(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
永久磁石が埋め込まれて駆動軸と一体回転する回転子と、該回転子を相対回転自在に収納して当該回転子に対面する複数のティース間のスロットにコイルを収容して電機子として機能する固定子と、を備える電動回転機であって、
前記永久磁石が形成する磁極毎の該永久磁石の中心軸に一致する磁束方向のd軸側まで当該永久磁石を存在させた場合に、該d軸側において前記電機子が発生する電機子磁束を打ち消す方向の磁石磁束を発生する範囲の前記永久磁石を、透磁率の小さな空隙に置き換えて、
前記回転子の軸心から外周面までの外半径をR1、前記回転子の軸心から前記空隙の該軸心側端部までの法線方向の長さをR2、前記回転子の前記駆動軸を嵌め込む内周面までの内半径をR3とした場合に、
0.56≦R2/R1≦0.84、かつ、0.54≦R3/R2≦0.82
の関係を満たす寸法形状に形成したことを特徴とするIPM型電動回転機。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明に係るIPM型電動回転機(モータ)の一実施形態を示す図であり、その概略全体構成を示す平面図である。
【
図2】
図2は、実施形態の構造における低負荷駆動時の電機子磁束の磁束線図である。
【
図3】
図3は、実施形態の構造における低負荷駆動時の磁石磁束の磁束線図である。
【
図4】
図4は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの電流位相に対するトルク特性を示すグラフである。
【
図5A】
図5Aは、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの磁石磁束の磁束線図である。
【
図5B】
図5Bは、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータのd軸付近における磁石磁束のベクトル図である。
【
図6A】
図6Aは、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの最大負荷駆動時における電機子磁束の磁束線図である。
【
図6B】
図6Bは、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの最大負荷駆動時におけるd軸付近の電機子磁束のベクトル図である。
【
図7】
図7は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの最大負荷駆動時における磁極(永久磁石)の外周側の磁石磁束ベクトルと電機子磁束ベクトルの相対関係を示すモデル図である。
【
図8】
図8は、IPM型モータの入力電流に対する電流位相と出力トルクの対応関係(特性)を示すグラフである。
【
図9】
図9は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの低負荷駆動時における電機子磁束の磁束線図である。
【
図10】
図10は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータの低負荷駆動時における磁石磁束と電機子磁束の合成磁束の磁束線図と共にその合成磁束が取る経路を示す経路図である。
【
図11】
図11は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの埋設永久磁石を短縮させた場合の発生トルクの変化やトルクリプルの低減率を示すグラフである。
【
図12】
図12は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの埋設永久磁石を短縮させた場合に重畳する5次の空間高調波の変化を示すグラフである。
【
図13】
図13は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータとd軸側空隙付きのV字型IPMモータの低負荷駆動領域におけるトルク発生割合を示すグラフである。
【
図14】
図14は、d軸側に大きな空隙のないV字型IPMモータとd軸側空隙付きのV字型IPMモータの最大負荷駆動領域におけるトルク発生割合を示すグラフである。
