特許第5962862号(P5962862)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5962862-被覆切削工具 図000005
  • 特許5962862-被覆切削工具 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962862
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】被覆切削工具
(51)【国際特許分類】
   B23B 27/14 20060101AFI20160721BHJP
   B23C 5/16 20060101ALI20160721BHJP
   B23B 51/00 20060101ALI20160721BHJP
   C23C 16/30 20060101ALI20160721BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
   B23B27/14 A
   B23C5/16
   B23B51/00 J
   C23C16/30
   C23C16/40
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-532886(P2015-532886)
(86)(22)【出願日】2014年8月21日
(86)【国際出願番号】JP2014071823
(87)【国際公開番号】WO2015025903
(87)【国際公開日】20150226
【審査請求日】2015年11月24日
(31)【優先権主張番号】特願2013-170915(P2013-170915)
(32)【優先日】2013年8月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000221144
【氏名又は名称】株式会社タンガロイ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 博之
【審査官】 齊藤 彬
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/042790(WO,A1)
【文献】 特開2010−046757(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/041893(WO,A1)
【文献】 特開2008−296292(JP,A)
【文献】 特開2005−205547(JP,A)
【文献】 特開2004−255511(JP,A)
【文献】 特開平11−099405(JP,A)
【文献】 特開平09−001403(JP,A)
【文献】 特開平07−026366(JP,A)
【文献】 特開平06−226509(JP,A)
【文献】 特開平05−177411(JP,A)
【文献】 特開平03−092204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/14
B23B 51/00
B23C 5/16
B23P 15/28
C23C 16/30
C23C 16/40
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層は、少なくとも1層のTi化合物層を含み、
前記Ti化合物層は、Ti元素と、C、N、OおよびBから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物であり、
前記Ti化合物層における、前記基材の表面と略平行な研磨面を上面から見たとき、前記Ti化合物層にはクラックによって囲まれた領域を有し、
前記領域の内側には、クラックの一端または両端が前記領域を構成するクラックと接しない断続クラックを有し、
前記領域の平均数密度Aと前記断続クラックの平均数密度Bとの関係が0.7<B/A<2を満たす被覆切削工具。
【請求項2】
前記Ti化合物層は前記基材の表面に形成され、平均層厚が2〜20μmである請求項1に記載の被覆切削工具。
【請求項3】
前記被覆層は、前記Ti化合物層の表面に、平均層厚が1〜15μmの酸化アルミニウム層を有する請求項1または2に記載の被覆切削工具。
【請求項4】
前記Ti化合物層は、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む化合物である請求項1〜3のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項5】
前記酸化アルミニウム層は、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む化合物である請求項に記載の被覆切削工具。
【請求項6】
前記被覆層は、酸化アルミニウム層と、前記酸化アルミニウム層の表面にZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素とC、N、OおよびBから成る群より選ばれる少なくとも1種とからなる最外層を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項7】
前記被覆層全体の合計層厚は、平均層厚で3〜30μmである請求項1〜6のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【請求項8】
