(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5962890
(24)【登録日】2016年7月8日
(45)【発行日】2016年8月3日
(54)【発明の名称】細胞診用の識別具及びこの識別具を用いた細胞診の方法並びに細胞診キット
(51)【国際特許分類】
C12M 1/34 20060101AFI20160721BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20160721BHJP
G01N 33/483 20060101ALI20160721BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20160721BHJP
C12Q 1/02 20060101ALI20160721BHJP
【FI】
C12M1/34 B
G01N33/48 M
G01N33/483 C
G01N21/01 D
C12Q1/02
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-25662(P2012-25662)
(22)【出願日】2012年2月9日
(65)【公開番号】特開2013-158335(P2013-158335A)
(43)【公開日】2013年8月19日
【審査請求日】2015年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】504147243
【氏名又は名称】国立大学法人 岡山大学
(73)【特許権者】
【識別番号】591242450
【氏名又は名称】村角工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井上 博文
(72)【発明者】
【氏名】山本 賀津三
【審査官】
福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/043077(WO,A1)
【文献】
特表2006−508362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
C12Q 1/00−1/70
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
時計皿が載置される載置部を天板に設けた箱状の筐体と、
前記載置部に載置された時計皿の下方となる前記筐体の底板に装着される背景体と
を備え、
前記背景体を背景として前記時計皿内に吐出させた検体中の組織片の性状を識別するために用いる細胞診用の識別具であって、
前記筐体の内部には、前記背景体に向けて光を照射する照明装置を設けるとともに、
前記照明装置は、前記載置部として前記天板に形成している開口の縁形状に沿わせた環状に照明具を配置している細胞診用の識別具。
【請求項2】
前記照明装置で前記背景体を照らした際に、前記開口の中心部分の鉛直下方の部分を、その周辺よりも暗く照らすことにより、前記背景体の表面に明暗のグラデーションを生じさせている請求項1に記載の細胞診用の識別具。
【請求項3】
前記照明具は発光ダイオードとし、前記背景体はシート状とした黒色のスポンジとしている請求項2に記載の細胞診用の識別具。
【請求項4】
前記載置部には、前記開口に沿って緩衝材を着脱自在に設けて、この緩衝材を介して前記時計皿を安定的に載置可能としている請求項2または請求項3に記載の細胞診用の識別具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞診用の識別具の載置部に載置した時計皿に穿刺針で採取した組織片を吐出して行う細胞診の方法において、
前記時計皿に吐出させた組織片に溶血剤を塗布する細胞診の方法。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の細胞診用の識別具と、
この識別具から所定の距離を隔てた位置に固定可能とするスタンドに装着した拡大鏡と、
溶血剤と
を具備した細胞診キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、病理組織の細胞診を行う際に使用する識別具、及びこの識別具を用いた細胞診の方法、並びに細胞診キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、がん等の組織異常が生じる疾病においては、組織の一部を取り出して顕微鏡などで観察する細胞診が行われている。
