特許第5962371号(P5962371)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5962371ロボットシステム並びにセンサ検査装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962371
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ロボットシステム並びにセンサ検査装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20160721BHJP
   B25J 19/06 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B25J13/08 Z
   B25J19/06
【請求項の数】20
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2012-206517(P2012-206517)
(22)【出願日】2012年9月20日
(65)【公開番号】特開2014-61556(P2014-61556A)
(43)【公開日】2014年4月10日
【審査請求日】2015年7月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100093861
【弁理士】
【氏名又は名称】大賀 眞司
(74)【代理人】
【識別番号】100129218
【弁理士】
【氏名又は名称】百本 宏之
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
【審査官】 木原 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−028883(JP,A)
【文献】 特開2011−255457(JP,A)
【文献】 特開2003−205484(JP,A)
【文献】 特開平04−178708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00 − 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットと、
前記ロボットの動作を制御するロボット制御部と
を備え、
前記ロボット制御部は、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分に基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
前記ロボット制御部は、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分に基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1に記載のロボットシステム。
【請求項3】
前記ロボット制御部は、
前記手先工具を既定の押当て力で前記押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記既定の押当て力で前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分に基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のロボットシステム。
【請求項4】
前記ロボット制御部は、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てる前の前記力覚センサの計測値でなる第1の計測値を取得し、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てた後の前記力覚センサの計測値でなる第2の計測値を取得し、
前記第2の計測値と前記第1の計測値との差分に基づいて、前記押当て面に前記手先工具を押し当てたときに、前記手先工具が前記押当て面から受ける反力を取得し、
取得した反力を前記押当て面に固定された座標系の力に変換することにより、前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分を取得する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項5】
前記ロボット制御部は、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分を予め定められた閾値と比較し、当該力成分が前記閾値以上の場合に、前記力覚センサに異常があると判定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項6】
前記ロボット制御部は、
異なる複数の姿勢で前記手先工具を同一又は異なる押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
各前記姿勢ごとに、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項7】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットと、
前記ロボットの動作を制御するロボット制御部と
を備え、
前記ロボット制御部は、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とするロボットシステム。
【請求項8】
前記ロボット制御部は、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てる前の前記力覚センサの計測値でなる第1の計測値を取得し、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てた後の前記力覚センサの計測値でなる第2の計測値を取得し、
前記第2の計測値と前記第1の計測値との差分に基づいて、前記押当て面に前記手先工具を垂直に押し当てたときに、前記手先工具が前記押当て面から受ける反力を取得し、
取得した反力を前記押当て面に固定された座標系の力に変換することにより、前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得する
ことを特徴とする請求項7に記載のロボットシステム。
【請求項9】
