特許第5962423号(P5962423)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962423
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】クロスメンバ
(51)【国際特許分類】
   B62D 21/00 20060101AFI20160721BHJP
【FI】
   B62D21/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-229855(P2012-229855)
(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公開番号】特開2014-80127(P2014-80127A)
(43)【公開日】2014年5月8日
【審査請求日】2015年9月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】特許業務法人スズエ国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100108855
【弁理士】
【氏名又は名称】蔵田 昌俊
(74)【代理人】
【識別番号】100109830
【弁理士】
【氏名又は名称】福原 淑弘
(74)【代理人】
【識別番号】100088683
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100095441
【弁理士】
【氏名又は名称】白根 俊郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075672
【弁理士】
【氏名又は名称】峰 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100119976
【弁理士】
【氏名又は名称】幸長 保次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100153051
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100140176
【弁理士】
【氏名又は名称】砂川 克
(74)【代理人】
【識別番号】100158805
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 守三
(74)【代理人】
【識別番号】100172580
【弁理士】
【氏名又は名称】赤穂 隆雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179062
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正
(74)【代理人】
【識別番号】100124394
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 立志
(74)【代理人】
【識別番号】100112807
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 貴志
(74)【代理人】
【識別番号】100111073
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 美保子
(74)【代理人】
【識別番号】100134290
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 将訓
(72)【発明者】
【氏名】新名 祐三
(72)【発明者】
【氏名】坂本 徹
【審査官】 須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−148960(JP,A)
【文献】 特開平11−005566(JP,A)
【文献】 特開2012−166743(JP,A)
【文献】 実開平04−069287(JP,U)
【文献】 特開2008−290539(JP,A)
【文献】 特開2006−281953(JP,A)
【文献】 特開2011−162158(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0198832(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフレーム部材に取り付けられるクロスメンバであって、
車幅方向に延設されるクロスメンバ本体部と、
前記クロスメンバ本体部に設けられ、前記フレーム部材に連結される中空構造のクロスメンバ取付部と、
前記クロスメンバ取付部に設けられたボルト孔に挿通されて、前記クロスメンバ取付部を前記フレーム部材に締結する取付用ボルトと、
前記クロスメンバ取付部内の前記ボルト孔に対応する位置に設けられて、前記取付用ボルトが挿通される筒体と、
