特許第5962846号(P5962846)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962846
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20160721BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20160721BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   B23C5/16
   C23C14/06 A
   C23C14/06 H
【請求項の数】16
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2015-504320(P2015-504320)
(86)(22)【出願日】2014年3月4日
(86)【国際出願番号】JP2014055408
(87)【国際公開番号】WO2014136755
(87)【国際公開日】20140912
【審査請求日】2015年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2013-41775(P2013-41775)
(32)【優先日】2013年3月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】菊池 正和
【審査官】 長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−178774(JP,A)
【文献】 特開2011−156637(JP,A)
【文献】 特開2009−190091(JP,A)
【文献】 特開2002−331408(JP,A)
【文献】 特開2002−160107(JP,A)
【文献】 特開2007−144522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23C 5/16
C23C 14/06
C01G 23/00
C01G 37/00
C01G 41/00
C01B 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材の表面に形成された被覆層とを含み、被覆層の少なくとも1層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超え、その組成が(AlTi)X[但し、MはZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、XはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、aはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、bはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するTi元素の原子比を表し、cはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するM元素の原子比を表し、a、b、cは、0.30≦a≦0.65、0.35≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1を満足する。]と表される粗粒層であり、粗粒層の平均層厚が0.2〜10μmであり、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxに対する被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)が0.7以上1.5未満である、被覆切削工具。
【請求項2】
a、b、cは、0.30≦a≦0.50、0.50≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1を満足する請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
粗粒層のXはNを表す請求項1または2に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxは400nmを超え1000nm以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
粗粒層は立方晶である請求項1〜のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項6】
Cu−Kα線を用いた粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅(2θ)が0.6度以下である請求項に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
被覆層は、基材の表面に形成された下層と、下層の表面に形成された粗粒層を含み、下層は、
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、
これら金属元素の少なくとも1種と炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物と、
から成る群より選択された少なくとも1種からなる単層または多層である請求項1〜のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項8】
粗粒層は最上層である請求項1〜のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項9】
基材と、基材の表面に形成された被覆層とを含み、被覆層の少なくとも1層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超え、その組成が(AlCr)Z[但し、LはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、ZはC、NおよびOから成る群より選択される少なくとも1種の元素を表し、dはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、eはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するCr元素の原子比を表し、fはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するL元素の原子比を表し、d、e、fは、0.25≦d≦0.70、0.30≦e≦0.75、0≦f≦0.20、d+e+f=1を満足する。]と表される粗粒層であり、粗粒層の平均層厚が0.2〜10μmであり、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxに対する被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)が0.7以上1.5未満である、被覆切削工具。