前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックスまたは立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである請求項1〜7のいずれか1項に記載の被覆切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被覆切削工具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超硬合金からなる基材の表面に、例えばTiの炭化物、窒化物、炭窒化物、炭酸化物および炭窒酸化物、並びに酸化アルミニウムの中の1種の単層または2種以上の複層からなる被覆層を、化学蒸着法により3〜20μmの総膜厚で蒸着形成してなる被覆切削工具が、鋼や鋳鉄などの切削加工に用いられていることは良く知られている。
【0003】
通常、炭化タングステン基超硬合金の表面に被膜を形成すると、被膜に引張応力が残留するために、被覆切削工具の破壊強度が低下して欠損し易くなるとされている。これまで、被膜形成後ショットピーニング等によりクラックを発生させることにより、引張残留応力を開放することが提案され、かなりの効果が得られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
さらに、基材側下方部分の被膜に高密度クラックを有し、表面側上方部分の被膜低密度クラックを有した切削工具が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−116003号公報
【特許文献2】特開平6−246512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の切削加工では、高速化、高送り化および深切込み化が顕著となり、従来よりも工具寿命が低下する傾向が見られるようになってきた。この様な背景により上記特許文献1に開示された工具であっても、単純に被膜のクラックを増加させると、耐欠損性は向上するが、クラックを起点とした被膜の耐剥離性、耐チッピング性および耐摩耗性が低下するという問題があった。また、特許文献2で開示された工具は、上方部分の耐摩耗性は改善されるものの、下方部分の耐摩耗性は不十分であるという問題があった。さらに、下方部分の高密度クラックが起点となり、被膜の剥離が生じるという問題があった。本発明は、これらの問題を解決するためになされたものであり、被覆切削工具のクラック発生形態を工夫することにより、優れた耐チッピング性、耐摩耗性および耐欠損性を有し、工具寿命の長い被覆切削工具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述の観点から、被覆切削工具の工具寿命の延長について研究を重ねたところ、以下の構成にすると、耐チッピング性および耐摩耗性を損なうことなく、耐欠損性を向上させることができ、その結果、工具寿命を延長することができるという知見を得た。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)基材と、該基材の表面に形成された被覆層とを備える被覆切削工具であって、
前記被覆層は、少なくとも1層のTi化合物層を含み、
前記Ti化合物層は、Ti元素と、C、N、OおよびBから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素とを含む化合物であり、
前記Ti化合物層における、前記基材の表面と略平行な研磨面を上面から見たとき、前記Ti化合物層にはクラックによって囲まれた領域を有し、
前記領域の内側には、クラックの一端または両端が前記領域を構成するクラックと接しない断続クラックを有し、
前記領域の平均数密度Aと前記断続クラックの平均数密度Bとの関係が0.7<B/A<2を満たす被覆切削工具。
(2)前記Ti化合物層は前記基材の表面に形成され、平均層厚が2〜20μmである(1)の被覆切削工具。
(3)前記被覆層は、前記Ti化合物層の表面に、平均層厚が1〜15μmの酸化アルミニウム層を有する(1)または(2)のいずれかの被覆切削工具。
(4)前記Ti化合物層は、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む化合物である(1)〜(3)のいずれかの被覆切削工具。
(5)前記酸化アルミニウム層は、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素をさらに含む化合物である(1)〜(4)のいずれかの被覆切削工具。
(6)前記被覆層は、酸化アルミニウム層の表面にZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、WおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素とC、N、OおよびBから成る群より選ばれる少なくとも1種とからなる最外層を含む(1)〜(5)のいずれかの被覆切削工具。
(7)前記被覆層全体の合計層厚は、平均層厚で3〜30μmである(1)〜(6)のいずれかの被覆切削工具。
(8)前記基材は、超硬合金、サーメット、セラミックスまたは立方晶窒化硼素焼結体のいずれかである(1)〜(7)のいずれかの被覆切削工具。
【0009】
<被覆切削工具>
本発明の被覆切削工具は、基材とその基材の表面に形成された被覆層とからなる。被覆切削工具の種類として具体的には、フライス加工用または旋削加工用刃先交換型切削インサート、ドリル、エンドミルなどを挙げることができる。
【0010】
<基材>
本発明の基材は、例えば、超硬合金、サーメット、セラミックス、立方晶窒化硼素焼結体、ダイヤモンド焼結体、高速度鋼などを挙げることができる。その中でも、基材が超硬合金、サーメット、セラミックスまたは立方晶窒化硼素焼結体のいずれかであると、耐摩耗性および耐欠損性に優れるのでさらに好ましい。
