特許第5962188号(P5962188)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962188
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマーの製造法
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/28 20060101AFI20160721BHJP
   C08F 2/38 20060101ALI20160721BHJP
   C08L 27/12 20060101ALI20160721BHJP
   C08F 214/22 20060101ALI20160721BHJP
   F16L 11/04 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   C08F2/28
   C08F2/38
   C08L27/12
   C08F214/22
   F16L11/04
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-105619(P2012-105619)
(22)【出願日】2012年5月7日
(65)【公開番号】特開2013-234215(P2013-234215A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2015年4月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】林 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】村上 総一郎
(72)【発明者】
【氏名】前田 満
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/050588(WO,A1)
【文献】 特開平07−025948(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/049093(WO,A1)
【文献】 特開2009−227754(JP,A)
【文献】 特開2003−119204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00−246/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤である2,3,3,3-テトラフルオロ-2-[1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]-1-プロパン酸アンモニウムCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4の存在下で、全モノマー混合物総量の10〜40重量%に相当する、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンからなる仕込みモノマー混合物を反応系内に仕込んで共重合反応を開始させた後、該反応系内に残余のこれらモノマー混合物を追添して含フッ素エラストマーを製造する方法において、
(1)仕込み段階での反応原料総量に対し0.0001〜0.1重量%の割合で用いられる連鎖移動剤の存在下で、分添されるモノマー混合物総量の30〜70重量%の割合のモノマー混合物を分添一段階目として分添して共重合反応させた後、
(2)さらにこの段階までの反応原料総量に対し0.3〜1.5重量%の割合で用いられる連鎖移動剤の追加存在下で、さらに同一反応系内に、分添されるモノマー混合物総量の70〜30重量%に相当する割合のモノマー混合物を分添二段階目として分添して共重合反応を行い、
テトラフルオロエチレン10〜40モル%、フッ化ビニリデン80〜30モル%およびヘキサフルオロプロピレン10〜30モル%の共重合組成を有する、分子量分布がモノピーク型である含フッ素エラストマーを製造することを特徴とする含フッ素エラストマーの製造法。
【請求項2】
乳化剤が、仕込み水総重量に対して0.05〜0.5重量%の割合で用いられる請求項1記載の含フッ素エラストマーの製造法。
【請求項3】
重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が5〜15である含フッ素エラストマーを生成させる請求項1記載の含フッ素エラストマーの製造法。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかの請求項に記載の製造法によって製造された含フッ素エラストマー。
【請求項5】
請求項4記載の含フッ素エラストマー100重量部当り、ポリオール加硫剤が0.1〜10重量部、あるいは有機過酸化物0.05〜10重量部および多官能性不飽和化合物0.01〜10重量部が用いられた含フッ素エラストマー組成物。
【請求項6】
請求項5記載の含フッ素エラストマー組成物より作製された燃料系部品。
【請求項7】
燃料ホースである請求項6記載の燃料系部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーの製造法に関するものである。さらに詳しくは、良好な耐熱性、耐溶剤性、耐化学薬品性を有するとともに、機械的物性および耐圧縮永久歪特性が改善された加硫物を与えることができ、燃料系部品成形材料、特に燃料ホース成形材料として好適に用いられる含フッ素エラストマーの製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
メタノールなどのアルコール、ガソリン、軽油、ナフサ等の燃料に用いられる燃料系部品としては、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性などに優れていることが要求されるため、これらの諸特性に優れた含フッ素エラストマー加硫成形品が主として使用されている。
