(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
反応容器内に出発ロッドとガラス微粒子生成用バーナーを設置し、前記ガラス微粒子生成用バーナーが形成する火炎内でガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子を前記出発ロッドに堆積させてガラス微粒子堆積体を作製する堆積工程を有するガラス微粒子堆積体の製造方法であって、
前記堆積工程では、前記ガラス微粒子生成用バーナーの中心軸における前記ガラス微粒子生成用バーナーの先端から前記ガラス微粒子堆積体の堆積面方向への温度分布を、前記ガラス微粒子生成用バーナーの先端側では200℃/100mm以上の傾きで温度を上げて、前記ガラス微粒子堆積体の堆積面側では0〜200℃/100mmの傾きで温度を一定にする若しくは温度を下げることを特徴とするガラス微粒子堆積体の製造方法。
請求項1から4のいずれか一項に記載のガラス微粒子堆積体の製造方法によってガラス微粒子堆積体を製造し、当該製造したガラス微粒子堆積体を加熱して透明なガラス母材を製造する透明化工程を有することを特徴とするガラス母材の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係るガラス微粒子堆積体の製造方法およびガラス母材の製造方法の実施形態の例を添付図面に基づいて説明する。なお、以下に示す製造方法としては、VAD(Vapor Phase Axial Deposition)法を例に説明するが、本発明はVAD法に限定されるものではない。VAD法と同様にガス状原料からガラスを堆積させるいわゆるCVD法に分類される製造法、例えば、OVD法やMMD法等に本発明を適用することも可能である。
【0018】
図1は、本実施形態のガラス微粒子堆積体の製造方法を実施する製造装置1の構成図である。製造装置1は、反応容器2と、昇降回転装置3と、ガス供給装置21と、クラッド用バーナー22と、各部の動作を制御する制御部5を備えている。
【0019】
反応容器2は、ガラス微粒子堆積体Mが形成される容器であり、容器の側面に取り付けられた排気管12を備えている。
【0020】
昇降回転装置3は、支持棒10および出発ロッド11を介してガラス微粒子堆積体Mを昇降動作、および回転動作させる装置である。昇降回転装置3は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいて支持棒10の動作を制御している。昇降回転装置3は、ガラス微粒子の堆積面の成長に合わせてガラス微粒子堆積体Mを引き上げる。
【0021】
支持棒10は、反応容器2の上壁に形成された貫通穴を挿通して上下方向に配置されており、反応容器2内に配置される一方の端部(図において下端部)には出発ロッド11が取り付けられている。支持棒10は、他方の端部(図において上端部)を昇降回転装置3により把持されている。
【0022】
出発ロッド11は、ガラス微粒子が堆積されるロッドであり、支持棒10に取り付けられている。
【0023】
排気管12は、出発ロッド11およびガラス微粒子堆積体Mに付着しなかったガラス微粒子を反応容器2の外部に排出する管である。
【0024】
クラッド用バーナー22には、原料ガス(及び火炎形成用ガス)をガス供給装置21により供給する。このクラッド用バーナー22は、例えば8重管などの多重管バーナーである。なお、
図1中において、火炎形成用ガスを供給するガス供給装置は省略されている。
ガス供給装置21は、液体原料23を貯留する原料容器24と、原料ガスの供給流量を制御するMFC25と、原料ガスをクラッド用バーナー22へ導くガス供給配管26と、原料容器24とMFC25とガス供給配管26の一部を所定温度に保つ温調ブースからなる。なお、MFC25による原料ガス供給量の制御は、制御部5からの指令値に基づき行われる。また、原料容器24、MFC25、およびガス供給配管26は、ガス供給装置21による温度制御によって所定の温度に調整される。
【0025】
MFC25は、クラッド用バーナー22から噴射する原料ガスの流量を制御する装置である。原料容器24内で気化された原料ガスは、MFC25の流量制御によってクラッド用バーナー22へ供給される。MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づいてクラッド用バーナー22へ供給する原料ガスの供給量の制御を行なっている。
【0026】
原料容器24内の液体原料23は、温調ブース内で沸点(例えば、SiCl
