(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
試験片を載置する載置台と、前記試験片の表面に圧痕を形成するための圧子と、試験位置において前記圧子を前記試験片に押しつけることにより前記圧子に試験力を付与する負荷機構と、前記試験片の表面に形成された圧痕を観察するための対物レンズと、を備えた硬さ試験機において、
前記試験位置と前記圧子に付与される試験力との関係を記憶する記憶部と、
試験が実行される試験位置に基づいて前記記憶部に記憶された試験力を読み出し、前記負荷機構を制御することにより、読み出された試験力で前記圧子を前記試験片に押しつける制御部と、を備え、
前記試験片は位置により硬さが連続的に変化するものであり、
前記記憶部に試験位置と関係づけて記憶される試験力は、前記試験片に対して適切な大きさの圧痕を形成するための試験力であることを特徴とする硬さ試験機。
【背景技術】
【0002】
このような硬さ試験機は、試験片を載置する載置台と、試験片の表面に圧痕を形成するための圧子と、試験位置において圧子を試験片に押しつけることにより圧子に試験力を付与する負荷機構と、試験片の表面に形成された圧痕を観察するための対物レンズとを備え、試験片の表面に形成された圧痕のサイズに基づいて試験片の硬さを測定する構成となっている。
【0003】
このような硬さ試験機においては、試験力の付与後に試験片の表面に形成された圧痕のサイズが過度に小さかった場合には、圧痕のサイズの測定を正確に実行することができず、硬さ試験の精度が低下するという問題がある、一方、試験力の付与後に試験片の表面に形成された圧痕のサイズが過度に大きかった場合には、圧痕が対物レンズの視野から外れることになり、圧痕のサイズを測定することができなくなる。従って、圧痕のサイズをその測定に適した大きさとするため、試験力の値を適切に選択する必要がある。
【0004】
特許文献1には、圧子の押込深さを、試料を載置した基盤の影響が少ない深さに設定し、当該設定した深さまで圧子を押し込み、そのときの圧子に加えられている荷重と当該設定した深さとから試料の硬さを求める押込硬さ試験方法が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、JIS(日本工業規格)G0559:2208「鋼の炎焼入及び高周波焼入硬化層深さ測定方法」においては、高周波焼入れ等による焼入硬化層深さを計測する場合について規定されている。この規定に則した検査においては、焼入れを行った後の試験片を硬化面に垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とし、この被検面に対して複数の位置で硬さ試験を実行している。
【0007】
このように焼入れを実行した後の試験片においては、焼入れがなされた表面付近では試験片が硬く、また、試験片の内部になるほど試験片が柔らかくなる。このため、このような試験片に対して一定の試験力で試験片の表面側から内部に至る位置まで連続的に硬さ試験を行った場合には、試験位置が試験片の内部に移動するに従って圧痕のサイズが大きくなるという現象が生ずる。
【0008】
代表的な硬さ試験であるビッカース硬さ試験においては、正四角錐の圧子を試験片に押し込み、それにより形成された圧痕の対角線長さの平均値を測定することにより試験片の硬さを測定している。この場合に、互いに隣接する圧痕間の距離が小さくなった場合には、それらが互いに影響する。このため、圧痕の中心間隔を圧痕の対角線長さの3倍以上とすることが要求されている。従って、圧痕のサイズが過度に大きくなった場合には、上記の条件が満たされないことになり、硬さ試験をやり直す必要が生ずる。
【0009】
また、このようにサイズが異なる圧痕を、同一の倍率を有する対物レンズで測定した場合には、圧痕のサイズが小さかった場合には、圧痕のサイズの測定を正確に実行することができず硬さ試験の精度が低下し、一方、圧痕のサイズが大きかった場合には、圧痕が対物レンズの視野から外れて圧痕のサイズを測定することができなくなるという問題も生ずる。
【0010】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、試験位置に応じて試験力を適切に選択することにより、正確な硬さ試験を実行することが可能な硬さ試験機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に記載の発明は、試験片を載置する載置台と、前記試験片の表面に圧痕を形成するための圧子と、試験位置において前記圧子を前記試験片に押しつけることにより前記圧子に試験力を付与する負荷機構と、前記試験片の表面に形成された圧痕を観察するための対物レンズと、を備えた硬さ試験機において、前記試験位置と前記圧子に付与される試験力との関係を記憶する記憶部と、試験が実行される試験位置に基づいて前記記憶部に記憶された試験力を読み出し、前記負荷機構を制御することにより、読み出された試験力で前記圧子を前記試験片に押しつける制御部とを備え