【0003】
かかる加硫成形品を与える含フッ素エラストマーとして、本出願人は先にパーフルオロオクタン酸アンモニウム乳化剤の存在下で共重合され、テトラフルオロエチレン10〜40モル%、フッ化ビニリデン80〜30モル%およびヘキサフルオロプロピレン10〜30モル%の共重合組成を有し、その極限粘度が20〜180ml/g、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)比が2〜10であり、分子量分布が多ピーク型である燃料系部品成形用含フッ素エラストマーを提案している(特許文献1)。
【0004】
かかる含フッ素エラストマーを加硫成形して得られる燃料系部品は、耐熱性、耐溶剤性、耐薬品性などにすぐれてはいるものの、近年の部品の高性能化に伴い、機械的特性や耐圧縮永久歪特性のさらなる改善が求められているのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/050588
【特許文献2】特開2007−197561
【特許文献3】特開平04−209643号公報
【特許文献4】特開平10−212322号公報
【特許文献5】特開平11−181032号公報
【特許文献6】特開2000−7732号公報
【特許文献7】特開2003−165802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、燃料系部品成形材料として好適に使用され、成形性、加硫物性、耐薬品性、光安定性および経済性にすぐれ、さらに機械的特性および耐圧縮永久歪特性が改善された含フッ素エラストマー成形物を与えうる含フッ素エラストマーの製造法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる本発明の目的は、乳化剤である2,3,3,3-テトラフルオロ-2-[1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]-1-プロパン酸アンモニウムCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4の存在下で、全モノマー混合物総量の10〜40重量%に相当する、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニリデンおよびヘキサフルオロプロピレンからなる仕込みモノマー混合物を反応系内に仕込んで共重合反応を開始させた後、該反応系内に残余のこれらモノマー混合物を追添して含フッ素エラストマーを製造する方法において、(1)仕込み段階での反応原料総量に対し0.0001〜0.1重量%の割合で用いられる連鎖移動剤の存在下で、分添されるモノマー混合物総量の30〜70重量%の割合のモノマー混合物を分添一段階目として分添して共重合反応させた後、(2)さらにこの段階までの反応原料総量に対し0.3〜1.5重量%の割合で用いられる連鎖移動剤の追加存在下で、さらに同一反応系内に、分添されるモノマー混合物総量の70〜30重量%に相当する割合のモノマー混合物を分添二段階目として分添して共重合反応を行い、テトラフルオロエチレン10〜40モル%、フッ化ビニリデン80〜30モル%およびヘキサフルオロプロピレン10〜30モル%の共重合組成を有する、分子量分布がモノピーク型である含フッ素エラストマーを製造することによって達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る含フッ素エラストマーの製造法によって製造された含フッ素エラストマーは、重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn比が5〜15であり、加工性と物性の両方をバランス良く満足させることができる。また、かかる含フッ素エラストマーを用いて加硫成形された加硫物の常態物性、圧縮永久歪特性および接着性をバランス良く改善せしめることを可能にするといったすぐれた効果を奏する。
【0009】
さらに、2,3,3,3-テトラフルオロ-2-[1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]-1-プロパン酸アンモニウムを乳化剤として用いて含フッ素エラストマーを製造することにより、従来一般的に用いられていたパーフルオロオクタン酸アンモニウムを乳化剤として用いた場合に必要とされていたポリオール加硫剤またはポリアミン加硫剤と、有機過酸化物との併用を必要とすることなく、単一の加硫系による加硫によっても、得られる加硫物に所望の特性を与えることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
共重合反応は、当初の仕込みモノマー混合物およびその後の追添モノマー混合物に対して行われ、すなわち全モノマー混合物総量の10〜40重量%に相当する、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、フッ化ビニリデン〔VdF〕およびヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕からなる仕込みモノマー混合物を反応系内に仕込んだ後、反応開始剤および連鎖移動剤を添加して共重合反応を開始させ、反応の途中で残余のこれらのモノマー混合物(90〜60重量%)を分添することにより行われるが、本発明ではモノマー混合物の分添途中で、さらに連鎖移動剤の追添が行われる。