4の場合の標準沸点は57.6℃)以上の温度に制御され、原料容器24内で気化し、MFC25によりクラッド用バーナー22へ供給する原料ガスの供給量が制御される。ガス供給配管26は、原料ガスをクラッド用バーナー22へ導く配管であり、当該配管の温度を200℃未満で保持する場合には、その材質をフッ素樹脂(テフロン(登録商標))等で構成することができる。また、ガス供給配管26の温度を200℃以上の温度で保持する場合には、その材質は耐熱性に優れたSUS等の金属製のもので構成することが好ましい。
【0027】
クラッド用バーナー22は、火炎中において原料ガスを火炎加水分解し、それによって生じたガラス微粒子27を出発ロッド11に噴き出し堆積するガラス微粒子生成用バーナーである。原料ガスは、ガス供給装置21から供給されており、クラッド用バーナー22の先端部は反応容器2内部に突出して設置されている。なお、火炎形成用ガスを供給する装置の図示は省略している。
【0028】
クラッド用バーナー22には、原料ガスとしてSiCl
4、火炎形成ガスとしてH
2、O
2、バーナーシールガスとしてN
2等が投入される。このクラッド用バーナー22の酸水素火炎内で、火炎加水分解反応によってガラス微粒子27が生成され、生成されたガラス微粒子27が出発ロッド11に堆積されて、所定外径のガラス微粒子堆積体Mが作製される。
【0029】
制御部5は、昇降回転装置3、ガス供給装置21等の各動作を制御している。制御部5は、昇降回転装置3に対して、ガラス微粒子堆積体Mの昇降速度および回転速度を制御する制御信号を送信している。また、制御部5は、ガス供給装置21のMFC25に対して、クラッド用バーナー22から出発ロッド11(ガラス微粒子堆積体M)に噴き出すガスの流量を制御する制御信号を送信している。
【0030】
また、ガス供給配管26の温度を高温に保持するために、ガス供給装置21からクラッド用バーナー22までの間に配置されたガス供給配管26の外周と、ガス供給配管26側の端部からクラッド用バーナー22の全長に対し1/3以下の領域の外周には、発熱体であるテープヒータ28が巻き付けられている。テープヒータ28は、金属発熱体やカーボン製繊維状面発熱体の極細撚線を保護材で覆ったフレキシブルなヒータによって構成される。このテープヒータ28が通電されることでガス供給配管26やクラッド用バーナー22が加熱され、クラッド用バーナー22から噴出される原料ガスの温度を上昇させることができる。
【0031】
また、ガス供給配管26の内径は、流れる原料ガスのレイノルズ数(Re数)を考慮して設定する。すなわち、ガス供給配管26及びクラッド用バーナー22内を流れる原料ガスのレイノルズ数が、2000以上、好ましくは4000以上、さらに好ましくは8000以上となるように、ガス供給配管26の内径を設計する。これにより、ガス供給配管26内での原料ガスの流れが乱流化され、原料ガスはガス供給配管26内で効率的に加熱されて温度が上昇し易くなる。
図2に、ガス供給配管26の全長を140℃の一定値に加熱した場合のガス供給配管26内を流れる原料ガスの温度を示す。図に示すように、Re数が高くなる程、ガス供給配管26内を流れる原料ガスは加熱され易くなることが分かる。そして、原料ガスが加熱されるに伴い、クラッド用バーナー22から噴出される原料ガスの温度を上昇させることが可能になる。
【0032】
なお、テープヒータ28を巻いたガス供給配管26とクラッド用バーナー22の最外周には、断熱材である断熱テープ(図示省略)が巻回されている方が好ましい。断熱テープを巻回することによってテープヒータ28の消費電力を低く抑えることができる。
【0033】
また、ガス供給配管26の長手方向における温度分布は、原料容器24からクラッド用バーナー22へ向かうにしたがって温度が高くなるように制御することが好ましい。これにより、原料容器24からクラッド用バーナー22に向かって流れる原料ガスの流速が加速するため、火炎内で生成されるガラス微粒子27は乱流拡散により凝集(粒子間結合)し、
図3に示すように、結合した粒子群30Aは、火炎ガス流Gから離脱し易くなり、出発ロッド11やガラス微粒子堆積体Mへのガラス微粒子27の付着効率をさらに向上させることができる。具体的には、ガス供給配管26およびクラッド用バーナー22の温度勾配を5℃/m以上、好ましくは15℃/m以上、更に好ましくは25℃/m以上とすることで、ガラス微粒子27の付着効率を+1〜5%高めることができる。
【0034】
ここで、
図4に、クラッド用バーナー22から噴出されるバーナー火炎の中心軸における各位置の火炎温度を示す。横軸にはバーナー火炎の長手方向の位置、すなわちクラッド用バーナー22の原料噴出口先端からの距離を示す。横軸の左方向が火炎の上流方向、右方向が火炎の下流方向に相当している。また、縦軸にはバーナー火炎の中心軸の温度を示す。
