特許第5962866号(P5962866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962866
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】ペリクル枠及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03F 1/64 20120101AFI20160721BHJP
【FI】
   G03F1/64
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2015-543640(P2015-543640)
(86)(22)【出願日】2013年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2013078672
(87)【国際公開番号】WO2015059783
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2016年2月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004743
【氏名又は名称】日本軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132230
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 一也
(74)【代理人】
【識別番号】100082739
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 勝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100198269
【弁理士】
【氏名又は名称】久本 秀治
(72)【発明者】
【氏名】山口 隆幸
(72)【発明者】
【氏名】田口 喜弘
【審査官】 赤尾 隼人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−256609(JP,A)
【文献】 特開2010−237282(JP,A)
【文献】 特開2011−007934(JP,A)
【文献】 特開2013−007762(JP,A)
【文献】 特開2011−007933(JP,A)
【文献】 特開2011−076037(JP,A)
【文献】 特開2003−107678(JP,A)
【文献】 特開2013−020235(JP,A)
【文献】 特開2007−333910(JP,A)
【文献】 特開2006−184822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/64
C25D 9/00−9/12;13/00−13/24
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠の表面積100cmあたりの純水100ml中への溶出濃度が、酢酸イオン0.2ppm以下、ギ酸イオン0.06ppm以下、シュウ酸イオン0.01ppm以下、硫酸イオン0.01ppm以下、硝酸イオン0.02ppm以下、亜硝酸イオン0.02ppm以下、塩素イオン0.02ppm以下、及びリン酸イオン0.01ppm以下であり、
前記陽極酸化皮膜は、最大長が5μm以上の金属間化合物を実質的に含まないことを特徴とするペリクル枠。
【請求項2】
アルミニウム又はアルミニウム合金が、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金であることを特徴とする請求項1に記載のペリクル枠。
【請求項3】
陽極酸化皮膜は、黒色染料による染色処理又は電解析出処理により明度指数L値が40以下に黒色化されていることを特徴とする請求項1又は2に記載のペリクル枠。
【請求項4】
アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠の製造方法であって、陽極酸化皮膜を形成するに際して、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階と、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階とを含むことを特徴とするペリクル枠の製造方法。
【請求項5】
陽極酸化皮膜は、最大長が5μm以上の金属間化合物を実質的に含まないことを特徴とする請求項4に記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項6】
アルカリ性の陽極酸化浴が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分を含んだ無機アルカリ浴であることを特徴とする請求項4又は5に記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項7】
アルカリ性の陽極酸化浴が、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、及びサリチル酸からなる群から選ばれたいずれか1種以上の有機酸の塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴であることを特徴とする請求項4又は5に記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項8】
酸性の陽極酸化浴が、マレイン酸、リン酸、シュウ酸及びクロム酸からなる群から選ばれたいずれか1種以上を含んだ酸性浴であることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項9】
アルミニウム又はアルミニウム合金が、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金であることを特徴とする請求項4〜8のいずれかに記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項10】
黒色染料による染色処理又は電解析出処理により、陽極酸化皮膜の明度指数L値が40以下となるように黒色化することを特徴とする請求項4〜9のいずれかに記載のペリクル枠の製造方法。
