特許第5962279号(P5962279)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962279
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】車両用ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B60T7/12 A
【請求項の数】7
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2012-158214(P2012-158214)
(22)【出願日】2012年7月16日
(65)【公開番号】特開2014-19232(P2014-19232A)
(43)【公開日】2014年2月3日
【審査請求日】2015年3月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 千眞
(72)【発明者】
【氏名】白木 崇裕
【審査官】 竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−244801(JP,A)
【文献】 特開2008−265551(JP,A)
【文献】 特開2008−296849(JP,A)
【文献】 特開2001−106057(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12− 8/1769
B60T 8/32− 8/96
B60T15/00−17/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキ液圧に基づいて摩擦材(11)を被摩擦材(12)に押し当ててサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構(1)と、
電動アクチュエータ(10)を駆動して車輪をロックするロック動作を行うことで駐車ブレーキ力を発生させる電動駐車ブレーキ機構(2)と、
前記サービスブレーキ力を前記駐車ブレーキ力に切替えるときにロック指令信号を出力する外部指示手段(8)と、
前記ロック指令信号を受信すると共に、該ロック指令信号を受信したことを判定したときに前記電動駐車ブレーキ機構を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させる駐車ブレーキ制御手段(9)と、を備え、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記ロック指令信号が誤って送られてきたか否かを判定するロック指令信号異常判定手段(120、125、230、430、530、640)と、該ロック指令信号異常判定手段にて前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定されると、前記ロック動作を実行しないか、該ロック動作を中止もしくは前記駐車ブレーキ力を解除する誤動作防止制御を実行する誤動作防止制御手段(235、435、535、645)とを有しており、
前記電動駐車ブレーキ機構は、前記油圧ブレーキ機構と共用の前記摩擦材を押圧することで前記サービスブレーキ力を発生させるものであり、
前記外部指示手段は、前記油圧ブレーキ機構が前記摩擦材を押圧していないときには前記ロック指令信号を出力しないように構成され、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記駐車ブレーキ力に相当する値を検出する駐車ブレーキ力検出手段を有し、
前記ロック指令信号異常判定手段(230)は、前記駐車ブレーキ力検出手段の検出結果に基づいて前記駐車ブレーキ力が発生したことを検出し、前記電動駐車ブレーキ機構が前記ロック動作を開始してから前記駐車ブレーキ力が発生するまでの時間が規定値未満であるとき、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項2】
前記駐車ブレーキ力に相当する値は前記電動アクチュエータに流れる電流値であり、
前記ロック指令信号異常判定手段は、前記電動アクチュエータに負荷が掛かっていない無負荷状態のときの電流値を無負荷電流値として、電流値が前記無負荷電流値から上昇し始めるまでの無負荷時間が前記規定値未満であるとき、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする請求項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項3】
ブレーキ液圧に基づいて摩擦材(11)を被摩擦材(12)に押し当ててサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構(1)と、
電動アクチュエータ(10)を駆動して車輪をロックするロック動作を行うことで駐車ブレーキ力を発生させる電動駐車ブレーキ機構(2)と、
前記サービスブレーキ力を前記駐車ブレーキ力に切替えるときにロック指令信号を出力する外部指示手段(8)と、
前記ロック指令信号を受信すると共に、該ロック指令信号を受信したことを判定したときに前記電動駐車ブレーキ機構を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させる駐車ブレーキ制御手段(9)と、を備え、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記ロック指令信号が誤って送られてきたか否かを判定するロック指令信号異常判定手段(120、125、230、430、530、640)と、該ロック指令信号異常判定手段にて前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定されると、前記ロック動作を実行しないか、該ロック動作を中止もしくは前記駐車ブレーキ力を解除する誤動作防止制御を実行する誤動作防止制御手段(235、435、535、645)とを有しており、
前記電動駐車ブレーキ機構は、前記油圧ブレーキ機構と共用の前記摩擦材を押圧することで前記サービスブレーキ力を発生させるものであり、
前記外部指示手段は、前記油圧ブレーキ機構が前記摩擦材を押圧していないときには前記ロック指令信号を出力しないように構成され、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記駐車ブレーキ力に相当する値を検出する駐車ブレーキ力検出手段を有し、
前記ロック指令信号異常判定手段(430)は、前記駐車ブレーキ力検出手段の検出結果に基づいて前記駐車ブレーキ力の上昇勾配が所定の判定値未満であるとき、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項4】
前記駐車ブレーキ力に相当する値は前記電動アクチュエータに流れる電流値であり、
前記ロック指令信号異常判定手段は、前記電動アクチュエータに流れる電流値を時間微分した電流値微分値が前記判定値に相当する規定電流値微分値未満であるとき、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする請求項に記載の車両用ブレーキ装置。
【請求項5】
ブレーキ液圧に基づいて摩擦材(11)を被摩擦材(12)に押し当ててサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構(1)と、
電動アクチュエータ(10)を駆動して車輪をロックするロック動作を行うことで駐車ブレーキ力を発生させる電動駐車ブレーキ機構(2)と、
前記サービスブレーキ力を前記駐車ブレーキ力に切替えるときにロック指令信号を出力する外部指示手段(8)と、
