(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一のメンテナンス動作における前記送液部によるインクの供給圧力が、前記第二のメンテナンス動作における前記送液部によるインクの供給圧力以上となるように設定されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
前記マニホールドの内部には、前記第一のポート及び第二のポートに連通する側の領域とインクを吐出するノズルに連通する側の領域とを仕切るフィルタが設けられていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態たるインク供給装置を搭載したインクジェット記録装置10について
図1から
図13に基づいて説明を行う。
図1はインクジェット記録装置10の全体を示した斜視図である。
【0017】
インクジェット記録装置10は、記録媒体を水平方向に沿って搬送する
搬送装置20と、搬送される記録媒体に上方からインクを吐出する複数のヘッド3(
図2参照)を搭載するキャリッジ4と、キャリッジ4を記録媒体の搬送方向に直交する水平方向に沿って搬送する主走査装置5と、キャリッジ4に搭載された各ヘッド3のメンテナンスを行うメンテナンス部7、キャリッジ4に搭載された各ヘッド3のノズル311の保湿を行うノズル保湿部6と、キャリッジ4に搭載された各ヘッド3へのインク供給を行うインク供給装置8(
図4参照)と、これら各構成を制御する制御部としての制御装置9(
図6参照)と、全体を支持するフレーム100を主として備えている。
なお、以下の説明では、水平方向であって記録媒体の搬送方向に沿った方向をY軸方向、水平方向であってキャリッジ4の搬送方向に沿った方向をX軸方向又は主走査方向、鉛直上下方向をZ軸方向というものとする。
【0018】
[搬送装置]
搬送装置20は、駆動ローラー21及び従動ローラー(図示略)と、駆動モーター22と、搬送ベルト23と、を備えている。
駆動ローラー21及び従動ローラーは、回転自在に軸支されており、駆動ローラー21は、主走査方向Xに延在するように配置されている。駆動モーター22は、駆動ローラー21を回転駆動するための駆動源であり、駆動ローラー21の一端側に取り付けられている。
搬送ベルト23は、無端状に形成され、駆動ローラー21と従動ローラーとの間に架け渡されている。搬送ベルト23は、駆動ローラー21が回転すると駆動ローラー21と従動ローラーとの間を周回してその上面に載置された記録媒体をY軸方向に沿った搬送方向Fに向かって搬送し、駆動ローラー21の回転が停止すると、両ローラー間での周回を停止し、記録媒体の搬送を停止する。
駆動モーター22は、制御装置90の制御に従って、ヘッド3がX軸方向に沿った片道1回分の走査が終了すると、駆動ローラー21を所定量だけ回転させて記録媒体を搬送方向に所定距離だけ搬送させて停止させ、ヘッド3が主走査方向Xの反対方向への走査を開始して終了すると、駆動ローラー21を再度所定量だけ回転させて記録媒体を搬送方向Fに所定距離だけ搬送させて停止させることを繰り返し、記録媒体をいわゆる間欠搬送する。
なお、記録媒体としては、紙や布帛のほか、樹脂フィルムや金属類等を用いることが可能である。
【0019】
[フレーム]
図1に示すように、フレーム100は、X軸方向に沿って延在する矩形の本体部101と、本体部101におけるX軸方向一端部を支持する第一の土台部102と、本体部101におけるX軸方向他端部を支持する第二の土台部103とから主に構成されている。
第一の土台部102は、その内部に
ノズル保湿部6を格納保持しつつ本体部101の一端部を下方から支持している。また、第二の土台部103は、その内部に
メンテナンス部7を格納保持しつつ本体部101の他端部を下方から支持している。
本体部101は、後述する主走査装置5の一対のキャリッジレール51,51をX軸方向に向けた状態で内側に格納保持しており、キャリッジ4は本体部101の内部でX軸方向に沿って搬送される。
また、第一の土台部102と第二の土台部103は、前述した
搬送装置20を挟んでX軸方向の両側に配置され、本体部101は
搬送装置20の上方に架設されている。これにより、
搬送装置20による記録媒体の搬送方向に直交する方向でキャリッジ4を搬送しつつ当該キャリッジ4に搭載された各ヘッド3からインクを吐出して画像形成を行うことを可能としている。
【0020】
[主走査装置及びキャリッジ]
主走査装置5は、フレーム100の本体部101の内部において、X軸方向に沿って延在するように支持された棒状の一対のキャリッジレール51,51を備えている。これら一対のキャリッジレール51,51は、
搬送装置20の搬送ベルト23の上方を跨ぐように設けられている。そして、キャリッジレール51,51には、箱状のキャリッジ4がX軸方向に沿って往復移動可能に支持されている。
【0021】
キャリッジ4は上部が開放された略矩形の筐体であり、その底板に複数のヘッド3が搭載される。キャリッジ4は、
図1に示すように、Y軸方向における両側面の上部においてY軸方向両側に向かって腕部42,42が延出されており、当該各腕部42,42がそれぞれリニアガイドを介してキャリッジレール51,51の上部に載置されており、これによってキャリッジレール51,51上をX軸方向に沿って滑動可能となっている。
また、キャリッジレール51,51とキャリッジ4の腕部42,42の間にはリニアモーターが装備されている。即ち、各キャリッジレール51,51にはリニアモーターの固定子が装備され、キャリッジ4の各腕部42,42には可動子が装備されており、固定子側のコイルの電流制御によりキャリッジ4はX軸方向に沿った搬送動作が付与される。
【0022】
図2は、キャリッジ4の底板41を上方から見た概略説明図である。このインクジェット記録装置10では、Y(イエロー),Lm(ライトマゼンタ),Or(オレンジ),M(マゼンタ),Bk(ブラック),Bl(ブルー),Lk(ライトブラック),C(シアン),Lc(ライトシアン)の九色のカラーについてそれぞれ九つのヘッド3を備え、合計81基のヘッド3がキャリッジ4の底板に取り付けられている。
