(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962061
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】電動モータの制御装置及びこれを備えた車両用操舵装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/16 20060101AFI20160721BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
H02P25/16
B62D5/04
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-41868(P2012-41868)
(22)【出願日】2012年2月28日
(65)【公開番号】特開2013-179762(P2013-179762A)
(43)【公開日】2013年9月9日
【審査請求日】2015年1月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(72)【発明者】
【氏名】内田 修弘
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−327693(JP,A)
【文献】
特開2011−198951(JP,A)
【文献】
特開2009−277726(JP,A)
【文献】
特表2007−533518(JP,A)
【文献】
米国特許第05777844(US,A)
【文献】
独国特許出願公開第04324210(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 25/16
B62D 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回路パターンが形成された複数の回路導体層間に絶縁層を介在させて積層した多層構造の回路基板と、前記回路基板が固定されるベースとを備えた電動モータの制御装置において、
前記回路基板には、制御信号を出力する制御回路の配線を構成する制御回路パターンが形成された制御パターン部と、前記制御信号に基づいて前記電動モータに駆動電流を供給する駆動回路の配線を構成する駆動回路パターンが形成された駆動パターン部とが領域を分けて設けられ、
前記回路基板における前記制御パターン部が設けられている側の領域には、前記回路基板の表面及び裏面に回路素子が実装され、
前記ベースには、凹部が形成され、
前記回路基板は、前記駆動回路の前記ベースに対する絶縁を保ちつつ、前記制御パターン部が設けられている側の領域が前記凹部の上方に配置された状態で、前記駆動パターン部が設けられている側の領域における前記回路基板の裏面が放熱グリースを介して前記ベースに固定され、
前記回路基板の裏面に設けられた前記制御パターン部と前記凹部との間には、前記回路素子が配置される空間が形成されたことを特徴とする電動モータの制御装置。
【請求項2】
前記回路基板における前記ベースに最も近接して配置される前記絶縁層には、セラミックが添加されていることを特徴とする請求項1に記載の電動モータの制御装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の電動モータの制御装置を備えた車両用操舵装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動モータの制御装置及びこれを備えた車両用操舵装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用操舵装置等に用いられる電動モータの制御装置は、制御信号を出力する制御回路、及び制御信号に基づいてFET等のスイッチング素子をオンオフして電動モータに駆動電流を供給する駆動回路が形成された回路基板を備えている。そして、近年では、回路の小型・高密度化を図るために、回路パターンが形成された複数の回路導体層の間に絶縁層を介在させて積層した多層構造の回路基板が採用されるようになってきている。
【0003】
こうした電動モータの制御装置として、例えば特許文献1には、一枚の回路基板上に制御回路の配線を構成する制御回路パターンが形成された制御パターン部と、駆動回路の配線を構成する駆動回路パターンが形成された駆動パターン部とが領域を分けて設けられ、制御回路及び駆動回路を同一基板上に形成したものが開示されている。この制御装置では、制御回路と駆動回路とを別々の基板上に形成し、各基板をバスバー等で接続する構成(例えば、特許文献2)に比べ、その小型化が容易であるといった利点がある。