前記ロック指令信号を受信すると共に、該ロック指令信号を受信したことを判定したときに前記電動駐車ブレーキ機構を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させる駐車ブレーキ制御手段(9)と、を備え、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記ロック指令信号が誤って送られてきたか否かを判定するロック指令信号異常判定手段(120、125、230、430、530、640)と、該ロック指令信号異常判定手段にて前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定されると、前記ロック動作を実行しないか、該ロック動作を中止もしくは前記駐車ブレーキ力を解除する誤動作防止制御を実行する誤動作防止制御手段(235、435、535、645)とを有しており、
車両の減速度を検出する車両減速度検出手段(25)を更に有し、
前記外部指示手段は、前記車両の走行中には前記ロック指令信号を出力しないように構成され、
前記ロック指令信号異常判定手段(530)は、前記ロック動作中に減速度が発生すると前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項6】
ブレーキ液圧に基づいて摩擦材(11)を被摩擦材(12)に押し当ててサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構(1)と、
電動アクチュエータ(10)を駆動して車輪をロックするロック動作を行うことで駐車ブレーキ力を発生させる電動駐車ブレーキ機構(2)と、
前記サービスブレーキ力を前記駐車ブレーキ力に切替えるときにロック指令信号を出力する外部指示手段(8)と、
前記ロック指令信号を受信すると共に、該ロック指令信号を受信したことを判定したときに前記電動駐車ブレーキ機構を作動させて前記駐車ブレーキ力を発生させる駐車ブレーキ制御手段(9)と、を備え、
前記駐車ブレーキ制御手段は、前記ロック指令信号が誤って送られてきたか否かを判定するロック指令信号異常判定手段(120、125、230、430、530、640)と、該ロック指令信号異常判定手段にて前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定されると、前記ロック動作を実行しないか、該ロック動作を中止もしくは前記駐車ブレーキ力を解除する誤動作防止制御を実行する誤動作防止制御手段(235、435、535、645)とを有しており、
車両の減速度を検出する車両減速度検出手段(25)を更に有し、
前記外部指示手段は、前記車両の走行中には前記ロック指令信号を出力しないように構成され、
前記ロック指令信号異常判定手段(640)は、前記駐車ブレーキ力の増加に合せて前記減速度が増加したときに、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする車両用ブレーキ装置。
【請求項7】
前記ロック指令信号異常判定手段は、前記駐車ブレーキ力の増加速度に基づいて、前記減速度の変化速度の判定閾値である第1減速度変化閾値と該第1減速度変化閾値よりも大きい第2減速度変化閾値を設定し、前記駐車ブレーキ力が増加中の前記減速度の変化速度が前記第1減速度変化閾値から第2減速度変化閾値の範囲内であれば、前記ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴とする請求項に記載の車両用ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電動駐車ブレーキ機構(以下、EPB(Electric parking brake)という)を有する車両用ブレーキ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1において、EPBと液圧式ブレーキ装置を組み合わせた車両の制動制御装置が開示されている。この制動制御装置では、液圧式ブレーキ装置の自動加圧による制動力に基づいて停車している際に、EPBの駆動を行う電子制御装置にロック指令信号を送り、液圧式ブレーキ装置による制動力をEPBによる制動力に切替えることで、液圧式ブレーキ装置の加熱に対応しつつ、長時間の自動停車が行えるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−306351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1のように外部から送られてくるロック指令信号に基づいてEPBを駆動してEPBによる制動力を発生させているため、ロック指令信号が誤りであった場合、EPBによる制動力を発生させる必要が無いのにもかかわらず発生させることになる。このため、ドライバが意図しない制動力を発生させてしまうことになる。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、誤ったロック指令信号に基づいてEPBがドライバの意図しない制動力を発生させてしまうことを抑制できる車両用ブレーキ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、サービスブレーキ力を駐車ブレーキ力に切替えるときにロック指令信号を出力する外部指示手段(8)と、ロック指令信号を受信すると共に、該ロック指令信号を受信したことを判定したときにEPB(2)を作動させて駐車ブレーキ力を発生させる駐車ブレーキ制御手段(9)とを備える車両用ブレーキ装置において、駐車ブレーキ制御手段は、ロック指令信号が誤って送られてきたか否かを判定するロック指令信号異常判定手段(120、125、230、430、530、640)と、該ロック指令信号異常判定手段にてロック指令信号が誤って送られてきたと判定されると、ロック動作を実行しないか、ロック動作を中止もしくは駐車ブレーキ力を解除する誤動作防止制御を実行する誤動作防止制御手段(235、435、535、645)とを有していることを特徴としている。
【0007】
このように、ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときとを判別し、異常状態のときにはロック動作を実行しないか、ロック動作を中止もしくは駐車ブレーキ力を解除するようにしている。すなわち、誤ったロック指令信号に基づいて駐車ブレーキ力が発生させられることを抑制するようにしている。このため、誤ったロック指令信号に基づいてドライバの意図しない制動力が発生することを抑制できる。
【0008】
また、請求項に記載の発明では、EPBは、油圧ブレーキ機構と共用の摩擦材を押圧することでサービスブレーキ力を発生させるものであり、外部指示手段は、油圧ブレーキ機構が摩擦材を押圧していないときにはロック指令信号を出力しないように構成されている場合において、駐車ブレーキ制御手段に駐車ブレーキ力に相当する値を検出する駐車ブレーキ力検出手段を備え、ロック指令信号異常判定手段(230)は、駐車ブレーキ力検出手段の検出結果に基づいて駐車ブレーキ力が発生したことを検出し、EPBがロック動作を開始してから駐車ブレーキ力が発生するまでの時間が規定値未満であるとき、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴としている。
【0009】
このように、駐車ブレーキ力が発生するまでの時間が規定値未満であるときには、油圧ブレーキ機構が摩擦材を押圧している状態になっていないことから、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することができる。例えば、請求項に記載したように、駐車ブレーキ力に相当する値として電動アクチュエータに流れる電流値を用いることができ、ロック指令信号異常判定手段は、電動アクチュエータに負荷が掛かっていない無負荷状態のときの電流値を無負荷電流値として、電流値が無負荷電流値から上昇し始めるまでの無負荷時間が規定値未満であるとき、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することができる。
【0010】
請求項に記載の発明では、ロック指令信号異常判定手段(430)は、駐車ブレーキ力検出手段の検出結果に基づいて駐車ブレーキ力の上昇勾配が所定の判定値未満であるとき、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴としている。
【0011】
