(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
固定対象の物体の背面を支持するための支持台部と、支持台部に対して起立する姿勢で配備されると共に弾性変形が可能な支持壁部と、この支持壁部の壁面に一体かつ突出して、並べて配備された案内部および突き当て部とを具備し、
前記案内部は、前記支持台部へと向かう物体に押圧されて支持壁部本体と共に当該物体とは反対の方向に変形しながら当該物体を支持台部へと導き、かつ、前記支持台部へ移動中の物体に接する箇所の少なくとも一部に連なって支持台部の方を向く開放端面を有し、
前記突き当て部は、案内部を介して支持台部へと移動した前記物体の前面側の端縁部に当接すると共に、前記支持壁部本体に対して案内部と同じ方向に突出するように支持壁部本体または案内部に一体に設けられ、かつ、当該突き当て部の前記物体に当接する箇所に、支持台部に近づくにつれて支持壁部本体からの突出幅が小さくなるように傾斜する突き当て面が配備されて成り、前記突き当て面の突出は、前記開放端面より前記支持台部寄りにある位置から開始される、ことを特徴とする物体の固定構造。
前記支持壁部は前面が開口されたケース体の周壁部であって、その周壁部に開口部から所定距離離れて開口縁に沿うスリット孔が形成され、このスリット孔の後端縁の厚みに沿って前記支持台部が設けられると共に、前記周壁部のスリット孔と開口部との間の内壁面に1組以上の案内部および突き当て部が設けられる、請求項1に記載された物体の固定構造。
前記ケース体の周壁部の少なくとも2箇所に前記スリット孔が形成され、スリット孔毎に、前記周壁部の当該スリット孔と開口部との間の内壁面に前記案内部および突き当て部が1組以上設けられる、請求項2に記載された物体の固定構造。
前記支持壁部は、所定広さの支持面を有する柱体または壁体であって、その支持面に支持台部および案内部ならびに突き当て部がそれぞれ一体に設けられる、請求項1に記載された物体の固定構造。
前記案内部の前記物体に接する箇所には、前記支持台部に近づくにつれて支持壁部の本体に対する突出幅が増すように傾斜する斜面が含まれる、請求項1〜4のいずれかに記載された物体の固定構造。
前記ケース体の周壁部の少なくとも2箇所に、それぞれ前面の開口部から所定距離離れて開口縁に沿うスリット孔が形成され、各スリット孔の後端縁の厚みに沿って前記支持台部が設けられると共に、スリット孔毎に、前記周壁部の当該スリット孔と開口部との間の内壁面に前記案内部および突き当て部が1組以上設けられる、請求項6に記載された光学装置。
【背景技術】
【0002】
スナップフィット方式とは、弾性力を有する材料により形成された係止部材を固定対象の物体による押圧力により変形させ、押圧力が解除されたときの係止部材の復元力によって物体を押さえつけて支持する方式である。接着剤や工具などを使用することなく、簡単な作業で固定を完了することができることから、広く採用されている固定方式である。
【0003】
たとえば、光学レンズのように端縁部で支持する必要がある物体を固定する場合には、一般に、
図10に示すように、2つの部材の間に物体の端縁部を入れ込んで支持する方法が採用される。
【0004】
図10の例では、前面が開口されたケース体の開口部501から固定対象の物体Bを挿入して、当該物体Bをケース体内の所定の高さ位置で固定する。この固定のために、ケース体の周壁部500の内壁面の複数箇所に、壁部の厚みに沿って突出する支持台部502が設けられると共に、各支持台部502の前方にそれぞれ所定の距離を隔てて係止部503が対向配備される。周壁部500は、支持台部502や係止部503と共に、弾性を有する材料により一体成形される。また係止部503は、開口部501から遠ざかるにつれて突出幅が大きくなるように形成されている。なお、支持台部502や係止部503は、周壁部500の全周にわたって設けられる場合もある。
【0005】
