(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の補修、建築物の目地部分等のシーリングには、様々なパテが使用されており、例えば自動車等の車両の外板等の損傷箇所を補修するに際しては、損傷箇所の古い塗膜を剥離した後、パテの塗り付け、乾燥を行ない、その後、研磨して面出しし、面出ししたパテの上を塗装することが行われている。
車両の補修に用いられるパテとしては、硬化性、乾燥性、研磨性、密着性等の面で、不飽和ポリエステル樹脂が広く利用されている。しかしながら、かかるパテは、ラジカル硬化性であるので、硬化時に硬化収縮が発生し、基材のソリ、パテ跡、パテ接合部の凹み、パテ接着不良等の寸法精度の問題が発生しやすいという欠点がある。
【0003】
これらの欠点を改善するために、特許文献1に記載のパテ用樹脂材料では、不飽和ポリエステル樹脂の低収縮剤としてポリスチレン系低収縮剤が配合されている。
しかしながら、ポリスチレンやその他の熱可塑性樹脂系の低収縮剤は、何れも熱可塑性樹脂の熱膨張により不飽和ポリエステル樹脂の硬化収縮を相殺しようという考え方に基づいて配合されているので、加熱成形以外の成形法には殆ど有効でないのが現状である。また、上記方法においても、多少の基材のソリ等は改善されるが、パテを厚く塗った場合や、硬化を促進させるために赤外線ヒーター等を用いて高温での硬化を行なった場合には、ソリの発生が生じてしまうといった問題があり、その解決が必要とされている。
さらに、比較的高い極性を持ち密着性のある不飽和ポリエステル樹脂に、極性の低いポリスチレン等の熱可塑性樹脂を配合すると、基材への密着性が弱くなり剥離等が生じやすくなる。したがって、寸法精度と密着性を同時に満たすような解決法が必要とされている。
【0004】
また、上述のとおり、自動車等の車両の外板などの損傷箇所を補修する際には、損傷箇所にパテを塗り付け、これを乾燥させた後、グラインダー等を用いて研磨する必要があるので、研磨で発生した微細な粉が作業空間中に粉舞したり、砥石を目詰まりさせたりして作業性を低下させてしまうといった問題があり、その解決が必要とされている。
すなわち、従来、適度な硬度を有するとともに、寸法精度性、密着性および研磨性の点で満足できるパテ用樹脂組成物およびこれを硬化して得られるパテは得られていなかった。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明のパテ用樹脂組成物は、下記の(A)成分、(B)成分、(C)成分、および(D)成分を含有する。以下、各成分について説明する。
【0013】
〔(A)成分〕
本発明における(A)成分は、不飽和ポリエステル樹脂であり、低反応性の不飽和ポリエステル樹脂から高反応性の不飽和ポリエステル樹脂まで包含される。不飽和ポリエステル樹脂は、通常、多塩基酸又はその無水物と多価アルコール類とを用いて製造され、例えば、α, β−不飽和二塩基酸又はその無水物、および飽和二塩基酸又はその無水物3混合物と、多価アルコール類との縮合反応により製造することができる。
【0014】
α, β−不飽和二塩基酸又はその無水物としては、例えば、マレイン酸、フマル酸、メサコン酸、テトラコン酸、イタコン酸もしくはこれらの無水物、又はこれらのアルキルエステル類等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の組合せで用いられる。
飽和二塩基酸又はその無水物としては、例えば、無水フタル酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラヒドロフタル酸、ハロゲン化無水フタル酸、ヘット酸、アジピン酸、コハク酸、セバシン酸、又はこれらのアルキルエステル類等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の組合せで用いられる。
多価アルコール類としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール等のジオール類、水素化ビスフェノール、ビスフェノールAにプロピレンオキシド等を付加したグリコール類の他、例えばトリメチロールプロパン等のトリオール類等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の組合せで用いられる。
【0015】