【請求項10】
d、e、fは、0.40≦d≦0.70、0.30≦e≦0.50、0≦f≦0.20、d≧e、d+e+f=1を満足する請求項に記載の被覆切削工具。
【請求項11】
粗粒層のZはNを表す請求項9または10に記載の被覆切削工具。
【請求項12】
被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxは400nmを超え1000nm以下である請求項9〜11のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項13】
粗粒層は立方晶である請求項9〜12のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項14】
Cu−Kα線を用いた粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅(2θ)が0.6度以下である請求項13に記載の被覆切削工具。
【請求項15】
被覆層は、基材の表面に形成された下層と、下層の表面に形成された粗粒層を含み、下層はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、これら金属元素の少なくとも1種と炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物とから成る群より選択された少なくとも1種からなる単層または多層である請求項9〜14のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項16】
粗粒層は最上層である請求項9〜15のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鋼、鋳鉄、ステンレス鋼、耐熱合金などの切削加工には、超硬合金、サーメット、cBN焼結体などの基材の表面にTiN層やTiAlN層などを形成させた被覆切削工具が広く用いられている。
【0003】
被覆切削工具の従来技術としては、WC基超硬合金、サーメット、セラミックス、高速度鋼等から成る母材の表面に、IVa、Va、VIa族金属元素およびAl、Siから選んだ2種類以上の元素からなる合金の窒化物、酸化物、炭化物、炭窒化物又はホウ化物を物理的蒸着法により50nm以下の粒子径で構成した被膜を持つことを特徴とする表面被覆硬質部材がある(例えば、特許文献1参照。)。
【0004】
また、基体表面にTiとAlを主とする複合窒化物、複合炭化物、複合炭窒化物のいずれか一種の単層硬質膜または二種以上からなる多層硬質膜を被覆した硬質膜被覆工具において、前記硬質膜結晶粒の横方向の結晶粒径(b)の平均値を0.1〜0.4μmの範囲とし、且つ、前記硬質膜の結晶粒径の縦/横比a/bの平均値を1.5〜7の範囲としたことを特徴とする硬質膜被覆工具がある(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3341328号公報
【特許文献2】特許第3526392号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の工作機械の高性能化はめざましく、これに伴って高速切削、高送り加工など過酷な切削条件で切削加工が行われるようになった。このような切削条件で従来の被覆切削工具を使用すると耐摩耗性が低下するという問題があった。本発明は、従来よりも、耐摩耗性に優れ、工具寿命が長い被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、被覆層の耐摩耗性の向上について研究を重ね、被覆層の組成を最適化するとともに、その粒径を粗粒にすると耐摩耗性が向上し、被覆切削工具の長寿命化を実現できるという知見を得て、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材と、基材の表面に形成された被覆層とを含み、被覆層の少なくとも1層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超え、その組成が(AlTi)X[但し、MはZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、XはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、aはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、bはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するTi元素の原子比を表し、cはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するM元素の原子比を表し、a、b、cは、0.30≦a≦0.65、0.35≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1を満足する。]と表される粗粒層であり、粗粒層の平均層厚が0.2〜10μmである被覆切削工具。
(2)a、b、cは、0.30≦a≦0.50、0.50≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1を満足する(1)の被覆切削工具。
(3)粗粒層のXはNを表す(1)または(2)の被覆切削工具。
(4)被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxは400nmを超え1000nm以下である(1)〜(3)のいずれかの被覆切削工具。
(5)被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxに対する被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)が0.7以上1.5未満である(1)〜(4)のいずれかの被覆切削工具。
