(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操舵機構にモータの動力を付与することにより運転者のステアリング操作を補助する電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という。)が知られている。たとえば特許文献1のEPSでは、操舵機構としてラックアンドピニオン機構が採用されている。当該機構は、ステアリングの操作に伴うピニオンの回転を当該ピニオンに噛み合うラック軸の直線運動に変換することにより車輪の向きを変える。当該ラック軸には、モータの回転運動を当該ラック軸の直線運動に変換するボールねじ機構が設けられている。すなわち、モータの回転力の利用を通じてラック軸の動作が補助されることによりステアリング操作が補助される。
【0003】
詳述すると、
図6に示すように、EPS100は、モータ101の回転力を円筒状の駆動プーリ102、タイミングベルト103、円筒状の従動プーリ104およびボールねじ機構105を介してラック軸106に伝達する。ラック軸106の両端は、それぞれ図示しないボールジョイントを介して車輪に連結される。
【0004】
ボールねじ機構105は、ラック軸106の一部に形成されたボールねじ部105aおよびボールねじ部105aに多数のボールを介して螺合されたボールナット107を備えてなる。ボールナット107の第1の端部の外周面には鍔部107aが、同じく第2の端部の外周面には雄ねじ107bがそれぞれ設けられている。雄ねじ107bにはロックナット108が締め付けられている。
【0005】
ボールナット107の外周面における鍔部107aとロックナット108との間の部分には、従動プーリ104および玉軸受109がそれぞれ嵌められている。従動プーリ104は鍔部107a側に、玉軸受109はロックナット108側に設けられている。従動プーリ104および玉軸受109(正確には、その内輪)は、ボールナット107の軸線方向において互いに面接触した状態に保持されている。
【0006】
従動プーリ104の玉軸受109と反対側の端部の内周面には、環状の段差部104aが設けられている。段差部104aは、従動プーリ104の外径を維持しつつ従動プーリ104の玉軸受109と反対側の端部の内径が拡大されることにより形成されている。ボールナット107の軸線方向において、段差部104aには鍔部107aが当接している。
【0007】
従動プーリ104および玉軸受109(内輪)は、それぞれボールナット107の鍔部107aと、雄ねじ107bに締め付けられたロックナット108とによって挟み込まれている。このため、従動プーリ104および玉軸受109のボールナット107に対する軸方向への移動がそれぞれ規制される。また、従動プーリ104および玉軸受109は、それぞれボールナット107に固定された状態となる。したがって、ボールナット107は従動プーリ104と一体回転する。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明をいわゆるラックパラレルタイプの電動パワーステアリング装置に具体化した一実施の形態を
図1および
図2に基づいて説明する。ラックパラレルタイプとは、操舵補助用のモータの軸線がラック軸に対して平行をなすタイプをいう。
【0021】
図1に示すように、電動パワーステアリング装置10は、図示しない車体に固定されるハウジング11を有している。ハウジング11の筒状の本体12は、車体の左右方向へ延びている。本体12にはラック軸13が挿通されている。ラック軸13の両端にはそれぞれ図示しないボールジョイントを介して図示しない車輪が連結される。ラック軸13が自身の軸方向へ移動することによって車輪の向きが変えられる。
【0022】
<第1の収容部>
本体12の右端寄りの部位には第1の収容部14が設けられている。第1の収容部14は、本体12の軸線方向(
図1中の左右方向)に対して斜めに交わる方向へ延びている。第1の収容部14には、ピニオンシャフト15が挿入された状態で回転可能に支持されている。ピニオンシャフト15の内端部に設けられるピニオン歯は、ラック軸13の右端寄りの一定範囲に形成されるラック歯に噛み合う。また、ピニオンシャフト15のピニオン歯と反対側の外端部は、図示しない複数のシャフトを介してステアリングホイールに連結される。したがって、ステアリング操作に伴いラック軸13は自身の軸線方向に沿って直線運動を行う。ステアリング操作を通じてピニオンシャフト15に作用するトルクは、第1の収容部14に設けられたトルクセンサ16により検出される。