このように、駐車ブレーキ力の上昇勾配に基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。例えば、請求項に記載したように、駐車ブレーキ力に相当する値として電動アクチュエータに流れる電流値を用いることができ、ロック指令信号異常判定手段は、電動アクチュエータに流れる電流値を時間微分した電流値微分値が判定値に相当する規定電流値微分値未満であるとき、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することができる。
【0012】
請求項に記載の発明では、車両の減速度を検出する車両減速度検出手段(25)を更に有し、外部指示手段は、車両の走行中にはロック指令信号を出力しないように構成され、ロック指令信号異常判定手段(530)は、ロック動作中に減速度が発生するとロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴としている。
【0013】
このように、EPBによるロック動作を行っているときに減速度が発生したことに基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。
【0014】
請求項に記載の発明では、車両の減速度を検出する車両減速度検出手段(25)を更に有し、外部指示手段は、車両の走行中にはロック指令信号を出力しないように構成され、ロック指令信号異常判定手段(640)は、駐車ブレーキ力の増加に合せて減速度が増加したときに、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することを特徴としている。
【0015】
このように、EPBによるロック動作を行っているときに、減速度の増加が駐車ブレーキ力の増加に同期していることに基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。このようにすれば、車両は停止しているにもかかわらず風による車両揺れや乗員の動きに伴った車両揺れによって車両に減速度が発生したと誤検出した場合とロック指令信号の誤りに基づいて車両減速度が発生した場合とを区別できるため、より正確にロック指令信号の誤りを検出できる。
【0016】
例えば、請求項に記載したように、ロック指令信号異常判定手段は、駐車ブレーキ力の増加速度に基づいて、減速度の変化速度の判定閾値である第1減速度変化閾値と該第1減速度変化閾値よりも大きい第2減速度変化閾値を設定し、駐車ブレーキ力が増加中の減速度の変化速度が第1減速度変化閾値から第2減速度変化閾値の範囲内であれば、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定することができる。
【0017】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の全体概要を示した模式図である。
図2図1に示す車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。
図3】EPB−ECU9で実行されるBH補助駐車ブレーキ制御の全体フローチャートである。
図4】BH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
図5】ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときのタイミングチャートである。
図6】ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
図7】路面勾配と目標モータ電流値上昇量との関係を示したマップである。
図8】本発明の第2実施形態にかかるEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
図9】本発明の第3実施形態にかかるEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
図10】誤ってロック指令信号が送られてきた場合のタイミングチャートである。
図11】本発明の第4実施形態にかかるEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
図12】電流値微分値と車両減速度変化速度基準値との関係を示すマップである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0020】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。図1は、本実施形態にかかる車両用ブレーキ装置の全体概要を示した模式図である。また、図2は、車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系のブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、車両用ブレーキ装置は、ドライバの踏力に基づいてサービスブレーキ力を発生させるサービスブレーキ1と駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2とが備えられている。
【0022】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基づいてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基づいてサービスブレーキ力を発生させる油圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪のブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられており、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行える構造とされている。
【0023】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、外部指示手段に相当するESC(Electronic Stability Control)−ECU8にて実行される。例えば、ESC−ECU8からアクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流を出力することにより、アクチュエータ7に備えられる油圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基づいて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようにしている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来より周知となっているため、ここでは詳細については省略する。
【0024】
一方、EPB2は、モータ10にてブレーキ機構を制御することで駐車ブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB−ECUという)9を有して構成されている。
【0025】
ブレーキ機構は、本実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、前輪系のブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされているが、後輪系のブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系のブレーキ機構は、後輪系のブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基づいて駐車ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられているブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下の説明では後輪系のブレーキ機構について説明する。
【0026】
後輪系のブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0027】
