(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プローブ光発生部は、前記波長変換を行う光学素子として、前記線幅の前記プローブ光を発生する長さをもつ非線形光学結晶を有することを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
前記プローブ光発生部は、前記波長変換を行う光学素子として、前記線幅の前記プローブ光を発生する組成からなるレーザ結晶を有することを特徴とする請求項1に記載の濃度測定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的に、ガスの吸収線の線幅は非常に狭い。また、レーザ光の線幅を狭くするほど吸収の感度は向上する。その一方で、レーザ光の線幅を狭くすると、当該レーザ光の中心波長が吸収線から僅かにずれただけでレーザ光の吸収量(透過率)が大きく変化する。この場合、算出した濃度の誤差が大きくなるため、測定の信頼性が低くなる。従って、レーザ光の線幅を狭くした場合は、当該線幅と中心波長を精度良く制御する必要がある。しかしながら、これらを実現するには、高精度に製造された光学素子や制御機構が必要になり、装置全体の構造が複雑になる。つまり、複雑な装置は、実用性の観点からは耐久性に不安が生じ、経済性の観点からは製造コストが嵩むという問題が生じる。
【0005】
このような事情を鑑み、本発明は、光学機器(光学素子)に対する高度な温度管理や加工精度が不要になり、測定対象物の濃度を精度良く測定できる濃度測定装置及び濃度測定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の態様は濃度測定装置であって、励起光としてのレーザ光を発生するレーザ光源と、前記励起光の波長変換によって、測定対象物に対するオン波長のプローブ光及びオフ波長の参照光を発生するプローブ光発生部と、前記測定対象物を透過した又は前記測定対象物から反射した、前記プローブ光及び前記参照光を検出する光検出器と、前記光検出器によって検出された前記プローブ光及び前記参照光の各透過率から前記測定対象物の濃度を算出する濃度算出部とを備え、前記プローブ光は、前記測定対象物において隣接した2本の吸収線の波長差以上の線幅を有することを要旨とする。
【0007】
前記プローブ光発生部は、前記波長変換を行う光学素子として、前記線幅の前記プローブ光を発生する長さをもつ非線形光学結晶を有してもよい。
【0008】
前記プローブ光発生部は、前記波長変換を行う光学素子として、前記線幅の前記プローブ光を発生する組成からなるレーザ結晶を有してもよい。
【0009】
本発明の第2の態様は濃度測定方法であって、励起光としてのレーザ光を発生し、光学素子を用いた前記励起光の波長変換によって、測定対象物に対するオン波長のプローブ光及びオフ波長の参照光を発生し、前記測定対象物を透過した又は前記測定対象物から反射した、前記プローブ光及び前記参照光を検出し、検出された前記プローブ光及び前記参照光の各強度減衰量から前記測定対象物の濃度を算出し、前記プローブ光は、前記測定対象物における相互に隣接した2本の吸収線の波長差以上の線幅を有することを要旨とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、光学機器(光学素子)に対する高度な温度管理や加工精度が不要になり、測定対象物の濃度を精度良く測定できる濃度測定装置及び濃度測定方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0013】
まず、本発明に係る濃度測定の原理を説明する。
本発明に係る濃度測定は、レーザ光による差分吸収法を利用する。即ち、測定対象物に対して、当該測定対象物に吸収されない波長のレーザ光と、当該測定対象物に吸収される波長のレーザ光を照射する。前者は所謂オフ波長のレーザ光、後者はオン波長のレーザ光である。説明の便宜上、以下、オフ波長のレーザ光およびオン波長のレーザ光を、それぞれ参照光およびプローブ光と称する。
【0014】
