特許第5962666号(P5962666)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5962666クロマトグラフィー分析装置及びクロマトグラフィー分析方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962666
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】クロマトグラフィー分析装置及びクロマトグラフィー分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20160721BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   G01N33/543 521
   G01N21/64 F
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-549169(P2013-549169)
(86)(22)【出願日】2012年11月13日
(86)【国際出願番号】JP2012079319
(87)【国際公開番号】WO2013088883
(87)【国際公開日】20130620
【審査請求日】2015年5月12日
(31)【優先権主張番号】特願2011-274140(P2011-274140)
(32)【優先日】2011年12月15日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成23年度経済産業省「高病原性インフルエンザの簡便で高感度な早期診断のためのイムノクロマト方式体外診断システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】濱中 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長井 史生
【審査官】 加々美 一恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−214858(JP,A)
【文献】 特開2008−249416(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0146704(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
G01N 21/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を供給されたクロマトグラフィー試験片における分析対象物の状態を検知するクロマトグラフィー分析装置において、
前記クロマトグラフィー試験片は、
検体を展開可能なシート状に形成されるとともに、当該検体中の分析対象物、或いは当該分析対象物を含む複合物を特異的に捕捉して固定する固定領域が設けられた膜部材と、
前記膜部材における一方の面に当接して当該膜部材を支持する支持部材と、
を備え、
当該クロマトグラフィー分析装置は、
前記膜部材における他方の面のうち、少なくとも前記固定領域に励起光を照射する光源と、
前記励起光に起因して発生する蛍光を検出する検出手段と、
前記膜部材に検体が展開された後、前記検出手段が蛍光を検出するまでの間に、当該膜部材に含まれる液体を気化させる気化手段と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフィー分析装置。
【請求項2】
請求項1記載のクロマトグラフィー分析装置において、
前記気化手段は、
前記支持部材を、当該支持部材に対して前記膜部材とは反対の側から加熱することで、前記膜部材に含まれる液体を気化させることを特徴とするクロマトグラフィー分析装置。
【請求項3】
請求項1記載のクロマトグラフィー分析装置において、
前記気化手段は、
前記膜部材における前記他方の面に風を当てることで、当該膜部材に含まれる液体を気化させることを特徴とするクロマトグラフィー分析装置。
【請求項4】
検体を供給されたクロマトグラフィー試験片における分析対象物の状態を検知するクロマトグラフィー分析方法において、
前記クロマトグラフィー試験片として、
検体を展開可能なシート状に形成されるとともに、当該検体中の分析対象物、或いは当該分析対象物を含む複合物を特異的に捕捉して固定する固定領域が設けられた膜部材と、
前記膜部材における一方の面に当接して当該膜部材を支持する支持部材と、
を備えるものを用い、
当該クロマトグラフィー分析方法は、
前記膜部材における他方の面のうち、少なくとも前記固定領域に励起光を照射する照射工程と、
前記励起光に起因して発生する蛍光を検出する検出工程と、
前記膜部材に検体が展開された後、前記検出工程までの間に、当該膜部材に含まれる液体を気化させる気化工程と、