【0011】
なお、これらの基材は、その表面が改質されたものであっても差し支えない。例えば、超硬合金の場合はその表面に脱β層が形成されていたり、サーメットの場合には表面硬化層が形成されていてもよく、このように表面が改質されていても本発明の効果は示される。
【0012】
<被覆層>
本発明の被覆層全体の合計層厚は、平均層厚で3〜30μmであることが好ましい。3μm未満であると、耐摩耗性に劣る場合があり、30μmを超えると、基材との密着性および耐欠損性が低下する場合がある。その中でも、3〜20μmであるとさらに好ましい。
【0013】
<Ti化合物層>
本発明の被覆層は、少なくとも1層のTi化合物層を含む。Ti化合物層とは、Ti元素を必須成分として含み、さらに、C、N、OおよびBから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を含む化合物層を意味する。Ti化合物層には、任意成分としてZr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、AlおよびSiから成る群より選ばれる少なくとも1種の元素を含んでもよい。
【0014】
本発明のTi化合物層は、基材の表面に形成されると、基材と被覆層との密着性が向上するため好ましい。本発明のTi化合物層の平均層厚は、2〜20μmであると好ましい。これは、Ti化合物層の平均層厚が2μm未満になると、耐摩耗性が低下する傾向がみられ、一方、Ti化合物層の平均層厚が20μmを超えると、耐欠損性が低下する傾向がみられるためである。
【0015】
本発明のTi化合物層は、基材の表面と略平行な研磨面を上面から見たとき、Ti化合物層にはクラックによって囲まれた領域を有し、領域の内側には、クラックの一端または両端が領域を構成するクラックと接しない断続クラックを有する。ここで、「上面から見た」とは、研磨面を面の略法線方向から見たことを意味する。別の言い方をすれば、研磨したため存在しないが、被覆層の表面側から見た場合、つまり基材の反対側から見た場合を意味する。また、領域の平均数密度Aと断続クラックの平均数密度Bとの関係が0.7<B/A<2を満たすことにより、切削中に被覆層に発生した亀裂を断続クラックで止める効果が得られるので、耐チッピング性および耐欠損性が優れる。また、断続クラックを有することにより、切削時に脱落する被覆層の粒子を最小限に抑制できるため、耐摩耗性を維持することができる。領域の平均数密度Aと断続クラックの平均数密度Bとの関係B/Aが0.7以下であると、断続クラックの分布が不十分であるため、切削中に被覆層に発生した亀裂の進展を断続クラックで止める効果が得られず、耐チッピング性および耐欠損性が低下する。一方、領域の平均数密度Aと断続クラックの平均数密度Bとの関係B/Aが2以上であると、断続クラックの分布が多いため、領域を構成するクラックと断続クラックとがつながりやすくなり、耐欠損性は低下する。
【0016】
Ti化合物層の研磨面とは、被覆切削工具を基材の表面と略平行な方向にTi化合物層が露出するまで研磨して得られたTi化合物層の面である。このとき、Ti化合物層の平均層厚の50%以上の層厚の位置で研磨面を得るのが好ましい。なお、複数の組成のTi化合物層が形成されている被覆切削工具は、最も平均層厚が厚い組成の層の領域および断続クラックを測定するのが好ましい。
【0017】
本発明のTi化合物層の研磨面に観察される領域とは、被覆層を形成した後の冷却時に被覆層中に発生するクラックおよび乾式ブラストやショットピーニングなどの加工によって被覆層中に生じるクラックによって囲まれた範囲である。領域の個数は、クラックで囲まれた最小面積を1つの領域とする。領域の中にさらに小さい領域が存在する場合には、2つの領域とする。
【0018】
本発明の領域の平均数密度は、以下の方法で求めることができる。Ti化合物層の研磨面に観察される領域の個数を測定する。その領域の個数を、測定したTi化合物層の面積で割ると、領域の数密度を求めることができる。その数密度を、測定した視野の数で割ると、平均数密度を求めることができる。
【0019】
本発明の断続クラックとは、クラックの一端または両端が領域を構成するクラックと接しないクラックである。断続クラックの態様は、例えば、領域の中にいずれのクラックとも接していない態様、領域を構成するクラックから領域の内側に向かってクラックが進展しているが、領域を横断せずに途中で進展が停止している態様などを挙げることができる。
【0020】
本発明の断続クラックの平均数密度は、以下の方法で求めることができる。Ti化合物層の研磨面に観察される断続クラックの個数を測定する。その断続クラックの個数を、測定したTi化合物層の面積で割ると、断続クラックの数密度を求めることができる。測定した視野の各数密度を合計し、その数密度の合計を測定した視野の数で割ると、平均数密度を求めることができる。
【0021】
本発明の被覆層は、Ti化合物層の表面に酸化アルミニウム層(以下、Al層)を含むと、被削材との反応による摩耗の進行を抑制することができるため好ましい。Al層の結晶型は特に限定されず、α型、β型、δ型、γ型、κ型、χ型、擬τ型、η型、ρ型等が挙げられる。これらの中でも、Al層の結晶型は、高温で安定なα型、またはTi化合物層とAl層との密着性に優れるκ型であると好ましい。特に、高速切削など切削に関与する領域が高温になる場合において、Al層がα型Al層であると、欠損やチッピングを起こしにくくなる。Al層の平均層厚は、1〜15μmであることが好ましい。Al層の平均層厚が、1μm未満では、すくい面における耐クレータ摩耗性が低下する場合があり、15μmを超えると、剥離が生じやすくなり、耐欠損性が低下する場合がある。