上記の係止部503は、開口部501から挿入された物体Bにより外側に押圧されて、周壁部500の本体と共に外側に変形しながら物体Bを支持台部502へと導く。係止部503の突出幅の変化によって、物体Bが支持台部502に近づくにつれて周壁部500の変位量が大きくなるので、物体Bと係止部503との接触が解除される直前には、係止部503より下方の壁面と物体Bとの間に大きな隙間が生じる。
【0006】
物体Bと係止部503との接触が解除されると、周壁部500は速やかに元の状態に戻って、物体Bの背面が支持台部502に支持されると共に、その前面の前方に係止部503が位置する状態になる。この例では、支持台部502と係止部503との間の空間に若干の余裕が設けられているので、変形した周壁部500が元に戻る際に大きな振動が発生して、物体Bに強くぶつかるなどして、「パチッ」という音が発生する。
よって、作業者は、振動や音が生じたことをもって、物体Bの固定が完了したと認識し、作業を終了することができる。
【0007】
上記の例に類似する固定構造により光学式レンズを固定することが開示された先行技術文献として、たとえば、特許文献1がある。この特許文献1には、レンズ収納部の底部の端縁に段差を設けることによりレンズ体の支持部を形成すると共に、前面の開口部の近傍に可撓性を有するスナップフィット部を設け、支持部とスナップフィット部との間にレンズ本体の端縁部(フランジ部)を挟み込んで固定することが記載されている(段落0092〜0103,
図6,
図7等を参照。)。
【0008】
また、特許文献2には、レンズを保持するレンズ枠の後端縁に、レンズの径方向に沿って弾性変形可能な凸部や光軸方向に沿って弾性変形可能なバネ部(突起)を形成し、このレンズ枠をレンズ鏡筒の固定筒に挿入すると、固定筒の内周部に形成された段部にバネ部が当接すると共に、固定筒の内周面に形成された凹部に凸部が嵌入されて、レンズ枠が固定されることが記載されている。さらに特許文献2には、凹部への凸部の嵌入時に音が鳴ることによって嵌入が完了したことを確認できることや、光軸方向に沿って変形可能なバネ部の作用によって、レンズ枠の光軸方向のガタが取り除かれることが記載されている(段落0020〜0031,
図2等を参照。)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図10に例示した固定構造によれば、作業者は、固定対象の物体Bを開口部501から挿入して押圧するという簡単な作業により、物体Bを取り付けることができる。また物体Bと係止部503との接触が解除されて周壁部500や係止部503が元の位置に復元するときに生じる振動や音を目安として、取り付け作業を終了することができるので、取り付けが不完全になるのを防ぐことができる。
【0011】
しかしながら、上記の固定構造では、振動や音を生じさせる隙間を確保するために、支持台部502と係止部503との間の距離を物体Bの厚みより大きくしているので、物体Bは両者の間でガタついた状態になり、完全な固定ができない。このため、精度の良い位置決めが必要な場合には、この固定構造を適用するのは困難である。
【0012】
図11は、物体の位置決めを重視して、
図10の固定構造を改良した例を示す。この例では、係止部503の後端部に支持台部502に近づくにつれて物体Bから離れる方向に傾斜する斜面504を形成すると共に、物体Bの前面側の端縁部を斜めに切り欠いている。また支持台部502と係合部503との間の距離も
図10の例より縮められて、物体Bが支持台部502に支持されたときに、係止部503の斜面504が物体Bの切り欠き面に当接する状態になる。
【0013】
上記の構成によれば、物体Bは、支持台部502と係止部503との間に挟み込まれて固定されるので、ガタを生じさせることなく、物体Bを安定して支持することができる。しかし、この構成では、係止部503を通過し終える前後の物体Bと斜面504との間の隙間が殆どない状態になるので、係止部503や周壁部500の復帰時の力が弱く、振動や音が発生しにくい。そのため、作業者は、固定が完了したことを認識しづらくなり、固定が不完全なまま作業を終了してしまうおそれがある。
【0014】