(6)粗粒層は立方晶である(1)〜(5)のいずれかの被覆切削工具。
(7)粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅が0.6度以下である(6)の被覆切削工具。
(8)被覆層は、基材の表面に形成された下層と、下層の表面に形成された粗粒層を含み、下層は、
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、
これら金属元素の少なくとも1種と、炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物と、
から成る群より選択された少なくとも1種からなる単層または多層である(1)〜(7)のいずれかの被覆切削工具。
(9)粗粒層は最上層である(1)〜(8)のいずれかの被覆切削工具。
(10)基材と、基材の表面に形成された被覆層とを含み、被覆層の少なくとも1層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超え、その組成が(AlCr)Z[但し、LはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、ZはC、NおよびOから成る群より選択される少なくとも1種の元素を表し、dはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、eはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するCr元素の原子比を表し、fはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するL元素の原子比を表し、d、e、fは、0.25≦d≦0.70、0.30≦e≦0.75、0≦f≦0.20、d+e+f=1を満足する。]と表される粗粒層であり、粗粒層の平均層厚が0.2〜10μmである被覆切削工具。
(11)d、e、fは、0.40≦d≦0.70、0.30≦e≦0.50、0≦f≦0.20、d≧e、d+e+f=1を満足する(10)の被覆切削工具。
(12)粗粒層のZはNを表す(10)または(11)の被覆切削工具。
(13)被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxは400nmを超え1000nm以下である(10)〜(12)のいずれかの被覆切削工具。
(14)被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxに対する被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)が0.7以上1.5未満である(10)〜(13)のいずれかの被覆切削工具。
(15)粗粒層は立方晶である(10)〜(14)のいずれかの被覆切削工具。
(16)粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅が0.6度以下である(15)の被覆切削工具。
(17)被覆層は、基材の表面に形成された下層と、下層の表面に形成された粗粒層を含み、下層はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、これら金属元素の少なくとも1種と炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物とから成る群より選択された少なくとも1種からなる単層または多層である(10)〜(16)のいずれかの被覆切削工具。
(18)粗粒層は最上層である(10)〜(17)のいずれかの被覆切削工具。
【0009】
本発明の被覆切削工具は、基材と、基材の表面に形成された被覆層とを含む。本発明の基材は被覆切削工具の基材として用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、高速度鋼などを挙げることができる。その中でも、基材が超硬合金であると、耐摩耗性および耐欠損性に優れるので、さらに好ましい。
【0010】
本発明の被覆層は、被覆切削工具の被覆層として使用されるものであれば特に限定されないが、その中でも、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、これら金属元素の少なくとも1種と炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物とからなる群より選択された少なくとも1種の単層または多層であると耐摩耗性が向上するのでさらに好ましい。本発明の被覆層を構成する各層の組成は、走査電子顕微鏡(SEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)、透過電子顕微鏡(TEM)などの電子顕微鏡に付属するエネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)などを用いて測定することができる。
【0011】
本発明の被覆層全体の平均層厚は0.2〜10μmであると好ましい。これは、本発明の被覆層全体の平均層厚が0.2μm未満では耐摩耗性を向上させる効果が少なく、10μmを超えると剥離しやすくなるためである。本発明の被覆層全体の層厚および被覆層を構成する各層の層厚は、光学顕微鏡、SEM、FE−SEM、TEMなどを用いて、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置で、5箇所以上測定し、それらの平均値を、被覆層全体の平均層厚および被覆層を構成する各層の平均層厚とした。
【0012】