具体的には、ブレーキ機構は、図1に示すキャリパ13内において、図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させることにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させ、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による駐車ブレーキ力を発生させる。
【0028】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0029】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0030】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする駐車ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、その位置に推進軸18が保持され、所望の駐車ブレーキ力を保持できるようになっている。
【0031】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液洩れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
【0032】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0033】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0034】
このように構成されたブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基づいてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、駐車ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用のブレーキ機構とすることが可能となる。
【0035】
また、このようなブレーキ機構では、EPB2を作動させたときに、W/C圧が0でブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧される前の状態、もしくは、サービスブレーキ1が作動されることでW/C圧が発生させられていたとしても推進軸18がピストン19に接する前の状態のときには、推進軸18に掛かる負荷が軽減され、モータ10はほぼ無負荷状態で駆動される。そして、推進軸18がピストン19に接している状態でブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧するときに、EPB2による駐車ブレーキ力が発生させられることになり、モータ10に負荷が掛かり、その負荷の大きさに応じてモータ10に流されるモータ電流値が変化する。このため、モータ電流値を確認することにより、EPB2による駐車ブレーキ力の発生状態を確認することができるようになっている。
【0036】
EPB−ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。このEPB−ECU9が本発明の駐車ブレーキ制御手段に相当する。
【0037】
EPB−ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB−ECU9は、モータ電流値に基づいてロック制御やリリース制御などを実行しており、その制御状態に基づいてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを把握している。そして、EPB−ECU9は、インストルメントパネルに備えられたロック/リリース表示ランプ24に対し、モータ10の駆動状態に応じて、車輪がロック状態となっているかリリース状態になっているかを示す信号を出力している。
【0038】
なお、EPB−ECU9には、車両の前後方向の加速度を検出する車両減速度検出手段としての前後加速度センサ(以下、前後Gセンサという)25の検出信号が入力されるようにしてある。これにより、EPB−ECU9にて、前後Gセンサ25の検出信号から減速度を演算したり、検出信号に含まれる重力加速度成分に基づき周知の手法によって停車中の路面の傾斜(勾配)を推定したりしている。
【0039】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって停車させられた際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて駐車ブレーキ力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に駐車ブレーキ力を解除するという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで駐車ブレーキ力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで駐車ブレーキ力を解除して車輪をリリース状態にする。
【0040】
具体的には、ロック・リリース制御により、駐車ブレーキ力を発生させたり解除したりしている。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の駐車ブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の駐車ブレーキ力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている駐車ブレーキ力を解除する。
【0041】
このようなサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えは、ドライバが操作SW23を押下したときに限らず、他の状況でも行われる。例えば、坂路において車両が下方にずり下がることを防止すべく、サービスブレーキ1の自動加圧機能によってサービスブレーキ力を発生させることで坂路保持制御を行っているような状況において、駐車ブレーキ力に切替えることで、長時間駆動によるアクチュエータ7の加熱を抑制する場合などが挙げられる。このように、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行うときには、ロック制御を実行するためのロック指令信号がESC−ECU8からEPB−ECU9に対して出力される。このロック指令信号に基づいてブレーキホールド(以下、BHという)補助駐車ブレーキ制御を行うことで、駐車ブレーキ力を発生させ、サービスブレーキ力からの切り替えを行っている。
【0042】
このBH補助駐車ブレーキ制御について、図3図6を参照して説明する。図3は、本実施形態の車両用ブレーキ装置におけるEPB−ECU9で実行されるBH補助駐車ブレーキ制御の全体フローチャートである。図4は、BH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。図5は、ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときのタイミングチャートである。図6は、ロック・リリース表示処理の詳細を示したフローチャートである。
【0043】
EPB−ECU9は、例えばイグニッションスイッチがオンされている期間中に図3に示す全体フローチャートの各種処理を実行することによって、BH補助制御を実行している。図3に示す各種処理は、所定の制御周期毎に実行される。
【0044】
まず、ステップ100でフラグリセットなどの一般的な初期化処理を行ったのち、ステップ105に進み、時間tが経過したか否かを判定する。ここでいう時間tは、制御周期を規定するものである。つまり、初期化処理が終了してからの時間もしくは前回本ステップで肯定判定されたときからの経過時間が時間tが経過するまで繰り返し本ステップでの判定が行われるようにすることで、時間tが経過するごとにBH補助駐車ブレーキ制御が実行されるようにしている。
【0045】