【請求項11】
80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠の表面積100cmあたりの純水100ml中への溶出濃度が、酢酸イオン0.2ppm以下、ギ酸イオン0.06ppm以下、シュウ酸イオン0.01ppm以下、硫酸イオン0.01ppm以下、硝酸イオン0.02ppm以下、亜硝酸イオン0.02ppm以下、塩素イオン0.02ppm以下、及びリン酸イオン0.01ppm以下であることを特徴とする請求項4〜10のいずれかに記載のペリクル枠の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体基板にICやLSIの回路パターンを転写する場合などに用いられるペリクル装置のペリクル枠、及びその製造方法に関し、詳しくは、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減したペリクル枠、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ペリクル装置は、フォトマスクやレティクルに合わせた形状を有するペリクル枠に透明な光学的薄膜体(ペリクル膜)を展張して接着したものであり、異物がフォトマスクやレティクル上に直接付着するのを防止する。また、仮にペリクル膜に異物が付着したとしても、半導体基板等にこれらの異物は結像しないため、正確な回路パターンが転写できるなど、フォトリソグラフィー工程における製造歩留まりを向上させることができる。
【0003】
近年、半導体装置等の高集積化に伴い、より狭い線幅で微細な回路パターンの描画が求められるようになり、フォトリソグラフィー工程で使用される露光光源は短波長光が主になっている。この短波長の光源は高出力であって光のエネルギーが高いことから、ペリクル枠を形成するアルミフレーム材の表面の陽極酸化皮膜に硫酸等の無機酸が残存すると、露光雰囲気中に存在するアンモニア等の塩基性物質と反応して硫酸アンモニウム等の反応生成物が生じ、この反応生成物がくもり(ヘイズ)を生じさせて転写像に影響を与える問題がある。
【0004】
そこで、クエン酸や酒石酸等の有機酸の塩を電解質として含んだアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行ってアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を形成することで、硫酸等の無機酸の量を低減して、高エネルギーの光の照射下においてもヘイズの発生を可及的に防止したペリクル枠が提案されている(特許文献1、2参照)。
【0005】
一方で、半導体装置等の製造過程ではパーティクルの管理を厳重に行なう必要があり、ペリクル装置においても、通常は、目視又は検査装置で塵が付着していないかどうかの確認が行なわれている。ところが、近年、半導体装置等における回路パターンの細線化は益々進行しており、それに伴い、ペリクル装置における検査基準もより一層厳しくなっている。そのため、蛍光灯下の目視による検査のみならず、集光灯を照射したときに光の反射を伴う白点、すなわち集光灯下でペリクル枠の表面がきらつく欠陥(以下、単に「きらつき」等と表現する場合がある。)が塵と誤認される可能性や、フォトリソグラフフィー工程の際にきらつきにより光源を乱反射し誤ったパターニングをしてしまう恐れがあるとして、それを減らすことが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−007762号公報
【特許文献2】特開2013−020235号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このような状況のもと、ヘイズの発生を防ぐために硫酸を用いずに、クエン酸や酒石酸等の有機酸の塩を電解質として含んだアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行って陽極酸化皮膜を形成した場合には、酸類のイオン溶出量は少ないが、集光灯下で表面がきらつく欠陥が低減され難いといった新たな問題が発生した。本発明者らはその原因について鋭意研究を行ったところ、陽極酸化処理を行った際に、素地となるアルミフレーム材に含まれる金属間化合物が陽極酸化皮膜中に残存することにより、この残存した金属間化合物が集光灯下できらつくことが判明した。
【0008】
そこで、ヘイズの原因となる酸類のイオン溶出量を低減しつつも、さらに、このようなきらつきを低減させるために本発明者らは更なる検討を重ねたところ、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理することに加えて、上記のような金属間化合物を溶解可能な酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことにより、形成された陽極酸化皮膜中に残存する金属間化合物を低減し、これにより金属間化合物に起因した集光灯下でのきらつきを低減できることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
したがって、本発明の目的は、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減したペリクル枠を提供することにある。
【0010】
また、本発明の別の目的は、ヘイズの発生を防ぐことができると共に、集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減することができるペリクル枠の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠の表面積100cmあたりの純水100ml中への溶出濃度が、酢酸イオン0.2ppm以下、ギ酸イオン0.06ppm以下、シュウ酸イオン0.01ppm以下、硫酸イオン0.01ppm以下、硝酸イオン0.02ppm以下、亜硝酸イオン0.02ppm以下、塩素イオン0.02ppm以下、及びリン酸イオン0.01ppm以下であり、
前記陽極酸化皮膜は、最大長が5μm以上の金属間化合物を実質的に含まないことを特徴とするペリクル枠である。