測定対象物に参照光およびプローブ光を照射し、当該測定対象物を透過した又は前記測定対象物から反射したこれらの光を検出する。参照光の透過率からは、測定対象物以外の物質によるバックグランドとしての透過率(以下、第1の透過率)が求まる。一方、プローブ光の透過率からは、第1の透過率に、測定対象物への吸収による透過率(以下、第2の透過率)を乗じた透過率(以下、第3の透過率)が得られる。従って、既に得られた第1の透過率を用いて、第3の透過率から第2の透過率を逆算でき、その結果、第2の透過率から測定対象物の濃度が求まる。
【0015】
図1は、測定対象物として二酸化炭素ガスを想定したときの、二酸化炭素ガスに対するレーザ光の透過率を示す計算結果である。レーザ光の中心波長は、二酸化炭素ガスの吸収帯に合わせ、その範囲内で変化させている。具体的には、例えば
図1に示すように、中心波長を2μm帯に合わせ、この帯域内で1950nmから1960nmまで変化させている。また、同図には、この波長範囲においてレーザ光の線幅を変えたときの透過率の変化も示した。想定した線幅は0.02nm、0.19nm、0.5nmの三種類である。なお、本発明における測定対象物は二酸化炭素ガスに限られず、他の種のガスにも適用可能である。また、気体以外の相(即ち、液体や固体)にも適用可能である。
【0016】
図1に示した各吸収線に対するレーザ光の透過率は、当該レーザ光の線幅が狭くなるにつれて小さくなる。換言すれば、吸収線に対するレーザ光の吸光度は、線幅が狭くなるについて大きくなる。つまり、レーザ光の線幅を狭くするほど、吸収線に対する感度が向上する。
図1に示す三種類の線幅のレーザ光は、この傾向を顕著に表している。
【0017】
一方、
図1に示すように、レーザ光の線幅を拡げていくと各吸収線に対するレーザ光の透過率は増加していく。つまり、吸収線に対するレーザ光の吸光度及び感度は減少する。さらに、レーザ光の線幅が隣接した2つの吸収線の波長差以上になると、この傾向に変化が現れる。即ち、
図1に示すように、レーザ光の線幅が隣接する2つの吸収線の波長差以上になると、吸収線の各波長に対して吸収ピークが無くなり、吸収帯の全域に亘ったブロードな吸収ピークになる。その最小値(最低透過率)は、線幅に関わり無くほぼ一定であり、しかも1(つまり吸収無し)ではない。例えば、
図1に示す2μm帯では約0.5nmの間隔で吸収線が現れる。これらに対してレーザ光の線幅が約0.5nm以上になると、透過率に対する波長依存性が鈍くなり、その結果、ブロードな吸収ピークが得られるようになる。
【0018】
本発明は、上述したオン波長のプローブ光として、このような広い線幅をもつレーザ光を吸光測定に利用する。つまり、従来のようにプローブ光の線幅を十分に狭くするのではなく、
図2に示すように、プローブ光10としてのレーザ光の線幅Wを、複数の吸収線14が存在する吸収帯中で隣接した2つの吸収線14a、14bの波長差G以上に広くする。これにより、温度変化等によるプローブ光10の中心波長λonの変化に影響されない光吸収が得られるようになる。また、オフ波長の参照光12としてのレーザ光については、その中心波長λoffを非吸収帯中の任意の波長に設定すればよい。従来のように、プローブ光の線幅が狭い場合は、当該線幅や中心波長を安定に維持するため、光学機器(光学素子)に対する厳しい温度管理や高い加工精度が要求される。一方、プローブ光の線幅が十分に広い場合は、そのような要求が無くなる。即ち、中心波長の変動があっても略一定の透過率(吸光度)が得られるため、光学機器(光学素子)に対する高度な温度管理や加工精度が不要になり、測定対象物の濃度を精度良く(換言すれば、小さい誤差で)測定できる。
【0019】
次に、本実施形態に係る濃度測定装置の構成について説明する。
図3は、本実施形態に係る濃度測定装置の構成図である。
図4は、本実施形態に係るプローブ光発生部の構成図である。
図5は、
図4に示すプローブ光発生部の変形例である。
図3に示すように、本実施形態の濃度測定装置は、レーザ光源22と、プローブ光発生部24と、光検出器26と、濃度算出部28とを備える。
【0020】
レーザ光源22は、後段のプローブ光発生部24に入力される励起光(ポンプ光)23としてのレーザ光を発生する。レーザ光の波長や発振モード(パルス発振又は連続発振)は、プローブ光発生部24における波長変換の仕様(変換方法、出力波長など)に応じて選定する。本実施形態では、パルスレーザ光源であるNd:YAGレーザを使用する。Nd:YAGレーザは、二倍波である532nmのパルスレーザ光を、数ns〜数十nsのパルス幅、且つ、10Hz〜数kHzの繰り返し周波数で出力する。