続くステップ110では、BH補助制御許可が出ているか否かを判定する。すなわち、ブレーキ液圧に基づくサービスブレーキ力からEPB2による駐車ブレーキ力への切り替えを行える条件を満たしているか否かを判定する。ここでいう条件としては、例えばEPB2が異常でないこと、具体的にはモータ10への電源供給配線が断線している状況などではないことを条件としている。このような状況はイニシャルチェックなどによって把握できていることから、イニシャルチェック結果を記憶しておくことで、本ステップの判定が行えるようにしてある。ここで否定判定された場合には、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行えないためこれ以降の処理には進まず、肯定判定された場合にのみこれ以降の処理に進む。
【0046】
そして、ステップ115に進み、ロック指令を示すフラグがオンされているか否かを判定する。ロック指令を示すフラグは、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が伝えられるとオンされる。ここでも肯定判定されると、ステップ120、125において、ロック指令信号が送られる条件を満たしているか否か、つまりロック指令信号が誤りでないか否かの判定を行う。
【0047】
具体的には、ステップ120では、走行中であるか否かを判定する。例えば車速が発生しているか否かを判定することにより、走行中であるか否かを判定することができる。車速については、例えば、ESC−ECU8が各車輪FL〜RRに備えられた図示しない車輪速度センサの検出信号から得られた車輪速度に基づいて推定車体速度を演算していることから、それをEPB−ECU9に伝えることにより、EPB−ECU9で本判定が行えるようにすることができる。また、車速に限らず、車輪速度に基づいて走行中であるか否かを判定しても良い。
【0048】
また、ステップ125では、M/C圧がBH中保持圧以下であるか否かを判定する。BH中保持圧とは、M/C圧がEPB2で制動力を保持することが必要な程度に発生している状況を意味している。このため、M/C圧がBH中保持圧以下であることは、M/C圧がEPB2で制動力を保持することが必要な程度に発生していない状況であることを示している。
【0049】
これらステップ120で示す走行中である場合や、ステップ125で示すM/C圧がBH中保持圧以下である場合は、共に、ロック指令信号が出力されるような状況ではない。したがって、これらいずれかの判定で肯定判定されたときにはステップ130に進み、BH補助ロック制御をオフにし、BH補助ロック制御が実行されないようにする。
【0050】
一方、ステップ120、125で共に否定判定された場合には、ステップ135に進み、ロック状態を示すフラグがオンされている状況、または、不完全ロック状態を示すフラグがオンされている状況であるか否かを判定する。
【0051】
ロック状態は、車輪がロックされたことを意味している。ロック状態を示すフラグは、上記したロック制御によってロック状態になった場合にオンされるが、BH補助ロック制御においてサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完全に行われて車輪がロック状態になったときにもオンされる。また、不完全ロック状態は、ロック動作を途中で停止して完全なロック状態になっていると言えない状況を意味している。不完全ロック状態を示すフラグは、サービスブレーキ力から駐車ブレーキへの切り替えの途中でロック指令信号が誤りであることが検出され、誤動作防止制御としてBH補助ロック制御によるロック動作を停止したときにオンされる。
【0052】
ロック状態のときは、既に駐車ブレーキ力に基づいて車輪がロックされていることからBH補助ロック制御を実行する必要がない。また、不完全ロック状態のときは、ロック指令信号が誤っていてサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行う必要がない。したがって、これらいずれかの状態と判定されたときにも、ステップ130に進んでBH補助ロック制御をオフする。
【0053】
そして、ステップ135でも否定判定されると、ステップ140に進んでBH補助ロック制御処理を実行する。このBH補助ロック制御の詳細について、図4に示すBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートを参照して説明する。
【0054】
BH補助ロック制御が開始されると、図4のステップ200において、電流上昇し始めフラグがオフされているか否かを判定する。電流上昇し始めフラグとは、モータ電流値がモータ10に掛かる負荷が無負荷状態のときの電流値から上昇し始めたときにオンされるフラグである。BH補助ロック制御が開始された当初には、電流上昇し始めフラグはオフされており、本ステップの判定は否定判定されることになる。
【0055】
続いて、ステップ205に進み、目標モータ電流値上昇量を設定すると共に、ロック指令正常判定用カウンタをインクリメントする。
【0056】
目標モータ電流値上昇量は、サービスブレーキ1により発生させられるW/C圧の目標値と対応するモータ電流値の上昇量、具体的には無負荷電流値からのモータ電流値の上昇量である。モータ電流値の上昇量がこの目標モータ電流値上昇量となるようにすることで、サービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えの際に過度の駐車ブレーキ力が発生することを抑制する。この目標モータ電流値上昇量は、例えば坂路保持制御におけるサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えを行う場合には、車両ずり下がりが生じない最低限の駐車ブレーキ力を発生させるために必要なモータ電流値の上昇量以上に設定され、駐車させる場所の路面勾配等によって決まる値である。
【0057】
ここでは、路面勾配に対応する目標モータ電流値上昇量の値をマップ化しておき、前後Gセンサ25の検出信号に基づいて路面勾配を求めたのち、そのマップから、求めた路面勾配と対応する値を抽出することにより目標モータ電流値上昇量としている。図7は、その一例を示したマップであり、路面勾配と目標モータ電流値上昇量との関係を示している。この図に示すように、路面勾配の大きさに比例して目標モータ電流値上昇量が大きくなるようなマップとすることができる。
【0058】
ロック指令正常判定用カウンタは、ロック指令信号が正常であるか誤っているかを判定するために用いるカウンタである。具体的には、ロック指令正常判定用カウンタは、BH補助ロック制御が開始されたときからカウントをはじめ、無負荷状態のときのモータ電流値である無負荷電流値からモータ電流値が上昇し始めたときまでカウントアップされる。したがって、ロック指令正常判定用カウンタにて、BH補助ロック制御において無負荷状態となっていた時間(以下、無負荷時間という)を計測することができる。
【0059】
この後、ステップ210に進み、ロック駆動時間タイマがMINロック駆動時間よりも大きいか否かを判定する。ロック駆動時間タイマとは、モータロック駆動、つまり車輪をロック状態にすべくモータ10を正回転させた始めたときに、それと同時に時間計測を開始するタイマである(後述するステップ215参照)。MINロック駆動時間とは、BH補助ロック制御開始時に発生し得る突入電流が収束すると想定される期間以上かつBH補助ロック制御に掛かると想定される最小時間未満の期間に設定される。図5(a)、(b)に示すように、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が送られてきたときに上記ステップ120、125、135の判定を経てBH補助ロック制御開始されてモータ10に電流が供給される。このBH補助ロック制御開始時には突入電流が発生し、目標モータ電流値を超えてしまう。したがって、ロック駆動時間タイマがMINロック駆動時間よりも大きくなるまでは、モータ電流値が所望値に至ったか否かを判定しないようにマスクし、突入電流が目標ロック電流値を超えたとしても所望の駐車ブレーキ力が発生したと誤判定されないようにしている。
【0060】