前記筒体が貫通する筒体孔を有し、前記筒体孔に前記筒体が貫通された状態で前記クロスメンバ取付部内に取り付けられ、所定以上の荷重が作用した際に前記筒体孔が破断するよう設定された補強板と、を備え、
前記クロスメンバ取付部は、複数枚の前記補強板を重ねて設置可能に構成され、前記補強板の設置枚数を調整することで前記フレーム部材に対する前記クロスメンバ取付部の脱落荷重を調整可能としたことを特徴とするクロスメンバ。
【請求項2】
前記クロスメンバ本体部及び前記クロスメンバ取付部は、前記クロスメンバ本体部及び前記クロスメンバ取付部の上半部を形成する上半部材と、前記上半部材と重ね合わせられる、前記クロスメンバ本体部及び前記クロスメンバ取付部の下半部とを形成する下半部材と、からなり、
前記補強板は、前記上半部材と下半部材の少なくともいずれかに溶接により固着されていることを特徴とする請求項1に記載のクロスメンバ。
【請求項3】
前記クロスメンバ取付部は、側壁の間隔が、前記クロスメンバ本体部から先端側に向かうにしたがい先細となるよう形成されており、前記補強板は、その側面が前記クロスメンバ取付部の前記側壁に沿うよう当接されていることを特徴とする請求項1または2に記載のクロスメンバ。
【請求項4】
前記補強板の、前記クロスメンバ取付部の前記側壁に接する側面と前記側壁に接していない側面との交差部分は、円弧状に形成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のクロスメンバ。
【請求項5】
前記筒体孔は、前記筒体の外径とほぼ等しい内径を有し、かつ、前記筒体は、前記筒体孔の内面に固着していないことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のクロスメンバ。
【請求項6】
前記クロスメンバは、車両の懸架装置を組み付けるサスペンションクロスメンバであることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のクロスメンバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、取付部の脱落荷重を調整可能としたクロスメンバに関する。
【背景技術】
【0002】
クロスメンバとして、例えば、車両のサスペンションクロスメンバが知られている。サスペンションクロスメンバは、懸架装置(サスペンション機構)を保持する部材で、サイドメンバにボルトの締結により固定されている。サイドメンバは、車両のフレームを構成する部材で、車両の下方に前後方向に沿って設けられており、エンジンや変速機等を搭載している。
【0003】
車両は、通常、衝突したときに変形して衝突エネルギを吸収するクラッシュゾーンを備えている。又、サスペンションクロスメンバは、所定以上の衝突エネルギが加えられると、取付部が破損して、サイドメンバから脱落するように構成されている。
【0004】
これにより、車両は、事故が万一発生したとしても、クラッシュゾーンが変形して、室内空間を確保し、乗員の損傷を防止し、又、軽減させるとともに、サスペンションクロスメンバまで破損がおよんだ場合は、サスペンションクロスメンバがサイドフレームから脱落し、サスペンションクロスメンバやエンジン等により室内空間が破損されることを防止している。
【0005】
近年、エンジンのみで駆動するエンジン仕様の車両と、エンジンに加えモータでも走行可能なハイブリッド仕様の車両とを、同一の車体を用いて製造することがある。ハイブリッド仕様の車両は、モータや多くの電池を搭載するなど、エンジン仕様の車両より車重が重く、同一の衝突速度でも、車重が重い分、エンジン仕様の車両より衝突エネルギが大きくなる。
【0006】
そのため、全く同じサスペンションクロスメンバを使用した場合、ハイブリッド仕様の車両ではサスペンションクロスメンバが早期に脱落してしまうため、衝突エネルギを十分に吸収できない場合がある。そこで、仕様にかかわらず、衝突時の速度が同一なら、破損が同程度となるよう、サスペンションクロスメンバの取付部における脱落荷重を調整してサスペンションクロスメンバが脱落するタイミングを調整する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−148960号公報
【特許文献2】特開2006−281953号公報
【特許文献3】特開2008−290539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、ガソリンエンジン仕様の車両とハイブリッド仕様の車両とでサスペンションクロスメンバの脱落荷重を異ならせるためには、サスペンションクロスメンバ全体の厚みを変えたり、取付部の周辺を補強部材で補強したり、あるいは、強度の異なる素材で製造するなどの対策が必要となる。そうすると、衝突要件以外に車両の操縦安定性や振動等の機能上の面にも影響が出るため再調整が必要となり、開発工数や製造コストが大きくなる。
【0009】