【0022】
ここで、本発明のTi化合物層における、基材の表面と略平行な研磨面を上面から見た写真の一例を図1に示し、従来品のTi化合物層における、基材の表面と略平行な研磨面を上面から見た写真の一例を図2に示す。
【0023】
〔被覆層の形成方法〕
本発明の被覆切削工具における被覆層を構成する各層の形成方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。
【0024】
例えば、TiN層は、原料ガス組成を、TiCl:5.0〜10.0mol%、N:20〜60mol%、H:残りとし、温度:850〜920℃、圧力:100〜350hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0025】
TiCN層は、原料ガス組成を、TiCl:10〜15mol%、CHCN:1〜3mol%、N:0〜20mol%、H:残りとし、温度:850〜920℃、圧力:60〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0026】
TiC層は、原料ガス組成を、TiCl:1.0〜3.0mol%、CH:4.0〜6.0mol%、H:残りとし、温度:990〜1030℃、圧力:50〜100hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0027】
α型Al層は、原料ガス組成を、AlCl:2.1〜5.0mol%、CO:2.5〜4.0mol%、HCl:2.0〜3.0mol%、HS:0.28〜0.45mol%、H:残りとし、温度:900〜1000℃、圧力:60〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0028】
κ型Al層は、原料ガス組成を、AlCl:2.1〜5.0mol%、CO:3.0〜6.0mol%、CO:3.0〜5.5mol%、HCl:3.0〜5.0mol%、HS:0.3〜0.5mol%、H:残りとし、温度:900〜1000℃、圧力:60〜80hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0029】
TiAlCNO層は、原料ガス組成を、TiCl:3.0〜5.0mol%、AlCl:1.0〜2.0mol%、CO:0.4〜1.0mol%、N:30〜40mol%、H:残りとし、温度:975〜1025℃、圧力:90〜110hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0030】
TiAlCO層は、原料ガス組成を、TiCl:0.5〜1.5mol%、AlCl:3.0〜5.0mol%、CO:2.0〜4.0mol%、H:残りとし、温度:975〜1025℃、圧力:60〜100hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0031】
TiCNO層は、原料ガス組成を、TiCl:3.0〜5.0mol%、CO:0.4〜1.0mol%、N:30〜40mol%、H:残りとし、温度:975〜1025℃、圧力:90〜110hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0032】
TiCO層は、原料ガス組成を、TiCl:0.5〜1.5mol%、CO:2.0〜4.0mol%、H:残りとし、温度:975〜1025℃、圧力:60〜100hPaとする化学蒸着法で形成することができる。
【0033】
Ti化合物層における、領域の平均数密度Aと断続クラックの平均数密度Bとが0.7<B/A<2を満たした被覆切削工具は、例えば以下の方法によって得られる。
【0034】
被覆層を形成した後、従来よりもアスペクト比が大きい形状を有する投射材を用いて乾式ショットブラストを施すと、Ti化合物層中の断続クラックの平均数密度Bを容易に制御できる。投射材の形状が鋭利な凸部を有していると、さらに好ましい。例えば、乾式ショットブラストの条件は、被覆層の表面に対して投射角度が30〜90°になるように、投射材を80〜100m/secの投射速度、0.5〜1分の投射時間で投射するとよい。乾式ショットブラストの投射材は、平均粒径160〜200μmのAlやZrOなどの材質であると好ましい。
【0035】
各層の層厚は、被覆切削工具の断面組織から光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)、電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)などを用いて測定することができる。なお、被覆切削工具の層厚は、刃先から被覆切削工具のすくい面に向かって50μmの近傍の位置において、各層の層厚を3箇所以上測定し、その平均値を求めるとよい。各層の組成は、本発明の被覆切削工具の断面組織からエネルギー分散型X線分光器(EDS)や波長分散型X線分光器(WDS)などを用いて測定することができる。
【0036】
