【実施例】
【0083】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明するが、本発明の範囲は以下の具体例に制限されないものとする。
実施例1:SEREX法による新規癌抗原タンパクの取得
(1)cDNAライブラリーの作製
健常な犬の精巣組織から酸グアニジウム−フェノール−クロロホルム法(Acid guanidium−Phenol−Chloroform法)により全RNAを抽出し、Oligotex−dT30 mRNA purification Kit(宝酒造社製)を用いてキット添付のプロトコールに従ってポリA RNAを精製した。
【0084】
この得られたmRNA(5μg)を用いてイヌ精巣cDNAファージライブラリーを合成した。cDNAファージライブラリーの作製にはcDNA Synthesis Kit, ZAP−cDNA Synthesis Kit, ZAP−cDNA GigapackIII Gold Cloning Kit(STRATAGENE社製)を用い、キット添付のプロトコールに従ってライブラリーを作製した。作製したcDNAファージライブラリーのサイズは7.73×10
5pfu/mlであった。
【0085】
(2)血清によるcDNAライブラリーのスクリーニング
上記作製したイヌ精巣cDNAファージライブラリーを用いて、イムノスクリーニングを行った。具体的にはΦ90×15mmのNZYアガロースプレートに2210クローンとなるように宿主大腸菌(XL1−Blue MRF’)に感染させ、42℃、3〜4時間培養し、溶菌斑(プラーク)を作らせ、IPTG(イソプロピル−β−D−チオガラクトシド)を浸透させたニトロセルロースメンブレン(Hybond C Extra: GE Healthecare Bio−Science社製)でプレートを37℃で4時間覆うことによりタンパク質を誘導および発現させ、メンブレンにタンパク質を転写した。その後メンブレンを回収し0.5%脱脂粉乳を含むTBS(10mM Tris−HCl,150mM NaCl pH7.5)に浸し4℃で一晩振盪することによって非特異反応を抑制した。このフィルターを500倍希釈した患犬血清と室温で2〜3時間反応させた。
【0086】
上記患犬血清としては、乳癌の患犬より採取した血清を用いた。これらの血清は−80℃で保存し、使用直前に前処理を行った。血清の前処理方法は、以下の方法による。すなわち、外来遺伝子を挿入していないλ ZAP Expressファージを宿主大腸菌(XL1−BLue MRF’)に感染させた後、NZYプレート培地上で37℃、一晩培養した。次いで0.5M NaClを含む0.2M NaHCO
3 pH8.3のバッファーをプレートに加え、4℃で15時間静置後、上清を大腸菌/ファージ抽出液として回収した。次に、回収した大腸菌/ファージ抽出液をNHS−カラム(GE Healthecare Bio−Science社製)に通液して、大腸菌・ファージ由来のタンパク質を固定化した。このタンパク固定化カラムに患犬血清を通液、反応させ、大腸菌およびファージに吸着する抗体を血清から取り除いた。カラムを素通りした血清画分は、0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて500倍希釈し、これをイムノスクリーニング材料とした。
【0087】
かかる処理血清と上記融合タンパク質をブロットしたメンブレンをTBS−T(0.05% Tween20/TBS)にて4回洗浄を行った後、二次抗体として0.5%脱脂粉乳を含むTBSにて5000倍希釈を行ったヤギ抗イヌIgG(Goat anti Dog IgG−h+I HRP conjugated:BETHYL Laboratories社製)を、室温1時間反応させ、NBT/BCIP反応液(Roche社製)を用いた酵素発色反応により検出し、発色反応陽性部位に一致するコロニーをΦ90×15mmのNZYアガロースプレート上から採取し、SM緩衝液(100mM NaCl、10mM MgClSO
4、50mM Tris−HCl、0.01% ゼラチン pH7.5)500μlに溶解させた。発色反応陽性コロニーが単一化するまで上記と同様の方法で、二次、三次スクリーニングを繰り返し、血清中のIgGと反応する30940個のファージクローンをスクリーニングして、5個の陽性クローンを単離した。
【0088】
(3)単離抗原遺伝子の相同性検索
上記方法により単離した5個の陽性クローンを塩基配列解析に供するため、ファージベクターからプラスミドベクターに転換する操作を行った。具体的には宿主大腸菌(XL1−Blue MRF’)を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液250μlさらにExAssist helper phage(STRATAGENE社製)1μlを混合した後37℃で15分間反応後、LB培地を3ml添加し37℃で2.5〜3時間培養を行い、直ちに70℃の水浴にて20分間保温した後、4℃、1000×g、15分間遠心を行い上清をファージミド溶液として回収した。次いでファージミド宿主大腸菌(SOLR)を吸光度OD
600が1.0となるよう調製した溶液200μlと、精製したファージ溶液10μlを混合した後37℃で15分間反応させ、50μlをアンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB寒天培地に播き37℃一晩培養した。トランスフォームしたSOLRのシングルコロニーを採取し、アンピシリン(終濃度50μg/ml)含有LB培地37℃にて培養後、QIAGEN plasmid Miniprep Kit(キアゲン社製)を使って目的のインサートを持つプラスミドDNAを精製した。
【0089】