前記ロボット制御部は、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分との比の値を予め定められた閾値と比較し、当該比の値が前記閾値以上の場合に、前記力覚センサに異常があると判定する
ことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載のロボットシステム。
【請求項10】
前記ロボット制御部は、
異なる複数の姿勢で前記手先工具を同一又は異なる押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
各前記姿勢ごとに、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分との比の値に基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とする請求項7乃至請求項9のいずれか一項に記載のロボットシステム。
【請求項11】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査装置において、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とするセンサ検査装置。
【請求項12】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査装置において、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得し、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する
ことを特徴とするセンサ検査装置。
【請求項13】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査方法において、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させる第1のステップと、
前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得する第2のステップと、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する第3のステップと
を備えることを特徴とするセンサ検査方法。
【請求項14】
前記第1のステップでは、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させる
ことを特徴とする請求項13に記載のセンサ検査方法。
【請求項15】
前記第1のステップでは、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てる前の前記力覚センサの計測値でなる第1の計測値を取得し、
前記第2のステップでは、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てた後の前記力覚センサの計測値でなる第2の計測値を取得し、
前記第2の計測値と前記第1の計測値との差分に基づいて、前記押当て面に前記手先工具を押し当てたときに、前記手先工具が前記押当て面から受ける反力を取得し、
取得した反力を前記押当て面に固定された座標系の力に変換することにより、前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分を取得する
ことを特徴とする請求項13又は請求項14に記載のセンサ検査方法。
【請求項16】
前記第3のステップでは、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分を予め定められた閾値と比較し、当該力成分が前記閾値以上の場合に、前記力覚センサに異常があると判定する
ことを特徴とする請求項13乃至請求項15のいずれか一項に記載のセンサ検査方法。
【請求項17】
前記ロボットの姿勢を変えながら、各姿勢において、前記第1乃至第3のステップを繰り返す
ことを特徴とする請求項13乃至請求項16のいずれか一項に記載のセンサ検査方法。
【請求項18】
ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査方法において、
前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させる第1のステップと、
前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得する第2のステップと、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する第3のステップと
を備えることを特徴とするセンサ検査方法。
【請求項19】
前記第1のステップでは、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てる前の前記力覚センサの計測値でなる第1の計測値を取得し、
前記第2のステップでは、
前記押当て面に前記手先工具を押し当てた後の前記力覚センサの計測値でなる第2の計測値を取得し、
前記第2の計測値と前記第1の計測値との差分に基づいて、前記押当て面に前記手先工具を垂直に押し当てたときに、前記手先工具が前記押当て面から受ける反力を取得し、
取得した反力を前記押当て面に固定された座標系の力に変換することにより、前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得する
ことを特徴とする請求項18に記載のセンサ検査方法。
【請求項20】
前記第3のステップでは、
取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分との比の値を予め定められた閾値と比較し、当該比の値が前記閾値以上の場合に、前記力覚センサに異常があると判定する
ことを特徴とする請求項18又は請求項19に記載のセンサ検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットシステム並びにセンサ検査装置及び方法に関し、特に力制御可能なロボット(以下、これを力制御ロボットと呼ぶ)を含むロボットシステムに適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
