(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5961924
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20160721BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
F16H25/24 K
F16H25/22 B
F16H25/24 B
F16H25/24 M
F16H25/22 L
【請求項の数】1
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2011-129216(P2011-129216)
(22)【出願日】2011年6月9日
(65)【公開番号】特開2012-255496(P2012-255496A)
(43)【公開日】2012年12月27日
【審査請求日】2014年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100109380
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 恵
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】進藤 雅史
(72)【発明者】
【氏名】水口 淳二
【審査官】
河端 賢
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−172426(JP,A)
【文献】
特開2010−133556(JP,A)
【文献】
特開2002−310258(JP,A)
【文献】
特開2003−172427(JP,A)
【文献】
特開2010−196761(JP,A)
【文献】
特開2007−303591(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2002/0152822(US,A1)
【文献】
特開2003−083417(JP,A)
【文献】
特開2004−324795(JP,A)
【文献】
特開2003−120783(JP,A)
【文献】
特開2014−020400(JP,A)
【文献】
特開2012−087886(JP,A)
【文献】
特開2002−089653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される転動体転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸に螺合するナットと、
前記ナットの内部に設置された樹脂製部材の冷却に効果的となるように配設されて前記樹脂製部材を冷却する冷却手段とを有し、
前記樹脂製部材が、前記冷却手段を構成する前記ナットを貫通する貫通穴に対して前記ナットの周方向に別体として離間して対称に位置し、前記転動体転動路の一方の終点と他方の始点とを連通する循環部品であることを特徴とするボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関し、特に、ナットを冷却可能なボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、ねじ軸と、該ねじ軸に螺合して相対的に回転可能とされたナットとを有するボールねじ装置においては、回転時に点接触又は面接触が生じるため、熱源(例えば、前記ナット)に冷却手段が設けられるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
この特許文献1に開示されたボールねじ装置によれば、冷却手段として、前記ナットの内部に冷却液用貫通穴を配設し、この冷却液用貫通穴に冷却液を循環させている。かかる構成とすることにより、前記ナットはもちろん、他の熱源であるボールの近傍に対しても常に冷却することができ、結果として、冷却によってナットが収縮したときにも、動摩擦トルクが上昇しにくいボールねじ装置を提供することができる。また、冷却効果をできるだけ高くし、過度な加工効率の低下や圧力損失の増加を招くことのないボールねじ装置を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−133556号公報
【特許文献2】特開2003−269562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のボールねじ装置においては、駆動時の荷重や回転速度などの運転条件が厳しい場合、ボールねじ装置の温度上昇によって、ポールねじ装置の内部に設置された樹脂製部材が熱変質する可能性があり、検討の余地があった。特に、高負荷用のボールねじ装置においては、前記樹脂製部材として、転動体間に樹脂製のリテーナが設けられることがある(例えば、特許文献2参照)。ボールねじ装置内に設置される樹脂製部材としては、他に、樹脂製シール、樹脂循環部品などがあり、これらについても同様の検討の余地があった。
【0005】
ここで、ボールねじ装置の内部を冷却する方法として、ファンを用いて風を送る構成や、ねじ軸に貫通穴をあけて中空軸とし、前記貫通穴に冷却液を通す構成がよく用いられる。しかし、ファンを用いる構成は、外部から間接的に内部にある樹脂製部材を冷やすため、冷却効果が低い。また、中空軸に冷却液を通す構成は、前記貫通穴を大きくすることで、樹脂製部材を効果的に冷却することが可能であるが、前記貫通穴を大きくすると軸の剛性が下がり、ボールねじ装置全体の剛性に影響を与えかねない。また、発熱している箇所から遠い部分も常に冷やすため、効率が悪く、適用が難しい。
【0006】
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、内部に設置される樹脂製部材を効果的に冷却するボールねじ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明の請求項1に係るボールねじ装置は、外周面に転動溝が形成されたねじ軸と、前記転動溝に対応する転動溝が内周面に形成され、該転動溝と前記ねじ軸の転動溝とによって形成される転動体転動路に配設された複数の転動体を介して前記ねじ軸に螺合するナットと、
前記ナットの内部に設置された樹脂製部材の冷却に効果的となるように配設されて前記樹脂製部材を冷却する冷却手段とを有
し、
前記樹脂製部材が、前記冷却手段
を構成する前記ナットを貫通する貫通穴に対して前記ナットの周方向に
別体として離間して対称に位置し、前記転動体転動路の一方の終点と他方の始点とを連通する循環部品であることを特徴としている。
【0008】