【
図15】
図15は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの最大負荷駆動時における電機子磁束を示す磁束線図である。
【
図16】
図16は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの低負荷駆動時における磁石磁束と電機子磁束の合成磁束を示す磁束線図である。
【
図17】
図17は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの最大負荷駆動時における磁石磁束と電機子磁束の合成磁束を示す磁束線図である。
【
図18】
図18は、d軸側空隙付きのV字型IPMモータの最大負荷駆動時における磁石磁束と電機子磁束の合成磁束を示す磁束線図を含み、
図17の本実施形態の構造と比較する構造図である。
【
図19】
図19は、
図17の本実施形態構造Aと
図18の比較構造Bで発生する、平均トルク中の瞬時トルクを示すグラフである。
【
図21】
図21は、
図17の本実施形態構造Aと
図18の比較構造Bにおける、ギャップGを介する1歯鎖交磁束波形に含まれる空間高調波成分の含有率を示すグラフである。
【
図22】
図22は、フラックスバリア17cの軸心側の端部壁面位置の軸心からの離隔距離R2/回転子の外半径R1、をパラメータとしたときのトルクの変化を示すグラフである。
【
図23】
図23は、回転子の外半径R1/フラックスバリア17cの軸心側の端部壁面位置の軸心からの離隔距離R2、をパラメータとしたときのトルクの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1〜
図17は本発明に係るIPM型電動回転機の一実施形態を示す図である。ここで、本実施形態の説明では、固定子に対して回転子を反時計回り(CCW:counterclockwise)方向に回転させる場合を一例にしてその回転方向を図示する。
図1において、電動回転機(モータ)10は、概略円筒形状に形成された固定子(ステータ)11と、この固定子11内に回転自在に収納されて軸心に一致する回転駆動軸13が固設されている回転子(ロータ)12と、を備えている。この電動回転機10は、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)や電気自動車(EV)において、内燃機関と同様の駆動源として、あるいは車輪ホイール内に搭載するのに好適な性能を有している。
【0013】
固定子11には、回転子12の外周面12aにギャップGを介して内周面15a側を対面させるように軸心の法線方向に延在する複数本のステータティース15が形成されている。このステータティース15には、内部に対面収納されている回転子12を回転駆動させる磁束を発生させるコイルを構成する3相巻線(不図示)が分布巻により巻付形成されている。
回転子12は、外周面12aに向かって開くV字型になるように、一対で1組の永久磁石16を1磁極として埋め込むIPM(Interior Permanent Magnet)構造になるように作製されている。この回転子12は、図面の表裏方向に延在する平板状の永久磁石16の角部16aを嵌め込んで不動状態に収容するV字空間17が外周面12aに対面するように形成されている。
V字空間17は、永久磁石16を嵌め込み収容する空間17aと、その永久磁石16の幅方向の両側方に位置して磁束の回り込みを制限するフラックスバリアとして機能する空間17b、17c(以下ではフラックスバリア17b、17cともいう)と、を備えるように形成されている。このV字空間17には、永久磁石16を高速回転時の遠心力に抗して位置決め保持することができるように、空間17c間で法線方向に延長されて外周側と内周側とを連結支持するセンタブリッジ20が形成されている。
【0014】
