(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5962878
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】二相ステンレス鋼およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20160721BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20160721BHJP
C21D 6/00 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
C22C38/00 302H
C22C38/44
C21D6/00 102L
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-504412(P2016-504412)
(86)(22)【出願日】2015年10月23日
(86)【国際出願番号】JP2015079962
【審査請求日】2016年1月29日
(31)【優先権主張番号】特願2014-217632(P2014-217632)
(32)【優先日】2014年10月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】新日鐵住金株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】特許業務法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】神尾 浩史
(72)【発明者】
【氏名】上仲 秀哉
(72)【発明者】
【氏名】今村 淳子
(72)【発明者】
【氏名】武内 孝一
【審査官】
静野 朋季
(56)【参考文献】
【文献】
特表平09−512061(JP,A)
【文献】
特開昭56−119721(JP,A)
【文献】
特開平10−060598(JP,A)
【文献】
特開平08−170153(JP,A)
【文献】
特開2007−254795(JP,A)
【文献】
特開平10−060526(JP,A)
【文献】
特公昭47−023054(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Cu:0.1〜1.0%、
Ni:5.0〜7.5%、
Cr:22.0〜26.0%、
W:6.0〜12.0%、
N:0.20〜0.32%、
Mo:0.01%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
金属組織が、面積率で、
α相が0.40〜0.60であり、残部がγ相および0.01以下のその他の相である、二相ステンレス鋼。
【請求項2】
90℃に保持した250g/LのNaCl水溶液に浸漬したときの100μA/cm2に対応する孔食電位が600mV(vs. SCE)以上である、請求項1に記載の二相ステンレス鋼。
【請求項3】
pH=1の試験液中に24時間浸漬した後の不動態皮膜の最表面における化学組成が、下記(i)式を満足する、請求項1または請求項2に記載の二相ステンレス鋼。
W/(Fe+Cr)≧0.09 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、不動態皮膜の最表面における各元素の含有量(at%)を表す。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼を製造する方法であって、
請求項1に記載の化学組成を有する鋼に対して、1150〜1300℃の温度域まで加熱し、この温度域で保持した後に水冷以上の冷却速度で冷却する熱処理を施す、二相ステンレス鋼の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二相ステンレス鋼およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化学工業分野等、高温高濃度塩化物環境下での腐食が問題となる用途においては、優れた耐食性を備えるステンレス鋼が求められる。
【0003】
Crを多量に含有する二相ステンレス鋼(第一世代二相ステンレス鋼:SUS329J4Lなど)は、SUS304またはSUS316Lに代表される汎用のステンレス鋼に比べて優れた耐食性を示す。しかし、近年、ステンレス鋼が使用される環境が過酷化し、従来の二相ステンレス鋼では満足な耐食性を示すことができなくなっている。
【0004】
特許文献1、特許文献2および特許文献3には、二相ステンレス鋼の耐食性を示す指標として知られる下記の(1)式および(2)式で表わされる耐孔食指数(PRE、PREW)に従い、使用環境の過酷化に伴いMoおよびNを活用することで耐食性を向上させた二相ステンレス鋼(第二世代二相ステンレス鋼)が開示されている。しかし、これらの第二世代二相ステンレス鋼であっても、海水環境下において耐食性は十分ではない。
PRE=Cr+3.3Mo+16N (1)
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N (2)
【0005】
特許文献4、特許文献5、特許文献6、非特許文献1および非特許文献2には、Wを含有した二相ステンレス鋼(第三世代二相ステンレス鋼)が開示されている。第三世代二相ステンレス鋼は、従来の第二世代二相ステンレス鋼よりも耐食性が優れており、海水環境下において広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭62−180043号公報
【特許文献2】特開平2−258956号公報
【特許文献3】特開平5−132741号公報
【特許文献4】特開昭62−56556号公報
【特許文献5】特開平5−132741号公報
【特許文献6】特開平8−170153号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Anthony Comer, Lisa Looney, Corrosion and fatigue characteristics of positively polarised Zeron 100 base & weld metal in synthetic seawater, International Journal of Fatigue, Vol 28, 826-834.