【0012】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠の製造方法であって、陽極酸化皮膜を形成するに際して、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階と、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階とを含むことを特徴とするペリクル枠の製造方法である。
【0013】
本発明において、ペリクル枠を形成するためのアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材は、好ましくは、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金を用いるようにする。Al−Zn−Mg系アルミニウム合金は、アルミニウム合金のなかでも最も強度を有するものであり、高い寸法精度が実現されるほか、使用時の外力による変形や傷付きを防ぐことができるなど、ペリクル枠を得るのに適している。このアルミニウム合金について、残部のAl以外の化学成分としては、Zn5.1〜6.1質量%、Mg2.1〜2.9質量%、及びCu1.2〜2.0質量%であるのが好ましく、更にはCr、Ti、Bのほか、不純物としてFe、Si、Mn、V、Zr、その他の元素を含んでもよい。このような好適なアルミニウム合金の代表例としては、JIS規定のA7075が挙げられる。
【0014】
一般に、ペリクル枠を製造する際には、所定の化学組成を有する鋳塊を押出や圧延加工等した後、溶体化処理を施した後、人工時効硬化処理によって合金元素を含む化合物を時効析出させて、強度を付与し枠状のアルミフレームに加工する。本発明においても、好ましくはAl−Zn−Mg系アルミニウム合金を溶体化し、更に時効処理したアルミニウム合金を用いることで、更に強度が付与されたものとすることができる。このような時効析出には、例えば、T4、T6、T7、T651等の処理が挙げられ、好適にはT6調質材を用いるのがよい。なお、時効処理したアルミニウム合金を得るための処理は、JIS H0001記載の調質条件に従うようにすればよい。更には、このように時効析出した後には、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。
【0015】
上記の通りのアルミフレーム材を準備した後には、陽極酸化処理を施してその表面に陽極酸化皮膜を形成する。上述したように、本発明においては、ヘイズの原因物質である硫酸を用いずにアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行った際に、アルミフレーム材に含まれる金属間化合物が陽極酸化皮膜中に残存し、これがきらつきの原因となることを突き止めている。そのため、このような金属間化合物を溶解可能な酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことで、きらつきの原因となる金属間化合物を低減した陽極酸化皮膜を形成するようにする。
【0016】
ここで、きらつきの原因となる金属間化合物とは、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金のアルミフレーム材に含まれるAl−Cu−Mg系晶出物、Al−Fe−Cu系晶出物、MgSi晶出物等が挙げられる。後述する実施例に示した通り、このような金属間化合物のうち、最大長が5μm以上のものが、集光灯下の目視観察できらつくことを確認している。そのため、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化膜を形成する際に、これらの金属間化合物の最大長が5μm未満になるように陽極酸化処理を行うようにするのが好ましい。なお、金属間化合物は走査型電子顕微鏡(SEM)等により確認することが可能であり、陽極酸化皮膜の表面を観察して、その最大長を求めることができる。また、きらつき原因の特定方法としては、きらつき箇所をマイクロスコープで観察しながらきらつき部の周辺にマーキングを行い、その後、きらつき部をSEMで観察しエネルギー分散型X線分析装置(EDAX、堀場製作所製)でその個所の成分分析を行い、Al−Fe−Cu、Al−Cu−Mg、MgSi等の金属間化合物が存在していることを確認することができる。
【0017】
このような金属間化合物を溶解可能な酸性の陽極酸化浴としては、例えば、マレイン酸やシュウ酸等、カルボキシル基を有しS(硫黄成分)を含まない有機酸を含んだ酸性浴や、リン酸、クロム酸および前記混合物等の無機酸を含んだ酸性浴を好適に使用することができる。これらの酸性の陽極酸化浴を用いた陽極酸化処理により、上記のような金属間化合物を溶解し、陽極酸化皮膜中から低減させることができる。因みに、MgSi晶出物については、Mgは溶解するが酸性の陽極酸化浴でもSi成分(SiOとして残存)が溶解せずに陽極酸化皮膜中に残存する場合があるが、この残存するSi成分はサイズが非常に小さく最大でも5μm以下であることから、きらつきの原因となることは無い。
【0018】
本発明において、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する場合の条件としては、それぞれ使用する酸の種類によって異なるため一概には特定することは難しいが、例えば、有機酸としてマレイン酸を使用する場合には、以下の通りである。すなわち、マレイン酸の濃度は5〜70wt%であるのがよく、好ましくは10〜20wt%であるのがよい。濃度が5wt%より低いと着色可能な電圧で電流が流れ難く予定の膜厚が得るのに時間がかかりすぎて、生成した皮膜が溶解していくためであり、反対に70wt%より高いと析出してしまうためである。また、pHは1.5以下がよく、好ましくは1以下であるのがよい。pHが1.5よりも高いと、濃度が薄く、電解に時間がかかり皮膜が生成し難いからである。また、浴温度については25〜90℃にするのがよく、好ましくは50〜60℃にする。浴温度が25℃より低くなると、着色可能な電圧で電流が流れ難く皮膜が生成しにくいためであり、反対に90℃よりも高くなると、陽極酸化浴の蒸発量が増加しミストの飛散が激しく作業環境が悪くなったり、浴の濃度コントロールがしにくくなるためである。また、電圧は、50〜150Vにするのがよく、100V以下が好ましい。電圧が50Vより低いと電流が流れ難く皮膜が生成し難いためである。また、この場合に必要な電解時間は、5〜30分であるのが良く、好ましくは10〜20分であるのが良い。