精製したプラスミドは、配列番号31に記載のT3プライマーと配列番号32に記載のT7プライマーを用いて、プライマーウォーキング法によるインサート全長配列の解析を行った。このシークエンス解析により配列番号5,7,9,11,13に記載の遺伝子配列を取得した。この遺伝子の塩基配列およびアミノ酸配列(配列番号6,8,10,12,14)を用いて、相同性検索プログラムBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)を行い既知遺伝子との相同性検索を行った結果、得られた5個の遺伝子全てがCAPRIN−1をコードする遺伝子であることが判明した。5個の遺伝子間の配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において塩基配列100%、アミノ酸配列99%であった。この遺伝子のヒト相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列98%であった。ヒト相同因子の塩基配列を配列番号1,3に、アミノ酸配列を配列番号2,4に示す。また、取得したイヌ遺伝子のウシ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列97%であった。ウシ相同因子の塩基配列を配列番号15に、アミノ酸配列を配列番号16に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とウシ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列94%、アミノ酸配列93〜97%であった。また、取得したイヌ遺伝子のウマ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列93%、アミノ酸配列97%であった。ウマ相同因子の塩基配列を配列番号17に、アミノ酸配列を配列番号18に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とウマ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列93%、アミノ酸配列96%であった。また、取得したイヌ遺伝子のマウス相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列87〜89%、アミノ酸配列95〜97%であった。マウス相同因子の塩基配列を配列番号19,21,23,25,27に、アミノ酸配列を配列番号20,22,24,26,28に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とマウス相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列89〜91%、アミノ酸配列95〜96%であった。また、取得したイヌ遺伝子のニワトリ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列82%、アミノ酸配列87%であった。ニワトリ相同因子の塩基配列を配列番号29に、アミノ酸配列を配列番号30に示す。なお、ヒト相同因子をコードする遺伝子とニワトリ相同因子をコードする遺伝子との配列同一性は、タンパク質に翻訳される領域において、塩基配列81〜82%、アミノ酸配列86%であった。
【0090】
(4)各組織での遺伝子発現解析
上記方法により得られた遺伝子に対しイヌおよびヒトの正常組織および各種細胞株における発現をRT−PCR(Reverse Transcription−PCR)法により調べた。逆転写反応は以下の通り行なった。すなわち、各組織50〜100mgおよび各細胞株5〜10×10
6個の細胞からTRIZOL試薬(invitrogen社製)を用いて添付のプロトコールに従い全RNAを抽出した。この全RNAを用いてSuperscript First−Strand Synthesis System for RT−PCR(invitrogen社製)により添付のプロトコールに従いcDNAを合成した。PCR反応は、取得した遺伝子特異的なプライマー(配列番号33および34に記載)を用いて以下の通り行った。すなわち、逆転写反応により調製したサンプル0.25μl、上記プライマーを各2μM、0.2mM各dNTP、0.65UのExTaqポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を25μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、94℃/30秒、60℃/30秒、72℃/30秒のサイクルを30回繰り返して行った。なお、上記遺伝子特異的プライマーは、配列番号5の塩基配列(イヌCAPRIN−1遺伝子)中の206番〜632番および配列番号1の塩基配列(ヒトCAPRIN−1遺伝子)中の698番〜1124番塩基の領域を増幅するものであった。比較対照のため、GAPDH特異的なプライマー(配列番号35および36に記載)も同時に用いた。その結果、
図1に示すように、健常なイヌ組織では精巣に強い発現が見られ、一方イヌ乳癌および腺癌組織で発現が見られた。さらに、取得した遺伝子のヒト相同因子の発現を併せて確認したところ、イヌCAPRIN−1遺伝子と同様、正常組織で発現が確認できたのは精巣のみだったが、癌細胞では乳癌、脳腫瘍、白血病、肺癌、食道癌細胞株など、多種類の癌細胞株で発現が検出され、特に多くの乳癌細胞株で発現が確認された。この結果から、CAPRIN−1は精巣以外の正常組織では発現が見られず、一方、多くの癌細胞で発現しており、特に乳癌細胞株に発現していることが確認された。
【0091】
なお、
図1中、縦軸の参照番号1は、上記で同定した遺伝子の発現パターンを、参照番号2は、比較対照であるGAPDH遺伝子の発現パターンを示す。
【0092】
(5)免疫組織化学染色
(5)−1 マウスおよびイヌ正常組織におけるCAPRIN−1の発現
マウス(Balb/c、雌)およびイヌ(ビーグル犬、雌)をエーテル麻酔下およびケタミン/イソフルラン麻酔下で放血させ、開腹後、各臓器(胃、肝臓、眼球、胸腺、筋肉、骨髄、子宮、小腸、食道、心臓、腎臓、唾液腺、大腸、乳腺、脳、肺、皮膚、副腎、卵巣、膵臓、脾臓、膀胱)をそれぞれPBSの入った10cmディッシュに移した。PBS中で各臓器を切り開き、4% paraformaldehyde(PFA)を含む0.1Mリン酸緩衝液(pH7.4)で一晩還流固定した。還流液を捨て、PBSで各臓器の組織表面をすすぎ、10%ショ糖を含むPBS溶液を50ml容の遠心チューブに入れ、その中に各組織を入れて4℃で2時間ローターを用いて振とうした。20%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、4℃で組織が沈むまで静置後、30%ショ糖を含むPBS溶液に入れ替え、4℃で組織が沈むまで静置した。組織を取り出し、必要な部分を手術用メスで切りだした。次に、OCTコンパウンド(Tissue Tek社製)をかけて組織表面になじませた後、クライオモルドに組織を配置した。ドライアイスの上にクライオモルドをおいて急速凍結させた後、クライオスタット(LEICA社製)を用いて10〜20μmに薄切し、スライドガラスごとヘアードライアーで30分間風乾し、薄切組織がのったスライドガラス作製した。