【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0044】
(調製例1:遺伝子組換えヒト血清アルブミン2量体および単量体の調製)
遺伝子組換えヒト血清アルブミン(HSA)2量体(配列番号1:塩基配列;配列番号2:アミノ酸配列)を20mg/mLの濃度で含有する水溶液を非特許文献1に記載の方法により調製した。同様にして、HSA単量体(配列番号3:塩基配列;配列番号4:アミノ酸配列)を20mg/mLの濃度で含有する水溶液を調製した。
【0045】
(調製例2:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン2量体および単量体の調製)
調製例1で得られたHSA2量体を含有する水溶液にDTTを添加し(最終濃度3mM)、37℃にて5分間インキュベートした。この水溶液をセファデックスG−25(φ1.6×2.5cm;GEヘルスケア社)のゲル濾過に供してDTTを除去し、0.5mMのDTPA(Diethylenetriaminepentaacetic Acid:ジエチレントリアミン五酢酸;ナカライテスク株式会社)を含有する0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)でHSA2量体を溶出した。HSA2量体の濃度を20mg/mLに調整し、この水溶液にIAN(Isoamyl nitrite:亜硝酸イソアミル;和光純薬工業株式会社)を添加し(最終濃度3mM)、遮光下37℃にて1時間インキュベートした。この水溶液をセファデックスG−25のゲル濾過に供し、0.5mMのPBS(pH7.4)でS−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン(SNO−HSA)2量体を溶出した。SNO−HSA2量体の濃度を調整し、SNO−HSA2量体を20mg/mLの濃度で含有する水溶液を調製した。同様にして、SNO−HSA単量体を20mg/mLの濃度で含有する水溶液を調製した。これらの水溶液は使用するまで−80℃にて保存した。
【0046】
(参考例:S−ニトロソ基含有アルブミン2量体の物理化学的特性の評価)
調製例1で得られたHSA2量体の分子量を評価するために、還元条件下でSDS−PAGE(8%)を行った。調製例1で得られたHSA単量体を比較に用いた。結果を
図1Aに示す。
【0047】
図1Aから明らかなように、HSA2量体は、HSA単量体の分子量66.5kDaの約2倍に相当する分子量130kDaの1本のバンドを示した。これは、HSA2量体が分子構造から予想される分子として均一に調製されたことを示す。
【0048】
次いで、HSA2量体の全電荷を評価するために、キャピラリーゾーン電気泳動を行った。HSA単量体を比較に用いた。キャピラリーゾーン電気泳動の条件は次のとおりである。結果を
図1Bに示す。
【0049】
P/ACE MDQシステム(ベックマン社製)
検出器:フォトダイオードアレイ検出器(214nm)
キャピラリー:60cm(検出器まで50cm)
注入圧:0.5psi(5分間)
電気泳動用緩衝液:リン酸ナトリウム系
【0050】
図1Bから明らかなように、HSA2量体はHSA単量体と同様の全電荷を示した。
【0051】
次いで、HSA2量体の立体構造を評価するために、円二色性分散計(日本分光株式会社製J−720型)を用いてCDスペクトル解析を行った。HSA単量体を比較に用いた。結果を
図1CおよびDに示す。
【0052】
図1CおよびDから明らかなように、HSA2量体はHSA単量体と同様のCDスペクトルを示した。
【0053】
次いで、調製例2で得られたSNO−HSA2量体が含有するS−ニトロソ基の数を評価するために、T. Akaikeら、「Mechanism of biological S-nitrosation and its measurement」、Free Radic Res、2000年、第33巻、p. 461-469に記載の方法に従い、HPLCフローリアクターシステムを用いてSNO−HSA2量体のS−ニトロソ基を定量した。調製例2で得られたSNO−HSA単量体を比較に用いた。結果を表1に示す。
【0054】
【表1】
【0055】
表1から明らかなように、SNO−HSA2量体は1分子あたり平均1.48分子のS−ニトロソ基を含有していた。これは、SNO−HSA単量体の1分子あたり平均0.52分子のS−ニトロソ基の2倍以上であり、SNO−HSA2量体はSNO−HSA単量体と比較してHSA1分子あたり多くのS−ニトロソ基を含有することを示す。