又、素材の変更によりサスペンションクロスメンバ自体の強度が異なると、強度や剛性のバランスが崩れ、サスペンションクロスメンバの周辺の強度設定を変更させる必要が生じることがある。
【0010】
本発明は、クロスメンバ全体の強度・剛性に影響を与えることが少なく、簡易な構成と低いコストで、取付部の脱落荷重を容易に調整できるクロスメンバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記の課題を解決するため、車両のフレーム部材に取り付けられるクロスメンバを次のように構成した。クロスメンバは、車幅方向に延設されるクロスメンバ本体部と、クロスメンバ本体部に設けられ、フレーム部材に連結される中空構造のクロスメンバ取付部と、クロスメンバ取付部に設けられたボルト孔に挿通されて、クロスメンバ取付部をフレーム部材に締結する取付用ボルトと、クロスメンバ取付部内のボルト孔に対応する位置に設けられて、取付用ボルトが挿通される筒体と、筒体が貫通する筒体孔を有し、筒体孔に筒体が貫通された状態でクロスメンバ取付部内に取り付けられ、所定以上の荷重が作用した際に筒体孔が破断するよう設定された補強板と、を備えている。
【0012】
そして、クロスメンバ取付部は、複数枚の補強板を重ねて設置可能に構成してあり、補強板の設置枚数を調整することでフレーム部材に対するクロスメンバ取付部の脱落荷重を調整可能とした。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかるクロスメンバは、クロスメンバ取付部に取り付ける補強板の枚数を適宜選択することにより、クロスメンバ取付部の脱落荷重を調整することができる。これにより、クロスメンバは、クロスメンバ本体部の強度や剛性を変更させることなく、簡易な構造で、クロスメンバ取付部の脱落荷重を所望の値に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる一実施形態のサスペンションクロスメンバを備えた車両を示す側面図。
図2】同サスペンションクロスメンバを示す平面図。
図3】同サスペンションクロスメンバの取付部を示す側面図。
図4】同サスペンションクロスメンバの取付部を示す斜視図。
図5】同サスペンションクロスメンバの取付部を示す平面図。
図6】同サスペンションクロスメンバを示す側面図。
図7】同サスペンションクロスメンバの一部を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる一実施形態のクロスメンバについて説明する。図1は、本発明にかかる一実施形態のクロスメンバとしてのサスペンションクロスメンバ10を備えた車両100を示す側面図であり、図2は、サスペンションクロスメンバ10を示す平面図であり、図3は、サスペンションクロスメンバ10の取付部16を示す側面図であり、図4は、サスペンションクロスメンバ10の取付部16を示す斜視図であり、図5は、サスペンションクロスメンバ10の取付部16を示す平面図であり、図6は、サスペンションクロスメンバ10を示す側面図であり、図7は、サスペンションクロスメンバ10の一部を示す斜視図である。
【0016】
図1に、サスペンションクロスメンバ10を備えた車両100を示す。車両100は、図1の矢印Aの方向が前方であり、車両100の前方には前輪102が、後方には後輪104が設けられている。以下、サスペンションクロスメンバ10について、車両100の前後方向を基準に左右を定め、重力の方向を下方、その逆を上方として説明する。
【0017】
車両100の下方には、フレーム部材としてのサイドメンバ12が、車両100の前後方向に沿って設けられている。サイドメンバ12は、車両100のほぼ前端から後端に至る長さを有し、車両100の幅方向に並列に一対設けられている。サイドメンバ12には、駆動機構であるエンジン106や変速機構であるトランスミッション108が搭載されている。サスペンションクロスメンバ10は、車幅方向(左右方向)に延設されて図1図6に示すようにサイドメンバ12の下方に取り付けられている。
【0018】
次に、サスペンションクロスメンバ10について説明する。図2に、サスペンションクロスメンバ10を示す。図2は、サスペンションクロスメンバ10を上方から示している。サスペンションクロスメンバ10は、車幅方向に延設されるクロスメンバ本体部14(以下、「本体部14」とする)と、本体部14に設けられてサイドメンバ12に連結されるクロスメンバ取付部16(以下、「取付部16」とする)とを備えている。
【0019】
サスペンションクロスメンバ10(本体部14)は、左右側方に、前輪102の懸架装置20が設けられている。懸架装置20は、ロアアーム22、スプリング、ダンパ、ナックル24(左側のナックルを図2に示す)等から構成されている。ロアアーム22は、サスペンションクロスメンバ10に回動自在に取り付けられている。ロアアーム22の端部にナックル24が取り付けられている。スプリングとダンパとは、ダンパスプリング機構を構成し、車両100とナックル24との間を連結する。ナックル24に、前輪102が取り付けられる。
