特許第5962008号(P5962008)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5962008モータ制御装置および電動ポンプユニット
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962008
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】モータ制御装置および電動ポンプユニット
(51)【国際特許分類】
   F04B 49/06 20060101AFI20160721BHJP
   F16H 61/02 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
   F04B49/06 311
   !F16H61/02
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2011-288166(P2011-288166)
(22)【出願日】2011年12月28日
(65)【公開番号】特開2013-136970(P2013-136970A)
(43)【公開日】2013年7月11日
【審査請求日】2014年11月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(72)【発明者】
【氏名】香川 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】宇田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】青木 保幸
【審査官】 新井 浩士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−144020(JP,A)
【文献】 特開2004−270765(JP,A)
【文献】 特開2002−206630(JP,A)
【文献】 特開2005−016460(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 49/06
F16H 61/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ制御信号を出力する制御信号出力手段が設けられた制御回路と、
モータ制御信号の入力により作動して電動モータに対する駆動電力の供給を実行する駆動回路とを備えており、
油の吸入および吐出を行うポンプを駆動する電動モータを油圧に基づいて制御するモータ制御装置において、
制御回路は、上位制御装置からの電流指令値を低減することで過出力を抑制する過出力抑制制御手段をさらに備えており、
制御信号出力手段は、上位制御装置からの電流指令値に過出力抑制制御手段で得られた電流指令値の低減量を付加することでモータ制御信号を得ており、
過出力抑制制御手段は、油圧の増加とともに流量が徐々に減少する第1の部分と、モータに設定された最低回転速度における流量に対応した第2の部分と、油圧が要求出力点を超えた後、前記第1の部分から第2の部分へ急激に移行する部分を有する油圧−流量特性に基づいて制御するものであり、
さらに過出力抑制制御手段は、少なくとも電動モータの電流および回転速度に基づき油圧を推定する油圧推定部と、目標油圧と推定油圧とを比較して推定油圧が高い場合に電流指令値の低減量を制御信号出力手段に出力する電流指令値補正量演算部とを備えており、
油圧推定部は、電動モータの電流および回転速度と推定油圧との対応関係を示す油圧推定マップまたは油圧推定演算式と、電動モータおよびポンプを有する電動ポンプユニットごとに実測して求められて油圧推定マップまたは油圧推定演算式から得られた油圧の推定値を調整する係数であって、変曲点の位置を各電動ポンプユニットの個体差に対応した変曲点の位置に設定し直すために用いられる調整係数とを有することを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
油圧推定部は、さらに油温に基づいて油圧を推定することを特徴とする請求項1のモータ制御装置。
【請求項3】
油圧推定部は、さらに電源電圧に基づいて油圧を推定することを特徴とする請求項1または2のモータ制御装置。
【請求項4】
油の吸入および吐出を行うポンプと、ポンプ駆動用電動モータと、油圧に基づいて電動モータを制御するモータ制御装置とを備えている電動ポンプユニットにおいて、