本発明の1つは、被覆層の少なくとも1層が、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径が200nmを超え、その組成が(AlTi)X[但し、MはZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、XはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、aはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、bはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するTi元素の原子比を表し、cはAl元素とTi元素とM元素の合計に対するM元素の原子比を表し、a、b、cは、0.30≦a≦0.65、0.35≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1を満足する。]と表される粗粒層である。aが0.30未満であると粗粒になりすぎて耐欠損性が低下し、aが0.65を超えて多くなると微粒になりすぎて耐摩耗性が低下し、bが0.35未満であると微粒になりすぎて耐摩耗性が低下し、bが0.70を超えて多くなると粗粒になりすぎて耐欠損性が低下する。粗粒層にはAl元素とTi元素以外に、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を含んでもよいが、cが0以上0.20以下の範囲であると、粗粒層の組織が緻密化し、粗粒層の強度が向上し、被覆層全体の耐摩耗性を高めることができる。cが0.20を超えて多くなると、微粒になりすぎて耐摩耗性が低下する。そのため、0.30≦a≦0.65、0.35≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1とした。その中でも0.30≦a≦0.50、0.50≦b≦0.70、0≦c≦0.20、a+b+c=1であると、平均粒径が大きくなりやすく、耐摩耗性が向上する傾向が見られるため、さらに好ましい。XはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表すが、その中でもXはCNまたはNを表すと耐摩耗性が向上するので好ましく、その中でもXはNを表すと耐摩耗性が向上するのでさらに好ましい。
【0013】
本発明の1つは、被覆層の少なくとも1層が、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超え、その組成が(AlCr)Z[但し、LはTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、ZはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表し、dはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するAl元素の原子比を表し、eはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するCr元素の原子比を表し、fはAl元素とCr元素とL元素の合計に対するL元素の原子比を表し、d、e、fは、0.25≦d≦0.70、0.30≦e≦0.75、0≦f≦0.20、d≦e、d+e+f=1を満足する。]と表される粗粒層である。dが0.25未満であると、粗粒になりすぎて耐欠損性が低下し、dが0.70を超えて多くなると、微粒になりすぎて耐摩耗性が低下し、eが0.3未満であると、微粒になりすぎて耐摩耗性が低下し、eが0.75を超えて多くなると、粗粒になりすぎて耐欠損性が低下する。粗粒層にはAl元素とCr元素以外に、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Y、BおよびSiから成る群より選択された少なくとも1種の元素を含んでもよく、fが0以上0.20以下の範囲であると、粗粒層の組織が緻密化し、粗粒層の強度が向上し、被覆層全体の耐摩耗性を高めることができる。fが0.20を超えて多くなると、微粒になりすぎて耐摩耗性が低下する。そのため、0.25≦d≦0.70、0.3≦e≦0.75、0≦f≦0.20、d+e+f=1とした。その中でもd≦eであり、0.40≦d≦0.70、0.3≦e≦0.50、0≦f≦0.20、d+e+f=1であると、平均粒径が大きくなりやすく、耐摩耗性が向上する傾向が見られるため、さらに好ましい。ZはC、NおよびOから成る群より選択された少なくとも1種の元素を表すが、その中でもZはCNまたはNを表すと耐摩耗性が向上するので好ましく、その中でもZはNを表すと耐摩耗性が向上するのでさらに好ましい。
【0014】
以上のように、本発明では、被覆層の少なくとも1層の組成が、(AlTi)Xまたは(AlCr)Zで表され、TiまたはCrの含有量が上記の範囲にある場合に、耐摩耗性及び耐欠損性の両方に優れた被覆切削工具を得ることができる。なお、Tiの含有量を0.35≦b≦0.70の範囲に収めた場合には、Crの含有量は0.20以下に抑えることが好ましく、Crの含有量を0.3≦e≦0.75の範囲に収めた場合には、Tiの含有量を0.20以下に抑えることが好ましい。
【0015】
本発明の粗粒層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超えるので、耐摩耗性に優れる。その理由は以下のように考えられる。図1に示すように被覆層の平均粒径が小さいと、切削時に発生する外力によって、図2に示すように被覆層の結晶粒の脱落が生じやすくなる。一方、図3に示すように被覆層の平均粒径が大きいと、切削時に発生する外力によって、図4に示すように被覆層の結晶粒の脱落が生じにくい。本発明の粗粒層は、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの平均粒径Lxが200nmを超える。平均粒径Lxが大きいほど優れた耐摩耗性を示すので、平均粒径Lxが400nm以上であるとさらに好ましいが、平均粒径Lxが1000nmを超える粗粒層の製造は困難であり、生産性を考慮すると、平均粒径Lxは400〜1000nmの範囲がさらに好ましい。また、切削時は被覆層の表面から結晶粒の脱落が生じるので、被覆層の最も表面側が粗粒層であると、すなわち最上層が粗粒層であると耐摩耗性を向上させる効果が高くなるので、さらに好ましい。本発明の粗粒層は耐摩耗性に優れる。そのため被覆層の耐摩耗性は向上し、本発明の被覆切削工具の工具寿命を長くすることができる。
【0016】