このステップ210で肯定判定されるまではステップ215に進み、ロック駆動時間タイマをインクリメントすると共に、モータロック駆動を示すフラグをオンする。これにより、モータ10が正回転、つまり車輪をロック状態にする方向に回転させられる。これに伴って平歯車15が駆動され、平歯車16および回転軸17が回転し、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基づいて推進軸18がブレーキディスク12側に移動させられ、それに伴ってピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12側に移動させられる。
【0061】
そして、ステップ210で肯定判定されると、ステップ220に進んで電流値微分値が電流値微分閾値を超えているか否かを判定する。電流値微分値は、モータ電流値を時間微分した値である。図5(a)、(b)に示すように、無負荷状態のときにはモータ電流値が上昇せずほぼ一定値であることから、電流値微分値はほぼ0になる。電流値微分閾値は、モータ電流値が上昇していることを判定する基準値に設定され、モータ10に負荷が掛かった状態、つまり推進軸18がピストン19に接してブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧している状態の判定に用いられる。すなわち、電流値微分値が電流値微分閾値を超えていれば、モータ電流値が上昇し始めてモータ10に負荷が掛かっている状態であると判定できる。したがって、本ステップで肯定判定されるまではステップ215に進んで上記処理を繰り返し、肯定判定されればステップ225に進む。そして、ステップ225で電流値上昇し始めフラグをオンしてステップ230に進む。
【0062】
ステップ230では、ロック指令正常判定用カウンタが規定値を超えているか否かを判定する。ここでいう規定値は、BH補助ロック制御において無負荷時間が短く、ロック指令信号が誤って送られてきたと想定される時間に設定される。
【0063】
すなわち、ロック指令信号が正常に送られてくるときは、サービスブレーキ1によってピストン19がブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し込む方向に移動させられている。このため、推進軸18がピストン19に接するまでに時間が掛かり、図5(a)に示すように無負荷時間が期間t1+αと長くなる。これに対して、ロック指令信号が誤って送られてきたときは、例えば、サービスブレーキ1によるサービスブレーキ力が発生しておらず、ピストン19が初期位置に位置していてブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し込む方向に押圧されていない。このため、推進軸18がピストン19に接触するまでの時間が正常時と比較して短くなり、図5(b)に示すように無負荷時間が期間t1と短くなる。
【0064】
したがって、ステップ230で否定判定されたときには、ロック指令信号が誤って送られてきた場合であることから、ステップ235に進んでロック指令信号が誤っていたときの処理を行う。具体的には、誤動作防止制御としてモータロック駆動をオフにしてロック動作を停止させると共に、ロック駆動時間タイマを0にリセットする。また、この状態だとロック動作を途中で停止した状態であるため、不完全ロック状態を示すフラグをオンにする。さらに、電流値上昇し始めフラグをオフすると共に、ロック指令正常判定用カウンタを0にリセットしてBH補助ロック制御処理を終了する。このような不完全ロック状態とされる場合、多少は駐車ブレーキ力が発生させられる可能性があるが、ロック指令信号が誤りであることが確認されると直ぐにロック動作を停止させるようにしているため、車両の挙動を不安定にすることはない。
【0065】
一方、ステップ230で肯定判定されたときには、ステップ240に進んでモータ電流値が無負荷電流値に対して目標モータ電流値上昇量を加算した値を超えているか否かを判定する。そして、ステップ240で肯定判定されるまではステップ215に進んでモータロック駆動を示すフラグをオンしてモータロック駆動を継続し、肯定判定されるとステップ245に進んでBH補助ロック制御によって車輪をロック状態にできたときの処理を行う。具体的には、モータロック駆動を示すフラグをオフしてモータロック駆動を停止し、車輪がロック状態になったことを示すフラグをオンすると共に、ロック駆動時間タイマを0にリセットする。また、電流値上昇し始めフラグをオフすると共に、ロック指令正常判定用カウンタを0にリセットしてBH補助ロック制御処理を終了する。
【0066】
なお、上記したステップ120、125においてロック指令信号が出力される状況であるか否かを判定することで、ロック指令信号の誤出力を判定することができる。しかしながら、これらのステップでは、ESC−ECU8からEPB−ECU9に送られるデータに基づいて判定が行われる。このため、ロック指令信号と同様、ESC−ECU8からのデータが誤っている場合には、ロック指令信号が誤りか否かを判定することも正確に行えない可能性がある。したがって、BH補助ロック制御において、さらに、EPB−ECU9で取り扱っているモータ電流値に基づいてロック指令信号が出力される状況であるか否かを判定するようにすることで、より精度良くロック指令信号の誤りを検出することが可能となる。
【0067】
このようにして、BH補助ロック制御処理が終了すると、図3のステップ145に進み、ロック・リリース表示処理を実行する。このロック・リリース表示処理の詳細について、図6を参照して説明する。
【0068】
図6に示すように、ステップ300では、ロック状態を示すフラグがオンされているか否かを判定する。ここで肯定判定されればステップ305に進んでロックリリース表示ランプを点灯させてロック状態であることを表示する。また、ステップ300で否定判定されれば、ステップ310に進んで不完全ロック状態を示すフラグがオンされているか否かを判定する。ここで肯定判定されると、ステップ315に進んでロックリリース表示ランプを点滅させることで不完全ロック状態であることを表示する。また、ここで否定判定されるとステップ320に進んでロックリリース表示ランプを消灯することでロック状態や不完全ロック状態ではないことを示す。これにより、ドライバにロック状態であるか、不完全ロック状態であるか、それともロック状態や不完全ロック状態ではない状態であるかについて認識させることが可能となる。このようにして、ロック・リリース表示処理が完了し、これに伴ってBH補助駐車ブレーキ制御が完了する。
【0069】
以上説明したように、ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときとを判別し、異常状態のときにはBH補助ロック制御を実行しない、もしくは、実行中のBH補助ロック制御によるロック動作を中止するようにしている。すなわち、誤ったロック指令信号に基づいて駐車ブレーキ力が発生させられることを抑制するようにしている。
【0070】
また、ロック指令信号が誤っているか否かの判定をESC−ECU8から送られてくるデータ、すなわち図3のステップ120、125で示した走行中であるか否かやM/C圧の大きさに基づいて行うこともできるが、EPB−ECU9で取り扱っているモータ電流値に基づいて行うようにしている。具体的には、モータ電流値から無負荷時間を計測し、その無負荷時間の長さに基づいて、ロック指令信号が誤っていない通常状態のときと誤っている異常状態のときとを判別することができる。すなわち、サービスブレーキ1によるサービスブレーキ力が発生していて正常にロック指令信号が送られてきたのであれば、無負荷時間が長くなる(図5(a)の期間t1+α)。これに対して、サービスブレーキ力が発生していなくてロック指令信号が誤って送られてきたのであれば、無負荷時間が短くなる(図5(b)の期間t1)。このように、無負荷時間の長さに基づいてロック指令信号が誤っているか否かを判定することで、ESC−ECU8からのデータを用いることなく判定が行えるため、より精度良くロック指令信号の誤りを検出することが可能となる。