【0023】
<第2の収容部>
本体12の左端寄りの部位には、第2の収容部17が設けられている。第2の収容部17は、本体12よりも大径の円筒部分の下部が下方へ延びてなる。第2の収容部17の下部右側壁には、モータ18がボルト19により固定されている。モータ18の出力軸18aは、ラック軸13の軸線に沿って延び、かつ第2の収容部17の側壁を貫通して内部に挿入されている。第2の収容部17の内部には、動力変換機構20が設けられている。動力変換機構20にはモータ18の出力軸18aが連結されている。動力変換機構20は、モータ18の回転運動をラック軸13の直線運動に変換する。すなわち、モータ18の回転力の利用を通じてラック軸13の動作が補助されることにより、ステアリング操作が補助される。モータ18は、図示しない制御装置によりトルクセンサ16の検出結果などに応じて制御される。
【0024】
ここで、第2の収容部17の構成について詳述する。
図2に示すように、第2の収容部17は、円筒状の支持部21、および段付き円筒状の蓋部材22を有している。支持部21は、本体12の左端に一体形成されている。支持部21の下部は下方へ延設されていて、当該延設された部分の右側壁には孔21aが形成されている。孔21aには、その右方からモータ18の出力軸18aが挿入されている。支持部21の左開口部は、蓋部材22により塞がれている。すなわち、支持部21の開口周縁部は、蓋部材22の大径部に挿入されている。この状態で、蓋部材22は図示しないボルトにより支持部21に固定される。これら支持部21と蓋部材22との間に形成される空間に動力変換機構20が設けられている。
【0025】
<動力変換機構>
図2に示すように、動力変換機構20は、ベルト伝動機構30およびボールねじ機構40を有している。ベルト伝動機構30は、モータ18の回転運動をボールねじ機構40に伝達する。ボールねじ機構40は、ベルト伝動機構30を通じて伝達されるモータ18の回転運動をラック軸13の直線運動に変換する。
【0026】
<ボールねじ機構>
ボールねじ機構40は、ラック軸13に設けられたボールねじ部13a、ボールナット41、多数のボール42、および循環部材(デフレクタ)43を有している。
【0027】
ボールねじ部13aは、ラック軸13の外周面において、ボールねじ溝が形成された部分である。ボールねじ部13aは、ラック軸13の左端を基準として右端へ向けた一定範囲に設けられている。ボールナット41は、ボールねじ部13aに多数のボール42を介して進退可能に螺合されている。ボールナット41の第1の端部(
図2中の左端)の外周面には鍔部41aが、第2の端部(
図2中の右端)の外周面には雄ねじ部41bがそれぞれ設けられている。循環部材43は、ボールナット41の外周面に設けられた凹部41cに嵌め込まれている。循環部材43の外面は、ボールナット41の外周面の一部分を形成する。ボールナット41の回転に伴い、各ボール42はボールナット41とボールねじ部13aとの間を転動する。各ボール42は、ボールナット41の内部に挿入された循環部材43に導かれて、たとえばボールねじ溝の1リードごとに循環(無限循環)される。
【0028】
ボールナット41の外周面には、玉軸受44が固定されている。ボールナット41は、玉軸受44を介してハウジング11、正確には蓋部材22の内周面に対して回転可能に支持されている。なお、玉軸受44の固定構造については、後に詳述する。
【0029】
<ベルト伝達機構>
ベルト伝動機構30は、原動車である円筒状の駆動プーリ31、従動車である円筒状の従動プーリ32、および無端状のベルト33を備えている。
【0030】
駆動プーリ31は、モータ18の出力軸18aに固定されている。このため、駆動プーリ31は出力軸18aと一体回転する。