、前記試験片は位置により硬さが連続的に変化するものであり、前記記憶部に試験位置と関係づけて記憶される試験力は、前記試験片に対して適切な大きさの圧痕を形成するための試験力であることを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記記憶部に記憶される前記試験位置と前記圧子に付与される試験力との関係は、オペレータにより予め入力される。
【0013】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記記憶部に記憶される前記試験位置と前記圧子に付与される試験力との関係は、前記試験位置と前記試験片の硬さとの関係を示す関係式に基づいて決定される。
【0014】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれかに記載の発明において、前記試験片は、焼入れによる硬化層深さ測定がなされる鋼である。
【0015】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の発明において、前記記憶部に記憶される前記試験位置と前記圧子に付与される試験力との関係は、前記焼入れがなされた鋼の表面からの距離と、その位置における前記鋼の硬さとの関係を示す硬さ推移曲線に基づいて決定される。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に記載の発明によれば、記憶部に記憶した試験位置と圧子に付与される試験力との関係に基づいて決定される試験力で圧子を試験片に押しつけることから、試験位置に応じた適切な試験力で硬さ試験を実行することができる。このため、圧痕の大きさを適切に維持して、硬度試験を正確に実行することが可能となる。
すなわち、位置により硬さが連続的に変化する試験片に対して、圧痕間の距離が小さくなりすぎるという問題と、圧痕のサイズが小さすぎてサイズの測定を正確に実行でになかったり圧痕のサイズが大きすぎて対物レンズの視野から外れることでサイズの測定が実行できないという問題との二つの問題を解消することができる適切な大きさの圧痕を形成するための試験力によって、硬さ試験を実行することが可能となる。
【0017】
請求項2に記載の発明によれば、オペレータが試験位置と圧子に付与されるべき適切な試験力との関係を設定することが可能となる。
【0018】
請求項3に記載の発明によれば、試験位置と試験片の硬さとの関係を示す関係式に基づいて、試験位置と圧子に付与される試験力との関係を容易かつ適切に決定することが可能となる。
【0019】
請求項4に記載の発明によれば、鋼に対する焼入れによる硬化層深さ測定を正確に実行することが可能となる。
【0020】
請求項5に記載の発明によれば、焼入れがなされた鋼の表面からの距離とその位置における鋼の硬さとの関係を示す硬さ推移曲線に基づいて、試験位置と圧子に付与される試験力との関係を容易かつ適切に決定することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、この発明に係る硬さ試験機の概要図である。また、
図2は、XYステージ12を昇降する昇降機構の概要図である。
【0023】
この硬さ試験機は、テーブル11と、このテーブル11上に配置され試験片100を載置する載置台としてのXYステージ12とを備える。XYステージ12は、試験片100をX方向(
図1における左右方向)およびY方向(
図1における紙面に垂直な方向)に移動させるためのものである。このXYステージ12には、試験片100をX方向に移動させるためのモータ13と、試験片100をY方向に移動させるためのモータ14とが付設されている。また、XYステージ12は、
図2に示す昇降機構の作用により、上下方向(Z方向)に昇降する構成となっている。すなわち、XYステージ12を支持する支持部51は、その側面にラック53が形成された昇降部材52により支持されている。この昇降部材52におけるラック53は、モータ15の駆動により回転するピニオン54と噛合している。このため、XYステージ12は、モータ15の駆動により昇降する。
【0024】
