特許第5962362号(P5962362)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5962362-蓋材 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962362
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】蓋材
(51)【国際特許分類】
   B32B 9/00 20060101AFI20160721BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20160721BHJP
   B65D 77/20 20060101ALI20160721BHJP
   B65D 65/40 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B32B9/00 A
   B32B27/32 Z
   B65D77/20 L
   B65D65/40 D
【請求項の数】15
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-200372(P2012-200372)
(22)【出願日】2012年9月12日
(65)【公開番号】特開2014-54757(P2014-54757A)
(43)【公開日】2014年3月27日
【審査請求日】2015年8月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今井 伸彦
(72)【発明者】
【氏名】盧 和敬
(72)【発明者】
【氏名】井口 依久乃
(72)【発明者】
【氏名】松尾 龍吉
【審査官】 増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/093002(WO,A1)
【文献】 特開2012−41049(JP,A)
【文献】 特開2012−17117(JP,A)
【文献】 特開2006−232870(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00−43/00
B65D 65/40
B65D 77/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、ポリオレフィン樹脂からなるシーラント層、疎水性粒子と無機バインダーを混合した撥水層がこの順に積層され、前記シーラント層の前記撥水層側に、プライマー層が設けられていることを特徴とする蓋材。
【請求項2】
前記疎水性粒子が、ジメチルポリシロキサン、または、ジメチルシロキサンで疎水性化表面処理され、あるいは、ジメチルシリル、トリメチルシリル、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水性化表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋材。
【請求項3】
前記疎水性化表面処理されている粒子が無機酸化物であることを特徴とする請求項2に記載の蓋材。
【請求項4】
前記無機酸化物がシリカであることを特徴とする請求項3に記載の蓋材。
【請求項5】
前記無機バインダーがM(OR)nで表される金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物との複合物からなり、金属Mが、Si、Al、Tiのいずれかであり、Rがアルキル基であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項6】
前記撥水層に前記疎水性粒子以外の平均粒径1〜50μmのナイロン、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコーン、フッ素樹脂のいずれかからなる粒子をさらに添加したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項7】
前記シーラント層が少なくともポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂、或いはポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂とをポリマーブレンドした樹脂からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項8】
前記シーラント層が少なくともポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂、或いは、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂に、更に、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂の中の少なくとも1種類以上をポリマーブレンドした樹脂からなる、ピール時にシーラント層内で凝集剥離する、あるいは、シールされる相手との界面で剥離するイージーピールシーラントからなることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項9】
前記プライマー層が、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、塩酢ビ樹脂、変性オレフィン樹脂、イミン樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アイオノマー樹脂の中から少なくとも1種類以上を使用した溶液、または分散液をコートして乾燥したコート層であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項10】