本発明における不飽和ポリエステル樹脂には、多塩基酸又はその無水物と多価アルコール類とから得られる不飽和ポリエステル樹脂に加えて、この不飽和ポリエステル樹脂をグリシジルメタクリレート、ビスフェノールA型エポキシ等のエポキシ化合物、トルエンジイソシアネート、イソプロペニル−ジメチル−ベンジルイソシアネート等のイソシアネート化合物等で変性したものが包含される。
【0016】
〔(B)成分〕
本発明における(B) 成分は、エチレン性不飽和単量体であり、(A)成分の不飽和ポリエステル樹脂と共重合することができる。(B) 成分としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ビニルトルエン等のアルケニル芳香族単量体、アクリル酸又はメタクリル酸のアルキルエステル、酢酸ビニル等を例示できるが、これらの中でも特にスチレンが好ましい。
【0017】
(A)成分の不飽和ポリエステル樹脂と、(B) 成分のエチレン性不飽和単量体との配合割合は、(A)不飽和ポリエステル樹脂と(B)エチレン性不飽和単量体との配合量の合計100質量部のうち、(A)不飽和ポリエステル樹脂の配合量が20〜80質量部であり、好ましくは30〜70質量部である。また、(B)エチレン性不飽和単量体の配合量が80〜20質量部であり、好ましくは70〜30質量部である。
(A)成分が80質量部を超えるか又は(B)成分が20質量部未満の場合、硬化に必要な(B)成分が不足し、硬化不良が生じるといった問題が生じる傾向がある。また、(A)成分が20質量部未満か又は(B)成分が80質量部を超える場合、パテ用樹脂組成物を硬化して得られるパテの硬度が低下する傾向がある。
【0018】
〔(C)成分〕
本発明における(C) 成分は、低収縮剤であって、酢酸ビニルを含む単量体に基づく重合体であるAセグメントと、スチレンに基づく重合体であるBセグメントとからなるA−B型ブロック共重合体である。
【0019】
酢酸ビニルを含む単量体に基づく重合体としては、例えば、酢酸ビニルのみに基づく酢酸ビニル単独重合体、および酢酸ビニルとフマル酸ジエステルとからなる単量体混合物に基づく共重合体が挙げられる。
フマル酸ジエステルとしては、例えば、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジイソプロピル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジシクロヘキシル、フマル酸ジ(2−エチルヘキシル)等が挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の組合せで用いられる。
酢酸ビニルとフマル酸ジエステルとの単量体混合物におけるフマル酸ジエステルの割合は、好ましくは20質量%以下(但し、0質量%よりも大きい)である。20質量%を越える場合には、A−B型ブロック共重合体と不飽和ポリエステル樹脂との相溶性が不良となる傾向がある上、A−B型ブロック共重合体を配合して得られるパテ用樹脂組成物から成形される成形物の寸法精度が不十分となる傾向がある。
【0020】
スチレンに基づく重合体は、スチレンのみに基づくスチレン単独重合体である。
【0021】
これらAセグメントとBセグメントからなる特定のA−B型ブロック共重合体において、Aセグメントの割合は30〜50質量%であり、好ましくは40〜50質量%である。そして、Bセグメントの割合は70〜50質量%であり、好ましくは60〜50質量%である。Aセグメントの割合が30質量%未満又はBセグメントの割合が70質量%を超える場合には、十分な低収縮効果が得られない傾向がある。また、Aセグメントの割合が50質量%を超えるか又はBセグメントの割合が50質量%未満の場合には、A−B型ブロック共重合体を配合して得られるパテ用樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎ、作業性が著しく悪化する傾向がある上、成形物の硬度が低くなり、クラックや剥離などが生じやすくなる傾向がある。
なお、A−B型ブロック共重合体中のAセグメントとBセグメントの割合は、例えば核磁気共鳴分光分析により求めることができる。具体的には、Aセグメントを構成する酢酸ビニルを含む単量体の指標となるシグナルの面積(積分値)と、Bセグメントを構成するスチレンの指標となるシグナルの面積(積分値)との比率を質量比に換算することによって求めることができる。
【0022】