上記の問題に関して、特許文献2に記載された発明では、取り付け終了を示す音を発生させると共に、光軸方向(固定対象の物体の移動方向)に変形可能なバネ部によって、物体のガタつきを取り除くことができるとしている。しかし、特許文献2に開示されている固定構造では、物体の後端縁に形成された微小なバネ部82が固定筒の内周部の微小な段部(突出部)86に当接するように両者を位置合わせする必要があると思われ(特許文献2の段落0027,
図2を参照。)、作業者の負荷が大きくなる。また構成も複雑である。また作業者が未熟であると、この当接が不完全なまま、作業を進めてしまい、その結果、固定が不完全になるおそれもある。
【0015】
本発明は上記の問題に着目し、簡単な作業で物体を安定して固定することができ、固定が完了したことを振動や音により容易に判別できるようにすることを、課題とする。
さらに本発明は、簡易な構造で物体をガタつきのない状態で固定できるようにすることを、第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明による物体の固定構造は、固定対象の物体の背面を支持するための支持台部と、支持台部に対して起立する姿勢で配備されると共に弾性変形が可能な支持壁部と、この支持壁部の壁面に一体かつ突出して配備され、支持台部へと向かう物体に押圧されて支持壁部本体と共に当該物体とは反対の方向に変形しながら当該物体を支持台部へと導く案内部と、案内部を介して支持台部へと移動した物体の前面側の端縁部に当接する突き当て部とを具備する。
案内部は、支持台部へ移動中の物体に接する箇所の少なくとも一部に連なって支持台部の方を向く開放端面とを有する。突き当て部は、支持壁部本体に対して案内部と同じ方向に突出するように支持壁部本体または案内部に一体に設けられると共に、当該突き当て部の物体に当接する箇所に、支持台部に近づくにつれて支持壁部本体からの突出幅が小さくなるように傾斜する突き当て面が配備される。
【0017】
たとえば、上記構成の固定構造の支持壁部により物体が通過する通路を形成すると、案内部が突出する箇所で通路が狭くなって、物体の移動が妨げられる。しかし、案内部の手前側から支持台部の方に向かう押圧力を物体にかけると、その物体に押圧された案内部が弾性体本体と共に変形して通路が広がり、物体を支持台部に向かって移動させることが可能になる。本発明では、案内部の少なくとも一部が支持台部の方に向けて開放されると共に、突き当て部の物体に当接する箇所に、支持台部に近づくにつれて突出幅が小さくなるように傾斜する突き当て面が配備されているので、物体が案内部を通過し終える直前の物体と突き当て面との間に隙間が生じる。しかも、支持壁部本体の変形に応じて突き当て面も外方向に変位するので、上記の隙間を広げることができる。
【0018】
この隙間の存在によって、物体と案内部との接触が解除された際の支持壁部が勢いよく動くので、突き当て部を強い力で物体に突き当てて、突き当て面と支持台部との間に物体の端縁部を挟み込んで当該物体を固定することができる。これにより、支持壁部や物体に振動が生じると共に、「パチッ」という音を発生させることができる。
【0019】
上記の固定構造の一実施形態では、支持壁部が前面が開口されたケース体の周壁部となり、その周壁部に開口部から所定距離離れて開口縁に沿うスリット孔が形成される。このスリット孔の後端縁の厚みに沿って支持台部が設けられると共に、周壁部のスリット孔と開口部との間の内壁面に1組以上の案内部および突き当て部が設けられる。この構成によれば、周壁部のスリット孔と開口部との間の部位を弾性力が強いバネ部として機能させることができるので、物体の押圧力による変形量を十分に高めて、突き当て面と物体の間の隙間を大きくすることができる。
【0020】
また上記の実施形態において、開口部を塞ぐ大きさの物体を取り付ける場合には、ケース体の周壁部の少なくとも2箇所に上記のスリット孔を形成し、スリット孔毎に、周壁部の当該スリット孔と開口部との間の内壁面に、案内部および突き当て部を1組以上設けることができる。このようにすれば、物体の端縁部の複数箇所を固定することができ、物体を安定した姿勢で支持することが可能になる。
【0021】