【0056】
次いで、SNO−HSA2量体が含有するS−ニトロソ基の安定性を評価するために、SNO−HSA2量体を5mg/mLの濃度で含有するPBS溶液を遮光下25℃にて保持し、上記と同様にして経時的にSNO−HSA2量体のS−ニトロソ基を定量した。SNO−HSA単量体を比較に用いた。結果を表1に示す。
【0057】
表1から明らかなように、SNO−HSA2量体のS−ニトロソ基の半減期は約39日であり、SNO−HSA単量体のS−ニトロソ基の半減期の約21日よりも長かった。
【0058】
(実施例1:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン2量体の薬物動態)
2官能性キレート剤としてDTPA無水物を用い、放射性インジウム同位体(
111In)の化合物として
111InCl
3(日本メジフィジックス株式会社より提供を受けた)を用いて、SNO−HSA2量体を
111Inで標識した(
111InSNO−HSA2量体の調製)。得られた
111InSNO−HSA2量体を生理食塩水に溶解し、SNO−HSA2量体を5〜10mg/mLの濃度で含有する水溶液を調製した。
【0059】
得られた
111InSNO−HSA2量体をC26癌モデルマウス(特許文献1の実施例1に記載の方法により作製した)72匹に1mg/kgの投与量で経尾静脈投与し、投与後一定時間経過ごとに1匹ずつマウスを屠殺し、背部皮下より腫瘍組織を回収した。回収した腫瘍組織について、ウェル形NaIシンチレーションカウンター(アロカ株式会社製ARC−2000)を用いて放射活性を計測した。投与後の経過時間と投与量に対する腫瘍組織への移行量の結果を
図2に示す。
【0060】
(比較例1:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン単量体などの薬物動態)
SNO−HSA2量体の代わりにSNO−HSA単量体、HSA2量体またはHSA単量体を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、放射活性を計測した。結果を
図2に示す。
【0061】
図2から明らかなように、SNO−HSA2量体は、HSA単量体の2.9倍、HSA2量体の1.6倍腫瘍組織に蓄積した。これは、ニトロソ化および2量体化することによって相乗的にHSAが腫瘍組織に蓄積しやくなったことを示す。
【0062】
(実施例2:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン2量体の細胞毒性)
マウス結腸癌由来細胞株C26(東北大学加齢医学研究所より提供を受けた)をSNO−HSA2量体の存在下で培養し、細胞死の際に細胞から培養上清に放出されるLDH(Lactate Dehydrogenase:乳酸脱水素酵素)の活性を定量することによりSNO−HSA2量体の細胞毒性を評価した。
【0063】
C26細胞を培地(RPMI−1640,10%FBS,100単位/mLペニシリン,100μg/mLストレプトマイシン)に懸濁し、1×10
4細胞を96穴プレートの各穴に播種し、5%CO
2インキュベーター内で37℃にて21時間培養した。次いで、各穴の培養上清を新鮮な培地に交換し、各穴に種々の濃度でSNO−HSA2量体を添加し、さらに細胞を5%CO
2インキュベーター内で37℃にて24時間培養した。LDH−細胞毒性テストワコーキット(和光純薬工業株式会社299−50601)を用いて各穴の培養上清のLDH活性を定量した(処理群)。SNO−HSA2量体を添加しなかったこと以外は、同様にして培養上清のLDH活性を定量した(コントロール群)。細胞死の割合は、(T−L)/(H−L)×100(%)(ここで、T:処理群の吸光度;L:コントロール群の吸光度;H:細胞をTritonで溶解した場合の培養上清の吸光度(LDH活性100%);吸光度は490nm(参照:630nm)にて測定)により求めた。結果を
図3Bに示す。
【0064】
(比較例2:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン単量体などの細胞毒性)
SNO−HSA2量体の代わりにSNO−HSA単量体、HSA2量体またはHSA単量体を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、細胞毒性を評価した。結果を