各色彩のヘッド群は、図示のように、X軸方向に沿ってY,Lm,Or,M,Bk,Bl,Lk,C,Lcの順番で並んでおり、各ヘッド群の九つのヘッド3は、Y軸方向に沿って千鳥状に並んで配置されている。
また、底板41は各ヘッド3の取り付け位置毎にY軸方向に沿ったスリット状の開口を備えており、底板41に対して上方から取り付けられた各ヘッド3は、開口を通じてキャリッジ4の真下にインクの液滴を吐出することを可能としている。
そして、前述のように、各色彩について、九つのヘッド3を千鳥状に配置することで、キャリッジ4の底板41におけるY軸方向のほぼ全幅に渡る範囲内で任意の位置に各色彩のインクの吐出を行うことを可能としている。
【0023】
[ヘッド]
図3はヘッド3の概略構造を示す断面図である。ヘッド3は、インクを吐出する複数のノズル311が形成されたノズルプレート31と、インクを各ノズル311に導く複数のチャネル321とチャネル321に対して容積変化を与えてインクを吐出させる複数の圧電素子322とを有するヘッドチップ32と、ヘッドチップ32の各圧電素子322に駆動電圧を印加するための配線基板33と、ヘッドチップ32の各チャネル321にフィルター343を介してインクを導入するマニホールド34とを主に備えている。
【0024】
ノズルプレート31は矩形の平板であり、ヘッド3がキャリッジ4に搭載された状態において、その平板面がX−Y平面に平行となり、その長手方向がY軸方向に平行となる。
また、ノズルプレート31には、ノズル311となる貫通穴がY軸方向に沿って一列に並んで複数形成されている。
【0025】
ヘッドチップ32は直方体形状に形成されており、その底面にはノズルプレート31が取り付けられている。また、ヘッドチップ32は、ノズルプレート31の各ノズル311の配置に合わせて複数のチャネル321がY軸方向に沿って一列に並んで複数形成されている。各チャネル321は、ヘッドチップ32を上下に貫通したインク流路であり、マニホールド34内のインクを個別にノズル311に導くことができる。さらに、各々のチャネル321にはそれぞれ圧電素子322が隣接して設けられており、任意の圧電素子322に対して選択的に電圧を印加することにより、当該圧電素子322が膨張又は伸縮し、対応するノズル311からインクの吐出を行うことが可能となっている。
【0026】
ヘッドチップ32の上面には配線基板33が取り付けられている。配線基板33は、図示しないヘッド駆動回路とフレキシブル基板を介して接続されており、ヘッド駆動回路からの駆動電圧をヘッドチップ32の各圧電素子322に対して印加するための配線が施されている。
また、配線基板33は、マニホールド34の開放された下部を閉塞するように当該マニホールド34に取り付けられており、マニホールド34内のインクがヘッドチップ32の各チャネル321側に流通するように、矩形の開口が形成されている。
【0027】
マニホールド34は、長手方向がY軸方向に沿った状態で配置された内部中空の直方体であり、前述したように、その底部は開放されているが、当該開放部に配線基板33が嵌め込まれて閉塞されている。
また、マニホールド34のY軸方向の一端部側と他端部側の上部には、それぞれ内部に通じる円筒状の第一のポート341と第二のポート342とが形成されている。
また、マニホールド34の内部はインクの混入物を濾しとるフィルター343によって上下に二分されており、上側の領域は第一のポート341及び第二のポート342につながっており、下側の領域はヘッドチップ32につながっている。つまり、第一のポート341又は第二のポート342により外部からマニホールド34内に供給されたインクは、フィルター343により濾過されてヘッドチップ32側に移動し、各ノズル311から吐出される。
【0028】
[メンテナンス部]
メンテナンス部7は、非記録動作時に各ヘッド3のメンテナンスを行う。メンテナンス部7は、
搬送装置20から外れて、キャリッジレール51、51の一端部側に設けられている。即ち、キャリッジ4がキャリッジレール51、51の一端部のメンテナンス部7との対向位置まで移動した状態でメンテナンスが実施される。
このメンテナンス部7は、各ヘッド3のノズルプレート31の下面の汚れを拭き取る清掃装置と、メンテナンス対象となるヘッド3によるインクの吐出を行う際の受け皿となるインクトレー71(
図4参照)とを備えている。
上記清掃装置は、主に、ノズルプレート31の下面に摺接するX軸方向に沿った回転軸回りに回転可能な清掃ローラーと、当該清掃ローラーをY軸方向に沿って搬送するローラー搬送機構とにより構成されている、清掃ローラーは、キャリッジ4に搭載された九色のヘッド群の内の三色分のヘッド群の拭き取りが可能となるように、X軸方向における幅が設定されており、一往復半の移動動作により全てのヘッド3の清掃を実施する。そして、これにより、インクの固化によるノズル311の目詰まりを防止する。
また、メンテナンス時のインクトレー71に対するインクの吐出は、ヘッド3の圧電素子322の駆動ではなく、インク供給装置8のインク供給圧をもって行われ、これによりヘッド3内のインク流路の詰まりなどを解消することができる。
【0029】
[ノズル保湿部]
ノズル保湿部6は、
搬送装置20から外れて、キャリッジレール51、51の他端部側に設けられている。即ち、非記録動作時に、キャリッジ4がキャリッジレール51、51の他端部のノズル保湿部6との対向位置まで移動し、かかる状態で各ヘッド3のノズル311の保湿を行う。
即ち、このノズル保湿部6は、ノズルプレート31の各ノズル311に密着して、各ノズル内部を保湿液の貯蔵部に接続した状態とするためのものであり、主に、保湿液の貯蔵部とその昇降機構とにより構成されている。
【0030】
[インク供給装置]
図4はインク供給装置8の概略構成を示す説明図である。インクジェット記録装置10は、このインク供給装置8を各色毎に備えている。