他の実施形態による固定構造では、支持壁部は、所定広さの支持面を有する柱体または壁体であって、その支持面に支持台部および案内部ならびに突き当て部がそれぞれ一体に設けられる。この構成でも、物体の移動通路を構成する柱体または壁体を通路の外方向に変形させながら物体を支持台部に導き、支持台部と突き当て面との間に物体の端縁部を挟み込んで固定することができる。
【0022】
さらに他の実施形態による固定構造では、案内部の物体に接する箇所に、支持台部に近づくにつれて支持壁部の本体に対する突出幅が増すように傾斜する斜面が含まれる。
この構成によれば、物体が移動するにつれて支持壁部の変形量を大きくすることができるので、案内部との接触が解除される直前の物体と突き当て面との間の隙間を十分に大きくすることができる。よって、振動や音を発生しやすくすることができる。
【0023】
本発明にかかる光学装置は、前面が開口されたケース体と、このケース体の前面の開口部から挿入されてケース体の内部に固定されるレンズ部材とを有する。ケース体には、その周壁部の厚み方向に沿って支持台部が設けられると共に、周壁部の支持台部より前方の少なくとも2箇所に、周壁部の内壁面に一体かつ突出して配備され、開口部から挿入されたレンズ部材に押圧されて周壁部本体と共に当該レンズ部材とは反対の方向に変形しながら当該レンズ部材を支持台部へと導く案内部と、案内部を介して支持台部へと移動したレンズ部材の前面側の端縁部に当接する突き当て部とが設けられる。
案内部は、開口部から挿入されて支持台部へ移動中のレンズ部材に接する箇所の少なくとも一部に連なって支持台部の方を向く開放端面とを有する。突き当て部は、周壁部本体に対して内側方向に突出するように周壁部本体または案内部に一体に設けられると共に、当該突き当て部のレンズ部材に接する箇所に、支持台部に近づくにつれて周壁部本体からの突出幅が小さくなるように傾斜する突き当て面が配備される。
【0024】
上記の構成によれば、ケース体の周壁部の内壁面の複数箇所で、先に述べた固定構造によりレンズ部材の端縁が固定されるので、レンズ部材を容易にかつ正しく固定することが可能になる。
【0025】
上記の光学装置の一実施形態では、ケース体の周壁部の少なくとも2箇所に、それぞれ前面の開口部から所定距離離れて開口縁に沿うスリット孔が形成され、各スリット孔の後端縁の厚みに沿って支持台部が設けられる。また、スリット孔毎に、周壁部の当該スリット孔と開口部との間の内壁面に案内部および突き当て部が1組以上設けられる。
【0026】
上記の構成によれば、各スリット孔と開口部との間の部位を、弾性力の高いバネ部として機能させることができるので、レンズ部材の挿入に応じて各バネ部を十分に変形させて突き当て面とレンズ部材との間の隙間を広げることができる。よって、レンズ部材と係止部との接触が解除されたときに、振動や音が発生しやすくなる。また、レンズ部材に対して開口部を若干小さめに設定すれば、バネ部の付勢力よりレンズ部材をより安定して支持することが可能になる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、固定対象の物体を挿入して、「パチッ」という音がするまで押し込むことにより、物体を正しく固定することが可能になるので、固定作業が容易になると共に、固定状態が不完全になるのを防ぐことができる。また、開放端面を有する案内部と傾斜する突き当て面との組み合わせという簡易な構造により物体をガタ付きのない状態で固定することができるので、レンズ部材などの高精度の位置決めが要求される物体の固定に適した構造を低コストで提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明による固定構造の一実施形態を、固定対象の物体OBと共に示す。
この実施例の物体OBは、弾性を有する一対の柱体1a,1bの間に支持される。各柱体1a,1bの一面(他方の柱体に対向する面)には、支持台部11および係止部12が突出して形成されている。各柱体1a,1bは、係止部12を上にして、物体OBの幅長さに応じた間隔を隔てて対向配備される。係止部12は、柱体本体10の長さ方向に沿って延びる案内部121と、案内部121より短い突き当て部122とを連結させたものである。物体OBは、上方から柱体1a,1bの間に挿入され、両端部が、柱体1a,1bの支持台部11と係止部12の突き当て部122との間に挟まれた状態で固定される。