モータ制御装置は、請求項1〜3のいずれかに記載のものとされていることを特徴とする電動ポンプユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、モータ制御装置および電動ポンプユニットに関し、特に、自動車のトランスミッションに油圧を供給するのに適した電動ポンプユニット用のモータ制御装置およびこのようなモータ制御装置を備えた電動ポンプユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のトランスミッションに油圧を供給する装置として、従来は、主動力源であるエンジンで駆動される主ポンプだけを備えたものが使用されていた。
【0003】
ところが、停車時にエンジンを停止させるアイドルストップ機能を付与すると、アイドルストップによりエンジンが停止しているときにもトランスミッションなどの駆動系への油圧供給を確保するために、従来の主ポンプと、バッテリを電源とする電動モータにより駆動される補助ポンプとの2つの油圧源が必要になる。 このような2つの油圧源を備えたトランスミッション用の油圧供給装置として、特許文献1に示すようなものが知られている。この油圧供給装置はトランスミッションに油圧を供給するもので、補助ポンプは、これを駆動する電動モータおよびモータ制御装置とともに、電動ポンプユニットを構成している。主ポンプからトランスミッションへの主吐出油路の油圧が所定値以上のときは、補助ポンプの駆動を停止し、主吐出油路の油圧が所定値未満のときは、補助ポンプを駆動するようになっている。ここで、主ポンプにより供給される油圧は、補助ポンプにより供給される油圧の数十倍の大きさであり、油圧センサの測定レンジは、主ポンプにより供給される油圧の大きさに合わせて設定されるため、これを補助ポンプの油圧制御に使用したのでは、測定精度が十分ではなく、油圧制御が難しい。補助ポンプを駆動するに際しては、上位ECUからの電流指令値に基づいて電動モータを駆動することで、目標油圧以上が得られるようになっている。
【0004】
トランスミッション(特に、無段変速機=CVT)への油圧の供給に際しは、トランスミッションの個体差によって、油漏れ量が異なっていることが考慮されており、電動ポンプユニットの油圧−流量特性は、通常、最大漏れ量を有するトランスミッションにおける要求出力点を満たすように設定されている。これにより、すべてのトランスミッションに対して、要求出力を満足することができるが、電動ポンプユニットの油圧−流量特性がトランスミッションの漏れ最大時に応じて設定されていることから、漏れが最大値とならないほとんどのトランスミッションでは、必要以上に大きい出力(過出力)となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−116914号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の電動ポンプユニットでは、電動モータへの負荷の有無にかかわらず電流指令値通りの駆動を行うために、必要以上に大きい出力(過出力)の状態が生じることになり、省エネの点でも、また、発熱や騒音発生の点でも好ましくない。
【0007】
また、電動ポンプユニット自体にも、ポンプやモータ部品の加工精度あるいは組立て誤差による個体差があり、出力が小さくなる方に差が出ると、要求出力を満足することができない可能性があり、出力が大きくなる(過出力)方に差が出ると、発熱や騒音に不利となるという問題がある。
【0008】
過出力を抑制するには、実際の油圧を求め、実測油圧に基づいて制御することが好ましいが、そのためには、主ポンプ用とは別に、電動ポンプユニットに適した測定レンジの油圧センサを付加する必要があり、コスト高になるという問題がある。したがって、過出力を抑制するには、電動ポンプユニット用油圧センサを付加しなくてよいように、ポンプの油圧を精度よく推定することが課題となる。
【0009】
この発明の目的は、上記の問題を解決し、トランスミッションなどの油圧が供給される装置の個体差および電動ポンプユニット自体の個体差の両方を考慮し、要求出力不足を確実に防止した上で、過出力を抑えることで、発熱および騒音を最低限に抑えることができるモータ制御装置および電動ポンプユニットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明によるモータ制御装置は、モータ制御信号を出力する制御信号出力手段が設けられた制御回路と、モータ制御信号の入力により作動して電動モータに対する駆動電力の供給を実行する駆動回路とを備えており、油の吸入および吐出を行うポンプを駆動する電動モータを油圧に基づいて制御するモータ制御装置において、制御回路は、上位制御装置からの電流指令値を低減することで過出力を抑制する過出力抑制制御手段をさらに備えており、制御信号出力手段は、上位制御装置からの電流指令値に過出力抑制制御手段で得られた電流指令値の低減量を付加することでモータ制御信号を得ており、過出力抑制制御手段は、油圧の増加とともに流量が徐々に減少する第1の部分と、モータに設定された最低回転速度における流量に対応した第2の部分と、油圧が要求出力点