具体的には、当初仕込み段階での反応原料総量に対し0.0001〜0.1重量%の割合で用いられる連鎖移動剤の存在下で、分添されるモノマー混合物総量の30〜70重量%、好ましくは40〜60重量%に相当する割合のモノマー混合物を分添して分添一段階目の共重合反応を行った後、この段階までの反応原料総量に対し0.3〜1.5重量%の割合に相当する連鎖移動剤の存在下で、さらに同一反応系内に、分添されるモノマー混合物総量の70〜30重量%、好ましくは60〜40重量%に相当する割合のモノマー混合物を分添して分添二段階目の共重合反応を行うという二段階の重合反応が行われる。このように、分添時に二段階で重合反応を行うことにより、分子量分布の高分子量側のすそ野が広がった分布形状を有する含フッ素エラストマーが得られることとなる。具体的には、例えばモノピーク型の分子量分布を示す含フッ素エラストマーの場合には、二段階の重合反応が行われない重合方法によって得られた含フッ素エラストマーの分子量分布と比較して、そのピーク位置が低分子量側にシフトし、またピークから高分子量側へと続くカーブが緩やかな分布形状を示している。また、かかる含フッ素エラストマーは、分添時に二段階での重合を行わず、従来より行われている一段階重合によって得られた含フッ素エラストマーと比べて、Mw/Mn比が大きく、約5〜15となる。なお、反応開始剤は必要があれば分添途中に追添することができる。
【0011】
なお、例えば特許文献2に開示されているように、従来よりTFE、VdFおよびHFPを反応系内に仕込んで共重合反応させ、次いでこれら3種類のモノマー混合物を分添し、共重合反応を継続して含フッ素三元共重合体を製造する方法は公知であるが、かかる方法の各実施例では分添時に添加されるものはこれらのモノマー混合物のみであるのに対して、本発明では分添二段階目の共重合反応において、これらのモノマー混合物と共に連鎖移動剤が添加されて用いられる点で大きく異なっている。一方、特許文献3には、分添時に連鎖移動剤を添加している例が開示されているが、重合は懸濁重合法が用いられており、本発明と異なり特定の含フッ素プロパン酸塩乳化剤を用いて乳化重合を行うものではない。
【0012】
共重合反応は、乳化剤としての界面活性剤の存在下、TFE、VdFおよびHFPを、過硫酸アンモニウム等の水溶性無機過酸化物またはそれと還元剤とのレドックス系を触媒(反応開始剤)として、水性媒体中で乳化重合反応することにより行われる。ここで、界面活性剤としては2,3,3,3-テトラフルオロ-2-[1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-(1,1,2,2,3,3,3-ヘプタフルオロプロポキシ)プロポキシ]-1-プロパン酸アンモニウムが用いられる。この界面活性剤を用いて含フッ素エラストマーを製造することにより、従来一般的に用いられていたパーフルオロオクタン酸アンモニウムを乳化剤として用いた場合に必要とされていたポリオール加硫剤またはポリアミン加硫剤と、有機過酸化物との併用を必要とすることなく、単一の加硫系による加硫によっても、得られる加硫物に所望の特性を与えることができるといった効果を奏する。なお、反応開始剤は、一般には反応原料総量に対して、0.01〜1重量%程度の割合で用いられる。
【0013】
乳化剤は、仕込み水総重量に対して0.05〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%の割合で用いられ、一般に圧力約0〜100kg/cm2G(約0〜9.8MPaG)、好ましくは約10〜50kg/cm2G(約0.98〜4.9MPaG)、温度約0〜100℃、好ましくは約20〜80℃の条件下で行うことが好ましい。乳化剤量がこれより少ない割合で用いられると、乳化液の安定性が極端に悪くなり、逆にこれより多い割合で用いられると接着性が著しく悪化するため好ましくない。重合に際しては、重合系内のpHを調節するために、Na2HPO4、NaH2PO4、KH2PO4等の緩衝能を有する電解質物質あるいは水酸化ナトリウムを添加して用いることもできる。
【0014】
分添一段階目の共重合反応および分添二段階目の共重合反応のいずれも連鎖移動剤の存在下で行われるが、分添二段階目の共重合反応は、分添一段階目よりも多い量の連鎖移動剤の存在下で行われる。具体的には、各段階までの反応原料総量に対して、分添一段階目では約0.0001〜0.1重量%の、分添二段階目ではそれよりも多い約0.3〜1.5重量%の連鎖移動剤の存在下で共重合反応が行われる。
【0015】
含フッ素エラストマーの数平均分子量Mnの調節は、連鎖移動剤の種類および使用量を調節することによって行われる。連鎖移動剤としては、例えばジメチルエーテル、メチル第3ブチルエーテル、C1〜C6のアルカン類、メタノール、エタノール、イソプロパノール、シクロヘキサン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、酢酸エチル、マロン酸ジエチル、アセトン等が挙げられる。
【0016】
過酸化物架橋点は、共重合反応系に共存させた飽和含ヨウ素化合物または含ヨウ素臭素化合物によっても導入することができ、これらの化合物は連鎖移動剤としても作用する。これらの化合物は、特許文献4〜7の記載にみられるように周知の化合物であり、例えば一般式RInまたはInBrmR(ここで、Rはフルオロ炭化水素基、クロロフルオロ炭化水素基、クロロ炭化水素基または炭化水素基であり、n、mはいずれも1または2である)で表わされる飽和含ヨウ素化合物または脂肪族あるいは芳香族の含ヨウ素臭素化合物を挙げることができる。過酸化物架橋点はまた、共重合反応に用いられる含フッ素単量体として臭素やヨウ素のような架橋点を有する架橋点含有単量体を共重合させることによっても形成させることができる。このような架橋点含有単量体としては、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン、ブロモトリフルオロエチレン、ヨードトリフルオロエチレン、4-ブロモ-1,1,2,3,3,4,4-ヘプタフルオロ-1-ブテン、2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン、2-ブロモテトラフルオロエトキシトリフルオロエチレン等が含フッ素単量体に対して約0.01〜5モル%程度用いられる。(特許文献7参照)