また、この硬さ試験機は、試験片100を目視により観察するための接眼レンズ16と、試験片100を撮影するためのカメラ17と、圧子21および対物レンズ23、24等を支持して回転するレボルバ20とを備える。このレボルバ20は、つまみ26を操作することにより、あるいは、後述するモータ30の駆動により、鉛直方向を向く軸を中心に回転する。また、この硬さ試験機は、入力部および表示部としても機能するタッチパネル式の液晶表示部59を備える。
【0025】
図3は、レボルバ20に支持された対物レンズ等の配置を示す説明図である。
【0026】
レボルバ20には、XYステージ12上に載置された試験片100に押し込まれる一対の圧子19、21と、5倍の対物レンズ22、10倍の対物レンズ23、40倍の対物レンズ24および100倍の対物レンズ25とが配設されている。これらの圧子19、21および対物レンズ22、23、24、25は、レボルバ20の回転中心を中心とした円上に配置されている。なお、対物レンズ22、23、24、25の倍率および配設個数はこれに限定されるものではない。
【0027】
再度、
図1を参照して、この材料試験機は、試験片100の表面の像を表示するためのCRT等の表示部55と、各種のデータを入力するための入力手段として機能するキーボード57およびマウス58と、本体56とから構成されるコンピュータ50と接続されている。
【0028】
図4は、圧子19および圧子21に対して試験力を付与するための負荷機構と、試験片100に形成された圧痕を観察するための光学系の概要図である。なお、
図4は、
図3において一点鎖線で示す位置における断面を示している。
【0029】
この硬さ試験機は、圧子19、21の先端を試験片100に対して押し込むための試験力を圧子19、21に対して付与する負荷機構と、XYステージ12上に載置された試験片100を照明するとともに圧痕を観察するための光学系とを備える。
【0030】
図4に示すように、レボルバ20は、軸筒27がベアリング29を介して回転軸28に接続されており、つまみ26を操作することにより、あるいは、後述するモータ30の駆動により、鉛直方向を向く回転軸28を中心に回転する。
図4においては、レボルバ20の回転により負荷伝達軸36を介して圧子21に試験力が与えられる場合、すなわち、圧子21が
図1に示す試験片100と対向する位置に配置されている場合を示している。圧子19に対して試験力を付与する場合には、圧子19が、
図4に示す圧子21の位置に配置される。
【0031】
負荷機構は、水平方向を向く軸31を中心に揺動可能なレバー32を備える。レバー32の一端には、中空の押圧部35が配設されている。この押圧部35は、レバー32の揺動に伴って、圧子21に連結した負荷伝達軸36の端部に付設された当接部37を押圧する構成となっている。また、レバー32の他端には、永久磁石33が付設されている。この永久磁石33の外部には、電磁コイル34が配設されている。この永久磁石33と電磁コイル34とにより、ボイスコイルモータが構成される。このボイスコイルモータは、電磁式の負荷機構となり、電磁コイル34に流れる電流を制御することにより、負荷伝達軸36の先端に配設された圧子21による試験片100への試験力を制御することが可能となる。
【0032】
なお、この実施形態においては、この時の試験力を、例えば、2kgf、1kgf、0.5kgf、0.3kgf、0.2kgf、0.1kgf、0.05kgf、0.025kgf、0.01kgfと、段階的に変化させることができる構成となっている。
【0033】
負荷伝達軸36は、上下の板バネ61を支持部材62を介してレボルバ20の軸筒27に固定したロバーバル構造により支持されており、負荷機構により与えられた試験力に応じて昇降可能となっている。負荷伝達軸36には、この負荷伝達軸36の移動量を検出する差動トランス式の変位検出器60が接続されている。この変位検出器60は、支持部材63を介してレボルバ20の軸筒27に接続され、レボルバ20の回転により負荷伝達軸36と同期して移動する。なお、この変位検出器60は、試験片100の表面の検出に使用される。すなわち、圧子21を極めて小さい力で下降させたときの移動量を常に検出し、圧子21の移動が停止したときに圧子21が試験片100の表面と当接したと判断している。
【0034】
光学系は、LED光源41と、LED光源41からの光を水平方向に導く光筒42と、試験片100を上から照明するために光筒42により導かれた光を押圧部35の中空部に導光するとともに、試験片100の表面からの反射光をカメラ17側に透過させるハーフミラー43と、ハーフミラー43を透過した試験片100の表面からの反射光を接眼レンズ16およびカメラ17に分割するハーフミラー44とを備える。対物レンズ22が