次にPBS−T(0.05% Tween20を含む生理食塩水)を満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPEN(DAKO社製)で囲んだ後、ブロッキング液として、マウス組織はMOMマウスIgブロッキング試薬(VECTASTAIN社製)を、イヌ組織は10%牛胎児血清を含むPBS−T溶液をそれぞれのせ、モイストチャンバー上で室温で1時間静置した。次に参考例1で作製した癌細胞表面に反応する、配列番号78の重鎖可変領域と配列番号79の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体をブロッキング液で10μg/mlに調製した溶液をのせ、モイストチャンバー内で4℃で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、ブロッキング液で250倍に希釈したMOMビオチン標識抗IgG抗体(VECTASTAIN社製)をのせ、モイストチャンバー内で室温で1時間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、アビジン−ビオチンABC試薬(VECTASTAIN社製)をのせ、モイストチャンバー内に室温で5分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAB10mg+30%H
2O
2 10μl/0.05M Tris−HCl(pH7.6)50ml)をのせ、モイストチャンバー内に室温で30分間静置した。蒸留水でリンスし、ヘマトキシリン試薬(DAKO社製)を載せて室温で1分間静置後、蒸留水でリンスした。70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、キシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。その結果、CAPRIN−1は、唾液腺、腎臓、結腸、胃の各組織において細胞内で僅かに発現が認められたが、細胞表面での発現は認められず、また、その他の臓器由来の組織では全く発現が認められなかった。
【0093】
(5)−2 イヌ乳癌組織におけるCAPRIN−1の発現
病理診断で悪性乳癌と診断されたイヌの凍結された乳癌組織108検体を用いて、上述と同様の方法で凍結切片スライド作製および配列番号78の重鎖可変領域と配列番号79の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は108検体中100検体(92.5%)で発現が確認され、特に異型度の高い癌細胞表面に強く発現していた。
【0094】
(5)−3 ヒト乳癌組織におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト乳癌組織アレイ(BIOMAX社製)の乳癌組織188検体を用いて、免疫組織化学染色を行った。ヒト乳癌組織アレイを60℃で3時間処理後、キシレンを満たした染色瓶に入れて5分ごとにキシレンを入れ替える操作を3回行った。次にキシレンの代わりにエタノールおよびPBS−Tで同様の操作を行った。0.05% Tween20を含む10mMクエン酸緩衝液(pH6.0)を満たした染色瓶にヒト乳癌組織アレイを入れ、125℃で5分間処理後、室温で40分以上静置した。切片周囲の余分な水分をキムワイプでふき取り、DAKOPENで囲み、Peroxidase Block(DAKO社製)を適量滴下した。室温で5分間静置後、PBS−Tを満たした染色瓶に入れて5分ごとにPBS−Tを入れ替える操作を3回行った。ブロッキング液として、10% FBSを含むPBS−T溶液をのせ、モイストチャンバー内で室温で1時間静置した。次に参考例1で作製した癌細胞表面に反応する、配列番号78の重鎖可変領域と配列番号79の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を、5% FBSを含むPBS−T溶液で10μg/mlに調製した溶液をのせ、モイストチャンバー内で4℃で一晩静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、Peroxidase Labelled Polymer Conjugated(DAKO社製)適量滴下し、モイストチャンバー内に室温で30分間静置した。PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、DAB発色液(DAKO社製)をのせ、室温で10分程度静置した後、発色液を捨て、PBS−Tで10分間3回洗浄を行った後、蒸留水でリンスし、70%、80%、90%、95%、100%の各エタノール溶液に順番に1分間ずつ入れた後、キシレン中で一晩静置した。スライドガラスを取り出し、Glycergel Mounting Medium(DAKO社製)で封入後、観察を行った。その結果、CAPRIN−1は全乳癌組織188検体の内、138検体(73%)で強い発現が認められた。
【0095】
(5)−4 ヒト悪性脳腫瘍におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト悪性脳腫瘍組織アレイ(BIOMAX社製)の悪性脳腫瘍組織247検体を用いて、上述(5)−3と同様の方法で配列番号78の重鎖可変領域と配列番号79の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は全悪性脳腫瘍組織247検体の内、227検体(92%)で強い発現が認められた。
【0096】
(5)−5 ヒト乳癌転移リンパ節におけるCAPRIN−1の発現
パラフィン包埋されたヒト乳癌転移リンパ節組織アレイ(BIOMAX社製)の乳癌転移リンパ節組織150検体を用いて、上述(5)−3と同様の方法で配列番号78の重鎖可変領域と配列番号79の軽鎖可変領域を有するCAPRIN−1に対するモノクローナル抗体を用いた免疫組織化学染色を行った。その結果、CAPRIN−1は全乳癌転移リンパ節組織150検体の内、136検体(90%)で強い発現が認められた。すなわち、乳癌から転移した癌組織においてもCAPRIN−1は強く発現することが判った。
【0097】
参考例1:CAPRIN−1に対するモノクローナル抗体の作製
