【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠であって、
80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠の表面積100cm2あたりの純水100ml中への溶出濃度が、酢酸イオン0.2ppm以下、ギ酸イオン0.06ppm以下、シュウ酸イオン0.01ppm以下、硫酸イオン0.01ppm以下、硝酸イオン0.02ppm以下、亜硝酸イオン0.02ppm以下、塩素イオン0.02ppm以下、及びリン酸イオン0.01ppm以下であり、
前記陽極酸化皮膜は、
最大長が5μm以上の金属間化合物を実質的に含まないことを特徴とするペリクル枠である。
【0012】
また、本発明は、アルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材の表面に陽極酸化皮膜を備えたペリクル枠の製造方法であって、陽極酸化皮膜を形成するに際して、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階と、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階とを含むことを特徴とするペリクル枠の製造方法である。
【0013】
本発明において、ペリクル枠を形成するためのアルミニウム又はアルミニウム合金からなるアルミフレーム材は、好ましくは、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金を用いるようにする。Al−Zn−Mg系アルミニウム合金は、アルミニウム合金のなかでも最も強度を有するものであり、高い寸法精度が実現されるほか、使用時の外力による変形や傷付きを防ぐことができるなど、ペリクル枠を得るのに適している。このアルミニウム合金について、残部のAl以外の化学成分としては、Zn5.1〜6.1質量%、Mg2.1〜2.9質量%、及びCu1.2〜2.0質量%であるのが好ましく、更にはCr、Ti、Bのほか、不純物としてFe、Si、Mn、V、Zr、その他の元素を含んでもよい。このような好適なアルミニウム合金の代表例としては、JIS規定のA7075が挙げられる。
【0014】
一般に、ペリクル枠を製造する際には、所定の化学組成を有する鋳塊を押出や圧延加工等した後、溶体化処理を施した後、人工時効硬化処理によって合金元素を含む化合物を時効析出させて、強度を付与し枠状のアルミフレームに加工する。本発明においても、好ましくはAl−Zn−Mg系アルミニウム合金を溶体化し、更に時効処理したアルミニウム合金を用いることで、更に強度が付与されたものとすることができる。このような時効析出には、例えば、T4、T6、T7、T651等の処理が挙げられ、好適にはT6調質材を用いるのがよい。なお、時効処理したアルミニウム合金を得るための処理は、JIS H0001記載の調質条件に従うようにすればよい。更には、このように時効析出した後には、必要に応じて焼鈍処理を行ってもよい。
【0015】
上記の通りのアルミフレーム材を準備した後には、陽極酸化処理を施してその表面に陽極酸化皮膜を形成する。上述したように、本発明においては、ヘイズの原因物質である硫酸を用いずにアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行った際に、アルミフレーム材に含まれる金属間化合物が陽極酸化皮膜中に残存し、これがきらつきの原因となることを突き止めている。そのため、このような金属間化合物を溶解可能な酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことで、きらつきの原因となる金属間化合物を低減した陽極酸化皮膜を形成するようにする。
【0016】
ここで、きらつきの原因となる金属間化合物とは、Al−Zn−Mg系アルミニウム合金のアルミフレーム材に含まれるAl−Cu−Mg系晶出物、Al−Fe−Cu系晶出物、Mg
2Si晶出物等が挙げられる。後述する実施例に示した通り、このような金属間化合物のうち、最大長が5μm以上のものが、集光灯下の目視観察できらつくことを確認している。そのため、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化膜を形成する際に、これらの金属間化合物の最大長が5μm未満になるように陽極酸化処理を行うようにするのが好ましい。なお、金属間化合物は走査型電子顕微鏡(SEM)等により確認することが可能であり、陽極酸化皮膜の表面を観察して、その最大長を求めることができる。また、きらつき原因の特定方法としては、きらつき箇所をマイクロスコープで観察しながらきらつき部の周辺にマーキングを行い、その後、きらつき部をSEMで観察しエネルギー分散型X線分析装置(EDAX、堀場製作所製)でその個所の成分分析を行い、Al−Fe−Cu、Al−Cu−Mg、Mg