【0003】
特に、昨今では、内視鏡の機能が高度化したことにより、内視鏡を用いた検査中に必要な細胞の採取が可能となっており、患者への侵襲を大きく低減できることとなっている。
【0004】
具体的に説明すると、例えば膵臓の精密な検査を行おうとした場合、従来では、検査にもかかわらず開腹が必要となることがあったが、昨今では、超音波内視鏡を用いることにより開腹せずに検査可能となっている。すなわち、膵臓は、胃の裏側に位置しており、口または鼻から胃内に送り込んだ超音波内視鏡の先端部を胃壁に押し当てて、膵臓の超音波検査を行うことにより、異常を検出可能となっている。
【0005】
異常が認められた場合には、超音波内視鏡の先端から穿刺針を突出させて、胃壁越しに膵臓の異常部分を穿刺し、穿刺針内部を陰圧とすることにより組織片を吸引している。
【0006】
穿刺針内に吸引された組織片は、超音波内視鏡から穿刺針自体を取り出して、ホルマリンの入った容器に吐出することによって固定し、病理組織検査を行っている。この場合、ホルマリンで固定された検体は、通常、糸ミミズ状となっている。
【0007】
ホルマリンで固定された検体を組織検査する場合には、
図6に模式的に示すように、診断に有効な病変部が存在している病変領域Y1が検体Xに点在しているため、検体Xの薄切を行って、薄切面を観察することにより行っている。
図6中、Y2は血液成分領域であり、Y3は血管組織を含む間質細胞成分や壊死物質から成る領域である。
【0008】
検体Xを薄切とする際には、病変領域Y1が含まれている部分が、薄切面aのように露出する部分で薄切を行うようにしているが、検体X自体が極めて小さいために病変部の位置を認識しながら薄切することは不可能であって、薄切面bや薄切面cのように必ずしも薄切面に病変領域Y1を露出させることができないことがあった。
【0009】
薄切面bや薄切面cのように薄切面に病変領域Y1が露出しなかった場合に、検体Xに病変領域Y1が存在していなければよいが、たまたま病変領域Y1を外れている可能性もあるため、より多くの薄切面の観察を行ったり、あるいは検体Xの採取数を増やしたりして診断精度を高めざるを得ず、多大な診断時間を要するだけでなく、診断コスト自体も増大することとなっていた。
【0010】
そこで、昨今では、迅速細胞診が行われるようになっている。迅速細胞診では、穿刺針で採取された検体を時計皿やシャーレイ等に吐出し、吐出された検体の全体を観察して、色調から検体の性状の判断を行い、病変部が存在していると思われる病変領域を特定している。そして、特定した病変領域から一部分をサンプリングし、スライドガラスに塗沫して染色をし、直ちに検鏡することにより細胞診を行うこととしている。
【0011】
このような迅速細胞診では、スライドガラスに塗沫した検体の全体を検鏡できることから、診断精度を向上させることが可能となっている。
【0012】
また、細胞診用の標本作製においては、スライドガラスに塗沫した検体に対してDNA定量が行えるように標本作製を行う方法も提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平07−027682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
このように、迅速細胞診においては、時計皿やシャーレイ等に吐出した検体から色調に基づいて病変部が存在していると思われる病変領域を特定しているが、常に明瞭な色調差があるわけではなく、どちらかと言えば不明瞭である場合が多く、サンプリングエラーを招きやすいという問題があった。
【0015】
そして、このサンプリングエラーの発生を予め考慮して穿刺針による穿刺回数が増加する傾向にあり、穿刺回数の増加は患者に対する侵襲が大きくなるという問題だけでなく、使い捨てである穿刺針の使用本数が増加することによるコスト増を招くという問題があった。
【0016】
ちなみに、時計皿やシャーレイ等に吐出した検体の色調の識別は、黒色紙や白色紙の上に検体が吐出された時計皿やシャーレイを置いて行っているだけであり、本発明者らは、検体の色調の識別をより精度良く行うことによりサンプリングエラーの発生を解消することを目的として研究開発を行い、本発明を成すに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、時計皿が載置される載置部を天板に設けた箱状の筐体と、載置部に載置された時計皿の下方となる筐体の底板に装着される背景体とを備え、背景体を背景として時計皿内に吐出させた検体中の組織片の性状を識別するために用いる細胞診用の識別具であって、背景体の表面に明暗のグラデーションを生じさせている細胞診用の識別具としているものである。