本発明において被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxは、粗粒層の表面側界面を鏡面研磨して得られた表面組織から直径100nm以上のドロップレットを除いた組織で測定される。具体的には、粗粒層の表面側界面から深さ100nmまでを研磨等で除去し、鏡面になった表面組織で粗粒層の平均粒径Lxを測定する。研磨方法としては、ダイヤモンドペーストやコロイダルシリカを用いて鏡面に研磨する方法や、イオンミリングなどを挙げることができる。鏡面になった粗粒層の表面組織をSEM、FE−SEM、TEM、電子線後方散乱回折装置(EBSD)などで観察して、直径100nm以上のドロップレットを除いた組織から、粗粒層のある1つの結晶粒の面積と等しい面積の円の直径をその結晶粒の粒径とする。同様の方法により、観察した表面組織中に含まれる結晶粒の粒径を求める。その後、5nm間隔の区分けした粒径を示す横軸と、5nm間隔の区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を示す縦軸とからなる粒度分布を作成する。次に、5nm間隔の区分けの中心値(例えば、5〜10nmの区分けの中心値は7.5nm)とその区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を乗じる。5nm間隔の区分けの中心値とその区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を乗じて得られた値をすべて合計した値を粗粒層の平均粒径Lxとする。測定装置としては、EBSDが、結晶粒の粒界が明瞭になるので好ましく、EBSDの設定としては、ステップサイズが0.01μm、測定範囲が2μm×2μm、方位差が5°以上の境界を粒界とみなすという設定が好ましい。なお、鏡面になった粗粒層の表面組織から直径100nm以上のドロップレットとドロップレット以外の組織は容易に区別できる。鏡面の表面組織を観察すると、ドロップレットは円形であり、ドロップレットの周りには厚さ数nm〜数十nmの空隙ができている。また、ドロップレットは鏡面研磨中に粗粒層から抜け落ちることがある。その場合は粗粒層に円形の孔が生じる。そのため、粗粒層において直径100nm以上のドロップレットとドロップレット以外の組織とは容易に区別することができる。
【0017】
本発明において被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyは粗粒層の断面を鏡面研磨して得られた断面組織から幅100nm以上のドロップレットを除いた組織で測定される。粗粒層の断面を鏡面研磨する方法としては、ダイヤモンド砥石により研削した後、ダイヤモンドペーストまたはコロイダルシリカを用いて研磨する方法や、イオンミリングなどを挙げることができる。鏡面になった粗粒層の断面組織をSEM、FE−SEM、TEM、EBSDなどで観察して、被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyを測定することができる。具体的には粗粒層の断面組織をSEM、FE−SEM、TEM、EBSDなどで5000〜50000倍に拡大して観察して得られた画像に、図5に示すように被覆層と基材との界面に垂直な方向に直線を500nm間隔で引いた。直線が幅100nm以上のドロップレットにかかった場合は、さらに500nm離れた場所に直線を引いた。粗粒層の基材側界面または粗粒層の表面側界面から直線と粒界の交差した点までの長さ、もしくは、直線と粒界の交差した点から直線と粒界の交差した次の点までの長さをLn(n=1,2,3,…)とした。直線と粒界が交差しないときは粗粒層の基材側界面から粗粒層の表面側界面までの長さをLnとした。それらを平均した値を平均粒径Lyとした。このとき測定に用いる直線の本数は、10本以上であると好ましい。なお、鏡面になった粗粒層の断面組織から幅100nm以上のドロップレットとドロップレット以外の組織は容易に区別できる。鏡面の断面組織を観察すると、ドロップレットは円形、楕円形もしくは涙滴形であり、ドロップレットの基材側の界面には厚さ数nm〜数十nmの空隙ができている。また、ドロップレットは鏡面研磨中に粗粒層から抜け落ちることがある。その場合は粗粒層には円形、楕円形もしくは涙滴形の孔が生じる。そのため、粗粒層において幅100nm以上のドロップレットとドロップレット以外の組織とは容易に区別することができる。
【0018】
本発明において、被覆層と基材との界面に平行な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lxに対する被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの粗粒層の平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)が1.5を超えると、切削加工中に刃先にかかる負荷により工具表面から発生したクラックが進展しやすくなり耐欠損性が低下する傾向がみられる。一方、Lxに対するLyの粒径比(Ly/Lx)が0.7以上1.5以下であると耐摩耗性および耐欠損性の両方が良くなる傾向が見られる。そのため、Lxに対するLyの粒径比(Ly/Lx)は0.7以上1.5以下であると、さらに好ましい。
【0019】
本発明の粗粒層の平均層厚は0.2〜10μmとした。0.2μm未満では耐摩耗性を向上させる粗粒層の効果が少なくなり、10μmを超えるとの基材と被覆層の密着性が低下して剥離やチッピングが生じやすくなるためである。その中でも本発明の粗粒層の平均層厚は0.5〜10μmであるとさらに好ましい。
【0020】
本発明の粗粒層が立方晶であると、硬さが高く、耐摩耗性に優れるのでさらに好ましい。その中でも、Cu−Kα線を用いたX線回折測定で得られる本発明の粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅が0.6度以下であると、本発明の粗粒層の結晶粒の脱落が抑制されるため、さらに好ましい。粗粒層の(200)面のX線回折ピークの半価幅は市販のX線回折装置を用いて測定することができる。例えば、ターゲット:Cu、管電圧:50kV、管電流:250mA、Cu−Kα線、走査軸:2θ/θ、入射側ソーラースリット:5度、発散縦スリット2/3度、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:2/3度、受光側ソーラースリット:5度、受光スリット:0.30mm、受光モノクロスリット:0.8mm、X線の単色化:グラファイト受光モノクロメータ(湾曲モード)、サンプリング幅:0.01度、スキャンスピード:4度/min、ブラッグ角(2θ)の測定範囲を30度〜70度とするX線回折測定を行うとよい。この測定条件で本発明の粗粒層のX線回折測定を行うと、本発明の粗粒層の立方晶の(200)面のX線回折ピークが観察される。このようにして得られた粗粒層の(200)面のX線回折ピークについて半価幅を測定するとよい。半価幅の測定はX線回折装置付属の解析ソフトウエアを用いてもよい。解析ソフトウエアを用いる場合、三次式近似を用いてバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行った後、ピークトップ法よりピーク位置を求め、半価幅が導出される。