実施例2で調製した配列番号2に示される、抗原タンパク質(ヒトCAPRIN−1)100μgを等量のMPL+TDMアジュバント(シグマ社製)と混合し、これをマウス1匹当たりの抗原溶液とした。抗原溶液を6週齢のBalb/cマウス(日本SLC社製)の腹腔内に投与後、1週間毎にさらに3回投与を行った。最後の免疫から3日後に摘出した脾臓を滅菌した2枚のスライドガラスに挟んで擦り潰し、PBS(−)(日水社製)を用いて洗浄し1500rpmで10分間遠心して上清を除去する操作を3回繰り返して脾臓細胞を得た。得られた脾臓細胞とマウスミエローマ細胞SP2/0(ATCCより購入)とを10:1の比率にて混和し、そこに37℃に加温した10% FBSを含むRPMI1640培地200μlとPEG1500(ベーリンガー社製)800μlを混和して調製したPEG溶液を加えて5分間静置して細胞融合を行った。1700rpmで5分間遠心し、上清を除去後、ギブコ社製のHAT溶液を2%当量加えた15% FBSを含むRPMI1640培地(HAT選択培地)150mlで細胞を懸濁し、96穴プレート(ヌンク社製)の1ウェル当たり100μlずつ、プレート15枚に播種した。7日間、37℃、5% CO
2の条件で培養することで、脾臓細胞とミエローマ細胞が融合したハイブリドーマを得た。
【0098】
作製したハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1タンパクに対する結合親和性を指標にハイブリドーマを選抜した。実施例2で調製したCAPRIN−1タンパク溶液1μg/mlを96穴プレート1ウェル当たりに100μl添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% Bovine Serum Albumin(BSA)溶液(シグマ社製)を1ウェル当たり400μl添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μlのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μl添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(インビトロジェン社製)を1ウェル当たり100μl添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μl添加して15−30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μl添加して反応を停止させ吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、吸光度値が高かった抗体を産生するハイブリドーマを複数個選抜した。
【0099】
選抜したハイブリドーマを96穴プレート1ウェル当たりに0.5個となるようにプレートに添加し培養した。1週間後、ウェル中に単一のコロニーを形成しているハイブリドーマが観察された。それらウェルの細胞をさらに培養して、クローニングされたハイブリドーマが産生する抗体のCAPRIN−1タンパクに対する結合親和性を指標にハイブリドーマを選抜した。実施例2で調製したCAPRIN−1タンパク溶液1μg/mlを96穴プレート1ウェル当たりに100μl添加し、4℃にて18時間静置した。各ウェルをPBS−Tで3回洗浄後、0.5% BSA溶液を1ウェル当たり400μl添加して室温にて3時間静置した。溶液を除いて、1ウェル当たり400μlのPBS−Tでウェルを3回洗浄後、上記で得られたハイブリドーマの各培養上清を1ウェル当たり100μl添加し、室温にて2時間静置した。PBS−Tで各ウェルを3回洗浄した後、PBSで5000倍に希釈したHRP標識抗マウスIgG(H+L)抗体(インビトロジェン社製)を1ウェル当たり100μl添加して室温にて1時間静置した。PBS−Tでウェルを3回洗浄した後、TMB基質溶液(Thermo社製)を1ウェル当たり100μl添加して15−30分間静置して発色反応を行った。発色後、1規定硫酸を1ウェル当たり100μl添加して反応を停止させ吸光度計を用いて450nmと595nmの吸光度値を測定した。その結果、CAPRIN−1タンパクに反応性を示すモノクローナル抗体を産生する複数のハイブリドーマ株を得、ハイブリドーマの培養上清をプロテインG担体を用いて精製し、CAPRIN−1タンパクに結合するモノクローナル抗体150個を得た。
次にそれらモノクローナル抗体の内、CAPRIN−1が発現する乳癌細胞の細胞表面に反応性を示すものを選抜した。具体的には、10
6個のヒト乳癌細胞株MDA−MB−231Vを1.5ml容のミクロ遠心チューブにて遠心分離し、これに上記各ハイブリドーマの上清100μlを添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄した後、0.1%牛胎児血清を含むPBSで500倍希釈したFITC標識ヤギ抗マウスIgG抗体(インビトロジェン社製)を添加し、氷上で1時間静置した。PBSで洗浄後、ベクトンディッキンソン株式会社のFACSキャリバーにて蛍光強度を測定した。一方、上記と同様の操作を、抗体の代わりに培地を添加したものをコントロールとした。その結果、コントロールに比べて蛍光強度が強い、すなわち、乳癌細胞の細胞表面に反応するモノクローナル抗体11個を選抜した。これらの内1つのモノクローナル抗体の重鎖可変領域の配列を配列番号:78に、軽鎖可変領域の配列を配列番号:79に示す。
【0100】
実施例2:イヌおよびヒト新規癌抗原タンパクの作製
(1)組換えタンパク質の作製
実施例1で取得した配列番号5の遺伝子を基に、以下の方法にて組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で得られたファージミド溶液より調製し配列解析に供したベクターを1μl、NdeIおよびKpnI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号37および38に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler(BIO RAD社製)を用いて、98℃/10秒、68℃/1.5分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号6のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約1.4kbpのDNA断片を精製した。
【0101】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNdeIおよびKpnI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NdeI、KpnI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30b(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0102】