【0017】
TFE、VdFおよびHFPは、共重合反応させて得られる含フッ素エラストマーが、テトラフルオロエチレン〔TFE〕10〜40モル%、好ましくは15〜35モル%、フッ化ビニリデン〔VdF〕80〜30モル%、好ましくは70〜40モル%およびヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕10〜30モル%、好ましくは15〜25モル%の共重合組成となるような仕込み割合で用いられる。含フッ素エラストマー中のTFEの共重合割合がこれより多いと、耐寒性が悪化する上、得られる含フッ素エラストマーの弾性が低下するため好ましくなく、一方TFEの共重合割合がこれより少ないと、耐油性、耐薬品性が低下することがあり好ましくない。また、VdFの共重合割合がこれより少ないと、耐寒性が極端に悪化する。さらに、HFPの共重合割合がこれより多いと、耐圧縮永久歪特性の悪化が著しく、一方HFPの共重合割合がこれより少ないと、含フッ素エラストマーのゴム弾性が低下するようになる。
【0018】
以上の工程により得られた乳化液は、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化カリウム等の水溶液を添加して凝析させ、水洗、乾燥等を経て含フッ素エラストマーを得ることができる。含フッ素エラストマーは、分子量分布を表す重量平均分子量Mwと数平均分子量Mnとの比Mw/Mnが5〜15、好ましくは8〜15の範囲にあるエラストマー状含フッ素共重合体である。かかるMw/Mnの範囲にあるエラストマー状含フッ素共重合体は、加工性、特に押出加工性および押出肌特性に優れるといった特徴を有するが、Mw/Mn比がこれ以上では、分子量分布が広く、低分子量成分および超高分子量成分が相対的に多く含まれ、加工性と物性の両方を同時に満足させることが困難となる。これは、低分子量成分が多いと加工性は向上するが物性の低下をもたらし、また超高分子量成分が多いと前記と逆の関係をもたらすためである。一方、Mw/Mn比がこれ以下では、本発明が目的とする効果が顕著にあらわれなくなる。
【0019】
以上の製造方法によって得られるエラストマー状含フッ素共重合体(含フッ素エラストマー)は、ポリオール加硫剤、あるいは有機過酸化物および多官能性不飽和化合物を添加して加硫、成形等を行い、硬化物あるいは加工品を作製することができる。
【0020】
ポリオール加硫剤としては、ポリヒドロキシ芳香族化合物架橋剤が用いられ、その際4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩およびイミニウム塩の中から選ばれた少なくとも一種よりなる加硫促進剤が併用され、さらに2価金属の酸化物または水酸化物およびハイドロタルサイト類の中から選ばれた少なくとも一種よりなる受酸剤が用いられることが好ましい。
【0021】
ポリヒドロキシ芳香族化合物としては、例えばヒドロキノン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン〔ビスフェノールAF〕、4,4′-ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタンなどの少なくとも一種が、含フッ素エラストマー100重量部当り0.1〜10重量部、好ましくは0.6〜5重量部の割合で用いられる。
【0022】
また、4級アンモニウム塩、4級ホスホニウム塩、イミニウム塩としては、例えばテトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルホスホニウムクロライド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド、ベンジルトリオクチルホスホニウムクロライド、ビス(ベンジルフェニルホスフィン)イミニウムクロライド、イミニウムカチオンなどの少なくとも一種が、含フッ素エラストマー100重量部当り0.05〜2重量部、好ましくは0.1〜1重量部の割合で用いられる。
【0023】
さらに、2価金属の酸化物または水酸化物としては、例えばマグネシウム、カルシウム、亜鉛、鉛などの金属の酸化物や水酸化物の少なくとも一種が用いられ、その使用量は、ハイドロタルサイト類の場合と同様に、含フッ素エラストマー100重量部当り1〜30重量部、好ましくは2〜20重量部の範囲で選ばれる。また、必要に応じ、加硫促進剤の効果を上げるために、種々の加硫促進活性剤を添加することもできる。この加硫促進活性剤の代表的なものとしては、1,8-ジアザビシクロ〔5.4.0〕ウンデセン-7〔DBU〕、ジメチルスルホンやジクロロジフェニルスルホンなどのスルホン化合物が挙げられる。
【0024】
有機過酸化物としては、熱によって容易にパーオキシラジカルを発生するものが好ましく、例えば2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、 2,5-ジメチル-2,5-ジ(第3ブチルパーオキシ)ヘキサンなどのジアルキルパーオキシドなどの少なくとも一種が用いられる。これらの有機過酸化物は、加硫時に熱によりラジカルを発生し、このラジカルがポリマー中のヨウ素・臭素基に作用して、ポリマー中にラジカルを発生させ、そしてポリマー中の2個のラジカルが互いに結合することにより、架橋が起こるものと推定される。
【0025】