この電動回転機10は、固定子11側のステータティース15間の空間が、巻線を通して巻き掛けることによりコイルを形成するためのスロット18を構成している。これに対して、回転子12は、8組の永久磁石16のそれぞれに、固定子11側の6本のステータティース15が対面している。要するに、この電動回転機10では、回転子12側の一対の永久磁石16側が構成する1磁極に、固定子11側の6スロット18が対応するように構築されている。すなわち、電動回転機10は、隣接する1磁極毎に永久磁石16のN極とS極の表裏を交互にした、8極(4極対)、48スロットで、単相分布巻5ピッチで巻線した3相IPMモータに作製されている。言い換えると、電動回転機10は、毎極毎相スロット数q=(スロット数/極数)/相数=2のIPM型構造に作製されている。
これにより、電動回転機10は、固定子11のスロット18内のコイルに通電してステータティース15から対面する回転子12内に磁束を通すことにより回転駆動させることができる。このとき、電動回転機10(固定子11と回転子12)は、永久磁石16との間に生じる吸引力と反発力に起因するマグネットトルクに加えて、磁束が通過する磁路を最短にしようとするリラクタンストルクとの総合トルクにより回転駆動することができる。よって、電動回転機10は、通電入力する電気的エネルギを、固定子11に対して回転子12と一体回転する回転駆動軸13から、機械的エネルギとして出力することができる。
なお、固定子11と回転子12は、ケイ素鋼などの電磁鋼板材料の薄板を所望の出力トルクに応じた厚さになるように軸方向に重ねており、その積層状態を維持するようにカシメ19などにより一体物に作製されている。
【0015】
ここで、この電動回転機10は、
図2に磁束線図として図示するように、1磁極を構成する一対の永久磁石16に対応する複数のステータティース15毎に、固定子11の外周側(ステータティース15の背面側)から回転子12内を通過する経路の磁路(電機子磁束)を形成するように、スロット18内に巻線コイルが分布巻きされている。その永久磁石16は、電機子磁束Ψrの磁路に沿うように、言い換えると、その電機子磁束Ψrの形成を妨げないように、形成されているV字空間17の嵌込空間17a内に収容されている。
この永久磁石16の磁路(磁石磁束Ψm)は、
図3に磁束線図として図示するように、1磁極を構成する一対の永久磁石16の表裏面のN極とS極から鉛直方向に出て繋げる経路を取り、特に、固定子11側では対応するステータティース15からその背面側を通過する経路になる。
【0016】
そして、回転子12内に永久磁石16をV字に埋め込んだIPM構造では、磁極が作る磁束の方向、すなわち、V字の永久磁石16間の中心軸をd軸とし、また、そのd軸と電気的・磁気的に直交する、隣接する磁極間の永久磁石16間の中心軸をq軸とする。この回転子12は、V字空間17のd軸側に位置する内側の空間17cを、軸心に向かう大きな空隙に拡大されてフラックスバリア17cとして機能するように形成されている。このV字空間17におけるフラックスバリア17cの最適な寸法形状については後述する。
これにより、この電動回転機10では、
図2に示すように、ステータティース15から回転子12内に進入する電機子磁束Ψrを、V字空間17の外周側に回り込まないように大きく内周(軸心)側に迂回させてステータティース15に戻る経路を取るように形成されている。要するに、電動回転機10は、回転子12がd軸空隙付きV字型IPMモータに構築されている。
また、この電動回転機10は、d軸に対応するステータティース15から進入する電機子磁束Ψrにトルクリプル増加原因となる5次や7次の空間高調波が多く重畳しないように、回転子12側の外周面に、そのステータティース15の内周面15aと平行方向(軸心方向)に延長されるセンタ溝21が形成されている。
【0017】
このように、回転子12内に永久磁石16をV字型に埋め込むIPM構造の電動回転機10の場合、トルクTは、下記の式(1)で表すことができ、
図4に示すように、マグネットトルクTmとリラクタンストルクTrとの和が最大となる電流位相にて駆動することで高トルク・高効率運転を実現している。
【数1】
Pp:極対数、Ψm:電機子(ステータティース15)鎖交磁石磁束、
id:線電流のd軸成分、iq:線電流のq軸成分、
Ld:d軸インダクタンス、Lq:q軸インダクタンス
【0018】
ところで、d軸側空隙のフラックスバリア17cに代えて、V字空間17の外側のフラックスバリア17bと同等のフラックスバリア17dを備える関連技術の回転子12Aの場合には、
図5Aの磁束線図に図示する永久磁石16の磁路が形成され、その磁石磁束Ψmは、