を備えることを特徴とするクロマトグラフィー分析方法。
【請求項5】
請求項4記載のクロマトグラフィー分析方法において、
前記気化工程では、
前記支持部材を、当該支持部材に対して前記膜部材とは反対の側から加熱することで、前記膜部材に含まれる液体を気化させることを特徴とするクロマトグラフィー分析方法。
【請求項6】
請求項4記載のクロマトグラフィー分析方法において、
前記気化工程では、
前記膜部材における前記他方の面に風を当てることで、当該膜部材に含まれる液体を気化させることを特徴とするクロマトグラフィー分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフィー分析装置及びクロマトグラフィー分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成人病・腫瘍などの疾患マーカやウィルス・細菌の検体検査では、従来、省力化によるコスト削減の観点から専ら大規模病院や検査センタに設置された集中検査装置が利用されてきた。ところが、90年代後半に抗インフルエンザウィルス薬が開発され、診療現場においてウィルス種を同定し、その場で抗ウィルス薬を処方する迅速性が必要になった。この要求に、簡便性と一定の感度を備えた安価なイムノクロマト法が応え、急速に普及した。現場における検査(POCT;Pointof Care Testing)は、感染症をはじめ心筋梗塞などの生活習慣病の予防、治療などの分野において、将来にわたる拡大が予想され、イムノクロマトはPOCTの有力デバイスのひとつとして期待されている。
【0003】
このようなイムノクロマト法には、板状のクロマトグラフィー試験片が用いられている。クロマトグラフィー試験片には、上方に開口したケースと、当該ケース内に収容されたメンブレンシート(膜部材)とが具備されている。メンブレンシートには、検体中の抗原(分析対象物)と色素標識抗体との免疫複合体を特異的に捕捉する抗原特異的抗体が固定化された固定領域が短冊状に設けられている。
【0004】
このようなクロマトグラフィー試験片においては、一端に液状の検体が滴下されると、色素標識抗体と抗原との結合が促された後、毛細管現象により免疫複合体と色素標識抗体がクロマトグラフィー試験片上を他端に向かって移動する結果、固定領域で免疫複合体が捕捉されるので、当該固定領域の呈色を光学的に検出することによって、分析対象物が定性的あるいは定量的に検出される。
【0005】
ところで、以上のようなイムノクロマト法には、遺伝子増幅法(PCR法)と比較して、分析対象物の検出感度が低いという問題がある。
【0006】
この点、試薬の開発や測定方法の改良などのアプローチによって高感度化を図ることも考えられるが、既に用いられているイムノクロマト法の構成(特にメンブレンシート内に検体を展開させつつ分析対象物を固定領域に固定して検出する構成)を大きく変更することは好ましくない。そのため、近年、高感度化の手法として、溶液の展開速度を上げることで検出感度を高めつつ測定時間を短縮する手法が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2008/041773号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1の技術では、流速が高くなることによって抗原抗体反応が起こり難くなり、感度が低下する場合があるため、確実に検出感度を高めることはできない。
【0009】
そこで、本発明は以上のような事情に鑑みてなされたものであり、分析対象物の検出感度を確実に高めることのできるクロマトグラフィー分析装置及びクロマトグラフィー分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の第1の側面によれば、
検体を供給されたクロマトグラフィー試験片における分析対象物の状態を検知するクロマトグラフィー分析装置において、
前記クロマトグラフィー試験片は、
検体を展開可能なシート状に形成されるとともに、当該検体中の分析対象物、或いは当該分析対象物を含む複合物を特異的に捕捉して固定する固定領域が設けられた膜部材と、
前記膜部材における一方の面に当接して当該膜部材を支持する支持部材と、
を備え、
当該クロマトグラフィー分析装置は、
前記膜部材における他方の面のうち、少なくとも前記固定領域に励起光を照射する光源と、
前記励起光に起因して発生する蛍光を検出する検出手段と、
前記膜部材に検体が展開された後、前記検出手段が蛍光を検出するまでの間に、当該膜部材に含まれる液体を気化させる気化手段と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明の第2の側面によれば、