A−B型ブロック共重合体の数平均分子量は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィーで測定され、スチレン換算の数平均分子量で10,000〜100,000であり、好ましくは30,000〜60,000である。10,000未満の場合には、A−B型ブロック共重合体を配合して得られるパテ用樹脂組成物から成形される成形物の寸法精度が不十分になることがあり、100,000を越える場合には、A−B型ブロック共重合体を配合して得られるパテ用樹脂組成物の粘度が高く、作業性が悪くなる傾向がある。
【0023】
本発明におけるA−B型ブロック共重合体は、前記A又はBセグメントを構成する単量体もしくは単量体混合物を、例えばポリメリックペルオキシド(特開昭53−149918号公報記載)を用い、公知の製造プロセス(特公昭60−3327号公報記載)で塊状重合法、懸濁重合法又は乳化重合法等の任意の重合法によって製造することができ、具体的には、A又はBセグメントのいずれか一方の重合反応を行うための第一段重合反応を経た後に、残りのセグメントの重合反応を行うための第二段重合反応を行う。
ポリメリックペルオキシドを、A−B型ブロック共重合体を合成するための重合開始剤として使用する際の使用量は、前記A又はBセグメントを構成する単量体もしくは単量体混合物100質量部に対して0.1〜10重量部であることが好ましい。
また、重合時の重合温度は、第一段重合反応については40〜80℃、第二段重合反応については60〜100℃が好ましく、且つ第一段重合反応における重合温度は第二段重合反応における重合温度より低いことが好ましい。さらに、Aセグメント又はBセグメントを構成する単量体混合物の仕込み方法には一括仕込み、分割仕込み又は連続仕込み等があり、単量体の組み合わせにより適宜選択されることが好ましい。そして、重合時間は使用する単量体の種類やその使用量によって異なるが、第一段重合反応および第二段重合反応いずれも1〜10時間の範囲であることが好ましい。
【0024】
なお、A−B型ブロック共重合体の製造時に各単量体の単独重合体又は単量体混合物による任意共重合体が副生することがあるが、本発明において低収縮剤として使用する際には、A−B型ブロック共重合体を精製しても良いし、あるいは精製せずに反応生成物をそのまま用いても良い。
また、本発明のパテ用樹脂組成物の調製において、低収縮剤であるA−B型ブロック共重合体は固形分のまま用いても良いし、(A)成分である不飽和ポリエステル樹脂の濃度調整用の溶剤(スチレン等)又は(B)成分であるエチレン性不飽和単量体に予め溶解させて用いても良い。
【0025】
〔(D)成分〕
本発明における(D) 成分は、充填剤であり、特に代表的なもののみを例示すれば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、マイカ、タルク、カオリン、クレー、セライト、アスベスト、バーライト、バライタ、シリカ、ケイ砂、ドロマイト、石灰石、セッコウ、アルミニウム微粉、中空バルーン、アルミナ、ガラス粉、水酸化アルミニウム、寒水石、酸化ジルコニウム、三酸化アンチモン、酸化チタン、二酸化モリブデン等が挙げられる。これらの充填材は、作業性や得られる成形物の強度、外観、経済性などを考慮して選ばれるが、通常、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、シリカ、タルク等が用いられる。なお、充填剤として、表面処理されたものを用いても良い。
【0026】
〔パテ用樹脂組成物〕
本発明のパテ用樹脂組成物は、(A)不飽和ポリエステル樹脂と(B)エチレン性不飽和単量体との配合量の合計100質量部に対して、(C)低収縮剤の配合量が3〜15質量部であり、好ましくは7〜12質量部である。(C)低収縮剤の配合量が3質量部未満の場合には、A−B型ブロック共重合体を配合して得られるパテ用樹脂組成物から成形される成形物の寸法精度が不十分となる傾向があり、15質量部を越える場合には、パテ用樹脂組成物の粘度が高くなり過ぎ、作業性が著しく悪くなる傾向がある。
【0027】
また、(D)充填剤の配合量は、(A)不飽和ポリエステル樹脂と(B) エチレン性不飽和単量体との配合量の合計量100質量部に対して、50〜250質量部である。
【0028】
本発明のパテ用樹脂組成物には、希釈剤として溶剤が配合されることもある。特に代表的なもののみを例示すれば、トルエン、キシレン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸ブチル、アセトン、メチルエチルケトン等が挙げられる。
【0029】
また、本発明のパテ用樹脂組成物には、硬化速度を調整するための硬化促進剤、重合禁止剤、着色剤等が配合されても良い。
【0030】