【0018】
特に、本発明の細胞診用の識別具としては、以下の点にも特徴を有するものである。
(1)筐体の内部には、背景体に向けて光を照射する照明装置を設けるとともに、照明装置は、載置部として天板に形成している開口の縁形状に沿わせた環状に照明具を配置して、照明装置で背景体を照らした際に、開口の中心部分の鉛直下方の部分を、その周辺よりも暗く照らすことにより、背景体の表面に明暗のグラデーションを生じさせていること。
(2)照明具は発光ダイオードとし、背景体はシート状とした黒色のスポンジとしていること。
(3)載置部には、開口に沿って緩衝材を着脱自在に設けて、この緩衝材を介して時計皿を安定的に載置可能としていること。
【0019】
また、本発明の細胞診の方法では、上記した細胞診用の識別具の載置部に載置した時計皿に穿刺針で採取した組織片を吐出して行う細胞診の方法において、時計皿に吐出させた組織片に溶血剤を塗布するものである。
【0020】
また、本発明の細胞診キットでは、上記した細胞診用の識別具と、この識別具から所定の距離を隔てた位置に固定可能とするスタンドに装着した拡大鏡と、溶血剤とを具備するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、背景体の表面に明暗のグラデーションを生じさせた細胞診用の識別具を用いることにより、時計皿に吐出した検体の色調の識別を確実に行うことができ、サンプリングエラーの発生を解消することができる。
【0022】
したがって、必要最小限の穿刺回数とすることができ、患者に対する侵襲を軽減できるとともに、穿刺針の使用本数の低減によるコスト削減を図ることができるので、患者の身体的負担及び経済的負担を大きく軽減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係る細胞診用の識別具の斜視図である。
【
図2】本発明に係る細胞診用の識別具の分解組立図である。
【
図3】照明装置が装着された下部筐体の要部縦断面図である。
【
図4】本発明に係る細胞診用の識別具の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明では、穿刺針等によって採取された検体に含まれている病変部を確実に識別して、細胞診用のサンプルの採取を確実に行える細胞診用の識別具、及び細胞診の方法、並びに細胞診キットとしているものである。
【0025】
図1及び
図2に示すように、細胞診用の識別具Aは、時計皿10が載置される載置部21を天板20u-5に設けた箱状の筐体20を備えており、
図2及び
図3に示すように、載置部21に載置された時計皿10の下方となる筐体20の底板20d-5に装着される背景体40を備えている。
【0026】
特に、本実施形態の識別具Aでは、
図2に示すように、筐体20を上部筐体20uと下部筐体20dで構成している。
【0027】
上部筐体20uは、略正方形状とした天板20u-5の四方に、上部第1側壁20u-1と、上部第2側壁20u-2と、上部第3側壁(図示せず)と、上部第4側壁20u-4とを設けた底部開口を有する箱状としている。
【0028】
下部筐体20dは、略正方形状とした底板20d-5の四方に、下部第1側壁20d-1と、下部第2側壁20d-2と、下部第3側壁20d-3と、下部第4側壁20d-4とを設けた上部開口を有する箱状としている。
【0029】
上部筐体20uと下部筐体20dは、下部第1〜4側壁20d-1〜4の外周面に上部第1〜4側壁20u-1〜4を重ね合わせながら嵌め合わせて一体化することにより、筐体20を構成することとしている。
【0030】
本実施形態では、下部第2側壁20d-2及び下部第4側壁20d-4の所定位置にそれぞれヘリサートを埋設した雌ネジ部22を設け、下部第2側壁20d-2に重ね合わした上部第2側壁20u-2、及び下部第4側壁20d-4に重ね合わせた上部第4側壁20u-4の所定位置に貫通孔23を設けて、この貫通孔23越しに固定ネジ24を雌ネジ部22に取り付けることにより上部筐体20uと下部筐体20dとを強固に合体させている。