【0004】
また、駆動回路には、電動モータに供給する大きな駆動電流が流れるため、発熱量が大きくなり易く、過熱する虞がある。そのため、特許文献1の制御装置では、伝熱シートを介して回路基板をベース(ハウジング)に固定しており、このベースをヒートシンクとして機能させることにより駆動回路で発生した熱を放熱し、駆動回路が過熱することを防止している(特許文献1、第4図参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−83063号公報
【特許文献2】特開2009−277726号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、近年、制御装置のより一層の小型化が要求されるようになっている。しかし、上記特許文献1の構成では、回路基板におけるハウジング側の側面(裏面)全体が伝熱シートを介してハウジングに接触しているため、回路基板の片面にしか回路素子を設けることができない。したがって、回路素子の実装面積を確保する観点から、回路基板を小型化することには限界があり、制御装置の小型化が極めて困難なものとなっていた。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決するためになされたものであって、その目的は、より一層の小型化を図ることのできる電動モータの制御装置及びこれを備えた車両用操舵装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明は、回路パターンが形成された複数の回路導体層間に絶縁層を介在させて積層した多層構造の回路基板と、前記回路基板が固定されるベースとを備えた電動モータの制御装置において、前記回路基板には、制御信号を出力する制御回路の配線を構成する制御回路パターンが形成された制御パターン部と、前記制御信号に基づいて前記電動モータに駆動電流を供給する駆動回路の配線を構成する駆動回路パターンが形成された駆動パターン部とが領域を分けて設けられ、
前記回路基板における前記制御パターン部が設けられている側の領域には、前記回路基板の表面及び裏面に回路素子が実装され、前記ベースには、凹部が形成され、前記回路基板は、前記駆動回路の前記ベースに対する絶縁を保ちつつ、前記制御パターン部が
設けられている側の領域が前記凹部の上方に配置され
た状態で、前記駆動パターン部が
設けられている側の領域における前記回路基板の裏面が放熱グリースを介して前記ベースに固定され、
前記回路基板の裏面に設けられた前記制御パターン部と前記凹部との間には、
前記回路素子が
配置される空間が形成されたことを要旨とする。
【0009】
上記構成によれば、回路基板の制御パターン部がベースの凹部の上方に配置されることにより該制御パターン部と凹部との間に回路素子が実装可能となる空間が形成されるため、回路基板のうち、制御パターン部が設けられた領域の両面に回路素子を実装できるようになる。そのため、片面のみにしか回路素子を実装できない場合に比べ、実装面積を大きくすることができ、回路基板を小型化して制御装置のより一層の小型化を図ることができる。また、回路基板の駆動パターン部がベースに固定(設置)されるため、ベースを介して駆動回路で発生した熱を放熱することができ、駆動回路が過熱することを防止できる。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記回路基板における前記ベースに最も近接して配置される前記絶縁層には、セラミックが添加されていることを要旨とする。
請求項
3に記載の発明は、請求項1
又は請求項2に記載の電動モータの制御装置を備えた車両用操舵装置であることを要旨とする。
上記構成によれば、制御装置のより一層の小型化が図られるため、搭載性等に優れた車両用操舵装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、より一層の小型化を図ることのできる電動モータの制御装置及びこれを備えた車両用操舵装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を具体化した一実施形態を図面に従って説明する。
図1に示すように、車両用操舵装置1において、ステアリングホイール2が固定されたステアリングシャフト3は、ラックアンドピニオン機構4を介してラック軸5と連結されている。これにより、ステアリング操作に伴うステアリングシャフト3の回転は、ラックアンドピニオン機構4によりラック軸5の往復直線運動に変換される。なお、ステアリングシャフト3は、コラム軸8、中間軸9、及びピニオン軸10を連結してなる。そして、このステアリングシャフト3の回転に伴うラック軸5の往復直線運動が、ラック軸5の両端に連結されたタイロッド11を介して図示しないナックルに伝達されることにより、転舵輪12の舵角、すなわち車両の進行方向が変更される。