力制御ロボットでは、ロボットアームの先端部に取り付けられた手先工具(工具又は計測用ピンなど)に作用する負荷を力覚センサにより検出し、この負荷が既定値となるようにロボットの位置及び姿勢を制御するようにして力制御を行っている。このため、力制御ロボットでは、力覚センサによる負荷の検出精度として高い検出精度が求められており、力覚センサが正しい力やトルクを検出しているかどうかを適宜検査する必要がある。
【0003】
このような力制御ロボットにおける力覚センサの検査方法の1つとして、従来、力覚センサの現在の計測値を同一ロボットの同一姿勢における過去の計測値と比較し、力覚センサの現在の計測値と、力覚センサの過去の計測値との差分が予め定められた閾値を超えた場合にオペレータに校正を要求する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−225592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示された検査方法を、手先工具が交換自在な力制御ロボットに適用しようとすると、手先工具の種類ごとの重量が異なる場合に、手先工具ごとの力覚センサの過去の計測値を保存する必要があり、さらに手先工具を交換するごとに、交換後の手先工具の過去の計測値を読み出して判定を行う必要があるなど、検査作業が煩雑となる問題があった。
【0006】
また、通常、力覚センサは温度変化等に伴って特性が変化し易い。このため、力制御ロボットに対して特許文献1に開示された検査方法を適用する場合、力覚センサの過去の計測値を適宜更新する必要がある。しかしながら、このような更新作業は煩雑であり、また緩やかな精度劣化を見落とす可能性が高いという問題もある。
【0007】
さらに、特許文献1に開示された検査方法において、力覚センサの現在及び過去の計測値間の比較を行う際の閾値を、力覚センサの特性変化を許容する十分な余裕を含んだ値に設定すると、異常判定の精度が低くなるという問題もある。
【0008】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、精度良くかつ簡易に力覚センサの検査を行い得るロボットシステム並びにセンサ検査装置及び方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる課題を解決するため本発明においては、ロボットシステムにおいて、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットと、前記ロボットの動作を制御するロボット制御部とを設け、前記ロボット制御部が、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定するようにした。
【0010】
また本発明においては、ロボットシステムにおいて、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットと、前記ロボットの動作を制御するロボット制御部とを設け、前記ロボット制御部が、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定するようにした。
【0011】
また本発明においては、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査装置において、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定するようにした。
【0012】
さらに本発明においては、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査装置において、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させ、前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得し、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定するようにした。
【0013】
さらに本発明においては、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査方法において、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に押し当てるよう前記ロボットを動作させる第1のステップと、前記手先工具を前記押当て面に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分を取得する第2のステップと、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する第3のステップとを設けるようにした。
【0014】
さらに本発明においては、ロボットアームの先端部に力覚センサを介して手先工具が取り付けられた力制御型のロボットにおける前記力覚センサを検査するセンサ検査方法において、前記手先工具を所定の又は既定の押当て面に垂直に押し当てるよう前記ロボットを動作させる第1のステップと、前記手先工具を前記押当て面に垂直に押し当てたときに前記力覚センサにより計測される、前記手先工具が前記押当て面から受ける前記手先工具の前記押当て面への押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とを取得する第2のステップと、取得した前記手先工具の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分とに基づいて前記力覚センサの異常の有無を判定する第3のステップとを設けるようにした。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、力覚センサの検査のために、力覚センサの過去の計測値を記憶しておく必要も、また当該計測値を適宜更新する必要もなく、さらに緩やかな精度劣化を見落とすこともない。よって精度良くかつ簡易に力覚センサの検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】実施の形態によるロボットシステムの全体構成を概念的に示す概念図である。
図2図1のロボットシステムにおける各種座標系の説明に供する略線図である。
図3】第1のセンサ検査処理の処理手順を示すフローチャートである。
図4】第2のセンサ検査処理の処理手順を示すフローチャートである。