硬化促進剤としては、例えば、ナフテン酸コバルト、オクチル酸コバルト、オクチル酸亜鉛、オクチル酸バナジウム、ナフテン酸銅、ナフテン酸バリウム等金属石鹸類、バナジウムアセチルアセテート、コバルトアセチルアセテート、鉄アセチルアセトネート等の金属キレート類、アニリン、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン、p−トルイジン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2- ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2- ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニリモルホリン、ピペリジン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン、N,N−置換−p−トルイジン、4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒド等のアミン類が挙げられる。
【0031】
硬化促進剤の配合量は、(A) 不飽和ポリエステル樹脂と(B)エチレン性不飽和単量体との配合量の合計量100質量部に対して、0.1〜5質量部であることが好ましい。なお、硬化促進剤は、1種又は2種以上の組合せで用いることができ、さらに、予めパテ用樹脂組成物に配合しておいても良いし、使用時に配合しても良い。
【0032】
重合禁止剤としては、例えば、トリハイドロベンゼン、トルハイドロキノン、1,4−ナフトキノン、パラベンゾキノン、ハイドロキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、p−tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール等を挙げることができる。重合禁止剤の配合量は、(A) 不飽和ポリエステル樹脂と(B)エチレン性不飽和単量体との配合量の合計量100質量部に対して、0.001〜0.1質量部であることが好ましい。
【0033】
着色剤としては、特に代表的なもののみを例示すれば、チタンホワイト、カーボンブラック等の無機顔料類、フタロシアニンブルー、キナクリドンレッド等の有機顔料類が挙げられ、色相に応じて、種々の着色剤を用いることができる。
【0034】
本発明のパテ用樹脂組成物には、その他各種添加剤が配合されても良い。例えば、減粘剤等の粘度調節剤、脱泡剤、シランカップリング剤、パラフィン等の空気遮断剤、紫外線吸収剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、補強材等が配合されても良い。
【0035】
〔パテ用樹脂組成物を硬化して得られるパテ〕
本発明のパテ用樹脂組成物は硬化させることにより本発明のパテが得られる。本発明のパテ用樹脂組成物を用いて各種用途でパテとして使用するには、(A) 不飽和ポリエステル樹脂の不飽和部分と(B)エチレン性不飽和単量体との反応を開始させるために、通常、硬化剤がパテ用樹脂組成物に配合される。硬化剤としては、熱によりラジカルを発生する熱硬化剤、活性エネルギー線によりラジカルを発生する紫外線硬化剤や電子線硬化剤等が挙げられる。
【0036】
熱硬化剤としては、有機過酸化物が挙げられ、例えば、ケトンペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ペルオキシエステル、ペルオキシケタール等の公知のものが使用される。
紫外線硬化剤としては、例えば、アシルホスフィンオキシド系、ベンゾインエーテル系、ベンゾフェノン系、アセトフェノン系、チオキサントン系化合物等の公知のものが使用される。
電子線硬化剤としては、例えば、ハロゲン化アルキルベンゼン、ジサルファイド系化合物等の公知のものが使用される。
上記硬化剤は、成形条件に応じて適宜選択される。
硬化剤の添加量は、パテ用樹脂組成物100質量部に対して、好ましくは0.1〜6質量部である。なお、硬化剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用しても良い。
また、硬化剤は、硬化しない条件であれば予めパテ用樹脂組成物に配合しておいても良いが、通常は使用時に配合され、特に熱硬化剤などは使用時に配合するのが好ましい。
【0037】