図4における負荷伝達軸36の位置、すなわち試験片100に形成された圧痕の観察位置に配置された場合には、試験片100の表面からの反射光が、押圧部35の中空部、対物レンズ22、ハーフミラー43、44を介して、接眼レンズ16およびカメラ17に入射する。これにより、接眼レンズ16により試験片100の拡大像を観察することができるとともに、カメラ17により撮影した拡大像をコンピュータ50における表示部55に表示することができる。その他の対物レンズ23、24、25が圧痕の観察位置に配置された場合も、対物レンズ22による場合と同様である。
【0035】
図5は、圧子21により試験片100に圧痕を形成する様子を模式的に示す説明図であり、
図6は、試験片100に形成された圧痕を示す平面図である。
【0036】
一対の圧子19、21のうち、圧子21は、硬さ試験としてのビッカース硬さ試験を実行するためのものであり、その先端は四角錐形状となっている。この圧子21は、
図5に示すように、
図4に示す負荷機構の作用により試験片100の表面に深さhだけ押し込まれる。そして、その試験力を解除し、
図1に示すレボルバ20を回転させて所望の倍率の対物レンズを試験片100と対向するに移動させる。対物レンズ、カメラ17を介して得られた試験片100の表面に形成された圧痕(くぼみ)の画像から、圧痕の対角線長さd[d=(dx+dy)/2]を測定する(
図6参照)。ビッカース硬さは、試験力を、底面が正方形で頂点の角度が圧子21と同じ角錐であると仮定したくぼみの表面積で割って得られる値に比例する。そして、圧痕の対角線長さd(mm:ミリメートル)から求められたくぼみの表面積と試験力から、ビッカース硬さが算出される。
【0037】
ここで、試験力をF(N:ニュートン)とした場合に、ビッカース硬さHVは、下記の式(1)で表される。
【0038】
HV = 0.1891(F/d
2 ) ・・・・・(1)
なお、一対の圧子19、21のうち、他方の圧子19としては、例えば、ヌープ硬さ試験に使用される菱形のピラミッド型の圧子が使用される。
【0039】
図7は、この発明に係る硬さ試験機の主要な制御系を示すブロック図である。
【0040】
この硬さ試験機は、装置全体を制御する制御部80を備える。この制御部80は、上述したカメラ17、液晶表示部59、LED光源41、変位検出器60、電磁コイル34、コンピュータ50、レボルバ20を回転させるためのモータ30およびXYステージ12をX、Y、Z方向に移動させるためのモータ13、14、15と接続されている。さらに、この制御部80は、後述するように、試験位置と圧子21に付与される試験力との関係を記憶する記憶部81と接続されている。なお、この制御部80を、硬さ試験機の装置本体内に配設する代わりに、この制御部80をコンピュータ50における本体56内に配設してもよい。
【0041】
次に、以上のような構成を有する硬さ試験機を使用して、硬さ試験を行う場合の動作について説明する。以下の実施形態においては、歯車の一部を構成する鋼製の試験片100に対して、焼入れによる硬化層深さ測定を実行する場合の硬さ試験の動作について説明する。
【0042】
図8は、歯車の一部を構成する鋼製の試験片100に対して焼入れによる硬化層深さ測定を実行するために圧痕が形成された状態を示す概要図である。また、
図9は、
図8の部分拡大図である。なお、これらの図に記載された正方形は、試験片100に形成された圧痕を示している。
【0043】
焼入れによる硬化層深さ測定を実行する場合においては、焼入れがなされた試験片100を、その表面(硬化面)Sに垂直に切断し、切断面を研磨仕上げして被検面とする。そして、
図9に示す距離D(例えば、1.5mm)の範囲内において、表面に垂直な一対の直線上に形成された圧痕に基づいて順次硬さを測定し、それらの硬さから硬さ推移曲線を作成する。ここで、9に示す各圧痕の表面Sからの距離の差異(L4−L3、L3−L2、L2−L1)は、0.1mm以下となっている。
【0044】
このように焼入れがなされた試験片100においては、焼入れがなされた表面S付近では試験片が硬く、また、試験片100の内部になるほど試験片100が柔らかくなる。このため、このような試験片100に対して一定の試験力で試験片100の表面S側から内部に至る位置まで連続的に硬さ試験を行った場合には、試験位置が試験片の内部に移動するに従って圧痕のサイズが大きくなるという現象が生ずる。このような現象が発生した場合には、上述したように、圧痕の中心間隔を圧痕の対角線長さの3倍以上とすることができず、また、圧痕が対物レンズの視野から外れてしまうという問題が生ずる。