インク供給装置8は、インクを貯留する二つの第一のタンクとしてのメインタンク81,81と、各メインタンク81,81からインクが供給される第二のタンクとしてのサブタンク82と、サブタンク82のインク供給方向下流側に設けられた脱気装置83と、脱気装置83のインク供給方向下流側に設けられ、インクを一時的に貯留するインクタンクとしての中間タンク84と、中間タンク84のインク供給方向下流側に設けられた負圧形成部86と、各ヘッド3に対してインクを供給するために各ヘッド3の第一のポート341が並列に接続された共通流路87とを主に備えている。
なお、
図4ではメンテナンス部7のインクトレー71も図示している。
【0031】
上記メインタンク81,81は、その上部が大気に開放された容器であり、二つのメインタンク81,81は、空となった時に交換できるように、いずれもインクジェット記録装置10から着脱可能となっている。また、メインタンク81,81は二つあるので、一方が空になった場合及びその交換の際にも、もう一方のメインタンク81からインク供給が可能であるため、インクジェット記録装置10の記録動作の中断を回避することが可能となっている。なお、このメインタンク81の搭載固体数はより多くしても良い。
図4における符号815は各メインタンク81,81のインクが空であるか否かを検出する残量センサーである。
【0032】
各メインタンク81,81とサブタンク82との間には、一端部がそれぞれのメインタンク81,81側に分岐しており、他端部が合流してサブタンク82に至る第一のインク流路811が設けられている。この第一のインク流路811における各メインタンク81,81の近傍には、流路の開閉の状態を切り替え可能な電磁弁である接続切替部としてのタンクバルブ812,812が設けられている。
また、第一のインク流路811におけるサブタンク82側の経路の途中には、インクからゴミ、埃などの混入物を除去するためのフィルター813が設けられ、フィルター813よりもさらにサブタンク82側にはインクをサブタンク側に送る第一の送液部としての第一の送液ポンプ814が設けられている。
【0033】
サブタンク82は、下方に向かうに従って縮径する側壁部821を有するロート状であり、上部は天板822で閉塞されている。
サブタンク82は、その底部中心が第二のインク流路823に接続されており、当該第二のインク流路823を通じてサブタンク82内のインクを脱気装置83側に供給することを可能としている。
また、サブタンク82の天板822には、サブタンク82内を大気圧に維持する大気開放管824が取り付けられている。この大気開放管824は、外部からの塵芥、ゴミなどの侵入を防止するためのフィルター825が装備されている。
【0034】
また、サブタンク82の天板822には、第一のインク流路811の先端部が天板822を貫通して内部まで入り込んだ状態で接続されている。
この第一のインク流路811の先端部は、サブタンク82の側壁822の内面に接触するか接触する直前の位置まで延びており、第一のインク流路811から供給されるインクが側壁822を伝ってサブタンク82内の液面に注がれるようになっている。
また、サブタンク82は、後述する液面監視制御により、インクの液面の上限位置が定められており、第一のインク流路811の先端部は、インク液面の上限位置よりも高位置で側壁822にインクを供給するようになっている。
【0035】
サブタンク82に対する第一のインク流路811の先端部の位置を上述のように設定することにより、第一のインク流路811から供給されるインクは常にサブタンク82の側壁部822の内面を伝ってから液面に注がれることとなる。これにより、傾斜面に沿ってインクが穏やかに流れてサブタンク82内に貯留されるので、第一のインク流路811から供給されるインクに視覚的に認識可能な大きさの気泡が混入した場合において、当該気泡はインクの液面に滞留する。また、傾斜面に沿ってインクが穏やかに流れるので、インクの液面で新たな気泡が発生して混入されることも防止される。
また、サブタンク82内のインクは底部であってその最深部から第二のインク流路823を通じて下流側に送液されるので、サブタンク82よりも下流側に供給されるインクから気泡を除去することが可能となる。
即ち、このサブタンク82は、インクから脱泡を行う脱泡手段として機能する。
【0036】
また、サブタンク82内には、後述する液面監視制御におけるインクの液面の上限位置を規定する第一の液面センサー826とインクの液面の下限位置を規定する第二の液面センサー827とが設けられている。
これらの液面センサー826,827はいずれも、浮き子を備えるフロート式のセンサーであり、浮き子の高さから液面が上限位置又は下限位置より上か下かを検出することを可能としている。なお、液面監視制御については、後に詳述する。
【0037】
サブタンク82と脱気装置83との間には、前述した第二のインク流路823が設けられている。この第二のインク流路823における途中には、脱気装置83からサブタンク82へのインクの戻りを防止する逆止弁828と、サブタンク82から脱気装置83にインクを送る第二の送液部としての第二の送液ポンプ829が設けられている。
【0038】
脱気装置83は、第二のインク流路823の末端が接続された脱気モジュール831と、脱気モジュール831に対して真空引きを行う真空ポンプ832と、脱気モジュール831内の圧力検出を行う真空圧センサー833と、脱気モジュール831内を大気圧に開放する電磁弁であるリークバルブ834とを備えている。
脱気モジュール831は、真空ポンプ832により真空引きが行われる真空容器と、真空容器内で内側にインクを通過させる中空
糸膜とを備える構成であって、真空引きにより、インク内の溶存気体が中空
糸膜を介して外側に吸い出される構造となっている。
真空圧センサー833は、真空引きの際に目標圧力まで圧力が低下されたかを測定する検出手段である。また、リークバルブ834は、インクジェット記録装置10の電源停止時において、脱気モジュール831の保守のために、当該脱気モジュール831が真空状態から大気圧状態となるように制御装置9によって開放制御が行われる。
【0039】