なお、以下では、固定対象の物体OBの支持台部11に支持される面を背面とし、上方向を向く面を前面とする。
【0030】
図2は、
図1の向かって左側に位置する柱体1aの構成を示す。他方の柱体1bは、柱体1aと線対称の形状となるほかは、柱体1aと同一の構成を有するので、柱体1aと同じ符号を適用する。
この実施例の柱体1a,1bは、柱体本体10と支持台部11と係止部12とが、弾性を有する樹脂または金属により一体に成形されて成るものである。支持台部11は、柱体に直交する方向に沿う支持面111を有するもので、柱体本体10の全幅にわたって設けられる。柱体本体10に対する支持面111の突出幅は、物体OBの支持が可能な範囲に応じて設定される。
【0031】
案内部121は三角柱の斜面側の一端部を切り欠いた形状のもので、この斜面120の柱体本体10に対する突出幅が支持台部11に近づくにつれて大きくなるように、切り欠き面123を下にして配備される。斜面120および切り欠き面123が物体OBに接する面となる。また案内部121の下端には、支持面111の方を向く開放端面124が形成されている。開放端面124と支持面111との間の距離は、物体OBの高さよりやや長く設定されている。
【0032】
突き当て部122も、三角柱の斜面側の一部を切り欠いた形状であるが、三角柱全体に対する切り欠き部分の割合が大きく設定されて、案内部121の切り欠き面123とほぼ同じ大きさの切り欠き面125が形成されている。突き当て部122は、この切り欠き面125の高さを案内部121の切り欠き面123に合わせて、斜面126を下にして配備される(ただし、柱体本体10に対する切り欠き面125の突出幅は切り欠き面123の突出幅より小さくなっている。)。よって、突き当て部122の斜面126は、案内部12の下方の位置で、支持台部11に近づくにつれて柱体本体10に対する突出幅が小さくなるように傾斜する状態になる。この斜面126が、案内部121を通過し終えた物体OBの前面側の端縁部に突き当たる突き当て面として機能する。
【0033】
この実施例における固定対象の物体OBは立方体状であるが、上記の柱体1a,1bの構成に合わせて、前面側の幅方向に沿って対向する関係にある2つの角部が斜めに切り欠かれている。
【0034】
図3は、物体OBの移動に伴う柱体1aの姿勢の変化を模式的に示す。なお、
図3では
図3(A)のみに符号を示す。また図示されていない他方の柱体1bは、柱体1aとは反対側に変形する。
【0035】
固定を行う作業者が、柱体1a,1bの間の空間に物体OBを挿入して図中の下方に向かって押圧すると、物体OBの一部が各柱体1a,1bの案内部12の斜面120に接する状態になり、各柱体1a,1bが物体OBにより外側に押圧されて柱体1a,1b間の間隔が押し広げられる(
図3(A)→
図3(B))。よって、物体OBは、斜面120や切り欠き面123に接した状態を維持しながら下方に移動するが、物体OBが移動するにつれて案内部12の突出幅が大きくなるので、それに伴い、柱体1a,1bの物体OBと反対方向への変位量もしだいに大きくなる。
【0036】
突き当て部122の突き当て面126は、案内部12の終端の開放端面124より下に位置すると共に、支持台部11に近づくにつれて柱体本体10に対する突出幅が小さくなるように傾斜しているので、物体OBの大半が案内部12を通過して柱体1aの変位量が大きくなると、突き当て面126やその下方の壁面と物体OBとの間に大きな隙間が生じる(
図3(C))。
【0037】
物体OBの上端部が案内部12より下に位置する状態になると、物体OBと案内部121との接触が解除されて、柱体1a,1bは、元の状態に復帰しようとして勢いよく動く。この動きにより、突き当て面126と物体OBとの間の隙間が一挙に解消されて、支持台部11の支持面111やその上の壁面が物体OBの背面および側面に接すると共に、突き当て部122の突き当て面126が物体OBの切り欠き面に突き当てられた状態になる(