従動プーリ32は、玉軸受44と同様に、ボールナット41の外周面に固定されている。詳述すると、従動プーリ32の内周面には、雌ねじ部32aおよび拡径部32bがそれぞれ設けられている。雌ねじ部32aおよび拡径部32bは、ボールナット41の軸線方向に沿って互いに隣接している。雌ねじ部32aは、従動プーリ32の右端を基準として、左端へ向けた一定範囲に設けられている。拡径部32bは、雌ねじ部32aの左端から従動プーリ32の左端までの範囲に設けられている。拡径部32bの内径D1は、雌ねじ部32aの谷径D2よりも若干大きく設定されている。また、拡径部32bの内径D1は、ボールナット41の鍔部41aと雄ねじ部41bとの間の部分の外径とほぼ同じに、かつ鍔部41aの外径より小さく設定されている。そして、雄ねじ部41bが拡径部32bに通されて雌ねじ部32aに締め付けられることにより、従動プーリ32とボールナット41とは相互に結合されている。したがって、従動プーリ32は、ボールナット41と一体的に回転する。
【0031】
ベルト33は、駆動プーリ31と従動プーリ32との間に掛け渡されている。したがって、モータ18の回転は、駆動プーリ31、ベルト33および従動プーリ32を介してボールナット41に伝達される。
【0032】
<玉軸受の固定構造>
つぎに、玉軸受44の固定構造を説明する。
図2に示すように、玉軸受44は、内輪44a、外輪44b、および複数のボール44cを有している。
【0033】
内輪44aは、ボールナット41の外周面に嵌合されている。また、内輪44aは、ボールナット41の軸線方向において鍔部41aと従動プーリ32とによって挟み込まれている。すなわち、前述したように、ボールナット41の雄ねじ部41bが従動プーリ32の雌ねじ部32aに締め付けられることにより、内輪44aは鍔部41aを介して従動プーリ32の左端面(雌ねじ部32aと反対側の側面)に押し付けられる。内輪44aが鍔部41aと従動プーリ32とによって挟み込まれた状態に保持されることにより、玉軸受44(内輪44a)のボールナット41に対する軸方向における位置が拘束される。
【0034】
外輪44bは、蓋部材22の内周面に嵌合されている。外輪44bと支持部21の開口端面との間には、円環板状のサポートリング51、円環板状のパッキン52、およびパッキンカバー53が介在されている。サポートリング51は支持部21の開口端面に接触した状態に保持されている。パッキンカバー53は、L字断面を有するリングである。パッキン52は、サポートリング51、パッキンカバー53および蓋部材22の内周面によって囲まれた環状空間に収容されている。パッキン52は、ボールナット41の軸線方向において圧縮された状態に維持される。また、外輪44bと蓋部材22の内底面に形成された環状の段差部22aとの間には、円環板状のパッキン54およびパッキンカバー55が介在されている。パッキンカバー55は、L字断面を有するリングである。パッキン54は、段差部22aを含む蓋部材22の内面とパッキンカバー55とによって囲まれた環状空間に収容されている。パッキン54は、ボールナット41の軸線方向において圧縮された状態に維持される。そして、サポートリング51、パッキン52およびパッキンカバー53、ならびにパッキン54およびパッキンカバー55を介して、外輪44bが支持部21と蓋部材22とによって挟み込まれることにより、玉軸受44(外輪44b)の蓋部材22に対する軸方向位置が拘束される。
【0035】
ボール44cは、ボールナット41の回転に伴い、内輪44aと外輪44bとの間において転動する。
<玉軸受の固定構造の作用>
つぎに、従動プーリ32とボールナット41との結合方法を説明しつつ、玉軸受44の固定構造の作用を説明する。
【0036】
従動プーリ32とボールナット41とを結合する際には、雄ねじ部41bが従動プーリ32の左方(雌ねじ部32aと反対側)から挿入される。前述したように、拡径部32bの内径D1は雄ねじ部41bの外径よりも大きいので、当該挿入の初期において、雄ねじ部41bが従動プーリ32の内周面に干渉することが抑制される。また、雄ねじ部41bの全体が拡径部32bに挿入された後においては、ボールナット41の鍔部41aと雄ねじ部41bとの間の部分が拡径部32bの内周面に案内されるので、雄ねじ部41bは、従動プーリ32の内周面に対して非接触の状態を維持しつつ円滑に挿入される。そして、雄ねじ部41bを雌ねじ部32aに対して締め付けることにより、ボールナット41は従動プーリ32の内周面に固定される。なお、雄ねじ部41bの雌ねじ部32aに対する締め付け力は、従動プーリ32の回転に伴いボールナット41が従動プーリ32に対して緩むことがない程度に設定される。
【0037】