Ti化合物層の領域および断続クラックを測定する方法として、例えば、以下の方法を挙げることができる。被覆切削工具を基材の表面と略平行な方向にTi化合物層が露出するまで研磨し、Ti化合物層の研磨面を得る。その研磨面をフッ硝酸にてエッチングすると、クラックを容易に観察することができる。その研磨面を、光学顕微鏡を用いて300倍〜750倍で観察し、研磨面の写真を撮影する。この研磨面の写真を用いて、Ti化合物層の領域の個数および断続クラックの個数を測定する。測定した領域の個数および断続クラックの個数を、測定した面積でそれぞれ割ると、領域および断続クラックの数密度を求めることができる。測定した各視野の領域および断続クラックの数密度をそれぞれ合計し、測定した視野の数でそれぞれ割ると、平均数密度Aおよび断続クラックの平均数密度Bを求めることができる。研磨面の写真を用いて、0.2mm以上の範囲を測定するのが好ましい。なお、研磨面の写真を用いて領域の個数を測定する場合、クラックが写真の端で途切れていることにより、領域が形成されているか確認できない範囲については、0.5個の領域とした。
【発明の効果】
【0037】
本発明の被覆切削工具は、耐摩耗性を維持し、耐チッピング性および耐欠損性に優れるので、従来よりも工具寿命を延長できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明のTi化合物層における、基材の表面と略平行な研磨面を上面から見た写真の一例である。
図2】従来品のTi化合物層における、基材の表面と略平行な研磨面を上面からみた写真の一例である。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
基材として、JIS規格CNMG120412形状の86.0WC−1.0TiCN−1.3TaC−0.2NbC−0.5ZrC−11.0Co(以上質量%)組成の超硬合金製切削インサートを用意した。この基材の切れ刃稜線部に、SiCブラシにより丸ホーニングを施した後、基材の表面を洗浄した。次に、基材を外熱式化学蒸着装置に装入し、表1に示す被覆層の構成と平均層厚になるように基材表面に被覆層を形成した。試料は各10個作製した。なお、表1の酸化アルミニウム層(Al層)の結晶型におけるαはα型Al層を表し、κはκ型Al層を表す。
【0041】
得られた試料については、被覆層を形成した後、乾式ショットブラストを施した。発明品1〜10の乾式ショットブラストの条件は、被覆層の表面に対して投射角度が45°になるように、投射材を90m/secの投射速度、0.5〜1分の投射時間で投射した。乾式ショットブラストの投射材は、アスペクト比の平均が2〜4で、投射材の直径が最も小さい位置で測定した時の平均粒径が50μmのAlを用いた。
【0042】
比較品1および2については、乾式ショットブラスト、湿式ショットブラストいずれも施さなかった。
【0043】
比較品3については、平均粒径が150μmの鋼球の投射材を用いて乾式ショットブラストを施した。乾式ショットブラストの条件は、被覆層の表面に対して投射角度が45°になるように、投射材を120m/secの投射速度、1分の投射時間で投射した。
【0044】
比較品4、5、7、8の乾式ショットブラストの条件は、被覆層の表面に対して投射角度が45°になるように、投射材を90m/secの投射速度、0.5〜1分の投射時間で投射した。乾式ショットブラストの投射材は、平均粒径150μmのAlを用いた。
【0045】
比較品6については、湿式ショットブラストを施した。被覆層の表面に対して投射角度が45°になるように、投射材を120m/secの投射速度、1分の投射時間で投射した。湿式ショットブラストの投射材は、平均粒径30μmのAlを用いた。
【0046】
【表1】
【0047】
得られた試料の各層の層厚は、被覆切削工具の刃先からすくい面の中心部に向かって50μmの位置の近傍の断面をSEMで3箇所測定し、その平均値を求めた。
【0048】
Ti化合物層の領域および断続クラックを測定するため、得られた試料を基材の表面と略平行な方向にTi化合物層が露出するまで研磨した。Ti化合物層の研磨面は、平均層厚が70%の層厚の位置となるように調整し、Ti化合物の研磨面をフッ硝酸にてエッチングした。そのTi化合物層の研磨面を、光学顕微鏡を用いて300倍で観察し、0.33mmの範囲の研磨面の写真を撮影した。各試料について、3個のインサートを用意し、それぞれ研磨面の写真を用いて、Ti化合物層の領域の個数および断続クラックの個数を求め、それらの値からTi化合物層の領域の平均数密度Aおよび断続クラックの平均数密度Bを求めた。Ti化合物層の領域の平均数密度Aおよび断続クラックの平均数密度Bを、表2に示す。
【0049】
【表2】
【0050】
得られた試料を用いて、切削試験1および切削試験2を行った。工具寿命に至るまでの加工距離は表3に示した。なお、切削試験1は耐摩耗性を評価し、切削試験2は耐欠損性を評価する試験である。
【0051】
[切削試験1]
被削材:S45Cの丸棒、
切削速度:250m/min、
送り:0.30mm/rev、
切り込み:2.0mm、
クーラント:有り、
評価項目:試料が欠損または最大逃げ面摩耗幅が0.2mmに至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの加工時間を測定した。
【0052】
[切削試験2]
被削材:S45Cの長さ方向に等間隔で2本の溝入り丸棒、
切削速度:200m/min、
送り:0.40mm/rev、
切り込み:1.5mm、
クーラント:有り、
評価項目:試料が欠損に至ったときを工具寿命とし、工具寿命までの衝撃回数を測定した。衝撃回数は、試料と被削材とが接触した回数とし、接触回数が最大で20000回に到達した時点で試験を終了した。なお、各試料について、5個のインサートを用意し、それぞれ衝撃回数を測定し、それらの衝撃回数の値から平均値を求め、工具寿命とした。
【0053】
【表3】
【0054】
表3に示されるように、耐摩耗性、耐チッピング性および耐欠損性が向上したことにより、発明品は比較品よりも工具寿命に至るまでの加工時間が長く、衝撃回数が多いため、工具寿命が大幅に長いことが分かる。
図1
図2