【0021】
プローブ光発生部24は、励起光23の波長変換によって、測定対象物に対するオン波長のプローブ光10及びオフ波長の参照光12(
図2参照)を発生する。
図4に示すように、プローブ光発生部24は、反射面が対向するように光軸(光路)20に沿って配置された終端鏡32と出力鏡34とを有する。出力鏡34と終端鏡32との間隔Dは例えば20mmである。更に、終端鏡32と出力鏡34の間の光軸20上には、波長変換を行う光学素子として、非線形光学結晶36が設けられている。後述するように、非線形光学結晶36は、励起光23の光パラメトリック発振によってプローブ光10及び参照光12を発生する。
【0022】
終端鏡32は、励起光23を透過させ、且つ、非線形光学結晶36によって発生したプローブ光10及び参照光12を反射する波長特性を有する。通常、励起光23の波長はプローブ光10及び参照光12の各波長よりも短いので、終端鏡32は所謂ロングパスフィルター(LPF)である。一方、出力鏡34も、終端鏡32と同じく、プローブ光10及び参照光12を反射する波長特性を有する。従って、終端鏡32及び出力鏡34は所謂光共振器を構成する。終端鏡32及び出力鏡34のプローブ光10及び参照光12に対する反射率は50〜99.5%であるが、光共振器の特性として、プローブ光10及び参照光12の線幅を波長差G(
図2参照)未満に狭小化する程の反射特性はもたない。
【0023】
非線形光学結晶36は例えばKTP結晶やBBO結晶であり、励起光23による光パラメトリック発振によってオン波長のプローブ光10及びオフ波長の参照光12を発生する。プローブ光10の中心波長λonは例えば2004nm、参照光12の中心波長λoffは例えば1998nmである。非線形光学結晶36によって発生する光の波長は、励起光23の光軸に対する結晶の光学軸の角度θを調整することで適宜変更可能である。そこで、本実施形態の非線形光学結晶36は、この角度θを調整できるように回転ステージ38に搭載されている。即ち、回転ステージ38を回転させることで、プローブ光10及び参照光12の何れかが出力鏡34から出射され、測定対象物Sに照射される。なお、回転ステージ38の回転は制御部(図示せず)によって制御される。
【0024】
非線形光学結晶36によって発生したプローブ光10は、測定対象物Sにおいて隣接した2本の吸収線14a、14bの波長差G以上の線幅Wを有する。参照光12についても同様の線幅になる。一般的な傾向として、非線形光学結晶の波長変換によって発生した光(即ち、シグナル光やアイドラ光)の線幅は、結晶内を通過する励起光23の光路長に依存する。具体的には、光路長を長くすると線幅は狭くなり、逆に、光路長を短くすると線幅は長くなる。この光路長は、光学軸36aに沿った非線形光学結晶36の長さ(厚さ)Lそのものである。つまり、本実施形態の非線形光学結晶36の長さLは、線幅Wのプローブ光10が発生する長さに設定されている。例えば、非線形光学結晶36にKTP結晶を用いた場合、KTP結晶の長さを15mm程度に設定すると、上述の中心波長で、線幅が0.5nm程度のプローブ光10が得られる。なお、KTP結晶の長さを短くすると線幅を広げることができるが、その分、光の変換効率が下がり、プローブ光10や参照光12の強度が低下する。一方、
図1を用いて説明したように、線幅Wが、測定対象物Sにおいて隣接した2本の吸収線14a、14bの波長差Gを越えた範囲では、プローブ光10の透過率はあまり変化しない。従って、時間的に効率の良い測定を行うには、非線形光学結晶36の長さLを、プローブ光10の線幅Wが上述の波長差G程度になる長さに設定することが好ましい。
【0025】
光検出器26は、測定対象物Sを透過した又は測定対象物Sから反射した、プローブ光10及び参照光12を検出する。本実施形態では、光検出器26として、周知の半導体検出器を使用する。半導体検出器は、光の強度に比例した電圧を検出信号として出力する。なお、光検出器26の前段にはプローブ光10及び参照光12を集光するためのレンズ等の光学系30が設けられている。