また、雄ねじ部41bを雌ねじ部32aに締め付けるのに伴って、ボールナット41は従動プーリ32に対して相対的に右方へ移動する。この際、ボールナット41の鍔部41aも右方へ移動する。前述したように、鍔部41aの外径は拡径部32bの内径D1よりも大きいので、やがて、鍔部41aはボールナット41の外周に装着された内輪44aに当接する。当該当接した状態でさらに、雄ねじ部41bが雌ねじ部32aに対して適度に締め付けられることにより、内輪44aは鍔部41aによって従動プーリ32に押し付けられる。すなわち、玉軸受44はボールナット41の鍔部41aと従動プーリ32とによって挟み込まれた状態で固定される。このため、先の
図6に示されるように、従動プーリ104および玉軸受109を、ボールナット107の鍔部107aと雄ねじ107bに締め付けられたロックナット108とによって挟み込む構成を採用する場合と比べて、ロックナット108が不要となる分だけ構成が簡単になる。ちなみに、雄ねじ部41bの雌ねじ部32aに対する締め付け度合いに応じて、玉軸受44を挟み込む力を自在に調節可能である。
【0038】
また近年では、車体への搭載性などの観点から、ハウジング11の体格の小型化に対する要望が依然として存在する。たとえば、本体12の周面に対する第2の収容部17の突出高さをより低くすることが望まれる。
【0039】
この点、
図6に示される従来のEPS100においては、従動プーリ104の内周面に段差部104aを設ける必要がある。段差部104aは、ボールナット107の鍔部107aが軸線方向において当接する部分である。そして、ロックナット108と鍔部107aとによって玉軸受109および従動プーリ104を十分に挟持するために必要とされる程度に、段差部104aと鍔部107aとの接触面積を確保する必要がある。このため、段差部104aの縮径化、ひいては従動プーリ104の半径方向の厚みを薄くすることには限界がある。
【0040】
これに対し、本例によれば、従動プーリ32の内周面にボールナット41の雄ねじ部41bが螺合されるので、従来品の段差部104aのような凹部を従動プーリ32に設ける必要がない。従動プーリ32の肉厚を設定する際に、凹部の形成深さを考慮する必要がないため、従動プーリ32の半径方向における厚みを薄くすること、ひいては従動プーリ32の外径をより小さく設定することが可能である。従動プーリ32の小径化に伴い、玉軸受44についても外径がより小さいものを採用することが可能になる。ボールねじ機構40などが収容される第2の収容部17の体格の小型化も可能となる。
【0041】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)従動プーリ32の内周面に雌ねじ部32aを設けた。また、ボールナット41の第1の端部には鍔部41aを、第2の端部には雄ねじ部41bを設けた。そして、雄ねじ部41bを雌ねじ部32aに締め付けることにより、ボールナット41と従動プーリ32とを締結しつつ、ボールナット41の鍔部41aと従動プーリ32とによって玉軸受44を挟み込むようにした。このため、先の
図6に示される構成、すなわち従動プーリ104および玉軸受109をボールナット107の鍔部107aと雄ねじ107bに締め付けられたロックナット108とによって挟み込む構成と異なり、ロックナット108が不要となる分だけ構成が簡単になる。したがって、部品点数が削減されることにより、製品コストを低減することができる。
【0042】
(2)また、雄ねじ部41bの雌ねじ部32aに対する締め付けに伴い、ボールナット41の鍔部41aが従動プーリ32に近づくことを利用して、鍔部41aと従動プーリ32とによって玉軸受44の内輪44aを簡単に挟み込むことができる。
【0043】
(3)また、従動プーリ32の内周面にボールナット41の雄ねじ部41bが螺合されるので、
図6に示される段差部104aのような凹部を従動プーリ32に設ける必要がない。従動プーリ32の肉厚を設定する際に凹部の形成深さを考慮する必要がないので、従動プーリ32の半径方向における厚みを薄くすること、ひいては従動プーリ32の直径をより小さく設定することが可能である。従動プーリ32の小径化に伴い、玉軸受44についてもより小径のものを採用することが可能になる。従動プーリ32および玉軸受44の外径をそれぞれより小さく設定することにより、第2の収容部17の体格の小径化が可能となる。
【0044】
(4)逆に、
図6に示される段差部104aのような凹部を従動プーリ32に設ける必要がないので、従動プーリ32の軸線方向における全長にわたって一定の厚みを確保することもできる。このため、従動プーリ32の強度を確保することができる。