有機過酸化物の添加量は、活性酸素量や分解温度などから適宜選ばれるが、通常含フッ素エラストマー100重量部当り0.05〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部の範囲で選ばれる。有機過酸化物がこれより少ない割合で用いられると、ラジカルの発生量が少なすぎて架橋が十分に進行せず、一方これより多い割合で用いられると、効果の向上が認められないばかりか、むしろ経済的に不利となる上、過酸化物の分解ガスによる発泡が起こり、機械物性が低下する傾向がみられるため好ましくない。
【0026】
多官能性不飽和化合物としては、例えばトリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、トリス(ジアリルアミン)-s-トリアジンなどの少なくとも一種、好ましくはトリアリルイソシアヌレートが、エラストマー100重量部当り0.01〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部の割合で用いられる。
【0027】
以上の必須成分に加えて、含フッ素エラストマー組成物には、必要に応じて各種添加剤、例えばカーボンブラック、シリカ、クレー、タルクなどの補強剤または充填剤、ワックス類などの加工助剤などを添加することができ、以上の各成分よりなる含フッ素エラストマー組成物は、ロールやバンバリミキサーなどで混合、混練することにより調製することができる。
【0028】
このようにして作製された含フッ素エラストマー組成物は、十分混練したのち、帯状に長く切り出して、押出成形機にかけることによりチューブ状のホースを得ることができ、次いで、必要に応じてスチーム等による二次加硫を行うことにより、所望の加硫物を得ることができる。
【実施例】
【0029】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0030】
実施例1
(1) 内容積10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気後
界面活性剤〔CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4〕 8.5g
(仕込み水に対して0.15重量%)
リン酸水素二ナトリウム・12水和物 10g
脱イオン水 5.8L
を仕込み、内部空間を再度窒素ガスで十分に置換した後脱気した。そこに
フッ化ビニリデン〔VdF〕 90g
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 77g
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 760g
2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン〔BDFE〕 8g
オクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン〔DIOFB〕 0.5g *
* (仕込み段階での反応原料総量に対して0.05%)
を仕込み(全モノマー混合物総量の31.9重量%)、オートクレーブ内を80℃に昇温した後、
過硫酸アンモニウム〔APS〕 1.0g
を仕込み、重合反応を開始させた。このときの内圧は2.2MPaであった。
【0031】
その後、ただちに
VdF 472g
TFE 404g
HFP 310g
となる割合のVdF/TFE/HFP混合ガスを内圧が2.25MPaになる迄圧入した。内圧が2.15MPaに低下した時点で、上記混合ガスを分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行い、上記分添量となった時点まで分添一段階目の重合反応を行った(分添モノマー混合物総量の60重量%相当)。
【0032】
(2) 分添一段階目の分添終了後、すぐにAPS 1.0gとDIOFB 15.0g(この段階までの反応原料総量に対して0.7%)とを仕込み、重合反応を継続させ、
VdF 314g
TFE 269g
HFP 210g
となる割合のVdF/TFE/HFP混合ガスを、内圧が2.15MPaに低下した時点で分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行い、上記分添量となった時点まで分添二段階目の反応を行い(分添モノマー混合物総量の40重量%相当)、反応終了後冷却し、残ガスを排出して乳化液(固形分濃度31.8重量%)8,524gを得た。なお、APSはいずれも0.3重量%水溶液を用いての添加が行われた(以下同じ)。
【0033】
(3) 得られた乳化液について、1重量%塩化カリウム水溶液による凝析、水洗、乾燥が行われ、エラストマー状共重合体A 2,648gを得た。このエラストマー状共重合体Aの分子量分布はモノピーク型であり、後記比較例1(3)で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Cの分子量分布と比較して、ピーク位置が低分子量側にシフトし、またピーク位置から高分子量側へと続くカーブが緩やかな形状(高分子量側のすそ野が広がった分布形状)を示していた。
【0034】
実施例2
実施例1において、分添一段階目および分添二段階目の分添モノマー仕込量がいずれも
VdF 393g
TFE 336g
HFP 260g
に変更されて重合反応が行われ(分添モノマー混合物総量のそれぞれ50重量%相当;なお仕込みモノマー混合物量は、全モノマー混合物総量の31.9重量%に相当)、乳化液(固形分濃度30.8重量%)8,527gを得、これよりエラストマー状共重合体B 2,602gを得た。このエラストマー状共重合体Bの分子量分布は、実施例1で得られたエラストマー状共重合体Aの分子量分布と同様、モノピーク型であり、後記比較例1(3)で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Cの分子量分布と比較して、ピーク位置が低分子量側にシフトし、またピーク位置から高分子量側へと続くカーブが緩やかな形状(高分子量側のすそ野が広がった分布形状)を示していた。