前記プライマー層に、有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはシランカップリング剤の加水分解物が添加されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項11】
前記プライマー層に、有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはシランカップリング剤の加水分解物と、ポリオールおよびイソシアネート化合物との複合物を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項12】
前記シランカップリング剤の有機官能基が、ポリオールの水酸基またはイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくともどちらかと反応する官能基を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の蓋材。
【請求項13】
前記シランカップリング剤の有機官能基が、イソシアネート基、アミノ基、またはメルカプト基のいずれか1種であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の蓋材。
【請求項14】
前記ポリオールがアクリルポリオールであることを特徴とする請求項11または12に記載の蓋材。
【請求項15】
蓋材が容器の蓋材であり、前記容器のシール部へのシールにより、無機バインダーと疎水性微粒子からなる撥水層が割れ、その割れ目からシーラント層のポリオレフィン樹脂が前記容器のシール部と溶融接着することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の蓋材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓋材に関するものである。特に食品、飲料、医薬品、化粧品、化学品等を包装する蓋材、更に具体的には、ヨーグルト、ゼリー、プリン、シロップなどの容器の蓋材や、お粥、スープなどのレトルト食品や、化学品や医薬品等の液体、半固体、ゲル状物質などの保存容器に用いる蓋材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常の蓋材は、内容物が付着して取りづらく、内容物の無駄や汚れの原因となることが多かった。また、フッ素材やシリコーンを用いると、撥水性や付着防止効果はあるものの、熱シール性に乏しく、蓋材に使用することが困難であった。
【0003】
これらの問題を解決するために、基材層及び熱接着層を有する積層体からなり、熱接着層が一方の面の最外層として積層され、他の層と隣接していない最外面に一次粒子平均径3〜100nmの疎水性酸化物微粒子が付着し、疎水性酸化物微粒子が三次元網目状構造からなる多孔質層を形成している蓋材がある(特許文献1)。
【0004】
しかし、上記蓋材は、疎水性酸化物微粒子自体撥水性はあるが、疎水性酸化物微粒子を形成する塗布液自体にバインダーを使用していないため、疎水性酸化物微粒子が熱接着層に十分に固着できず、疎水性酸化物微粒子が脱落しやすく、食品などの内容物に疎水性酸化物微粒子が異物として入り込んでしまうため、特に食品の場合、安全性が十分担保できない問題がある。また、疎水性処理された一次粒子径が3〜100nmの無機粒子は分散性が悪く、ゲル化するなど生産性が著しく悪い問題がある。
【0005】
公知文献を以下に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4348401号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記した事情に鑑みてなされたもので、粒子の脱落の恐れがなく、良好なシール性を保ちながら優れた撥水性などのはじき性を有し、内容物の残量低減や付着防止効果を有する蓋材を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に係る発明は、基材層、ポリオレフィン樹脂からなるシーラント層、疎水性粒子と無機バインダーを混合した撥水層がこの順に積層され、前記シーラント層の前記撥水層側に、プライマー層が設けられていることを特徴とする蓋材である。
【0009】
本発明の請求項2に係る発明は、前記疎水性粒子が、ジメチルポリシロキサン、または、ジメチルシロキサンで疎水性化表面処理され、あるいは、ジメチルシリル、トリメチルシリル、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルのいずれかの官能基で疎水性化表面処理されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋材である。
【0010】
本発明の請求項3に係る発明は、前記疎水性化表面処理されている粒子が無機酸化物であることを特徴とする請求項2に記載の蓋材である。
【0011】
本発明の請求項4に係る発明は、前記無機酸化物がシリカであることを特徴とする請求項3に記載の蓋材である。
【0012】
本発明の請求項5に係る発明は、前記無機バインダーがM(OR)nで表される金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物との複合物からなり、金属Mが、Si、Al、Tiのいずれかであり、Rがアルキル基であることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0013】
本発明の請求項6に係る発明は、前記撥水層に前記疎水性粒子以外の平均粒径1〜50μmのナイロン、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコーン、フッ素樹脂のいずれかからなる粒子をさらに添加したことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0014】
