(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突合部の脇にタブ材を配置し前記タブ材に下穴を設けた後、前記下穴に前記攪拌ピンを挿入して前記本接合工程を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール及び仮接合用回転ツールについて説明する。
【0013】
本接合用回転ツールFは、
図1の(a)に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0014】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。
【0015】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、金属部材1に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、金属部材1と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域Wが形成される。
【0016】
仮接合用回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。仮接合用回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部G1は、
図2の(b)に示すように、摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0017】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。
【0018】
図2の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2とショルダ部G1の下端を金属部材1に挿入しつつ移動させる。仮接合用回転ツールGの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域wが形成される。
【0019】
次に、本実施形態の具体的な摩擦攪拌接合方法について説明する。本実施形態では、(1)準備工程、(2)第一の予備工程、(3)第一の本接合工程、(4)第一の補修工程、(5)第二の予備工程、(7)第二の本接合工程、(8)第二の補修工程を含んでいる。なお、第一の予備工程、第一の本接合工程及び第一の補修工程は、金属部材1の表面側から実行される工程であり、第二の予備工程、第二の本接合工程及び第二の補修工程は、金属部材1の裏面側から実行される工程である。
【0020】
(1)準備工程
図3を参照して準備工程を説明する。本実施形態に係る準備工程は、接合すべき金属部材1,1を突き合せる突合工程と、金属部材1,1の突合部J1の両側に第一タブ材2と第二タブ材3を配置するタブ材配置工程と、第一タブ材2と第二タブ材3を溶接により金属部材1,1に仮接合する溶接工程とを具備している。
【0021】
突合工程では、接合すべき金属部材1,1をL字状に配置し、一方の金属部材1の側面に他方の金属部材1の側面を密着させる。金属部材1は、摩擦攪拌可能な金属であればよいが、本実施形態ではアルミニウム合金を用いる。
【0022】
タブ材配置工程では、金属部材1,1の突合部J1の一端側(外側)に第一タブ材2を
配置して第一タブ材2の当接面21(
図3の(b)参照)を金属部材1,1の外側の側面に当接させるとともに、突合部J1の他端側に第二タブ材3を配置して第二タブ材3の当接面31,31(
図3の(b)参照)を金属部材1,1の内側の側面に当接させる。なお、金属部材1,1をL字状に組み合わせた場合には、第一タブ材2及び第二タブ材3の一方(本実施形態では第二タブ材3)を、金属部材1,1により形成された入隅部(金属部材1,1の内側の側面により形成された角部)に配置する。
【0023】
溶接工程では、金属部材1と第一タブ材2とにより形成された入隅部2a,2aを溶接して金属部材1と第一タブ材2とを接合し、金属部材1と第二タブ材3とにより形成された入隅部3a,3aを溶接して金属部材1と第二タブ材3とを接合する。
【0024】
準備工程が終了したら、金属部材1,1、第一タブ材2及び第二タブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0025】
(2)第一の予備工程
第一の予備工程は、金属部材1,1と第一タブ材2との突合部J2を接合する第一タブ材接合工程と、金属部材1,1の突合部J1を仮接合する仮接合工程と、金属部材1,1と第二タブ材3との突合部J3を接合する第二タブ材接合工程と、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する下穴形成工程とを具備している。
【0026】
図4の(a)及び(b)に示すように、一の仮接合用回転ツールGを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J1,J2,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。