脱気モジュール831と中間タンク84との間には、第三のインク流路835が設けられている。中間タンク84には、第二及び第三のインク流路823,835を介して第二の送液ポンプ829による供給圧によってインクが供給される。
中間タンク84は、可撓性のある袋により形成されており、貯留するインク量が変動することにより膨張/収縮するようになっている。
また、この中間タンク84には、インクが規定量貯留されている状態を検出する液量センサー841が併設されている。サブタンク82からインクが供給される際には、この液量センサー841により規定量に達したことが検出されるまで第二の送液ポンプ829によるインクの供給が行われる。
【0040】
中間タンク84から負圧形成部86までの間には、第四〜第七のインク流路842〜845が設けられ、これらを通じてインク供給が行われる。そして、第四のインク流路842と第五のインク流路843との間には電磁切替弁である第一の三方切替バルブ846が介在し、第五のインク流路843と第六のインク流路844との間には電磁切替弁である第二の三方切替バルブ847が介在し、第六のインク流路844と第七のインク流路845との間には電磁切替弁である第三の三方切替バルブ848が介在している。
【0041】
また、第五のインク流路843には、第一の三方切替バルブ846から第二の三方切替バルブ847へ向かう方向の流動のみを許容する逆止弁849と、当該逆止弁849の許容する方向と同じ方向に送液を行う送液部としての第三の送液ポンプ850と、当該第三の送液ポンプ850の下流側において規定の圧力を超えた場合に、インクをサブタンク82へ戻すリリーフバルブ851とが設けられている。
【0042】
第六のインク流路844は、その途中に分岐流路852の一端部が接続されており、当該分岐流路852の他端部は第一の三方切替バルブ846に接続されている。そして、この第一の三方切替バルブ846は、制御装置9の制御により、第五のインク流路843を第四のインク流路842に接続した状態と第五のインク流路843を分岐流路852に接続した状態とに切り替えることを可能としている。
【0043】
また、第二の三方切替バルブ847は、サブタンク82にインクを戻すための戻し流路853にも接続されており、当該第二の三方切替バルブ847は、制御装置9の制御により、第五のインク流路843を第六のインク流路844に接続した状態と第五のインク流路843を戻し流路853に接続した状態とに切り替えることを可能としている。
【0044】
そして、上記第一と第二の三方切替バルブ846,847は、制御装置9により組み合わせて同時に切替制御が行われ、中間タンク84から第四、五、六のインク流路842,843,844を経て負圧形成部86側にインクの送液を行う供給接続状態(
図4における白矢印)と、負圧形成部86側から分岐流路852,第五のインク流路843,戻し流路853を経てサブタンク82側にインクの送液を行う戻し接続状態(
図4における黒矢印)とを切り替える制御が行われる。
即ち、第三の送液ポンプ850の送出圧力を利用して、負圧形成部86側へのインクの供給と負圧形成部86側からのインクの回収とを自在に選択的に実行することを可能としている。
【0045】
第三の三方切替バルブ848は、負圧形成部86を介さずにヘッド側にインク供給を行う迂回流路854とも接続されており、制御装置9の制御により、第六のインク流路844と第七のインク流路845とを接続する状態と第六のインク流路844と迂回流路854とを接続する状態とを切り替えることが可能となっている。
即ち、この切替により、負圧形成部86に対するインクの供給と回収とを実行可能な状態と、ヘッド3側(厳密には、共通流路87)に対するインクの供給と回収とを実行可能な状態とを切り替えることを可能としている。
【0046】
負圧形成部86は、前面に大きく開口部が形成された矩形の本体容器861と本体容器861の開口部を閉塞する可撓性樹脂フィルムからなるフィルム部材862と本体容器861の内部から外側に向かってフィルム部材862の中心を押圧する図示しないバネとから主に構成されている。
本体容器861は前述した第七のインク流路845と九つのヘッド3の全ての第一のポート341が並列に接続された共通流路87に通じる第八のインク流路863とに接続されている。
また、フィルム部材862はバネにより中央部を外側に押圧されているので、略円錐状に外側に突出した形状で緊張状態となっている。
【0047】
そして、大気圧と同じ圧力で本体容器861内にインクを満たした後に、前述した第一と第二の三方切替バルブ846,847を戻し接続状態として本体容器861内からインクを回収すると、共通流路87を介して各ヘッド3の内部を大気圧より低い負圧状態とすることができる。なお、このように、ヘッド3の内部を負圧に維持するのは、例えば、ノズル3内を大気圧とするとノズル311からインクが漏れやすく、またノズル311の周囲にインクが付着しやすくなって吐出不良やドット径のばらつきが生じやすくなるので、これを防止するためである。
なお、負圧とする目標圧力は本体容器861内のインクの回収量を調節することで制御することが可能である。
【0048】
また、上記負圧形成部86の本体容器861の上部には、当該本体容器861の内部に連通し上方へと延びた連通管864が設けられている。連通管864の本体容器861側の端部には液面センサー865が取り付けられており、連通管864の上端部には圧力センサー866が取り付けられている。そして連通管864における中間部には、一端が大気中に開放された水平に延びる分岐管867が接続され、当該分岐管867の途中には当該分岐管867を開閉する開放バルブ868と、空気を濾過するエアフィルター869とが設けられている。
【0049】
これらは本体容器861内にインクを供給して所定の負圧に制御する際に用いられる構成である。即ち、開放バルブ868を開いた状態で液面センサー865により液面が検出されるまで本体容器861内にインクを供給し、その後、開放バルブ868を閉じて、圧力センサー866が目標となる負圧圧力を示すまで本体容器861内からインクを回収する。これにより、負圧形成部86を通じて各ヘッド3内を所定の負圧状態とすることができる。