図5】第3のセンサ検査処理の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0018】
(1)第1の実施の形態
(1−1)本実施の形態によるロボットシステムの構成
図1において、1は全体として本実施の形態によるロボットシステムを示す。このロボットシステム1は、テーブル2に固定されたワーク(被加工物)3に対してバリ取りなどの所定の加工処理を施すロボット4と、当該ロボット4の動作を制御するロボット制御部5とから構成される。
【0019】
ロボット4は、基台10上に設置された多関節のロボットアーム11を備え、当該ロボットアーム11の先端にフランジ部12を介して力覚センサ13が固定されている。また力覚センサ13には、スピンドルモータ14を介して手先工具15が交換自在に取り付けられており、これにより手先工具15がワーク3に接触したときに手先工具15がワーク3から受ける負荷の大きさを力覚センサ13によって計測し得るようになされている。
【0020】
ロボット制御部5は、制御装置6及びコントローラ7から構成される。制御装置6は、CPU(Central Processing Unit)20及びメモリ21等の情報処理資源を備えるコンピュータ装置であり、例えばパーソナルコンピュータから構成される。制御装置6は、図示しないCAD(computer aided design)システムから与えられたCADデータと、力覚センサ13から与えられる計測値と、コントローラ7から与えられるロボット4の位置及び姿勢を表す位置及び姿勢データとに基づいて手先工具15を移動させるべき軌道を計算し、かかる計算により得られた軌道データをコントローラ7に通知する。
【0021】
コントローラ7は、制御装置6と同様に、CPU22及びメモリ23等の情報処理資源を備えるコンピュータ装置であり、例えばパーソナルコンピュータから構成される。コントローラ7は、制御装置6から与えられる軌道データと、ロボット4内の図示しない各センサから取得した上述の位置及び姿勢データとに基づいて、手先工具15が制御装置6により算出された軌道上を移動するようにロボット4の位置及び姿勢を制御する。
【0022】
(1−2)本実施の形態による力覚センサ検査方式
次に、かかるロボットシステム1において定期的(例えば1日に1回)に実行される力覚センサ13の検査処理(以下、これを力覚センサ検査処理と呼ぶ)について説明する。
【0023】
上述したロボットシステム1において、ロボット4が手先工具15をテーブル2の上面等の所定の押当て面に垂直に押し当てる動作を行った場合、手先工具15が押当て面から受ける反力は、押当て面に対する手先工具15の押当て方向(押当て面と垂直な方向)と反対方向の力のみであるため、力覚センサ13が正常に機能しているときには、力覚センサ13によって手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分がほとんど計測されない(理想的には0)。
【0024】
一方、力覚センサ13に異常が発生しているときには、ロボット4が手先工具15を所定の押当て面に垂直に押し当てる動作を行った場合、力覚センサ13によって手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分が計測される。これは力覚センサ13内の不具合が生じたセンサ素子から誤った電圧レベルの信号が出力され、この信号に基づいて任意の座標系における各方向成分を算出する際に、誤差成分が各方向に分散されるため、本来生じるはずのない押当て方向と垂直な方向の力成分を検出したかのような算出結果となることに起因する。このとき押当て方向の力成分にも誤差成分が混入しているが、別の手段により真の押当て力を計測できなければ、押当て方向の力成分における誤差成分の有無は判別することができない。
【0025】
そこで、本実施の形態によるロボットシステム1では、ロボット4のロボットアーム11の先端に取り付けられた手先工具15を、傾き角が既知の押当て面(以下、テーブル2の上面とし、これをテーブル面と呼ぶ)に垂直に押し当て、このとき力覚センサ13により検出される、手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かの判定を行う。
【0026】
具体的に、本実施の形態によるロボットシステム1では、まず、ロボット4の手先工具15をテーブル面に接触させない程度に近付けた状態で、当該手先工具15をテーブル面に押し当てる姿勢をロボット4にとらせる。そしてこの状態における力覚センサ13の計測値を取得し、記憶しておく。
【0027】
このときの力覚センサ13の計測値は、力覚センサ13が6軸力覚センサであるものとして、次式のように表すことができる。
【数1】
【0028】
なお(1)式において、Fx0、Fy0及びFz0は、力覚センサ13により計測されたセンサ座標系Σ図2参照)のX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の力をそれぞれ表し、Tx0、Ty0及びTz0は、センサ座標系ΣにおけるX軸回りのトルク、Y軸回りのトルク及びZ軸回りのトルクをそれぞれ表す。
【0029】
また(1)式において、左上の添え字はその座標系を表す。例えば、図2に示すように、「E」はフランジ部12に固定された座標系(以下、これをフランジ座標系と呼ぶ)Σを表し、「S」は力覚センサ13に固定された座標系(以下、これをセンサ座標系と呼ぶ)Σを表す。また「TCP」は手先工具15の先端近傍に設定されたツール・センタ・ポイント(Tool Center Point)を原点とする座標系(以下、これをTCP座標系と呼ぶ)ΣTCPを表す。さらに「TBL」はテーブル面に固定された座標系(以下、これをテーブル座標系と呼ぶ)ΣTBLを表し、「R」はロボット4の基台10(図1)に固定された座標系(以下、これをロボット座標系と呼ぶ)Σを表す。
【0030】
従って、(1)式の「」は、センサ座標系Σでの計測値であることを意味する。因みに、力覚センサ13内の各センサ素子が歪ゲージである場合、個々の歪ゲージの出力電圧の変化にその歪ゲージ固有のパラメータ行列を乗算することにより力覚センサ13の計測値を得ることができる。
【0031】
続いて、手先工具15の先端をテーブル面に垂直に押し当てるようロボット4を動作させる。この結果、ロボット4はテーブル面から当該テーブル面に対して垂直な方向の反力を受ける。この際、かかる反力が予め定めた目標値になるように制御しても良いが、ここではとにかくロボット4の手先工具15の先端をテーブル面に垂直に押し当てていれば良い。