【0035】
比較例1
(1) 内容積10Lのステンレス鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気後
界面活性剤〔CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4〕 8.5g(0.15重量%)
リン酸水素二ナトリウム・12水和物 10g
脱イオン水 5.8L
を仕込み、内部空間を再度窒素ガスで十分に置換した後脱気した。そこに
フッ化ビニリデン〔VdF〕 90g
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 77g
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 760g
2-ブロモ-1,1-ジフルオロエチレン〔BDFE〕 8g
を仕込み、オートクレーブ内を80℃に昇温した後、
過硫酸アンモニウム〔APS〕 1.8g
を仕込み、重合反応を開始させた。このときの内圧は2.2MPaであった。
【0036】
その後、
VdF 786g
TFE 673g
HFP 520g
からなるVdF/TFE/HFP混合ガスを、内圧が2.15MPaに低下した時点で分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行って反応を行い、反応終了後冷却し、残ガスを排出して乳化液I(固形分濃度31.5重量%、Mn161,000)8,524gを得た。
【0037】
(2) 上記(1)の含フッ素エラストマー乳化液の調製において、BDFEの代わりにオクタフルオロ-1,4-ジヨードブタン〔DIOFB〕34.0gを用い、またAPS量を6gに変更して、乳化液II(固形分濃度31.8重量%、Mn18,000)8,534gを得た。なお、重合反応開始時の内圧は2.2MPaであった。
【0038】
(3) このようにして得られた乳化液I(高Mn含フッ素エラストマー乳化液)と乳化液II(低Mn含フッ素エラストマー乳化液)とを、それぞれの固形分重量比が50:50となるように混合した後、1重量%塩化カリウム水溶液による凝析、水洗、乾燥が行われ、エラストマー状共重合体ブレンド物C 5,344gを得た。
【0039】
比較例2
実施例1において、初期仕込み時におけるDIOFB量が10gに、またAPS量が3gにそれぞれ変更され、さらに分添一段階目におけるVdF/TFE/HFP混合ガスとして、VdF 786g、TFE 672gおよびHFP 520g(実施例1および2で分添一段階目〜二段階目に用いられた各モノマーの合計量相当)が用いられて重合反応が行われ、分添二段階目の反応が行うことなく乳化液(固形分濃度36.1%)8,624gを得、これよりエラストマー状共重合体D 2,639gを得た。
【0040】
以上の実施例1〜2で得られたエラストマー状共重合体A〜Bおよび比較例1〜2で得られたブレンド物C〜Dについて、次の各項目についての測定が行われた。
共重合体組成〔モル%〕:日本電子製品JMN-LA300フーリエ変換核磁気共鳴装置を用いて測定
フッ素含量〔重量%〕:F含量を分子量より算出
ポリマームーニー粘度(ML1+10):121℃の試験温度で、1分間予熱した後、直ちにロータを回転させ、10分後の値を測定
分子量測定:日本分光工業製851-AS型インテリジェントオートサニプラ、ガスクロ工業製MODEL 576型LCポンプ、昭和電工製Shodex KF-801、KF-802、KF-802.5およびKF-805のカラム4本を備えたガスクロ工業製MODEL 556型HPLCカラムオーブンおよび日本分光工業製検出器JASCO 830RI示差屈折計を用い、テトラヒドロフランを展開溶媒として試料濃度0.5重量%、流量1.0ml/分、温度40℃において測定
分子量の解析は、システムインスツルメンツ社製SICラブチャート180を用い、また分子量検量線用標準ポリマーとしては、東洋曹達製品の単分散ポリスチレン各種[Mw/Mn=1.1(MAX)]を用いた
【0041】
測定結果は、次の表1に示される。


表1
測定項目 実施例1 実施例2 比較例1 比較例2
共重合体(ブレンド)組成 A B C D
VdF (モル%) 54.2 54.5 54.5 54.1
TFE (モル%) 25.2 24.2 24.2 24.5
HFP (モル%) 20.6 21.3 21.3 21.4
フッ素含量 (重量%) 69.6 69.6 69.6 69.7
ポリマームーニー粘度(ML1+10) 30.8 31.8 32.8 36.1
数平均分子量 Mn (×104) 2.3 2.1 2.1 2.3
重量平均分子量 Mw (×104) 19.7 22.9 10.9 7.4
Mw/Mn 比 8.5 10.9 5.9 3.2

【0042】
実施例3
実施例1で得られたエラストマー状共重合体A 100重量部
MTカーボンブラック(キャンキャブ製品サーマックスN990) 20 〃
多官能性不飽和化合物 5 〃
(日本化成製品TAIC M60;トリアリルイソシアヌレート)
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B-40) 3.5 〃
ZnO 5 〃
以上の各成分を2本ロールミルで混和し、得られた硬化性組成物を180℃で10分間圧縮成形を行って厚さ2mmのシートおよびOリング(P24)を作製し、さらに230℃、22時間のオーブン加硫(二次加硫)を行った。硬化性組成物について硬化試験を行い、また二次加硫物について常態物性、圧縮永久歪および接着性についての測定および評価が行われた。
硬化試験:モンサント・ディスク・レオメーターを使用し、121℃でMH、Tc90の値を