を超えた後、前記第1の部分から第2の部分へ急激に移行する部分を有する油圧−流量特性に基づいて制御するものであり、さらに過出力抑制制御手段は、少なくとも電動モータの電流および回転速度に基づき油圧を推定する油圧推定部と、目標油圧と推定油圧とを比較して推定油圧が高い場合に電流指令値の低減量を制御信号出力手段に出力する電流指令値補正量演算部とを備えており、油圧推定部は、電動モータの電流および回転速度と推定油圧との対応関係を示す油圧推定マップまたは油圧推定演算式と、電動モータおよびポンプを有する電動ポンプユニットごとに実測して求められて油圧推定マップまたは油圧推定演算式から得られた油圧の推定値を調整する係数であって、変曲点の位置を各電動ポンプユニットの個体差に対応した変曲点の位置に設定し直すために用いられる調整係数とを有することを特徴とするものである。

【0011】
過出力抑制制御手段において、上位制御装置からの電流指令値の低減量が求められ、制御信号出力手段から出力されるモータ制御信号は、この低減量が上位制御装置からの電流指令値に付加されたものとなる。過出力抑制制御手段は、予め設定された目標油圧と電動モータで駆動されることで変化する推定油圧とに基づいて、推定油圧が高い場合に電流指令値の低減量を制御信号出力手段に出力し、これにより、上位制御装置からの電流指令値に基づいた制御に比べて、実際の油圧を目標油圧を確保した状態で低くすることができ、電動モータの出力を抑制することができる。
【0012】
実際の油圧は、電動ポンプユニット用油圧センサを付加しなくてよいように、電動モータで得られるデータから推定されることが好ましく、少なくとも電動モータの電流および回転速度(これら2つだけを使用してもよく、必要に応じて、基準電圧と電源電圧との比なども使用して)から油圧を推定する油圧推定部によって、油圧が推定される。そして、油圧が供給される装置(例えば無段変速機)の個体差を考慮した要求出力点を満たすように設定された油圧−流量曲線に基づいた制御とすることで、要求出力不足が防止される。油圧推定マップまたは油圧推定演算式は、個体差については、油圧が供給される装置だけを考慮するものとされ、個々の電動ポンプユニットに個体差があった場合、要求出力不足または過出力となる可能性がある。そこで、この個体差に対し、各電動ポンプユニットの実測に基づいて調整係数が求められて、基本となる油圧推定マップまたは油圧推定演算式とともに、調整係数も、モータ制御装置に蓄えられる。そして、電動モータの電流(電源電流またはモータ電流)とモータ回転速度とによって油圧を推定し、油圧推定マップまたは油圧推定演算式に調整係数が付与された対応関係に基づいて、電動モータを駆動することにより、個々の電動ポンプユニットの個体差が考慮された制御が行われる。
【0013】
こうして、過出力抑制のために油圧センサを付加することなく、適正出力となる(要求出力不足もなく過出力もない)制御が行われ、発熱および騒音を最低限に抑えることができる。
【0014】
油圧推定部は、さらに油温に基づいて油圧を推定することがある。このようにすると、油温変化に伴う油の粘度変化に対応することができ、油圧の推定精度を高めることができる。
【0015】
油圧推定部は、さらに電源電圧に基づいて油圧を推定することがある。このようにすると、電源電圧が変化したことに伴う電動モータの電流および回転速度の変化分を補正することができ、油圧の推定精度をさらに高めることができる。
【0016】
この発明による電動ポンプユニットは、油の吸入および吐出を行うポンプと、ポンプ駆動用電動モータと、油圧に基づいて電動モータを制御するモータ制御装置とを備えている電動ポンプユニットにおいて、モータ制御装置は、上記のいずれかに記載のものとされていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
この発明の電動ポンプユニットによれば、上記のように、個々の電動ポンプユニットの個体差が考慮されて、要求出力不足もなく過出力もない制御が行われ、過出力による発熱および騒音を最低限に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、この発明の電動ポンプユニットを自動車のトランスミッションの油圧供給装置に適用した実施形態を示す概略構成図である。
図2図2は、この発明のモータ制御装置のハードウエアの概略構成の1例を示すブロック図である。
図3図3は、この発明のモータ制御装置のソフトウエアの概略構成の1例を示すブロック図である。
図4図4は、この発明の電動ポンプユニットのモータ制御装置によって得られるポンプの出力特性である油圧−流量曲線の典型例を示すグラフである。