【0035】
図に示されるように、クラッド用バーナー22から噴出したバーナー火炎の温度は、原料噴出口の先端から下流に向かい所定領域において略等しい値を示している。続いて、さらに下流方向へ進むと、バーナー火炎の温度は徐々に上昇して所定の位置において最高値を示す。続いて、さらに下流方向へ進むと、その最高値から徐々に下降していく。すなわち、本発明においてバーナー火炎の温度勾配は、その最高点の位置が、バーナー火炎の下流端ではなく、上流側に設定されている。そして、ガラス微粒子堆積体Mの堆積面が、この温度最高点の位置よりも下流側で温度が最高値よりも低下した位置、すなわち温度下降領域に配置されている。
【0036】
図4に基づいて具体的にいえば、バーナー火炎は、原料噴出口の先端の位置(横軸0.05の位置)から長手方向(火炎の下流方向)に向かい0.05m間の領域において約520Kの等しい温度を示している。続いて、さらに下流方向へ進むと、火炎の温度は徐々に上昇して原料噴出口の先端から約0.095mの位置(横軸約0.145の位置)において最高値である約860Kに達する(P領域)。続いて、さらに下流方向へ進むと、火炎の温度は上記最高値から徐々に下降して原料噴出口の先端から約0.15mの位置(横軸約0.2の位置)において約780Kに達する(Q領域)。そして、ガラス微粒子堆積体Mの堆積面が、原料噴出口の先端から約0.095mの位置(横軸約0.145の位置)よりも下流側の位置(Q領域)、すなわち最高温度値(約860K)よりも低下した温度の位置に配置されている。なお、
図4の中心軸温度とは、中心軸に原料ガスやガラス微粒子が存在する場合は、それらの温度を示すものとする。
【0037】
このような温度勾配を有するバーナー火炎を噴出するために、クラッド用バーナー22には、例えば、多重管バーナー突き出し構造のもの、あるいは焦点型のマルチノズル構造のものが好ましく用いられる。
【0038】
図5は、多重管バーナー突き出し構造を有するクラッド用バーナーの一形態を示すものである。
図5に示すクラッド用バーナー22は、突き出し構造を有する8重管バーナーである。なお、図はバーナー先端側の一部のみを示す縦(軸方向)断面図であり、軸対称であるため、バーナー中心軸に対して一方側のみを示している。この突き出し構造の多重管バーナーは、バーナー中心軸側に内側火炎を形成し、内側火炎の外側に外側火炎を形成することができる構造のものである。このような二重火炎を生成するため、外側火炎を形成する外側多重管の長さが、内側火炎を形成する内側多重管の長さよりも原料ガスの噴出口側に長く形成されている。
【0039】
このような構造により、例えば長さの短い内側多重管によって形成される内側火炎による焦点(上流側)では、内側多重管から噴出される火炎形成ガス流量を調整することにより火炎温度を高くすることができる。また、長さの長い外側多重管によって形成される外側火炎による焦点(下流側)では、外側多重管から噴出される火炎形成ガス流量を調整することにより火炎温度を低く抑えることができる。
【0040】
また、このようにクラッド用バーナー22の外側多重管が内側多重管より突き出す構造とすることで、突き出し部の限られた容積中で酸化珪素ガスが生成されるため、酸化珪素ガスの分圧を上げ易くなる。これにより、酸化珪素ガスから酸化珪素粒子への反応を促進させることができる。なお、酸化珪素とはSiO、SiO
2等の珪素酸化物のことを総称する(以下において同じ)。
【0041】
図6は、焦点型のマルチノズル構造を有するクラッド用バーナーの一形態を示すものである。
図6に示すクラッド用バーナー22aは、中央にガラス原料ガスを噴出する原料ポート41aを有し、原料ポート41aの外周のポート41bから不活性ガスからなるシールガスが噴出される。クラッド用バーナー22aは、さらに、その周囲に燃焼用ガスを噴出する燃焼ガスポート42が複数個配置されているバーナーである。中心の原料ポート41aからは、例えば、四塩化珪素(SiCl
4)といったガラス原料ガスが噴出される。また、燃焼ガスポート42は二重構造になっており、中心のポート42aから助燃性ガスである酸素(O
2)が噴出され、外周ポート42bから可燃性ガスである水素(H
2)が噴出される。
【0042】
燃焼ガスポート42は、ガスの噴射方向が、クラッド用バーナー22aの先端から所定寸法離れたクラッド用バーナー22aの中心軸上の所定位置に向けてそれぞれ傾けられている。つまり、クラッド用バーナー22aは、燃焼ガスポート42から噴出される燃焼用ガスが、原料ポート41aから噴出される原料ガスに、クラッド用バーナー22aの先端から所定寸法離れた焦点位置において交わる焦点型のマルチノズルバーナーの構造を有している。クラッド用バーナー22aでは、燃焼用ガスによって発生した酸水素火炎中にガラス原料ガスが噴出され、加水分解反応によって酸化珪素ガスが生じ、その後、酸化珪素粒子が合成される。