図3(D))。よって、物体OBの両端部が柱体1a,1bの支持台部11と突き当て部122との間に挟み込まれた状態となって、物体OBが固定される。なお、固定後の案内部12の開放端面124は物体OBのやや上に位置する状態となる。
【0038】
上記のとおり、突き当て面126は、案内部12と物体OBとの接触が解除される直前まで物体OBから大きく離れているが、接触が解除されたときの柱体1a,1bの素早い復帰によって、物体OBに強く突き当てられる。よって、このとき、振動と共に「パチッ」という音を発生させることができる。
よって、作業者は、柱体1a,1bの間に物体OBを挿入して、振動および「パチッ」という音が生じるまで物体OBを押し込むことにより、物体OBを正しく固定することができる。
【0039】
なお、上記の実施例では、案内部121の主要部の突出幅が支持台部11に近づくにつれて大きくなるようにしたが、案内部121を突き当て部122より十分に大きく突出させたり、柱体10の弾性を高められるのであれば、
図4(1)に示すように、案内部121の上端部の突出幅を緩やかに変化させるにとどめて、主要部の突出幅を一定にしてもよい。また、突き当て面126は真っ直ぐに傾斜する面に限らず、
図4(2)に示すような凸状面にしてもよい。また、物体OBの突き当て面に当接する箇所も切り欠き面に限らず、当接状態が安定できるのであれば、湾曲した面や角状にしてもよい。
【0040】
また、上記の実施例では、突き当て部122の突き当て面126が案内部121の開放端面124よりも支持台部11に近い場所に配置されるようにしたが、端縁部の切り欠きがない物体や、端縁部が他の箇所より突出した形状の物体を固定する場合には、突き当て面126と開放端面124とがほぼ同じ高さ位置に配置されるようにしてもよい。また、案内部121と突き当て部122とを連ねずに、両者の間に若干の隙間を設けてもよい。
【0041】
また上記の実施例では、柱体本体10に支持台部11および係止部12が一体かつ突出して設けられた柱体1a,1bを弾性を有する樹脂により形成したが、非弾性体による支持台部11に、係止部を有する弾性部材を連結した構成としてもよい。また、固定の態様も、一対の柱体1a,1bによるものに限らず、壁面に物体を片持ち状態で支持する場合にも、上記実施例と同様の固定構造を適用することもできる。
【0042】
また、前面が開口されたケース体の開口部に対応する大きさの物体をケース体の周壁部の内壁面に固定する場合にも、内壁面の複数箇所に上記構成の支持台部および係止部を設けることにより、物体を安定した姿勢で取り付けることができる。また、支持台部は、周壁部の内壁面の全周にわたって設けてもよい。また、係止部を含む箇所の弾性力を確保できるのであれば、係止部も同様に、内壁面の全周にわたって設けてもよい。
【0043】
図5は、本発明による固定構造が導入された一例としての光電センサの内部構成を示す。この実施例の光電センサは、投光部および受光部が一体となった反射型のセンサであって、前後が開口された長手形状のケース体2の内部に光学系や基板を支持するホルダ3が組み込まれた構成をとる。ケース体2の前端の開口部は透光性を有するカバーレンズ(図示せず。)により塞がれ、後端の開口部はコネクタを有する蓋体(図示せず。)により塞がれる。
【0044】
ホルダ3は、前面が開口されたレンズホルダ30の後方に基板支持部32が一体に設けられた樹脂成形品であり、弾性を有する樹脂材により成形されている。
レンズホルダ30の開口部の近傍位置には、一対のレンズ61,62を有するレンズ部材6が取り付けられる。基板支持部32は、ケース体2の底面に沿って延設されており、その上に、投光処理および受光処理に関わる回路パターンが形成された回路基板5が装着される。
【0045】
なお、
図5以下の各図では、レンズホルダ30の光軸に沿ってZ軸を設定し、Z軸に直交する平面を構成する2軸のうちのレンズ61,62の並び方向に沿う軸をX軸とし、他方の軸をY軸とする。