本発明のパテは、上記(A)〜(D)の各成分を少なくとも含有し、ペースト状に練合した本発明のパテ用樹脂組成物に上記の硬化剤を配合し、任意の方法で硬化させた硬化成形物である。本発明のパテ用樹脂組成物に硬化剤を配合し、これを硬化してパテを得る際には、作業時間(例えば乾燥時間)や、対象となる基材の厚さ等に応じて、加熱手段で硬化させるか、自然乾燥によって硬化させるか等の乾燥方法を適宜選択することができ、パテ付けを行なった後にも、任意に乾燥時間や、硬化状態を調整することができる。
例えば、外気温が低い場合には、強制乾燥(加熱乾燥)による乾燥方法を使用し、外気温が高い場合には、自然乾燥による乾燥方法を使用することができる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下に記載の「部」は質量部を表わし、「%」は質量基準を表わす。
【0039】
〔A−B型ブロック共重合体(低収縮剤)の製造〕
(製造例1)
温度計、撹拌機およびコンデンサーを備えたガラス製反応器に水300部、1.0%ポリビニルアルコール水溶液15部および10%第三リン酸カルシウム水溶液15部を仕込んだ。次に、下記式(1)で示されるポリメリックペルオキシド(以下、P・POと表記する)0.51部を前記水溶液中に室温下1時間分散させた後、酢酸ビニル(以下、VAcと表記する)30部を仕込み、反応器内を窒素で置換しながら、撹拌下60℃で3時間重合(第一段重合反応)させた。その後、室温まで冷却し、反応器にスチレン(以下、Stと表記する)70部を加え、室温下1時間含浸操作を行なった後、撹拌下80℃で7時間、続いて90℃で30分間重合(第二段重合反応)を行った。
室温まで冷却した後、得られた重合体を5%塩酸100部、続いて水で洗浄し濾別し、真空乾燥して、白色パール状(固形)のA−B型ブロック共重合体94部を得た。こうして得られた重合体の一部をソックスレー抽出器により、初めシクロヘキサンを溶出液として24時間、次にメタノールを溶出液として24時間抽出した。また、抽出残分の核磁気共鳴分光分析を行ない、A−B型ブロック共重合体中のAセグメントとBセグメントの割合(表1中、A/Bと表記する)を求めたところ、30/70であった。さらに、抽出残分の数平均分子量をゲルパーミュエーションクロマトグラフィーにより測定したところ、ポリスチレン換算で42,000であった。
【0040】
【化1】
【0041】
(製造例2〜7および比較製造例1、2)
表1に記載の組成にて、製造例2〜7および比較製造例1、2によるA−B型ブロック共重合体を製造した。得られた各A−B型ブロック共重合体の収量、AセグメントとBセグメントの割合、数平均分子量を、製造例1と併せて、表1に示す。
なお、表1中、DIPFはフマル酸ジイソプロピル、DMFはフタル酸ジメチルである。また、製造例3〜7においては、Aセグメントを構成する各単量体の混合物を第一段重合反応にて重合させた。さらに、製造例4ではP・POの仕込量を0.20部、製造例6ではP・POの仕込量を1.05部とした。
【0042】
【表1】
【0043】
〔パテ用樹脂組成物およびパテの調製〕
(実施例1−1)
(A)不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル(株)製、サンドーマ(登録商標)CN−703、固形分:約65%)を、固形分が50%となるように(B)エチレン性不飽和単量体であるスチレンで調整したものを100部、
(C)製造例1で得られたA−B型ブロック共重合体(低収縮剤)を9部、
(D) 充填剤としてのタルク(タルクSW:日本タルク(株)製、粒子径:平均12μm)を150部、
コバルト系促進剤(促進剤RP−136、DIC(株)製)を2部、
アミン系促進剤(試薬:ジメチルアニリン)を0.5部加え、高速ディソルバーで15分攪拌してパテ用樹脂組成物を得た。
得られたパテ用樹脂組成物100部に、0.75部の硬化剤:クメンハイドロパーオキサイド(日油(株)製:パークミルH−80)と、0.75部の硬化剤:ジアシルパーオキサイド(日油(株)製:ナイパーBW)とを加え、十分撹拌して、硬化剤を含有するパテ用樹脂組成物を得た。
【0044】
上記の硬化剤を含有するパテ用樹脂組成物を、防錆鋼板((株)エンジニアリングテストサービス製:シルバージンク)(サイズ:70mm×150mm×0.8mm)に、2mm厚でパテ付けし、25℃の条件にて、24時間放置して硬化させてパテを得た。
得られたパテの試験片を用いて、以下の評価試験を行った。それらの結果を表2にまとめた。
【0045】
(パテの低収縮性の評価)
上記方法で得られた試験片のソリ高さを数値化した。ソリ高さとは、水平板上に上記試験片のパテを上側にして置き、試験片長辺側の片方を水平板に押さえた時の水平板と試験片の片方の高さである。