検体を供給されたクロマトグラフィー試験片における分析対象物の状態を検知するクロマトグラフィー分析方法において、
前記クロマトグラフィー試験片として、
検体を展開可能なシート状に形成されるとともに、当該検体中の分析対象物、或いは当該分析対象物を含む複合物を特異的に捕捉して固定する固定領域が設けられた膜部材と、
前記膜部材における一方の面に当接して当該膜部材を支持する支持部材と、
を備えるものを用い、
当該クロマトグラフィー分析方法は、
前記膜部材における他方の面のうち、少なくとも前記固定領域に励起光を照射する照射工程と、
前記励起光に起因して発生する蛍光を検出する検出工程と、
前記膜部材に検体が展開された後、前記検出工程までの間に、当該膜部材に含まれる液体を気化させる気化工程と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、分析対象物の検出感度を確実に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】クロマトグラフィー試験片の外観構成を示す図である。
図2】クロマトグラフィー試験片の内部構成を示す図である。
図3A】クロマトグラフィー分析装置の概略構成を示す模式図である。
図3B】クロマトグラフィー分析装置の概略構成を示す模式図である。
図4A】メンブレンシートが濡れた状態で、2種類の検体溶液について分析対象物の検出を行った結果を示す図である。
図4B】メンブレンシートが濡れていない状態で、2種類の検体溶液について分析対象物の検出を行った結果を示す図である。
図5】分析処理を示すフローチャートである。
図6】変形例におけるクロマトグラフィー分析装置の内部構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を図示の実施の形態に基づいて説明するが、本発明は該実施の形態に限られない。なお、図中、同一あるいは同等の部分には同一の番号を付与し、重複する説明は省略する。
【0015】
(1.クロマトグラフィー試験片)
始めに、本実施の形態におけるクロマトグラフィー試験片について、図1を用いて説明する。
図1はクロマトグラフィー試験片(以下、試験片とする)2の外観構成の一例を示す上面図である。
【0016】
この図に示すように、試験片2は、検体溶液K(図2参照)を展開させる方向(以下、展開方向Aとする)に長尺な矩形板状のケース20と、当該ケース20内に収容されたシート部3とを備えている。ここで、検体溶液Kを展開させるとは、検体溶液Kを行き渡らせることを言う。
【0017】
ケース20は、上面の一端部に試料添加窓21を有するとともに、上面の中央部に開口窓22を有している。
【0018】
試料添加窓21は、検体溶液K(図2参照)をシート部3に供給するための開口である。また、開口窓22は、シート部3における後述の固定領域31(図2参照)を外部に露出させるための開口である。
【0019】
シート部3は、図2に示すように、展開方向Aに長尺なメンブレンシート30を有している。
メンブレンシート30は、本発明における膜部材であり、検体を展開可能なシート状に形成されている。このメンブレンシート30は、ニトロセルロース等によって形成されている。
【0020】
このメンブレンシート30における展開方向Aの中途部には、検体溶液K中の分析対象物(例えばウイルスなどの抗原)、或いは当該分析対象物を含む複合物を特異的に捕捉して固定する固定領域31が設けられている。この固定領域31には、分析対象物と色素標識抗体との免疫複合体を特異的に捕捉する抗原特異的抗体が配設されている。但し、分析対象物を特異的に補足する物質が固定領域31に配設されることとしても良い。なお、以下の説明では、メンブレンシート30のうち、固定領域31とは異なる領域を非固定領域300として説明する。
このメンブレンシート30は、検体溶液Kによって濡れると、後述の励起光L1や蛍光L2などの光の透過性が高まるようになっている。
【0021】
以上のメンブレンシート30の上面における一端部(展開方向Aの上流側)には、サンプルパッド32が設けられ、他端部(展開方向Aの下流側)には吸収パッド33が設けられている。
【0022】
このうち、サンプルパッド32は、検体溶液Kが滴下されて供給される部分である。また、吸収パッド33は、サンプルパッド32に滴下された検体溶液Kを吸収することにより、当該検体溶液Kを毛細管現象によって展開方向Aに流させる部分である。
【0023】
サンプルパッド32に対して展開方向Aの下流側には、コンジュゲートパッド(図示せず)が配設されている。このコンジュゲートパッドは、検体溶液K中に含まれる分析対象物と結合する色素標識抗体を含んでおり、サンプルパッド32から供給される検体溶液Kを展開方向Aの下流側に移動させつつ、検体溶液K内の分析対象物を色素標識抗体と結合させるようになっている。