【0032】
次いで、ロボット4の手先工具15の先端をテーブル面に垂直に押し当てている状態(手先工具15がテーブル面から反力を受けている状態)で、再度、次式で表される力覚センサ13の計測値を取得する。
【数2】
【0033】
この計測値には、テーブル面からの反力だけでなく、手先工具15の重量成分も含まれている。そこで、次式のように、(2)式で表される計測値から、(1)式で表される計測値を引くことにより、手先工具15がテーブル面から受ける反力Fのみを算出する。この際、力覚センサ13のゼロ点誤差も除去されることになる。
【数3】
【0034】
次いで、(3)式で表されるセンサ座標系Σでの反力(力及びトルク)Fを、次式
【数4】
で表されるテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFに変換する。このような変換は、次式
【数5】
により行うことができる。
【0035】
なお(4)式において、F,F及びFはそれぞれテーブル座標系ΣTBLのX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向の力を表し、T,T及びTはテーブル座標系ΣTBLにおけるそれぞれX軸回り、Y軸回り及びZ軸回りのトルクを表す。また(5)式において、TBLはテーブル座標系ΣTBLを基準としたセンサ座標系Σの回転行列を表し、TBLはテーブル座標系ΣTBLを基準としたセンサ座標系Σの並進ベクトルを表す。
【0036】
ここで、センサ座標系Σとテーブル座標系ΣTBLとの相対位置関係は、実際は多くのデータを経由する。例えば図2について上述したテーブル座標系ΣTBLは、ロボット座標系Σを基準とした位置及び姿勢で表現されている。またTCP座標系ΣTCPは、ロボット4のフランジ座標系Σを基準とした位置及び姿勢で表現されている。センサ座標系Σも同様に、ロボット4のフランジ座標系Σを基準とした位置及び姿勢で表現されている。さらにフランジ座標系Σは、ロボット座標系Σを基準とした位置及び姿勢データとして取得することができる。
【0037】
この場合において、ロボット座標系Σからテーブル座標系ΣTBLへの同次変換行列TBL、フランジ座標系ΣからTCP座標系ΣTCPへの同次変換行列TCP、フランジ座標系Σからセンサ座標系Σへの同次変換行列及びロボット座標系Σからフランジ座標系への同次変換行列はいずれも既知である。
【0038】
またセンサ座標系Σからテーブル座標系ΣTBLへの同次変換行列TBLは、次式
【数6】
で与えられ、この同次変換行列TBLは次式を満たす。
【数7】
【0039】
よって、既知の同次変換行列TBL及びを利用して(7)式により同次変換行列TBLを算出し、算出結果と(6)式とを比較することにより(5)式の回転行列TBL及び並進ベクトルTBLを得ることができる。
【0040】
また[r×]は、次式
【数8】
で表されるベクトルの外積行列を表す。この外積行列は、次式のように表される。
【数9】
【0041】
以上により(5)式の右辺の変換行列を得ることができ、この変換行列を用いて(5)式の演算を実行することにより、センサ座標系Σでの力及びトルクFを、テーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFに変換することが可能となる。
【0042】
続いて、以上のようにして算出したテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFに基づいて、力覚センサ13の状態を判定する。
【0043】
例えば、テーブル座標系ΣTBLのZ軸がテーブル面に垂直な方向に設定されている場合、(4)式で表されるテーブル座標系基準での力及びトルクTBLFにおいて、Z軸方向の力成分F以外の成分(F,F,T,T,T)は、上述のように理想的に「0」となる。
【0044】
そこで、かかるZ軸方向の力成分F以外の成分のうち、X軸方向の力成分F及びY軸方向の力成分Fを利用して、これら力成分F及びFが予め設定された第1の閾値(以下、これを第1の異常判定閾値と呼ぶ)よりも小さいか否かに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定する。この際、力成分F及びFに加えて、X軸回りのトルク成分T、Y軸回りのトルク成分T及びZ軸回りのトルク成分Tを力覚センサ13の異常判定に利用するようにしても良い。具体的には、トルク成分T、T及びTがそれぞれそのトルク成分T、T及びTについて予め定めた第1の異常判定閾値よりも小さいか否かを判定し、判定結果を力覚センサ13に異常が発生しているか否かの判定に利用すれば良い。
【0045】
以上のような方法により力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定することができるが、1つの姿勢での検査だけでは、手先工具15のテーブル面への押当て方向が障害が発生した歪ゲージの検出結果が影響しない方向であったときに、力覚センサ13の異常を見落とすことになる。
【0046】
そこで、本実施の形態による力覚センサ検査方式では、上述のような判定をロボット4の位置及び姿勢を変えながら複数回行い、その結果に基づいて総合的に力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判断する。
【0047】
(1−3)第1の力覚センサ検査処理
ここで、上述のような力覚センサ検査処理(以下、これを第1の力覚センサ検査処理と呼ぶ)は、制御装置6のメモリ21に格納されている図示しない制御プログラムに基づき、図3に示す処理手順に従って、当該制御装置6のCPU20の制御のもとに定期的に行われる。
【0048】
実際上、制御装置6のCPU20は、第1の力覚センサ検査処理を開始すると、まず、手先工具15をテーブル面に接触させない程度に近付けさせ、かつ、当該手先工具15をテーブル面に押し当てる姿勢をとるようにロボット4を動作させる(SP1)。この後、CPU20は、(1)式について上述したこの姿勢における力覚センサ13の計測値を取得し、取得した計測値をメモリ21に格納する(SP2)。
【0049】
続いて、CPU20は、手先工具15をテーブル2の上面(テーブル面)の所定位置に垂直に押し当てる動作をロボット4に開始させ(SP3)、この後、力覚センサ13の出力信号に基づいて、ロボット4の手先工具15がテーブル面に接触するのを待ち受ける(SP4:NO)。
