(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962430
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】アイソレータ内への物品の搬入方法と物品収容体
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20160721BHJP
A61L 2/26 20060101ALI20160721BHJP
B65D 81/20 20060101ALI20160721BHJP
B65D 77/04 20060101ALI20160721BHJP
A61L 2/20 20060101ALN20160721BHJP
【FI】
C12M1/00 K
C12M1/00 G
A61L2/26
B65D81/20 K
B65D81/20 M
B65D77/04 E
!A61L2/20
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-232742(P2012-232742)
(22)【出願日】2012年10月22日
(65)【公開番号】特開2014-82963(P2014-82963A)
(43)【公開日】2014年5月12日
【審査請求日】2015年9月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000253019
【氏名又は名称】澁谷工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082108
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156199
【弁理士】
【氏名又は名称】神崎 真
(72)【発明者】
【氏名】米田 健二
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭56−027699(JP,A)
【文献】
特開2007−196306(JP,A)
【文献】
特表2005−528292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−1/70
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から隔離されて内部が無菌状態に維持されるアイソレータ内への物品の搬入方法であって、
除染済みの物品を収容し内部が無菌状態に維持されている包装体を外袋に収容し、該包装体の外面と外袋の内面との所要箇所を接着手段で接着した状態で外袋を密封し、
次に、該外袋の外面を除染して無菌状態のアイソレータ内に位置させ、該アイソレータ内において、外袋と包装体を上記接着手段で接着した所要箇所で切り開くとともに、該切り開かれた開口を介して包装体から除染済みの物品を取り出すことを特徴とするアイソレータ内への物品の搬入方法。
【請求項2】
上記外袋は、外面に除染ガスが通過しやすい性質の層を設け、その内側に除染ガスを吸着しやすい性質の層を設けた多層構造からなり、上記外袋の外面は、除染ガスを用いて除染することを特徴とする請求項1に記載のアイソレータ内への物品の搬入方法。
【請求項3】
上記包装体は、菌や微生物の侵入は阻止しつつ除染ガスの流入を許容するガス導入部を備えており、該ガス導入部から除染ガスを流入させて、包装体の内部および収容した物品を除染することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のアイソレータ内への物品の搬入方法。
【請求項4】
外部から隔離されて内部を無菌状態に維持されるアイソレータ内へ物品を搬入する際に物品を収容する物品収容体であって、
該物品収容体は、除染済みの物品を収容し内部が無菌状態に維持されている包装体と、該包装体を収容する外袋からなり、上記包装体の外面または上記外袋の内面に、包装体を外袋に収容した状態で包装体の外面と外袋の内面の所要箇所を接着するための接着手段を備えたことを特徴とする物品収容体。
【請求項5】
上記包装体は、菌や微生物の侵入は阻止しつつ除染ガスの流入を許容するガス導入部を備え、上記外袋は、外面に除染ガスが通過しやすい性質の層を設け、その内側に除染ガスを吸着しやすい性質の層を設けた多層構造からなることを特徴とする請求項4に記載の物品収容体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアイソレータ内への物品の搬入方法と物品収容体に関し、より詳しくは、除染済みの物品をアイソレータ内へ無菌状態で速やかに搬入できるようにしたアイソレータ内への物品の搬入方法と物品収容体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、再生医療に利用するヒト細胞や組織の細胞培養を行う場合においては、培養を行うための準備や培養中の培地の交換や継代作業が必要であり、そのために、外部から隔離されて内部が無菌状態に維持されるアイソレータが使用されている。
アイソレータは外部から完全に隔離されて内部が無菌状態に維持されており、アイソレータ内に培養作業に必要な資材などを搬入する場合は、アイソレータ内部に直接アクセスできる除染庫を備えて、搬入する資材の外面を除染庫内で過酸化水素蒸気等の除染ガスを用いて除染してから、アイソレータ内に搬入するようになっている(特許文献1)。
【0003】
ところで、資材を除染するための除染ガス成分は人体に有害であるため、残留がないよう完全に除去する必要がある。しかしながら、資材の種類によっては管状の部分など除染ガスが入り込みにくい形状部があり、また、そのような部分から除染ガス成分を除去するにも長時間を要するという問題がある。