【0021】
基材上に形成される被覆層において、所定の層(例えば、粗粒層)に対して表面側に形成された層を上層、所定の層に対して基材側に形成された層を下層と称することができる。本発明の被覆層は、基材の表面に形成された下層と、下層の表面に形成された粗粒層を含み、下層はTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Y、AlおよびSiから成る群より選択された金属元素の少なくとも1種からなる金属と、これら金属元素の少なくとも1種と炭素、窒素、酸素および硼素から成る群より選択された非金属元素の少なくとも1種とからなる化合物とから成る群より選択された少なくとも1種からなる単層または多層であると、さらに好ましい。基材との密着性や耐欠損性に優れる下層と、耐摩耗性に優れる粗粒層とを積層すると、切削性能をさらに向上させることができる。本発明の粗粒層の表面に上層を形成しても良いが、被覆層の最上層は粗粒層の方が好ましい。
【0022】
本発明の被覆層はアークイオンプレーティング法、イオンプレーティング法、スパッター法、イオンミキシング法などの種々の物理蒸着法によって形成することができる。具体的には、物理蒸着装置の反応容器内に基材を入れて、基材の表面をイオンボンバードメント処理した後に、被覆層の組成に応じた金属蒸発源を蒸発させ、反応容器内をN、CHなどの反応ガスで満たし、反応容器内を所定の圧力にして、基材に所定のバイアス電圧を印加して本発明の被覆層を形成するとよい。
【0023】
本発明の粗粒層を形成する方法としては、アークイオンプレーティング法を用い、金属蒸発源の中心の磁束密度を低くし、形成時の基材温度を低くすると、耐摩耗性を向上させる効果が高くなるので、さらに好ましい。具体的には、反応容器内の圧力を0.5〜5.0Paの所定の圧力にして、基材に−10V〜−150Vのバイアス電圧を印加し、金属蒸発源の中心の磁束密度を7mT〜12mTの所定の磁束密度とし、試料の温度を500〜700℃の所定の温度にして、本発明の粗粒層を形成すると、さらに好ましい。なお、金属蒸発源の中心の磁束密度は、ガウスメーターで測定することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の被覆切削工具は、耐摩耗性に優れ、工具寿命が長いという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】切削試験前の平均粒径が小さい被覆層の断面組織の概念図の一例である。
図2】切削試験後の平均粒径が小さい被覆層の断面組織の概念図の一例である。
図3】切削試験前の平均粒径が大きい被覆層の断面組織の概念図の一例である。
図4】切削試験後の平均粒径が大きい被覆層の断面組織の概念図の一例である。
図5】被覆切削工具の断面組織の概念図である。
【実施例1】
【0026】
基材として、ISO規格SEKN1203AGTNインサート形状のP20相当超硬合金を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表1および表2に示す被覆層の原料となる金属蒸発源を設置し、基材をアークイオンプレーティング装置の反応容器内の試料ホルダーに取り付けて、反応容器内の圧力を1×10−2Pa以下の真空とし、炉内ヒーターで基材の温度が500℃になるまで加熱した。基材の温度が500℃になった後、反応容器内の圧力が5PaになるまでArガスを導入し、反応容器内の雰囲気をAr雰囲気とし、反応容器内の圧力を5Paとし、基材に−1000Vのバイアス電圧を印加するイオンボンバードメント条件でArイオンボンバードメント処理を行った。
【0027】
Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10−2Pa以下の真空にした。試料番号1〜16、19〜36についてはNガスを反応容器内に導入して反応容器内を圧力3Paの窒素雰囲気にした。試料番号17、18についてはNガスとCHガスの分圧比がN:CH=1:1となるように混合した混合ガスを反応容器内に導入して反応容器内の圧力3Paの混合ガス雰囲気にした。次に炉内ヒーターで基材温度が表1および表2に示す基材温度になるまで加熱した後、基材に印加するバイアス電圧を−50Vとし、金属蒸発源の中心の磁束密度を表1および表2に示す磁束密度とし、アーク電流を150Aとする被覆条件で、基材の表面に表1および表2に示す被覆層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却し、試料温度が100℃以下になった後で反応容器内から試料を取り出した。
【0028】
【表1】
【0029】
【表2】
【0030】
得られた試料について、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置で、光学顕微鏡およびFE−SEMを用いて被覆層の層厚を5箇所測定して、それらを平均したものを被覆層の平均層厚とした。被覆層の組成はFE−SEM付属のEDSおよびFE−SEM付属のWDSを用いて測定した。
【0031】
得られた試料について、被覆層の表面から深さ100nmまでをダイヤモンドペーストで研磨して、さらにコロイダルシリカを用いて鏡面に研磨した。鏡面になった被覆層の表面組織をEBSDで観察して、被覆層の平均粒径Lxを測定した。EBSDは、ステップサイズが0.01μm、測定範囲が2μm×2μm、方位差が5°以上の境界を粒界とみなすという設定にした。被覆層のある1つの結晶粒の面積と等しい面積の円の直径をその結晶粒の粒径とした。同様の方法により、観察した表面組織中に含まれる結晶粒の粒径を求めた。その後、5nm間隔の区分けした粒径を示す横軸と、5nm間隔の区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を示す縦軸とからなる粒度分布を作成し、5nm間隔の区分けの中心値とその区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を乗じた。5nm間隔の区分けの中心値とその区分けに含まれる結晶粒全部の面積比を乗じて得られた値をすべて合計した値を粗粒層の平均粒径Lxとした。
