(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962418
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】圧延における潤滑油供給方法
(51)【国際特許分類】
B21B 27/10 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
B21B27/10 B
【請求項の数】7
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-227088(P2012-227088)
(22)【出願日】2012年10月12日
(65)【公開番号】特開2014-79760(P2014-79760A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年6月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100113918
【弁理士】
【氏名又は名称】亀松 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100172269
【弁理士】
【氏名又は名称】▲徳▼永 英男
(74)【代理人】
【識別番号】100140121
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 朝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100111903
【弁理士】
【氏名又は名称】永坂 友康
(72)【発明者】
【氏名】伊東 誠司
(72)【発明者】
【氏名】井上 剛
(72)【発明者】
【氏名】内田 秀
【審査官】
坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開平07−214120(JP,A)
【文献】
特開2003−094104(JP,A)
【文献】
特表2006−527086(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 27/10
B21C 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、バックアップロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記バックアップロールの偏摩耗領域に限定して、不燃性ガスと共に、上下ワークロールと上下バックアップロールとの接触部に噴射供給するに際して、
前記バックアップロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、バックアップロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域をバックアップロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする潤滑油供給方法。
【請求項2】
前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする請求項1に記載の潤滑油供給方法。
【請求項3】
6段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、バックアップロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記バックアップロールの偏摩耗領域に限定して、水と混合せずに不燃性ガスと共に、上下中間ロールと上下バックアップロールとの接触部に噴射供給するに際して、
前記バックアップロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、バックアップロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域をバックアップロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする潤滑油供給方法。
【請求項4】
前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする請求項3に記載の潤滑油供給方法。
【請求項5】
6段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、中間ロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記中間ロールの偏摩耗領域に限定して、水と混合せずに不燃性ガスと共に、上下ワークロールと上下中間ロールとの接触部に噴射供給するに際して、
前記中間ロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、中間ロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域を中間ロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする請求項4に記載の潤滑油供給方法。
【請求項6】
前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする請求項5に記載の潤滑油供給方法。
【請求項7】