また、配列番号7の遺伝子を基に、以下の方法にてイヌ相同遺伝子の組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で作製した各種組織もしくは細胞cDNAよりRT−PCR法による発現が確認できたcDNAを1μl、NdeIおよびKpnI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号39および40に記載)を各0.4μM, 0.2mM dNTP,1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler (BIO RAD社製)を用いて、98℃/10秒、68℃/2.5分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号8のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit (QIAGEN社製)を用いて約2.2kbpのDNA断片を精製した。
【0103】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをNdeIおよびKpnI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、NdeI、KpnI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30b(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0104】
また、配列番号1の遺伝子を基に、以下の方法にてヒト相同遺伝子の組換えタンパク質を作製した。PCRは、実施例1で作製した各種組織・細胞cDNAよりRT−PCR法による発現が確認できたcDNAを1μl、SacIおよびXhoI制限酵素切断配列を含む2種類のプライマー(配列番号41および42に記載)を各0.4μM, 0.2mM dNTP,1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼ(宝酒造社製)となるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cycler (BIO RAD社製)を用いて、98℃/10秒、68℃/2.5分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号2のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN社製)を用いて約2.1kbpのDNA断片を精製した。
【0105】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収し、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致することをシークエンスで確認した。目的配列と一致したプラスミドをSacIおよびXhoI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、SacI、XhoI制限酵素で処理した大腸菌用発現ベクターpET30a(Novagen社製)に挿入した。このベクターの使用によりHisタグ融合型の組換えタンパク質が産生できる。このプラスミドを発現用大腸菌BL21(DE3)に形質転換し、1mM IPTGによる発現誘導を行うことで目的タンパク質を大腸菌内で発現させた。
【0106】
(2)組換えタンパク質の精製
上記で得られた、配列番号1,5,7の遺伝子を発現するそれぞれの組換え大腸菌を30μg/mLカナマイシン含有LB培地にて600nmでの吸光度が0.7付近になるまで37℃で培養後、イソプロピル−β−D−1−チオガラクトピラノシド終濃度が1mMとなるよう添加し、37℃で4時間培養した。その後4800rpmで10分間遠心し集菌した。この菌体ペレットをリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し、さらに4800rpmで10分間遠心し菌体の洗浄を行った。
【0107】
この菌体をリン酸緩衝化生理食塩水に懸濁し、氷上にて超音波破砕を行った。大腸菌超音波破砕液を6000rpmで20分間遠心分離し、得られた上清を可溶性画分、沈殿物を不溶性画分とした。
【0108】
可溶性画分を、定法に従って調整したニッケルキレートカラム(担体:Chelateing Sepharose(商標) Fast Flow(GE Health Care社)、カラム容量5mL、平衡化緩衝液50mM塩酸緩衝液(pH8.0))に添加した。未吸着画分をカラム容量の10倍量の50mM塩酸緩衝液(pH8.0)と20mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて洗浄操作を行った後、直ちに、100mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)にて6ベッド溶出した。クマシー染色によって目的タンパク質の溶出を確認した100mMイミダゾール含有20mMリン酸緩衝液(pH8.0)溶出画分を強陰イオン交換カラム(担体:Q Sepharose(商標) Fast Flow(GE Health Care社)、カラム容量5mL、平衡化緩衝液としての20mMリン酸緩衝液(pH8.0))に添加した。未吸着画分をカラム容量の10倍量の20mMリン酸緩衝液(pH7.0)と200mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて洗浄操作を行った後、直ちに、400mM塩化ナトリウム含有20mMリン酸緩衝液(pH7.0)にて5ベッド溶出を行い、配列番号2、6、8に示されるアミノ酸配列を有する各タンパク質の精製画分を得、以降これら精製画分を投与試験用の材料とした。
【0109】
上記方法によって得られた各精製標品のうち、200μlを1mlの反応用緩衝液(20mM Tris−HCl, 50mM NaCl, 2mM CaCl
2 pH7.4)に分注を行った後、エンテロキナーゼ(Novagen社製)2μl添加した後、室温にて一晩静置・反応を行い、Hisタグを切断し、Enterokinase Cleavage Capture Kit(Novagen社製)を用いて添付プロトコールに従って精製を行った。次に、上記方法によって得られた精製標品1.2mlを、限外ろ過NANOSEP 10K OMEGA(PALL社製)を用いて、生理用リン酸緩衝液(日水製薬社製)置換した後、HTタフリンアクロディスク0.22μm(PALL社製)にて無菌ろ過を行い、これを以下の実験に用いた。