【0050】
負圧形成部86から延びる第八のインク流路863は途中で前述した迂回流路854と合流して共通流路87に接続されている。また、この第八のインク流路863における迂回流路854との合流点よりも負圧形成部86側には、常開式の電磁弁である保護バルブ871が設けられている。
【0051】
共通流路87は、正面視の形状が略二等辺三角形状(正確には二等辺三角形の底辺の両端部を鉛直上下方向に沿って切除してなる五角形形状)となる平板状の内部中空の容器であり、その底部及び内底面が水平となるようにキャリッジ4上に搭載されている。そして、この共通流路87は、二等辺三角形の頂点に相当する部位に第八のインク流路863が接続され、二等辺三角形の底辺に相当する部位に同一の色彩の九つのヘッド3の第一のポート341が並列に接続されている。
【0052】
共通流路87は、外部形状と同じ略三角形状の形状を立体化した内部空間をインクが通過する。その際、頂点の位置からインクが供給されるので、底辺の各部に接続された各ヘッド3に対して大きな偏りを生じることなく均等にインクが供給される。
なお、この共通流路87は、インクが供給される内部空間の正面視形状が略二等辺三角形状であれば良く、外部の形状は略二等辺三角形状でなくとも良い。
【0053】
また、共通流路87の頂点位置近傍には図示しない廃液タンクに通じる排出流路としての廃液流路872が接続されている。この廃液流路872は、常閉式の電磁弁である廃液バルブ873が設けられており、共通流路87をインクで満たす際に廃液バルブ873を開放して気泡を排出するためにインクを排出するための流路である。廃液流路872が共通流路87の上端部となる頂点に接続されているので、共通流路87がインクで満たされた状態でさらにインク供給を行うことで気泡は共通流路87内で上方に浮かんでインクと共に効果的に排出される。これにより、インクの吐出不良の原因となる気泡を除去することができ、安定的な吐出を行うことが可能となる。
【0054】
図5は共通流路87と各ヘッド3との接続状態を示す説明図である。
図4及び
図5に示すように、共通流路87は、常開式の電磁弁である記録動作用バルブ874を介して各ヘッド3の第一のポート341に接続されている。
また、各ヘッド3の第二のポート342は、それぞれが常閉式のメンテナンスバルブ875を介して共通廃液流路876に並列に接続されている。共通廃液流路876は、前述した廃液流路872に対して廃液バルブ873の下流側で合流して廃液タンクに接続されている。
なお、廃液流路872から排出されるインクは共通流路87内の気泡を排出することを主目的としているので、この共通廃液流路876とは合流させないで、廃液流路872のみをサブタンク82に接続してインクの再利用を図っても良い。その場合、共通廃液流路876は単独で廃液タンクに接続される。
【0055】
[制御装置]
図6はインク供給装置8の制御系を示すブロック図である。
図6に記載の制御装置9はインクジェット記録装置10全体の制御を行うが、ここではインク供給装置8の構成のみを図示し、他の構成については図示を省略するものとする。また、複数ある構成についてはその一つのみを図示している。
制御装置9は、外部装置から入力された記録媒体に記録すべき画像の画像データをヘッド3の各ノズル311に対応するデータに変換する等、インク供給装置8の制御だけでなく、インクジェット記録装置10の各部の駆動も制御する。
図6に示すように、制御装置9は、CPU91、ROM92、RAM93、図示しない入出力インターフェース等がバスに接続された汎用のコンピューターで構成されている。
この制御装置9には、第一〜第三の送液ポンプ814,829,850,真空ポンプ832,タンクバルブ812,リークバルブ834,第一〜第三の三方切替バルブ846,847,848,開放バルブ868,保護バルブ871,廃液バルブ873,記録動作用バルブ874,メンテナンスバルブ875が接続されており、制御装置9ではこれらを制御対象としている。
また、制御装置9には、残量センサー815,第一及び第二の液面センサー826,827,液量センサー841,液面センサー865,真空圧センサー833,圧力センサー866が接続されており、これらから各種の検出信号が入力される。
さらに、制御装置9には、オペレーターからの各種動作の実行等の支持入力を行う入力操作部94,エラー情報など各種の情報表示を行う表示部95等も接続されている。
そして、制御装置9は、これらの検出情報に従って、上記各制御対象に対して、サブタンク82の液面監視制御、ヘッド3のメンテナンス制御等を実施する。
【0056】
[液面監視制御]
上記制御装置9が行うサブタンク82の液面監視制御について
図7のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
この液面監視制御は、インクのメインタンク81からサブタンク82にインクの供給を行うと共に、サブタンク82において、一定のインク量を維持確保するための制御であり、予め定められた周期で繰り返し実施される。
【0057】
この液面監視制御では、各メインタンク81,81の何れか一方のタンクバルブ812を開き、もう一方のタンクバルブ812は閉じた状態にあることを前提としている。
制御装置9は、まず最初に、現在サブタンク82と接続されているメインタンク81が空であるかを判定するためのタイマーカウンターを初期化する(ステップS1)。
ついで、第一の液面センサー826により、サブタンク82内のインクが満タンであることを示す第一の液面センサー826による検出レベルに達しているかを判定する(ステップS3)。
その結果、インクが第一の液面センサー826による検出レベルに達していることが検出された場合には、サブタンク82内のインクは目標量に達しているため、制御装置9は、液面監視制御を終了する。
【0058】