【0031】
上部筐体20uでは、略正方形状とした天板20u-5の中央部分に、載置部21としての開口21aを設けている。開口21aは、円形となっている時計皿10を載置しやすくするために本実施形態では円形状としているが、円形に限定するものではなく、多角形状や楕円形状であってもよい。
【0032】
開口21aの外周部分の天板20u-5の上面には、緩衝材21bを嵌め込むための溝21cを設けている。溝21cは、開口に沿った円形状としており、この溝21cに所定長さの角柱状としたシリコンゴム製の緩衝材21bを着脱自在に嵌め込むこととしている。
【0033】
載置部21は、上記の開口21aと、緩衝材21bと、溝21cとで構成しており、緩衝材21bを介して時計皿10を安定的に載置可能としている。したがって、開口21aの開口径の寸法は、時計皿10の径寸法の90%程度としている。
【0034】
下部筐体20dには、略正方形状とした底板20d-5に、一部分が切欠された円筒状のガイド壁25を設けている。このガイド壁25は、軸心の延長線上に、上部筐体20uの天板20u-5に設けた開口21aの中心を位置させている。
【0035】
切欠されたガイド壁25の端部と、下部第1側壁20d-1との間には、連結壁26を架設しており、この連結壁26を介してガイド壁25を下部第1側壁20d-1と一体化することにより、ガイド壁25の強度を高めている。
【0036】
ガイド壁25は、その内側に、後述する円周状の外周面を有する照明装置30を挿入可能としている。特に、ガイド壁25の内径は、ガイド壁25の内周面がガイド壁25に挿入された照明装置30の外周面と当接して、ガイド壁25に挿入された照明装置30の水平方向の移動をガイド壁25で規制することとしている。
【0037】
さらに、本実施形態のガイド壁25では、底板20d-5から所定の高さまで、中心方向に向けて膨出させて厚肉とすることにより段差を形成しており、この段差によって形成される段差面を、
図3に示すように、照明装置30の下端面が当接する支持面27としている。
図3は、照明装置30が装着された下部筐体20dの要部縦断面図である。
【0038】
支持面27の形成は、ガイド壁25を厚肉として形成する場合だけでなく、ガイド壁25の中心方向に向けてフランジを突出させることにより形成してもよい。
【0039】
本実施形態では、支持面27を下部第1側壁20d-1まで延長させて設け、後述する照明装置30の制御回路部31も支持可能としている。
【0040】
照明装置30は、
図2に示すように、実体顕微鏡の光源として使用されている環状照明を用いている。
【0041】
なお、以前は、実体顕微鏡の光源として、環状の蛍光管を利用した環状照明が多用されていたが、昨今では、
図3に示すように、発光ダイオードで構成された照明具Lを環状に配設されたものが使用されており、本実施形態でも、白色の発光ダイオードが用いられた環状照明を用いている。光源として発光ダイオードを用いることにより、熱の発生がなく、照光にともなって検体が加熱されて乾燥するおそれも解消できる。
【0042】
なお、載置部21の開口21aは、照明装置30の環状の照明部における中空部分の開口径寸法よちも小さくして、載置部21に載置した時計皿10越しに照明部が見えないようにし、後述する組織片の色調の識別作業の際に、照明装置30が視野に入って邪魔になることを防止している。
【0043】
本実施形態では、照明装置30として実体顕微鏡の光源を代用しているが、専用の照明装置としてもよく、天板20u-5に形成している開口21aの縁形状に沿わせて環状に照明具を配置することが望ましい。
【0044】
また、本実施形態の照明装置30では、環状の照明部の一部に径方向に膨出させて制御回路部31を設けており、この制御回路部31には入切スイッチ32を設けて、照明のオン・オフを切り替え可能としている。また、制御回路部31には光量調整ダイヤル33を設けて、光量を調整可能としている。
【0045】
さらに、本実施形態では、制御回路部31にはケーブル34を介して電源アダプタ35を接続し、コンセントからの電力供給を可能としているが、適宜のバッテリや電池から電力供給を可能としてもよい。
【0046】
照明装置30は、
図3に示すように、下部筐体20dのガイド壁25の内部に挿入して支持面27に載置し、下部筐体20dの底板20d-5に向けて光を照射することとしている。
