【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために成された本発明の第1の態様は、マルチチャンネル型検出器を有するクロマトグラフと質量分析装置とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置により収集されたデータを処理するデータ処理装置であって、
a)前記マルチチャンネル型検出器により収集された、時間、波長、及び吸光度をディメンジョンとする第1の3次元クロマトグラムデータに基づいて作成されるクロマトグラムにおいて目的化合物由来のピークを検出する第1ピーク検出部と、
b)前記質量分析装置により収集された、時間、質量電荷比、及び信号強度をディメンジョンとする第2の3次元クロマトグラムデータに基づいて作成されるクロマトグラムにおいて前記目的化合物由来のピークを検出する第2ピーク検出部と、
c)前記第1ピーク検出部で検出された目的化合物由来のピークについて、該ピークが現れる期間中の他の各時点における評価対象吸光度スペクトルと、該ピークのピークトップにおける基準吸光度スペクトル又は前記評価対象吸光度スペクトルから所定期間離れた時点における基準吸光度スペクトルとのパターンの類似度をそれぞれ計算する第1類似度算出部と、
d)前記第2ピーク検出部で検出された前記目的化合物由来のピークについて、該ピークが現れる期間中の各時点における評価対象マススペクトルと、該ピークのピークトップにおける基準マススペクトル又は前記評価対象マススペクトルから所定期間離れた時点における基準マススペクトルとのパターンの類似度をそれぞれ計算する第2類似度算出部と、
e)前記第1類似度算出部により算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフ、及び前記第2類似度算出部により算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフを作成し、それら二つの類似度に関するグラフを表示画面上に比較可能に表示する類似度評価情報提示部と、
を備えることを特徴としている。
【0015】
また上記目的を達成するために成された本発明の第2の態様は、マルチチャンネル型検出器を有するクロマトグラフと質量分析装置とを組み合わせたクロマトグラフ質量分析装置により収集されたデータを処理するデータ処理装置であって、
a)前記マルチチャンネル型検出器により収集された、時間、波長、及び吸光度をディメンジョンとする第1の3次元クロマトグラムデータに基づいて作成されるクロマトグラムにおいて目的化合物由来のピークを検出する第1ピーク検出部と、
b)前記質量分析装置により収集された、時間、質量電荷比、及び信号強度をディメンジョンとする第2の3次元クロマトグラムデータに基づいて作成されるクロマトグラムにおいて前記目的化合物由来のピークを検出する第2ピーク検出部と、
c)前記第1ピーク検出部で検出された目的化合物由来のピークについて、該ピークが現れる期間中の他の各時点における評価対象吸光度スペクトルと、該ピークのピークトップにおける基準吸光度スペクトル又は前記評価対象吸光度スペクトルから所定期間離れた時点における基準吸光度スペクトルとのパターンの類似度をそれぞれ計算する第1類似度算出部と、
d)前記第2ピーク検出部で検出された前記目的化合物由来のピークについて、該ピークが現れる期間中の各時点における評価対象マススペクトルと、該ピークのピークトップにおける基準マススペクトル又は前記評価対象マススペクトルから所定期間離れた時点における基準マススペクトルとのパターンの類似度をそれぞれ計算する第2類似度算出部と、
e)前記第1類似度算出部により算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフ、及び前記第2類似度算出部により算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフ、に基づき、前記目的化合物由来のピークが単一成分由来であるか否かを判定する判定部と、
を備えることを特徴としている。
【0016】
ここで、「クロマトグラフ」は、液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフのいずれでもよい。また、「マルチチャンネル型検出器」は、分光器とそれによる波長分散光を略一斉に検出するフォトダイオードアレイ(PDA)検出器との組み合わせが一般的であるが、得られるスペクトル波形形状が比較的ブロードである(変化が緩やかである)ものであればよく、吸光度スペクトルを得るために波長走査を伴う紫外可視分光光度計、赤外分光光度計、近赤外分光光度計、蛍光分光光度計、などであってもよい。
【0017】
また、「クロマトグラフ質量分析装置」は、クロマトグラフにおいて成分分離のためのカラムを経た試料を質量分析装置に導入する代わりに、液体クロマトグラフのインジェクタなどを利用したFIA法により、成分分離されていない試料を質量分析装置に導入するものであってもよい。
【0018】
また、「第1の3次元クロマトグラムデータに基づいて作成されるクロマトグラム」は通常、特定の質量電荷比におけるマスクロマトグラム(「抽出イオンクロマトグラム」ともいう)であるが、原理的にはトータルイオンクロマトグラムでもよい。
【0019】
本発明の第1及び第2の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置では、クロマトグラムに現れる目的化合物由来のピークの純度を判定するために、従来用いられていた吸光度スペクトルのパターンの類似性のみならず、質量分析装置により得られるマススペクトルのパターンの類似性も併せて利用する。
【0020】