【0019】
また、酸性の陽極酸化浴として、リン酸を用いる場合は、以下の通りである。すなわち、リン酸の濃度は1〜30wt%であるのがよく、好ましくは5〜25wt%であるのがよい。濃度が1wt%より低いと着色可能な電圧で電流が流れ難く皮膜生成が困難であり、反対に30wt%より高くても30wt%と性能があまり変化がなく薬品コストが高くなってしまうためである。また、pHは1.5以下がよく、好ましくは1以下であるのがよい。pHが1.5よりも高いと、濃度が薄い為、着色可能な電圧で皮膜生成がし難いためである。また、浴温度については5〜30℃にするのがよく、好ましくは10〜25℃にする。浴温度が5℃より低くなると、着色可能な電圧で電流が流れ無い為、皮膜が生成し難いためであり、反対に30℃よりも高くなると皮膜の溶解が進行してしまうためである。また、電圧は5〜30Vにするのがよく、10〜25Vが好ましい。また、この場合に必要な電解時間は3〜30分がよく、好ましくは5〜20分であるのが良い。
【0020】
一方、アルカリ性の陽極酸化浴としては、i)例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分を含んだ無機アルカリ浴を用いた陽極酸化処理を行うか、或いは、ii)例えば、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、及びサリチル酸等のカルボキシル基を含む有機酸の塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を用いるようにするのが好適である。従前のペリクル枠では、求められるパターン回路がそれほど微細ではなく、i線やg線などの長波長の照射光が用いられる場合にはそれほど、照射光が強いエネルギーでなかったため硫酸を電解液に用いたペリクルフレームでも使用できたが、近年は、エネルギーの高いより短波長の露光光源が使用されると、黒色を出すために使用されている有機染料の分解による脱色のほか、陽極酸化皮膜中に取り込まれたこれらの無機酸が原因でヘイズを発生してしまうなどのおそれがある。そのため、本発明においては、上記i)、ii)のようなアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化皮膜を形成する。
【0021】
ここで、先ず、アルカリ性の浴として、i)の無機アルカリ成分を含んだ無機アルカリ浴を使用する場合については、汎用性の観点から、好ましくは、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムを用いるのがよい。これらの場合、無機アルカリの濃度は、0.2〜10wt%であるのがよく、好ましくは0.4〜5wt%であるのがよい。無機アルカリの濃度が0.2wt%より低いと着色可能な電圧帯で電流が流れ難いため皮膜生成に時間がかかる。反対に10wt%より高い場合は生成した陽極酸化皮膜の皮膜溶解が進行してしまう。また、この場合の陽極酸化浴のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。pHが12より低いと皮膜の生成速度が遅くなる場合がある。
【0022】
また、ii)の有機酸の塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、例えばクエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸リチウム、クエン酸アンモニウム等のクエン酸塩を好適に用いることができ、クエン酸塩の濃度は2〜30wt%であるのがよく、好ましくは5〜20wt%であるのがよい。クエン酸塩の濃度が2wt%より低いと陽極酸化皮膜は形成され難く、反対に30wt%より高い場合は低温での陽極酸化の際にクエン酸塩が析出するおそれがある。また、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。pHが12より低いと皮膜の生成速度が遅くなる場合がある。
【0023】
また、酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸アンモニウム等の酒石酸塩を好適に用いることができ、酒石酸塩の濃度は1.3〜20wt%であるのがよく、好ましくは2.5〜15wt%であるのがよい。酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。また、シュウ酸塩としては、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム等のシュウ酸塩を好適に用いることができ、シュウ酸塩の濃度は0.3〜35wt%であるのがよく、好ましくは1〜30wt%であるのがよい。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.5であるのがよい。更に、サリチル酸塩としては、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸リチウム、サリチル酸アンモニウム等のサリチル酸塩を好適に用いることができ、サリチル酸塩の濃度は0.1〜50wt%であるのがよく、好ましくは3〜40wt%であるのがよい。サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.5であるのがよい。
【0024】
陽極酸化する際の条件として、i)無機アルカリ浴を用いて陽極酸化処理する際の処理条件について、電圧は2〜60Vであるのがよく、好ましくは5〜50Vであるのがよい。電圧が2Vより低いと電流が流れ難くなるため、目的の膜厚を得るための電解時間が長くなり、皮膜が溶解してしまうためであり、反対に60Vより高いと面積当たりのポアの数が減少するため着色されにくいためである。また、ii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。また、酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。更に、サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。