図2中の28は、照明装置30のケーブル33を筐体20の外に引き出すために設けた下部切欠溝である。
【0047】
そして、照明装置30が挿入された下部筐体20dに上部筐体20uを嵌め合わせることにより、照明装置30は、上部筐体20uと下部筐体20dとによって上下方向にも挟持され、筐体20の内部により確実に固定することとしている。
図2中の29は、照明装置30のケーブル33を筐体20の外に引き出すために設けた上部切欠溝である。
【0048】
照明装置30を下部筐体20dのガイド壁25に挿入する前に、ガイド壁25の内側には、
図2及び
図3に示すように、背景体40を挿入することによって、下部筐体20dの底板20d-5に背景体40を装着している。
【0049】
背景体40は、シート状としたポリウレタン製のスポンジであって、ガイド壁25の内径寸法に一致させた円形としている。特に、背景体40は黒色であることが望ましい。
【0050】
照明装置30は、
図3に示すように、背景体40に向けて光を照射することとなっており、背景体40は、照明装置30から照射された光の乱反射を抑制しながら、照明装置30に照らされて白色のスクリーンと化すこととなっている。
【0051】
上述したように照明装置30は、照明部が環状となっているために、環状の中心部の照度は、発光ダイオードの直下の照度よりも小さくなっており、天板20u-5に形成している開口21aの中心部分の鉛直下方の部分を、その周辺よりも暗く照らすこととなって、
図4に示すように、照明装置30に照らされた背景体40の表面に、明暗のグラデーションを生じさせることとなっている。なお、
図4は、載置部21に時計皿10を載置していない状態で照明装置30をオンとしている細胞診用の識別具Aを上から見た状態を示している。
【0052】
照明装置30と背景体40との距離を調整することにより、環状の中心部の照度を、発光ダイオードの直下の照度と同程度として、背景体40の表面を一様な白色状態とすることは可能であるが、本発明においては、背景体40の表面に明暗のグラデーションを生じさせることとしている。
【0053】
背景体40の表面に明暗のグラデーションを生じさせることによって、後述するように時計皿10に吐出した検体の色調を識別する際に、背景の明暗を利用しながら識別することができ、識別精度を高めることができる。
【0054】
また、本発明の細胞診用の識別具Aでは、検体の色調を識別する際の背景を白色紙や黒色紙とする場合と異なり、背景体40からも間接光による光の照射が生じていることにより、検体の色調を識別しやすくなっているものと考えられ、この光の強度の微妙な調整をグラデーションを利用して行えることから、識別精度を高めることができているものと考えられる。
【0055】
本実施形態では、使用した照明装置30によって最も好適な明暗のグラデーションを生じさせることができるように、背景体40から照明装置30までの距離を予め調整しているが、必要に応じて、背景体40から照明装置30までの距離を調整可能として、背景体40の表面に生じさせる明暗のグラデーションを調整可能としてもよい。
【0056】
上述した本実施形態の細胞診用の識別具Aでは、実体顕微鏡の光源を流用したことにより上述した構成となっているが、高輝度液晶ディスプレイ等を背景体として用いることにより、より小型の識別具とすることも可能である。
【0057】
また、上述した細胞診用の識別具Aは、
図5に示すように、収納ケースB内に収納可能としている。この収納ケースBには、識別具Aとともに、スタンド51を介して収納ケースBに取り付けられた拡大鏡52と、溶血剤53及び染色液54を収納して細胞診キットとしており、収納ケースBごと持ち運ぶこととしている。
【0058】
さらに、収納ケースB内には、検体を取り扱う際に使用するピンセット55や、予備の時計皿(図示せず)、あるいは試料瓶(図示せず)等を収容しておいてもよい。
【0059】
拡大鏡52は、スタンド51を介して収納ケースBに取り付けているので、細胞診用の識別具Aに載置した時計皿10から所定の距離を隔てた位置に容易に固定でき、25G針のような細い針を用いて検体を採取した場合でも、拡大鏡52によって拡大して検体の判別を行うことができる。
【0060】