2Si等の金属間化合物が存在していることを確認することができる。
【0017】
このような金属間化合物を溶解可能な酸性の陽極酸化浴としては、例えば、マレイン酸やシュウ酸等、カルボキシル基を有しS(硫黄成分)を含まない有機酸を含んだ酸性浴や、リン酸、クロム酸および前記混合物等の無機酸を含んだ酸性浴を好適に使用することができる。これらの酸性の陽極酸化浴を用いた陽極酸化処理により、上記のような金属間化合物を溶解し、陽極酸化皮膜中から低減させることができる。因みに、Mg
2Si晶出物については、Mgは溶解するが酸性の陽極酸化浴でもSi成分(SiO
2として残存)が溶解せずに陽極酸化皮膜中に残存する場合があるが、この残存するSi成分はサイズが非常に小さく最大でも5μm以下であることから、きらつきの原因となることは無い。
【0018】
本発明において、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する場合の条件としては、それぞれ使用する酸の種類によって異なるため一概には特定することは難しいが、例えば、有機酸としてマレイン酸を使用する場合には、以下の通りである。すなわち、マレイン酸の濃度は5〜70wt%であるのがよく、好ましくは10〜20wt%であるのがよい。濃度が5wt%より低いと着色可能な電圧で電流が流れ難く予定の膜厚が得るのに時間がかかりすぎて、生成した皮膜が溶解していくためであり、反対に70wt%より高いと析出してしまうためである。また、pHは1.5以下がよく、好ましくは1以下であるのがよい。pHが1.5よりも高いと、濃度が薄く、電解に時間がかかり皮膜が生成し難いからである。また、浴温度については25〜90℃にするのがよく、好ましくは50〜60℃にする。浴温度が25℃より低くなると、着色可能な電圧で電流が流れ難く皮膜が生成しにくいためであり、反対に90℃よりも高くなると、陽極酸化浴の蒸発量が増加しミストの飛散が激しく作業環境が悪くなったり、浴の濃度コントロールがしにくくなるためである。また、電圧は、50〜150Vにするのがよく、100V以下が好ましい。電圧が50Vより低いと電流が流れ難く皮膜が生成し難いためである。また、この場合に必要な電解時間は、5〜30分であるのが良く、好ましくは10〜20分であるのが良い。
【0019】
また、酸性の陽極酸化浴として、リン酸を用いる場合は、以下の通りである。すなわち、リン酸の濃度は1〜30wt%であるのがよく、好ましくは5〜25wt%であるのがよい。濃度が1wt%より低いと着色可能な電圧で電流が流れ難く皮膜生成が困難であり、反対に30wt%より高くても30wt%と性能があまり変化がなく薬品コストが高くなってしまうためである。また、pHは1.5以下がよく、好ましくは1以下であるのがよい。pHが1.5よりも高いと、濃度が薄い為、着色可能な電圧で皮膜生成がし難いためである。また、浴温度については5〜30℃にするのがよく、好ましくは10〜25℃にする。浴温度が5℃より低くなると、着色可能な電圧で電流が流れ無い為、皮膜が生成し難いためであり、反対に30℃よりも高くなると皮膜の溶解が進行してしまうためである。また、電圧は5〜30Vにするのがよく、10〜25Vが好ましい。また、この場合に必要な電解時間は3〜30分がよく、好ましくは5〜20分であるのが良い。
【0020】
一方、アルカリ性の陽極酸化浴としては、i)例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分を含んだ無機アルカリ浴を用いた陽極酸化処理を行うか、或いは、ii)例えば、酒石酸、クエン酸、シュウ酸、及びサリチル酸等のカルボキシル基を含む有機酸の塩と、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化ルビジウム、炭酸ナトリウム及び炭酸水素ナトリウムからなる群から選ばれたいずれか1種以上の無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を用いるようにするのが好適である。従前のペリクル枠では、求められるパターン回路がそれほど微細ではなく、i線やg線などの長波長の照射光が用いられる場合にはそれほど、照射光が強いエネルギーでなかったため硫酸を電解液に用いたペリクルフレームでも使用できたが、近年は、エネルギーの高いより短波長の露光光源が使用されると、黒色を出すために使用されている有機染料の分解による脱色のほか、陽極酸化皮膜中に取り込まれたこれらの無機酸が原因でヘイズを発生してしまうなどのおそれがある。そのため、本発明においては、上記i)、ii)のようなアルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化皮膜を形成する。
【0021】