【0046】
図6は、上記光電センサのレンズホルダ30に組み込まれるレンズ部材6の構成を示す。また
図7(A)は、レンズ部材6が取り付けられる前のレンズホルダ30を前方側から見た状態を示し、
図7(B)はレンズ部材6が取り付けられたレンズホルダ30を
図7(A)と同じ視点から見た状態を示す。
【0047】
この実施例のレンズ部材6は、一対の幅狭の連結部64,65により、2つのレンズ61,62を孔部63を挟んで連結した構成のものである。各連結部64,65は、レンズ部材6の長さ方向の全長に沿って各レンズ61,62に一体に設けられる。また、連結部64,65の前面の外縁部には、それぞれ外向きに傾斜する斜面による切り欠き段部66が形成されている。また、レンズ部材6の四隅には脚部67が設けられている。
【0048】
レンズホルダ30の内部には、投光窓34aおよび受光窓34bを有する遮光板33を含む内部ホルダ36が、遮光板33をXY平面に合わせて配備されている。遮光板33の中央部には、レンズ部材6の孔部63に挿入可能な大きさの壁部31が起立配備されている。この壁部31によって、レンズホルダ30内の空間は、投光窓34aを含む投光用の導光路と、受光窓34bを含む受光用の導光路とに二分される。
【0049】
内部ホルダ36の遮光板33より後方は開放されており、その開口端面に投光素子および受光素子を支持する基板4(
図5を参照。)が装着される。投光素子は投光窓34aの背後に位置し、受光素子は受光窓34bの背後に位置する。
【0050】
上記のレンズ部材6を、孔部63に壁部31が入るようにしてレンズホルダ30の開口部から挿入して押圧すると、レンズ部材6は、各導光路の前端部にそれぞれレンズ61,62を臨ませた状態で固定される。
【0051】
図8では、上記のレンズホルダ30の右側部を破断し、前端縁を上に向けて内部構造を表す。
図9では、レンズホルダ30の一側縁部の固定構造をさらに拡大し、レンズ部材6を支持していない状態の図(
図9(A))と、レンズ部材6を支持している状態の図(
図9(B))とを、上下に並べて示す。
なお。
図8および
図9では、レンズ部材6の破断面のみにハッチングを入れている。
【0052】
以下、
図6〜
図9を参照して、この実施例における固定構造を詳細に説明する。
この実施例のレンズホルダ30では、その周壁部の前端のX軸方向に沿う両側部に、それぞれ開口縁に沿うスリット孔300,300が形成されている。レンズホルダ30は弾性を有する樹脂により成形されるが、特に、スリット孔300と開口部との間の幅狭部310はY軸方向に沿って変形しやすい状態になる。以下、この幅狭部310をバネ部と呼ぶ。
【0053】
バネ部310は、レンズホルダ30のX軸方向に沿う両側の壁部の前端部分に形成される。各バネ部310,310には、それぞれ内壁面から突出する一対の係止部311,311が形成されている。各係止部311,311は、それぞれ導光路を挟んで対向側の壁面の係止部311,311に位置合わせされる。
各スリット孔300,300の後端縁の厚みに沿う面301,301は、レンズ部材6を支持するための支持台部として機能する。
【0054】
各レンズホルダ30の開口端縁の四隅は前方に突出し、各突出部分にV字状の溝320が形成されている。これらの溝320は、図示しない光学フィルタを支持するためのものである。
【0055】
図9(A)に示すように、この実施例の係止部311の前面部分には、支持台部301に近づくにつれてバネ部310の本体からの突出幅が増すように傾斜する斜面312と、この斜面312の後端縁に連なり、バネ部310の本体からの突出幅が一定の面317とが含まれる。この実施例ではこれらの面312,317およびバネ部310の本体と面312,317との間の厚み部分が、案内部として機能する。
【0056】
面317の幅方向の半分は支持台部301がある後方側に向かって突出しており、その突出部分に外側に向かって傾斜する突き当て面313が連ねられている。面317の突出していない部分には、支持台部301の方を向く開放端面314が連なり、突き当て面313にも支持台部301の方を向く開放端面315が連ねられている。この実施例では、係止部311の突き当て面313および開放端面315を含む下端部が、突き当て部として機能する。