そこで、従来、資材に直接除染ガスを作用させないでアイソレータに搬入する方法として、資材を袋に収容した状態でアイソレータに搬入することが行われている。この搬入方法においては、先ず資材を袋に入れて密封し、予め袋の外部から電子線やγ線等の放射線を照射して袋の内部を除染しておき、この袋の外面を除染ガスで滅菌してからアイソレータに搬入し、アイソレータ内で袋から取り出すようになっている。この搬入方法によれば、資材および袋の内部は予め除染されているため、開封によりアイソレータ内が汚染されることはない。また、このような搬入方法において、大中小の3種類の袋によって資材を多重包装した状態でアイソレータに搬入する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005―278566号公報
【特許文献2】特開2008―239168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の搬入方法においては、資材が樹脂製の場合は放射線の照射により変色や変質する危険性があり、特に、医薬品容器等日本薬局方等で定められた試験で安全性が確認されている場合は、影響がないことが担保できなければ使用できなかった。また、放射線滅菌は設備が大がかりで、培養作業を行う施設には設置されていないことが多いという問題がある。
さらには、袋の材質によっては除染ガスが袋内に浸透して、収容されている資材に除染ガス成分が作用する恐れがあり、除染ガス成分が十分に除去されずにアイソレータ内に放出される恐れがあった。そのため、除去のためのエアレーションに時間を要し、素早く細胞操作を行うことの妨げとなっていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した事情に鑑み、第1の本発明は、外部から隔離されて内部が無菌状態に維持されるアイソレータ内への物品の搬入方法であって、
除染済みの物品を収容し内部が無菌状態に維持されている包装体を外袋に収容し、該包装体の外面と外袋の内面との所要箇所を接着手段で接着した状態で外袋を密封し、次に、該外袋の外面を除染して無菌状態のアイソレータ内に位置させ、該アイソレータ内において、外袋と包装体を上記接着手段で接着した所要箇所で切り開くとともに、該切り開かれた開口を介して包装体から除染済みの物品を取り出すことを特徴とするものである。
また、第2の本発明は、外部から隔離されて内部を無菌状態に維持されるアイソレータ内へ物品を搬入する際に物品を収容する物品収容体であって、
該物品収容体は、除染済みの物品を収容し内部が無菌状態に維持されている包装体と、該包装体を収容する外袋からなり、上記包装体の外面または上記外袋の内面に、包装体を外袋に収容した状態で包装体の外面と外袋の内面の所要箇所を接着するための接着手段を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、除染済みの物品を収容した包装体を外袋に収容して、包装体の外面と外袋の内面の所要箇所を接着しているので、所要箇所を切り開くことで包装体から速やかに除染済みの物品を取り出すことができる。
したがって、除染済みの物品を速やかにアイソレータ内に搬入できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施例を示す無菌培養システムの構成図。
【
図2】本発明に係る物品収容体を示す断面図であり、
図2(a)は包装体を示す断面図、
図2(b)は包装体と外袋を接着した状態を示す断面図、
図2(c)は包装体と外袋を切り開いた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図示実施例について本発明を説明すると、
図1は無菌培養システムを示したものである。この無菌培養システムは、内部空間を無菌状態に維持されるアイソレータ1と、アイソレータ1の搬入口1Aに連結されて、物品として資材2を収容した物品収容体Pを除染するパスボックス5と、アイソレータ1とは分離して設けられて、物品収容体Pの包装体としての内袋3内と資材2を除染する滅菌機6と、物品収容体Pの内袋3及び外袋4の開口部を密封するヒートシーラー7とを備えている。アイソレータ1及びパスボックス5にはそれらの内部に除染ガスを供給する除染装置11が接続されており、アイソレータ1にはその内部を陽圧に維持する無菌維持空調手段12が接続されている。
【0010】
アイソレータ1は、外部雰囲気から隔離されて内部を無菌状態に維持されるようになっており、このアイソレータ1内で培養の準備や継代作業などの細胞操作が行なわれるようになっている。
アイソレータ1の側壁には、内部で作業を行うための一対のグローブ13が設けられており、作業者が外部からこのグローブ13に手を差し込んで操作することによりアイソレータ1内で所要の作業を行うことができるようになっている。また、アイソレータ1内には、物品収容体Pの内袋3と外袋4を切り開くためのカッター14を備えている。
アイソレータ1内には上記搬入口1Aを開閉するための密閉扉15が設けられており、搬入口1Aにパスボックス5の接続口5Aが気密を保持して連結されている。他方、パスボックス5の搬入口5Bには密閉扉16が設けられている。
本実施例においては、内袋3内に収容される資材2として、ピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等を想定している。
【0011】
図3に示すように、内袋3は開口部3Dを有するビニール袋からなり、開口部3Dを介して資材2を内部に収容するようになっている。開口部3Dは、ヒートシーラー7によって溶着されて密封されるようになっている。