【0043】
そして、このような構造により、酸水素火炎の広がりを抑えて狙った位置に火炎のエネルギーを集中させることができる。例えば、燃焼用ガスを噴出する燃焼ガスのポート42を径方向で複数位置に配置し、それぞれの燃焼ガスポート42から噴出する燃焼ガスが原料ポート41aから噴出される原料ガスと交わる焦点位置を変えることで、火炎の上流側と下流側の2箇所でエネルギーを集中させて2つの焦点を作製するようにする。そして、上流側の焦点では、燃焼ガスポート42から噴出する酸水素ガスの流量を調整して火炎温度を高くすることができる。また、下流側の焦点では、燃焼ガスポート42から噴出する酸水素ガスの流量を調整して火炎温度を低くすることができる。
【0044】
このように多重管突き出し構造、あるいは焦点型のマルチノズル構造のクラッド用バーナーを用いて、バーナー中心軸上の火炎上流部における温度を上げることにより、すなわち温度分布の最高温度になる位置を火炎上流部に移動させることにより、原料容器24からクラッド用バーナー22(22a)を通じてバーナー火炎内に噴出した原料ガスの温度を早く高めることができ、バーナー火炎内における原料ガスの火炎加水分解反応が促進され、酸化珪素ガスが生成され易くなる。
【0045】
また、火炎の上流部における最高温度の位置から火炎の下流側に向かって火炎の温度を下げることにより、当該温度が下降した火炎の下流部、すなわち火炎の低温部では酸化珪素ガスが酸化珪素粒子へ変化し易くなってガラス微粒子の生成が促進される。これにより火炎内で生成されるガラス微粒子の数が増加すると共に、ガラス微粒子の外径も大きくなる。さらに、ガラス微粒子の粒子径が大きくなると、乱流拡散による凝集(粒子間の結合)が促進する。そして、これらの作用により、バーナー火炎内におけるガラス微粒子の慣性力が増加し、ガラス微粒子が火炎ガスの流れから離脱し易くなり(
図3の30A参照)、出発ロッド11やガラス微粒子堆積体Mへのガラス微粒子27の付着効率を向上させることができる。なお、火炎中心軸における温度の絶対値はおおよそ400〜2000K(127〜1727℃)の範囲になる。
【0046】
次に、本発明に係るガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法の手順について説明する。
[堆積工程]
本発明はVAD法(気相軸付け法)によってガラス微粒子の堆積を行いガラス微粒子堆積体Mを製造する。先ず、
図1に示すように、昇降回転装置3に支持棒10を取り付け、さらに支持棒10の下端部に出発ロッド11を取り付けた状態で、出発ロッド11及び支持棒10の一部を反応容器2内に納める。
【0047】
続いて、MFC25は、制御部5から送信されてくる制御信号に基づき、供給量を制御しながら原料ガスをクラッド用バーナー22に供給する。
【0048】
クラッド用バーナー22には、原料ガス及び酸水素ガス(火炎形成ガス)を投入し、原料ガスを酸水素火炎内で加水分解反応させることでガラス微粒子を生成する。
【0049】
このとき、バーナー火炎内における火炎加水分解反応を促進するために、ガス供給装置21からクラッド用バーナー22までのガス供給配管26、若しくはガス供給配管26とクラッド用バーナー22のガス供給配管26側の端部からクラッド用バーナー22の全長に対し1/3以下の領域は、テープヒータ28を巻くことによって100℃以上の温度となるように制御する。火炎加水分解反応をさらに促進するためには、当該温度を150℃以上、好ましくは260℃以上、更に好ましくは300℃以上の温度となるように制御する。
【0050】
クラッド用バーナー22の加熱範囲は、ガス供給配管26側の端部から長手方向の1/3以下の範囲を加熱すれば足りる。1/3より広い範囲を加熱しても、クラッド用バーナー22内を流れる原料ガスの温度をさらに上げる効果はあまりない。これはクラッド用バーナー22で形成される火炎からの輻射熱によって、クラッド用バーナー22のガス供給配管26側の端部から1/3以外の範囲では原料ガスの温度が十分に上がっているためである。最適な加熱範囲はクラッド用バーナー22の構造、反応容器2の構造及びクラッド用バーナー22と反応容器2の位置関係で決定されるが、クラッド用バーナー22のガス供給配管26側の端部からクラッド用バーナー22の全長に対し1/3以下の領域を加熱すれば、概ねどのような設備構造であっても、クラッド用バーナー22内を流れる原料ガス温度を高温に保つことができる。
【0051】