【0057】
突き当て面313および開放端面314は、通常は、内部ホルダ36の側壁部35とケース体30との間の隙間に対向した状態にある。
同じバネ部310に設けられる2つの係止部311,311は、それぞれ突き当て面313,313を内向きにした線対称状に設定されている。各突き当て面313,313に側方で連なる面316,316の間の距離は、レンズ部材6の連結部64,65の切り欠き段部66の長さに対応する。また、開放端面314と支持台部301との間の距離は連結部64,65の全体の厚みよりやや大きく設定され、突き当て面313に連なる開放端面315と支持台部301との間の距離は、連結部64,65の底面から切り欠き段部66までの厚みに相当する長さに設定されている。
【0058】
上記の構成において、作業者がレンズホルダ30の開口部からレンズ部材6を挿入すると、レンズ部材6の両側の連結部64,65は各係止部311の斜面312に接触する。作業者がレンズ部材6を前面側から押圧すると、各係止部311にレンズ部材6による外向きの押圧力が加えられ、係止部311を含むバネ部310の全体が外側に変位する。よって、レンズ部材6は、各連結部64,65を各係止部311に接触させた状態を維持しつつ、斜面312およびその下方の面317に案内されて、レンズホルダ30の奥へと移動する。係止部311の突出幅の変化により、レンズ部材6がレンズホルダ30の奥に移動するにつれてバネ部310の変位量が増えるので、面312,317との接触が解消する直前の連結部64,65と突き当て面313との間に大きな隙間が生じる。
【0059】
レンズ部材6の連結部64,65の背面が支持台部301に到達すると、各支持台部301の下方の壁面と内部ホルダ36の側壁部35との間の隙間にレンズ部材6の各脚部67が入り込む(
図8を参照。)。これにより、レンズ部材6は、その背面をXY平面に沿わせて支持された状態になる。また、この支持状態が確立するのとほぼ同時に、連結部64,65と面312,317との接触が解除されて各バネ部310が復帰の方向に変位し、連結部64,65の各切り欠き段部66,66に各係止部311の突き当て面313が突き当たって、レンズ部材6が両側方から押圧される。このとき、各突き当て面313の側方の面316も、切り欠き段部66の内壁面66a(
図6参照。)に当接した状態になって、突き当て面313と連結部64,65との当接状態が安定する。よって、各連結部64,65は支持台部301と係止部311との間に挟まれた状態になって、レンズ部材6が固定される。
【0060】
レンズ部材6と面312,317との接触が解除されたとき、各バネ部310,310は、各係止部311の突き当て面313と連結部64,65との隙間が一挙に解消されるように勢いよく移動する。よって、突き当て面313およびその隣の面316が強い力で連結部64,65に突き当たって、振動や「パチッ」という音が生じる。
【0061】
したがって、作業者は、レンズホルダ310の開口部からレンズ部材6を挿入して、振動や「パチッ」という音が生じるまでレンズ部材6を押圧する方法により、レンズ部材6を正しく取り付けることが可能になる。
【0062】
なお、
図6〜
図9の例では、一対のレンズ61,62が連結された構成のレンズ部材6を固定の対象とすることから、各レンズ61,62にそれぞれ2つの係止部311を割り当てて、これらをケース体30の両側の内壁面に対向配備したが、単独のレンズによるレンズ部材を固定する場合には、ケース体の両側の内壁面に1つずつ係止部311を配備するにとどめてもよい。ただし、大型のレンズ部材を固定する場合などには、3個以上の係止部311を、ケース体の周方向に沿ってバランス良く配置するとよい。
また、
図6〜
図9に示した固定構造は、レンズ部材に限らず、前面が開口されたケース体の開口部を塞ぐように開口部の近傍に固定される物体全般の固定に適用することができる。