不燃性ガスと共に噴射される潤滑油とは別個に、バックアップロール及び/又は中間ロールに偏摩耗が発生していない時に、別個のノズルから、エマルジョン潤滑油を、上下ワークロールと上下バックアップロールとの接触部、上下中間ロールと上下バックアップロールとの接触部、又は、上下ワークロールと上下中間ロールとの接触部の何れか1箇所以上に供給することを特徴とする請求項1から6の何れか1項に記載の潤滑油供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鋼製造プロセスにおける鋼板の圧延において、必要最小限の潤滑油供給量でバックアップロールの偏摩耗を低減し、鋼板の通板形状悪化の発生を抑制することを可能にする潤滑油供給方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ワークロールとバックアップロールからなる4段圧延機や、これに更に中間ロールを備えた6段圧延機は、鋼板の圧延に広く用いられている。これらの圧延機において、バックアップロールは、被圧延材に付与する圧下力の反力をワークロール或いは中間ロールを介して受けており、特にワークロールの摩耗進行に伴って被圧延材のエッジ部分に対応する位置との接触ライン近傍や、中間ロールシフト型の6段圧延機においては、中間ロールシフトに伴う中間ロールのエッジ部分との接触ライン近傍において、強い接触圧を受け、その表面が局部的に摩耗を生ずる結果、偏摩耗を起こしてその寿命が著しく損なわれると共に、被圧延材の通板形状の悪化をもたらす場合がある。
【0003】
そこで、相互に接触する圧延ロール、例えばワークロールとバックアップロールとの接触面や、中間ロールとワークロール或いはバックアップロールとの接触面に向けて、潤滑油(圧延油)を供給して、接触する各ロールの摩耗を低減すると共に、通板形状の悪化を抑制することが行われている。
【0004】
例えば、特許文献1には、バックアップロール表面に向けて圧延油を噴射するように設置されている圧延油供給装置によって、ワークロールとバックアップロール間の接触部を潤滑する技術が開示されている。また、特許文献2には、潤滑剤を供給する領域をワークロールの最大直径部と接触するバックアップロールの近傍部分に限定してワークロールとバックアップロール間へ潤滑剤を供給する技術が開示されている。
【0005】
さらに、特許文献3には、水を使用しない潤滑油の供給方法として、潤滑油を不燃性ガスと共に霧状若しくは粒状にして、ロールに噴射供給する方法が開示されている。
【0006】
特許文献1に記載された技術では、ワークロールと被圧延材との間及びワークロールとバックアップロールの間に、潤滑剤として、水と潤滑油とをウォーターインジェクションによって混合したエマルション潤滑を用いる技術であるが、エマルション潤滑剤は、潤滑剤供給用配管システム内の汚れや、ノズルの詰まりを発生し易く、さらにこれらの不具合に加えて、気温や湿度の変化により、潤滑剤の粘度に微妙な変化を生じるため、エマルション濃度が常時変化して、潤滑効果にばらつきを生じることが問題となっている。
【0007】
また、特許文献2に記載されたワークロールの最大直径部と接触するバックアップロール部分近傍に限定して潤滑剤を供給する技術では、バックアップロールのロールプロフィールの現状にかかわらず、常にワークロールの最大直径部と接触するバックアップロール近傍に潤滑剤を供給しているので、ワークロールの最大直径部に対応する位置以外で発生するロール偏摩耗などに対処することは難しかった。
【0008】
さらに、特許文献3に記載された技術は、潤滑油を水と混合せずに、エアーアトマイズ法等により、粒状にしてロール表面に向けて、噴射し、潤滑油の供給量を少なくしてスリップを起こさない範囲で潤滑効果を得られる条件で圧延操業を可能としたものであるが、ロール偏摩耗等に対する対策は成されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−110555号公報
【特許文献2】特開2009−208087号公報
【特許文献3】特開2003− 94104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した従来技術は、必要十分な量以上の潤滑剤を予め決定された位置に供給することで、ロール間のスリップによる噛み込み不良を抑制しつつ、ロール摩耗を低減しようとするものであったが、本発明は、必要最小限の潤滑油量を、適切な部位に供給することで、ワークロール或いは中間ロールとバックアップロール間のスリップを発生することなく、バックアップロールの偏摩耗を抑制して被圧延材の通板等を確実化すると共に、バックアップロールの寿命も延長して、操業安定性の向上を図ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記問題点を鑑み、上下ワークロールと上下バックアップロール間の接触部に、エアーアトマイズ法を用いて潤滑油を供給する方法において、ワークロール組み換え時に測定したバックアップロールのプロフィール又はロール幅方向の荷重予測等に基づいて、バックアップロールの偏摩耗部を特定し、潤滑油を供給する領域を上下ワークロールと上下バックアップロール間の接触部のうち、バックアップロールの偏摩耗領域に限定することで、ロール接触部におけるスリップを発生することなく、バックアップロールの偏摩耗を抑制することを可能としたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1) 4段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、バックアップロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記バックアップロールの偏摩耗領域に限定して、水と混合せずに不燃性ガスと共に、上下ワークロールと上下バックアップロールとの接触部に噴射供給する