【0027】
まず、仮接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を左回転させながら第一タブ材2の適所に設けた開始位置SPに挿入して摩擦攪拌を開始し、仮接合用回転ツールGを第一タブ材接合工程の始点s2に向けて相対移動させる。
【0028】
仮接合用回転ツールGを相対移動させて第一タブ材接合工程の始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールGを離脱させることなくそのまま第一タブ材接合工程に移行する。
【0029】
第一タブ材接合工程では、第一タブ材2と金属部材1,1との突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、金属部材1,1と第一タブ材2との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J2に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、仮接合用回転ツールGを途中で離脱させることなく第一タブ材接合工程の始点s2から終点e2まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0030】
なお、仮接合用回転ツールGを左回転させた場合には、進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールGの進行方向の左側に金属部材1,1が位置するように第一タブ材接合工程の始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0031】
仮接合用回転ツールGが第一タブ材接合工程の終点e2に達したら、終点e2で摩擦攪拌を終了させずに仮接合工程の始点s1まで連続して摩擦攪拌を行い、そのまま仮接合工程に移行する。なお、本実施形態では、第一タブ材接合工程の終点e2から仮接合工程の始点s1に至る摩擦攪拌のルートを第一タブ材2に設定している。
【0032】
仮接合工程では、金属部材1,1の突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。具体的には、金属部材1,1の継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用回転ツールGを相対移動させることで、突合部J1に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、仮接合用回転ツールGを途中で離脱させることなく仮接合工程の始点s1から終点e1まで連続して摩擦攪拌を行う。
【0033】
仮接合用回転ツールGが仮接合工程の終点e1に達したら、そのまま第二タブ材接合工程に移行する。すなわち、第二タブ材接合工程の始点s3でもある仮接合工程の終点e1で仮接合用回転ツールGを離脱させることなく第二タブ材接合工程に移行する。
【0034】
第二タブ材接合工程では、金属部材1,1と第二タブ材3との突合部J3,J3に対して摩擦攪拌を行う。本実施形態では、第二タブ材接合工程の始点s3が、突合部J3,J3の中間に位置しているので、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートに折返し点m3を設け、仮接合用回転ツールGを始点s3から折返し点m3に移動させた後に(
図4の(a)参照)、仮接合用回転ツールGを折返し点m3から終点e3に移動させることで(
図4の(b)参照)、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。すなわち、仮接合用回転ツールGを始点s3〜折返し点m3間で往復させた後に、仮接合用回転ツールGを終点e3まで移動させることで、第二タブ材接合工程の始点s3から終点e3まで連続して摩擦攪拌を行う。なお、始点s3から折返し点m3に至る摩擦攪拌のルート及び折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートは、それぞれ、金属部材1と第二タブ材3との継ぎ目上に設定する。
【0035】
始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置関係に特に制限はないが、本実施形の如く仮接合用回転ツールGを左回転させている場合には、少なくとも折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌のルートにおいて仮接合用回転ツールGの進行方向の左側に金属部材1,1が位置するように、第二タブ材接合工程の始点s3、折返し点m3及び終点e3の位置を設定することが望ましい。この場合、始点s3〜折返し点m3間においては、往路においても復路においても金属部材1と第二タブ材3との継ぎ目上に摩擦攪拌のルートを設定し、当該ルートに沿って仮接合用本接合用回転ツールを移動させることが望ましい。このようにすると、始点s3から折返し点m3に至るまでの間に、仮接合用回転ツールGの進行方向の右側に金属部材1が位置し、金属部材1側に接合欠陥が発生したとしても、その後に行われる折返し点m3から終点e3に至る摩擦攪拌において仮接合用回転ツールGの進行方向の左側に金属部材1が位置することになるので、前記した接合欠陥が是正され、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0036】