図5Bの磁束ベクトル図に図示する向きのベクトルVmになっている。また、スロット18に収容されるコイルへの通電により発生する電機子磁束Ψrは、
図6Aの磁束線図に図示する磁路に形成され、
図6Bの磁束ベクトル図に図示する向きのベクトルVrになっている。
この種の電動回転機では、最大負荷駆動時には高トルク・高効率駆動の実現のために電流位相角を進角させて駆動させている。関連技術の回転子12Aでは、
図5Bおよび
図6Bの磁束ベクトル図に示すように、V字空間17(磁極)の外周側に位置するd軸付近の小領域A1において、磁石磁束Ψmと電機子磁束Ψrが逆磁界の関係になって、リラクタンストルクTrがマグネットトルクTmを打ち消し(相殺し)つつ駆動する状態にある。要するに、この磁極外周側小領域A1は、
図7に示すように、磁石磁束Ψmと電機子磁束Ψrとが挟角90度以上で逆向きの位置関係で対向する干渉領域であり、この磁極外周側小領域A1に隣接する永久磁石16のd軸側の範囲Bで発生する磁石磁束Ψmを抑え込む(打ち消す)のに電機子磁束Ψrが浪費されている。
このことから、この磁極外周側小領域A1に対応する永久磁石16のd軸側範囲Bは、トルクTに積極的に寄与していないと言うことができ、その永久磁石16におけるd軸側範囲Bの部分を削減しつつ同等の突極比を維持する磁気回路とすることで、永久磁石16自体の磁石量を低減することができる。
ここで、トルクTは、上記式(1)であるため、永久磁石16の磁石量を減らした場合にはリラクタンストルクTrを大きくすることで、永久磁石16の磁石量を減らさない場合と同等にすることができる。このリラクタンストルクTrは、d軸インダクタンスLdとq軸インダクタンスLqとの差、すなわち、突極比を大きくすることで増加させることができる。
よって、本実施形態の回転子12では、永久磁石16のd軸側範囲Bを透磁率の小さな空隙(制限領域)に置き換えることで、永久磁石16の磁石量を低減しつつ突極比を増加させて置換前と同等以上のトルクTを得ることができる。見方を換えると、リラクタンストルクTrは、永久磁石16のd軸側範囲Bで発生する磁石磁束Ψmを抑え込むのに浪費されていた電機子磁束Ψrを有効活用することで大きくすることができ、永久磁石16の磁石量を削減しても同等のトルクTを得ることができる。
【0019】
なお、トルクTは、下記の式(2)のように表すこともでき、電流値Iaが小さな低負荷領域ではマグネットトルクTmの割合が高くなり、
図8に示すように、電流値Iaが低いほど最大トルク時の電流位相βはゼロに近くなる。この
図8中の波形i〜vは、各電流値Ia(i)〜Ia(v)における電流位相−トルク特性を示しており、電流値Iaの大きさは、i<ii<iii<iv<vの関係となっている。よって、低負荷駆動時には、マグネットトルクTmの割合(依存)が自ずと高くなるが、そのマグネットトルクTmを最大限に有効活用する磁気回路が望ましい。
【数2】
β:電流位相角度、Ia:相電流値
【0020】
関連技術の回転子12Aでは、
図9に示すように、低電流値の低負荷領域では電流位相βがゼロに近い条件で駆動させるため、電機子磁束Ψrの磁束量がq軸となる磁極間(隣接する別磁極の永久磁石16の間)で多くなる。このため、この電機子磁束Ψrに磁石磁束Ψmを合成した磁束Ψsの経路としては、
図10に示す磁路MP1、MP2を通過する磁気回路とするのが好適である。これにより、合成磁束Ψsは、q軸磁路(磁束)を分散化させて(飽和することを回避して)q軸インダクタンスLqを大きくすることができ、リラクタンストルクTrを積極的に利用可能にすることができる。
磁路MP1は、固定子11側のステータティース15からエアギャップGを介して回転子12Aに鎖交して磁極間に進入した後に、回転方向進行側(図中左側)の磁極を形成する近接側の永久磁石16を内周側から抜ける経路を取る。さらに、この磁路MP1は、その磁極の外周側領域A2を通過して、再度エアギャップGを介してステータティース15に戻る経路を取る。
磁路MP2は、磁路MP1と同様に磁極間に進入した後に、回転方向進行側の磁極を形成する離隔側の永久磁石16を内周側から抜けて、その磁極の外周側領域A2を通過して、再度エアギャップGを介してステータティース15に戻る経路を取る。