【0014】
また、車両用操舵装置1は、操舵系にステアリング操作を補助するためのアシスト力を付与するEPSアクチュエータ(操舵力補助装置)13を備えている。本実施形態の車両用操舵装置1は、コラム軸8を回転駆動する所謂コラム型の電動パワーステアリング装置として構成されており、EPSアクチュエータ13の駆動源となる電動モータ14はウォーム&ホイール等の減速機構15を介してコラム軸8と駆動連結されている。そして、電動モータ14の回転を減速機構15により減速してコラム軸8に伝達することによって、そのモータトルクをアシスト力として操舵系に付与する構成になっている。
【0015】
図2に示すように、EPSアクチュエータ13において、電動モータ14の作動を制御する制御装置21は、電動モータ14が固定される第1ハウジング16と、減速機構15(
図2では図示略)が収容される第2ハウジング17との間に設けられている。
図3及び
図4に示すように、制御装置21は、制御信号を出力する制御回路及び制御信号に基づいて電動モータ14に駆動電流を供給する駆動回路が形成された回路基板22と、第1ハウジング16と第2ハウジング17との間に挟まれて回路基板22が固定(設置)されるベース(ハウジング)23とを備えている。ベース23は、アルミ合金等の熱伝導率の高い金属材料からなり、略長方形板状に形成されている。回路基板22は、ベース23の電動モータ14側に固定されている。そして、回路基板22及びベース23には、電動モータ14の回転軸(図示略)が挿通される貫通孔24,25が形成されている。なお、ベース23の電動モータ14側には、外部のバッテリ(図示略)と回路基板22とを接続するためのコネクタ部を有するモジュール(図示略)が固定されるようになっている。
【0016】
次に、回路基板及びその周辺構成について説明する。
図5に示すように、回路基板22は、第1〜第4の回路導体層31a〜31d間に第1〜第3の絶縁層32a〜32cをそれぞれ介在させて積層した多層構造を有している。具体的には、回路基板22は、ベース23と反対側から順に、第1の回路導体層31a、第1の絶縁層32a、第2の回路導体層31b、第2の絶縁層32b、第3の回路導体層31c、第3の絶縁層32c及び第4の回路導体層31dが積層されてなる。
【0017】
第1〜第4の回路導体層31a〜31dは、銅箔等の導体箔の一部を除去することにより形成される所定の回路パターン33をそれぞれ有しており、第2及び第3の回路導体層31b,31cの回路パターン33を構成する配線間の隙間は絶縁性樹脂材料により埋められている。一方、第1〜第3の絶縁層32a〜32cは、絶縁性樹脂材料からなり、隣接する回路パターン33同士の絶縁を保っている。また、回路基板22には、所定の回路導体層及び絶縁層を貫通して積層方向(
図5における上下方向)に延びるビアホール(層間接続孔)34が形成されている。そして、ビアホール34の内周には、銅等の導体材料からなる接続部材35が挿入されており、この接続部材35を介して異なる層の回路パターン33同士が互いに電気的に接続されている。これにより、制御回路及び駆動回路はそれぞれ立体的な回路として構成されている。なお、本実施形態では、ベース23に最も近接して配置される第3の絶縁層32cには、例えばセラミック等の樹脂材料よりも熱伝導率の高い材料が添加されることにより、その熱伝導性の向上が図られている。
【0018】
回路パターン33は、制御回路の配線を構成する制御回路パターン41と駆動回路の配線を構成する駆動回路パターン42とが、第1〜第4の回路導体層31a〜31d内において積層方向に対向するように領域を分けて設けられている。これにより、回路基板22には、制御回路パターン41が形成された制御パターン部43と、駆動回路パターン42が形成された駆動パターン部44とが領域を分けて設けられている。なお、第4の回路導体層31dの駆動回路パターン42は、第3の回路導体層31cの駆動回路パターン42を含む他の回路パターン33と絶縁されている。
【0019】
一方、
図3〜