ここで、先ず、アルカリ性の浴として、i)の無機アルカリ成分を含んだ無機アルカリ浴を使用する場合については、汎用性の観点から、好ましくは、水酸化ナトリウム、又は水酸化カリウムを用いるのがよい。これらの場合、無機アルカリの濃度は、0.2〜10wt%であるのがよく、好ましくは0.4〜5wt%であるのがよい。無機アルカリの濃度が0.2wt%より低いと着色可能な電圧帯で電流が流れ難いため皮膜生成に時間がかかる。反対に10wt%より高い場合は生成した陽極酸化皮膜の皮膜溶解が進行してしまう。また、この場合の陽極酸化浴のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。pHが12より低いと皮膜の生成速度が遅くなる場合がある。
【0022】
また、ii)の有機酸の塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、例えばクエン酸塩としては、クエン酸ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸リチウム、クエン酸アンモニウム等のクエン酸塩を好適に用いることができ、クエン酸塩の濃度は2〜30wt%であるのがよく、好ましくは5〜20wt%であるのがよい。クエン酸塩の濃度が2wt%より低いと陽極酸化皮膜は形成され難く、反対に30wt%より高い場合は低温での陽極酸化の際にクエン酸塩が析出するおそれがある。また、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。pHが12より低いと皮膜の生成速度が遅くなる場合がある。
【0023】
また、酒石酸塩としては、酒石酸ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸アンモニウム等の酒石酸塩を好適に用いることができ、酒石酸塩の濃度は1.3〜20wt%であるのがよく、好ましくは2.5〜15wt%であるのがよい。酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.0であるのがよい。また、シュウ酸塩としては、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム、シュウ酸アンモニウム等のシュウ酸塩を好適に用いることができ、シュウ酸塩の濃度は0.3〜35wt%であるのがよく、好ましくは1〜30wt%であるのがよい。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.5であるのがよい。更に、サリチル酸塩としては、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸カリウム、サリチル酸リチウム、サリチル酸アンモニウム等のサリチル酸塩を好適に用いることができ、サリチル酸塩の濃度は0.1〜50wt%であるのがよく、好ましくは3〜40wt%であるのがよい。サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ浴(アルカリ混合浴)のpHについては12〜14であるのがよく、好ましくは12.5〜13.5であるのがよい。
【0024】
陽極酸化する際の条件として、i)無機アルカリ浴を用いて陽極酸化処理する際の処理条件について、電圧は2〜60Vであるのがよく、好ましくは5〜50Vであるのがよい。電圧が2Vより低いと電流が流れ難くなるため、目的の膜厚を得るための電解時間が長くなり、皮膜が溶解してしまうためであり、反対に60Vより高いと面積当たりのポアの数が減少するため着色されにくいためである。また、ii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。また、酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。更に、サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合は2〜60V、好ましくは5〜50Vである。
【0025】
また、陽極酸化処理中の電気量について、i)無機アルカリ浴を使用する場合には3〜50C/cm
2、好ましくは5〜30C/cm
2の範囲であるのがよい。また、ii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を使用する場合については、クエン酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合の電気量は3〜50C/cm
2、好ましくは5〜30C/cm
2の範囲であるのがよい。また、酒石酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は3〜50C/cm
2、好ましくは5〜30C/cm
2の範囲であるのがよい。シュウ酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は3〜50C/cm