一方、インクが第一の液面センサー826による検出レベルに達していないことが検出された場合には、メインタンク81が空であるかを判定するためのタイマーのカウントを開始すると共に、第一の送液ポンプ814を作動させて、メインタンク81からサブタンク82へのインク供給を実行する(ステップS5)。
次に、制御装置9は、第二の液面センサー827により、サブタンク82内のインクが空に近いことを示す第二の液面センサー827による検出レベルに達しているかを判定する(ステップS7)。
その結果、インクが第二の液面センサー827による検出レベルには達していることが検出された場合には、制御装置9は、タイマーによる計時時間が予め設定された送液時間を経過したか否かを判定する(ステップS9)。
そして、タイマーによる計時時間が予め設定された送液時間を経過してない場合にはステップS3に処理を戻して、サブタンク82が満タンになったか否かを判定する。
【0059】
上記ステップS9の判定における送液時間は、第一の送液ポンプの送液能力でサブタンク82を満タンにするのに十分な時間に設定されている。つまり、この送液時間が経過してもサブタンク82が満タンになっていない場合には、メインタンク81が既に空であることが推定される。
従って、制御装置9は、第一の送液ポンプ814の駆動を停止し(ステップS11)、メインタンク81が空であると判断して(ステップS13)、それまで開いていたタンクバルブ812を閉じて、もう一方のタンクバルブ812を開き、サブタンク82へのインク供給を行うメインタンクの切替を実行する(ステップS15)。この時、一方のメインタンク81が空であることを表示部95により報知する表示制御を行っても良い。
また、メインタンク81の切替後は、制御装置9は、再びステップS1に処理を戻して、サブタンク82へのインク供給を再開する。
【0060】
また、第一の送液ポンプ814で送液を行っているにも拘わらず、ステップS7で第二の液面センサー827によってサブタンク82の空の状態が検出された場合には(ステップS7:NO)、メインタンク81,81がいずれも空の状態にあり、メインタンク81,81及びサブタンク82内の全てのインクが使い果たされつつある状態にあること示すので、制御装置9は、記録動作不良の発生を防止するために記録動作中であればインクジェット記録装置10の全ての記録動作を停止させる。また、この時、表示部95において、エラー停止となったこと示す報知表示及びインクが空であることを示す警告表示を実行する表示制御を行ってもよい。
【0061】
[メンテナンス制御(一部のヘッドを対象とする場合)]
上記制御装置9が行うヘッド3のメンテナンス制御について
図8のフローチャートに基づいて詳細に説明する。ここでは、予め全ヘッド3を対象として吐出試験を行ってメンテナンスが必要なヘッド3を特定し、入力操作部94でメンテナンス対象となるヘッド3を入力済みであることを前提とする。
また、キャリッジ4はメンテナンス部7の真上に待機しているものとする。
【0062】
まず、制御装置9は、第一と第二の三方切替バルブ846,847を供給接続状態(
図4の白矢印の接続)に切り替えると共に、第三の三方切替バルブ848を第六のインク流路844から迂回流路854に接続されるように切り替える(ステップS21)。
さらに、制御装置9は、共通流路87の廃液バルブ873を開き、保護バルブ871を閉じ、全ヘッド3の記録動作用バルブ874を閉じるように制御する(ステップS23)。
そして、インクの送液制御を実行する(ステップS25)。
【0063】
ここで、送液制御について
図9のフローチャートに基づいて説明する。
送液時には制御手段は第三の送液ポンプ850を作動させ(ステップS251)、そのまま、予め設定された作動時間T1の経過判定を行い(ステップS253)、作動時間T1が経過するまで、第三の送液ポンプ850の作動を継続する。
かかる第三の送液ポンプ850の作動により、中間タンク84内のインクが負圧形成部86を迂回して直接的に共通流路87に供給される。この時、全ヘッド3の記録動作用バルブ874が閉じられており、また、メンテナンスバルブ875は常閉弁であるため、各ヘッド3側にはインクが供給されることなく、共通流路87内にインクが満たされる。また、共通流路87内にインクが満たされると、余剰のインクは廃液流路872から排出される。かかる供給が一定時間継続して行われることにより、共通流路87内の気泡は共通流路87の上部に浮上して廃液流路872から排出される。
そして、作動時間T1が過ぎると、第三の送液ポンプ850を停止させ(ステップS255)、待機時間T2が経過するまで待機する。これにより、共通流路87内に注ぎ込まれたことにより生じた気泡が共通流路87内の上部に浮上して集められる。
そして、待機時間T2が過ぎると、制御装置9は、インクの供給と待機の繰り返しの回数が予め設定された目標回数Nに達したか否かを判定する(ステップS259)。
そして、目標回数に達していなければステップS251に処理を戻し、インクの供給と待機とを再度実行する。
なお、作動時間T1、待機時間T2、目標回数Nは、予め、入力操作部94により制御装置9に対して設定することが可能である。繰り返しの目標回数Nは、待機により共通流路87の上部に浮上した気泡を次のインク供給で排出することができるように、少なくとも2回以上に設定することが望ましい。
【0064】
再び、説明を
図8に戻す。
送液制御が終わると、制御装置9は、共通流路87の廃液バルブ873を閉じ(ステップS27)、メンテナンス対象のヘッド3の記録動作用バルブ874及びメンテナンスバルブ875を開くように制御する(ステップS29)。
【0065】
そして、再び送液制御を実行する(ステップS31)。この時の作動時間T1、待機時間T2、目標回数Nについては、ステップS25と同じ値としても良いし、異なる値に設定しても良い。
この場合のインク供給時には、共通流路87から第一のポート341を通じてメンテナンス対象のヘッド3内にインクが供給される。そして、供給されたインクは、第二のポート342を通じて共通廃液流路876に排出され、また、一部のインクはヘッド3のノズル311からインクトレー71に吐出される。
【0066】