【0026】
濃度算出部28は、濃度測定装置の全体を制御する制御部(図示せず)の一部として構成され、光検出器26によって検出されたプローブ光10及び参照光12の各透過率(吸光度)から測定対象物Sの濃度を算出する。濃度の算出方法は周知のものを採用する。例えば、分岐比(透過率又は反射率)が既知のビームスプリッタ(図示せず)を、出力鏡34を通過した直後のプローブ光10及び参照光12に挿入することで、これらの一部を他の光検出器(図示せず)によって検出し、併せて光検出器26によって検出したプローブ光10及び参照光12を検出する。
【0027】
濃度算出部28は、プローブ光10及び参照光12の各相対強度比から、参照光12の透過率(上述の第1の透過率)と、プローブ光10の透過率(上述の第3の透過率)を算出する。第3の透過率は、第1の透過率に、測定対象物Sへの吸収による透過率(上述の第2の透過率)を乗じたものであるので、濃度算出部28は、第1の透過率を用いて、第3の透過率から第2の透過率を逆算し、その結果、第2の透過率から測定対象物Sの濃度を算出する。
【0028】
上述したように、プローブ光10の線幅Wは、測定対象物Sにおいて隣接する2つの吸収線14a、14bの波長差G以上である。従って、測定対象物Sによるプローブ光10の吸収量は、プローブ光10の中心波長λonと吸収線14の波長との差に対して緩慢になる。即ち、この差の大きさに関わり無く、プローブ光10の一部は測定対象物Sに吸収される。吸収量を高めるためにプローブ光の線幅を狭くしている従来の方法に比べて、光学機器(光学素子)に対する厳しい温度管理や高い加工精度が不要になり、装置の構成が簡略化される。しかも、プローブ光10の中心波長λonが変動しても、略一定の透過率(吸光度)が得られる。つまり、簡便な構成で、周囲の温度等に影響され難い測定対象物Sの濃度測定が可能になる。
【0029】
なお、本実施形態のプローブ光発生部については、次のように変形できる。
図5に示すプローブ光発生部25は、
図4に示すプローブ光発生部24の変形例である。
図4のプローブ光発生部24では、波長変換を行う光学素子として非線形光学結晶36を用いていた。そして、プローブ光10の線幅は、非線形光学結晶36の長さLが規定していた。一方、
図5の
図5のプローブ光発生部25は、波長変換を行う光学素子としてレーザ結晶46を用いる。レーザ結晶46は、例えば、Tm:YAG、Tm:YLF、Tm:YVO
4、Tm,Ho:YAG、Tm,Ho:YLF、Tm,Ho:YVO
4などある。これらのうちの何れかをレーザ結晶46に用いる場合、励起光23を発生するレーザ光源には半導体レーザ(LD)を使用する。半導体レーザは、励起光23として中心波長が例えば785nmの光を発生する。半導体レーザから出射した光は、レーザ結晶46内での変換効率を上げるため、レンズ等の光学系48によってレーザ結晶46に集光される。
【0030】
図5に示すように、レーザ結晶46の出射側と出力鏡34との間には、レーザ結晶46から出射した光の波長を選別する波長調整機構42が設置される。波長調整機構42は、例えばエタロンやプリズムであり、波長調整機構42を搭載した回転ステージ44の回転によって、出力鏡34へ進行する光の波長を選別できる。つまり、回転ステージ44の回転制御によって、プローブ光10及び参照光12の何れかを出射させることができる。
【0031】
本実施形態の光学素子としてレーザ結晶46を用いる場合、レーザ結晶46は線幅Wのプローブ光を発生する組成からなる。つまり、レーザ結晶自体の光学特性を利用し、測定対象物Sにおける隣接した2本の吸収線14a、14bの波長差G以上の線幅Wを有するプローブ光10を得る(
図2参照)。例えばTm:YAGは2μm付近において、線幅が0.5nm以上のレーザ光を複数発生する。従って、終端鏡32と出力鏡34からなる光共振器と同じく、波長調整機構42の分解能は波長差G程度あれば十分である。なお、
図5の回転ステージ44も、
図4の回転ステージ38と同じく制御部(図示せず)によって制御され、出射する光の波長に応じて回転する。
【0032】
本発明は上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。