【0024】
また、メンブレンシート30の下部には、支持シート35が配設されている。この支持シート35は、本発明における支持部材であり、メンブレンシート30における下面に当接して当該メンブレンシート30を下方から支持するとともに、メンブレンシート30の反りや波打ちを防止するようになっている。また、この支持シート35は、検体溶液Kの下方への漏れを防止することにより、検体溶液Kをメンブレンシート30内に押し留め、メンブレンシート30内で展開させるようになっている。以上の支持シート35は、ポリエステルやポリ塩化ビニル等のラミネートフィルムによって形成されている。なお、このような支持シート35の材料は、メンブレンシート30の材料(ニトロセルロース等)よりも蛍光を生じさせ易い性質を有している。
【0025】
ここで、以上の試験片2においては、メンブレンシート30に励起光L1が当たると、蛍光L2が生じるようになっている。この蛍光L2には、メンブレンシート30が励起されて生じる自家蛍光L2(1)と、励起光L1がメンブレンシート30を透過して支持シート35に到達する結果、当該支持シート35が励起されて生じる自家蛍光L2(2)とが含まれる。更に、メンブレンシート30の固定領域31に励起光L1が当たる場合であって、固定領域31に分析対象物が存在する場合には、当該分析対象物が励起されて生じる蛍光L2(0)が蛍光L2に含まれる。なお、本実施の形態においては、メンブレンシート30が励起されて生じる自家蛍光L2(1)には、メンブレンシート30上に残存した色素標識抗体が励起されて生じる蛍光が含まれる。
【0026】
これらの自家蛍光L2(1),L2(2)及び蛍光L2(0)のうち、自家蛍光L2(1)の光量は常にほぼ一定である。また、蛍光L2(0)の光量は、分析対象物の量が等しい限りにおいて、常にほぼ一定である。一方、自家蛍光L2(2)の光量は、メンブレンシート30が濡れている場合の方が、濡れていない場合よりも顕著に大きくなる。これは、メンブレンシート30が濡れることにより、当該メンブレンシート30において励起光L1や蛍光L2などの光の透過性が高まるためである。
【0027】
なお、以上のような試験片2としては、従来より公知のクロマトグラフィー試験片を用いることができる。
【0028】
(2.クロマトグラフィー分析装置)
続いて、本発明に係るクロマトグラフィー分析装置の構成について、図3A図3Bを用いて説明する。
図3A図3Bはクロマトグラフィー分析装置1の概略構成の一例を示す模式図である。
【0029】
これらの図に示すように、クロマトグラフィー分析装置100は、試験片2上における分析対象物の状態を検知するものであり、筐体8の内部に、走査装置5と、光源10と、ラインセンサ4と、気化装置6と、制御部9等とを備えている。
【0030】
筐体8は、箱状の部材であり、側面に挿入口80を有している。この挿入口80は、クロマトグラフィー分析装置1に対して試験片2を挿入したり、クロマトグラフィー分析装置1内の試験片2を排出したりするための開口部である。なお、挿入口80には開閉可能な蓋部材が設けられることが好ましい。
【0031】
走査装置5は、試験片2を走査方向Yに走査させるものであり、本実施の形態においては、筐体8に対して固定された固定台50上に、可動台51を備えている。この可動台51は、試験片2を下方から支持できるよう平板状に形成されており、走査方向Yに往復移動して筐体8の挿入口80から出没するようになっている。なお、本実施の形態においては、走査方向Yは展開方向Aと平行になっている。
【0032】
光源10は、試験片2の上面のうち、少なくともメンブレンシート30における固定領域31に励起光L1を照射するものであり、本実施の形態においては、レーザー光源となっている。このレーザー光源の波長は、使用する色素標識抗体の種類に依存するものの、630nm〜780nmの範囲であることが好ましい。また、光源10によるメンブレンシート30の照射光量は200μW程度であることが好ましい。なお、光源10と試験片2との間には、光源10から照射された励起光L1を試験片2に導くための光学系が配設されていても良い。
【0033】
ラインセンサ4は、ライン状に配列された複数の画素によって光電変換を行う受光センサであり、図中のX方向(走査方向Yの直交方向)に延在して配設されている。このラインセンサ4は、本発明における検出手段であり、光源10からの励起光L1に起因して試験片2で発生する蛍光L2を検出するようになっている。このようなラインセンサ4として、本実施の形態においてはラインCCDが用いられている。なお、このラインセンサ4と試験片2との間には、試験片2で生じた蛍光L2をラインセンサ4に導くための光学系が配設されていても良い。