【0021】
例えば、この磁路MP1、MP2では、一対の永久磁石16の両端側(磁極外端部)を削って内側に寄せた場合には、その両端側に大きなフラックスバリアが存在して磁極の中心付近に集中することになり、特に、磁極外周側領域A2の右側の経路が取り難くなって、その領域A2全体を有効に利用できない。
反対に、一対の永久磁石16の中心側(磁極内端部)を削って外側に寄せた場合には、その中心側に大きなフラックスバリアが存在して磁極の両側に磁束経路を分散させることができ、磁極外周側領域A2の右側の経路も含めて積極的に有効活用してその領域A2を満遍なく磁束が通過できる。この構造の場合には、回転方向後進側の磁極の永久磁石16を外周側から内周側に向かって抜けた後、隣接する磁極の永久磁石16のN極・S極間を結合する磁路MP3も取ることができる。この磁路MP3では、磁路MP1と同様の経路を通って、回転方向進行側の磁極の外周側領域A2を通過することができ、磁束の分散化効率が高い。
このことから、回転子12は、磁極を形成する一対の永久磁石16の埋設構造として、リラクタンストルクTrを発生させる電機子磁束Ψrを妨げないようにV字型を維持しつつ、両端側(磁極外端部)に寄せる形状を採用するのが好適である。さらに、その一対の永久磁石16の間(磁極内端部)には、磁束が短絡経路を取るのを制限するフラックスバリア17cを形成する構造を採用するのが好適である。また、回転子12のd軸上の外周面には、固定子11側のステータティース15から進入する電機子磁束Ψrの飽和を制限する、言い換えると、その磁束Ψrを分散させるセンタ溝21を形成する構造を採用するのが好適である。このような構造を採用することにより、回転子12は、q軸磁路(磁束)を分散化させてq軸インダクタンスLqを大きくし、リラクタンストルクTrを積極的に利用することができる。
【0022】
この永久磁石16は、図面内の長手方向の長さ(幅)Wpmの最適値を、その長さWpmを短縮しない場合を基準にして比較決定する。
具体的には、極数Pと、回転子12の軸心から外周面までの外半径R1とを固定値として、磁極外端部に設置する永久磁石16の長さWpmを変数(内端側端辺の位置を変位)とし、下記の式(3)で算出する比率δを変化させて決定する。この決定要素として、比率δに対する、最大負荷時のトルクTのper unit単位での変化と、そのトルクTの変動幅であるトルクリプル(torque ripple)の低減率の変化とを磁界解析してグラフ表示すると、
図11のようになる。なお、per unit単位では、例えば、1.0[p.u.]の場合に同等であることを意味している。
δ=(P×Wpm)/R1 ・・・(3)
図11では、比率δ=1.84が長さWpmを短縮しない形状寸法(磁石低減量0%)の永久磁石16の場合であり、比率δ=1.38の寸法形状(磁石低減量24.7%)の場合に非短縮時と同等(1.0[p.u.])のトルクTを得ることができることが分かる。この永久磁石16は、常用の低速回転負荷時においても、比率δ=1.38とすることで、同等のトルクTを得ることができる。
ここで、この
図11では、V字空間17の内外端側に同等の大きさのフラックスバリア17b、17dを備える関連技術の回転子12Aを比較対象としている。これに対して、本実施形態の回転子12の場合には、フラックスバリア17cとセンタ溝21を備えることで、電機子磁束Ψrを効果的に分割して振り分けることができる。このため、この回転子12では、リラクタンストルクTrを有効に発生させることができ、永久磁石16が同等の長さWpmである比率δ=1.84でもトルクTが向上するとともにトルクリプルも低減されている。すなわち、
図11では、この回転子12の構造で永久磁石16の長さWpmを短縮させて、比率δに対するトルクTとトルクリプルの変化を図示している。なお、関連技術の回転子12Aの構造のまま永久磁石16の長さWpmを短縮する場合には、比率δ=1.84から比率δ=1.38付近までトルクTの大きな変化はない(1.0[p.u.])ものと想定される。
【0023】
