター」ともいう)を製作した。
【0054】
[実施例2]
[パラジウム・ニッケルフィルターの特徴づけ]
本パラジウム・ニッケルフィルターは、独自かつ高度の電鋳技術で微細加工して作製されるため、他のポリカーボネート、パリレンまたはシリコン製のフィルターにくらべて100,000/cm
2以上の高孔密度、10%以上、通常50%以上の高開口率を達成できる。これにより全血の高速濾過が可能になり、目詰まりもなく、CTCの高率かつ迅速な回収が可能となった(
図2Aおよび
図2B)。また、平滑な表面性状や孔の均一性など高精度な加工と細胞毒性の少ないパラジウムを材質とすることが相まって細胞障害も大幅に低減しうる(
図1A,
図1B)。
【0055】
さらにまた、本パラジウム・ニッケルフィルターは、121℃ 、30分の熱処理(Autoclave)が可能で、さらに次亜塩素酸(市販の1%ハイター)や1規定塩酸による化学薬品耐性試験(1時間)において、なんら形状に変化なく、またCTC回収率など機能的にも変化は認めなかった。これにより滅菌処理が可能となり医療分野での利用や再利用など低コスト化を達成できる。
【0056】
[実施例3]
[培養がん細胞を用いたCell Spike実験]
ヒト胃がん細胞MKN−45、GCIYおよびヒト大腸がん細胞COLM−5を、10%牛胎児血清を含むRPMI培地に、1.0×10
6個/10cm dishとなるように播種し、37℃/5%CO
2下で静置培養した。培養3〜4日後、培地を吸引除去し、PBS(pH7.2)で洗浄した後、0.2%トリプシン/2mM EDTAを添加し、37℃/5%CO
2下で3〜5分インキュベートした。検鏡し細胞がdishから剥離していることを確認して、血清を含むRPMI培地を加え、トリプシンの作用を停止させた後ピペッティングし、細胞を回収した。回収した細胞は遠心分離(1200rpm、3分)し、上清を吸引除去して新鮮なRPMI培地に再懸濁した。トリパンブルーを用いた色素排除法により生細胞数を計数し、1×10
6細胞/mlに調製後、新しいdishに播種した。
【0057】
細胞捕捉(Cell Spike)実験には、ヒト大腸がん細胞COLM−5およびヒト胃がん細胞GCIYに、緑色蛍光タンパク質(GFP)遺伝子を強制的に発現させた細胞株であるCOLM5−EGFP細胞、GCIY−EGFP細胞を用いた。上記のように調製した細胞懸濁液を用い、健常人からEDTA2Na入り真空採血管に採血した血液2〜2.5mlに50、500、又は5000個の培養がん細胞を混合しサンプルを用意した。
【0058】
[フィルターデバイスによる培養がん細胞の分離方法と検出操作]
3Dフィルターを装着したCTC分離デバイスのリザーバーユニットに1mM EDTA/0.5%BSAを含むPBSを5ml導入してリザーバーおよびフィルターを洗浄した後、GFP導入あるいは非導入培養がん細胞 (50、500、又は5000個)を添加した血液(2〜2.5ml)をPBSで5〜10倍に希釈し導入した。約10分間の濾過後、残留する血球成分を洗浄するためPBSを5ml導入した。GFP非導入培養がん細胞の場合、PBS洗浄液を流しきった後、液量調節ねじを締め、流路を閉じた後、500μlの細胞染色液(Alexa488標識抗EpCAM抗体、PE標識抗CD45抗体およびHoechst33342。それぞれ0.5μg/ml)を導入した。GFP導入培養がん細胞の場合、後2者からなる細胞染色液を導入した。遮光して30分室温で反応させた後、液量調節ねじを開放し、細胞染色液を排出した。リザーバーに5mlの1mM EDTA/0.5%BSAを含むPBSを導入してフィルター上の細胞を洗浄した。この作業をPBSのみでもう1回行い、液量調節ねじを締めた後、CTC分離デバイスからフィルターカセットを直ちに取り出し、フィルターカセット上部の液貯めに100〜200μlのPBSを添加し、顕微鏡ステージに載せ、そのまま蛍光顕微鏡観察を行った。
【0059】
光透過性のない金属フィルター上に捕捉、回収されたがん細胞を観察するために、冷却CCDカメラ(Ri−1;Nikon)を装備した正立反射蛍光顕微鏡(Eclipse LV100ND;Nikon)を用い、Hoechst33342、Alexa488、PE由来の蛍光を観察するためにUV−1A、FITC、Cy3フィルターを用いてそれぞれ画像を取得した。画像取得および解析ソフトウェアにはNIS−Elements(Nikon)を用いた。
【0060】
[フィルターデバイスを用いた培養がん細胞の回収率の検討]