2、好ましくは5〜30C/cm
2の範囲であるのがよい。サリチル酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴の場合、電気量は5〜70C/cm
2、好ましくは7〜50C/cm
2の範囲であるのがよい。
【0026】
また、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行う場合に、その浴温度については、i)無機アルカリ浴、又はii)有機酸塩と無機アルカリ成分とを含んだアルカリ混合浴を用いる場合ともに、浴温度を0〜20℃にするのがよく、好ましくは0〜15℃、より好ましくは5〜10℃にするのがよい。浴温度が0℃より低くなると皮膜の生成速度が遅くなり効率的ではなく、反対に20℃より高くなると皮膜の溶解速度が速くなり成膜に時間を要し、また、粉吹き等が生じるおそれがある。
【0027】
本発明で形成される陽極酸化皮膜の膜厚としては、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理したのちリン酸で陽極酸化処理した場合には、合計で2〜10μmがよく、好ましくは3〜8μmがよい。このうち、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、1.5〜9.5μmがよく、好ましくは、2〜5μmがよい。また、リン酸で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、0.5〜3μmが良く、好ましくは1〜2μmが良い。
反対に、マレイン酸で陽極酸化処理した後アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理して得られた皮膜の膜厚は、合計で1〜10μmが良く、好ましくは、2〜8μmがよい。そのうち、アルカリ性の陽極酸化浴で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、1.5〜9.5μmがよく、好ましくは、2〜5μmがよい。また、マレイン酸で陽極酸化処理して得た皮膜の膜厚は、0.5〜2μmが良く、好ましくは1〜1.5μmが良い。
【0028】
本発明においては、陽極酸化皮膜を形成するに際し、酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階と、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理する段階とを備えるようにすれば、その順序については制限されない。すなわち、先ず、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行い、その後に酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うことで、陽極酸化皮膜中に存在する金属間化合物を溶解して低減するようにしてもよく、上記のような手順とは反対に、最初に酸性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行い、その後、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うようにしてもよい。また、酸性の陽極酸化浴の種類によっては、陽極酸化処理によって形成されるバリヤー層が、その後の皮膜の黒色化に際して(特に、電解析出処理の場合)、影響を及ぼす場合がある。そのため、更にその後にも、アルカリ性の陽極酸化浴を用いて陽極酸化処理を行うようにしてもよい。
【0029】
上述の通り、酸性及びアルカリ性の各陽極酸化浴を用いて陽極酸化皮膜を形成した後には、露光光の散乱防止や使用前の異物付着検査を容易にする等の目的から、陽極酸化皮膜を黒色化するのがよい。この黒色化処理は公知の方法を採用することができ、黒色染料による染色処理や電解析出処理等が挙げられる。
【0030】
例えば、黒色染料による染色処理においては、有機系の黒色染料を用いるのがよい。一般に有機系染料は酸成分として硫酸、酢酸、及びギ酸の含有量が少ない有機系染料を用いるのが最も好適である。このような有機系染料として、市販品の「TAC411」、「TAC413」、「TAC415」、「TAC420」(以上、奥野製薬製)等を挙げることができ、所定の濃度に調製した染料液に陽極酸化処理後のアルミフレーム材を浸漬させて、処理温度40〜60℃、pH5〜6の処理条件で10分間程度の染色処理を行うようにするのがよい。
【0031】