【0071】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対してBH補助ロック制御処理を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0072】
第1実施形態では、BH補助ロック制御処理において、無負荷時間に基づいてロック指令信号の誤りを検出するようにしたが、本実施形態では、モータ電流値の上昇勾配に基づいてその検出を行う。
【0073】
第1実施形態で説明した図5(a)に示されるように、ロック指令信号が誤って送られてきたものではない場合、サービスブレーキ力が発生させられている状況である。このため、モータ電流値の上昇勾配が急で、モータ電流値の無負荷電流値からの上昇量が目標モータ電流上昇量に到達するまでの時間が短くなる。これに対して、図5(b)に示されるように、ロック指令信号が誤って送られてきた場合、サービスブレーキ力が発生させられていない状況である。このため、モータ電流値の上昇勾配が緩やかで、モータ電流値の無負荷電流値からの上昇量が目標モータ電流上昇量に到達するまでの時間が長くなる。これに基づいて、モータ電流値の上昇勾配に基づいてロック指令信号の誤りを検出する。
【0074】
図8は、本実施形態のEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0075】
まず、ステップ400にて、図4のステップ200と同様の判定を行ったのち、ステップ405に進んで目標モータ電流値上昇量を設定する。この設定方法は、図4のステップ205と同様である。なお、第1実施形態では無負荷時間を計測するために、ステップ205でロック指令正常判定用カウンタのインクリメントしていたが、本実施形態ではその処理は行わない。
【0076】
そして、ステップ410〜425において、図4のステップ210〜225と同様の処理を行った後、ステップ430に進み、電流値微分値が規定電流値微分値を超えているか否かを判定する。電流値微分値は、モータ電流値を時間微分した値であり、モータ電流値の上昇勾配を表している。規定電流値微分値は、モータ電流値の上昇勾配の判定値であり、ロック指令信号が誤って送られてきた場合の上昇勾配とロック指令信号が誤っていない場合の上昇勾配の中間値に設定される。
【0077】
このステップ430で否定判定されれば、ロック指令信号が誤って送られてきた場合であることから、ステップ435に進んで誤動作防止制御としてロック指令信号が誤っていたときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ235の処理と同様であるが、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理以外について同様となる。そして、ステップ430で肯定判定されれば、ステップ440に進み、図4のステップ240と同様の判定処理を行い、ステップ440で肯定判定されるとステップ445に進んでサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完了したときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ245と同様の処理であるが、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理以外について同様となる。
【0078】
このように、モータ電流値の上昇勾配に基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0079】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してBH補助ロック制御処理を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0080】
本実施形態では、車両に減速度が発生したことに基づいてロック指令信号の誤りの検出を行う。すなわち、ロック指令信号が誤って送られてきたものではない場合、車両が停止している状態であることから、EPB2によって駐車ブレーキ力を発生させても減速度は発生しない。このため、EPB2によって駐車ブレーキ力を発生させたときに減速度が発生するのであれば、ロック指令信号が誤って送られてきたものであると判定することができる。ただし、停車中の路面の勾配に応じて減速度が発生し得ることから、路面勾配に基づく減速度については除外して、EPB2の作動に基づいて減速度が発生したときにロック指令信号が誤って送られてきたものであると判定する。
【0081】
図9は、本実施形態のEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0082】
まず、ステップ500にて、図4のステップ200と同様の判定を行ったのち、ステップ505に進んで目標モータ電流値上昇量を設定する。この設定方法は、図4のステップ205と同様である。また、BH補助ロック制御開始時の車両減速度を作動開始時車両減速度に設定する。つまり、通常であればBH補助ロック制御開始時には既に停車中であるため、そのときに発生している減速度は路面勾配に基づく重力成分加速度が前後Gセンサ25の検出信号に含まれているために発生していると考えられる。したがって、このときの車両減速度を路面勾配に基づく減速度に相当する値として記憶している。
【0083】
そして、ステップ510〜525において、図4のステップ210〜225と同様の処理を行った後、ステップ530に進み、車両減速度が作動開始時車両減速度にに対して減速度増加判定閾値を足した値以上であるか否かを判定する。減速度増加判定閾値は、EPB2を作動させることにより減速度が発生したと判定する基準値である。
【0084】
このステップ530で肯定判定されれば、ロック指令信号が誤って送られてきた場合であることから、ステップ535に進んで誤動作防止制御としてロック指令信号が誤っていたときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ235の処理と同様であるが、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理以外について同様となる。そして、ステップ530で否定判定されれば、ステップ540に進み、図4のステップ240と同様の判定処理を行い、ステップ540で肯定判定されるとステップ545に進んでサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完了したときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ245と同様の処理であるが、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理以外について同様となる。
【0085】
このように、BH補助ロック制御によってEPB2を作動させたときに減速度が発生したことに基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。
【0086】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対してBH補助ロック制御処理を変更したものであり、その他に関しては第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0087】
本実施形態では、車両に減速度が発生したことに基づいてロック指令信号の誤りの検出を行う。上記第3実施形態のように、車両に減速度が発生したことに基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできるが、風による車両揺れや乗員の動きに伴った車両揺れによって車両に減速度が発生することも有り得る。このような場合には、車両に減速度が発生したことだけに基づいてロック指令信号の誤りを正確に判定できない可能性がある。このため、本実施形態では、モータ電流値と車両減速度に基づいてロック指令信号の誤りの検出を行うようにする。これについて、図10を参照して説明する。
【0088】