また、電動回転機では、回転子の回転に伴って、埋設する永久磁石量に応じた誘起電圧(逆起電圧)が発生して弱め界磁に起因する磁気歪みの空間高調波が重畳することになる。この空間高調波は、5次、7次、11次、13次の成分がトルクリプルの発生要因になり、鉄損の増加原因となっている。このことから、比率δに対する、例えば、5次の空間高調波の発生をper unit単位でグラフ化すると、
図12のようになり、比率δ=1.75以下にするほど、その5次の空間高調波の発生を抑えることができることが分かる。この場合には、永久磁石16の磁石量を4.7%以上削減することができ、また、磁気歪みの空間高調波の低減により鉄損を低減して駆動効率を向上させつつ永久磁石16内での渦電流の発生を制限して発熱を抑えることができる。
【0024】
このことからすると、本実施形態の回転子12では、関連技術の回転子12Aと同等のトルクTを得つつ永久磁石16の使用量を削減するには、その永久磁石16の長さWpmを短縮(磁石量を24.7%削減)して比率δ=1.38程度にするのが好適であり、トルクリプルも低減することができる。要するに、永久磁石16は、トルクTやトルクリプル等の所望の特性に応じて比率δ=1.38(磁石低減量24.7%)から1.75(磁石低減量4.7%)の範囲内の寸法形状で適宜選択すればよい。
そこで、電動回転機10は、同等のトルクTとなる、永久磁石16の長さWpmを短縮して比率δ=1.38の寸法形状に形成するd軸空隙付きV字型のIPMモータの場合と、永久磁石16を短縮しないV字型のIPMモータの場合とで磁界解析すると、
図13および
図14に示すように、マグネットトルクTmとリラクタンストルクTrの比率が変化して同等のトルクTを出力可能なことが分かる。なお、d軸空隙付きV字型のIPMモータは、大きな空隙のフラックスバリア17cをd軸側に備える構造であり、単なるV字型のIPMモータは、小さなフラックスバリア17dをd軸側に備える構造である。
この
図13は、低負荷領域でのトルクTm、Trの割合を図示しており、
図14は、最大負荷領域でのトルクTm、Trの割合を図示している。いずれでも、d軸空隙付きV字型のIPMモータの場合には、永久磁石16を短縮するためにマグネットトルクTmが小さくなるのに代わって、リラクタンストルクTrが大きくなっていることが分かる。すなわち、電動回転機10は、d軸付近の永久磁石16に置換して大きな空隙空間のフラックスバリア17cやセンタ溝21を形成することで、
図6Bと
図7に示す磁極外周側小領域A1で電機子磁束Ψrを打ち消す磁石磁束Ψmを少なくすることができている。この結果、電動回転機10は、q軸インダクタンスLqを大きくしてd軸インダクタンスLdとの差(突極比)を非短縮V字型のIPMモータよりも大きくすることができ、リラクタンストルクTrを有効活用して同等のトルクTを確保することができている。
【0025】
この構造により、電動回転機10は、
図15に磁束線図として図示するように、磁極を
形成する一対の永久磁石16の外周側の小領域A1に集中していた電機子磁束Ψrを、その磁極外周側小領域A1を通過する磁路Mr1からV字空間17のd軸側空間17cの内周側を迂回する磁路Mr2にも効果的に分割(分流)させることができる。この結果、電動回転機10は、磁石磁束Ψmと電機子磁束Ψr(d軸・q軸)の磁気的干渉を低減して、磁極外周側小領域A1の回転方向進行側(図中左側)で局所的に磁気飽和状態になってしまうことを回避してトルクTの発生に効果的に寄与させることができる。
【0026】
したがって、電動回転機10は、
図16の磁束線図に図示するように、低負荷駆動時には磁石磁束Ψmと電機子磁束Ψrの合成磁束Ψsが主に永久磁石16を通過する磁路MP0を通過するのに対して、最大負荷駆動時にはその合成磁束Ψsは
図17の磁束線図に図示するように、磁路MP1、磁路MP2に分割させることができる。この結果、磁気的干渉の低減と共に局所的な磁気飽和状態の回避を実現して、永久磁石16の磁石量を低減しつつ同等以上のトルクTを効率よく発生させることができる。
これに対して、例えば、
図18の磁束線図に示すように、回転子12の軸心側に拡大させていないフラックスバリア17eの場合には、合成磁束Ψsを十分に分割させることができずに、磁極外周側小領域A1の回転方向進行側(図中左側)での局所的な磁気飽和を回避することができていない。なお、低負荷駆動時の合成磁束Ψsは、電機子磁束Ψrよりも磁石磁束Ψmの割合が大きい。