本発明の請求項7に係る発明は、前記シーラント層が少なくともポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂、或いはポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂とをポリマーブレンドした樹脂からなることを特徴とする請求項1から6のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0015】
本発明の請求項8に係る発明は、前記シーラント層が少なくともポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂、或いは、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂に、更に、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂の中の少なくとも1種類以上をポリマーブレンドした樹脂からなる、ピール時にシーラント層内で凝集剥離する、あるいは、シールされる相手との界面で剥離するイージーピールシーラントからなることを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0016】
本発明の請求項9に係る発明は、前記プライマー層が、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミン樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、塩酢ビ樹脂、変性オレフィン樹脂、イミン樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アイオノマー樹脂の中から少なくとも1種類以上を使用した溶液、または分散液をコートして乾燥したコート層であることを特徴とする請求項1から8のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0017】
本発明の請求項10に係る発明は、前記プライマー層に、有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはシランカップリング剤の加水分解物が添加されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0018】
本発明の請求項11に係る発明は、前記プライマー層に、有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはシランカップリング剤の加水分解物と、ポリオールおよびイソシアネート化合物との複合物を含むことを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0019】
本発明の請求項12に係る発明は、前記シランカップリング剤の有機官能基が、ポリオールの水酸基またはイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくともどちらかと反応する官能基を含むことを特徴とする請求項10または11に記載の蓋材である。
【0020】
本発明の請求項13に係る発明は、前記シランカップリング剤の有機官能基が、イソシアネート基、アミノ基、またはメルカプト基のいずれか1種であることを特徴とする請求項10から12のいずれか1項に記載の蓋材である。
【0021】
本発明の請求項14に係る発明は、前記ポリオールがアクリルポリオールであることを特徴とする請求項11または12に記載の蓋材である。
【0022】
本発明の請求項15に係る発明は、蓋材が容器の蓋材であり、前記容器のシール部へのシールにより、無機バインダーと疎水性微粒子からなる撥水層が割れ、その割れ目からシーラント層のポリオレフィン樹脂が前記容器のシール部と溶融接着することを特徴とする請求項1から14のいずれか1項に記載の蓋材である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の蓋材は、粒子の脱落による異物混入の恐れがなく、良好なシール性を保ちながら優れた撥水性などのはじき性を有し、内容物の残量低減や付着防止効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の蓋材の一例の層構成を模式的に断面で示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下本発明を実施するための形態につき説明する。
【0026】
図1は、本発明の蓋材の一例の層構成を模式的に断面で示した説明図である。
【0027】
本発明の一例の蓋材100は、外層側から基材層1、シーラント層2、撥水層3が積層されている。撥水層3は、疎水性粒子4が無機バインダー5に混合分散された構造になっている。シーラント層2の撥水層3側には、プライマー層6が設けられている。
【0028】
蓋材100の基材層1は、紙とプラスチックフィルムのいずれか、または、紙とプラスチックフィルムの積層体からなっている。バリア性など要求される場合は、アルミ箔、アルミ蒸着フィルム、無機酸化物蒸着フィルムなどのバリア材を基材層1として、または、その1層として使用することができる。
【0029】
また、これらの紙、プラスチックフィルムなどを接着剤層、接着性樹脂層を介して積層してもかまわない。基材層1には、商品名などを示す印刷が施されていてもかまわない。その材質、厚みなどは、加工適性、求められる要求品質によって適宜選定される。
【0030】
使用する紙は、上質紙、特殊上質紙、コート紙、アート紙、キャストコート紙、模造紙、クラフト紙など適宜選定することができる。また、プラスチックフィルムはポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの延伸または未延伸のフィルムを適宜選定することができる。