【0046】
(パテの密着性の評価)
上記方法で得られた試験片を用いて、25℃の条件にて24時間放置した後(1日後)、180度の折り曲げ試験を行った。また、120℃の乾燥機にて5時間放置した後(120℃×5h)、冷却を経て、180度の折り曲げ試験を行った。下記の判定基準にて評価を行なった。
○:凝集破壊、×:界面剥離
【0047】
(パテの研磨性の評価)
上記方法で得られた試験片を#240ペーパーで研磨し、目詰まりの有無を調べて、下記の判定基準にて評価を行なった。
○:目詰まりのないもの、△:目詰まりやや有りのもの、×:目詰まり有りのもの
【0048】
(パテの硬度の評価)
上記方法で得られた試験片のバーコル硬度を、BARBER COLMAN社のバーコル硬度計(製品名:GYZJ935)で測定した。パテとしては60以上の硬度を必要とし、59以下の硬度では硬化不良で、クラック、剥離などの不具合が生じるおそれがあるので、下記の判定基準にて評価を行なった。
○:60以上、×:59以下
【0049】
(実施例1−2、2−1〜2−13、比較例1〜10)
実施例1−2、2−1〜2−13および比較例1〜10では、それぞれ低収縮剤の種類、低収縮剤の配合量、不飽和ポリエステル樹脂の配合量とエチレン性不飽和単量体の配合量との比、充填剤の種類(タルクMS:日本タルク(株)製、粒子径:平均14μm)、充填剤の配合量を表2に示される配合に変更した以外は、実施例1−1に準じてパテ用樹脂組成物およびパテを得た。
得られたパテの試験片について、実施例1−1に準じて評価試験を行い、評価結果を表2にまとめた。
【0050】
なお、表2中、不飽和ポリエステル樹脂をUP樹脂と表記する。
また、比較例7〜10で用いられた比較用低収縮剤は、下記の商品又は方法で製造されたものである。
【0051】
PSt:PSジャパン(株)製のPSt(ポリスチレンHF77)を比較用低収縮剤PStとした。
PVAc:酢酸ビニル240部をメタノール60部に溶解し、反応容器を窒素置換して60℃に昇温し、開始剤としてAIBN 0.045部を添加し、3時間重合を行った。その後、重合を停止し、ヘキサン中に沈澱させて得られた重合体を真空乾燥することにより、収量79gの重合体を得た。得られた重合体を比較用低収縮剤PVAcとした。
PVAc/PSt:上記した比較用低収縮剤のPVAcとPStを等量で混合したものを比較用低収縮剤PVAc/PStとした。
PVAc−r−PSt:反応容器に水300部、1.0%ポリビニルアルコール水溶液15部および10%第三リン酸カルシウム水溶液15部を仕込んだ。次に、パーロイルL(日油(株)製)0.50部、酢酸ビニル50部、スチレン50部を加え、撹拌下80℃で7時間、続いて90℃で30分間重合を行った。室温まで冷却した後、得られた重合体を5%塩酸100部、続いて水で洗浄し濾別し、真空乾燥することにより、収量94部の重合体を得た。得られた重合体を比較用低収縮剤PVAc−r−PStとした。
【0052】
(実施例2−14)
(A) 不飽和ポリエステル樹脂(ディーエイチ・マテリアル(株)製、サンドーマ(登録商標)CN−203、固形分:約65%)を、固形分が50%となるように(B)エチレン性不飽和単量体であるスチレンで調整したものを100部、
(C)製造例5で得られたA−B型ブロック共重合体(低収縮剤)を9部、
(D) 充填剤としてのタルク(タルクSW:日本タルク(株)製、粒子径:平均12μm)を150部、
コバルト系促進剤(促進剤RP−136、DIC(株)製)を3部加え、高速ディソルバーで15分攪拌してパテ用樹脂組成物を得た。
得られたパテ用樹脂組成物100部に、1.5部の硬化剤:クメンハイドロパーオキサイド(日油(株)製:パークミルH−80)を加え、十分撹拌して、硬化剤を含有するパテ用樹脂組成物を得た。
上記の硬化剤を含有するパテ用樹脂組成物を用いて、実施例1−1に準じてパテを得た。得られたパテの試験片について、実施例1−1に準じて評価試験を行い、評価結果を表2にまとめた。
【0053】
(比較例11)
比較例11では、低収縮剤を配合しなかったこと以外は、実施例2−14に準じてパテ用樹脂組成物およびパテを得た。
得られたパテの試験片について、実施例1−1に準じて評価試験を行い、評価結果を表2にまとめた。
【0054】
【表2】
【0055】
以上の実施例および比較例の評価結果から、本発明のパテ用樹脂組成物では、低収縮剤として特定のセグメントを持ったA−B型ブロック共重合体を用いることで、これを硬化させて得られるパテの寸法精度、密着性、研磨性が大きく改善されることがわかる。