【0020】
サスペンションクロスメンバ10は、図3にも示すように、上部に上半部材30を、下部に下半部材32とを有している。上半部材30と下半部材32とは、所定の厚みの金属板から形成されている。
【0021】
上半部材30は、本体上半部材34と取付上半部材36とを有し、サスペンションクロスメンバ10の上半部を構成している。下半部材32は、本体下半部材38と取付下半部材40とを有し、サスペンションクロスメンバ10の下半部を構成している。サスペンションクロスメンバ10は、上半部材30と下半部材32とを上下に重ね合わせ、両者の突き合わせ部に溶接を施して中空構造に形成されている。本体部14は、本体上半部材34と本体下半部材38とにより、又、取付部16は、取付上半部材36と取付下半部材40とにより形成されている。
【0022】
取付部16は、図2に示すように本体部14の後部に左右一対で設けられている。取付部16は、本体部14から車幅方向外側向かって延設され、図3に示すように取付用ボルト48でサイドメンバ12に締結される。取付部16は、図3に示すように上部に上壁37、下部に下壁39、前方側面に前側壁41、後方側面に後側壁43とを備え、断面がほぼ矩形に形成されている。特許請求の範囲でいう側壁とは、前側壁41と後側壁43とをいう。
【0023】
上壁37と、前側壁41及び後側壁43の一部は、取付上半部材36により、下壁39と、前側壁41及び後側壁43の一部は、取付下半部材40により形成されている。又、取付部16は、図5にも示すように、前側壁41と後側壁43とが車幅方向外側に向かうにしたがって互いの間隔が狭くなるよう形成されている。つまり、取付部16は、本体部14から先端側に向かうにしたがって次第に先細となるよう形成されている。
【0024】
上壁37には、図2図3に示すように上ボルト孔42が、又、下壁39には、下ボルト孔44が設けられている。上ボルト孔42と下ボルト孔44とは、特許請求の範囲でいうボルト孔であり、取付用ボルト48が通る径で、互いに対向した位置に設けられている。
【0025】
取付部16の内側には、図3図4に示すように、上ボルト孔42と下ボルト孔44に対応する位置に筒体56が設けられている。筒体56は、円筒状で、上壁37と下壁39との間隔にほぼ等しい長さを有し、内側に取付用ボルト48が通る径の内孔57を備えている。筒体56は、内孔57が上ボルト孔42と下ボルト孔44に一致するように配置され、取付部16の上壁37と下壁39の間に挟まれた状態で取付用ボルト48が挿通される。筒体56は、所定の肉厚を有し、後述する補強板52より高い強度に形成されている。
【0026】
次に、補強板52について説明する。取付部16の内側には、図4図5に示すように筒体56の周囲を囲むように補強板52が設置されている。補強板52は、所定の厚みを有する金属製板材で、所定の強度を有し、取付部16の内側に複数枚重ねて設置可能とされている。補強板52は、図5に示すように平面視でほぼ台形に形成され、取付部16に組み付けると、前後の側面53が、取付部16の前側壁41と後側壁43に密着する。すなわち、補強板52の前後両側面53は、取付部16の前側壁41と後側壁43の傾斜に沿って当接するように形成されている。
【0027】
補強板52の前後の側面53は、取付部16の内側に、溶接により固定されている。又、補強板52は、四隅が円弧状に形成され、補強板52の前後両側面53は、連続した円弧で取付部16の内壁に接している。このように、補強板52は、取付部16の内側に、いわば、角を丸く形成した、くさびが嵌るように取り付けられている。
【0028】
更に、補強板52は、ほぼ中央に筒体孔54を有している。筒体孔54は、円形で、内径が筒体56の外径とほぼ等しく形成されている。筒体孔54には、筒体56が、基本的に、筒体孔54に固着されることなく、かつ筒体孔54と筒体56との間に大きな隙間が発生することなく通されている。筒体孔54は、筒体孔54に筒体56を通すと、筒体56の内孔57が上ボルト孔42及び下ボルト孔44の位置に一致するように形成されている。尚、補強板52は、筒体56から所定以上の荷重が作用されると筒体孔54が破断するよう設定されている。
【0029】
上ボルト孔42と下ボルト孔44とに通した取付用ボルト48は、取付部16をほぼ垂直に貫通し、サイドメンバ12に設けられた雌ねじ部50に螺合して締結される。このようにして、取付部16は、上ボルト孔42、筒体56、下ボルト孔44とに通した取付用ボルト48によりサイドメンバ12に固定されている。図6図7に、サイドメンバ12にサスペンションクロスメンバ10が取り付けられた状態を示す。図7は、車両100の下側からサスペンションクロスメンバ10を示す図である。
【0030】