内袋3の外面3Aには、接着手段として両面テープ21が予め貼付されている。 また、内袋3の外面3Aには、ガス導入部3Bが設けられている。このガス導入部3Bは、開口部3Cの全域を高密度ポリエチレン製の不織布で閉鎖している。この不織布は、内袋3内への除染ガスの流入は許容するが、菌や微生物の侵入を阻止する性能を備えており、例えば米国デュポン社のタイベック(登録商標)を採用することができる。
図4に要部の断面を示したように、外袋4は、外面側となるポリエチレンの層4aは、除染ガスが通過しやすい性質を有しており、その内側のナイロンの層4bは除染ガスを吸着しやすい性質を有している。本実施例においては、ナイロン層4bの内側にさらにポリエチレンの層4cを設け、ナイロン層4bをポリエチレン層4a、4cで挟んだ多層構造からなっている。
【0012】
物品収容体Pは以上のように構成されており、この物品収容体Pを用いて次のようにアイソレータ1内に物品を搬入する。まず、包装体である内袋3内に物品として資材2を収容した後に、ヒートシーラー7によって開口部3Dを溶着して密封する。次に、滅菌機6により除染ガスによって内袋3を除染する。滅菌機6は、例えば、一般的なエチレンオキサイドガスを使用するものであり、除染ガスがガス導入部3Bから流入して、内袋3の内部と資材2が除染される。滅菌機6から取り出すと内袋3の外面は汚染されるが、ガス導入部3Bは、除染ガスの流入を許容する一方、菌や微生物の侵入は阻止するので、内袋3内と内部の資材2は除染後の無菌状態に維持される。そして、この状態で放置し、除染ガス成分を除去する。
【0013】
次に、内袋3をそれよりも一回り大きな外袋4内に収容し、内袋3の外面3Aに貼付した両面テープ21のカバーシートを剥がし外袋4の内面に接着する。これにより、接着手段としての両面テープ21により内袋3と外袋4とが接着される(
図2(b)参照)。そして、外袋4の開口部をヒートシーラー7で溶着し外袋4を密封する。
この接着手段で接着した内袋3と外袋4の所要箇所が、内袋3から物品を取り出すために切り開く切断箇所となる。この切断箇所は
図3に直線で示したように、接着手段である両面テープ21の範囲内とする。
【0014】
次に、それら内袋3と外袋4からなる物品収容体Pを、パスボックス5で除染してからアイソレータ1内に搬入する。まず、アイソレータ1内は事前に除染装置11から供給される過酸化水素蒸気等の除染ガスで除染され、無菌維持空調手段12により無菌状態に維持されており、この状態において、作業者が外側の密封扉16を開放して、上記物品収容体Pをパスボックス5内に搬入し、除染装置11からパスボックス5内に供給される過酸化水素蒸気等の除染ガスにより、物品収容体Pの外面、つまり、外袋4の外面4Aの全域を除染する。外袋4は除染ガスを吸着しやすい性質を有するナイロンの層4bを設けることで、除染ガスが外袋4の内部に浸透して内袋3の内部に流入する等、収容物に影響を及ぼすことを防止している。
【0015】
この後、作業者は上記グローブ13を使ってアイソレータ1の内側から密閉扉15を開放させて、物品収容体Pをパスボックス5内からアイソレータ1内に搬入する。なお、パスボックス5を使わずに、除染前のアイソレータ1に物品収容体Pを位置させておき、アイソレータ1内の除染と同時に除染するようにしてもよい。
この後、作業者はアイソレータ1内に予め搬入しておいたカッター14によって、物品収容体Pの内袋3と外袋4の接着した所要箇所を切り開く(
図2(c)参照)。これにより、内袋3の外面3Aと外袋4の内面の互いに接着された部分を除く、未除染の汚染箇所22を密封した状態において、つまり、この汚染箇所22をアイソレータ1内で露出させることなく、外袋4の外側から内袋3を切り開くことができる。そして、切り開いた開口部3Eを介して、内袋3内から除染済みの資材2を取り出すことができる。なお、外袋4はナイロン層4bを挟んでポリエチレンの層4a、4cを設けることで、ナイロン層4bが吸着した除染ガス成分が容易に放出されることを防止している。また、外面側のポリエチレン層4aは除染ガスが通過しやすいため、外袋4の外面4Aは除染ガスが浸透し全体を十分に除染することができる。
本実施例においては、上述したようにして物品収容体Pをアイソレータ1内に搬入するとともに、除染済みの資材2をアイソレータ1に搬入するようになっている。
【0016】
なお、上記実施例においては、内袋3の外面3Aに接着手段としての両面テープ21を予め貼り付けていたが、両面テープ21は外袋4の内面に貼り付けるようにしてもよいし、さらには内袋3を外袋4内に収容した時点で別に用意した所要長さの両面テープによって内袋3と外袋4とを相互に接着するようにしてもよい。また、両面テープに限らず、接着材を塗付して接着面を形成し、カバーシートで覆うようにしてもよい。
なお、外袋4に用いる除染ガスが通過しやすい性質の層には、ポリエチレンの他、同様にガスバリア性や水蒸気バリア性の低いポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の材質を採用できる。また、除染ガスを吸着しやすい性質の層としては、ナイロンの他、活性炭を採用することができる。
また、外袋4に収容する包装体は、実施例として説明した内袋3のように、アイソレータ1への搬入に際して、物品を収容して密封するものに限らず、アイソレータ1に搬入される物品としての資材2等を製品として包装した包装体であってもよく、この場合には、予め放射線滅菌を施されていることもあり得る。
【符号の説明】
【0017】
1‥アイソレータ 2‥資材(物品)
3‥内袋(包装体) 3A‥外面
3B‥ガス導入部 3E‥開口部
4‥外袋 21‥両面テープ(接着手段)
P‥物品収容体