【0032】
切断機で切断して得られた試料の断面をダイヤモンドペーストで研磨して、さらにコロイダルシリカを用いて鏡面に研磨した。鏡面になった被覆層の断面をEBSDで観察して、被覆層と基材との界面に垂直な方向で測定したときの被覆層の平均粒径Lyを測定した。このときEBSDは、ステップサイズが0.01μm、測定範囲が2μm×2μm、方位差が5°以上の境界を粒界とみなすという設定にした。被覆層の断面組織をEBSDで5000〜50000倍に拡大した画像に、被覆層と基材との界面に垂直な方向に直線を500nm間隔で10本引いた。被覆層の基材側界面または被覆層の表面側界面から直線と粒界の交差した点までの長さ、もしくは、直線と粒界の交差した点から直線と粒界の交差した次の点までの長さをLn(n=1,2,3,…)とした。また、直線と粒界が交差しないときは被覆層の基材側界面から粗粒層の表面側界面までの長さをLnとした。これらのLnを平均した値を平均粒径Lyとした。
【0033】
得られた試料について、ターゲット:Cu、管電圧:50kV、管電流:250mA、Cu−Kα線、走査軸:2θ/θ、入射側ソーラースリット:5度、発散縦スリット2/3度、発散縦制限スリット:5mm、散乱スリット:2/3度、受光側ソーラースリット:5度、受光スリット:0.30mm、受光モノクロスリット:0.8mm、X線の単色化:グラファイト受光モノクロメータ(湾曲モード)、サンプリング幅:0.01度、スキャンスピード:4度/min、ブラッグ角(2θ)の測定範囲を30度〜70度とするX線回折測定を行った。その結果、得られた被覆層の結晶系はすべて立方晶であることが分かった。被覆層の組成、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lx、被覆層と基材との界面に垂直な方向の平均粒径Ly、平均粒径Lxに対する平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)、被覆層全体の平均層厚は表1および表2に記載した。
【0034】
得られた試料を下記のカッターに取り付けて切削試験1を行った。工具寿命に至るまでの加工距離は表3および表4に示した。
[切削試験1]
被削材:S45C、
切削速度:200m/min、
送り:0.2mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
切削幅:50mm、
カッター有効径:φ100mm、
クーラント:不使用(ドライ加工)、
工具寿命の判定:逃げ面最大摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とした
【0035】
【表3】
【0036】
【表4】
【0037】
表3および表4に示すように、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lxが大きい発明品は、耐摩耗性に優れるので、比較品よりも工具寿命に至るまでの加工距離が長かった。
【実施例2】
【0038】
基材として、ISO規格SEKN1203AGTNインサート形状のP20相当超硬合金を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表5に示す被覆層の原料となる金属蒸発源を設置し、基材をアークイオンプレーティング装置の反応容器内の試料ホルダーに取り付けて、実施例1と同様な条件でArイオンボンバードメント処理を行った。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10−2Pa以下の真空にした。Nガスを反応容器内に導入して反応容器内を圧力3Paの窒素雰囲気にした。炉内ヒーターで基材温度が表5に示す温度になるまで加熱した後、基材に印加するバイアス電圧を−50Vとし、金属蒸発源の中心の磁束密度を表5に示す磁束密度とし、アーク電流を150Aとする被覆条件で、基材の表面に表5に示す被覆層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却し、試料温度が100℃以下になった後で反応容器内から試料を取り出した。
【0039】
【表5】
【0040】
得られた試料について実施例1と同じ測定条件で、被覆層の結晶系、組成、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lx、被覆層と基材との界面に垂直な方向の平均粒径Ly、平均粒径Lxに対する平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)、被覆層全体の平均層厚を測定した。それらの結果を表5に記載した。なお、得られた試料の被覆層はすべて立方晶であった。
【0041】
得られた試料は下記のカッターに取り付けて切削試験2、3を行った。工具寿命に至るまでの加工距離は表6に示した。なお、切削試験2は主に耐摩耗性を評価する試験であり、切削試験3は主に耐欠損性を評価する試験である。
[切削試験2]
被削材:S45C、
切削速度:250m/min、
送り:0.1mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
切削幅:50mm、
カッター有効径:φ100mm、
クーラント:不使用(ドライ加工)、
工具寿命の判定:逃げ面最大摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とした
【0042】
[切削試験3]
被削材:SCM440、
切削速度:250m/min、
送り:0.4mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
切削幅:105mm、
カッター有効径:φ125mm、
クーラント:不使用(ドライ加工)、
工具寿命の判定:試料が欠損に至ったときを工具寿命とした
【0043】
【表6】
【0044】
表6に示すように、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lxが大きい発明品は、耐摩耗性および耐欠損性に優れるので、比較品よりも工具寿命に至るまでの加工距離が長かった。
【実施例3】
【0045】