測定
常態物性:JIS K6250、6253準拠
圧縮永久歪:ASTM D395 Method B準拠
P24 Oリングについて、150℃、70時間の値を測定
接着性:それぞれ厚さ約1.5mmの未加硫含フッ素エラストマー(上記硬化性組成物)のシートと未加硫ニトリルゴムシートとを貼り合わせて、160℃、30分間プレス加硫を行い放冷した後、厚み2mm、幅12.5mm、長さ100mmにテストピースを打ち抜き、TOYOSEIKI STROGRAPH E II を用いて試験速度100mm/分で剥離試験を実施した
剥離する前にどちらかのゴムが破損した場合を接着性良好、ゴムの破損がなく剥離した場合を接着性不良として評価
なお、未加硫ニトリルゴムとしては、次の配合物が用いられた。
ニトリルゴム(南帝化学工業製品NANCAR1051) 100重量部
HAFカーボンブラック(旭カーボン製品) 50 〃
酸化亜鉛 5 〃
ステアリン酸 1 〃
老化防止剤(精工化学製品ノンフレックスRD) 3 〃
硫黄 2 〃
加硫促進剤(三新化学工業製品サンセラーTS) 3 〃
【0043】
実施例4
実施例3において、エラストマー状共重合体Aの代わりに、実施例2で得られたエラストマー状共重合体Bが同量用いられた。
【0044】
比較例3
実施例3において、エラストマー状共重合体Aの代わりに、比較例1で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Cが同量用いられた。
【0045】
比較例4
実施例3において、エラストマー状共重合体Aの代わりに、比較例2で得られたエラストマー状共重合体Dが同量用いられた。ここでは、実施例3〜4と比較して、組成物調製時の加工性が劣っていた。
【0046】
以上の実施例3〜4および比較例3〜4で得られた結果は、次の表2に示される。


表2
測定・評価項目 実施例3 実施例4 比較例3 比較例4
硬化試験
MH (dN・m) 18.8 19.3 19.1 20.5
Tc90 (分) 1.07 1.02 1.11 0.98
常態物性
硬さ (Shore-A) 72 72 72 73
100%モジュラス (MPa) 5.9 5.2 5.7 5.6
破断強度 (MPa) 24.8 26.5 22.1 24.3
破断時伸び (%) 250 250 250 260
圧縮永久歪 (%) 27 26 30 28
接着性 (%) 良好 良好 良好 良好

【0047】
実施例5
(1) 内容積10Lの鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気後
界面活性剤〔CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4〕 15g(0.26重量%)
リン酸水素二ナトリウム・12水和物 10g
脱イオン水 5.8L
を仕込み、内部空間を再度窒素ガスで十分に置換した後脱気した。そこに
フッ化ビニリデン〔VdF〕 83g
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 67g
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 640g
イソプロピルアルコール〔IPA〕 0.15g
を仕込み、オートクレーブ内を80℃に昇温した後、
過硫酸アンモニウム〔APS〕 1.0g
を仕込み(全モノマー混合物総量の27.1重量%)、重合反応を開始させた。このときの内圧は2.2MPaであった。
【0048】
その後、
VdF 373g
TFE 269g
HFP 210g
となる割合のVdF/TFE/HFP混合ガスを、内圧が2.15MPaに低下した時点で分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行って反応を行い、上記分添量となった時点まで分添一段階目の重合反応を行った(分添モノマー混合物総量の40重量%相当)。
【0049】
(2) 分添一段階目の分添終了後、すぐにIPA 15gを仕込み、重合反応を継続させ、
VdF 559g
TFE 404g
HFP 310g
となる割合のVdF/TFE/HFP混合ガスを、内圧が2.15MPaに低下した時点で分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行って反応を行い、上記分添量となった時点まで分添二段階目の反応を行い(分添モノマー混合物総量の60重量%相当)、反応終了後冷却し、残ガスを排出して乳化液(固形分濃度31.2重量%)8,564gを得た。
【0050】
(3) 得られた乳化液について、1重量%塩化カリウム水溶液による凝析、水洗、乾燥が行われ、エラストマー状共重合体E 2,639gを得た。このエラストマー状共重合体Eの分子量分布は、実施例1で得られたエラストマー状共重合体Aの分子量分布と同様、モノピーク型であり、前記比較例1(3)で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Cの分子量分布と比較して、ピーク位置が低分子量側にシフトし、またピーク位置から高分子量側へと続くカーブが緩やかな形状(高分子量側のすそ野が広がった分布形状)を示していた。
【0051】
実施例6
実施例5において、分添一段階目の反応で用いられるAPS量が1.5重量部に、分添二段階目の反応で用いられるIPA量が18重量部に、また分添一段階目および分添分添二段階目のモノマー仕込量がいずれも
VdF 466g
TFE 336g
HFP 260g