に際して、
前記バックアップロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、バックアップロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域をバックアップロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする潤滑油供給方法。
【0014】
(
2) 前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m
2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする上記(1
)に記載の潤滑油供給方法。
【0015】
(
3) 6段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、バックアップロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記バックアップロールの偏摩耗領域に限定して、水と混合せずに不燃性ガスと共に、上下中間ロールと上下バックアップロールとの接触部に噴射供給する
に際して、
前記潤滑油供給法において、前記バックアップロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、バックアップロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域をバックアップロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする潤滑油供給方法。
【0017】
(
4) 前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m
2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする上記(
3)に記載の潤滑油供給方法。
【0018】
(
5) 6段圧延機により鋼材の圧延を行う圧延における潤滑油供給方法において、中間ロールの偏摩耗領域を特定し、潤滑油を供給する領域を上記中間ロールの偏摩耗領域に限定して、水と混合せずに不燃性ガスと共に、上下ワークロールと上下中間ロールとの接触部に噴射供給する
に際して、
前記中間ロールの偏摩耗領域に関するパラメータは、中間ロールの最小半径a、最大半径bとx=20〜800という数値であり、a≦b−x(μm)が成り立つ場合に、潤滑油を供給する領域を中間ロールの胴長方向でa≦r≦b−x(μm)の範囲内の半径rを有する領域に限定することを特徴とする潤滑油供給方法。
【0020】
(
6) 前記潤滑油供給方法において、潤滑油供給量がロール表面積1m
2当たり0.01cc以上30cc以下、40℃における動粘度が800cSt以下の潤滑油を、平均粒径が5mm以下の粒状の状態で、水と混合せずに毎秒1m以上の噴射速度の不燃性ガスと共に噴射供給することを特徴とする上記(
5)に記載の潤滑油供給方法。
【0021】
(
7) 不燃性ガスと共に噴射される潤滑油とは別個に、バックアップロール及び/又は中間ロールに偏摩耗が発生していない時に、別個のノズルから、エマルジョン潤滑油を、上下ワークロールと上下バックアップロールとの接触部、上下中間ロールと上下バックアップロールとの接触部、又は、上下ワークロールと上下中間ロールとの接触部の何れか1箇所以上に供給することを特徴とする前記(1)から(
6)の何れか1つに記載の潤滑油供給方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、ワークロール組み換え時に得られるバックアップロールのプロフィール実測値或いはバックアップロールと接するワークロール又は中間ロールとの間の接触荷重分布から算出されたバックアップロールの摩耗量分布から、バックアップロールの偏摩耗領域を特定し、必要とされる部分のみに、必要最小限量の潤滑油を供給できるので、バックアップロールの偏摩耗の進行を確実に抑制することができ、また、過剰な潤滑油が供給されることによるワークロール或いは中間ロールと、バックアップロールとの接触面でのスリップが発生し難いので、被圧延材の通板を確実に行うことができ、バックアップロールの偏摩耗が抑制されるので、使用期限の後期においてもバックアップロールのプロフィールが維持され、或いは、バックアップロール交換の頻度が減少できることと相まって、操業の安定性向上への寄与は大きい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る潤滑油供給方法を適用した4段圧延機の側面図である。
【
図2】バックアップロール軸方向のプロフィールと、潤滑油を供給する位置の概念図である。
【
図3】バックアップロールのプロフィール変化を示す図であって、上は、本発明に係る潤滑油供給方法を適用しなかった場合、下は本発明方法を適用した場合の使用前後におけるバックアップロールの摩耗プロフィールの相違を示す。