【0034】
以上の光源10及びラインセンサ4は遮光ボックス7内に配設されており、光源10やラインセンサ4に外部の光が当たるのが防止されている。この遮光ボックス7には、光源10及びラインセンサ4の光軸上に孔部が設けられており、光源10からの励起光L1を試験片2に照射させ、試験片2からの蛍光L2をラインセンサ4に受光させるようになっている。
【0035】
気化装置6は、試験片2のメンブレンシート30に含まれる液体を気化させる装置である。この気化装置6は、本実施の形態においては送風機となっており、メンブレンシート30の上面に風を当てることで、当該メンブレンシート30に含まれる液体を気化させるようになっている。この気化装置6は、メンブレンシート30の上面に風を当てることができ、かつ光源10から試験片2への励起光L1の光路、及び、試験片2からラインセンサ4へ蛍光L2の光路に対して干渉しない限りにおいて、任意の位置に配設することができる。
【0036】
制御部9は、クロマトグラフィー分析装置1の各機能部への指示やデータの転送等を行い、クロマトグラフィー分析装置1を統括的に制御するとともに、種々の演算を行うものである。例えば、この制御部9は、ラインセンサ4からの出力信号に基づいて分析対象物の状態を特定するようになっており、本実施の形態においては、検体中での分析対象物の有無を特定するようになっている。より詳細には、制御部9は、以下の手順(1)〜(3)により分析対象物の有無(陽性・陰性)を特定するようになっている。
【0037】
即ち、手順(1)として、まず制御部9は、試験片2の非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値と、固定領域31で生じる蛍光で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値とを検出し、後者の信号値から前者の信号値を引く。
【0038】
次に、手順(2)として、制御部9は、手順(1)の計算結果を、前者の信号値(非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値)で割る。
【0039】
そして、手順(3)として、制御部9は、手順(2)の計算結果(以下、SB値とする)を所定の閾値と比較し、閾値よりもSB値が大きい場合には陽性(分析対象物が存在する)、閾値よりもSB値が小さい場合には陰性(分析対象物が存在しない)とする。
【0040】
ここで、手順(1)で検出される信号値は、メンブレンシート30が濡れている場合の方が濡れていない場合よりも大きくなる。これは、上述したように、メンブレンシート30が濡れることで当該メンブレンシート30における光の透過性が高まり、支持シート35で生じる自家蛍光L2(2)の光量が大きくなるためである。一方、分析対象物の量が等しい条件下では、分析対象物から生じる蛍光L2(0)に起因してラインセンサ4から出力される信号値は、メンブレンシート30が濡れている場合であっても、メンブレンシート30が濡れていない場合であっても同一である。
【0041】
以上により、メンブレンシート30が濡れていない場合には、メンブレンシート30が濡れている場合と比較して、分析対象物の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0042】
すなわち、分析対象物の量が等しい条件下において、メンブレンシート30が濡れていない場合と、メンブレンシート30が濡れている場合とでラインセンサ4の出力信号値(シート部3で生じる蛍光L2の光量)を比較すると、前者の出力信号値において自家蛍光L2(1)、L2(2)に起因する信号値が占める割合は、後者の出力信号値において自家蛍光L2(1)、L2(2)に起因する信号値が占める割合よりも小さくなる。つまり、前者の出力信号値では、分析対象物以外から生じる蛍光、いわばノイズの蛍光に起因する信号値の割合が、後者の出力信号値よりも小さくなる。これにより、メンブレンシート30が濡れていない場合には、メンブレンシート30が濡れている場合と比べ、ノイズの蛍光により分析対象物を誤検出してしまうのが防止されるため、分析対象物の検出を高精度に行うことが可能となる。
【0043】
また、メンブレンシート30が濡れていない場合には、メンブレンシート30が濡れている場合と比較して、分析対象物の検出を高感度に行うことが可能となる。
【0044】
即ち、例えば図4A図4Bに示すように、分析対象物を1000PFU/mlの濃度で含む陽性の検体溶液(1)(但し、図中では「検体:1」として表記する)と、分析対象物を100PFU/mlの濃度で含む陰性の検体溶液(2)(但し、図中では「検体:2」として表記する)とを2つずつ用意し、メンブレンシート30が濡れていない場合と、メンブレンシート30が濡れている場合とでそれぞれ分析対象物を検出すると、メンブレンシート30が濡れている状態では検体溶液(1),(2)とも陰性となってしまうのに対し、メンブレンシート30が濡れていない状態では検体溶液(2)が陰性、検体溶液(1)が陽性となる。