【0025】
また、陽極酸化処理中の電気量について、i)無機アルカリ浴を使用する場合には3〜50C/cm、好ましくは5〜30C/cmの範囲であるのがよい。また、ii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合の電気量は3〜50C/cm、好ましくは5〜30C/cmの範囲であるのがよい。また、酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は3〜50C/cm、好ましくは5〜30C/cmの範囲であるのがよい。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は3〜50C/cm、好ましくは5〜30C/cmの範囲であるのがよい。サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は5〜70C/cm、好ましくは7〜50C/cmの範囲であるのがよい。
【0026】
また、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行う場合に、その浴温度については、i)無機アルカリ浴、又はii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を用いる場合ともに、浴温度を0〜20℃にするのがよく、好ましくは0〜15℃、より好ましくは5〜10℃にするのがよい。浴温度が0℃より低くなると皮膜の生成速度が遅くなり効率的ではなく、反対に20℃より高くなると皮膜の溶解速度が速くなり成膜に時間を要し、また、粉吹き等が生じるおそれがある。
【0027】
本発明で形成される陽極酸化皮膜の膜厚としては、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理したのちリン酸で陽極酸化処理した場合には、合計で2〜10μmがよく、好ましくは3〜8μmがよい。このうち、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、1.5〜9.5μmがよく、好ましくは、2〜5μmがよい。また、リン酸で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、0.5〜3μmが良く、好ましくは1〜2μmが良い。
反対に、マレイン酸で陽極酸化処理した後アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理して得られた皮膜の膜厚は、合計で1〜10μmが良く、好ましくは、2〜8μmがよい。そのうち、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、1.5〜9.5μmがよく、好ましくは、2〜5μmがよい。また、マレイン酸で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、0.5〜2μmが良く、好ましくは1〜1.5μmが良い。
【0028】
本発明においては、陽極酸化皮膜を形成するに際し、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階と、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階とを備えるようにすれば、その順序については制限されない。すなわち、先ず、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行い、その後に酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことで、陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物を溶解して低減するようにしてもよく、上記のような手順とは反対に、最初に酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行い、その後、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うようにしてもよい。また、酸性の陽極酸化浴の種類によっては、陽極酸化処理によって形成されるバリヤー層が、その後の皮膜の黒色化に際して(特に、電解析出処理の場合)、影響を及ぼす場合がある。そのため、更にその後にも、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うようにしてもよい。
【0029】
上述の通り、酸性及びアルカリ性の各陽極酸化浴を用いて陽極酸化皮膜を形成した後には、露光光の散乱防止や使用前の異物付着検査を容易にする等の目的から、陽極酸化皮膜を黒色化するのがよい。この黒色化処理は公知の方法を採用することができ、黒色染料による染色処理や電解析出処理等が挙げられる。
【0030】
例えば、黒色染料による染色処理においては、有機系の黒色染料を用いるのがよい。一般に有機系染料は酸成分として硫酸、酢酸、及びギ酸の含有量が少ない有機系染料を用いるのが最も好適である。このような有機系染料として、市販品の「TAC411」、「TAC413」、「TAC415」、「TAC420」(以上、奥野製薬製)等を挙げることができ、所定の濃度に調製した染料液に陽極酸化処理後のアルミフレーム材を浸漬させて、処理温度40〜60℃、pH5〜6の処理条件で10分間程度の染色処理を行うようにするのがよい。
【0031】
また、電解析出処理は、Ni、Co、Cu、Sn、Mn及びFeからなる群から選ばれた1種又は2種以上を析出させて、支持枠を黒色に着色する(以下、「電解着色」という場合もある。)。これらの金属は、金属塩や酸化物のほか、コロイド粒子として存在するものなどを使用することができるが、好ましくは、Ni塩、Co塩、Cu塩、Sn塩、Mn塩及びFe塩からなる群から選ばれた1種又は2種以上が添加された電解析出浴を用いるのが良い。より好適には、硫酸ニッケルとホウ酸を含んだ電解析出浴や、酢酸ニッケルとホウ酸を含んだ電解析出浴等が挙げられる。また、この電解析出浴には、溶出したアルミの析出防止やpHを調整する等の目的から酒石酸、酸化マグネシウム、酢酸等を含めることができる。また、電解析出処理は、浴温度15〜40℃、電圧10〜30V、時間1〜20分程度の条件によれば、陽極酸化皮膜を黒色に着色することができる。また、この電解析出処理では直流電源又は交流電源によって電圧を印加することができ、開始時に予備電解を実施するようにしてもよい。