即ち、質量分析装置において複数の質量電荷比に対するSIM(選択イオンモニタリング)測定や所定質量電荷比範囲に対するスキャン測定を実行すると、時間、質量電荷比、及び信号強度をディメンジョンとする3次元クロマトグラムデータが得られるから、第2ピーク検出部はこの3次元クロマトグラムデータに基づいて例えば目的化合物に対応する(典型的には目的化合物を特徴付ける定量イオンの)質量電荷比におけるマスクロマトグラムを作成し、該クロマトグラム上で目的化合物の保持時間付近のピークを検出する。第2類似度算出部は、検出された目的化合物由来のピークについて、該ピークが現れる期間中の或る一つの時点における評価対象マススペクトルと、その評価対象マススペクトルから所定期間離れた時点における基準マススペクトル(又はピークトップにおける基準マススペクトル)とのパターンの類似度を計算する、という処理を、ピーク期間中の全時点又は少なくともその一部範囲の時点について繰り返し実行する。
【0021】
なお、基準マススペクトルとして評価対象マススペクトルから所定期間離れた時点におけるマススペクトルを用いる場合、オペレータが該所定期間の値を適宜設定できるようにしておくとよい。何故なら、目的化合物由来のピークに重なる不純物の時間的な広がりに応じて、所定期間を調整できることが好ましいからである。
【0022】
本発明の第1の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置では、類似度評価情報提示部が、吸光度スペクトルに基づいて算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフと、マススペクトルに基づいて算出された各時点における類似度を時間軸上にプロットしたグラフとを作成し、それら二つの類似度に関するグラフを表示画面上に比較可能に、例えば同じ時間軸上に重ねて表示する。
【0023】
目的化合物と不純物とで吸光度スペクトルのパターンが類似している場合であっても、その目的化合物と不純物とでマススペクトルのパターンまでもが類似していることは稀である。逆に、目的化合物と不純物とでマススペクトルのパターンが類似している場合であっても、目的化合物と不純物とで吸光度スペクトルのパターンまでもが類似していることも稀である。したがって、目的化合物由来のピークに不純物が重なっている場合には、類似度に関する二つのグラフのいずれかにおいて類似度の落ち込みが観測される可能性が高い。そこで、オペレータは表示された異なる二つの類似度に関するグラフを目視で確認することで、その目的化合物由来のピークに不純物の重なりがあるのか否かを的確に且つ直感的に判断することができる。
【0024】
一方、本発明の第2の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置では、判定部が上述したようなオペレータの判断に代わる判定処理を実行する。具体的には例えば、類似度の時間的変化を示すカーブの傾斜や変化率などを算出し、そうした算出結果に基づく類似度の低下の度合いが閾値以上であるような落ち込みがある場合に、不純物の重なりがあると判断する。もちろん、こうした自動判定を実行する判定部と二つの類似度に関するグラフを表示する類似度評価情報提示部とを併設してもよい。
【0025】
また本発明の第1及び第2の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、好ましくは、
前記第
2類似度算出部による類似度に基づく前記グラフ上で、類似度が落ち込む負のピークのピークトップ付近のマススペクトルと、その負のピークに近く該ピークの立ち下がり前又は立ち上がり後である時点のマススペクトルとの差分マススペクトルを求める減算処理部と、
前記差分マススペクトルに基づいて前記負のピークに対応した成分を推定する不純物推定部と、
をさらに備える構成とするとよい。
なお、マススペクトル上のピーク強度は各時点における含有成分の濃度(量)に依存するから、差分マススペクトルを算出する際には、二つのマススペクトルにおける目的化合物の濃度の差を補正するとよい。
【0026】
理想的には、上記差分マススペクトルは不純物由来のマススペクトルとなるから、不純物推定部は、例えば差分マススペクトルのパターンを化合物定性用データベース中のマススペクトルパターンと照合することにより、不純物を定性する。もちろん、類似度に関するグラフから不純物のおおよその保持時間も判明するから、不純物を定性する際にはこの保持時間の情報も併せて利用することができる。それにより、不純物が重なっていることが判明するだけでなく、その成分も知ることが可能となる。
【0027】
なお、マススペクトルには様々な要因によるノイズピークが現れるから、本発明の第1及び第2の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、第
2類似度算出部は、類似度の計算前に各マススペクトルのバックグラウンドノイズを除去する処理を実行することが好ましい。
【0028】
また通常、質量分析装置のイオン源においては一つの化合物から様々な質量電荷比を持つイオンが生成され、そのうちの1又は少数の特徴的なイオンさえ捉えられれば、該化合物の有無の判定は可能である。そこで、本発明の第1及び第2の態様に係るクロマトグラフ質量分析用データ処理装置において、第
2類似度算出部は、類似度の計算前に各マススペクトルに対し所定の閾値以下のピークを除去する処理を実行するとよい。
【0029】
上述したようなバックグラウンドノイズの除去やそれ以外の不要なピークの除去を類似度算出に先立って行うことで、マススペクトルのパターンが含有化合物の特徴を残したまま単純化されるので、類似度算出処理が簡単になりこれに要する時間を短縮することができる。また、類似度算出の精度自体も向上し、ピーク純度判定の正確性を改善することができる。