3Dフィルターを装着したCTC分離デバイスには液量調節ねじがあり、自重によって流れる液量を調節することにより、流速を制御することができる。培養がん細胞500個を混合した10倍希釈血液(2.5mlの血液をPBSで10倍に希釈)を用いて、2ml/min、4ml/min、又は8ml/minに流速を変化させた場合の回収率を検討した。3Dフィルターは、窪みの直径30μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度99,178/cm
2、千鳥格子配列のPd・Niフィルターを使用した。その結果、2ml/min、4ml/minでは各々約90%、80%と高い回収率を示したが、8ml/minでは70%以下であった。2〜4ml/minの流速であれば、80〜90%の回収率を得られることが分かったので、以降の実験はこの範囲の流速で行うこととした(
図5A)。
【0061】
次に、2.5mlの血液をPBSで10倍に希釈し、10、50、500、又は5000個の培養がん細胞を混合し、がん細胞の回収率を検討した。デバイスの流速は2ml/minである。50、 500、5000個の細胞を混合した希釈血液からの回収率は85〜95%であった(
図5B)。わずか10個の細胞を混合した希釈血液からの回収率は平均70%であり、細胞数のカウントのバラツキを考慮すると少数の細胞であっても高い回収効率を有することが示された。
【0062】
[回収した細胞の生存率の検討結果]
5000個の培養がん細胞を混合した希釈血液(2.5mlの血液をPBSで10倍に希釈)を3Dフィルターで分離し、捕捉した細胞の生存率についてトリパンブルーを用いた色素排除法により計数した。3Dフィルターは、窪みの直径30μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度99,178/cm
2のPd・Niフィルターを使用した。回収した細胞の生存率は99%で、非常に細胞傷害性の低い回収方法であることが示された。ただし、1mM以上のEDTA存在下で濾過した場合、回収したがん細胞の増殖性を見ると、対照(EDTA無添加)に比べて有意に低かった。しかし、抗凝固剤としてヘパリンを用い、コラーゲンコートdishを用いて接着を促進させると増殖性は有意に回復した。従って、EDTA存在下で濾過した場合の回収がん細胞の増殖性の低下はフィルターデバイスからのストレスよりも長時間のEDTA処理が原因と考えられた。
【0063】
[3Dフィルターを用いた培養がん細胞の1細胞回収の検討]
がん細胞の捕捉、整列および回収の効率を向上させる目的で、金属フィルターは
図2Aに示すように貫通孔の上部に窪みを設けた3D形状に加工している。この形状は直径20〜30μm、深さ5〜15μmが望ましいが、先端径を40μm程度に加工したガラスキャピラリーを用いて捕捉した細胞を吸引回収する場合、窪みの直径は30μmの場合が最も回収しやすかった。窪みの深さ5μmと10μmとを比較すると、深さは5μmよりも10μmの方が、マニピュレーション等により液面が動いても細胞は捕捉された窪みから移動しにくいため、安定して、しかもコンタミネーションなく、目標とする1細胞の回収が可能であった(
図4Bに、マニピュレーターでがん細胞1個を回収しているときの明視野像を示す。)。抗凝固剤としてヘパリンを用いると、細胞の金属フィルターへの接着性が増し(なお、EDTA存在下では細胞は金属フィルターへの接着性を殆ど示さない)、マニピュレーターによる細胞の回収率が低下した。従って、抗凝固剤は目的に応じて使い分ける必要があると考えられる。
【0064】
[実施例4]
[CTCモデルマウスからのCTCの分離]
in vitroの培養細胞とin vivoのCTCでは細胞の生存環境が著しく異なるため、健常人血液に培養がん細胞を添加するCell Spike実験だけではCTC分離デバイスの性能を正確に評価することは難しい。一方、患者の臨床検体では、がんの進行度(Stage)の異なる多数の症例を収集し、これを測定し、統計的に解析しないとデバイスの性能を評価することは難しい。これらに対し、がん細胞移植後、経時的に再現性をもってCTCが出現するマウス(以下「CTC モデルマウス」と呼ぶ)が存在すれば、CTC分離デバイスの性能の迅速かつ正確な評価が期待できる。また、CTCモデルマウスは、CTCの生体内におけるダイナミックスの解析など、CTCの基礎的な研究にも極めて有用である。そこで独自にCTCモデルマウスの作製を行った。
【0065】
[CTCモデルマウスの作製とそれを用いたフィルターデバイスの評価]