【
図4】バックアップロール軸方向のプロフィールと潤滑範囲を示す一例である。
【
図5】バックアップロール軸方向のプロフィールと潤滑範囲を示す一例である。
【
図6】バックアップロール軸方向のプロフィールと潤滑範囲を示す一例である。
【
図7】バックアップロール軸方向のプロフィールと潤滑範囲を示す一例である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
図1に示す4段圧延機は、周知のように、上下ワークロール1,1及び上下バックアップロール2,2を具備し、上ワークロールと上バックアップロールの接触面と、下ワークロールと下バックアップロールとの接触面に向けて、それぞれ潤滑油供給ノズル5が、軸方向に所定間隔で配備されている。
【0025】
また、触針式のプロフィールメータ4が上下バックアップロール2の表面を軸方向に走査可能に配備されている。プロフィールメータ4は、触針式の他、光学式等の他方式によるものでもよいが、何れの場合も、圧延機の稼動時には測定位置から退避可能に設置している。
【0026】
圧延機を稼動して、ワークロール1の交換時期を迎えたときに、退避位置から測定位置にプロフィールメータ4を移動させ、上下のバックアップロール2表面を軸方向に走査して、バックアップロールの偏摩耗状況を把握する。
【0027】
バックアップロール2は、ワークロール1を介して、被圧延材から圧延反力を受け、通常は被圧延材のエッジ部分に対応する位置の摩耗量が増大する傾向があるが、実操業では、種々の板幅の被圧延材を生産スケジュールに従って圧延していくので、生産する製品の板幅毎の多寡や、順序により、その摩耗状況は異なるものとなる。
【0028】
プロフィールメータ4により、上下のバックアップロール2の摩耗状況を把握した後、その結果により、以後の操業中に、摩耗が進みつつある部分に対して、所定量の潤滑油を潤滑油供給ノズル5から噴射して摩耗の進行を抑制する。
【0029】
潤滑油供給ノズル5はワークロール1とバックアップロール2との接触面に向けて設置し、ロール軸方向への拡散の少ない、例えば縦長の楕円形状の吐出口として、ロール軸方向(被圧延材の板幅方向)の狙い位置精度を高くできるものとするのがよい。
【0030】
潤滑油供給ノズル5は、上下バックアップロール2それぞれについてロール軸方向(被圧延材の板幅方向)に複数設けて、各ノズルから必要量の潤滑油を供給するが、摩耗抑制力の高い動粘度の異なる潤滑油を供給できる別個の潤滑油供給ノズルをロール軸方向に移動可能に設けて、必要に応じて、ロール表面の特定部位に供給できるようにしてもよい。エマルション潤滑油を供給できる別個の潤滑油供給ノズルをロール軸方向に設けて、バックアップロールの偏摩耗が発生していない時に、ワークロールとバックアップロールとの接触面に向けてエマルション潤滑油を供給できるようにしてもよい。
【0031】
潤滑油を供給する領域については、例えば、バックアップロールの最大半径から20μm程度小さい半径領域から最小半径領域に至る部分全体とするのが基本であるが、被圧延材の形状に及ぼす影響や、ロールプロフィールの特徴、或いは残余の予定ロール寿命によっては、最大半径から30乃至800μm以上小さい半径から最小半径に至る領域部分を潤滑領域として、潤滑油の供給領域を更に小さく限定することにより、ロールプロフィールが大径の部分の摩耗を相対的に造速させて、ロールプロフィール全体としての平滑化を図ってもよい。
即ち、a≦r≦b−x(μm)において、xは、20〜800の数値から、決定することができる。バックアップロールの最大半径と最小半径との差が20μm未満の偏摩耗は、プロフィールメータでの検出が困難であるため、xを20以上とした。一方、バックアップロールの最大半径と最小半径との差が800μmより大きい偏摩耗が生じると、通板形状の悪化により正常な通板が不可能となるため、xを800以下とした。
【0032】
図2に、バックアップロール軸方向のプロフィールと、潤滑油を供給する位置の概念図を示す。
図2においては、最大半径bから20μm以上小さい位置から、最小半径aまでの領域に、水と混合しない潤滑油を、不燃性ガスと共に噴射供給している。
【0033】
使用する潤滑油の供給量については、その値が低すぎるとロール偏摩耗抑制の効果が十分には得られない一方、大きくしすぎてもロール偏摩耗抑制の効果に変化が見られなくなるため、ロール表面積1m
2当たり0.01cc以上30cc以下とした。潤滑油の動粘度は、高すぎると潤滑性能が不足するので、40℃における動粘度の範囲は、800cSt以下とした。さらに、圧延に使用される潤滑油の40℃における動粘度の範囲は5cSt以上であり、熱間圧延での使用においては、40℃における動粘度の範囲は20cSt以上が好ましい。また、潤滑油の大きさは、粒径5mm以下として、ロール面からの落下を抑制すると共に、ロール表面への付着を容易なものとした。さらに不燃性ガス(例えば、空気、ヘリウム、窒素、アルゴン等)も毎秒1m以上の噴射速度で供給することによって、潤滑油の付着効率を著しく低下させるロール表面上の水分や水膜を吹き飛ばし、ロール自身の表面に潤滑油が衝突・付着するようにした。
【0034】
図3において、上の曲線は、本発明に係る潤滑油供給方法を適用しなかった場合、下は本発明方法を適用した場合の使用前後におけるバックアップロールの摩耗プロフィールの相違を示している。