サスペンションクロスメンバ10は、例えば次のようにして形成する。所定の枚数、(本実施形態では2枚)の補強板52を取付上半部材36に溶接する。補強板52を取付上半部材36に溶接した状態を図4に示す。補強板52を溶接した後、筒体孔54に筒体56を通し、上半部材30に下半部材32を重ね合わせて、上半部材30と下半部材32とを突き合わせ部に沿って溶接する。これにより、サスペンションクロスメンバ10は、取付部16に予め設定された所定枚数の補強板52が取り付けられる。
【0031】
サスペンションクロスメンバ10は、サスペンションクロスメンバ10の周囲に懸架装置20を組み付けた後、サイドメンバ12に連結される。具体的には、サスペンションクロスメンバ10の下半部材32の下ボルト孔44に取付用ボルト48を差し入れ、筒体56の内部を貫通させ、上半部材30に設けられた上ボルト孔42から突出させてサイドメンバ12の雌ねじ部50にねじ止めする。
【0032】
更に、サスペンションクロスメンバ10の他の取付部を、ボルトでサイドメンバ12に固定し、サスペンションクロスメンバ10をサイドメンバ12に取り付ける。懸架装置20を車両100に組み付け、組み付けられた懸架装置に前輪102を取り付ける。その他の組み付け作業を行い車両100を完成させる。
【0033】
尚、取付部16は、補強板52を複数枚重ねて設置可能であり、補強板52の設置枚数を調整することで、取付部16のサイドメンバ12に対する脱落荷重を調整することができるようになっている。
【0034】
これにより、車両100には、取付部16が補強板52により所望の脱落荷重に設定されたサスペンションクロスメンバ10が、取付用ボルト48によりサイドメンバ12に固定される。
【0035】
次に、サスペンションクロスメンバ10の作用、効果について説明する。例えば、車両100が、正面から障害物に衝突したとする。衝突速度が遅い場合は、車両100のサイドメンバ12等、車両100のクラッシャブルゾーンが変形して、衝突エネルギが吸収される。衝突エネルギが小さい場合は、サイドメンバ12の変形は大きくなく、サスペンションクロスメンバ10にほとんど影響を及ぼさない。
【0036】
一方、衝突速度が速い場合は、サイドメンバ12の変形が増え、サスペンションクロスメンバ10が後方に押され、取付部16に力が加えられる。
【0037】
サスペンションクロスメンバ10が衝突エネルギを吸収しつつ後方に移動されると、取付部16が取付用ボルト48を中心にして後方側に回動するように変形される。つまり取付部16の先端側が前方側を向いた状態となる。更に、サスペンションクロスメンバ10が後方へ移動されて変形が進むと、取付部16の上壁37や下壁39が取付用ボルト48によって、相対的に車両前方側に引っ張られた状態となり、上壁37の上ボルト孔42と下壁39の下ボルト孔44とに亀裂が発生する。又、同時に補強板52が筒体56によって相対的に車両前方側にて引っ張られ、例えば、図5の点線Hで示すように亀裂が発生して破断が発生する。
【0038】
上ボルト孔42や下ボルト孔44の亀裂が拡大するとともに補強板52が破断すると、取付用ボルト48と筒体56を残して取付部16が取付用ボルト48から抜け出る。すると、サイドメンバ12からサスペンションクロスメンバ10が下方に脱落する。これにより、エンジン106やトランスミッション108が落下し、衝突時に、エンジン106やサスペンションクロスメンバ10等が車両100の車室内側に侵入してくることを防止できる。
【0039】
サスペンションクロスメンバ10は、取付部16に補強板52が2枚設けられているので、取付部16の脱落荷重が、2枚の補強板52の強度分向上されている。したがって、車両100は、補強板52を設けない場合のサスペンションクロスメンバ10を組み付けた場合と比較して、より大きな衝突エルネギを受けるまでサスペンションクロスメンバ10がサイドメンバ12から脱落しない。このように、サスペンションクロスメンバ10は、サスペンションクロスメンバ10の本体部14を変更することなく、取付部16の脱落荷重を容易に変更することができる。
【0040】
次に、サスペンションクロスメンバ10の具体的な用い方について説明する。例えば、同一の車種で、ガソリンエンジン仕様と、ハイブリッド仕様の車両があるとする。ハイブリッド仕様の車両は、モータや電池を搭載しているため、ガソリンエンジン仕様の車両より重量が重くなる。すると、同一の速度で、障害物に衝突したときでも、重量の大きいハイブリッド仕様の車両の方が、クラッシャブルゾーンに生じる衝突エネルギが大きくなる。
【0041】
つまり、ガソリンエンジン仕様の車両とハイブリッド仕様の車両で全く同じサスペンションクロスメンバ10を用いた場合、ガソリンエンジン仕様に比べて、ハイブリッド仕様のサスペンションクロスメンバ10の方が早いタイミングで脱落することになる。
【0042】