【0031】
シーラント層2は、ポリオレフィン樹脂からなり、ポリオレフィン樹脂としては、ポリプロピレン樹脂や、ポリエチレン樹脂、或いは、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂とをポリマーブレンドした樹脂からなる。
【0032】
また、シーラント層2は、ピール時にシーラント層2内で凝集剥離する、あるいは、シールされる相手との界面で剥離するイージーピールシーラントであってもよく、その場合、ポリオレフィン樹脂からなるシーラント層2が、少なくともポリプロピレン樹脂、または、ポリエチレン樹脂、或いは、ポリプロピレン樹脂とポリエチレン樹脂に、更に、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−ブチルアクリレート共重合樹脂、アイオノマー樹脂の中の少なくとも1種類以上をポリマーブレンドしたポリオレフィン樹脂を使用することができる。そして、その配合量をコントロールすることで凝集力、ピール強度を適宜設計することができる。
【0033】
シーラント層2は、押出しラミネート方法で単層、または共押し出しで、押出しラミネートをしても良いし、単層または多層のシーラントフィルムをドライラミネート、ノンソルベントラミネート、サンドイッチラミネートで積層して設けることができる。共押出しラミネートや多層シーラントとなる場合は、熱圧着シールされる面に上記の樹脂層を配置する必要がある。
【0034】
疎水性粒子4は、粒子の表面が疎水性処理されたものである。疎水性処理を表面にされる粒子は無機酸化物であることが望ましく、シリカ、アルミナ、マグネシア、酸化チタンなどの無機酸化物であれば特に限定されないが、無機バインダー5との密着性を上げるためにはシリカが好ましい。
【0035】
シリカの製法は燃焼法、アーク法などの乾式製法や沈殿法、ゲル法などの湿式製法から得られる合成シリカ、または天然シリカでも構わないが、上記疎水性処理がされれば良い。乾式製法のシリカであれば、ナノレベルの凝集体で疎水性処理でき、湿式製法であればシリカ同士の結合が強固であるためナノ〜マイクロレベルの凝集体で疎水性処理できる。
【0036】
用いる粒子の平均粒径は、5nm〜10μmであれば表面に均一に疎水性処理がしやすい。平均粒径のバラツキは特に制約しないが、大小様々な粒径が存在することで、フラクタル構造という構造撥水を形成しやすい。平均粒径は、シリカが凝集した状態の粒径を言い、コールター法、動的散乱法、レーザー散乱法にて測定できるが、本発明では、動的散乱法により測定した値を用いる。
【0037】
疎水性処理は、シリカなど粒子の表面にシランカップリング剤をコートする方法、CVD法、プラズマ法による処理方法で行うことができ、ジメチルポリシロキサン(CH−Si−O−Si(O−R)、または、ジメチルシロキサンで疎水性処理され、あるいは、得られる官能基がジメチルシリル(CH)2Si(O−R)、トリメチルシリル(CHSiO−R、アミノアルキルシリル、アルキルシリル、メタクリルシリルの何れかであれば、処理方法は特定しなくて良い。これらの官能基を生成することで、臨界表面張力(表面エネルギー)を小さくすることで撥水性が良くなる。
【0038】
疎水性処理した粒子のDBA値は200mmol/kg以下が好ましく、より好ましくは20mmol/kg以下である。20mmol/kg以下であれば、疎水性処理後の残存シラノール基が少なく、高い撥水性を得やすい。
【0039】
DBA値(mmol/kg)は疎水性処理した粒子の疎水性の程度を表す。DBA値はシリカなどの疎水性処理した粒子1Kgを中和するのに要するジブチルアミンのmmol数のことであり、疎水性処理した粒子表面のシラノール基はジブチルアミンと容易に反応することから、滴定によって測定することができる。
【0040】
疎水性処理は粒子の凝集体の表面を処理していればよく、凝集体の内部が親水性であっても構わない。つまり、凝集体の表面に存在しない凝集体内部の個々の一次粒子は、表面が疎水性処理されてなくて、親水性であってもかまわない。
【0041】
更には、フラクタル構造という構造撥水効果を得るために、疎水性粒子4と一緒に平均粒径1〜50μmのナイロン、アクリル樹脂、スチレン樹脂、シリコーン、フッ素樹脂からなる他の粒子を添加しても構わない。
【0042】
アクリル樹脂は、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリアクリル酸エステル、ポリスチレン、架橋ポリメタクリル酸メチル、架橋ポリメタクリル酸ブチル、架橋ポリアクリル酸エステルであることが好ましい。また、スチレン樹脂は、架橋ポリスチレンであることが好ましい。
【0043】
シリコーンは、球状シリコーンゴムパウダーの表面をシリコーンレジンで被覆した粉末、または、ジメチルポリシロキサンを架橋した構造を持つシリコーンゴムの粉末、または、(RSiO3/2)nであらわされる架橋構造を持つポリオルガノシルセスキオキサン硬化物の粉末が良い。
【0044】
フッ素樹脂はポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化エチレンプロピレンテトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリテトラフルオロエチレンポリ四フッ化エチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、ポリ三フッ化塩化エチレンポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体(EFEP)などが良い。
【0045】
これらの他の粒子を蓋材100に固着させるために、この粒子を無機バインダー5に混合して塗布することが望ましい。より好ましくはゾルゲル法により作成されるシリカ膜をバインダーとすることが良い。