本発明の請求項1に係るボールねじ装置によれば、冷却手段が前記樹脂製部材の近くに配設されているので、前記樹脂製部材を効果的に冷却することとなり、前記樹脂製部材の熱変質を効果的に防止することができる
。
特に、冷却手段が前記循環部品に近づけて配設されているので、樹脂製の前記循環部品を効果的に冷却することとなり、樹脂製の前記循環部品の熱変質を効果的に防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、内部に設置される樹脂製部材を効果的に冷却するボールねじ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係るボールねじ装置の第1の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。
【
図2】本発明に係るボールねじ装置の第2の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。
【
図3】本発明に係るボールねじ装置の第3の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明に係るボールねじ装置の第1の実施形態について図面を参照して説明する。
図1は、本発明に係るボールねじ装置の第1の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。
図1に示すように、本実施形態のボールねじ装置1は、ねじ軸10と、ナット20とを有する。ねじ軸10及びナット20は、複数の転動体30を介して螺合している。ナット20は、ねじ軸10の外径より大きい内径で筒状に形成されている。ナット20の内周面には、ねじ軸10の外周面に螺旋状に形成されたねじ溝10aに対向するようにねじ溝20aが形成されている。ねじ溝10aとねじ溝20aとによって形成された転動路40において転動体30は転動可能とされている。
【0015】
また、転動体(ボール)30,30間には、転動体(ボール)30,30同士の競り合い(衝突)を阻止するためのリテーナ51が樹脂製部材50として設けられている。このリテーナ51が転動体(ボール)30,30間に設けられることにより、ナット20の外径寸法を大きくしたり、ナット20を弾性係数の大きい材料で形成したりしなくても、転動体(ボール)30の早期摩耗等を防止でき、射出成形機やプレス成形機などのように高負荷が作用する条件下でも長期の使用が可能なボールねじを得ることができる。
【0016】
リテーナ51は、転動体(ボール)30の直径よりも小さい直径で円盤状に形成されており、各リテーナ51の両端面には、凹面部(図示せず)が形成されている。これらの凹面部はリテーナ51の軸方向に沿う断面がゴシックアーク状に形成されており、その曲率半径は、転動体(ボール)30の半径よりも大きい値に設定されている。
リテーナ51は、例えば、66ナイロン等のポリアミド樹脂、熱塑性エラストマー、軟質塩化ビニル樹脂、軟質ポリエチレン、フッ素樹脂、合成ゴムのうち何れか1つ若しくは充填材や添加剤を配合した樹脂組成物を原材料とし、これらの原材料を射出成形等して所定の形状に形成してなる。
【0017】
また、ナット20には、軸方向に貫通する貫通穴20bが形成されている。この貫通穴20bは、冷却媒体の通路として用いられ、貫通穴20b内で冷却媒体を循環させるための循環装置(図示せず)が接続されている。この循環装置及び貫通穴20bが冷却手段60を構成する。このように、図示しない循環装置によって貫通穴20b内を冷却媒体が循環することによって、ナット20が冷却される。
以上のような構成において、貫通穴20bに冷却液を通すことで、ナット20を冷却し、温度上昇による樹脂製部材としてのリテーナ51の熱変質を抑えることができる。
【0018】
(第2の実施形態)
図2は、本発明に係るボールねじ装置の第2の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。なお、本実施形態は、樹脂製部材50としてリテーナ51の代わりにシール52を用いた以外は、前述した第1の実施形態と同様であるので、第1の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。
図2に示すように、本実施形態では、ナット20の軸方向の少なくとも一方の端部21に、ねじ軸10に摺接して設けられた樹脂製のシール52が設置されている。シール52の材料としては、例えば、フッ素樹脂が挙げられる。シール52は、フッ素樹脂などの原材料を射出成形等して所定の形状に形成してなる。
以上のような構成において、貫通穴20bに冷却液を通すことで、ナット20を冷却し、温度上昇による樹脂製部材50としてのシール52の熱変質を抑えることができる。
【0019】
(第3の実施形態)
図3は、本発明に係るボールねじ装置の第3の実施形態における構成を示す軸方向に沿う断面図である。なお、本実施形態は、樹脂製部材50としてリテーナ51の代わりに循環部品53を用いた以外は、前述した第1の実施形態と同様であるので、第1の実施形態と同じ符号を付した同様の構成については説明を省略する。
図3に示すように、転動体30はねじ軸10又はナット20の一方が軸芯回りに回転すると転動溝10a,20a間に形成された螺旋状の転動体転動路40を転動するようになっている。
【0020】
そして、本実施形態においては、転動体転動路40を転動した転動体30はナット20内に貫設された転動体戻し路70を通って元の位置に戻されるようになっている。
転動体戻し路70の両端はナット20の両端面に形成された凹陥部20cに開口しており、この凹陥部20cには、転動体転動路40の一方の終点41から転動体戻し路70に転動体30を案内すると共に、転動体戻し路70から転動体転動路40の他方の始点42に案内する循環部品53が装着されている。この循環部品53には、転動体30を転動体転動路40から転動体戻し路70に案内し、転動体戻し路70から転動体転動路40に案内する案内溝(図示せず)が形成されている。循環部品53は、樹脂材料をモールド成形等して形成される。
【0021】
以上のような構成において、貫通穴20bに冷却液を通すことで、ナット20を冷却し、温度上昇による樹脂製部材50としての循環部品53の熱変質を抑えることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明はこれに限定されずに、種々の変更、改良を行うことができる。
【符号の説明】
【0022】
1 ボールねじ装置
10 ねじ軸
20 ナット
30 転動体
40 転動体転動路
50 樹脂製部材
60 冷却手段