【0045】
具体的には、図4Aに示すように、メンブレンシート30が濡れている状態で検体溶液(2)について手順(1)〜(3)を行うと、まず手順(1)において、非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「100mV」として検出され、固定領域31で生じる蛍光で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「130mV」として検出された後、「130mV−100mV」により「30mV」が算出される。次に、手順(2)において、「30mV/100mV」によりSB値「0.3」が算出される。そして、手順(3)においてSB値「0.3」が所定の閾値(ここでは「1.5」とする)よりも小さいと判定され、陰性と決定される。
【0046】
また、メンブレンシート30が濡れている状態で検体溶液(1)について手順(1)〜(3)を行うと、まず手順(1)において、非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「100mV」として検出され、固定領域31で生じる蛍光で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「200mV」として検出された後、「200mV−100mV」により「100mV」が算出される。次に、手順(2)において、「100mV/100mV」によりSB値「1」が算出される。そして、手順(3)においてSB値「1」が所定の閾値「1.5」よりも小さいと判定され、陰性と決定される。
【0047】
一方、図4Bに示すように、メンブレンシート30が濡れていない状態で検体溶液(2)について手順(1)〜(3)を行うと、まず手順(1)において、非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「50mV」として検出され、固定領域31で生じる蛍光で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「80mV」として検出された後、「80mV−50mV」により「30mV」が算出される。次に、手順(2)において、「30mV/50mV」によりSB値「0.6」が算出される。そして、手順(3)においてSB値「0.6」が所定の閾値「1.5」よりも小さいと判定され、陰性と決定される。
【0048】
また、メンブレンシート30が濡れていない状態で検体溶液(1)について手順(1)〜(3)を行うと、まず手順(1)において、非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「50mV」として検出され、固定領域31で生じる蛍光で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「150mV」として検出された後、「150mV−50mV」により「100mV」が算出される。次に、手順(2)において、「100mV/50mV」によりSB値「2」が算出される。そして、手順(3)においてSB値「2」が所定の閾値「1.5」よりも大きいと判定され、陽性と決定される。
【0049】
このように、メンブレンシート30が濡れていない場合には、メンブレンシート30が濡れている場合と異なり、少量の分析対象物でも陽性とすることができるため、分析対象物の検出を高感度に行うことが可能となる。
【0050】
続いて、クロマトグラフィー分析装置1を用いた分析処理について、図5を参照しながら説明する。
【0051】
まず、図5に示すように、試験者が患者から血液などの検体を採取し(ステップS1)、当該検体を展開液に溶解させて検体溶液Kを生成した後(ステップS2)、試験片2に滴下する(ステップS3)。より詳細には、このステップS3において検体溶液Kは試験片2の試料添加窓21を介してサンプルパッド32に滴下される。
【0052】
次に、試験者は、検体溶液Kがメンブレンシート30に展開するまで待機しつつ(ステップS4)、試験片2をクロマトグラフィー分析装置1に挿入する。より具体的には、このステップS4において試験者は、検体溶液Kがメンブレンシート30における展開方向Aの上流側(サンプルパッド32の側)から少なくとも固定領域31を越えた位置へ展開するまで待機し、好ましくは展開方向Aの下流側端部(吸収パッド33側の端部)へ完全に展開するまで待機する。検体溶液Kがメンブレンシート30に完全に展開するには、例えば15分程度の時間を要する。