【非特許文献2】腐食センターニュース No.059(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
第三世代二相ステンレス鋼といえども、化学工業分野などの海水よりも過酷な高温高濃度の塩化物環境下での耐食性が十分ではない。
【0009】
本発明は、第三世代二相ステンレス鋼の耐食性を向上させることによって、化学工業分野等の高温・高濃度の塩化物環境下における腐食問題を解決することができる、二相ステンレス鋼およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来、Wの耐食性に及ぼす影響およびその作用機構は、Moと同様の機構であると考えられてきた。しかし、本発明者らがMoおよびWの耐食性に寄与する作用機構について詳細に検討した結果、過酷な環境下においては従来の知見に誤りがあることが明らかになった。
【0011】
図1に、純Wと純Moの腐食環境における分極曲線を示す。
図1に示すように、Moが溶出する領域でもWはほとんど溶出しない。このように、MoとWの耐食性向上に及ぼす影響が大きく異なることものと予想される。
【0012】
そこで、第三世代二相ステンレス鋼の化学組成を基本としつつ、Moを無添加とする一方、Wを多量に含有させた二相ステンレス鋼の耐食性について詳細に検討を行った。その結果、下記の知見を得た。
【0013】
(a)化学組成および製造方法を適切に調整して、σ相またはχ相の析出のないα+γ二相組織とすれば、高温・高濃度の塩化物が存在する環境下において優れた耐食性を有するものとなる。このときの耐食性は、PREWの関係式から予測される耐食性を上回る。
【0014】
(b)化学組成および製造方法を適切に調整すれば、低pH、高温・高濃度の塩化物が存在する環境下において形成する不動態皮膜をWリッチなものとすることが可能となる。Wリッチな不動態皮膜は、上記環境下での耐食性を飛躍的に向上させる。
【0015】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、下記の二相ステンレス鋼およびその製造方法を要旨とする。
【0016】
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.03%以下、
Si:1.0%以下、
Mn:1.0%以下、
P:0.04%以下、
S:0.01%以下、
Cu:0.1〜1.0%、
Ni:5.0〜7.5%、
Cr:22.0〜26.0%、
W:6.0〜12.0%、
N:0.20〜0.32%、
Mo:0.01%以下、
残部:Feおよび不純物であり、
金属組織が、面積率で、
α相が0.40〜0.60であり、残部がγ相および0.01以下のその他の相である、二相ステンレス鋼。
【0017】
(2)90℃に保持した250g/LのNaCl水溶液に浸漬したときの100μA/cm
2に対応する孔食電位が600mV(vs. SCE)以上である、上記(1)に記載の二相ステンレス鋼。
【0018】
(3)pH=1の試験液中に24時間浸漬した後の不動態皮膜の最表面における化学組成が、下記(i)式を満足する、上記(1)または(2)に記載の二相ステンレス鋼。
W/(Fe+Cr)≧0.09 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、不動態皮膜の最表面における各元素の含有量(at%)を表す。
【0019】
(4)
上記(1)から(3)までのいずれかに記載の二相ステンレス鋼を製造する方法であって、
上記(1)に記載の化学組成を有する鋼に対して、1150〜1300℃の温度域まで加熱し、この温度域で保持した後に水冷以上の冷却速度で冷却する熱処理を施す、二相ステンレス鋼の製造方法。
【0020】
なお、本発明において、α相はフェライト相を意味し、γ相はオーステナイト相を意味する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた耐食性を有する二相ステンレス鋼が得られる。この二相ステンレス鋼は、高温・高濃度の塩化物環境下における腐食が問題となる化学工業分野等において用いるのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】純Wと純Moの腐食環境における分極曲線を示す図である。
【
図2】実施例における不動態皮膜の最表面におけるW/(Fe+Cr)の値と孔食電位との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。以下の説明において、各元素の含有量についての「%」は「質量%」を意味する。
【0024】
1.母材の化学組成
C:0.03%以下
Cは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイト相を安定化に有効である。しかし、本発明のような高Crのステンレス鋼においては、その含有量が0.03%を超えると、Cr炭化物が析出し、耐食性が劣化するおそれがある。したがって、C含有量は0.03%以下とした。好ましくは0.01%以下である。Cは微量でも含まれておれば、上記の効果を有するので下限は特に定めない。ただし、上記の効果を十分に得るためには、Cを0.003%以上含有させるのが好ましい。