本発明を実施する前の、エマルジョン潤滑剤による一様な潤滑を採用した場合は、作業ロールエッジ部分が当接するバックアップロール表面が大きく摩耗するのに対して、本発明方法を適用した下段の場合には、潤滑油を供給した偏摩耗領域では摩耗の進行が抑制される一方、潤滑油を供給していない領域では摩耗が進行するので当該部分の偏摩耗が大幅に低減されていることがわかる。
【0035】
本発明の第2の形態である、中間ロールを有する6段圧延機を使用した圧延方法に適用した場合には、ワークロールの交換時のみでなく、中間ロールの交換時においても、バックアップロール2のプロフィールを計測して、潤滑油の供給パターンを決定すればよい。この場合の潤滑油の供給位置は、中間ロールとバックアップロールとの接触面とする。
【0036】
6段圧延機の場合には、さらに、ワークロールと中間ロールとの間の接触面に、通常の圧延操業において供給する潤滑剤を供給しても良いことは明らかである。ここまで、バックアップロールの偏摩耗抑制について述べてきたが、中間ロールの偏摩耗を抑制するために、中間ロールの偏摩耗領域を特定し、中間ロールとバックアップロール或いはワークロールと中間ロールとの間の接触面の偏摩耗領域に限定して潤滑油を供給してもよい。
【0037】
さらに、プロフィールメータによるバックアップロールプロフィールの測定に替えて、接触荷重分布の計測値からバックアップロールの偏摩耗量を把握する方法を用いてもよく、その方法においてはワークロール或いは中間ロールの交換後にバックアップロールとの接触面にストレインゲージなどの圧力センサーを該接触面長手方向に列設した板材ダミーをバックアップロールとワークロール或いは中間ロールとの接触面に挟持し、所定の圧下力を負荷して、ロール軸方向におけるロール接触面の接触荷重分布を求める。
交換直後のワークロール又は中間ロールは摩耗がないと考えられるため、測定された接触荷重分布の小さい部分が、バックアップロールの偏摩耗が進んでいる領域と判断できるので、次ロットの圧延操業においては、当該部分に潤滑油を供給してバックアップロールの偏摩耗を抑制すればよい。
【実施例1】
【0038】
タンデム式4段圧延機を用いて、有効ロール長全面にわたってワークロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を実施して、1ロットあたりのスラブ処理量=2800〜3200tの条件で50ロット分の被圧延材を圧延した後、No.2スタンドのワークロール交換時に、バックアップロールプロフィールを触針式プロフィールメータにより、計測した。1ロットの操業条件は、被圧延材鋼種=熱延鋼帯(SPHC)、タンデム式圧延機入側板厚=25〜50mm、タンデム式圧延機出側板厚=1.4〜4.0mm、板幅=900〜1200mmである。
その結果、有効ロール長2000mmのバックアップロールの左右端面から500mmの位置に偏摩耗の兆候が発見されたので、次ロットの圧延操業においては、
図4に示すように、前記エマルション潤滑を中止して、バックアップロールの胴長方向で最小半径a≦r≦最大半径b−300μmの範囲内の半径rを有する領域に潤滑油をロール表面積1m
2当たり1cc供給しつつ、圧延操業を行った。
対照例として、No.3スタンドについては、ワークロール交換時に特にバックアップロールのプロフィールを測定することなく、次ロットにおいても、前ロットと同様の有効ロール長全面にわたってワークロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を継続して圧延操業を行った。
【0039】
本発明の方法に沿って潤滑油の供給を行ったNo.2スタンドにおいては、ワークロール交換時点で600.0μmであったバックアップロールの偏摩耗が、次ロットの圧延終了時においても600.0+3.0μmを維持し、偏摩耗が十分に抑制されていたが、対照例においては、ワークロール交換時に同じく600.0μmであった偏摩耗が、次ロットの終了時点においては600.0+10.0μmにまで増大していた。
本発明による偏摩耗の低減効果は、70%にも上り、使用期限末期においてもバックアップロールプロフィールは良好な形状を維持しており、寿命の延長も可能である。
【実施例2】
【0040】
タンデム式4段圧延機を用いて、有効ロール長全面にわたってワークロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を実施して、1ロットあたりのスラブ処理量=2800〜3200tの条件で100ロット分の被圧延材を圧延した後、No.4スタンドのワークロール交換時に、バックアップロールプロフィールを触針式プロフィールメータにより、計測した。1ロットの操業条件は、被圧延材鋼種=熱延鋼帯(SPHC)、タンデム式圧延機入側板厚=25〜50mm、タンデム式圧延機出側板厚=1.4〜4.0mm、板幅=900〜1200mmである。
その結果、有効ロール長2000mmのバックアップロールの幅方向における中心の位置に偏摩耗の兆候が発見されたので、次ロットの圧延操業においては、
図5に示すように、前記エマルション潤滑を中止して、バックアップロールの胴長方向で最小半径a≦r≦最大半径b−800μmの範囲内の半径rを有する領域に潤滑油をロール表面積1m
2当たり10cc供給しつつ、圧延操業を行った。
対照例として、No.5スタンドについては、ワークロール交換時に特にバックアップロールのプロフィールを測定することなく、次ロットにおいても、前ロットと同様の有効ロール長全面にわたってワークロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を継続して圧延操業を行った。