図5に示すように、ベース23の回路基板22が固定される設置面23aには、略四角穴状の凹部45が形成されている。そして、回路基板22は、制御パターン部43が凹部45の上方に配置されるように、駆動パターン部44が熱伝導率の高い放熱グリース46を介してベース23に固定されている。これにより、制御パターン部43と凹部45の底面との間には、IC等の回路素子47が配置可能な空間Sが形成されており、回路基板22の制御パターン部43では、回路基板22の表面22a及び裏面22bの両面に回路素子47が実装されている。なお、駆動パターン部44では、表面22aにのみFET(電界効果型トランジスタ)等の回路素子48が実装されている。そして、上記のようにベース23に接触する第4の回路導体層31dの駆動回路パターン42は、他の回路パターンに対して絶縁されているため、駆動回路のベース23に対する絶縁が保たれている。
【0020】
なお、回路基板22の製造は、先ず第1〜第4の回路導体層31a〜31dのいずれかとなる導体箔間に絶縁性樹脂材料を挟み込んで板状に成形し、エッチング等により導体箔の一部を除去することで任意の回路パターン33を形成する。続いて、この回路パターンとの間に絶縁性樹脂材料を挟み込んで新たな導体箔を積層し、この導体箔に回路パターン33を形成する工程を繰り返す。そして、ビアホール34を形成し、ビアホール34の内周に接続部材35を設けることにより、回路基板22が製造されるようになっている。
【0021】
以上記述したように、本実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
(1)駆動回路のベース23に対する絶縁を保ちつつ、制御パターン部43が凹部45の上方に配置されるように駆動パターン部44をベース23に固定することにより、制御パターン部43と凹部45との間に回路素子47が実装可能となる空間Sを形成した。そのため、回路基板22のうち、制御パターン部43が設けられた領域の両面に回路素子47を実装できるようになり、片面のみにしか回路素子を実装できない場合に比べ、実装面積を大きくすることができる。これにより、回路基板22を小型化して制御装置21のより一層の小型化を図ることができ、搭載性等に優れた車両用操舵装置1を提供することができる。また、回路基板22の駆動パターン部44がベース23に固定されるため、ベース23を介して駆動回路で発生した熱を放熱することができ、駆動回路が過熱することを防止できる。
【0022】
(2)ベース23と駆動パターン部44との間に放熱グリース46を介在させたため、回路基板22の裏面23bやベース23の設置面23aの微小な凹凸等により形成される隙間に空気が入り込むことを抑制でき、駆動回路で発生した熱を効率的にベース23に伝達させて放熱することができる。
【0023】
なお、上記実施形態は、これを適宜変更した以下の態様にて実施することもできる。
・上記実施形態では、駆動パターン部44とベース23との間に放熱グリース46を介在させたが、これに限らず、高熱伝導率を有し、駆動パターン部44とベース23との間の隙間を埋めることができれば、例えば放熱シート等の伝熱部材を介在させてもよい。また、駆動パターン部44とベース23との間に放熱グリース46等の伝熱部材を介在させなくともよい。
【0024】
・上記実施形態では、第3の絶縁層32cの熱伝導率を高くしたが、これに限らず、例えば第1〜第3の絶縁層32a〜32cの全ての熱伝導率の高くしてもよい。また、第3の絶縁層32cの熱伝導率を高くしなくてもよい。
【0025】
・上記実施形態では、第4の回路導体層31dの駆動回路パターン42を残存させたが、この駆動パターン部44を全部除去して、第3の絶縁層32cが放熱グリース46を介してベース23に固定されるようにしてもよい。
【0026】
また、第4の回路導体層31dの駆動回路パターン42を他の回路パターンに対して絶縁したが、駆動回路のベース23に対する絶縁を保つことができれば、例えば第4の回路導体層31dの駆動回路パターン42と第3の回路導体層31cの駆動回路パターン42の一部とがビアホールを介して接続されていてもよい。
【0027】
・上記実施形態において、回路導体層を積層する数は、2層以上であれば、適宜変更可能である。
・上記実施形態では、本発明をEPSアクチュエータ13の駆動源として用いられる電動モータ14の制御装置21に適用したが、例えば電動ポンプ装置等、他の装置の駆動源として用いられる電動モータの制御装置21に適用してもよい。
【符号の説明】
【0028】
1…車両用操舵装置、14…電動モータ、21…制御装置、22…回路基板、23…ベース、31a…第1の回路導体層、31b…第2の回路導体層、31c…第3の回路導体層、31d…第4の回路導体層、32a…第1の絶縁層、32b…第2の絶縁層、32c…第3の絶縁層、33…回路パターン、34…ビアホール、35…接続部材、41…制御回路パターン、42…駆動回路パターン、43…制御パターン部、44…駆動パターン部、45…凹部、46…放熱グリース、47,48…回路素子、S…空間。