【0025】
Si:1.0%以下
Siは鋼の脱酸成分として有効であるが、その含有量が過剰な場合には、σ相およびχ相の析出を促進するおそれがある。したがって、Si含有量は1.0%以下とした。好ましくは、0.5%以下である。他の元素で脱酸を行う場合にはSi含有量は実質的にゼロでもよいが、上記の効果を十分に得るためには、Siを0.2%以上含有させるのが好ましい。
【0026】
Mn:1.0%以下
Mnは、オーステナイト生成元素であり、オーステナイトの安定化に寄与する。しかし、その含有量が過剰な場合、腐食起点となるMnSが晶出または析出するおそれがある。したがって、Mn含有量は1.0%以下とした。好ましくは0.5%以下である。Mnは微量でも含まれておれば、上記の効果を有するので下限は特に定めない。ただし、上記の効果を十分に得るためには、Mnを0.1%以上含有させるのが好ましい。
【0027】
P:0.04%以下
Pは、製造上不可避な不純物元素であり、その含有量が過剰な場合には加工性を低下させるおそれがある。したがって、P含有量は0.04%以下とした。好ましくは0.01%以下である。
【0028】
S:0.01%以下
Sは、製造上不可避な不純物元素であり、その含有量が過剰な場合には加工性を低下させるおそれがある。また、腐食起点となるMnSの晶出または析出が懸念される。したがってS含有量は0.01%以下とした。好ましくは0.004%以下である。
【0029】
Cu:0.1〜1.0%
Cuは、オーステナイト生成元素であり、耐硫酸性の向上に有効である。また、Wを多く含む不動態皮膜の形成を補助する効果も有する。具体的にはカソード反応を促進し、Wを多く含む不動態化皮膜形成を早める効果を有する。このため、その含有量は0.1%以上とする。しかし、その含有量が過剰な場合には成形性を劣化させるおそれがある。したがってCu含有量は0.1〜1.0%以下とした。好ましい下限は0.4%であり、好ましい上限は0.6%である。
【0030】
Ni:5.0〜7.5%
Niは、オーステナイト生成元素である。Cr、Wなどのフェライト生成元素との関係で望ましいバランスのα+γ二相組織を得るためには、Niを5.0〜7.5%の範囲で含有させる必要がある。好ましい下限は6.0%であり、好ましい上限は6.8%である。
【0031】
Cr:22.0〜26.0%
Crは、フェライト生成元素であり、また、耐食性の向上に有効な基本元素である。Cr含有量が過少な場合または過剰な場合には、安定的にα+γ二相組織を得ることができる温度域が狭くなる。したがって、Cr含有量は22.0〜26.0%とした。好ましい下限は23.0%であり、好ましい上限は25.5%である。
【0032】
W:6.0〜12.0%
Wは、フェライト生成元素であり、また、優れた耐食性を発現させるために重要な元素である。W含有量が過少な場合または過剰な場合には、安定的にα+γ二相組織を得ることができない。したがって、W含有量は6.0〜12.0%と定めた。好ましい下限は8.0%であり、好ましい上限は11.0%である。
【0033】
N:0.20〜0.32%
Nは、オーステナイト生成元素であり、二相ステンレス鋼の熱的安定性および耐食性を向上させるのに有効な元素である。Cr、Wなどのフェライト生成元素との関係で望ましいバランスのα+γ二相組織を得るためには、0.20%以上のNの含有が必要である。しかし、その含有量が0.32%を超えると窒化物生成により鋼の靭性、耐食性が著しく劣化するおそれがある。したがって、N含有量は0.20〜0.32%とした。好ましい下限は0.24%であり、好ましい上限は0.28%である。
【0034】
Mo:0.01%以下
Moは、CrおよびWと同様、フェライト生成元素である。しかし、Moを含有すると、Wの固溶度を低下させるので、その含有量は極力下げる必要がある。したがって、Moの含有量は0.01%以下とした。好ましくは0.008%以下である。
【0035】
本発明の二相ステンレス鋼の化学組成は、上記の各元素をそれぞれ規定される範囲で含み、残部はFeおよび不純物からなるものである。不純物とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料その他の要因により混入する成分を意味する。
【0036】
2.母材の金属組織
母材は、α相の面積率が0.40〜0.60であり、残部がγ相および0.01以下のその他の相であるα+γ二相組織を有する。α相およびγ相以外の相において、特に、σ相およびχ相は、その周囲にCr欠乏層を形成し、耐食性を劣化させるため、それらの合計面積率をゼロとすることが好ましいが、0.01以下までは許容される。なお、γ相の割合が大きいと耐食性が劣化する場合があるため、γ相の面積率は0.58以下とすることが好ましい。
【0037】
3.不動態皮膜
上記の化学組成および金属組織を有する二相ステンレス鋼を適切な条件で製造すれば、低pH、高温・高濃度の塩化物が存在する環境下において形成する不動態皮膜をWリッチなものとすることができる。低pH環境下では不動態皮膜中のFeおよびCrは腐食してしまうが、耐食性に有効に寄与するWが多く含まれる不動態皮膜は耐食性に優れる。