ちなみに、仮接合用回転ツールGを右回転させた場合には、折返し点から終点に至る摩擦攪拌のルートにおいて仮接合用回転ツールGの進行方向の右側に金属部材1,1が位置するように、第二タブ材接合工程の始点、折返し点及び終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールGを左回転させた場合の終点e3の位置に折返しを設け、仮接合用回転ツールGを左回転させた場合の折返し点m3の位置に終点を設ければよい。
【0037】
図4の(b)に示すように、仮接合用回転ツールGが第二タブ材接合工程の終点e3に達したら、終点e3で摩擦攪拌を終了させずに、第二タブ材3に設けた終了位置EPまで連続して摩擦攪拌を行う。仮接合用回転ツールGが終了位置EPに達したら、仮接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EPから離脱させる。
【0038】
続いて、下穴形成工程を実行する。下穴形成工程は、第一の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴を形成する工程である。新たに下穴を形成してもよいが、本実施形態では、仮接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を離脱させたときに形成される抜き穴を、ドリル等で拡径して下穴を形成する。このようにすると、下穴の加工作業を省略あるいは簡略化することが可能となるので、作業時間を短縮することが可能となる。なお、前記した抜き穴をそのまま下穴として利用してもよい。
【0039】
(3)第一の本接合工程
第一の予備工程が終了したら、金属部材1,1の突合部J1を本格的に接合する第一の本接合工程を実行する。本実施形態に係る第一の本接合工程では、
図1の(a)に示す本接合用回転ツールFを使用し、仮接合された状態の突合部J1に対して金属部材1の表面側から摩擦攪拌を行う。
【0040】
第一の本接合工程では、まず、
図5に示すように、本接合用回転ツールFを右回転させつつ攪拌ピンF2を開始位置SM1(すなわち、
図4の(b)に示す終了位置EP)に挿入し、摩擦攪拌を開始する。
【0041】
金属部材1,1の突合部J1の一端まで摩擦攪拌を行ったら、そのまま本接合用回転ツールFを突合部J1に突入させ、金属部材1,1の継ぎ目上に設定された摩擦攪拌のルートに沿って本接合用回転ツールFを相対移動させることで、突合部J1の一端から他端まで連続して摩擦攪拌を行う。ここでは、
図1の(b)を参照するように、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1とを離間させて、攪拌ピンF2のみを突合部J1に挿入する。
図5の(b)に示すように、突合部J1の他端まで本接合用回転ツールFを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。
【0042】
本接合用回転ツールFが終了位置EM1に達したら、本接合用回転ツールFを回転させながら上昇させて攪拌ピンF2を終了位置EM1から離脱させる。なお、終了位置EM1において攪拌ピンF2を上方に離脱させると、攪拌ピンF2と略同形の抜き穴が不可避的に形成されることになるが、本実施形態では、そのまま残置する。
【0043】
(4)第一の補修工程
第一の本接合工程が終了したら、第一の本接合工程により金属部材1に形成された塑性化領域W1に対して第一の補修工程を実行する。本実施形態に係る第一の補修工程では、
図6及び
図7に示すように、凹溝Mを形成する凹溝形成工程と、凹溝Mに補助部材4を配置する配置工程と、金属部材1と補助部材4とを接合する補助部材接合工程とを実行する。
【0044】
凹溝形成工程では、
図6に示すように、本接合用回転ツールFの移動に伴って形成された塑性化領域W1の表面に凹溝Mを形成する。凹溝形成工程では、例えばエンドミル等を用いてバリや塑性化領域W1の表面を切削して、断面視矩形の凹溝Mを形成する。
【0045】
配置工程では、凹溝Mに補助部材4を配置する。補助部材4は、金属部材1と同等の材料からなる金属板である。補助部材4は、凹溝Mと同等の形状を呈する。補助部材4の厚さは、凹溝Mの深さと略同等になっている。
【0046】
補助部材接合工程では、