図5図5は、この発明の電動ポンプユニットのモータ制御装置によって得られるポンプの出力特性に関し、個々の電動ポンプユニットの個体差について説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、この発明を自動車のトランスミッション用の油圧供給装置に適用した実施形態について説明する。
【0020】
図1は、自動車のトランスミッション(無段変速機)に油圧を供給する油圧供給装置の1例を示す概略構成図である。
【0021】
図1において、油圧供給装置には、トランスミッション用電動ポンプユニット(1)が設けられている。この電動ポンプユニット(1)は、自動車のトランスミッション(2)において、アイドルストップ時に低下する油圧を補助供給するために用いられるものであり、油圧供給用の補助ポンプであるポンプ(3)と、ポンプ駆動用電動モータ(4)と、モータ(4)を制御するモータ制御装置(5)とを備えている。
【0022】
モータ(4)はセンサレス制御ブラシレスDCモータ、補助ポンプ(3)は内接歯車ポンプである。好ましくは、ポンプ(3)およびモータ(4)は、共通のハウジング内に一体状に設けられる。モータ制御装置も、ポンプ(3)およびモータ(4)と共通のハウジング内に設けられてもよい。
【0023】
油圧供給装置には、上記の補助ポンプ(3)を有する電動ポンプユニット(1)の他に、エンジン(6)により駆動される主ポンプ(7)が設けられている。
【0024】
主ポンプ(7)の油吸入口(8)はオイルパン(9)に接続され、油吐出口(10)は主吐出油路(11)を介してトランスミッション(2)に接続されている。補助ポンプ(3)の油吸入口(12)はオイルパン(9)に接続され、油吐出口(13)は補助吐出油路(14)を介して主吐出油路(11)に接続されている。補助吐出油路(14)には、主吐出油路(11)側から補助ポンプ(3)への油の逆流を阻止する逆止弁(15)が設けられている。主吐出油路(11)には、油圧センサ(16)および油温センサ(17)が設けられている。
【0025】
モータ制御装置(5)には、直流電源であるバッテリ(18)およびエンジン(6)やトランスミッション(2)を制御するコンピュータである上位ECU(上位制御装置)(19)が接続されている。上位ECU(19)は、油圧センサ(16)の出力より主吐出油路(11)の油圧を監視し、油圧が所定の設定値以上の場合は補助ポンプ停止信号を、設定値未満の場合は補助ポンプ駆動信号をモータ制御装置(5)に出力する。
【0026】
モータ制御装置(5)は、上位ECU(19)から補助ポンプ停止信号が出力されているときは、モータ(4)の駆動を停止して、補助ポンプ(3)の駆動を停止し、補助ポンプ駆動信号が出力されているときは、モータ(4)を駆動して、補助ポンプ(3)を駆動する。
【0027】
エンジン(6)が駆動されているときは、これによって主ポンプ(7)が駆動され、通常、主吐出油路(11)の油圧は設定値以上であり、補助ポンプ(3)は駆動を停止している。このとき、主ポンプ(7)から主吐出油路(11)を介してトランスミッション(2)に油が供給される。そして、逆止弁(15)により、主吐出油路(11)から補助ポンプ(3)への油の逆流が阻止される。
【0028】
エンジン(6)が停止しているときは、通常、主吐出油路(11)の油圧はほぼ0で、設定値未満であり、補助ポンプ(3)が駆動される。これにより、補助ポンプ(3)から補助吐出油路(14)および主吐出油路(11)を介してトランスミッション(2)に油が供給される。
【0029】
エンジン(6)が駆動されていても、主吐出油路(11)の油圧が設定値未満の場合は、補助ポンプ(3)が駆動され、補助ポンプ(3)から補助吐出油路(14)を介して主吐出油路(11)に油が供給される。
【0030】
補助ポンプ(3)が駆動される際には、上位ECU(19)は、アイドリング条件が成立した段階で電動ポンプユニット(1)へ作動指示を行い、電動ポンプユニット(1)のモータ制御装置(5)は、上位ECU(19)からの電流指令値に基づいてモータ(4)を制御する。
【0031】
図2は、モータ制御装置(5)のハードウエアの1具体例を示す概略構成図であり、モータ制御装置(5)は、バッテリ(18)を内部電源として、片側PWM方式でモータ(4)を駆動するものであり、モータ(4)を駆動する駆動回路(20)と、駆動回路(20)を制御するモータ制御信号出力手段を備えたCPU(制御回路)(21)と、CPU(21)の出力するモータ制御信号に基づいて、駆動回路(20)を構成する各スイッチング素子にゲート駆動信号を出力するプリドライバ(22)と、駆動回路(20)の入力電流を検出する電流検出回路(23)と、モータ(4)のロータの位相を検出する位相検出回路(24)と、電源電圧を検出する電圧検出回路(25)とを備えている。
【0032】
図2に示すハードウエア構成は、基本的に公知のものであり、公知の適宜な構成を取ることができる。
【0033】