【0038】
そして、pH=1の試験液中に24時間浸漬した後の不動態皮膜の最表面における化学組成が、下記(i)式を満足する場合には、二相ステンレス鋼の耐食性を飛躍的に向上させることが可能となる。下記(i)式左辺値は、0.10%以上とするのがより好ましい。
W/(Fe+Cr)≧0.09 ・・・(i)
但し、上記式中の各元素記号は、不動態皮膜の最表面における各元素の含有量(at%)を表す。
【0039】
4.二相ステンレス鋼の製造方法
本発明の二相ステンレス鋼は、通常採用される製造条件で溶製し、熱間加工、冷間加工など必要な加工が施されて、最終的に1150〜1300℃の温度域まで加熱し、この温度域で保持した後に水冷以上の冷却速度で冷却する熱処理を施すことによって、製品化される。
【0040】
これは、上記の熱処理温度が1150℃未満では、σ相またはχ相の析出が避けがたく、また、1300℃を超えると、α相の面積率が0.4〜0.6であり、残部が実質的にγ相であるα+γ二相組織を得ることができないおそれがある。このため、熱処理は、1150〜1300℃の温度域で行う。保持時間は、二相ステンレス鋼の厚さによって異なるが、1〜120minの範囲で適切に選択すればよい。
【0041】
上記の温度域で保持した後の冷却速度があまりに遅いと、冷却過程においてσ相またはχ相が析出するおそれがあるので、水冷以上の冷却速度で冷却する。具体的には、40℃/s以上の冷却速度で冷却すればよい。
【0042】
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0043】
17kgの真空溶解炉にて表1に示す化学組成を有するインゴットを溶製し、4〜8mmの厚さまで熱間圧延した。なお、いずれの鋼についても、以下の式で定義される耐孔食指数PREWが43〜44程度になるように調整した。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N
但し、上記式中の各元素記号は、鋼中の各元素の含有量(質量%)を表す。
【0044】
その後、表1に示す温度に加熱、保持した後、水冷して供試材を得た。また、表2に示す化学組成を有する市販のステンレス鋼も供試材として用意した。これらの供試材について、母材の金属組織の観察、耐食性の測定および不動態皮膜の成分分析を行った。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
<母材の金属組織の観察>
各供試材の断面を、光学顕微鏡を用いて500倍の倍率にて観察して、α相およびγ相の面積率を測定した。さらにσ相とχ相の有無を確認しσ相およびχ相の析出がないものを「○」、少なくともいずれかの析出が認められたものを「×」とするとともに、それらの合計の面積率を測定した。
【0048】
<耐食性の測定>
各供試材から直径15mm、板厚2mmの円盤状試験片を切り出し、表面を#600湿式研磨仕上げした。試験はJIS G 0577(2014)に準拠し、100μA/cm
2に対応する孔食電位V’C100を測定した。なお、高温・高濃度の塩化物が存在する環境を想定するため、水溶液には、90℃に保持した250g/LのNaCl水溶液を用いた。
【0049】
<不動態皮膜の成分分析>
一部の供試材については、pH=1の試験液中に24時間浸漬した後に、X線光電子分光法により不動態皮膜中の各主要金属元素の測定を行い、不動態皮膜の最表面におけるW/(Fe+Cr)の値を算出した。
【0050】
これらの結果を表3にまとめて示す。
【0051】
【表3】
【0052】
表3に示すように、化学組成および金属組織が本発明の規定を満足する試験No.1〜6は、孔食電位が600mV以上であり、良好な耐食性を示していた。
【0053】
これに対して、少なくとも、化学組成が本発明で規定される範囲を外れる試験No.16〜21、25〜27および29〜32、ならびに、少なくとも金属組織が本発明で規定される範囲を外れる試験No.7〜15、22〜24および28は、耐食性が劣る結果となった。
【0054】
図2に示すように、不動態皮膜の最表面におけるW/(Fe+Cr)の値と孔食電位との間には一定の相関関係があり、W/(Fe+Cr)の値が0.09以上の場合には、孔食電位を600mV以上とすることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、優れた耐食性を有する二相ステンレス鋼が得られる。この二相ステンレス鋼は、高温・高濃度の塩化物環境下における腐食が問題となる化学工業分野等において用いるのに適している。
【要約】
化学組成が、質量%で、C:0.03%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.04%以下、S:0.01%以下、Cu:0.1〜1.0%、Ni:5.0〜7.5%、Cr:22.0〜26.0%、W:6.0〜12.0%、N:0.20〜0.32%、Mo:0.01%以下、残部:Feおよび不純物であり、金属組織が、面積率で、α相が0.40〜0.60であり、残部がγ相および0.01以下のその他の相である、二相ステンレス鋼。