また、電解析出処理は、Ni、Co、Cu、Sn、Mn及びFeからなる群から選ばれた1種又は2種以上を析出させて、支持枠を黒色に着色する(以下、「電解着色」という場合もある。)。これらの金属は、金属塩や酸化物のほか、コロイド粒子として存在するものなどを使用することができるが、好ましくは、Ni塩、Co塩、Cu塩、Sn塩、Mn塩及びFe塩からなる群から選ばれた1種又は2種以上が添加された電解析出浴を用いるのが良い。より好適には、硫酸ニッケルとホウ酸を含んだ電解析出浴や、酢酸ニッケルとホウ酸を含んだ電解析出浴等が挙げられる。また、この電解析出浴には、溶出したアルミの析出防止やpHを調整する等の目的から酒石酸、酸化マグネシウム、酢酸等を含めることができる。また、電解析出処理は、浴温度15〜40℃、電圧10〜30V、時間1〜20分程度の条件によれば、陽極酸化皮膜を黒色に着色することができる。また、この電解析出処理では直流電源又は交流電源によって電圧を印加することができ、開始時に予備電解を実施するようにしてもよい。
【0032】
そして、上述の通り黒色染料による染色処理や電解析出処理等を行うことにより、ハンターの色差式やJIS Z8722-2009による明度指数L
*値が40以下、好適にはL
*値が35以下の十分に黒色化された陽極酸化皮膜を得ることができる。
【0033】
なお、本発明においては、陽極酸化処理に先駆けて、アルミ材の表面をブラスト加工等による機械的手段や、エッチング液を用いる化学的手段によって粗面化処理を行ってもよい。このような粗面化処理を事前に施して陽極酸化処理を行うことで、支持枠は艶消しされたような低反射性の黒色にすることができる。
【0034】
陽極酸化皮膜を黒色化した後には、封孔処理を行うようにしてもよい。封孔処理の条件については特に制限されず、水蒸気や封孔浴を用いるような公知の方法を採用することができるが、不純物の混入のおそれを排除しながら、酸成分の封じ込めを行う観点から、水蒸気による封孔処理が望ましい。水蒸気による封孔処理の条件については、例えば、温度105〜130℃、相対湿度90〜100%(R.H.)、圧力0.4〜2.0kg/cm
2Gの設定で12〜60分処理するのがよい。なお、封孔処理後は、例えば純水を用いて洗浄するのが望ましい。
【0035】
また、本発明によって得られたペリクル枠は、80℃の純水に4時間浸漬させて溶出したイオン濃度を測定するイオン溶出試験において、ペリクル枠表面積100cm
2あたりの純水100ml中への溶出濃度は、酢酸イオン(CH
3COO
-)が0.2ppm以下、好ましくは0.1ppm以下、より好ましくは0.08ppm未満、更に好ましくは0.05ppm以下であり、ギ酸イオン(HCOO
-)が0.06ppm以下、好ましくは0.05ppm以下、より好ましくは0.03ppm未満であり、シュウ酸イオン(C
2O
42-)が0.01ppm以下、好ましくは0.005ppm未満であり、硫酸イオン(SO
42-)が0.01ppm以下、好ましくは0.005ppm未満であり、硝酸イオン(NO
3-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、亜硝酸イオン(NO
2-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、塩素イオン(Cl
-)が0.02ppm以下、好ましくは0.01ppm以下であり、リン酸イオン(PO
43-)が0.01ppm以下、好ましくは0.01未満である。なお、溶出イオンの検出はイオンクロマトグラフ分析により行うことができ、詳細な測定条件については実施例に記載するとおりである。
【0036】
これらはヘイズの発生に影響を与えるイオンであり、なかでも、酢酸イオン、ギ酸イオン、硫酸イオン、シュウ酸イオン、及び亜硝酸イオンの溶出量を制御することで、ヘイズの発生を可及的に低減したペリクル枠とすることができる。
【0037】
本発明によって得られたペリクル枠は、その片側に光学的薄膜体を貼着することでペリクルとして使用することができる。光学的薄膜体としては特に制限はなく公知のものを使用することができるが、例えば石英等の無機物質や、ニトロセルロース、ポリエチレンテレフタレート、セルロースエステル類、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル等のポリマーなどを例示することができる。また、光学的薄膜体には、CaF
2等の無機物やポリスチレン、テフロン(登録商標)等のポリマーからなる反射防止層などを備えるようにしてもよい。
【0038】
一方、光学的薄膜体を設けた面とは反対側の支持枠端面には、ペリクルをフォトマスクやレティクルに装着するための粘着体を備えるようにする。粘着体としては粘着材単独あるいは弾性のある基材の両側に粘着材が塗布された素材を使用することができる。ここで、粘着材としてはアクリル系、ゴム系、ビニル系、エポキシ系、シリコーン系等の接着剤が挙げることができ、また、基材となる弾性の大きい材料としてはゴムまたはフォームが挙げられ、例えばブチルゴム、発砲ポリウレタン、発砲ポリエチレン等を例示できるが、特にこれらに限定されない。