図10は、誤ってロック指令信号が送られてきた場合のタイミングチャートである。この図に示すように、ESC−ECU8からEPB−ECU9にロック指令信号が送られてきたときに、図3のステップ120、125、135の判定を経てBH補助ロック制御開始されてモータ10に電流が供給される。そして、突入電流発生後に早期にモータ電流値が上昇し始める。このとき、ロック指令信号が誤って送られてきた場合であれば、同時に車両減速度も発生することから、モータ電流値の上昇と車両減速度の発生が同期する。これに基づき、モータ電流値と車両減速度を用いてロック指令信号の誤り検出を行う。
【0089】
図11は、本実施形態のEPB−ECU9が実行するBH補助ロック制御処理の詳細を示したフローチャートである。
【0090】
まず、ステップ600にて、図4のステップ200と同様の判定を行ったのち、ステップ605に進んで目標モータ電流値上昇量を設定する。この設定方法は、図4のステップ205と同様である。そして、ステップ610〜625において、図4のステップ210〜225と同様の処理を行う。ただし、ステップ615では、今回の制御周期の際に検出してあった車両減速度を車両減速度前回値として記憶してからBH補助ロック制御処理を終了する。
【0091】
続いて、ステップ630に進み、電流値微分値から車両減速度変化速度基準値を算出する。この処理は、例えば図12に示す電流値微分値と車両減速度変化速度基準値との関係を示すマップを用いて行っている。電流値微分値は、モータ電流値を時間微分した値である。車両減速度変化速度基準値は、ロック指令信号が誤って送られてきた場合においてEPB2を作動させたときに発生すると想定される車両減速度の基準値である。図10に示すように、ロック指令信号が誤って送られてきた場合のモータ電流値の上昇勾配と車両減速度の上昇勾配とが同等になる。このため、モータ電流値の上昇勾配に相当する電流値微分値から車両減速度の上昇勾配に対応する車両減速度変化速度基準値を求めることができる。なお、ここでは図12に示すマップを用いて車両減速度変化速度基準値を求めるようにしたが、勿論、関数式を用いた演算など他の手法によって求めることもできる。
【0092】
この後、ステップ635に進み、現在の実際の車両減速度変化速度を演算する。具体的には、今回の制御周期の際に検出してあった車両減速度と車両減速度前回値との差を制御周期で割ることによって車両減速度変化速度を演算している。
【0093】
そして、ステップ640に進み、ステップ630で求めた車両減速度変化速度基準値に基づいて、ステップ635で求めた現在の車両減速度変化速度からロック指令信号が誤って送られてきたものであるか否かを判定する。具体的には、車両減速度変化速度基準値に対して、発生し得る車両減速度変化速度のバラツキ分の幅を想定した判定用余裕値を加減算することで大小2つの閾値(本発明の第1、第2減速度変化速度閾値に相当)を設定する。そして、実際の車両減速度変化速度が、車両減速度変化速度基準値に対して判定用余裕値を足した値未満、かつ、車両減速度変化速度基準値に対して判定用余裕値を引いた値以上の範囲に含まれていれば、ロック指令信号が誤って送られてきたと判定する。つまり、実際の車両減速度変化量がモータ電流値に基づいて設定される車両減速度変化速度基準値より想定される範囲内であれば、モータ電流値の上昇と同期して車両減速度が上昇していることを意味しており、その範囲内でなければ車両減速度が発生してもモータ電流値と同期していないことを意味する。
【0094】
したがって、ステップ640で肯定判定されれば、ロック指令信号が誤って送られてきた場合であることから、ステップ645に進んで誤動作防止制御としてロック指令信号が誤っていたときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ235の処理と同様であるが、今回の制御周期の際に検出してあった車両減速度を車両減速度前回値として記憶するようにしている。また、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理については行わない。そして、ステップ640で否定判定されれば、ステップ650に進み、図4のステップ240と同様の判定処理を行い、ステップ650で肯定判定されるとステップ655に進んでサービスブレーキ力から駐車ブレーキ力への切り替えが完了したときの処理を行う。この処理は、ほぼ図4のステップ245と同様の処理であるが、ここでも今回の制御周期の際に検出してあった車両減速度を車両減速度前回値として記憶するようにしている。また、本実施形態ではロック指令正常判定用カウンタを使用していないため、ロック指令正常判定用カウンタに関する処理については行わない。
【0095】
このように、BH補助ロック制御によってEPB2を作動させたときに発生した車両減速度の上昇がモータ電流値の上昇に同期しているか否かに基づいてロック指令信号の誤りを検出することもできる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることが可能となる。さらに、このような方法でロック指令信号の誤りを検出すれば、車両が停止しているにもかかわらず風による車両揺れや乗員の動きに伴った車両揺れによって車両に減速度が発生したと誤検出した場合とロック指令信号の誤りに基づいて車両減速度が発生した場合とを区別できるため、より正確にロック指令信号の誤りを検出できる。
【0096】
(他の実施形態)
上記実施形態では、誤動作防止制御として、ロック指令信号が誤って送られてきたときにBH補助ロック制御によるロック動作を停止するようにしたが、リリース動作を行って駐車ブレーキ力を解除するようにしても良い。
【0097】
また、上記実施形態では、駐車ブレーキ力の代わりに駐車ブレーキ力に相当する値であるモータ電流値を求め、このモータ電流値に基づいてロック指令信号の誤りを検出するようにしたが、駐車ブレーキ力そのものを求めるようにしても良い。例えば、モータ電流値から駐車ブレーキ力を演算したり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けている押圧力を荷重センサで検出するなどによって、駐車ブレーキ力そのものを求めることもできる。また、上記各実施形態では電動アクチュエータとしてモータ10を例に挙げたが、駐車ブレーキ力を発生させるための他の電動アクチュエータであっても良い。その場合でも、電動アクチュエータに流す電流値が電動アクチュエータに掛かる負荷に対応した値になることから、この電流値を駐車ブレーキ力に相当する値として用いることができる。
【0098】
上記各実施形態では、図2に示されるようにEPB2としてサービスブレーキ1とEPB2のブレーキ機構が一体化されたものを利用する場合について説明した。しかしながら、これは単なる一例を示したに過ぎず、サービスブレーキ1とEPB2とが完全に分離されたブレーキ構成であっても、本発明を適用することができる。
【0099】
また、上記各実施形態では、ディスクブレーキタイプのEPB2を例に挙げたが、他のタイプ、例えばドラムブレーキタイプのものであっても構わない。その場合、摩擦材と被摩擦材は、それぞれブレーキシューとドラムとなる。
【0100】
なお、各図中に示したステップは、各種処理を実行する手段に対応するものである。すなわち、EPB−ECU9のうち、ステップ120、125、230、430、530、640の処理を実行する部分がロック指令信号異常判定手段、ステップ235、435、535、645の処理を実行する部分が誤動作防止制御手段に相当する。
【符号の説明】
【0101】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…ESCアクチュエータ、8…ESC−ECU、9…EPB−ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…ロック・リリース表示ランプ、25…前後Gセンサ
図1
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図10
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図12