【0050】
CPU20は、やがて力覚センサ13の出力信号に基づいてロボット4の手先工具15がテーブル面に接触したのを確認すると(SP4:YES)、(2)式について上述したそのときの力覚センサ13の計測値を取得する(SP5)。
【0051】
そしてCPU20は、ステップSP5において取得した計測値と、ステップSP2において取得した計測値との差分をとることにより、(3)式について上述したこのときロボット4の手先工具15がテーブル面から受ける反力Fを算出し(SP6)、この後、このようにして得られたセンサ座標系での反力Fを、(4)式について上述したテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFに変換する(SP7)。
【0052】
続いて、CPU20は、ステップSP7において得られたテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFのうち、テーブル面と垂直な方向以外の力成分が、いずれもその力成分について予め設定されている第1の異常判定閾値よりも小さいか否かを判断する(SP8)。
【0053】
ここで、この判断で否定結果を得ることは、力覚センサ13に異常が発生している可能性があることを意味する。かくして、このときCPU20は、力覚センサ13のチェック又は交換を促す警告画面を例えば制御装置6に表示させ、又は、オペレータに力覚センサ13をチェック若しくは交換すべき旨のメールを送信するなどの処理を実行した後(SP9)、この力覚センサ検査処理を終了する。
【0054】
これに対してステップSP8の判断で肯定結果を得ることは、そのときのロボット4の姿勢において実行した検査では力覚センサ13に異常が発見されなかったことを意味する。かくして、このときCPU20は、検査対象の姿勢として次に設定されている姿勢があるか否かを判断する(SP10)。そしてCPU20は、この判断で肯定結果を得ると、ステップSP1に戻り、この後、次の姿勢についてステップSP1〜ステップSP9の処理を同様に繰り返す。
【0055】
そしてCPU20は、やがて予め定められたすべての姿勢についてステップSP1〜ステップSP9の処理を実行することによりステップSP10で肯定結果を得ると、必要に応じて力覚センサ13に異常が発生していない旨を制御装置6に表示させ又はその旨のメールをオペレータに送信した後、この第1の力覚センサ検査処理を終了する。
【0056】
(1−4)本実施の形態の効果
以上のように本実施の形態によるロボットシステム1では、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当て、このとき力覚センサ13により検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分に基づいて力覚センサ13の異常の有無を判定するようにしているため、力覚センサ13の過去の計測値を記憶しておく必要も、また当該計測値を適宜更新する必要もない。また本ロボットシステム1では、力覚センサ13の異常判定を手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分が第1の異常判定閾値よりも小さいか否か(手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分が第1の異常判定閾値以上か否か)に基づいて行うため、緩やかな精度劣化を見落とすこともなく、さらに当該第1の異常判定閾値を力覚センサ13の特性変化を許容する十分な余裕を含んだ値に設定する必要もない。よって本ロボットシステム1によれば、精度良くかつ簡易に力覚センサ13の検査を行うことができる。
【0057】
また本実施の形態によるロボットシステム1では、上述のような力覚センサ13の検査を複数の位置及び姿勢で行うため、力覚センサ13の計測精度の劣化が一方向にのみ生じた場合においても、力覚センサ13の異常を確実に検出することができる。
【0058】
(2)第2の実施の形態
上述のようにロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てる際に何らの力制御をすることなく、単に力覚センサ13により検出された手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分が所定の閾値よりも小さいか否かだけで力覚センサ13の異常の有無を判定しようとすると、精度良く力覚センサ13の異常を検出し得ないおそれがある。
【0059】
これは、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てる際の押当て力が弱いと、力覚センサ13によって検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分も小さくなるため、力覚センサ13に異常が生じていたとしても、(4)式で表されるZ軸方向の力成分F以外の成分(F,F,T,T,T)が上述の第1の異常判定閾値よりも小さくなることがあるからである。
【0060】
この場合において、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てたときに力覚センサ13によって検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさは、そのとき力覚センサ13により検出される手先工具15の押当て方向の力成分(すなわちテーブル面と垂直な方向の力成分)の大きさに比例する。
【0061】
そこで、本実施の形態によるロボットシステム30(図1)では、ロボット4の手先工具15を既定の押当て力(圧力)で垂直にテーブル面に押し当てるように当該ロボット4の力制御を行い、このとき力覚センサ13により検出される手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定する。
【0062】