【0110】
実施例3:組換えタンパク質の担癌患犬に対する投与試験
(1)抗腫瘍評価
表皮に腫瘤を持つ担癌患犬(乳癌)に対して、上記で精製した組換えタンパクの抗腫瘍効果の評価を行った。
【0111】
上記の通り精製した配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチド100μg(0.5ml)に等量の不完全フロイントアジュバント(和光純薬社製)を混合して癌治療剤を調製した。これを初回投与、3日後および7日後に腫瘍近傍の所属リンパ節に計3回投与を行った。その結果、癌治療剤投与時点で、大きさが約86mm
3であった腫瘤が、癌治療剤初回投与から10日後には55mm
3に、20日後には30mm
3に、30日後には20mm
3まで縮小した。
【0112】
また、別の乳腺癌の患犬に対して、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチド(0.5ml)に、0.5mlの不完全フロイントアジュバントを混合したものを上記と同様にして計3回投与した。また同時にイヌインターロイキン12を100μgずつ皮下投与した。その結果、癌治療剤投与時点で、大きさが約123mm
3であった腫瘤が、癌治療剤初回投与から45日後には完全に退縮した。
【0113】
さらに、別の乳腺癌の患犬に対して、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチド(0.5ml)に、0.5mlの不完全フロイントアジュバントを混合したものを同様にして計3回投与した。また同時にイヌインターロイキン12を100μgずつ皮下投与した。その結果、癌治療剤投与時点で、大きさが約96mm
3であった腫瘤が、癌治療剤初回投与から27日後には完全に退縮した。
【0114】
(2)免疫誘導能評価
上記(1)での投与試験で配列番号6、配列番号2および配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する各組換えポリペプチドを投与した各患犬の血液を、投与前並びに初回投与から10日後及び30日後の各時点で採取し、常法に従って末梢血単核球を分離し、それを用いたIFNγのエリスポットアッセイ法により、投与した各組換えタンパクについて免疫誘導能の評価を行った。
【0115】
ミリポア社製の96穴プレート(MultiScreen−IP, MAIPS4510)に70%エタノールを100μl/穴ずつ添加し、5分間静置し吸引除去後、滅菌水で洗浄し、200mM Sodium Bicarbonate(pH8.2)を300μl/穴添加し5分間静置後、吸引除去しプレートを洗浄した。次に200mM Sodium Bicarbonateに添加した抗イヌインターフェロンγモノクローナル抗体(R&D社製、clone142529, MAB781)を0.5μg/穴ずつ添加し、37℃で一晩インキュベートし、一次抗体を固相化した。一次抗体を吸引除去後、ブロッキング溶液(1% BSA−5%スクロース−200mM Sodium Bicarbonate(pH8.2))を300μl/穴ずつ添加し4℃にて一晩インキュベートしてプレートをブロッキングした。ブロッキング溶液を吸引除去後、10% 牛胎児血清を含むRPMI培地(Invitrogen社製)を300μl/穴ずつ添加して5分間静置し培地を吸引除去した。その後、10%牛胎児血清を含むRPMI培地に懸濁した各々のイヌ末梢血単核球を5×10
5細胞/穴ずつプレートに添加し、これにそれぞれの投与に用いたイヌ由来ポリペプチドもしくはヒト由来ポリペプチドを10μl/穴ずつ添加し、37℃、5%CO
2の条件下で24時間培養することにより、末梢血単核球中に存在し得る免疫細胞からインターフェロンγを産生させた。培養後、培地を除去し、洗浄液(0.1% Tween20−200mM Sodium Bicarbonate(pH8.2))を用いてウェルを6回洗浄した。上記ブロッキング溶液にて1000倍に希釈したラビット抗イヌポリクローナル抗体をそれぞれのウェルに100μlずつ添加し4℃にて一晩インキュベートした。上記洗浄液で3回ウェルを洗浄した後、上記ブロッキング溶液にて1000倍に希釈したHRP標識抗ラビット抗体をそれぞれのウェルに100μlずつ添加し、37℃で2時間反応させた。上記洗浄液で3回ウェルを洗浄した後、コニカイムノステイン(コニカ社製)にて発色させ、ウェルを水洗して反応を停止させた。反応停止後、メンブレンを乾燥させ、KSエリスポット(カールツァイツ社製)を用いて出現したスポット数をカウントした。その結果、ポリペプチド投与前の各患犬の末梢血単核球ではスポットが検出されなかった。一方、ポリペプチドを投与後には、配列番号6に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドを投与した患犬では、投与10日後および30日後の末梢血単核球でそれぞれ13個、82個のスポットが検出され、また、配列番号2に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドを投与した患犬では、投与10日後および30日後の末梢血単核球でそれぞれ53個、189個のスポットが検出され、配列番号8に示されるアミノ酸配列を有する組換えポリペプチドを投与した患犬では、投与10日後および30日後の末梢血単核球でそれぞれ32個、117個のスポットが検出された。
【0116】
以上の結果から、投与患犬において、投与した組換えタンパクに特異的に反応してインターフェロンγを産生する免疫細胞が誘導されていることが確認され、これらの免疫細胞を中心とした免疫反応により、上記(1)に示す抗腫瘍効果が発揮されたことが示された。
【0117】
実施例4:DNAワクチンによる抗腫瘍効果
配列番号19の遺伝子を基に、以下の方法にて組換えプラスミドを作製した。PCRは、CAPRIN−1遺伝子が発現していることが確認されたマウス大腸癌細胞株CT26(ATCCより購入)から実施例1(4)と同様にして抽出したcDNAを1μl、2種類のプライマー(配列番号80および81に記載)を各0.4μM、0.2mM dNTP、1.25UのPrimeSTAR HSポリメラーゼとなるように各試薬と添付バッファーを加え全量を50μlとし、Thermal Cyclerを用いて、98℃/10秒、55℃/15秒、72℃/4分のサイクルを30回繰り返すことにより行った。なお、上記2種類のプライマーは、配列番号20のアミノ酸配列全長をコードする領域を増幅するものであった。PCR後、増幅されたDNAを1%アガロースゲルにて電気泳動し、QIAquick Gel Extraction Kitを用いて約2100bpのDNA断片を精製した。