二回目の送液制御が終わると、制御装置9は、メンテナンス対象のヘッド3のメンテナンスバルブ875を閉じる(ステップS33)。
そして、三回目の送液制御を実行する(ステップS35)。この時も作動時間T1、待機時間T2、目標回数Nについては、ステップS25又はS31と同じ値としても良いし、異なる値に設定しても良い。
この場合のインク供給時には、共通流路87から第一のポート341を通じてメンテナンス対象のヘッド3内にインクが供給され、ノズル311からインクトレー71に吐出される。この時、インクの供給圧は全てノズル311からの吐出に作用するので、例えば、目詰まり等が発生していたノズル311についても、異物等を押し出して、目詰まりの解消を図ることができる。
【0067】
そして、三回目の送液制御が終わると、制御装置9は、メンテナンス対象のヘッド3以外の全てのヘッド3の記録動作用バルブ874も全て開き(ステップS37)、また、保護バルブ871を開くと共に第三の三方切替バルブ848を第六のインク流路844と第七のインク流路845とが接続される状態に切り替える(ステップS39)。
そして、制御装置9は、負圧形成部背圧調整制御を実行し(ステップS41)、さらに、各ヘッド3のワイピング制御を実行してメンテナンス制御を終了する(ステップS43)。
【0068】
ここで、負圧形成部背圧調整制御について
図10のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
まず、制御装置9は、開放バルブ868を開くと共に保護バルブ871を閉じるように切り替える(ステップS411)。
次に、負圧形成部86における圧力センサー866の現在の圧力を大気圧に設定する(ステップS412)。
次に、第三の送液ポンプ850の作動を開始して(ステップS413)、負圧形成部86の本体容器861内に供給されたインクが本体容器861の上端部に位置する液面センサー865に達したか否かを判定する(ステップS414)。
そして、インクが本体容器861の上端部に達してなければ本体容器861へのインク供給を継続し、インクが本体容器861の上端部に達した場合には、第三の送液ポンプ850を停止する(ステップS415)。
その後、制御装置9は、開放バルブ868を閉じて(ステップS416)、第一と第二の三方切替バルブ846,847を戻し接続状態(
図4における黒矢印)に切り替える制御を行う(ステップS417)。
そして、再び、第三の送液ポンプ850を作動させると(ステップS418)、負圧形成部86の本体容器861から内部のインクが排出される。その結果、本体容器861の内部圧力が低下する。
各ヘッド3のインクの吐出に適した負圧の圧力値は予め定められており、圧力センサー866により、インクの吐出に適した負圧の圧力値まで圧力が低下したことが検出されると(ステップS419)、第三の送液ポンプ850を停止する(ステップS420)。
そして、制御装置9は、保護バルブ871を開き(ステップS421)、これにより、負圧形成部86と各ヘッド3とが第八のインク流路863及び共通流路87を介して接続される。このため、各ヘッド3の内部は、負圧形成部86の内部と同じ負圧圧力となる。
その後、制御装置9は、第一と第二の三方切替バルブ846,847を供給接続状態(
図4における白矢印)に切り替える制御を行い(ステップS422)、負圧形成部背圧調整制御を終了する。
【0069】
ワイピング制御について
図11のフローチャートに基づいて説明する。ワイピング制御では、キャリッジ4上の全ヘッド3に対してそれぞれのノズル311の周辺の拭き取りが実施される。
そして、各ノズル311の拭き取りは、X軸方向に沿った回転軸回りに回転駆動を行うワイピングローラーを、ノズルプレート31の下面に摺接させながらにY軸方向に沿って搬送することで行われる。
一方、このインクジェット記録装置10は、キャリッジ4に九つの各色ごとに九つのヘッド3が搭載されているため、ワイピングを実施するエリアも非常に大きくなっている。従って、ワイピングローラーを片道一回分の搬送で完了させようとすると、ワイピングローラーを回転軸方向に長くしなければならず、撓みなどが生じやすくなって効果的なワイピングが行えなくなるおそれがある。
従って、ワイピングローラーは、X軸方向について、三色分のヘッド3の並び幅とほぼ同じ大きさとし、三回に分けて九色分の全ヘッド3のノズルに対するワイピングを実施する。
以下、その動作制御を説明する。
【0070】
まず、制御装置9は、ワイピングローラーを回転させつつ、その待機位置から片道分(往路)の搬送を実行する(ステップS431)。これにより、三色分のヘッド3に対するワイピングが行われる。
次に、三色分のヘッド3の並びのX軸方向幅と同じ距離だけキャリッジ4を移動して(ステップS433)、ワイピングローラーを回転させつつ、片道分(復路)の搬送を実行する(ステップS435)。これにより、次の三色分のヘッド3に対するワイピングが行われる。
さらに、三色分のヘッド3の並びのX軸方向幅と同じ距離だけキャリッジ4を移動して(ステップS437)、ワイピングローラーを回転させつつ、片道分(往路)の搬送を実行する(ステップS439)。これにより、最後の三色分のヘッド3に対するワイピングが行われる。
また、上記ワイピングは、予め設定された回数だけ繰り返し実施される。従って、制御装置9は、九色分のワイピングが終わると、現在のワイピングの実行回数と予め設定された繰り返し回数とを比較する(ステップS441)。その結果、現在の実行回数が設定繰り返し回数に至っていない場合には、処理をS431に戻し、再びワイピング動作を開始する。
一方、現在の実行回数が設定繰り返し回数に一致した場合には、ワイピング制御を終了する。
【0071】
図12Aは
図8のメンテナンス制御におけるステップS35の送液制御、即ち、メンテナンス対象のヘッド3に接続された記録動作用バルブ874を開き、メンテナンスバルブ875を閉じた状態での送液における供給圧力を段階的に変えて行った場合のノズル311の目詰まりの回復状況を示す図表である。なお、インクの供給圧力は第三の送液ポンプ850の駆動源であるモーターに対するPWM制御により行われる。