【0046】
無機バインダー5は、金属アルコキシドあるいは金属アルコキシドの加水分解物との複合物からゾルゲル法により作られる。金属アルコキシドとは、テトラエチルオルソシリケート(Si(OC)、トリイソプロピルアルミニウム(Al(OC)など一般式M(OR)n(Mは、Si、Ti、Al、Zrなどの金属、RはCH、Cなどのアルキル基)で表せるものである。その中でもMが、Si、Al、Tiである金属アルコキシドの特性が良い。
【0047】
疎水性粒子4と無機バインダー5の配合比率、及び、塗布する膜厚は、塗布する基材との密着、求める内容物のはじき性(撥水性)により適宜調整する。疎水性の凝集粒子は、粒子がランダムに無機バインダー5の中、及び、表面に存在して膜を形成する。
【0048】
疎水性粒子4と無機バインダー5を混合した撥水層3の塗布方法としては、ロールコート法、スピンコート法、ディッピングコート、グラビアコート法、スプレーコート法、コンマコート法などを用いることができる。
【0049】
ポリオレフィン樹脂からなるシーラント層2と、疎水性粒子4と無機バインダー5を混合した撥水層3の密着性を強くするために、シーラント層2の撥水層3側にプライマー層6を設ける。プライマー層6は、ウェットコートによって設けることができる。
【0050】
ウェットコートにより、プライマー層6を設けるには、ポリエステル樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリルアミン、ポリウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、塩酢ビ樹脂、変性オレフィン樹脂、イミン樹脂、ポリブタジエン樹脂、エチレン−アクリル酸共重合樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合樹脂、エチレン
−ブチルアクリレート共重合樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリエチレン樹脂、アイオノマー樹脂の中から少なくとも1種類以上を溶液、または、分散液にしてコートし、乾燥したコート層として設けたことができる。また、硬化剤のイソシアネート化合物を混合して水酸基と反応させても良い。
【0051】
また、上記溶液、または、分散液に有機官能基を有するシランカップリング剤あるいはシランカップリング剤の加水分解物を混合することができる。さらに、ポリオールおよびイソシアネート化合物との複合物を混合することもできる。
【0052】
シランカップリング剤の有機官能基が、ポリオールの水酸基またはイソシアネート化合物のイソシアネート基の少なくともどちらかと反応する官能基を含むことが良く、また、シランカップリング剤に含まれる有機官能基が、イソシアネート基、アミノ基、またはメルカプト基のいずれか1種であること、ポリオールがアクリルポリオールであることが更に好ましい。
【0053】
これらのウェットコートによるプライマー層6の厚みは0.01μm〜5μmが好ましい。5μmより厚いと容器とのシール阻害を起こし、0.01μmより薄いと接着性が劣ってくる。
【0054】
撥水層3は、疎水性粒子4を無機バインダー5に混合して塗膜化するため、ガラス化し、熱圧着シールする相手の容器の樹脂や容器表面のヒートシールニスの樹脂と比較して硬い層となる。
【0055】
熱圧着シール部において、撥水層3は疎水性粒子4および無機バインダー5からなるためにシーラント層2より伸縮が小さいので、この撥水層3はランダムに割れが生じる。プライマー層6により、シーラント層2と撥水層3の密着が強くなっているため、撥水層3はシーラント層2に密着したまま、その割れた部分に容器側の樹脂が入り込む、または、溶融したシーラント層2の樹脂がその割れた部分に入り込む。入り込んだ容器側とシーラント層2の樹脂どうしが溶融接着することで、強固なシールが構築される。
【実施例】
【0056】
以下に、本発明の具体的実施例について説明する。
【0057】
<実施例1>
基材層1として、2軸延伸ナイロンフィルム15μmにドライラミネートによりアルミ箔7μmを積層した。接着剤としては、主剤の脂肪族エステルにイソシアネート硬化剤を配合して用い、塗布量は3g/mで行った。
【0058】
次に、アルミ箔面に主剤の脂肪族エステルにイソシアネート硬化剤を配合した押し出し用アンカーコート剤を塗布量1g/mで塗布して、押し出しラミネート法によりシーラント層2の低密度ポリエチレンを30μmの厚みに設けた。
【0059】
さらに、アクリル樹脂を溶剤に溶かした溶液をシーラント層2の面に塗布して、塗布量1g/mのプライマー層6を設けた。アクリル樹脂には、ポリメタクリル酸メチルを用いた。
【0060】
平均粒径50nm(動的散乱法)の凝集シリカにジメチルポリシロキサンで疎水性処理を行った疎水性粒子4をメタノールに分散して、固形分5重量%の疎水性粒子液を作成した。
【0061】
また、テトラエチルオルソシリケート(TEOS)の加水分解溶液を行い、水を加えてSiOに換算した固形分が5重量%の無機バインダー液を作成した。
【0062】
上記の疎水性粒子液と、無機バインダー液を重量比1/1で混合し、撥水層3用のコート液を作成し、プライマー層6の面に塗布し、80℃1分間加熱して、塗布量2g/mの撥水層3を形成して、実施例1の蓋材を作成した。また、この実施例1の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0063】
<実施例2>
シーラント層2を押し出しラミネート法により30μmの厚みのポリプロピレンで設けた以外は、実施例1の蓋材と同様にして実施例2の蓋材を作成した。また、この実施例2の蓋材をポリプロピレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0064】
<実施例3>