【0045】
このため、この発明に係る硬さ試験機においては、試験位置と圧子21に付与される試験力との関係を記憶部81に予め記憶しておき、制御部80が、試験片100に対して試験が実行される試験位置に基づいて、記憶部81に記憶された試験力を読み出し、負荷機構を制御することにより、読み出された試験力で圧子21を試験片100に押しつける構成を採用している。
【0046】
ここで、第1の実施形態においては、記憶部81に記憶される試験位置と圧子21に付与される試験力との関係は、オペレータにより予め入力される。すなわち、オペレータが硬さ試験を開始するに先立ち、試験位置に対して表面Sからの距離毎に、その位置における試験力を入力する。この場合においては、表面S付近の試験位置においては、大きな試験力が入力され、表面Sから離隔するほど小さな試験力が入力される。この入力は、例えば、コンピュータ50におけるキーボード57およびマウス58を使用して実行される。これにより、記憶部81に、試験位置と圧子21に付与される試験力との関係が記憶されることになる。
【0047】
硬さ試験を実行するときには、制御部80がモータ13、14の回転を制御してXYステージ12をX−Y方向に移動させ、試験片100における試験位置と圧子21とが対向する位置に試験片100を移動させる。そして、制御部80がそのときの試験位置に基づいて、記憶部81に記憶された試験力を読み出す。しかる後、制御部80が負荷機構を制御することにより、読み出された試験力で圧子21を試験片100に押しつける。これにより、試験片100に対して適切な大きさの圧痕を形成することが可能となる。
【0048】
一方、第2の実施形態においては、記憶部81に記憶される試験位置と圧子21に付与される試験力との関係は、試験片100の表面Sからの距離と、その位置における試験片100の硬さとの関係を示す関係式である硬さ推移曲線に基づいて決定される。すなわち、同様の構成を有する複数の試験片100に対して連続して硬さ試験を実行するときには、予め求められた硬さ推移曲線に基づいて、試験片100の表面Sからの距離と、その位置における試験片100の硬さとの関係を求めることが可能となる。
【0049】
図10は、硬さ推移曲線を示すグラフである。
【0050】
この図において、縦軸はビッカース硬さHVを示し、横軸は試験片100における表面(硬化面)Sからの距離(mm)を示している。この硬さ推移曲線は、
図10において黒四角で示す測定点に基づき、例えば、1から10次の回帰曲線を選択して最小二乗近似により作成される。この硬さ推移曲線は、予め実験的に測定および作成され、記憶部81に記憶されている。
【0051】
この第2の実施形態において硬さ試験を実行する場合には、制御部80がモータ13、14の回転を制御してXYステージ12をX−Y方向に移動させ、試験片100における試験位置と圧子21とが対向する位置に試験片100を移動させる。そして、制御部80がそのときの試験位置に基づいて、記憶部81に記憶した硬さ推移曲線から、その位置における想定硬さを求める。さらに、上述した式(1)に、そのときの想定硬さと、この硬さ試験機において選択可能な試験力(2kgf、1kgf、0.5kgf、0.3kgf、0.2kgf、0.1kgf、0.05kgf、0.025kgf、0.01kgf)とを入力し、そのときの対角線長さdを求める。そして、求められた対角線長さdのうち、そのときに使用する対物レンズの視野の中に入る最大の対角線長さdに対応する試験力を選択する。しかる後、このようにして求められた試験力により硬さ試験を実行する。
【0052】
この第2の実施形態によれば、焼入れがなされた試験片100の表面からの距離とその位置における試験片100の硬さとの関係を示す硬さ推移曲線に基づいて試験力を決定することから、試験力の設定を容易かつ正確に実行することが可能となる。
【0053】
なお、上述した実施形態においては、試験片100として焼入れによる硬化層深さ測定がなされる鋼を使用し、試験片100の表面からの距離とその位置における試験片100の硬さとの関係に基づいて試験力を決定している。しかしながら、この発明は、このような態様に限定されるものではない。例えば、互いに異なる金属を溶接により接合した試験片に対して連続して硬さ試験を行う場合には、金属毎に硬さが異なり、また、特に溶接部分は金属部分より硬さが小さくなる。このような場合においても、この発明を適用することにより、圧痕の大きさを適切に維持して、硬度試験を正確に実行することが可能となる。