具体的に、ロボットシステム30では、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てる際、(4)式で表されるテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFのうち、テーブル面と垂直な方向の力成分(F)の大きさが予め設定された目標値となるようにロボット4の力制御を行う。そして、このときのテーブル座標系ΣTBLにおける手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分(F,F)が、予め設定された閾値(以下、これを第3の異常判定閾値と呼ぶ)よりも小さいか否かに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定する。
【0063】
図4は、本実施の形態によるロボットシステム30において、図3について上述した第1の力覚センサ検査処理に代えて、制御装置31(図1)のメモリ21に格納された図示しない制御プログラムに基づき、当該制御装置31のCPU20によって定期的に実行される第2の力覚センサ検査処理の具体的な処理手順を示す。
【0064】
実際上、制御装置31のCPU20は、本実施の形態による第2の力覚センサ検査処理を開始すると、ステップSP20〜ステップSP26を第1の力覚センサ検査処理(図3)のステップSP1〜ステップSP7と同様に処理し、この後、ステップSP26において得られたテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFのうち、Z軸方向の力成分F((4)式参照)が予め設定された目標値となったか否かを判定する(SP27)。
【0065】
CPU20は、この判定で否定結果を得ると、ステップSP24に戻り、この後ロボット4がより強い押当て力で手先工具15をテーブル面に押し当てるようにロボット4を制御しながら、ステップSP24〜ステップSP27を同様に繰り返す。
【0066】
そしてCPU20は、やがてかかるZ軸方向の力成分Fが目標値に到達することによりステップSP27において肯定結果を得ると、この後、ステップSP28〜ステップSP30を、図3について上述した第1の力覚センサ検査処理のステップSP8〜ステップSP10と同様に処理し、この後、この第2の力覚センサ検査処理を終了する。
【0067】
以上のように本実施の形態によるロボットシステム30では、ロボット4の手先工具15を既定の押当て力で垂直にテーブル面に押し当てるように当該ロボット4の力制御を行い、このとき力覚センサ13により検出される手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かの判定を行うようにしているため、第1の実施の形態のロボットシステム1と比べてかかる判定をより精度良く行うことができる。
【0068】
(3)第3の実施の形態
上述のように、力覚センサ13に異常が生じている場合、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てたときに力覚センサ13によって検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分の大きさは、そのとき力覚センサ13により検出される手先工具15の押当て方向の力成分(テーブル面からの反力)に比例する。
【0069】
従って、力覚センサ13により検出される手先工具15の押当て方向の力成分と、そのとき力覚センサ13によって検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分との比は、力覚センサ13の状態に応じて、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てる際の押当て力(圧力)に関わりなく一定となる。またこの比の値は、力覚センサ13によって検出される手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分が大きいほど(つまり力覚センサ13の状態が悪いほど)大きくなる。
【0070】
そこで本実施の形態によるロボットシステム40(図1)では、ロボット4の手先工具15を垂直にテーブル面に押し当てるように当該ロボット4を動作させ、このとき力覚センサ13により検出される手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分との比の値に基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定する。
【0071】
具体的に、ロボットシステム40では、(4)式で表されるテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFのうち、手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分(F、F)と、当該押当て方向の力成分(F)との比の値が予め設定された第2の閾値(以下、これを第2の異常判定閾値と呼ぶ)よりも小さいか否かに基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定する。
【0072】
図5は、本実施の形態によるロボットシステム40において、図3について上述した第1の力覚センサ検査処理に代えて、制御装置41(図1)のメモリ21に格納された図示しない制御プログラムに基づき、当該制御装置41のCPU20によって定期的に実行される第3の力覚センサ検査処理の具体的な処理手順を示す。
【0073】
実際上、制御装置41のCPU20は、本実施の形態による第3の力覚センサ検査処理を開始すると、ステップSP40〜ステップSP46を第1の力覚センサ検査処理(図3)のステップSP1〜ステップSP7と同様に処理し、この後、スステップSP46において得られたテーブル座標系ΣTBLの力及びトルクTBLFのうち、手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分(F、F)を当該押当て方向の力成分(F)で割る(除算)ことにより、手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分(F、F)と、当該押当て方向の力成分(F)との比の値を計算する。そしてCPU20は、この計算により得られたかかる比の値が、いずれも手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分についてそれぞれ予め設定されている第2の異常判定閾値よりも小さいか否かを判断する(SP47)。
【0074】