そして、クラッド用バーナー22は、火炎内で生成したガラス微粒子を回転及び上昇する出発ロッド11に対し噴射して、継続的にガラス微粒子を堆積させていく。
【0052】
図3に示すように、クラッド用バーナー22で形成され、SiCl
4等の原料ガスを含んだ火炎ガス流Gは、ガラス微粒子堆積体Mに当って、その流れる方向が急激にガラス微粒子堆積体Mの外周方向へ変化する。また、火炎ガス流G内で生成されるガラス微粒子27は、火炎ガス流Gに沿って流れる。
【0053】
火炎ガス流Gが、ガラス微粒子堆積体Mに当たって、その流れる方向がガラス微粒子堆積体Mの外周方向に急変すると、慣性力の大きいガラス微粒子群30Aは、直進性が高いため火炎ガス流Gに追従せずそのまま直進してガラス微粒子堆積体Mに衝突する。しかし、慣性力の小さいガラス微粒子群30Bは、直進性が低く火炎ガス流Gに沿って流れるため、ガラス微粒子堆積体Mの外周方向を流れ去る。したがって、ガラス微粒子堆積体Mへの付着効率を高めるためには、ガラス微粒子27の慣性力を大きくすることが望ましい。
【0054】
このとき、ガラス微粒子27の慣性力を大きくするために、突き出し構造の多重管バーナー22または焦点型のマルチノズルバーナー22aを使用して、バーナー火炎の温度分布が上流側で上昇し、下流側で下降するように(
図4に示すような温度分布となるように)設定する。具体的には、クラッド用バーナー22の中心軸におけるクラッド用バーナー22の先端からガラス微粒子堆積体Mの堆積面方向への温度分布を、例えば、クラッド用バーナー22の先端側では200℃/100mm以上の傾きで温度を上げ、ガラス微粒子堆積体の堆積面側では、0〜200℃/100mm以下の傾きで温度を一定にする若しくは温度を下げるように設定する。このような温度分布にすることで、バーナー火炎の上流側の高温部で原料ガスの火炎加水分解反応が促進され、酸化珪素ガスが多く生成される。また、バーナー火炎の下流側の低温部では、酸化珪素ガスが酸化珪素粒子に変化しやすくなりガラス微粒子の生成量が多くなる。同時に、ガラス微粒子の成長が進むため、ガラス微粒子の外径も大きくなり、粒子径が大きくなることで乱流拡散による凝集(粒子間の結合)が促進される。そして、これらの作用により、バーナー火炎内におけるガラス微粒子27の慣性力が増加する。
【0055】
また、このとき、ガラス微粒子27の慣性力を大きくするために当該微粒子のストークス数を高くする。ガラス微粒子27のストークス数は、粒子径の2乗および粒子の流速に比例する。したがって、ストークス数を高めるために粒子の径あるいは流速を大きくすると、これに伴ってガラス微粒子の慣性力が大きくなる。
また、凝集した粒子群についても同様であり、粒子群の径及び流速を大きくすると、これに伴ってガラス微粒子群の慣性力が大きくなる。ストークス数を高めるためには、クラッド用バーナー22に投入する原料ガスの温度を上昇させることが効果的である。原料ガスの温度が上昇すると当該ガスの体積が膨張し、これに伴ってバーナー火炎内で生成されるガラス微粒子27の流速が上昇し、ストークス数が高くなるため、ガラス微粒子27の慣性力は大きくなる。
【0056】
このような手法により、ガラス微粒子27の直進性が高くなり火炎ガスの流れGからガラス微粒子27が離脱し易くなって、ガラス微粒子27の出発ロッド11およびガラス微粒子堆積体Mへの付着効率を上げることができる。
【0057】
続いて、昇降回転装置3は、ガラス微粒子の堆積面の成長に合わせた制御部5からの制御信号に基づいて、出発ロッド11及び出発ロッド11に堆積されたガラス微粒子堆積体Mを軸方向に引き上げる。
【0058】
[透明化工程]
次に、得られるガラス微粒子堆積体Mを不活性ガスと塩素ガスの混合雰囲気中で1100℃に加熱した後、He雰囲気中で1550℃に加熱して透明ガラス母材を得る。このようなガラス母材の製造を繰り返し行う。
【実施例】
【0059】
図1に示す製造装置を使用してVAD法によってガラス微粒子の堆積、すなわちガラス微粒子堆積体Mの製造を行う[堆積工程]。また、得られるガラス微粒子堆積体Mを不活性ガスと塩素ガスとの混合雰囲気中で1100℃に加熱した後、He雰囲気中で1550℃に加熱して透明ガラス化を行う[透明化工程]。
【0060】
出発ロッド11は、直径20mm、長さ1000mmの純石英ガラスを使用する。クラッド用バーナー22には原料ガスとしてSiCl
4(流量:1〜7SLM)を、火炎形成ガスとしてH
2(流量:100〜150SLM)、O
2(流量:100〜150SLM)を、バーナーシールガスとしてN
2(流量:20〜30SLM)を投入する。
【0061】