に、それぞれ変更されて重合反応が行われ(分添モノマー混合物総量のそれぞれ50重量%相当;なお仕込みモノマー混合物は、全モノマー混合物総量の27.1重量%に相当)、乳化液(固形分濃度30.9重量%)8,495gを得、これよりエラストマー状共重合体F 2,621gを得た。このエラストマー状共重合体Fの分子量分布は、実施例1で得られたエラストマー状共重合体Aの分子量分布と同様、モノピーク型であり、前記比較例1(3)で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Cの分子量分布と比較して、ピーク位置が低分子量側にシフトし、またピーク位置から高分子量側へと続くカーブが緩やかな形状(高分子量側のすそ野が広がった分布形状)を示していた。
【0052】
比較例5
(1) 内容積10Lの鋼製オートクレーブ内を窒素ガスで置換し、脱気後
界面活性剤〔CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4〕 15g(0.26重量%)
リン酸水素二ナトリウム・12水和物 10g
脱イオン水 5.8L
を仕込み、内部空間を再度窒素ガスで十分に置換した後脱気した。そこに
フッ化ビニリデン〔VdF〕 83g
テトラフルオロエチレン〔TFE〕 67g
ヘキサフルオロプロピレン〔HFP〕 640g
イソプロピルアルコール〔IPA〕 1.0g
を仕込み、オートクレーブ内を80℃に昇温した後、
過硫酸アンモニウム〔APS〕 1.0g
を仕込み、重合反応を開始させた。このときの内圧は2.2MPaであった。
【0053】
その後、
VdF 932g
TFE 673g
HFP 520g
となる割合のVdF/TFE/HFP混合ガスを、内圧が2.15MPaに低下した時点で分添ガスとして内圧が2.25MPaになる迄圧入する操作をくり返し行い、上記分添量となった時点まで反応を行い、重合反応終了後冷却し、残ガスを排出して乳化液III(固形分濃度31.1重量%、Mn173,000)8,473gを得た。
【0054】
(2) 上記(1)の含フッ素エラストマー乳化液の調製において、IPAの代わりにマロン酸ジエチル70gを用い、またAPS量を5gに変更して、乳化液IV(固形分濃度30.4重量%、Mn18,000)8,489gを得た。なお、重合反応開始時の内圧は2.2MPaであった。
【0055】
(3) このようにして得られた乳化液III(高Mn含フッ素エラストマー乳化液)と乳化液IV(低Mn含フッ素エラストマー乳化液)とを、それぞれの固形分重量比が50:50となるように混合した後、1重量%塩化カリウム水溶液による凝析、水洗、乾燥が行われ、エラストマー状共重合体ブレンド物G 5,342gを得た。
【0056】
以上の実施例5〜6で得られたエラストマー状共重合体E〜Fおよび比較例5で得られたブレンド物Gについて、実施例1〜2および比較例1〜2と同様に共重合体組成、フッ素含量、ポリマームーニー粘度および分子量測定が行われた。測定結果は、次の表3に示される。


表3
測定項目 実施例5 実施例6 比較例5
共重合体(ブレンド物)組成 E F G
VdF (モル%) 54.2 54.5 55.2
TFE (モル%) 25.2 25.2 25.4
HFP (モル%) 20.6 20.3 19.4
フッ素含量 (重量%) 69.6 69.6 69.5
ポリマームーニー粘度(ML1+10) 31.2 33.2 29.3
数平均分子量 Mn (×104) 2.5 2.2 3.6
重量平均分子量 Mw (×104) 20.4 23.4 16.3
Mw/Mn 比 8.2 10.6 4.5

【0057】
実施例7
実施例3において、下記硬化性組成物が用いられ、同様に測定および評価が行われた。ただし、圧縮永久歪については、200℃、70時間の値が測定された。
実施例5で得られたエラストマー状共重合体E 100重量部
MTカーボンブラック(サーマックスN990) 25 〃
加硫剤(ビスフェノールAF) 2 〃
加硫促進剤(ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド) 1 〃
受酸剤(共和化学製品キョウワマグ♯150) 3 〃
受酸剤(近江化学製品Caldic♯2000) 6 〃
【0058】
実施例8
実施例7において、エラストマー状共重合体Eの代わりに、実施例6で得られたエラストマー状共重合体Fが同量用いられた。
【0059】
比較例6
実施例7において、エラストマー状共重合体Eの代わりに、比較例5で得られたエラストマー状共重合体ブレンド物Gが同量用いられた。
【0060】
以上の実施例7〜8および比較例6で得られた結果は、次の表4に示される。


表4
測定・評価項目 実施例7 実施例8 比較例6
硬化試験
MH (dN・m) 11.8 12.2 11.3
Tc90 (分) 4.52 4.40 4.82
常態物性
硬さ (Shore-A) 72 72 73
100%モジュラス (MPa) 2.9 2.9 4.3
破断強度 (MPa) 18.8 19.2 15.3
破断時伸び (%) 240 250 260
圧縮永久歪 (%) 24 23 27
接着性 (%) 良好 良好 良好

【0061】
以上の結果より、二段階の重合反応によって製造された含フッ素エラストマーを用いた実施例3〜4、7〜8では、高Mn含フッ素エラストマーおよび低Mn含フッ素エラストマーをブレンドして得たエラストマー状共重合体を用いた場合(比較例3、6)と比べて、破断強度および圧縮永久歪のいずれもが良好な値を示している。また、二段階の反応によらず、一段階の反応のみによって製造された含フッ素エラストマーを用いた場合(比較例4)と比べると、加工性の改善がみられる。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明方法によって製造された含フッ素エラストマーより作製される加硫成形物は、常態物性、耐圧縮永久歪特性に優れた物性を有する加硫物を与えるので、燃料系部品、特に燃料ホース、チューブなどの加硫成形材料として好適に用いられる。