【0032】
そして、上述の通り黒色染料による染色処理や電解析出処理等を行うことにより、ハンターの色差式やJIS Z8722-2009による明度指数L値が40以下、好適にはL値が35以下の十分に黒色化された陽極酸化皮膜を得ることができる。
【0033】
なお、本発明においては、陽極酸化処理に先駆けて、アルミ材の表面をブラスト加工等による機械的手段や、エッチング液を用いる化学的手段によって粗面化処理を行ってもよい。このような粗面化処理を事前に施して陽極酸化処理を行うことで、支持枠は艶消しされたような低反射性の黒色にすることができる。
【0034】
陽極酸化皮膜を黒色化した後には、封孔処理を行うようにしてもよい。封孔処理の条件については特に制限されず、水蒸気や封孔浴を用いるような公知の方法を採用することができるが、不純物の混入のおそれを排除しながら、酸成分の封じ込めを行う観点から、水蒸気による封孔処理が望ましい。水蒸気による封孔処理の条件については、例えば、温度105〜130℃、相対湿度90〜100%(R.H.)、圧力0.4〜2.0kg/cmGの設定で12〜60分処理するのがよい。なお、封孔処理後は、例えば純水を用いて洗浄するのが望ましい。
【0035】
また、本発明によって得られたペリクル枠は、80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠表面積100cmあたりの純水100ml中への溶出濃度は、酢酸イオン(CH3COO-)が0.2ppm以下、好ましくは0.1ppm以下、より好ましくは0.08ppm未満、更に好ましくは0.05ppm以下であり、ギ酸イオン(HCOO-)が0.06ppm以下、好ましくは0.05ppm以下、より好ましくは0.03ppm未満であり、シュウ酸イオン(CO2-)が0.01ppm以下、好ましくは0.005ppm未満であり、硫酸イオン(SO2-)が0.01ppm以下、好ましくは0.005ppm未満であり、硝酸イオン(NO-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、亜硝酸イオン(NO-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、塩素イオン(Cl-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、リン酸イオン(PO43-)が0.01ppm以下、好ましくは0.01未満である。なお、溶出イオンの検出はイオンクロマトグラフ分析により行うことができ、詳細な測定条件については実施例に記載するとおりである。
【0036】
これらはヘイズの発生に影響を与えるイオンであり、なかでも、酢酸イオン、ギ酸イオン、硫酸イオン、シュウ酸イオン、及び亜硝酸イオンの溶出量を制御することで、ヘイズの発生を可及的に低減したペリクル枠とすることができる。
【0037】
本発明によって得られたペリクル枠は、その片側に光学的薄膜体を貼着することでペリクルとして使用することができる。光学的薄膜体としては特に制限はなく公知のものを使用することができるが、例えば石英等の無機物質や、ニトロセルロース、ポリエチレンテレフタレート、セルロースエステル類、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のポリマーなどを例示することができる。また、光学的薄膜体には、CaF2等の無機物やポリスチレン、テフロン(登録商標)等のポリマーからなる反射防止層などを備えるようにしてもよい。
【0038】
一方、光学的薄膜体を設けた面とは反対側の支持枠端面には、ペリクルをフォトマスクやレティクルに装着するための粘着体を備えるようにする。粘着体としては粘着材単独あるいは弾性のある基材の両側に粘着材が塗布された素材を使用することができる。ここで、粘着材としてはアクリル系、ゴム系、ビニル系、エポキシ系、シリコーン系等の接着剤が挙げることができ、また、基材となる弾性の大きい材料としてはゴムまたはフォームが挙げられ、例えばブチルゴム、発砲ポリウレタン、発砲ポリエチレン等を例示できるが、特にこれらに限定されない。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、アルカリ性と酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことにより、アルミフレーム材に含まれる金属間化合物を低減し、これにより集光灯下で表面がきらつく欠陥を低減したペリクル枠を得ることができる。これにより、集光灯下で表面がきらつく欠陥を塵と誤認することを防止することができる。また、得られたペリクル枠は酸成分の含有量が少なくヘイズの発生を可及的に抑えることができる。また、本発明によって得られたペリクル枠は高い寸法精度を有し、傷が付きにくく耐久性に優れ、かつ、発塵のおそれも少ない。そのため、ペリクルとして使用した場合、KrFエキシマレーザー、ArFエキシマレーザー、Fエキシマレーザー等のような高エネルギーの露光によるフォトリソグラフィーに好適であり、長期に亘って信頼性良く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1図1は、試験例2−30に係るペリクル枠表面に存在する金属間化合物(白点線内)を電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。
図2図2は、試験例2−3に係るペリクル枠表面に形成された陽極酸化皮膜の断面を電子顕微鏡(SEM)で撮影した写真である。 〔(i):クエン酸ナトリウムと水酸化ナトリウムとのアルカリ混合浴を陽極酸化浴として用いて形成された陽極酸化皮膜。 (ii):リン酸を陽極酸化浴として用いて形成された陽極酸化皮膜。〕