【0027】
ところで、
図17に図示するフラックスバリア17cの本実施形態構造Aと、
図18に図示するフラックスバリア17eの比較構造Bでは、
図19に最大負荷時の特性を図示するように、トルクの大きさおよびその変動(トルクリプル)で比較すると、構造Aの方がトルクが約6%増加しているのと同時にトルクリプルが小さくなって高品質に回転駆動させることができることが分かる。なお、
図19には、
図18の構造Bを基準として平均トルクを算出し、その回転角(電気角)に応じた瞬時トルクをper unit単位で、
図17の構造Aの場合と共にその構造Bの場合を図示している。
【0028】
この構造A、Bでは、
図19に示す波形をフーリエ級数展開すると、
図20に示すように、トルクに重畳する高調波トルクを比較することができ、構造Aの方が構造Bよりも、特に、12次と24次の高調波トルクを大きく低減できていることが分かる。これにより、本実施形態の構造Aでは、特に12次の高調波トルクを大幅に低減して、登坂加速時におけるジャダーの発生を抑制するとともに、電磁騒音も大幅に低減することができる。なお、この
図20には、構造A、Bのトルクに含まれる高調波トルクの割合(%)を図示している。
さらに、構造A、Bでは、1つのステータティース15にギャップGを介して鎖交する磁束波形をフーリエ級数展開して、11次と13次の空間高調波成分の含有率を比較すると、
図21に示すように、構造Aの方が構造Bよりも、低減できていることが分かる。なお、この
図21には、構造A、Bの1歯鎖交磁束の基本波形成分を正規化してper unit単位で図示している。
【0029】
また、電動回転機10は、永久磁石16を、例えば、比率δ=1.44の寸法形状にして低透磁率のフラックスバリア17cに置換(磁石磁束Ψmを低減)し磁石量を23%削減すると、イナーシャ(慣性力)の低減と共に、誘起電圧定数も13.4%程度低減することができ、高速回転側での出力を増加させることができる。さらに、この電動回転機10では、磁気歪みとなる空間高調波が低減されることで、永久磁石16内で発生する渦電流による発熱や鉄損および電磁騒音を抑えることができる。
【0030】
ところで、電動回転機10のトルクリプルは、3相の場合、1相1極毎の磁束波形に重畳する空間高調波と相電流に含まれる時間高調波に起因して、電気角で6f次成分(f=1、2,3…:自然数)で発生することが分かっている。
以下に、トルクリプルの発生原因について説明すると、3相出力(電力)P(t)とトルクτ(t)は、角速度をωm、各相の誘起起電力をEu(t)、Ev(t)、Ew(t)、角相の電流をIu(t)、Iv(t)、Iw(t)とすると、次の式(4)、式(5)で求めることができる。
P(t)=E
u(t)I
u(t)+E
v(t)I
v(t)+E
w(t)I
w(t) ・・・(4)
τ(t)=P(t)/ω
m
=[E
u(t)I
u(t)+E
v(t)I
v(t)+E
w(t)I
w(t)] ・・・(5)
3相トルクは、U相、V相、W相のそれぞれのトルクの和であり、mを電流の高調波成分、nを電圧の高調波成分を表すものとし、U相電流I
u(t)を次の式(6)と置くと、U相トルクτ
u(t)は次の式(7)のように表すことができる。
【数3】
【0031】
相電流I(t)と相電圧E(t)は、いずれも対称波であるために「n」と「m」は奇数のみとなる。U相以外のV相トルクとW相トルクは、それぞれU相誘起電圧E
u(t)、U相電流I
u(t)に対して「+2π/3(rad)」、「−2π/3(rad)」の位相差であることから、全体のトルクとしては、「6」の係数の項だけが残るようにキャンセル(相殺)されて、
6f=n±m(f:自然数)、s=nα
n+mβ
m、t=nα
n−mβ
m
と、置くと、次の式(8)のように表すことができる。
【数4】
また、この誘起電圧は、磁束を時間微分して求めることができることから、各誘起電圧に含まれる高調波の次数と1相1極磁束に含まれる高調波も同じ次数成分が発生することになる。その結果、3相交流モータにおいては、磁束(誘起電圧)に含まれる空間高調波次数nと相電流に含まれる時間高調波次数mとの組み合わせが6fになるときに、その6f次成分のトルクリプルが発生していることになる。