【0045】
(5)従動プーリ32の内周面には、雌ねじ部32a(正確には、その谷径)よりも若干大径の拡径部32bを設けた。このため、ボールナット41を従動プーリ32に挿入する際、ボールナット41の雄ねじ部41b(ねじ山)が従動プーリ32の内周に干渉することを回避できる。
【0046】
(6)ボールナット41の雄ねじ部41bは、ボールナット41における循環部材43から外れた部分、具体的にはボールナット41の鍔部41aと反対側の端部に設けた。このため、雄ねじ部41bを雌ねじ部32aに締め付ける際に、当該締め付け力が循環部材43に作用することはない。したがって、雄ねじ部41bを雌ねじ部32aに締め付けることに起因する循環部材43の変形などの発生を抑制することができる。なお、雄ねじ部41bを循環部材43(正確には、ボールナット41の凹部41c)に掛かる程度の範囲に形成することを妨げない。
【0047】
<第2の実施の形態>
つぎに、本発明をいわゆるラッククロスタイプの電動パワーステアリング装置に具体化した第2の実施の形態を説明する。ラッククロスタイプとは、操舵補助用のモータの軸線がラック軸に対して交差するタイプをいう。なお、第1の実施の形態と同様の部材構成については同一の符号を付し、その詳細な説明を省略する。
【0048】
図3に示すように、本例の電動パワーステアリング装置61のハウジング62にもラック軸13が挿通されている。ハウジング62には、動力変換機構63の収容部64およびモータ18の取付部65がそれぞれ設けられている。動力変換機構63は、モータ18の回転運動をラック軸13の直線運動に変換する機構である。取付部65は、収容部64の上部に設けられた筒状の部分であって、ラック軸13の軸線方向に対して交わる方向へ延びている。収容部64の内部と取付部65の内部とは、互いに連通している。
【0049】
モータ18は、取付部65に固定され、モータ18の出力軸18aは、取付部65の内部に挿入されている。出力軸18aは、2つの軸受66,67を介して取付部65の内周面に対して回転可能に支持されている。出力軸18aは、ラック軸13の軸線方向に対して交わる方向へ延びている。出力軸18aの先端は、収容部64の内部に進入している。
【0050】
動力変換機構63は、ボールねじ機構40および歯車伝動機構70を有している。
ボールねじ機構40は、第1の実施の形態と同様の構成である。すなわち、ボールナット41は、ラック軸13のボールねじ部13aに多数のボール42を介して螺合されている。また、ボールナット41は、玉軸受44を介してハウジング62の内周面に対して回転可能に支持されている。さらに、ボールナット41の第1の端部(左端)には鍔部41aが、第2の端部(右端)の外周面には雄ねじ部41bがそれぞれ設けられている。
【0051】
歯車伝動機構70は、原動車である駆動歯車71および従動車である従動歯車72を有している。駆動歯車71および従動歯車72はいずれも傘歯車である。駆動歯車71は、出力軸18aの先端に固定されている。従動歯車72は、ボールナット41の鍔部41aと反対側の端部に固定されている。これら駆動歯車71および従動歯車72は、互いに噛み合っている。したがって、モータ18の回転力は、駆動歯車71および従動歯車72を介してボールナット41に伝達される。
【0052】
従動歯車72の中心には、ラック軸13の軸線方向に沿って貫通する孔73が形成されている。孔73の内周面には雌ねじ部73aが形成されている。また、従動歯車72の玉軸受44側の側面において、孔73の開口周縁部には円筒状の当接部74が設けられている。当接部74の内径は、ボールナット41の外径と同程度に設定される。
【0053】
従動歯車72の当接部74を介して挿入されたボールナット41の雄ねじ部41bは、従動歯車72の雌ねじ部73aに締め付けられている。雄ねじ部41bを雌ねじ部73aに締め付けることにより、ボールナット41は従動歯車72の孔73に固定される。このため、従動歯車72は、ボールナット41と一体的に回転する。
【0054】