【0118】
精製したDNA断片をクローニングベクターpCR−Blunt(Invitrogen社製)にライゲーションした。これを大腸菌に形質転換後プラスミドを回収後シークエンス解析を行い、増幅された遺伝子断片が目的配列と一致したプラスミド得た。それをEcoRI制限酵素で処理し、QIAquick Gel Extraction Kitで精製後、目的遺伝子配列を、EcoRI制限酵素で処理した哺乳類発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen社製)に常法に従って挿入した。
【0119】
上記で作製したプラスミドDNA100μgに50μgの金粒子(Bio Rad社製)、100μlのスペルミジン(SIGMA社製)および100μlの1M CaCl
2を添加し、ボルテックスによって攪拌し10分間室温で静置した(以後金−DNA粒子と記載する)。 3000rpmで1分遠心した後、上清を捨て100%エタノールで3回洗浄した。金−DNA粒子に100%エタノール6mlを加えボルテックスによって十分に攪拌した後、金− DNA粒子を、Tefzel Tubing(Bio Rad社製)に流し込み、壁面に沈殿させた。金−DNA粒子が付着したTefzel Tubing のエタノールを風乾し、遺伝子銃に適した長さにカットした。
【0120】
20匹のBalb/cマウス(日本SLC社製)の背部皮下に、1匹あたり、10
6個のCT26細胞を移植し、腫瘍が直径7mm程度の大きさになるまで成長させた。その後、上記で作製したチューブを遺伝子銃に固定し、純ヘリウムガスを用いて400psiの圧力で、剃毛したマウスの腹腔に経皮投与を行い(プラスミドDNA接種量は2μg/匹になる)、抗腫瘍効果を評価した。
【0121】
その結果、CAPRIN−1遺伝子が挿入されていない空のプラスミドを投与されたコントロールのマウス(10匹)は、いずれも腫瘍は大きく増大し、腫瘍移植後63日目には10匹すべてが死亡した。一方、CAPRIN−1遺伝子が挿入されたプラスミドを投与されたマウス(10匹)は、いずれも腫瘍移植後25日までに腫瘍が完全に退縮し、コントロールのマウスがすべて死亡した腫瘍移植後63日目には、すべてのマウスが生存していた。
【0122】
実施例5:ペプチドエピトープ反応性CD8陽性T細胞の誘導
(1)HLA−A0201とHLA−A24に結合するペプチドモチーフの予測
ヒトCAPRIN−1ポリペプチドのアミノ酸配列の情報をGenBankから得た。HLA−A0201とHLA−A24結合モチーフ予測のため、公知のBIMASソフト(http://bimas.dcrt.nih.gov/molbio/hla_bind/で利用可能)を用いたコンピューター予測プログラムを用いてヒトCAPRIN−1ポリペプチドのアミノ酸配列を解析し、HLA−A0201分子に結合可能と予想される配列番号43から配列番号71に示すペプチド29種類と、HLA−A24分子に結合可能と予想される配列番号72から配列番号76に示す5種類を選択した。
【0123】
(2)ペプチドエピトープ反応性CD8陽性T細胞の誘導
HLA−A0201陽性の健常人から末梢血を分離し、Lymphocyte separation medium(OrganonpTeknika, Durham, NC)に重層して1,500rpmで室温で20分間遠心分離した。PBMCを含有する画分を回収し、冷リン酸塩緩衝液中で3回(またはそれ以上)洗浄し、末梢血単核球(PBMC)を得た。得られたPBMCをAIM−V培地(Life Technololgies社製)20mlに懸濁し、培養フラスコ(Falcon社製)中に37℃、5% CO
2の条件下で2時間付着させた。非付着細胞はT細胞調製に用い、付着細胞は樹状細胞を調製するために用いた。
【0124】
付着細胞をAIM−V培地中でIL−4(1000U/ml)およびGM−CSF(1000U/ml)の存在下で培養した。6日後にIL−4(1000U/ml)、GM−CSF(1000U/ml)、IL−6(1000U/ml、Genzyme, Cambridge, MA)、IL−1β(10ng/ml, Genzyme, Cambridge, MA)およびTNF−α(10ng/ml、Genzyme, Cambridge, MA)を添加したAIM−V培地に交換してさらに2日間培養した後得られた非付着細胞集団を樹状細胞として用いた。
【0125】
調製した樹状細胞をAIM−V培地中に1×10
6細胞/mlの細胞密度で懸濁し、上記(1)にて選択したHLA−A0201分子に結合可能と予想される配列番号43から配列番号71に示すペプチドを10μg/mlの濃度で添加し、96穴プレートを用いて37℃、5%CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、X線照射(3000rad)し、AIM−V培地で洗浄し、10%ヒトAB血清(Nabi, Miami, FL)、IL−6(1000U/ml)およびIL−12(10ng/ml, Genzyme, Cambridge, MA)を含有するAIM−V培地で懸濁し、24穴プレート1穴当りにそれぞれ1×10
5細胞ずつ添加した。さらに調製したT細胞集団を1穴当りそれぞれ1×10
6細胞添加し、37℃、5% CO
2の条件下で培養した。7日後、それぞれの培養上清を捨て、上記と同様にして得た各ペプチドで処理後X線照射した樹状細胞を10%ヒトAB血清(Nabi, Miami, FL)、IL−7(10U/ml, Genzyme, Cambridge, MA)およびIL−2(10U/ml, Genzyme, Cambridge, MA)を含有するAIM−V培地で懸濁し(細胞密度:1×10
5細胞/ml)、24穴プレート1穴当りにそれぞれ1×10
5細胞ずつ添加し、さらに培養した。同様の操作を7日間おきに4〜6回繰返した後刺激されたT細胞を回収し,フローサイトメトリーによりCD8陽性T細胞の誘導を確認した。
【0126】
HLA−A24分子に結合可能と予想される配列番号72から配列番号76に示すペプチドについても、HLA−A24陽性の健常人の末梢血から誘導した樹状細胞とT細胞集団を用いて上記と同様の方法にて、ペプチドエピトープ反応性CD8陽性T細胞の誘導を試みた。
【0127】
なお、陰性コントロールとして、本発明の範囲外の配列であるペプチド(配列番号77)を使用した。