GFP遺伝子が導入されたことにより高輝度の緑色蛍光を発する転移性の高い、胃がん細胞株(GCIY−EGFP)と大腸がん細胞株(COLM5−EGFP)をそれぞれ、ヌードマウスの皮下に移植した。経時的にマウスを屠殺し、後大静脈から0.5〜1.0mlの血液を採取し、PBSで10倍希釈後にCTC分離デバイスでCTCを測定した。同時に倒立型蛍光顕微鏡で肺、肝、腎などの微小転移の有無を検討した。大腸がんCOLM5−EGFP皮下移植モデルでは、移植後1〜2ヶ月までは肺転移は少数の微小転移に限られ、CTC数もほとんど0(ゼロ)で、稀に1〜2個のCTCが検出された程度であった。一方、移植後2〜3ヶ月では、肉眼的にも肺転移が認められ、少数ながら肝、腎にも転移が認められ、このとき10〜100個程度のCTCが検出され、多いときには1000個以上のCTCが検出された(
図6A及び
図6Bに結果を示す)。胃がんGCIY−EGFP皮下移植モデルでも、肉眼的転移および全身転移の出現に合わせてCTCが検出された。同様に本デバイスを用いてマウスLewis肺がん細胞株(Lewis−GFP)を用いた肺がんモデルでも実験を行い、CTCの出現が肝、腎などへの多臓器転移と同期することを明らかにした。CTCが肉眼的転移や全身的転移と同期して出現することから、CTC検出は、がん転移の早期診断に有用である可能性が示唆された。また、CTCモデルマウスを用いた検討から、本デバイスはCTCの生体内動態を正確にとらえることができる充分な感度と精度を備えていることが示された。
【0066】
モデルマウスから分離したCTCに対し、各種の遺伝子解析を行った。免疫蛍光染色では金属フィルター上で直接染色が可能であり、HER2陽性胃がん担がんマウスCTCにおいてはHER2の過剰発現を検出し得た。マニピュレーターを用いて回収したCTCの遺伝子解析を行ったところ、1〜数個のCTCがあれば、それからRNAやDNAを抽出・増幅し、RT−PCR法によるHER2等の遺伝子発現の解析や、ダイレクトシーケンス法によるK−Ras等の遺伝子配列の解析などが可能であることを確認した。
【0067】
[実施例5]
[胃がん患者及び乳がん患者の末梢血からのCTC分離]
胃がん患者4名、乳がん患者6名、健常人4名の肘静脈からEDTA2Na入り採血管で5mlの採血を行った。胃がん患者4名および乳がん患者6名は、愛知県がんセンター中央病院(日本、名古屋)に入院した患者である。患者からの採血は、愛知県がんセンター倫理委員会(日本、名古屋)で承認され、患者から同意書を取得した上で行われた。
【0068】
各人から採血後、1時間以内にPBSで10倍に希釈し、CTC分離デバイスにアプライし、濾過を行った。CTC分離デバイスの金属フィルターは、窪みの直径24μm、窪みの深さ10μm、孔の直径8μm、孔密度136,325/cm
2の3D Pd・Niフィルターを用いた。濾過は流速2.5ml/minで行った。フィルターカセット上の細胞をPBSで洗浄し、10%ホルマリンで室温で10分間固定し、洗浄後、Alexa488標識抗EpCAM抗体、PE標識抗CD45抗体、また場合によりAlexa350標識抗CK Oscar抗体を含む細胞染色液をフィルターカセット上に添加し、室温で30分間反応させた。さらにPBSで洗浄後、Hoechst33342で核染色を行った。PBSで洗浄後、フィルターカセットごと正立型蛍光顕微鏡に移し、EpCAM
+/(CK Oscar
+ )/CD45
−/Hoechst33342
+細胞をCTCとして判定し、CTC数を計測した。その結果、健常人では4名ともCTCは0個であったのに対し、進行胃がん患者4名ではそれぞれ0、2、4、11個、進行乳がん患者6名ではそれぞれ1、3、4、11、15、22個であった。胃がん患者の染色像を
図7Aに、乳がん患者の染色像を
図7Bに、CTC数の測定結果を
図7Cに示す。
【0069】
[実施例6]
[磁性ナノ粒子による細胞の磁気分離の併用]
胃がん細胞N87を用いて、CTCの全回収を目指し、磁性ナノ粒子を用いた磁気分離(前処理)と、3D Pd・Niフィルターを用いた大きさによる分離とを併用し、回収率の向上を試みた。Magnetic Cationic Liposome(直径150nm)100pg/細胞をN87細胞100個の細胞懸濁液に2時間作用させ、白血球細胞20万個を含むウシ血清に混和させた後、磁気分離流路とフィルターを組み合わせたデバイスで捕捉した。約80〜90%の細胞を捕捉回収することができ、フィルター単独に比べて回収率の向上が認められた。