駆動回路(20)は、バッテリ(18)からモータ(4)への通電を制御する複数のスイッチング素子(図示略)を備えたスイッチング回路となっている。CPU(21)は、モータ(4)の各相の相電圧から、モータ(4)のロータ(図示略)の回転位置を推定し、それに基づいて、PWM方式で駆動回路(20)の各スイッチング素子を制御し、これにより、モータ(4)への通電が制御される。電流検出回路(23)は、駆動回路(20)の入力電流を検出し、その出力はCPU(21)に入力する。位相検出回路(24)は、モータ(4)のロータの位相を検出し、その出力はCPU(21)に入力し、モータ(4)の回転速度を求めるために使用される。バッテリ(18)の直流電圧が駆動回路(20)およびCPU(21)に印加され、これが駆動回路(20)の入力電圧となる。
【0034】
図3は、CPU(制御回路)(21)におけるソフトウエアの構成を示している。
【0035】
同図において、CPU(21)は、上位ECU(19)からの電流指令値に基づいて、これを補正してモータ制御信号を出力するようになっており、CPU(21)は、上位ECU(19)からの電流指令値に基づいてモータ制御信号を出力する制御信号出力手段(31)と、上位ECU(19)からの電流指令値を低減することで過出力を抑制する過出力抑制制御手段(32)と、上位ECU(19)からの電流指令値を増加することでセンサレス制御用の最低回転速度の維持制御を行う最低出力維持制御手段(33)とを備えている。
【0036】
過出力抑制制御手段(32)は、油圧推定部(34)と、油圧推定部(34)で得られた推定油圧と目標油圧とを比較して上位ECU(19)から制御信号出力手段(31)に入力してくる電流指令値の低減量を求める電流指令値補正量演算部(35)とを備えている。
【0037】
制御信号出力手段(31)は、電流制御の実行により電流指令値を求め、この電流指令値に実電流値を追従させるように変換係数が付与された電圧指令値がモータ(4)に印加される。制御信号出力手段(31)は、電流指令値に実電流値を追従させるように、電流フィードバック制御を行う電流制御ループ(37)を有している。
【0038】
過出力抑制制御手段(32)は、後述するように、上位ECU(19)からの電流指令値を低減するようになっており、最低出力維持制御手段(33)は、センサレス制御のための下限の回転速度と、位相検出回路(24)で得られたロータの位相から求めたモータ(4)の実回転速度とを比較して、モータ(4)の実回転速度の方が小さい場合に、上位ECU(19)からの電流指令値を増加するようになっている。図4は、過出力抑制制御手段(32)および最低出力維持制御手段(33)が設けられていることで、実現可能となっている補助ポンプ(以下では、「ポンプ」と称す)(3)の特性を示している。
【0039】
図4において破線で示すAおよびBの曲線は、トランスミッション(2)の個体差を考慮した負荷曲線を示しており、Aは、トランスミッション(2)のCVT(無段変速機)の漏れ最大時の負荷曲線を示し、Bは、CVT漏れ最小時の負荷曲線を示している。ポンプ(3)には、CVT漏れ最大時の負荷曲線上にある要求出力点Pを上回るような出力とすること(点Pの油圧値以上の要求油圧値)が求められている。これに対応可能なポンプ(3)の油圧−流量曲線は、実線で示すCの部分が必要となる。このような油圧−流量曲線を有するポンプ(3)は、追加の制御を行わない場合、油圧の増加とともに流量が徐々に(連続的に)減少する破線Dで示す部分を有することになる。破線Dで示す部分は、必要油圧よりも大きいことから、この部分において、油圧不足となることはないものの、CVT漏れ最小時の負荷曲線である破線Bに対しては、必要以上の油圧(過出力)となっている。この過出力は、省エネの点でも、また、発熱や騒音発生の点でも好ましくない。
【0040】
そこで、この発明におけるモータ制御装置(5)による制御に際しては、実線Cの部分の後(すなわち、要求出力点Pを超えた後)は、点Qを変曲点として、急激に出力(油圧×流量)が小さくなるような実線Eで示す油圧−流量曲線に従うものとされている。また、センサレス制御を行うために、モータ(4)の最低回転速度が設定されており、油圧が大きい場合でも、ある程度の流量が確保されるように、最小曲線部Fが設定されている。
【0041】
ポンプ(3)の出力が変曲点Qを有する実線C、実線Eおよび実線Fからなる油圧−流量曲線となるように、モータ(4)を制御することにより、トランスミッション(2)の個体差が考慮されて、トランスミッション(2)の個体差の上限に対しても、要求出力が満たされるようになされ、しかも、過出力とならないよう制御を行うことができる。
【0042】