【0128】
実施例6:細胞障害性T細胞抗原エピトープの決定
(1)IFN−γ産生能
実施例5(2)にて誘導したT細胞の内、増殖が見られたT細胞それぞれについて、ペプチドエピトープに対する特異性を調べるために、HLA−A0201分子に結合可能と予想される各ペプチドをパルスした、HLA−A0201分子を発現するT2細胞(Salter RD et al., Immunogenetics, 21:235−246(1985)、ATCCより購入)(10μg/mlの濃度でAIM−V培地中各ペプチドを添加し、37℃、5%CO
2の条件下で4時間培養)5×10
4個に対して、5×10
3個のT細胞を添加し、10%ヒトAB血清を含むAIM−V培地中で96穴プレートにて24時間培養した。培養後の上清を取って、IFN−γの産生量をELISA法により測定した。その結果、ペプチドをパルスしていないT2細胞を用いた穴の培養上清に比べて、配列番号43から配列番号71のペプチドをパルスしたT2細胞を用いた穴の培養上清において、IFN−γ産生が確認された(
図2)。この結果から、上記ペプチドは特異的にHLA−A0201陽性CD8陽性T細胞を増殖刺激させ、IFN−γ産生を誘導する能力を有するT細胞エピトープペプチドであることが判明した。
【0129】
上記と同様に、実施例5(2)にて配列番号72から配列番号76のペプチドを用いて誘導したペプチドエピトープ反応性CD8陽性T細胞について、ペプチドエピトープに対する特異性を調べるために、ペプチドをパルスした、HLA−A24分子を発現するJTK−LCL細胞(理化学研究所より購入)に対する、T細胞のIFN−γの産生量をELISA法により測定した。その結果、ペプチドをパルスしていないJTK−LCL細胞を用いた穴の培養上清に比べて、配列番号72から配列番号76のペプチドをパルスしたJTK−LCL細胞を用いた穴の培養上清において、IFN−γ産生が確認された(
図3)。この結果から、配列番号72から配列番号76のペプチドは、特異的にHLA−A24陽性CD8陽性T細胞を増殖刺激させ、IFN−γ産生を誘導する能力を有するT細胞エピトープペプチドであることが判明した。
【0130】
(2)細胞障害性評価
次に、本発明で用いられる配列番号43から配列番号71のペプチドが、HLA−A0201陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する腫瘍細胞上のHLA−A0201分子上に提示されるものであるか、また本ペプチドで刺激されたCD8陽性T細胞がHLA−A0201陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する腫瘍細胞を障害することができるかを検討した。ヒトCAPRIN−1ポリペプチドの発現が確認されているヒトグリオーマ細胞株、U−87MG細胞(ATCCより購入)を10
6個50ml容の遠心チューブに集め、100μCiのクロミウム51を加え37℃で2時間インキュベートした。その後10%ウシ胎児血清(キブコ社製、以下FBSという)を含むRPMI培地(キブコ社製)で3回洗浄し、96穴V底プレート1穴あたり10
3個ずつ添加し、さらにこれに後10%のFBSを含むRPMI培地で懸濁された5×10
4個の各ペプチドで刺激されたHLA−A0201陽性のペプチドエピトープ反応性のCD8陽性T細胞をそれぞれ添加して、37℃、5%CO
2の条件下で4時間培養した。培養後、障害を受けた腫瘍細胞から放出される培養上清中のクロミウム51の量を測定することによって、各ペプチドで刺激されたCD8陽性T細胞の細胞障害活性を算出した。その結果、本ペプチドで刺激されたHLA−A0201陽性のCD8陽性T細胞がU−87MG細胞に対する細胞障害活性を有することが判明した(
図4)。一方、陰性コントロールのペプチド(配列番号77)を用いて誘導したCD8陽性T細胞は、細胞障害活性を示さなかった。従って、本発明で用いられる各ペプチド(配列番号43から配列番号71)は、HLA−A0201陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する腫瘍細胞上のHLA−A0201分子上に提示されるものであり、さらに本ペプチドは、このような腫瘍細胞を障害することができるCD8陽性細胞障害性T細胞を誘導する能力があることが明らかになった。
【0131】
次に、配列番号72から配列番号76のペプチドが、HLA−A24陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する腫瘍細胞上のHLA−A24分子上に提示されるものであるか、また本ペプチドで刺激されたCD8陽性T細胞がHLA−A24陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する腫瘍細胞を障害することができるかを上記と同様に検討した。HLA−A24陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現するJTK−LCL細胞にクロミウム51を取り込ませ、HLA−A24陽性のペプチドエピトープ反応性のCD8陽性T細胞をそれぞれ添加して培養したときの、障害を受けた細胞から放出される培養上清中のクロミウム51の量を測定した結果、配列番号72から配列番号76のペプチドで刺激されたHLA−A24陽性のCD8陽性T細胞がJTK−LCL細胞に対する細胞障害活性を有することが判明した(
図5)。従って、配列番号72から配列番号76は、HLA−A24陽性でヒトCAPRIN−1ポリペプチドを発現する細胞上のHLA−A24分子上に提示されるものであり、さらに本ペプチドは、このような細胞を障害することができるCD8陽性細胞障害性T細胞を誘導する能力があることが明らかになった。陰性コントロールのペプチド(配列番号77)を用いて誘導したCD8陽性T細胞は、細胞障害性を示さなかった。
【0132】
なお、細胞障害活性は、上記のように、本発明で用いられる各ペプチドで刺激誘導されたCD8陽性T細胞5×10
4個とクロミウム51を取り込ませた10
3個のU−87MG細胞あるいはJTK−LCL細胞とを混合して4時間培養し、培養後培地に放出されたクロミウム51の量を測定して、以下計算式
*により算出したCD8陽性T細胞のU−87MG細胞あるいはJTK−LCL細胞(標的細胞という)に対する細胞障害活性を示した結果である。
【0133】
*式:細胞障害活性(%)=CD8陽性T細胞を加えた際のU−87MG細胞あるいはJTK−LCL細胞からのクロミウム51遊離量÷1N塩酸を加えた標的細胞からのクロミウム51遊離量×100。