ここで、補強板52を用いないで形成したサスペンションクロスメンバ10の脱落荷重が、ガソリンエンジン仕様の車両に適合するよう設定されていると仮定し、かかるサスペンションクロスメンバ10をガソリンエンジン仕様の車両に組み付けた場合と、取付部16に2枚の補強板52を重ねて取り付けたサスペンションクロスメンバ10をハイブリッド仕様の車両に組み付けた場合とを比較する。
【0043】
2枚の補強板52は、ハイブリッド仕様の車両の重量増加分に適合した脱落荷重となるよう厚みや重ねる枚数が設定されているので、ハイブリッド仕様の車両のサスペンションクロスメンバ10は、ハイブリッド仕様の車両の重量増加分、補強板52により取付部16の脱落荷重が向上される。そして、ガソリンエンジン仕様の車両と同一の速度条件で、ハイブリッド仕様の車両を衝突させた場合、ガソリンエンジン仕様の車両の場合とほぼ同様のタイミングで取付部16が破断し、サスペンションクロスメンバ10がサイドメンバ12から脱落する。
【0044】
以上述べたように、本実施形態にかかるサスペンションクロスメンバ10は、取付部16に必要枚数の補強板52を設けるだけで、簡易に取付部16の脱落荷重を所定の値に調整することができる。本体部14には、変更を加えないので、サスペンションクロスメンバ10の走行安定性や振動等の他の機能面でのセッティングを再調整する必要がなく開発工数やコストの上昇を抑制することができる。補強板52は、板材を加工して製造できるので、安価に製造できる。補強板52は、上半部材30と下半部材32とを接合する前に取り付けられるので、サスペンションクロスメンバ10の製造に大きな変更を加えることがない。
【0045】
本体部14の強度や剛性が変更されないので、走行安定性や振動等の他の機能に対する影響が最小限に抑えられ、サスペンションクロスメンバ10が取り付けられる周辺部材の強度の変更等の再調整を必要としない。補強板52は、くさびが嵌るように取付部16に取り付けられているので、取付部16に確実に、かつ所定の強度をもたらすように取り付けられる。
【0046】
補強板52は、側面どおしの交差部分である角が円弧状に形成され、取付部16の前側壁41や後側壁43に補強板52の角が接しないので、角が接することによる応力の集中が発生せず、取付部16の強度が安定する。補強板52と筒体56とが、ほとんど隙間がなく嵌合し、しかも両者が固着していないので、衝突した際にだけ、サスペンションクロスメンバ10に生じた力が、筒体56から補強板52に筒体56と補強板52とが接した個所で直接伝達され、他機能に影響を与えず、安定した強度が得られる。
【0047】
サスペンションクロスメンバ10は、上半部材30の上ボルト孔42の強度及び下半部材32の下ボルト孔44の強度がそれぞれ判明しており、又、補強板52は簡易な形状で、強度が算定しやすいので、取付部16の強度を正確に設定できる。補強板52は、厚みの異なるものを予め用意しておき、それらから所定の厚みを有する補強板52を選択して取付部16に取り付けたり、補強板52の取り付け枚数を変更させたりすることにより、所望の強度に設定できる。
【0048】
尚、取付部16は、引っ張り力のみでなく、ねじりや回転の力を受けて取付用ボルト48から外されるため、サスペンションクロスメンバ10の取付部16の強度は、補強板52が設けられていない取付部16の取付用ボルト48に対する強度と、補強板52の筒体56に対する強度とを単に加算した数値にならない場合もあるが、それらは、適宜修正可能である。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、取付部16に補強板52を設けることにより、サスペンションクロスメンバ10の取付強度を、容易に、かつ簡易な構成で、所定の値に調整できる。尚、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、適宜変更して利用できるものである。例えば、本発明は、サスペンションクロスメンバに限らず、その他のサイドメンバに取り付けられたクロスメンバにも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、車両のサスペンションクロスメンバに利用できる。
【符号の説明】
【0051】
10…サスペンションクロスメンバ、12…サイドメンバ、14…クロスメンバ本体部(本体部)、16…クロスメンバ取付部(取付部)、20…懸架装置、22…ロアアーム、24…ナックル、30…上半部材、32…下半部材、34…本体上半部材、36…取付上半部材、37…上壁、38…本体下半部材、39…下壁、40…取付下半部材、41…前側壁、42…上ボルト孔、43…後側壁、44…下ボルト孔、48…取付用ボルト、52…補強板、53…側面、54…筒体孔、56…筒体、57…内孔、100…車両、102…前輪、104…後輪、106…エンジン、108…トランスミッション。
図1
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図5
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図7