図示のように、供給圧を10[kPa]とした場合には吐出不良にはならないが完全な回復にも至っておらず、20[kPa]とした場合には吐出が良好となり、30,40[kPa]とした場合にはより良好な吐出が行われるまでに回復した。即ち、ノズル311の目詰まりの回復を図るには30[kPa]以上でインクを供給してメンテナンスを行うことが望ましいという結果が得られた。
【0072】
図12Bは
図8のメンテナンス制御におけるステップS31の送液制御、即ち、メンテナンス対象のヘッド3に接続された記録動作用バルブ874とメンテナンスバルブ875の両方を開いた状態での送液における供給圧力を段階的に変えて行った場合のヘッド3内の気泡除去状況を示す図表である。
図示のように、供給圧を3[kPa]とした場合にはヘッド3内の気泡が十分に排出できず、4[kPa],5[kPa]とした場合には一部の気泡は排出されたが未だに十分とはいえない程度に気泡がヘッド3内に残存し、7[kPa],9[kPa]とした場合にはヘッド3内の気泡が十分に排出され、10[kPa]とした場合にはヘッド3内の気泡がさらに十分に排出された。即ち、ヘッド3内の気泡の排出を行うには7[kPa]以上でインクを供給してメンテナンスを行うことが望ましいという結果が得られた。
【0073】
[メンテナンス制御(全ヘッドを対象とする場合)]
次に、制御装置9が行う全ヘッド3のメンテナンス制御について
図13のフローチャートに基づいて詳細に説明する。
キャリッジ4がメンテナンス部7の真上に待機した状態で、制御装置9は、第一と第二の三方切替バルブ846,847を供給接続状態(
図4の白矢印の接続)とし、第三の三方切替バルブ848を迂回流路854に接続する(ステップS51)。
また、共通流路87の廃液バルブ873を開き、保護バルブ871を閉じ、全ヘッド3の記録動作用バルブ874を閉じた状態とする(ステップS53)。
そして、インクの送液制御(
図9参照)を実行し(ステップS55)、共通流路87内の気泡をインクと共に排出する。
そして、送液制御が終わると、制御装置9は、共通流路87の廃液バルブ873を閉じ(ステップS57)、全てのヘッド3の記録動作用バルブ874及びメンテナンスバルブ875を開かせる(ステップS59)。
そして、二回目の送液制御を実行し(ステップS61)、各ヘッド3内の気泡及び混入物などが存在すれば、ノズル311及び第二のポート342から外部に排出する。
そして、送液制御が終わると、制御装置9は、全てのヘッド3のメンテナンスバルブ875を閉じる(ステップS63)。
そして、制御装置9は、負圧形成部背圧調整制御(
図10参照)を実行し(ステップS65)、さらに、各ヘッド3のワイピング制御(
図11参照)を実行してメンテナンス制御を終了する(ステップS67)。
【0074】
[発明の実施形態における技術的効果]
インクジェット記録装置10は同一の色彩について九つのヘッド3を備え、各ヘッド3のマニホールド34はその内部に通じる第一と第二のポート341,342を有すると共に当該第一及び第二のポート341,342のそれぞれにつながる流路には制御装置9により開閉の切替制御が行われる記録動作用バルブ874とメンテナンスバルブ875とが設けられている。
このため、制御装置9の制御により、任意のヘッド3について第一のポート341と第二のポート342の個々の開閉を行うことができ、これにより、メンテナンス対象となる一部のヘッド3のみについてヘッド3内の混入物の排出による目詰まりからの復帰や気泡の排出を行うことが可能となる。
これにより、メンテナンスによるインクの消費量を低減することが可能となる。
また、メンテナンスに使用したインクを回収しなくとも、インク消費量を低減できるので、インクを回収するために各ヘッド毎にフィルターを装備する必要がなく、フィルターの点検作業も不要となる。
また、全ヘッドを直列接続してメンテナンスを行う場合に比べて、メンテナンス対象となる一部のヘッド3のみにメンテナンスを行えばよいので、その所用時間も大幅に短縮することが可能となる。
【0075】
また、インクジェット記録装置10は、各ヘッド3を並列に接続する共通流路87を備えるので、複数のヘッドを直列接続する場合と異なり、あるヘッド3内の気泡や混入物が他のヘッド3内に移動するようなことがない。また、例えば、各ヘッド3内の圧力調整などは、この共通流路87を介して行うことで全ヘッド3について一度に行うことが可能である。
さらに、共通流路87の内部のインクを排出する廃液流路872を設けた場合には、共通流路87内に発生した気泡を廃液流路872から簡単に排出することが可能となる。
【0076】
また、負圧形成部86と迂回流路854とを備えるので、メンテナンスの際に何れかのヘッド3に対して通常時によりも高い圧力を付与するような場合でも、負圧形成部86の前後に位置する第三の三方切替バルブ848及び保護バルブ871を閉じることにより圧力の影響を回避することができ、負圧形成部86の保護を図ることが可能となる。
【0077】
[その他]
なお、上記実施形態では、共通流路87の形状を正面視で略二等辺三角形の平板状としたが、その形状はこれに限られるものではない。
図14A〜Cに共通流路87の変形例を示す。この変形例の共通流路87Aは、正面視形状が、長辺がY軸方向に平行となる長方形状であって、全体的には直方体状となっている。また、内部は中空であって、内部空間は外部形状と同じ形状となっている。
この共通流路87Aは、前述した共通流路87と異なり、最上部が平面状となっている。廃液流路872は、共通流路87Aの内部上面とほぼ同じ高さに接続されており、メンテナンス時には、共通流路87Aの最上部に集まる気泡を排出することを可能としている。
図14A〜
図14Cはそれぞれ共通流路87に対してインクを供給する第八のインク流路863の接続位置を共通流路87Aの右端部、左端部、中央部とした場合を示している。このように、共通流路87Aを平面視で長方形状としたので、第八のインク流路863の接続位置は適宜選択することが可能である。