低密度ポリエチレンにエチレン−メチルアクリレート共重合樹脂(EMA)を配合比10重量%になるように混合した混合樹脂を作成し、この混合樹脂を、押し出しラミネート法により30μmの厚みで押し出し、シーラント層2を設けた以外は、実施例1の蓋材と同様にして実施例3の蓋材を作成した。また、この実施例3の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0065】
<実施例4>
ポリプロピレンにエチレン酢酸ビニル共重合体を配合比10重量%になるように混合した混合樹脂を作成し、この混合樹脂を、押し出しラミネート法により30μmの厚みで押し出し、シーラント層2を設けた以外は、実施例1の蓋材と同様にして実施例4の蓋材を作成した。また、この実施例4の蓋材をポリプロピレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0066】
<実施例5>
平均粒径50nm(動的散乱法)の凝集シリカにトリメチルシリル官能基の疎水性処理を行った疎水性粒子4をメタノールに分散して、固形分5重量%の疎水性粒子液を作成した。
【0067】
この疎水性粒子液を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例5の蓋材を作成した。また、この実施例5の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0068】
<実施例6>
平均粒径50nm(動的散乱法)の凝集シリカにジメチルポリシロキサンで疎水性処理を行った疎水性粒子4をメタノールに分散して、固形分5重量%の分散液とし、さらに、架橋ポリメタクリル酸メチルビーズを分散液に5重量%添加して疎水性粒子液を作成した。
【0069】
この疎水性粒子液を使用した以外は、実施例1と同様にして、実施例6の蓋材を作成した。また、この実施例6の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0070】
<実施例7>
γ−イソシアネートプロピルトリメチルシラン/アクリルポリオール/トリイジルイソシアネートを重量比で1/5/1で溶剤に溶かした溶液をシーラント層2の面に塗布して、塗布量1g/mのプライマー層6を設け以外は、実施例1と同様にして、実施例7の蓋材を作成した。また、この実施例7の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0071】
以下に、本発明の比較例について説明する。
【0072】
<比較例1>
疎水性粒子4の替わりに、疎水性処理を行わない平均粒径50nm(動的散乱法)の凝集シリカを用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例1の蓋材を作成した。また、この比較例1の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0073】
<比較例2>
無機バインダー5を使用しないで、疎水性粒子液のみで撥水層3を形成した以外は、実施例1と同様にして、比較例2の蓋材を作成した。また、この比較例2の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0074】
<比較例3>
無機バインダー5の替わりに、エチレン酢酸ビニル共重合体樹脂の5重量%水溶液を用いた以外は、実施例1と同様にして、比較例3の蓋材を作成した。また、この比較例3の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0075】
<比較例4>
プライマー層6の替わりにコロナ処理によるコロナ処理層を設けた以外は、実施例1と同様にして、比較例4の蓋材を作成した。また、この比較例4の蓋材をポリエチレンの容器のフランジ部に加熱圧着した。
【0076】
<試験方法>
実施例と比較例の蓋材および蓋材を加熱圧着した容器を下記の方法で試験し、比較評価した。
【0077】
<はじき性>
実施例と比較例の蓋材の撥水層3面に水、および、ヨーグルト(ダノンビオ(登録商標):プレーン無糖)を滴下し、そのはじき性をそれぞれ評価した。評価は、はじく蓋材を○とし、はじかない蓋材を×とし、その結果を表1にまとめた。
【0078】
<シール性>
実施例と比較例の蓋材を加熱圧着した容器のシール強度を、レトルト殺菌を行う前とレトルト殺菌をおこなった後にそれぞれ評価し、また、はがした部分(加熱圧着部分)の撥水層3の位置をチェックした。
【0079】
加熱圧着のヒートシール条件は、温度200℃でシールバー押圧0.2MPa、シール時間2.0secでヒートシールした。また、レトルト殺菌は、内容物に水を入れ、100℃30分行った。
【0080】
シール強度が十分にあり、はがした部分(加熱圧着部分)の撥水層3の位置が、容器側にあるものを○とし、それ以外を×として評価した。その結果を表1にまとめた。
【0081】
【表1】
以下に、実施例と比較例との比較結果について説明する。
【0082】
<比較結果>
実施例1から実施例7の蓋材は、その撥水層3面の水やヨーグルトに対するはじき性が、いずれも良好であり、また、実施例1から実施例7の蓋材を加熱圧着した容器のレトルト殺菌前後のシール性も良好であった。
【0083】
一方、比較例1および比較例3の蓋材は、蓋材を加熱圧着した容器のレトルト殺菌前後のシール性は良好であったが、その撥水層3面の水やヨーグルトに対するはじき性が、いずれも得られなかった。
【0084】
また、比較例2および比較例4の蓋材は、その撥水層3面の水やヨーグルトに対するはじき性が、いずれも良好であったが、蓋材を加熱圧着した容器のレトルト殺菌前後のシール性は、撥水層が剥離してしまい不良であった。
【符号の説明】
【0085】
100・・・蓋材
1・・・基材層
2・・・シーラント層
3・・・撥水層
4・・・疎水性粒子
5・・・無機バインダー
6・・・プライマー層
図1