堆積工程において、バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)における温度勾配A(℃/100mm)と、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)における温度勾配B(℃/100mm)を適宜選択する。選択する温度勾配は、例えば熱電対を用いてガラス微粒子の堆積を行う前に確認しておく。選択した温度勾配でガラス微粒子の堆積を行い、原料収率X(%)を評価する。なお、原料収率Xは、投入するSiCl
4ガスが100%SiO
2に化学反応する場合のSiO
2質量に対する、実際に出発ロッド11およびガラス微粒子堆積体Mに堆積するガラス微粒子27の質量比とする。
【0062】
なお、実施例1〜6において、温度勾配Aはクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に向かって温度を上げており、温度勾配Bはクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に向かって温度を下げている。また、実施例1〜5は、ガス供給配管26の外周温度を200〜240℃に制御する。実施例6は、これらの外周温度を300〜350℃に制御する。一方、比較例1〜3では、温度勾配Bをクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に向かって温度を上げている。また、実施例1〜6及び比較例1〜3において、バーナーに投入される原料ガスの温度は、ガス供給配管26の温度と略等しくなる。測定結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
【0064】
[実施例1]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=200(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=0(℃/100mm)となるように設定する。すなわち、P領域ではクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に進むにしたがって(
図4の右方向)火炎温度が上昇し、Q領域では火炎温度が一定になるように設定する。この場合、原料収率X=56(%)が得られる。
【0065】
[実施例2]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=300(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=100(℃/100mm)で温度が下がるように設定する。すなわち、P領域ではクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に進むにしたがって(
図4の右方向)火炎温度が上昇し、Q領域ではクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に進むにしたがって(
図4の右方向)火炎温度が下降するように設定する。この場合、原料収率X=61(%)が得られる。
【0066】
[実施例3]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=400(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=100(℃/100mm)で温度が下がるように設定する。この場合、原料収率X=65(%)が得られる。
【0067】
[実施例4]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=600(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=100(℃/100mm)で温度が下がるように設定する。この場合、原料収率X=68(%)が得られる。
【0068】
[実施例5]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=600(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=200(℃/100mm)で温度が下がるように設定する。この場合、原料収率X=70(%)が得られる。
【0069】
[実施例6]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=600(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)において温度勾配B=100(℃/100mm)で温度が下がるように設定する。さらに、ガス供給配管26を300〜350℃(SiCl