また、第1の実施の形態と同様に、内輪44aはボールナット41の外周面に嵌合されているところ、当該内輪44aは、ボールナット41の軸線方向において鍔部41aと従動歯車72(正確には、当接部78)とによって挟み込まれている。すなわち、ボールナット41の雄ねじ部41bが従動歯車72の雌ねじ部73aに締め付けられることにより、内輪44aは鍔部41aを介して従動歯車72における当接部74の先端面に押し付けられる。内輪44aが当接部74の先端面に面接触した状態に保持されることによって、玉軸受44のボールナット41に対する軸方向位置が拘束される。
【0055】
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(7)従動歯車72の内周面に雌ねじ部73aを設けた。また、ボールナット41の第1の端部には鍔部41aを、第2の端部には雄ねじ部41bを設けた。そして、雄ねじ部41bを雌ねじ部73aに締め付けることにより、ボールナット41と従動歯車72とを締結しつつ、ボールナット41の鍔部41aと従動歯車72の当接部74とによって玉軸受44を挟み込むようにした。
【0056】
先の
図6のEPS100と同様に、ボールナット41の鍔部41aと反対側の端部にロックナット108を締め付けることによって、当該ロックナット108と鍔部41aとによって玉軸受44および従動歯車72を挟み込む構成も考えられる。この点、本例によれば、ロックナット108が不要となる分だけ構成が簡単になる。したがって、部品点数が削減されることにより、製品コストを低減することができる。
【0057】
<他の実施の形態>
なお、第1または第2の実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・第1の実施の形態のベルト伝動機構30に代えて、チェーン伝動機構を採用してもよい。この場合、駆動プーリ31を駆動スプロケットに、従動プーリ32を従動スプロケットに、ベルト33をローラーチェーンにそれぞれ置換する。そして従動スプロケットにボールナット41の雄ねじ部41bを螺合することにより、鍔部41aと従動スプロケットとによって玉軸受44を挟み込む。
【0058】
・また、第1の実施の形態のベルト伝動機構30に代えて、歯車機構を採用してもよい。この場合、たとえば駆動プーリ31を駆動平歯車に、従動プーリ32を従動平歯車にそれぞれ置換したうえで、これら駆動平歯車および従動平歯車を互いに噛み合わせる。そして従動平歯車にボールナット41の雄ねじ部41bを螺合することにより、鍔部41aと従動平歯車とによって玉軸受44を挟み込む。
【0059】
・第1および第2の実施の形態では、転がり軸受の一種である玉軸受44を介してボールナット41をハウジングの内周面に対して回転可能に支持したが、当該玉軸受44に代えて他の転がり軸受であるころ軸受を採用してもよい。
【0060】
・第1の実施の形態では、従動プーリ32の雌ねじ部32aにボールナット41の雄ねじ部41bを締め付けることにより従動プーリ32とボールナット41とを互いに結合した。また、第2の実施の形態では、従動歯車72の雌ねじ部73aにボールナット41の雄ねじ部41bを締め付けることにより、従動歯車72とボールナット41とを互いに結合した。このようなねじ締結に代えて、従動プーリ32または従動歯車72とボールナット41とを結合する手段として、接着、圧入、あるいはスプライン結合(嵌合)などを採用してもよい。鍔部41aと従動プーリ32とによって、または鍔部41aと従動歯車72とによって、玉軸受44を挟み込むことができればよい。ちなみに、従動プーリ32または従動歯車72とボールナット41との結合手段として、接着または圧入を採用する場合、雄ねじ部41bおよび雌ねじ部32a,73aを形成する必要はない。また、当該結合手段として、スプライン結合を採用する場合には、ボールナット41と従動プーリ32との間の回転方向における相対移動が好適に規制される。
【0061】
・第1および第2の実施の形態における従動プーリ32または従動歯車72とボールナット41とを結合する手段(ねじ締結)に、当該結合の緩み止め手段を追加してもよい。たとえば、当該緩み止め手段として、ボールナット41が従動プーリ32または従動歯車72に対する締め付けが緩む方向へ回転した際のボールナット41の軸方向への移動を規制する構成を採用することが考えられる。
【0062】
当該緩み止め手段を第1の実施の形態に適用する場合について説明する。この場合、
図4に示すように、緩み止め手段として筒状の緩み止め部材81を設ける。緩み止め部材81は、ラック軸13に挿通された状態で従動プーリ32とボールナット41とにそれぞれ係合する。