【0041】
本発明の方法に沿って潤滑油の供給を行ったNo.4スタンドにおいては、ワークロール交換時点で850.0μmであったバックアップロールの偏摩耗が、次ロットの圧延終了時においても850.0+8.0μmを維持し、偏摩耗が十分に抑制されていたが、対照例においては、ワークロール交換時に同じく820.0μmであった偏摩耗が、次ロットの終了時点においては820.0+20.0μmにまで増大していた。
本発明による偏摩耗の低減効果は、60%にも上り、使用期限末期においてもバックアップロールプロフィールは良好な形状を維持しており、寿命の延長も可能である。
【実施例3】
【0042】
タンデム式6段圧延機を用いて、有効ロール長全面にわたって中間ロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を実施して、1ロットあたりのスラブ処理量=2800〜3200tの条件で25ロット分の被圧延材を圧延した後、No.6スタンドの中間ロール交換時に、バックアップロールプロフィールを触針式プロフィールメータにより、計測した。1ロットの操業条件は、被圧延材鋼種=熱延鋼帯(SPHC)、タンデム式圧延機入側板厚=25〜50mm、タンデム式圧延機出側板厚=1.4〜4.0mm、板幅=900〜1200mmである。
その結果、有効ロール長2000mmのバックアップロールの駆動側端面から250mmの位置に偏摩耗の兆候が発見されたので、次ロット以降の圧延操業においては、
図6に示すように、前記エマルション潤滑を中止して、バックアップロールの胴長方向で最小半径a≦r≦最大半径b−20μmの範囲内の半径rを有する領域に潤滑油をロール表面積1m
2当たり20cc供給しつつ、圧延操業を行った。
対照例として、No.7スタンドについては、中間ロール交換時に特にバックアップロールのプロフィールを測定することなく、次ロット以降においても、前ロットと同様の有効ロール長全面にわたって中間ロールとバックアップロールとの接触面へのエマルション潤滑を継続して圧延操業を行った。
【0043】
本発明の方法に沿って潤滑油の供給を行ったNo.6スタンドにおいては、中間ロール交換時点で150.0μmであったバックアップロールの偏摩耗が、次中間ロール交換時においても150.0+5.0μmを維持し、偏摩耗が十分に抑制されていたが、対照例においては、中間ロール交換時に同じく160.0μmであった偏摩耗が、次中間ロール交換時点においては160.0+15.0μmにまで増大していた。
本発明による偏摩耗の低減効果は、67%にも上り、使用期限末期においてもバックアップロールプロフィールは良好な形状を維持しており、寿命の延長も可能である。
【実施例4】
【0044】
タンデム式6段圧延機を用いて、有効ロール長全面にわたってワークロールと中間ロールとの接触面へのエマルション潤滑を実施して、1ロットあたりのスラブ処理量=2800〜3200tの条件で5ロット分の被圧延材を圧延した後、No.6スタンドのワークロール交換時に、中間ロールプロフィールを触針式プロフィールメータにより、計測した。
その結果、有効ロール長2000mmの中間ロールの作業側端面から400mmの位置に偏摩耗の兆候が発見されたので、次ロットの圧延操業においては、
図7に示すように、前記エマルション潤滑を中止して、バックアップロールの胴長方向で最小半径a≦r≦最大半径b−100μmの範囲内の半径rを有する領域に潤滑油をロール表面積1m
2当たり5cc上乗せして供給しつつ、圧延操業を行った。
対照例として、No.7スタンドについては、ワークロール交換時に特に中間ロールのプロフィールを測定することなく、次ロット以降においても、前ロットと同様の有効ロール長全面にわたってワークロールと中間ロールとの接触面へのエマルション潤滑を継続して圧延操業を行った。
【0045】
本発明の方法に沿って潤滑油の供給を行ったNo.6スタンドにおいては、ワークロール交換時点で300.0μmであった中間ロールの偏摩耗が、次ワークロール交換時においても300.0+0.5μmを維持し、偏摩耗が十分に抑制されていたが、対照例においては、ワークロール交換時に同じく305.0μmであった偏摩耗が、次ワークロール交換時点においては305.0+1.4μmにまで増大していた。
本発明による偏摩耗の低減効果は、65%にも上り、使用期限末期においても中間ロールプロフィールは良好な形状を維持しており、寿命の延長も可能である。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上から明らかなように、本発明の潤滑油供給方法によれば、ワークロール及び/又は中間ロール交換時にバックアップロールのプロフィールを測定して、必要な位置に所定量の潤滑油を供給することで、バックアップロールの偏摩耗の進行を大幅に抑制することができるようになり、圧延操業におけるロール原単位の低下(効率アップ)や、潤滑油使用量の抑制を実現でき、必要量以上の潤滑剤供給による作業現場の環境悪化も防止できる上、時間と多大な作業を要するバックアップロール交換の頻度を低減できるなど、圧延操業の効率化への寄与は極めて大きく、産業上の利用可能性と、その効果は大きい。
【符号の説明】
【0047】
1 ワークロール
2 バックアップロール
3 被圧延材
4 プロフィールメータ
5 潤滑油供給ノズル