基材として、ISO規格SEKN1203AGTNインサート形状のP20相当超硬合金を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表7に示す被覆層の原料となる金属蒸発源を設置し、基材をアークイオンプレーティング装置の反応容器内の試料ホルダーに取り付けて、実施例1と同様な条件でArイオンボンバードメント処理を行った。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10−2Pa以下の真空にした。Nガスを反応容器内に導入して反応容器内を圧力3Paの窒素雰囲気にした。炉内ヒーターで基材温度が表7に示す基材温度になるまで加熱した後、基材に印加するバイアス電圧を−50Vとし、金属蒸発源の中心の磁束密度を表7に示す磁束密度とし、アーク電流を150Aとする被覆条件で、基材の表面に表7に示す被覆層を形成した。被覆層を形成した後、試料を冷却し、試料温度が100℃以下になった後で反応容器内から試料を取り出した。
【0046】
【表7】
【0047】
得られた試料について実施例1と同じ測定条件で、被覆層の結晶系、組成、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lx、被覆層と基材との界面に垂直な方向の平均粒径Ly、平均粒径Lxに対する平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)、被覆層の平均層厚を測定した。なお、得られた試料の被覆層はすべて立方晶であった。さらに、粗粒層の(200)面のX線回折ピークについて、MDI社製XRD解析ソフトウエアJADEver.6を用い、三次式近似でバックグラウンド処理およびKα2ピーク除去を行い、Pearson−VII関数を用いてプロファイルフィッティングを行った後、ピークトップ法よりピーク位置を求め、半価幅を導出した。それらの結果は表7に記載した。
【0048】
得られた試料は下記のカッターに取り付けて切削試験4を行った。工具寿命に至るまでの加工距離は表8に示した。
[切削試験4]
被削材:SCM440、
切削速度:200m/min、
送り:0.1mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
切削幅:50mm、
カッター有効径:φ100mm、
クーラント:不使用(ドライ加工)、
工具寿命の判定:逃げ面最大摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とした
【0049】
【表8】
【0050】
表8に示すように、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lxが大きく、被覆層の(200)面のX線回折ピークの半価幅の小さい発明品は、耐摩耗性に優れるので、比較品よりも工具寿命に至るまでの加工距離が長い。
【実施例4】
【0051】
基材として、ISO規格SEKN1203AGTNインサート形状のP20相当超硬合金を用意した。アークイオンプレーティング装置の反応容器内に、表9に示す被覆層の原料となる金属蒸発源を設置し、基材をアークイオンプレーティング装置の反応容器内の試料ホルダーに取り付けて、実施例1と同様な条件でArイオンボンバードメント処理を行った。Arイオンボンバードメント処理後、Arガスを排出して反応容器内の圧力を1×10−2Pa以下の真空にした。Nガスを反応容器内に導入して反応容器内を圧力3Paの窒素雰囲気にした。炉内ヒーターで基材温度が700℃になるまで加熱した後、基材に印加するバイアス電圧を−50Vとし、金属蒸発源の中心の磁束密度を20mTとし、アーク電流を150Aとする被覆条件で、表9に示すA層とB層とを交互に被覆して、基材の表面に交互積層構造の下層を形成した。
【0052】
引き続き、炉内ヒーターで試料温度が表9に示す最上層の試料温度になるまで加熱した後、基材に印加するバイアス電圧を−50Vとし、金属蒸発源の中心の磁束密度を表9の最上層の磁束密度とし、アーク電流を150Aとする被覆条件で、下層の表面に、表10に示す最上層を形成した。最上層を形成した後、試料を冷却し、試料温度が100℃以下になった後で反応容器内から試料を取り出した。
【0053】
【表9】
【0054】
得られた試料について、金属蒸発源に対向する面の刃先から当該面の中心部に向かって50μmの位置で、光学顕微鏡、FE−SEMおよびTEMを用いて下層のA層とB層の組成と平均層厚、下層のA層の層厚と下層のB層の層厚とを合計した積層周期、積層周期の繰り返し数、最上層の組成と平均層厚、被覆層全体の平均層厚を測定した。なお、下層のA層、下層のB層、最上層、被覆層全体の各層厚については5箇所測定し、それらを平均して、各層の平均層厚とした。また、下層のA層、下層のB層、最上層のそれぞれの組成を、FE−SEM付属のEDS、FE−SEM付属のWDS、TEM付属のEDS、TEM付属のWDSを用いて測定した。それらの結果は表9に記載した。得られた試料について実施例1と同じ測定条件でX線回折測定を行い、最上層の結晶系を測定した。なお、得られた試料の最上層はすべて立方晶であった。また、実施例1と同じ測定条件で被覆層と基材との界面に平行な方向の最上層の平均粒径Lx、被覆層と基材との界面に垂直な方向の最上層の平均粒径Ly、平均粒径Lxに対する平均粒径Lyの粒径比(Ly/Lx)を測定した。それらの結果は表10に記載した。
【0055】
【表10】
【0056】
得られた試料は下記のカッターに取り付けて切削試験5を行った。工具寿命に至るまでの加工距離は表11に示した。
[切削試験5]
被削材:SCM440、
切削速度:250m/min、
送り:0.1mm/tooth、
切り込み:2.0mm、
切削幅:50mm、
カッター有効径:φ100mm、
クーラント:不使用(ドライ加工)、
工具寿命の判定:逃げ面最大摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とした
【0057】
【表11】
【0058】
表11に示すように、被覆層と基材との界面に平行な方向の平均粒径Lxが大きい発明品は、耐摩耗性に優れるので、比較品よりも工具寿命に至るまでの加工距離が長かった。
【符号の説明】
【0059】
1 被覆層の結晶粒
2 被覆層の結晶粒が脱落したところ
3 被覆層
4 基材
5 表面側界面
6 基材側界面
図1
図2
図3
図4
図5