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づき、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【実施例】
【0042】
[陽極酸化処理によるきらつき低減確認試験]
[試験例1−1〜1−8]
陽極酸化処理によるきらつき低減の効果を確認するために、以下の試験を行った。JIS H0001に示された調質記号T6で処理したJIS A7075アルミニウム合金(JIS A7075−T6)の中空押出し材を切断して、支持枠外寸法160mm×130mm×高さ5mm、支持枠厚さ3mmとなるように切削研磨し、枠材形状に加工してアルミフレームを用意した。後の黒色化において電解析出処理の場合、及び着色処理を行わない場合(以下、これを単に「自然発色」と表現する場合がある。)については、アルミフレーム材を大気中で熱処理温度250℃、熱処理時間60分の焼鈍を行った。そして、これらのアルミフレーム材の表面を平均直径約100μmのステンレスを用いてショットブラスト処理した。
次いで、これを水酸化ナトリウム(NaOH)10wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=14)を陽極酸化浴として、浴温度10℃において、電解電圧を20Vとし、30分の陽極酸化処理を行った(第一段の陽極酸化処理)。
次いで、これをリン酸(H3PO4)が溶解した酸性の水溶液(pH=1)を電解液として、表1の試験例1−1〜1−8の各条件で陽極酸化処理を行った(第二段の陽極酸化処理)。その後、陽極酸化処理したアルミフレーム材のうち、焼鈍処理を行っていないものについては有機染料(奥野製薬製のTAC411)を濃度1wt%で含有した水溶液に入れて、温度55℃にて10分間浸漬して染色処理した。また、先に焼鈍処理を行ったアルミフレーム材については、電解析出処理として、酢酸ニッケル(Ni)水溶液を10wt%、ホウ酸を4wt%、酒石酸を0.3wt%を溶解した電解析出浴(pH=5)を用いて、浴温度30℃、交流電圧15Vの電解を10分行って電解析出処理により黒色化した。
その後、各アルミフレーム材を蒸気封孔装置に入れ、相対湿度100%(R.H.)、2.0kg/cmG、及び温度130℃の水蒸気を発生させながら30分の封孔処理を行って、試験例1−1〜1−8に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠について、以下のようにして、きらつき、黒色性を評価すると共に、各種イオンの溶出試験を行った。結果を表1に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
[きらつきの説明]
きらつきの確認は以下のようにして行った。すなわち、得られたペリクル枠の全面(内面、外面、端部の全て)について、ペリクル枠の角度を変えたりしながら、照度30万1x(ルックス)の集光灯下での目視によって、それぞれ光の反射を伴う白点の発生があるかどうかの確認を行い、以下の判定とした。
○:微細に微小に煌く点が一枚のペリクルフレーム全面に一つも存在しない。
△:微細に微小に煌く点が一枚のペリクルフレーム全面に5つ以下存在した場合。
×:微細に微小に煌く点が一枚のペリクルフレーム全面に5つ以上存在した場合。
【0045】
[黒色性の説明]
○: L値が40以下で十分な黒色化が出来ている。
×: L値が40超過で黒色化が不十分である。
[イオン溶出試験の説明]
得られたペリクル枠について、これらのペリクル枠をそれぞれポリエチレン袋に入れて純水100mlを加えて密封し、80℃に保って4時間浸漬させた。このようにしてペリクル枠からの溶出成分を抽出した抽出水を、セル温度35℃、カラム(IonPacAS11-HC)温度40℃とし、1.5ml/minの条件でイオンクロマトグラフ分析装置(日本ダイオネクス社製ICS-2000)を用いて分析した。この抽出水から酢酸イオン、ギ酸イオン、塩素イオン、亜硝酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、シュウ酸イオン及びリン酸イオンを検出し、支持枠表面積100cmあたりの純水100ml中への溶出濃度を求めた。
○: 酢酸イオンが0.2ppm以下、ギ酸イオンが0.06ppm以下、塩素イオンが0.02ppm以下、亜硝酸イオンが0.02ppm以下、硝酸イオンが0.02ppm以下、硫酸イオンが0.01ppm以下、シュウ酸イオンが0.01ppm以下、及びリン酸イオンが0.01ppm以下
×: 上記溶出量が○の規制値を超えた場合。
【0046】
[試験例1−9〜1−16]
第二段の陽極酸化浴としてマレイン酸が溶解した酸性の水溶液(pH=1)を用いるとともに、このマレイン酸による陽極酸化処理の後に、更に、NaOHが溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)を陽極酸化浴として陽極酸化処理を行った(第三段の陽極酸化処理)以外は、試験例1−1〜1−8と同様にして、試験例1−9〜1−16に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表1に示す。
【0047】
[試験例1−17〜1−22]
第一段の陽極酸化浴をマレイン酸が溶解した酸性の水溶液(pH=1)とし、第二段の陽極酸化浴をNaOHが溶解したアルカリ性の水溶液(pH=13)とし着色方法を電解析出処理とした以外は、試験例1−1〜1−8と同様にして、試験例1−17〜1−22に係るペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表1に示す。
【0048】
[試験例1−23〜1−27]
第一段の陽極酸化浴をリン酸が溶解した酸性の水溶液(pH=1)とした以外は、試験例1−17〜1−22と同様にして、試験例1−23〜1−27に係るペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表1に示す。
【0049】
[試験例1−28、1−29]
着色方法を自然発色とした以外は、試験例1−18と同様にして試験例1−28に係るペリクル枠を得、また、試験例1−25と同様にして試験例1−29に係るペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表1に示す。
【0050】