油圧は、主吐出油路(11)の油圧センサ(16)によって検知した値を使用するのではなく、電動ポンプユニット(1)の電源電流(またはモータ電流)とモータ回転速度とによって推定されている。より詳しくは、上位ECU(19)から得られる油温と電動ポンプユニット(1)内部で得られる電源電流(またはモータ電流)、モータ回転速度および電源電圧とを用いて、油圧推定部(34)において、吐出油圧が推定されている。油圧推定部(34)は、予め測定した油温ごとのモータ回転速度と電流のデータテーブル(油圧推定マップ(36))を持ち、推定油圧は、そのデータテーブルに当てはめた値にデータテーブルの基準電圧と電源電圧との比をかけた値として求められている。
【0043】
油圧推定マップ(36)は、CPU(21)に記憶され、上位ECU(19)から電動ポンプユニット(1)へ作動指示が出た場合には、この油圧推定マップ(36)から求めた推定油圧が目標油圧になるようにモータ(4)が制御される。そして、この目標油圧が図4に示す実線C、実線Eおよび実線Fからなる油圧−流量曲線を満たすように決められることで、省エネで、かつ、発熱や騒音発生も抑えた過出力抑制制御が実行される。
【0044】
油圧推定マップ(36)という形態にせずに、油温、電源電流(またはモータ電流)、モータ回転速度および電源電圧を用いた油圧推定演算式を記憶させておいて、油圧推定演算式に基づいて油圧を推定することもできる。
【0045】
図4に示す油圧−流量曲線において、過出力抑制の変曲点Qは、ポンプ(3)の効率、モータ(4)のトルク定数などの個体差により、推定油圧が変わることによって移動する。したがって、油圧推定マップ(36)を全ての電動ポンプユニット(1)に共通のものとした場合、変曲点Qが小さくなった場合は要求出力に不足し、変曲点Qが大きくなった場合は、過出力となり発熱と騒音に不利となる。
【0046】
そこで、電動ポンプユニット(1)は、製品ごとにその出力が測定され、各電動ポンプユニット(1)ごとのオフセットゲイン(調整係数)が求められている。オフセットゲインは、例えば油圧の推定値に乗算する定数(1.02、0.97など)として求められて、個々の電動ポンプユニット(1)のモータ制御装置(5)のCPU(21)に記憶される。そして、油圧推定マップ(36)から得られる油圧の推定値をオフセットゲインによって補正した値が油圧推定部(34)から電流指令値補正量演算部(35)に出力される。
【0047】
すなわち、電動ポンプユニット(1)の個体差によると、図5に細線で示すように、変曲点Q’における油圧が要求出力点Pの油圧よりも小さいことが起こり得るし、また、変曲点Q’’における油圧が要求出力点Pの油圧よりも必要以上に大きい(過出力)ことも起こり得る。上記オフセットゲインを使用することにより、変曲点Q’における油圧が要求出力点Pの油圧よりも小さい場合には、油圧−流量曲線を右に(油圧が大きくなるように)ずらすことにより、変曲点Q’を最適な位置Qに設定することができ、また、変曲点Q’’における油圧が要求出力点Pの油圧よりも大きい場合には、過出力となっているとして、油圧−流量曲線を左に(油圧が小さくなるように)ずらすことにより、変曲点Q’’を最適な位置Qに設定することができる。
【0048】
こうして、電動ポンプユニット(1)の出力に個体差が生じても、最適な過出力抑制制御とできるため、発熱・騒音を最低限に抑えることができる。
【0049】
なお、油圧推定マップ(36)から得られる油圧の推定値をオフセットゲインによって補正する代わりに、油圧推定マップ(36)内の油圧の推定値がオフセットゲインによって予め補正されているようにしてもよい。さらに、油圧の推定値をオフセットゲインによって補正する代わりに、目標油圧を補正してもよい。また、油圧推定マップ(36)としては、1条件(標準温度)に対する標準マップだけを使用してもよく、標準マップと低温用調整係数、高温用調整係数などとを組み合わせることで、複数の温度ゾーンに対応できるようにしてもよく、複数の温度ゾーンに対応して、複数の油圧推定マップを設定するようにしてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、主吐出油路(11)の油圧に基づいて、補助ポンプ(3)の駆動・停止の切り換えを行っているが、エンジン(6)が駆動されているときは補助ポンプ(3)を停止させ、エンジン(6)が停止しているときは補助ポンプ(3)を駆動するようにすることもできる。電動ポンプユニット(1)の構成は、上記実施形態のものに限らず、適宜変更可能である。また、この発明は、自動車のトランスミッション用の油圧供給装置以外にも適用できる。
【符号の説明】
【0051】
(1):電動ポンプユニット、(3):ポンプ、(4):電動モータ、(19):上位ECU(上位制御装置)、(21):CPU(制御回路)、(32):過出力抑制制御手段、(34):油圧推定部、(35):電流指令値補正量演算部、(36):油圧推定マップ
図1
図2
図3
図4
図5