CPU20は、この判断で否定結果を得ると第1の力覚センサ検査処理のステップSP9と同様の異常検出処理を実行した後(SP48)、この第3の力覚センサ検査処理を終了する。
【0075】
これに対してCPU20は、ステップSP47の判断で肯定結果を得ると、検査対象の姿勢として次に設定されている姿勢があるか否かを判断する(SP49)。そしてCPU20は、この判断で肯定結果を得ると、ステップSP40に戻り、この後、次の姿勢についてステップSP40〜ステップSP49の処理を同様に繰り返す。
【0076】
そしてCPU20は、やがて予め定められたすべての姿勢についてステップSP40〜ステップSP48の処理を実行することによりステップSP49で肯定結果を得ると、必要に応じて力覚センサ13に異常が発生していない旨を制御装置41に表示させ又はその旨のメールをオペレータに送信した後、この第3のセンサ検査処理を終了する。
【0077】
以上のように本実施の形態によるロボットシステム40では、ロボット4の手先工具15を垂直にテーブル面に押し当てたときに力覚センサ13により検出される手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具15の押当て方向と垂直な方向の力成分と、当該押当て方向の力成分との比の値に基づいて、力覚センサ13に異常が発生しているか否かを判定するため、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てる際の押当て力の強弱に関わりなく、力覚センサ13の異常の有無を精度良く検出することができる。
【0078】
(4)他の実施の形態
なお上述の第1〜第3の実施の形態においては、力覚センサ13が6軸力覚センサである場合について述べたが、本発明はこれに限らず、力覚センサ13が6軸力覚センサ以外の例えば3軸力覚センサである場合にも本発明によるセンサ検査方式を適用することができる。
【0079】
また上述の第1〜第3の実施の形態においては、制御装置6,31,41及びコントローラ7を別装置として構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、これら制御装置6,31,41及びコントローラ7を同一装置として構成するようにしても良い。
【0080】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、ロボット4の手先工具15を押し当てる押当て面をテーブル2の上面(テーブル面)とするようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、かかる押当て面をテーブル2の側面やワーク3の一面に設定するようにしても良い。このようにしても同様の効果を得ることができる。
【0081】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、複数の位置及び姿勢で力覚センサ13の検査を行うようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば、ロボット4の位置及び姿勢を一定にして、手先工具15を押し当てる方向を変える(個々の押当て方向からそれぞれ異なる押当て面に手先工具15を垂直に押し当てる)ようにしても良い。
【0082】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、ロボット4の力覚センサ13を検査するセンサ検査装置を制御装置6,31,41の一部機能として構成するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、かかるセンサ検査装置としての機能を有する装置を制御装置6,31,41及びコントローラ7とは別個の装置として設けるようにしても良い。
【0083】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、図3について上述した力覚センサ検査処理を定期的に実行するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、例えば定期的な実行に代えて又は加えてオペレータからの指示に基づいてかかる力覚センサ検査処理を実行するようにしても良い。
【0084】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、第1〜第3の力覚センサ検査処理時、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てるようにロボット4を制御するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、手先工具15をテーブル面に対して垂直以外の方向に押し当てるように制御装置6,31,41のCPU20がロボット4を制御するようにしても良い。手先工具15をテーブル面に押し当てたときのテーブル面と手先工具15との間の摩擦力が小さい場合(テーブル面及び手先工具15の少なくとも一方の摩擦係数が小さい場合)には、このようにしても第1〜第3の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0085】
さらに上述の第1〜第3の実施の形態においては、ロボット4の手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てたときに当該手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具のテーブル面の押付け方向と垂直な方向の力成分に基づいて力覚センサ13の故障の有無を判定するようにした場合について述べたが、本発明はこれに限らず、手先工具15をテーブル面に垂直に押し当てたときに当該手先工具15がテーブル面から受ける当該手先工具のテーブル面の押付け方向と垂直な方向以外の方向の力成分に基づいて力覚センサ13の故障の有無を判定するようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明は、力覚センサを利用した種々の構成のロボットに広く適用することができる。
【符号の説明】
【0087】
1,30,40……ロボットシステム、2……テーブル、3……ワーク、4……ロボット、5……ロボット制御部、6,31,41……制御装置、7……コントローラ、11……ロボットアーム、13……力覚センサ、15……手先工具。
図1
図2
図3
図4
図5