図3に示す。
【0065】
図3Aから明らかなように、S−ニトロソ基を含有しないHSA2単量体およびHSA単量体で処理した細胞は、20mg/mLの高濃度でも有意なLDH放出を示さなかった。また、
図3Bから明らかなように、SNO−HSA2量体はSNO−HSA単量体の1/3〜1/2のモル濃度で細胞を処理しても同等のLDH放出を示した。これは、1分子あたりの一酸化窒素(NO)の量が、SNO−HSA2量体では理論上SNO−HSA単量体の2倍であるためと考えられ、HSAではなくNOが細胞毒性を有することを示す。
【0066】
(実施例3:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン2量体による一酸化窒素の腫瘍組織への送達)
SNO−HSA2量体(20mg/mL)100μLをC26癌モデルマウス40匹に経尾静脈投与し(1.3μmolNO/kg)、6時間後にマウスを屠殺し、下大静脈より血液を回収し、肝臓および腎臓を回収し、背部皮下より腫瘍組織を回収した。回収した血液を遠心分離し、上清の血漿100μLをNO
X(NO
2−+NO
3−)濃度の定量に用いた。肝臓、腎臓および腫瘍組織は、BioMashaer(登録商標)を用いてホモジナイズし、10mgをNO
X(NO
2−+NO
3−)濃度の定量に用いた。NO
X(NO
2−+NO
3−)濃度の定量にはGriess法に基づく酸化窒素分析システム(株式会社エイコム製ENO−20)を用いた。結果を
図4に示す。
【0067】
(比較例3:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン単量体などによる一酸化窒素の腫瘍組織への送達)
SNO−HSA2量体の代わりにSNO−HSA単量体、または従来のNO供与体であるGSNO(S-Nitrosoglutathione:S−ニトロソグルタチオン;株式会社同仁化学研究所N415)を用いたこと以外は、実施例3と同様にして、NO
X(NO
2−+NO
3−)濃度を定量した。結果を
図4に示す。
【0068】
図4から明らかなように、SNO−HSA2量体の静脈投与によりNO
Xレベルは腫瘍組織では顕著に上昇したが、肝臓および腎臓では上昇しなかった。SNO−HSA2量体はSNO−HSA単量体およびGSNOと比較して腫瘍組織のNO
Xレベルを大きく上昇させた。これは、SNO−HSA2量体は、NOを腫瘍に送達する上で、従来のNO供与体であるGSNOやSNO−HSA単量体よりも効率的であることを示す。
【0069】
(実施例4:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン2量体のEPR効果)
SNO−HSA2量体がNOを腫瘍組織へ送達することにより、NOがEPR(Enhanced Permeation and Retention effect)効果を促進するかどうかを評価するために、SNO−HSA2量体を投与した腫瘍組織でのエバンスブルーの取り込みを定量した。
【0070】
SNO−HSA2量体(20mg/mL)200μLをC26癌モデルマウス24匹に経尾静脈投与し(1.3μmolNO/kg)、6時間後にエバンスブルー(東京化成工業株式会社E0197)を静脈投与し(10mg/kg)、24時間後にマウスを屠殺し、背部皮下より100〜200mgおよび200〜500mgの固形腫瘍を回収した。回収した固形腫瘍をホルムアルデヒドに浸漬し、腫瘍から滲出したエバンスブルーを紫外吸収(620nm)の測定により定量した。T/B比(tissue/blood ratio:血中の値に対する組織中の値の比)の結果を
図5に示す。
【0071】
(比較例4:S−ニトロソ基含有ヒト血清アルブミン単量体のEPR効果)
SNO−HSA2量体の代わりにSNO−HSA単量体を用いたこと以外は、実施例4と同様にして、エバンスブルーを定量した。結果を
図5に示す。
【0072】
図5から明らかなように、SNO−HSA2量体およびSNO−HSA単量体の静脈投与によりエバンスブルーの取り込みは腫瘍組織では上昇したが、筋肉では上昇しなかった。SNO−HSA2量体はSNO−HSA単量体と比較してエバンスブルーの取り込みを大きく上昇させた。これは、SNO−HSA2量体がSNO−HSA単量体よりも顕著にEPR効果を促進するためであり、おそらくSNO−HSA2量体によるNOの腫瘍組織への送達の上昇のためと考えられる。