図7の(a)に示すように、補助部材4と金属部材1、第一タブ材2及び第二タブ材3との突き合わせ部分である突合部J4に対して摩擦攪拌接合を行う。具体的には、回転した仮接合用回転ツールGを第二タブ材3に設定した開始位置SH1に挿入し、突合部J4に沿って一周させて終了位置EH1まで移動させる。
図7の(b)に示すように、補助部材接合工程では、ショルダ部G1を金属部材1の表面12に押し込みながら仮接合用回転ツールGを移動させる。また、仮接合用回転ツールGの攪拌ピンG2は補助部材4の厚みよりも長く設定されている。
【0047】
図8に示すように、仮接合用回転ツールGを一周させて、補助部材4に対して二条の塑性化領域w2が形成されると、補助部材4は全て塑性化領域w2,w2で覆われる。また、塑性化領域W1と塑性化領域w2とが重複するため、より気密性及び水密性を高めることができる。
【0048】
第一の本接合工程後、金属部材1の表面12と塑性化領域W1の表面との段差が大きい場合には、凹溝形成工程は省略してもよい。また、補助部材接合工程では、金属部材1と補助部材4とを溶接で接合してもよい。
【0049】
(5)第二の予備工程
第一の本接合工程を終えたら金属部材1,1を裏返し、第二の予備工程を実行する。本実施形態に係る第二の予備工程は、第二の本接合工程における摩擦攪拌の開始位置に下穴(図示略)を形成する下穴形成工程を具備している。なお、第二の予備工程では、金属部材1,1の裏面13側から突合部J1に対して仮接合を行ってもよい。
【0050】
(6)第二の本接合工程
第二の予備工程が終了したら、
図9の(a)に示すように、本接合用回転ツールFを使用して、突合部J1に対して金属部材1の裏面13側から摩擦攪拌接合を行う第二の本接合工程を実行する。第二の本接合工程は、第一の本接合工程と略同等の作業を裏面13側から行う。第二の本接合工程においても、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1とは離間させつつ、攪拌ピンF2のみを金属部材1に挿入する。突合部J1に対して摩擦攪拌接合を行う際には、第一の本接合工程で形成された塑性化領域W1に本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2を入り込ませつつ摩擦攪拌を行う。
【0051】
(7)第二の補修工程
第二の本接合工程が終了したら、第二の本接合工程により金属部材1に形成された塑性化領域W2に対して第二の補修工程を実行する。第二の補修工程は、第一の補修工程と略同等の作業を裏面13側から行う。
図9の(b)に示すように、第二の補修工程を行うと、二条の塑性化領域w3によって補助部材4の全体が覆われる。最後に、第一タブ材2及び第二タブ材3を金属部材1,1から切断する。
【0052】
以上説明した摩擦攪拌接合によれば、摩擦攪拌接合を行う際に、金属部材1,1に接触させる部分を本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみにすることで、従来に比べて金属部材1,1と本接合用回転ツールFとの摩擦を軽減することができ、摩擦攪拌装置にかかる負荷を小さくすることができる。摩擦攪拌装置にかかる負荷が小さくなるため、金属部材1,1の深い位置まで攪拌ピンF2を挿入することができる。
【0053】
また、第一の本接合工程で形成された塑性化領域W1と第二の本接合工程で形成された塑性化領域W2とを接触させることで、突合部J1の厚さ方向の全長に対して摩擦攪拌接合することができるため、気密性及び水密性を高めることができる。また、本実施形態では、第二の本接合工程を行う際に、塑性化領域W1に攪拌ピンF2を接触させつつ摩擦攪拌接合を行うため、仮に塑性化領域W1に接合欠陥があったとしても当該接合欠陥を補修することができる。
【0054】
また、第一の本接合工程及び第二の本接合工程によって、金属部材1の表面12又は裏面13に段差が形成されたとしても、補修工程を行うことで金属部材1の表面12又は裏面13を平坦にすることができる。また、補助部材接合工程では、少なくとも金属部材1と補助部材4とが接合すればよいが、本実施形態のように補助部材4の全体を摩擦攪拌接合することで、補助部材4が塑性化領域w2,w3で覆われてより気密性及び水密性を高めることができる。
【0055】
また、突合部J1の仮接合工程を行うことで、本接合工程を行う際に金属部材1,1が離間するのを防ぐことができる。また、タブ材を設けることにより、回転ツールの挿入及び離脱作業が容易になるとともに、このタブ材に下穴を設けることで回転ツールを押し込む際の圧入抵抗を小さくすることができる。
【0056】
以上本発明の実施形態について説明したが、本発明の趣旨に反しない範囲において設計変更が可能である。例えば、
図10は、補修工程の変形例を示した図であって、(a)は凹溝形成工程、(b)は肉盛り溶接工程を示す。補修工程では、補助部材4に代えて、肉盛溶接で補修してもよい。つまり、
図10の(a)に示すように、第一の本接合工程で形成された塑性化領域W1の上に凹溝Mを形成した後、この凹溝Mに肉盛り溶接を行ってもよい。これにより、凹溝Mに溶接金属Nが充填されるため、金属部材1,1の表面12を平坦にすることができる。なお、凹溝形成工程は省略してもよい。