[試験例1−30、1−31]
陽極酸化処理をNaOHが溶解したアルカリ性の水溶液(pH=13)のみで行い、酸性の陽極酸化浴を用いた陽極酸化処理は行わなかった。また、陽極酸化処理後のアルミフレーム材に対して、試験例1−1等で行った有機染料による染色処理を行ったものと、試験例1−5等で行った電解析出処理を行った。なお、それ以外は試験例1−1と同様にして、試験例1−30及び1−31に係るペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表1に示す。
【0051】
[試験例2−1〜2−8]
第一段の陽極酸化浴をクエン酸ナトリウム2水和物〔(Na3(C6H5O7)・2H2O)〕10wt%、及び水酸化ナトリウム0.5wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)とした以外は、試験例1−1〜1−8と同様にして、試験例2−1〜2−8に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0052】
[試験例2−9〜2−16]
第一段及び第三段の陽極酸化浴を、クエン酸ナトリウム2水和物〔(Na3(C6H5O7)・2H2O)〕10wt%、及び水酸化ナトリウム0.5wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)とした以外は、試験例1−9〜1−16と同様にして、試験例2−9〜2−16に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0053】
[試験例2−17〜2−29]
第二段の陽極酸化浴をクエン酸ナトリウム2水和物〔(Na3(C6H5O7)・2H2O)〕10wt%、及び水酸化ナトリウム0.5wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)とした以外は、試験例1−17〜1−29と同様にして、試験例2−17〜2−29に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0054】
[試験例2−30、2−31]
第一段の陽極酸化浴を、クエン酸ナトリウム2水和物〔(Na3(C6H5O7)・2H2O)〕10wt%、及び水酸化ナトリウム0.5wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)とした以外は、試験例1−30、1−31と同様にして、試験例2−30、2−31に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0055】
[試験例2−32、2−33]
第一段の陽極酸化浴を、酒石酸ナトリウム2水和物(Na2C4H4O6・2H2O)10wt%、及び水酸化ナトリウム0.5wt%が溶解したアルカリ性水溶液(pH=13)とした以外は、試験例1−30、1−31と同様にして、試験例2−32、2−33に係る各ペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0056】
[試験例2−34〜2−37]
陽極酸化処理を、リン酸が溶解した酸性の水溶液(pH=1)、又はシュウ酸が溶解した酸性の水溶液(pH=1)で行い、それ以外の陽極酸化処理は行わなかった。また、陽極酸化処理後のアルミフレーム材に対して、有機染料による染色処理を行ったものと、電解析出処理を行ったものとを得た。なお、それ以外は試験例1−1と同様にして、試験例2−34〜2−37に係るペリクル枠を得た。得られたペリクル枠のきらつき、黒色性、各種イオンの溶出試験の結果を表2に示す。
【0057】
上記結果から分かるように、酸性及びアルカリ性の各陽極酸化浴を用いて陽極酸化皮膜を形成した場合には、いずれもきらつく欠陥は観察されず、黒色性に優れたペリクル枠が得られることが確認された。また、当該試験で使用したイオンクロマトグラフ分析装置の定量限界(下限)は0.005ppmであり、上記のイオンはいずれも検出されなかった。
【0058】
【表2】
【0059】
[ペリクル枠の表面観察]
上記の試験例2−30で得られたペリクル枠に関して、きらつきが観察された部分の表面状態を電子顕微鏡(SEM)で観察し、撮影した。具体的なきらつき原因の特定方法については、きらつき箇所をキーエンス製マイクロスコープで観察しながらきらつき部の周辺にマーキングを行い、その後、きらつき部をSEMで観察し、EDAX(堀場製作所製)で当該きらつき部分の成分分析を行ったところ、Al−Fe−Cu系の金属間化合物であることが確認された。結果を図1に示す。また、図1中(白点線内)で観察された金属間化合物の最大長を測定したところ、最大長は約22μmであった。
【0060】
[陽極酸化皮膜の断面観察]
上記の試験例2−3で得られたペリクル枠に関して、形成された陽極酸化皮膜の断面形状の観察を行った。まず、前処理として、当該得られたペリクル枠を小片に切断した後、エポキシ系の埋め込み樹脂に入れ、樹脂が硬化した後、試料の断面方向から研磨した。その後、SEM(日立ハイテク製FE−SEM S−4500型)で陽極酸化皮膜の断面を観察した。
結果を図2に示す。
図2中、点線で囲まれた部分がリン酸で陽極酸化処理して得られた陽極酸化皮膜を示し、その上にクエン酸Naと水酸化ナトリウムとを陽極酸化浴として用いて形成された陽極酸化皮膜が積層されている。
一方、試験例2−18、2−25、1−8についても、上記の方法と同様に陽極酸化皮膜の断面の観察を行い、得られたSEM画像から、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて得た陽極酸化皮膜と、酸性の陽極酸化浴を用いて得た陽極酸化皮膜とについて、それぞれの膜厚を測定した。
結果を表3に示す。
【0061】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明によって得られたペリクル用支持枠及びペリクルは、種々の半導体装置や液晶表示装置等の製造におけるフォトリソグラフィー工程等で使用することができ、また、塵と誤認されるようなペリクル枠の表面がきらつく欠陥が低減されたことから、今後益々細線化が進む半導体装置等の製造分野において、好適に利用することができる。
図1
図2