【0053】
次に、制御部9が気化装置6によってメンブレンシート30に含まれる液体を気化させ、メンブレンシート30を乾燥させる(ステップS5)。これにより、メンブレンシート30における光の透過性が低下する。なお、乾燥の程度としては、例えばメンブレンシート30の非固定領域300で生じる蛍光の光量に起因してラインセンサ4から出力される信号値が「50mV」となる程度が好ましい。
【0054】
そして、制御部9が上述の手順(1)〜(3)を行うことにより、分析対象物の状態を検知する(ステップS6)。
【0055】
より詳細には、このステップS6において制御部9は、試験片2におけるメンブレンシート30の固定領域31に向かって光源10に励起光L1を照射させるとともに、試験片2で生じる蛍光L2をラインセンサ4に受光させ、当該ラインセンサ4からの出力信号に基づき上述のSB値を算出して、分析対象物の有無を特定する。このとき、上述のステップS5においてメンブレンシート30が乾燥されたことにより、分析対象物の検出感度,検出精度が高められる。
【0056】
以上のように、本実施形態によれば、メンブレンシート30に検体溶液Kが展開された後、ラインセンサ4が蛍光L2を検出するまでの間に、当該メンブレンシート30に含まれる液体が気化装置6によって気化されるので、メンブレンシート30が濡れている場合と比較して、分析対象物の検出感度、検出精度を高めることができる。
【0057】
また、気化装置6がメンブレンシート30の上面に風を当てることで、当該メンブレンシート30に含まれる液体を気化させるので、メンブレンシート30に含まれる液体を確実に気化させることができる。
【0058】
<変形例>
続いて、上記の実施形態におけるクロマトグラフィー分析装置1の変形例について説明する。なお、上記実施形態と同様の構成要素には同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0059】
図6に示すように、本実施形態におけるクロマトグラフィー分析装置1Aは、気化装置6Aを備えている。
【0060】
気化装置6Aは、メンブレンシート30の下面を熱伝達によって加熱する伝熱ヒーター60を有している。この伝熱ヒーター60は、走査装置5の可動台51を介してシート部3における支持シート35の下面を加熱し、更にこの支持シート35を介してメンブレンシート30の下面を加熱することにより、当該メンブレンシート30に含まれる液体を気化させるようになっている。なお、本実施の形態においては、伝熱ヒーター60はペルチェ素子であり、過剰な熱を放熱するためのヒートシンク61と当接している。
【0061】
このようなクロマトグラフィー分析装置1Aにおいても、上記実施形態におけるクロマトグラフィー分析装置1と同様の効果を得ることができる。
【0062】
なお、本発明を適用可能な実施形態は、上述した実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0063】
例えば、上記の実施形態においては、気化装置6はメンブレンシート30の上面に風を当てたり、可動台51を介してメンブレンシート30の下面を加熱したりすることで、当該メンブレンシート30に含まれる液体を気化させることとして説明したが、メンブレンシート30を放射熱によって加熱するなど、他の手法によってメンブレンシート30内の液体を気化させることとしても良い。メンブレンシート30を放射熱によって加熱する気化装置としては、例えばハロゲンヒーター等を用いることができる。
【0064】
また、制御部9は分析対象物の有無を特定することとして説明したが、分析対象物の濃度を特定することとしても良いし、他の状態を特定することとしても良い。
【0065】
また、本発明における検出手段をラインセンサ4として説明したが、エリアセンサやフォトダイオードなど、他の形状の受光センサとしても良い。
【0066】
なお、明細書、請求の範囲、図面および要約を含む2011年12月15日に出願された日本語特許出願No.2011−274140号の全ての開示は、そのまま本出願の一部に組み込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上のように、本発明は、分析対象物の検出感度を高める必要のあるクロマトグラフィー分析装置及びクロマトグラフィー分析方法に適している。
【符号の説明】
【0068】
1 クロマトグラフィー分析装置
2 クロマトグラフィー試験片
4 ラインセンサ(検出手段)
6 気化装置(気化手段)
10 光源
30 メンブレンシート(膜部材)
31 固定領域
35 支持シート(支持部材)
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6