【0057】
また、仮接合工程は、本実施形態では摩擦攪拌接合で行ったが、溶接でもよい。また、補助部材4を用いた補修工程では、仮接合用回転ツールGを用いたが、補助部材4の厚みが大きい場合にはさらに大きな回転ツールを用いてもよい。また、補助部材4と金属部材1とは溶接で接合してもよい。
【実施例】
【0058】
実施例では、寸法の異なる3種類の本接合用回転ツールFA,FB,FCを用い、各回転ツールの回転数や下穴の条件を変えて、平坦なアルミニウム合金である金属部材1の表面12を所定の長さ移動させて、形成された塑性化領域の断面を観察した。実施例での符号及び寸法は適宜
図1を参照する。摩擦攪拌接合時は、本接合用回転ツールを右回転させ、本接合用回転ツールの連結部F1と金属部材1は離間させて、攪拌ピンF2のみを金属部材1に挿入させて行った。
【0059】
<実施例1>
図11は、実施例1の条件と各塑性化領域の断面図である。実施例1では、本接合用回転ツールFAを用いて、試験体NO.1〜3の三つの試験体を用いて、各条件で試験を行った。本接合用回転ツールFAの連結部F1の外径X1(
図1の(a)参照)は140mm、厚みX2は40mmになっている。攪拌ピンF2の長さY1は55mm、基端外径Y2は32mm、先端外径Y3は16mmになっている。攪拌ピンF2の外周面には、深さ2mm、ピッチ2mmで左ネジの螺旋溝F3が刻設されている。
【0060】
図12は、実施例1を説明するための断面図である。挿入深さ寸法t1は、押し込んだ攪拌ピンF2の先端から表面12までの長さである。下穴Kは円柱状を呈し、直径t2=20mm、深さt3=45mmに設定されている。
【0061】
図11に示すように、実施例1の試験体NO.1〜3ではいずれも接合欠陥は見られなかった。金属部材1の表面12には段差Pが形成されている。段差Pは、本接合用回転ツールFAの進行方向左側にいくほど深くなっている。段差Pは、摩擦攪拌接合によって塑性流動化した金属が散飛したりバリLとなって外部に流出したりすることで形成されると考えられる。バリLは本接合用回転ツールFAの進行方向右側に集中している。本接合用回転ツールFAでは、ツールの回転速度の変化にはさほど影響を受けていない。
【0062】
<実施例2>
図13は、実施例2の条件と各塑性化領域の断面図である。実施例2では、本接合用回転ツールFBを用いて、試験体NO.4〜7の四つの試験体を用いて、各条件で試験を行った。本接合用回転ツールFBの連結部F1の外径X1(
図1の(a)参照)は140mm、厚みX2は55mmになっている。攪拌ピンF2の長さY1は77mm、基端外径Y2は38mm、先端外径Y3は16mmになっている。攪拌ピンF2の外周面には、深さ2mm、ピッチ2mmで左ネジの螺旋溝F3が刻設されている。
【0063】
図14は、実施例2を説明するための断面図である。挿入深さ寸法t4は、押し込んだ攪拌ピンF2の先端から表面12までの長さである。下穴Kは幅広部K1と、幅広部K1の底面に形成された幅狭部K2とで構成されている。幅広部K1及び幅狭部K2はいずれも円柱状を呈する。幅広部K1の直径をt5、深さ寸法をt7とし、幅狭部K2の直径をt6、深さ寸法をt8とする。
【0064】
図13に示すように、実施例2の試験体NO.4〜7ではいずれも接合欠陥は見られなかった。金属部材1の表面12には段差Pが形成されている。段差Pは、摩擦攪拌接合によって塑性流動化した金属が散飛したりバリLとなって外部に流出したりすることで形成されると考えられる。NO.4,5では、塑性化領域Wの上部と下部で金属の模様が異なることがわかる。これは、NO.4,5ではツールの回転数が高いため、塑性流動化された金属のうち、上側の金属が高温になりやすいためであると考えられる。一方、NO.6,7では、ツールの回転数が低いため塑性化領域Wの模様はほぼ一様になっている。試験体NO.7では比較的段差Pが小さかった。
【0065】
<実施例3>
図15は、実施例3の条件と各塑性化領域の断面図である。実施例3では、本接合用回転ツールFCを用いて、試験体8〜11の四つの試験体を用いて、各条件で試験を行った。本接合用回転ツールFCの連結部F1の外径X1(
図1の(a)参照)は140mm、厚みX2は45mmになっている。攪拌ピンF2の長さY1は157mm、基端外径Y2は54.7mm、先端外径Y3は16mmになっている。攪拌ピンF2の外周面には、深さ2mm、ピッチ2mmで左ネジの螺旋溝F3が刻設されている。
【0066】
図15に示すように、実施例3の試験体NO.8〜10の符号Qの部分(回転ツールの進行方向左側)では接合欠陥が見られた。金属部材1の表面12には比較的大きな段差Pが形成されている。段差Pは、摩擦攪拌接合によって塑性流動化した金属が散飛したりバリとなって外部に流出したりすることで形成されると考えられる。一方、試験体NO.11では挿入深さを短くした(攪拌ピンF2の長さに対して略半分程度挿入した)ため、段差がほぼ無い状態になった。