4の標準沸点より242.4〜292.4℃高い温度)に設定する。この場合、原料収率X=70(%)が得られる。
【0070】
[比較例1]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=195(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)においても温度勾配B=100(℃/100mm)で温度が上がるように設定する。すなわち、P領域ではクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に進むにしたがって(
図4の右方向)火炎温度が上昇し、Q領域でもクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側に進むにしたがって(
図4の右方向)火炎温度が上昇するように設定する。この場合、原料収率X=51(%)が得られる。
【0071】
[比較例2]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=180(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)においても温度勾配B=150(℃/100mm)で温度が上がるように設定する。この場合、原料収率X=47(%)が得られる。
【0072】
[比較例3]
バーナー火炎の上流側(
図4のP領域)において温度勾配A=150(℃/100mm)で温度が上がるように設定し、バーナー火炎の下流側(
図4のQ領域)においても温度勾配B=200(℃/100mm)で温度が上がるように設定する。この場合、原料収率X=46(%)が得られる。
【0073】
[測定評価]
火炎上流におけるクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側への(
図4の右方向)温度勾配Aを200℃/100mm以上の傾きで温度上昇させ、かつ火炎下流におけるクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側への(
図4の右方向)温度勾配Bを0℃/100mm以上の傾きで温度下降させる実施例1〜6では、原料収率Xが56%以上になる。また、実施例2、3、4の結果から、火炎上流側における温度勾配Aが大きいほど原料収率Xが高くなり、実施例4、5の結果から、火炎下流側における温度勾配Bが大きくなるほど原料収率Xが高くなることがわかる。特に、温度勾配Aが600℃/100mm、温度勾配Bが200℃/100mmに設定した実施例5では、原料収率が70%まで向上している。また、ガス供給配管の外周温度を実施例1〜5で設定した外周温度よりも高い温度に加熱した実施例6の場合には、温度勾配Aと温度勾配Bが実施例4と同じにもかかわらず、原料収率Xは70%に上昇している。さらにこれらの実施例において、ガス供給配管26だけでなく、クラッド用バーナー22におけるガス供給配管26側の端部からクラッド用バーナー22の全長に対し長手方向で1/3の領域の外周温度をガス供給配管26と同じ温度で加熱することで原料収率Xはさらに+1〜2%向上する。
【0074】
これに対して、火炎上流におけるクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側への(
図4の右方向)温度勾配Aを200℃/100mm以下の傾きで温度上昇させ、かつ火炎下流におけるクラッド用バーナー22側からガラス微粒子堆積体Mの堆積面側への(
図4の右方向)温度勾配Bを0℃/100mmよりも大きい傾きで温度上昇させる比較例1〜3では、原料収率Xが51%以下になる。特に、温度勾配Aが150℃/100mm、温度勾配Bが200℃/100mmに設定した比較例3では、原料収率Xが46%まで低下している。
【0075】
なお、本発明のガラス微粒子堆積体およびガラス母材の製造方法は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が自在である。例えば、本実施形態では、堆積工程においてVAD法によりガラス微粒子堆積体を製造する場合を一例に説明したが、その他OVD法やMMD法などの火炎分解反応を利用する全てのガラス微粒子堆積体及びガラス母材の製造方法に有効である。また、本実施形態では原料ガスとして、SiCl
4のみを使用したが、SiCl
4とGeCl
4を使用するコアガラス合成の場合も原料収率を向上させる効果がある。また、SiCl
4以外の原料ガス(シロキサン等)でも同様の効果がある。