以下において、本発明の細胞診用の識別具A及び細胞診キットを用いた細胞診の方法について説明する。なお、以下においては、超音波内視鏡検査の場合について説明するが、超音波内視鏡を用いない細胞診であっても検体の採取方法が異なるだけであり、採取された検体の取り扱いに関しては同じであって、例えば、乳腺、甲状腺、リンパ節等での穿刺吸引細胞診に用いることもできる。ちなみに、超音波内視鏡は、主に膵腫瘍、消化管粘膜下腫瘍、副腎腫瘍、縦隔腫瘍、肝腫瘍等の検査に用いられるが、これらに限定するものではない。例えば、超音波気管支鏡で穿刺吸引して得られた検体の細胞診等にも用いることができる。
【0061】
まず、超音波内視鏡を用いて病変部の超音波画像を描写し、検体採取の必要性の判断を行う。
【0062】
検体採取が必要と判断した場合には、超音波内視鏡の先端から穿刺針を突出させて、病変部と思われる部分に穿刺針を穿刺し、穿刺針内部を陰圧とすることにより組織片を吸引する。
【0063】
その後、陰圧を解除して超音波内視鏡から穿刺針を抜き出し、時計皿に穿刺針内の組織片を吐出させる。
【0064】
組織片が吐出された時計皿を、細胞診用の識別具Aの載置部21に載置する。なお、拡大鏡52を必要とする場合には、拡大鏡52の位置を予め調整しておく。
【0065】
照明装置30をオンとして、時計皿10の下方の背景体40を白色のスクリーンとするとともに、背景体40からの反射による間接光を時計皿10内の組織片に照射して、組織片の色調の識別を行う。
【0066】
このとき、採取された組織片に血液が多く含まれている場合には、組織片に溶血剤53を適量塗布している。溶血剤53としては、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社のBDサイトリッチ(登録商標)が好適である。
【0067】
採取された組織片の色調は、一般的に、大きく分けて透明、白色、赤色の3パターンとなっており、病変組織は透明となっている部分に含まれていることが多い。そこで、組織片に溶血剤53を塗布することにより、透明部分に付着した血液を除去することができ、病変組織の識別を行いやすくすることができる。
【0068】
採取された組織片において、透明部分の有無を確認することにより、穿刺針による検体採取の妥当性を判断することができ、透明部分が採取されていなかった場合にのみ、再度、穿刺針による検体の採取を行うことにより、穿刺回数を必要最小限とすることができる。穿刺回数を必要最小限とすることによって、患者に対する侵襲を抑制できるとともに、穿刺針の使用本数を抑制して、医療費を抑制することができる。
【0069】
なお、採取された検体には必ずしも固形物が含まれているとは限らず、液状のみの検体であることもあるが、このような液状の検体であっても透明部分に病変組織が含まれていることが多く、本発明の細胞診用の識別具Aによって確実に識別することができる。
【0070】
採取された組織片において、確認された透明部分の全部または一部をサンプリングして、スライドガラスに塗沫し、適宜の染色液54による処理を施して、直ちに検鏡することにより細胞診を行うことができる。
【0071】
一方、時計皿に残った組織片のうち、ピンセットで摘める固形物は、ホルマリン入りの試料瓶に入れ、組織診に使用できるようにし、それ以外の液状物はスポイトで試料瓶に一旦取り置き、セルブロック化している。
【0072】
特に、作成したセルブロックは、特殊染色や免疫組織の化学的検索などといった細胞診における追加検索での利用が可能であって、上述した採取検体からスライドガラスに塗沫した試料や、ホルマリンで固定した試料以外の第三の試料として利用できることから、診断の迅速化に寄与することができる。
【0073】
本発明の細胞診用の識別具Aでは、上述したように時計皿10を用いることとしているが、時計皿10は中央部分が窪んでいるために、時計皿10に穿刺針で採取した組織片を吐出させた際に、液状物が中央部分に集まりやすく、空気との接触面積が小さくなることとなって組織片の乾燥及び変性を抑制しやすくすることができるだけでなく、セルブロック化した試料の作成を容易とすることができる。
【符号の説明】
【0074】
A 細胞診用の識別具
10 時計皿
20 筐体
20u 上部筐体
20u-5 天板
20d 下部筐体
20d-5 底板
21 載置部
21a 開口
21b 緩衝材
21c 溝
22 雌ネジ部
23 貫通孔
24 固定ネジ
25 ガイド壁
26 連結壁
27 支持面
28 下部切欠溝
29 上部切欠溝
30 照明装置
31 制御回路部
32 入切スイッチ
33 光量調整ダイヤル
34 ケーブル
35 電源アダプタ
40 背景体