図5(a)に示すように、緩み止め部材81は、その軸方向からみたとき、略C字型をなしている。
図5(b)に併せ示すように、緩み止め部材81は、ラック軸13に挿通されるC型筒状の胴体部81a、胴体部81aの第1の端部に設けられた係合部81b、および胴体部81aの第2の端部に設けられた当接部81cを有してなる。係合部81bは、胴体部81aの半径方向へフランジ状に張り出すとともに、その張り出した外周部分が背面側(胴体部81aの第2の端部側)に曲げ返されてなる。当接部81cは、胴体部81aの半径方向へフランジ状に張り出すC型の板状をなしている。当接部81cの外径は、係合部81bの外径よりも大きく設定されている。
図4に示すように、緩み止め部材81の軸線方向において、当接部81cは従動プーリ32の右端面82に係合し、係合部81bはボールナット41の第1の端部(
図4中の右端部)の内周面に形成された環状の溝83に係合している。これにより、仮に従動プーリ32に対するボールナット41の締め付けが緩んだとしても、ボールナット41が従動プーリ32に対して左方、すなわち従動プーリ32から抜け出る方向へ移動することが規制される。
【0063】
なお、第2の実施の形態についても、前述と同様にして、従動歯車72とボールナット41との間に緩み止め部材81を設ければよい。緩み止め部材81の軸線方向において、当接部81cが従動歯車72の右端面に、係合部81bがボールナット41の第1の端部の内周面に形成された図示しない溝に係合することにより、ボールナット41が従動歯車72に対して
図3中の左方へ移動することが規制される。
【0064】
・また、従動プーリ32または従動歯車72に対するボールナット41の緩み止め手段として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、第1の実施の形態において、ボールナット41の第2の端部(
図2中の右端部)を、組付け状態で従動プーリ32の右端面82から突出する長さに伸長し、当該突出した箇所に止め輪などを装着する。このようにしても、ボールナット41が従動プーリ32から抜け出る方向(
図2中の左方)へ移動することが規制される。第2の実施の形態における従動歯車72のボールナット41に対する緩み止めも、前述と同様にして実現できる。
【0065】
・さらに、従動プーリ32または従動歯車72に対するボールナット41の緩み止め手段として、つぎの構成を採用してもよい。すなわち、従動プーリ32または従動歯車72とボールナット41とのねじ締結箇所をかしめることによって、両者間の相対回転自体を規制する。このようにすれば、部品点数を増大させることなく、従動プーリ32または従動歯車72に対するボールナット41の緩み止めが実現される。また、ボールナット41の従動プーリ32または従動歯車72に対する締め付けトルクを低減させることも可能である。
【0066】
<他の技術的思想>
次に、前記両実施の形態から把握できる技術的思想を以下に追記する。
(イ)請求項1
又は請求項
2において、前記伝動機構はベルト伝動機構であって、当該ベルト伝動機構は、前記原動車としての駆動プーリ、前記従動車としての従動プーリ、および前記駆動プーリと従動プーリとの間に掛け渡された無端状のベルトを備えてなること。このように、伝動機構として、たとえばベルト伝動機構を採用してもよい。
【0067】
(ロ)請求項1
又は請求項
2において、前記伝動機構は歯車伝動機構であって、当該歯車伝動機構は、前記原動車としての駆動歯車、当該駆動歯車に噛み合う前記従動車としての従動歯車を備えてなること。このように、伝動機構として、たとえば歯車伝動機構を採用してもよい。
【0068】
(ハ)請求項1
又は請求項
2および前記(イ),(ロ)のうちいずれか一項において、前記モータは前記ハウジングの外部に固定されていて、当該モータの軸線は前記ラック軸の軸線に沿って平行に延びている電動パワーステアリング装置。この構成によれば、構成が簡素化されたいわゆるラックパラレル型の電動パワーステアリング装置が得られる。
【0069】
(ニ)請求項1
又は請求項
2および前記(イ),(ロ)のうちいずれか一項において、前記モータは前記ハウジングの外部に固定されていて、当該モータの軸線は前記ラック軸の軸線に対して交わる方向へ延びている電動パワーステアリング装置。この構成によれば、構成が簡素化されたいわゆるラッククロス型の電動パワーステアリング装置が得られる。