よって、3相モータのトルクリプルは、上述するように、1相1極における磁束波形における空間高調波nと相電流の時間高調波mにおいては、n±m=6f(f:自然数)のときに発生することから、例えば、11次と13次の空間高調波(n=11、13)が重畳していると相電流の基本波(m=1)との合わせにより12次の高調波トルクが発生することが分かる。
【0032】
そして、この電動回転機10では、回転子12におけるV字空間17のフラックスバリア17cとして、永久磁石16を比率δ=1.44の寸法形状にしつつ軸心に向けての拡大サイズを最適化するために、軸心側の端部壁面位置を決定する。
まず、
図1に戻って、この回転子12の構造は、フラックスバリア17cの軸心側の端部壁面位置の軸心からの法線方向の離隔距離R2を変化させて、その外周面までの外半径R1と内周面までの内半径R3に対する比率R2/R1、R3/R2をパラメータとしたときに得られる、
図22、
図23に示すトルク特性により決定する。ここで、回転子12の寸法形状は、回転駆動軸13の圧入時の電磁鋼板に掛かる圧縮応力に起因するミゼス応力で透磁率(磁束の通り易さ)が悪化することから、そのミゼス応力を考慮した数値で決定している。なお、この
図22、
図23は、
図18の比較構造Bを基準として、最大負荷時に得られるトルクをper unit単位で図示している。
いる。
【0033】
まず、
図22からは、R2/R1が0.56〜0.84の範囲A内で構造B以上のトルクが得られることが分かり、好ましくは、傾向の変化する位置付近の0.565〜0.75の範囲B内、より好ましくは、トルクが5%程度増加する0.59〜0.63程度の範囲C内になるように、フラックスバリア17cの軸心側端部位置の離隔距離R2を決定する。
さらに、
図23からは、R3/R2が0.54〜0.82の範囲A内で構造B以上のトルクが得られることが分かり、好ましくは、傾向の変化する位置付近の0.60〜0.81の範囲B内、より好ましくは、トルクが5%程度増加する0.72〜0.77程度の範囲C内になるように、フラックスバリア17cの軸心側端部位置の離隔距離R2を決定する。
これにより、
図17における磁路MP2の磁路幅を十分に確保することができ、その磁路MP2で磁気飽和が発生することがないようにフラックスバリア17cのサイズを決定することができる。
【0034】
このように本実施形態においては、永久磁石16のd軸側範囲Bを削減して大きなフラックスバリア17cに置き換えたので、電機子磁束Ψrを打ち消す方向の磁石磁束Ψmをなくして互いに干渉(相殺)してしまうことをなくすことができ、また、その範囲B内を電機子磁束Ψrが通過してしまうことも制限することができる。
したがって、永久磁石16の使用量を削減しつつ、d軸側での電機子磁束Ψrや磁石磁束Ψmを有効に活用して、大きなマグネットトルクTmとリラクタンストルクTrを得ることができる。また、誘起電圧定数の低減による高速回転側での出力の増加を図ることができるとともに、永久磁石16の渦電流に起因する発熱を抑えて温度変化による減磁を抑制して耐熱グレードを下げることによるコスト削減をすることができる。
また、フラックスバリア17cの軸心側端部までの離隔距離R2を回転子12の外半径R1と内半径R3との関係(寸法形状)が0.56≦R2/R1≦0.84、かつ、0.54≦R3/R2≦0.82になるようにすることで、大きなトルクTを効率よく発生させることができる。
この結果、固定子11内の回転子12を低コストに作製して高エネルギ密度で高品質に回転駆動させることができる。
【0035】
ここで、本実施形態では、8極48スロットモータの構成の電動回転機10を一例にして説明するが、これに限るものではなく、毎極毎相スロット数q=2の構造であれば、そのまま好適に適用することができ、例えば、6極36スロット、4極24スロット、10極60スロットのモータ構造にもそのまま適用することができる。
本発明の範囲は、図示され記載された例示的な実施形態に限定されるものではなく、本発明が目的とするものと均等な効果をもたらすすべての実施形態をも含む。さらに、本発明の範囲は、各請求項により画される発明の特徴の組み合わせに限定されるものではなく、すべての開示されたそれぞれの特徴のうち特定の特徴のあらゆる所望する組み合わせによって画されうる。